著者
神田 直 林 英人 小林 祥泰 古橋 紀久 田崎 義昭
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.299-306, 1980-09-25 (Released:2010-01-22)
参考文献数
34
被引用文献数
4 1

脳卒中急性期の交感神経活動を知る目的で発症48時間以内の患者64例を対象に血漿カテコールアミンの変動を観察した.血漿ノルエピネフリン (NE) 値は, 脳出血, くも膜下出血, 脳梗塞の順に高く, その平均値はそれぞれ753±116pg/ml, 630±291pg/ml, 397±65pg/mlであった.脳出血の平均値は脳梗塞と対照とした非神経疾患々老19例の平均値292±2gpg/mlよりも有意に高値を示したが, 脳梗塞と対照の間には有意差を認めなかった.血漿NEの上昇はとくに大血腫, 広範な梗塞を伴う重症例で著しかった.死亡した13例の血漿NEの平均値1,199±162pg/mlは生存43例の平均値362±39pg/mlより有意に高く, 入院時の血漿NEは患者の生命予後を良く反映した.血漿エピネフリンについても同様の傾向がみられた.脳卒中急性期には交感神経系の興奮と副腎髄質機能の尤進を伴い, とくに予後不良な重症例で著しい.脳卒中急性期には脈拍,血圧,呼吸,体温などのvital signにしぼしば著しい変化がみられ,また発汗過多,消化管出血などを伴うことが少くない.これら多彩な臨床症状の発現には自律神経系が密接に関与していると推定される.さらに脳卒中患者ではValsalva試験における反応異常, 起立性低血圧, 体位変換に伴う血中ノルエピネフリン (NE) 反応の低下など自律神経機能異常がみられることが報告されている.一方最近では脳循環の調節機序における自律神経系の役割が注目され, 脳卒中急性期にみられる脳循環代謝動態の異常にも自律神経異常を伴うことが推測されるが,現在のところこれを実証するような成績は得られていない.したがって脳卒中急性期の自律神経活動についての観察は, 脳卒中の病態を解明する上でのひとつのアプローチになると考える.血中NEは主として交感神経の末端に由来し, その変動は交感神経活動をかなり鋭敏に反映すると考えられている.脳卒中患者においては尿中カテコールアミン (CA) 排泄量の増加があり, さらに血中 CAレベルが上昇することが報告されている.また交感神経刺激によりNEと共にexocytosisによって放出されるといわれるドーパミン-β-水酸化酵素 (DEH) 活性も脳卒中急性期には血中で上昇する.血清DBH活性の変動からみても, 血中NEの変化は脳卒中発症数日以内の急性期に著しいことが予想されるが, これらの報告者の成績ではその検討が十分になされていない.また血中CAレベルと臨床症状との詳細な関係についても明らかでない.最近のCA測定法の進歩は目覚しく, 特異性と感度に優れた測定法が開発されつつある.一方CTスキャンの導入により脳血管障害の診断精度は著しく向上し, 出血と梗塞の鑑別はもとより, 病巣部位までかなり正確に診断が可能となった.そこで著者らはとくに脳卒中発症後極く早期の患者を対象に血中CAの変動を観察し, さらにその臨床的意義についても検討を行った.
著者
荒木 厚 福島 豊 松本 光弘 佐古 伊康 北 徹
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.111-115, 1990-04-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

先天性代謝異常症のホモシスチン尿症では, 若年性に動脈硬化, および脳梗塞をきたしやすい。また, 血中ホモシステインの蓄積は, 動脈硬化を惹起するという仮説が提唱されている.ホモシステインの成人における脳梗塞発症に対する関与の可能性を検討する目的で, 慢性期脳梗塞患者42例の血漿総ホモシステイン濃度を測定し, 年齢, 性, および高血圧をマッチさせた対照84例と比較した.両群間のBody mass index, 空腹時血糖値, 血清コレステロール, 中性脂肪, クレアチニン, 尿酸濃度, および喫煙者の割合には, 有意差がなかった.血漿総ホモシステイン濃度 (nmol/ml) は, 脳梗塞群13.2±5.8, 対照群8.5±3.7であり, 脳梗塞群が対照群に比して有意に高かった (p<0.000001).以上の成績は, ホモシステイン仮説を支持し, 血漿ホモシステインの高値が, 脳梗塞の独立な危険因子の一つとなりうることを示唆する。
著者
田島 康敬 須藤 和昌 松本 昭久
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.245-250, 2009 (Released:2009-08-14)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

脳梗塞を繰り返したHIV感染を伴う神経梅毒の32歳男性例を報告する.症例は右上肢の脱力で発症し,この治療中に発熱,頭痛が加わり各種検査所見からHIV感染をともなう髄膜血管型神経梅毒と診断した.MRAでは脳底動脈,内頸動脈系の描出が不良であり左中大脳動脈の狭窄が顕著であった.ペニシリン投与により臨床症状,髄液,画像を含む検査所見の改善が得られた.しかしながら1カ月後に,意識障害を伴う重度の左片麻痺で再発した.右中大脳動脈は内頚動脈からの分岐部で描出されず,新鮮な梗塞巣が両側性に多発していた.治療により臨床症状,髄液,画像を含む検査所見の改善が得られたが重度の左麻痺が残存した. 本例は脳梗塞で発症し,その後梅毒とHIV感染が明らかになった症例である.近年の世界的なHIV感染の蔓延に伴い,これに伴う梅毒患者数の増加が問題となっており,症例の臨床症状や治療法の検討は大きな課題である.
著者
羽柴 哲夫 山田 正信 本郷 卓 宮原 永治 藤本 康裕
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.301-306, 2010-05-25 (Released:2010-07-09)
参考文献数
5

症例は67歳男性.突然の意識障害と右上下肢麻痺で発症した.臨床症状より脳底動脈塞栓症を疑ったが,発症1時間後の頭部CTでは異常を認めず.撮影中に意識障害・右上下肢麻痺は改善を示したため,同時に3D-CT angiographyを施行した.結果,主幹動脈の閉塞を認めず,塞栓後直ちに再開通が得られたと判断した.発症当日には患者は完全に回復したと発言し,自覚的訴えも無かったが,発症翌日に盲を訴えた.MRIにて両側後頭葉梗塞を認めたため,皮質盲と診断した.本患者は発症急性期には,盲であることに無関心であったと考えられ,病態失認の一種であるAnton症候群を呈していたと考えた.T-PA時代においては脳梗塞急性期に正確な神経症状の評価が必要であり,病態失認の存在は急性期診断のpit fallになりえると考えた.閉塞血管の再開通により神経症状の回復が見られ,t-PA療法の適応がないと判断されてもNIHSSの評価は必須であると考えた.
著者
鄭 秀明 内山 真一郎 大原 久仁子 小林 道子 村上 博彦
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.456-461, 1998-10-25 (Released:2009-12-07)
参考文献数
26
被引用文献数
1

発症24時間以内の脳梗塞250例において,進行性増悪例の検討をOxfordshire CommunityStroke Project (OCSP)の4病型分類別に検討した.全体では28%に進行が観察され,partial anterior circulation infarcts(PACI)群の進行は9%と他の3群(total anterior circulation infarcts: TACI, lacunar infarcts: LACI, posterior circulation infarcts :POCI)に比し低率であった.進行群と非進行群の比較では,TACIの進行群で頭部CTでの早期異常が高率で,コレステロールが低下しており,LACIの進行群ではエントリー時に機能的に重症であったが,その他の因子に差はなく,POCIでは両群間に差は見出せなかった.進行例は生命予後.機能予後とも不良であった.進行例の頻度は病型別に異なり,若干の予知因子が抽出されたが,その予測は依然として困難と考えられた.
著者
幸崎 弥之助 稲富 雄一郎 米原 敏郎 橋本 洋一郎 平野 照之 内野 誠
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.79-85, 2009 (Released:2009-04-20)
参考文献数
16

目的:発作性心房細動に対する電気的除細動直後の脳梗塞発症について,その背景因子と臨床像を検討した. 対象と方法:1995年4月から2003年11月の期間に,当院で発作性心房細動に対し電気的除細動を実施した連続768例.除細動後の脳梗塞発症群,非発症群とで比較を行った. 結果:9例(1.2%)で除細動後10日以内に脳梗塞が発症した.同期間中に脳梗塞を来さなかった759例から無作為に抽出した45例と比較した結果,除細動までの心房細動持続時間(OR 1.26,95%CI 1.03∼1.53)が,有意かつ独立した脳梗塞発症因子であった. 結論:脳梗塞合併予防のために,発作性心房細動に対する発症後早期の電気的除細動の必要性が示唆された.
著者
藤島 正敏 佐渡島 省三 石束 隆男 井林 雪郎 藤井 健一郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-10, 1989-02-25 (Released:2009-07-23)
参考文献数
50

The effects of various antihypertensive agents in relation to cerebral circulation and cerebral vessels were widely reviewed throughout the literature. The changes of cerebral blood flow (CBF), cerebral metabolism and CBF autoregulaiton were also discussed under the acute or chronic administration of antihypertensive agents in human being and experimental animals as well.Antihypertensive agents include diuretics, methyldopa, clonidine, reserpine, alpha-blockers, beta-blockers, vasodilators, calcium antagonists and angiotensin converting enzyme inhibitors, which habe been widely used for hypertensives with or without stroke.Acute effects : A bolus or continuous injection, or a single oral administration of vasodilators, calcium antagonists and reserpine increases CBF regardless of the blood pressure alteration. In contrast, both clonidine and beta-blockers decrease CBF by direct vasoconstriction or by decreasing cerebral metabolism. CBF remains unchanged or slightly increases by administration of alpha-blockers and angiotensin converting enxyme (ACE) inhibitors. No documents have been reported about the acute effect of diuretics and methyldopa. The lower limit of CBF autoregulation is shifted to lower levels by the administration of alpha-blockers, vasodilators and ACE inhibitors. Beta-blockers have no effects on autoregulatory range, while calcium antagonists affect little or or slightly raise the lower limit to a upper level.Chronic effects : Long-term administration of antihypertensive agents has different influence on CBF compared with acute administration. In hypertensive patients without stroke, most of agents do not change CBF, but some agents rather increase. In hypertensive patients with stroke CBF is increased by methyldopa and ACE inhibitors, but unchanged by alpha-blockers.Each antihypertensive agent has different inherent effects on cerebral circulaiton. Therefore we must know the pharmacological action of the drugs on brain itself or cerebral circulation, when we treat the hypertensive patients, especially in the cases who have a history of stroke.
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 林 健 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.187-194, 2013-05-20 (Released:2013-05-24)
参考文献数
21

要旨:【目的】嚥下造影検査(VF)の実施に合わせて,5 mlと60 mlの段階的飲水試験を施行し,誤嚥の検出や経口摂取の可否,選択された食形態との関連について明らかにする.【対象と方法】経口摂取開始時の適切な食材を選ぶことを目的にVFを施行した183名(男性107,女性76)の脳卒中患者を対象とした.平均年齢は66.9±12.1歳で,原因疾患は脳梗塞98名,脳出血49名,くも膜下出血23名,その他の脳血管疾患13名,発症からVFまでの期間は18.0±12.0日であった.方法は,まず,VF実施の直前に段階的飲水試験にて臨床評価を行い,次にゼリーや粥などの模擬食品に加え,5 mlと60 mlの液体にてVFを行った.その後,段階的飲水試験の結果と実際のVF結果との関連について検討した.【結果】臨床所見の異常にて段階的飲水試験を途中で中止したのは46名(第1段階43名,第2段階3名)であった.段階的飲水試験での異常所見はVFの液体誤嚥と有意な関連を認め,VFにて観察される誤嚥に対する段階的飲水試験の感度は85.2%,特異度は41.8%であった.飲水速度(ml/秒)や1回嚥下量(ml)と誤嚥に明らかな関連はなかった.経口摂取の可否や選択された食形態は,VFの液体誤嚥との間に関連を認めたが,段階的飲水試験の臨床評価との間には関連はなかった.【まとめ】段階的飲水試験の臨床評価は液体誤嚥の検出には有用ではあるが,その結果と誤嚥予防のための適切な食形態との間には明らかな関係を見いだせず,経口摂取の開始前には嚥下造影検査などの詳細な評価を合わせて行うべきである.
著者
矢坂 正弘 岡田 靖
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.121-127, 2013-03-20 (Released:2013-03-25)
参考文献数
18
被引用文献数
4 1

要旨:ワルファリンに替わって,2011から抗トロンビン薬や抗Xa薬などの新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulants; NOAC)が相次いで登場している.新規経口抗凝固薬はワルファリンと比較して,吸収が早く,半減期が短く,食物の影響を受けず,薬物の相互作用が少ない.頻回なモニタリングが不要で,脳卒中と全身塞栓症の予防効果はワルファリンと同等かそれ以上,大出血発現率はワルファリンと同等かそれ以下,頭蓋内出血発症率はワルファリンより大幅に少ない.このような観点から新規経口抗凝固薬はワルファリンと比較して一歩前進した抗凝固薬である.しかし,(1)出血性合併症の予防との緊急対処法,(2)脳梗塞急性期のrt-PA血栓溶解療法の可否,(3)適正使用の徹底,および(4)周術期の管理などの問題点が指摘されている.問題点に対して切な対処方法を開発していく必要がある.
著者
岡﨑 哲也
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.139-142, 2013-03-20 (Released:2013-03-25)
参考文献数
2

要旨:高次脳機能障害に特有のリハビリテーション(以下,リハ)医療や専門的社会支援を必要とする患者のほぼ半数を脳血管障害が占めるとの報告があり(蜂須賀ら2011),脳卒中診療においても高次脳機能障害のリハと職場復帰は大きな課題である.リハにおいて記憶障害への対策は重要で,軽度の記憶障害においては視覚イメージの利用や手帳の活用などの記憶トレーニングが,重度の記憶障害においては外的代償手段の使用や誤りなし学習法が奨められている(Ciceroneら2011).高次脳機能障害は能動的に行動しない入院生活では問題となりにくい.本人にも周囲にも「目に見えない障害」を抱えて職場復帰した結果,能力や勤労意欲を欠くとみなされやすく注意を要する.また,その障害特性より就労後に新たな問題を生じてきやすい.個々の症例に応じて産業医や利用可能な社会資源とも連携し,就労継続支援を丁寧に行うことが重要である.
著者
三上 毅 杉野 寿哉 菅野 彩 宝金 清博 三國 信啓
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.82-88, 2012 (Released:2012-03-24)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

甲状腺機能亢進症に併発した類もやもや病4症例を経験したので,文献的考察を加えてその病態や治療指針に関して検討した.2007年1月から2010年12月までに当科で血行再建術を行った,甲状腺機能亢進症に併発した類もやもや病4症例を後ろ向きに検討した.男性2例,女性2例で,平均年齢は27.5歳(14-43歳)であった.全例直接血行再建術と間接血行再建術を行った.神経学的な予後は良好であったが,1例で甲状腺機能の悪化が認められた.周術期の甲状腺機能コントロールは,虚血性合併症を避けるうえでも非常に重要であるが,甲状腺機能亢進症の活動性を評価するのは非常に困難であり,治療指針の検討には内分泌科との連携が重要であると考えられた.
著者
橋本 洋一郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.582-588, 2010-11-26 (Released:2010-12-03)
参考文献数
19

1995年に看護師を中心に脳梗塞患者をケアしていく「脳梗塞安静度拡大マニュアル」を看護師が作成した.目的は,1)廃用症候群の予防,2)早期離床・早期リハビリテーション,3)患者の苦痛軽減,4)患者自身や家族に対して今後の治療方針の提示,患者にとっては目標,5)在院日数の短縮であった.済生会熊本病院で1996年に脳梗塞クリティカルパスに作り替えた.同時期にstroke unit(SU)の有効性が示されたが,SUやクリティカルパスの本質はチーム医療である.連携を強化する手段として「地域連携クリティカルパス」が登場してきた.脳卒中は,急性期は「疾病」,回復期は「障害」,維持期は「生活」と,病期によって対象が変化する.脳卒中地域連携では,「治療の継続」と「リハビリテーションの継続」が必要だが,「看護の継続」はその両者の中に包含されている.2009年より脳卒中リハビリテーション看護認定看護師制度が開始された.看護師が脳卒中診療において主導的役割を果たすことを期待している.
著者
北村 彰浩 猪原 匡史 内田 司 鷲田 和夫 長谷 佳樹 小森 美華 山田 真人 眞木 崇州 高橋 良輔
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.384-389, 2010-07-25 (Released:2010-09-14)
参考文献数
12

【症例】52歳女性.高血圧,高脂血症,肥満あり.約1週間の経過で徐々に発動性低下が進行した.麻痺等の局所神経症状はなくNIHSS 0点であったため,当初はうつ病も疑われたが,頭部MRIで左内包膝部に脳梗塞像を認め左中大脳動脈穿通枝のbranch atheromatous disease (BAD)と診断した.神経心理学的検査や脳波検査から,軽度のうつ状態,認知機能障害,左前頭葉の機能低下を認めた.抗血栓療法等で徐々に症状は改善し約2カ月で職場復帰した.【考察】内包膝部は視床と大脳皮質を結ぶ種々の神経経路が通過する要所である.本例では前頭葉と視床との機能連絡の遮断により前頭葉機能が低下し発動性低下を来たしたと考えられた.また,BADは進行性の運動麻痺を呈しやすいことで知られるが,本例のように明らかな局所神経症状が無く発動性低下が亜急性に進行する症例でも内包膝部のBADが重要な鑑別になると考えられた.
著者
横山 絵里子 中野 明子
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.634-640, 2010-11-26 (Released:2010-12-03)
参考文献数
24
被引用文献数
6

【目的】脳卒中の栄養状態と認知・運動機能,ADLとの関連を明らかにする.【方法】対象は慢性期脳卒中381例(平均68±11歳)で,下肢運動年齢(MA),Barthel index(BI),改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS),Functional Independence Measure(FIM),長谷川式簡易知的機能評価スケール(HDS),標準失語症検査(SLTA),行動性無視検査(BIT)の評価と同時期にbody mass index(BMI),血清アルブミン(Alb),体重変化率を指標に栄養状態を評価した.【結果】栄養状態は全体の69%が低栄養であった.高度な低栄養ほどMA,BI,FIM,HDS,SLTA,BITは低下していた.順位相関係数の検討ではMA,BI,HDS,SLTAはBMIやAlbと有意な正の相関を認めた.【結論】低栄養が認知・運動機能やADL低下に関与する可能性が示された.