著者
山沖 和秀 天野 晶夫 今鷹 耕二 関 顕 藤井 潤
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.7, no.5, pp.444-449, 1985-10-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
13

眼球雑音 (Ob) の頻度と臨床的意義を, 40~88歳 (平均63歳) の1050例の患者を対象とし検討した.Obは, 43例 (4%) に認め, 特に70歳以上では8%と高率であった.Obは過半数で両側に聴取し, 日内・日差変動が大きかった.Obを心音計で記録できた例で, 臥位下肢挙上, 紙袋内再呼吸, 対側頚動脈圧迫, 亜硝酸アミル吸入を試み, いずれも, 70%以上で雑音が増強した。不整脈でもObの強さが変動する例があった.60歳以上のOb33例では, 脳梗塞・一過性脳虚血発作33%, 虚血性心疾患36%, 間歓性破行24%, 高血圧48%, 耐糖能異常56%に認め, 頚部, 大腿動脈の血管雑音聴取率, X線的動脈石灰化合併率も含め, いずれもOb例で有意に高率であった.以上から, 眼球の聴診は, 老年者において, 神経学的診察法としてのみならず, 全身性動脈硬化の評価にも有用と考えられた.
著者
冨田 仁美 奥田 真也 松本 雄志 鴨川 賢二 岡本 憲省 奥田 文悟
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.340-345, 2012 (Released:2012-09-26)
参考文献数
19

症例は65歳,男性.突然の左片麻痺と構音障害にて当科へ入院となった.左片麻痺のほかに左核上性顔面神経麻痺,左舌下神経麻痺,頸部以下の左半身で深部感覚障害がみられた.頭部MRIでは右延髄上部から中部の腹側から被蓋部に梗塞巣を認めた.3週間後も左舌下神経麻痺は続いたが,線維束攣縮や筋萎縮はみられないため,左核上性舌下神経麻痺と診断した.本例の顔面神経麻痺と舌下神経麻痺は病巣と反対側にみられたため,両神経核への核上性線維が延髄において交叉する前に障害されたと推測された.核上性の顔面神経および舌下神経線維の交叉部位には延髄上部から下部にかけてバリエーションが存在することが示唆された.
著者
石原 哲也 平田 幸一 辰元 宗人 山崎 薫 佐藤 俊彦
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.180-186, 1997-06-25 (Released:2009-09-16)
参考文献数
30

一過性全健忘 (TGA) の発症機序については, 未だに統一した見解は得られていない.われわれは, 従来の臨床的およびMRI, SPECTによる画像診断的検討に加え, proton MRspectroscopy (1H-MRS) を用い, その成因に関する検討をおこなった.TGAの急性期におけるSPECTでは, 側頭葉内側および基底核を中心とした脳血流の低下が示唆された.一方, 側頭葉内側および基底核部における急性期の1H-MRSでは, 虚血性変化の急性期にみられるようなコリン, クレアチンの低下や乳酸の増加は認めず, 脳細胞の代謝異常または脳機能の低下を示すとされるN-アセチルアスパラギン酸 (NAA) の相対的な低下のみがみられた.この結果から, TGAの発症には必ずしも一過性脳虚血発作と同様なatherothrombo-embolicな機序による脳血流低下のみが関与するものではないことが示唆された.
著者
金子 陽一 稲石 佳子 中司 貴大 舟越 光彦 岩元 太郎 田村 俊一郎 江島 紀代子 江島 泰志
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.243-251, 2022 (Released:2022-05-25)
参考文献数
30

【背景および目的】近年,経済格差が大きくなり,貧困世帯の割合が増加している.今回私たちは,経済的困難者における脳血管障害の特徴について解析した.【方法】2014年から2018年までの5年間,当院に入院した脳血管障害816例を対象とした.生活保護受給者および無料低額診療利用者の計280名を経済的困難者群とし,残りを対照群とした.これらの症例の病型別割合・発症時年齢・男女比・入院前生活場所・自宅退院率・退院時mRSスコアを,経済的困難者群と対照群間で比較した.【結果】経済的困難者における脳血管障害の特徴は,1.男性患者の比率が高い(特に65歳未満),2.入院前は高率に独居,3.虚血性脳血管障害の平均発症時年齢が男女とも有意に低い,4.脳出血の退院時mRSスコアが増悪傾向,というものであった.【結論】経済的に困難な状況下では,虚血性脳血管障害はより若年で発症し,脳出血の重症度が高くなる傾向がみられた.
著者
入江 研一 三輪 佳織 池之内 初 千葉 哲也 細木 聡 吉村 壮平 猪原 匡史 豊田 一則 古賀 政利
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.11002, (Released:2022-05-18)
参考文献数
21

【目的】椎骨動脈解離患者における延髄梗塞の臨床的および画像的特徴を検討した.【方法】2011年11月~2018年3月における急性期延髄単独梗塞連続例を調査した.MRIで延髄梗塞の形態的評価を行った.機能的転帰は3カ月後mRSで評価した.【結果】延髄単独梗塞の57例が対象となった.延髄梗塞のうち椎骨動脈解離15例,非解離42例であった.椎骨動脈解離群では非解離群と比較して,若年発症(51±7歳vs 70±13歳,p<0.001)であり,延髄外側梗塞は椎骨動脈解離群で有意に多く(100% vs 71%, p=0.02),延髄内側梗塞は全例で非椎骨動脈解離群であった(0%).機能的転帰不良(mRS≥3)は非解離群が椎骨動脈解離群に比して多かった(0% vs 24%, p=0.049).【結語】椎骨動脈解離による延髄単独梗塞は若年発症で,延髄外側梗塞を来しやすく,機能的転帰は良好である.
著者
田中 陽平 高野 弘基 滑川 将気 鈴木 倫明 源甲斐 信行 阿部 博史
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10825, (Released:2020-12-15)
参考文献数
15

要旨:症例は47歳女性,廊下で倒れているところを発見され当院に救急搬送された.診察上左共同偏視,全失語,右重度片麻痺,右半側空間無視を認めた.頭部MRIは左中大脳動脈M1近位閉塞を認めた.経皮的血栓回収療法を行い完全再開通を得た.術後,3D-CTAで左内頸動脈起始部に突出する構造物を認め,carotid webと診断し,他に塞栓源を認めなかったため,この病変が塞栓源であると考えた.Carotid webに対し頸動脈ステント留置術(CAS)を行い,術後経過は良好である.Carotid webは頸部内頸動脈起始部後壁にできる棚状構造物で,脳梗塞の塞栓源の一つと考えられている.内科的治療単独では高率に脳梗塞を再発するといわれており,外科治療が考慮される.本例のように,carotid webに対するCASは安全に施行可能であり,有用な再発予防の選択肢の一つと考える.
著者
島田 潤一郎 松田 信二 町田 利生 永野 修 本間 甲一 沖山 幸一 小野 純一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.222-226, 2009

超急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法において,初診時軽症または急速な症状改善のみを理由に適応除外された症例の予後を検討した.【方法】2002年4月から2007年9月に発症2時間以内に来院した脳梗塞症例のうち,初診時軽症あるいは急速な症状改善のみを理由に経動脈的又は経静脈的血栓溶解療法から適応除外された70例を対象とした.退院時予後不良(modified Rankin scale &ge;3)の割合および予後不良に関与する因子を統計学的に検討した.【結果】対象は男48,女22,平均年齢70.3才.初診時軽症による適応除外45例中3例(6.7%),急速症状改善による適応除外25例中8例(32%)が予後不良であり,症状改善を理由とした群で高率であった(Fisher直接法,p=0.0128).【結論】急速な症状改善のみを理由とした適応除外例では退院時予後不良の割合が高く,除外決定には慎重を期すべきである.<br>
著者
植松 大輔
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.313-319, 2000-06-25 (Released:2009-06-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1

独仏をはじめ欧州諸国ではイチョウ葉エキス(GBE)が医薬品として承認され,脳梗塞後遺症などに対し広く使用されている.本研究では脳梗塞慢性期患者においてGBEの臨床症状と局所脳血流に対する効果を検討した.対象は慢性期脳梗塞10例,平均年齢71±9歳.ドイツ医薬品と同等のGBE240mg/日を4週間使用し,前後において臨床症状の変化および123I IMP SPECTによる局所脳血流の変化を検討した.その結果,脚梗塞慢性期の脳循環不全に伴なう頭痛,抑鬱,自発性の低下などに高い有効性が認められ,全体として10例中8例に何らかの臨床的な改善がみられた.局所脳血流は低血流部位および対側の対応する部位の小脳平均カウントに対する比(CI%)を用いて評価した.低血流皮質部位の脳血流はCI:70.0±8.8から77.2±8.1%(p<0.05)へと有意な改善を認めた.イチョウ葉エキスの臨床効果を裏付ける局所脳血流の改善効果が確認された.
著者
喜多 大輔 東 壮太郎 川北 慎一郎 折笠 秀樹
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.355-361, 2019

<p><b>要旨</b>:【背景】石川県能登地区(人口21.1 万人)での脳卒中パスの登録病型と再登録パターンについて検討した.【結果】2008–2014 年の6 年間に4,179 件(男2,216,女性1,963,平均75.4 歳)の登録があった.病型別では,脳梗塞2,945,脳出血854,くも膜下出血283,その他・不明97 件であった.人口10 万人あたりの年間パス登録率は,男性369.5 人,女性293.7 人と国内の脳卒中発症率に近似していた.197 人で複数回登録があり,再登録率は1.39%/人・年(95% CI:1.20–1.58)であった.初回–2 回目の登録では,脳梗塞─脳梗塞は91%であったが,脳出血─脳出血は31%で,一致度は低かった.【結論】脳卒中発症を網羅するものではないが,パス登録結果の解析により地域での診療体制に有用な情報が得られる.また脳卒中の多くが,初回病型にかかわらず脳梗塞で再登録されることが示唆された.</p>
著者
若林 和樹 黒崎 みのり 甲賀 英明 田村 勝
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.55-59, 2008 (Released:2009-04-30)
参考文献数
10

遺残環椎前分節動脈(PPPIA)は胎生期遺残動脈の1つであるが発生頻度が低いものと推定されている。今回我々はPPPIA1型に合併したperimesencephalic nonaneurysmal subarachnoid hemorrhage(PSH)の1例を経験した。症例は61歳男性で突然の頭痛、嘔吐で発症した。頭部CTにて脳幹周囲脳槽に強いくも膜下出血を認め、発症当日の脳血管撮影にて明らかな出血源を認めなかった。第4,14病日に脳血管撮影を再検したが出血源は同定されなかった。その後再出血なく、現在経過観察中である。一般にPSHの予後は良好とされるが、遺残動脈には脳動脈瘤合併の割合が高いとされ、また遅発性に脳動脈瘤新生の報告1)もあるため今後も注意が必要である。
著者
小林 祥泰 小出 博己 山下 一也 卜蔵 浩和 山口 修平
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.189-195, 1993-06-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
13
被引用文献数
2 3

脳ドックを受診した脳卒中の既往がなく神経学的に異常のない健常成人124名 (40~79歳) を対象に自覚症状を物忘れ, 意欲低下などの精神的症状と頭痛, めまいなどの身体的症状に分けてMRI上の潜在性脳梗塞様病変および脳血流, 認知機能, 心理状態との関連を検討した.物忘れの自覚は54%に見られ, 加齢と共に増加した.物忘れ単独群 (A-II群 : 46名) では潜在性脳梗塞様病変の頻度は自覚症状のない群 (A-1群 : 57名) と差を認めなかったが, 意欲低下などを伴う群 (A-III群 : 21名) では潜在性脳梗塞様病変が47.6%とA-I群の10.5%, A-II群の10.9%に比して有意に高率に認められ, 脳血流, 言語性認知機能も低下を示した.またSelfrating Depression Scaleでも有意に高値であった.身体的症状についてはこれらの関係は認められなかった.軽度のうつ状態と潜在性脳梗塞様病変が関連していることが示唆された.
著者
平田 温 田川 皓一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.189-194, 1985-06-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

内頚動脈の閉塞あるいは狭窄が拍動性耳鳴の原因となることは比較的知られていない.著者らは拍動性耳鳴を訴える2症例を経験し, 1例で同側の内頚動脈の狭窄を, 他の1例で対側の内頚動脈の閉塞を確認した症例1は56歳の女性で右の拍動性耳鳴を訴え, 右の頚部および眼窩に血管雑音を聴取した.血管造影で右内頚動脈の壁不整と狭窄を認めた.右の耳管狭窄が検出され通気で耳鳴は減少した.症例2は50歳の男性で左の拍動性耳鳴と左片麻痺を主訴とし, 右内頚動脈起始部および右中大脳動脈の閉塞と, 左内頚動脈よりの側副血行が認められた.左頚部に血管雑音を聴取し運動負荷で血管雑音と耳鳴は増強し安静で減少した.これらはそれぞれ血管内腔の不整および血流増加により血管雑音・耳鳴を生じたと考えられる.拍動性耳鳴の発現機序およびその修飾因子について考察を加え, 報告した.
著者
佐藤 美佳 長田 乾 鈴木 明文
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.396-401, 2005-09-25 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12

脳卒中によりPure motor monoparesis(PMM)を呈した症例について,急性期の頭部MRI拡散強調画像を用いて検討した.5年間の脳梗塞,脳出血連続症例3226例中,PMMは32例(約1%;上肢26例,下肢6例)で,31例は脳梗寒,1例のみ脳出血であった.上肢のPMMの責任病巣は,放線冠や半卵円中心や中心前回に,下肢のPMMは内包後脚―放線冠後部に多く認められた.9例で2つ以上の多発性の病巣を認めた.発症機序による検討では,動脈原性塞栓8例(25%),心原性塞栓7例(21.9%)と約半数が塞栓性機序であった.抗血小板,抗凝固療法を開始したが,約2.9年の観察期間において7例(21.9%)が脳梗塞を再発した.PMMは,小梗塞でも塞栓性機序が稀ではなく,再発のリスクも考え,的確な診断と治療が必要である.
著者
野村 勝彦 渡辺 健一 藤井 辰義 谷 到 江本 克也 鮄川 哲二 沖 修一 荒木 攻
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.444-450, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

我々の施設では2008年1月から2010年12月の3年間に入院時MRI拡散強調画像において内包後脚に可逆性の異常高信号を呈する低血糖脳症を2例経験した.この2例はいずれも両側の内包後脚に異常高信号を有し,受診までの経過あるいは受診時に四肢脱力の左右差があり脳血管障害を疑われた.1例は血糖補正後に速やかな神経学的所見の改善と画像の正常化を認めたが,低血糖症状が遷延した1例においては2回目のMRI拡散強調画像にて内包後脚の病変に加えて放線冠にも異常高信号が観察された.受診時の低血糖や意識障害の程度に関わらず,低血糖に対する初期対応の違いがその後の2症例の臨床経過の違いに影響を与えたと推測された.神経学的所見や画像所見にて急性期脳梗塞が疑われた症例であっても常に低血糖脳症の存在を考慮に入れた十分な初期対応と経過観察を行うことが重要であると考えられた.
著者
出口 一郎 荒木 信夫 前島 伸一郎 武田 英孝 古屋 大典 加藤 裕司 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.749-754, 2008 (Released:2008-10-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

症例は59歳女性.突然の眩暈,嘔吐のため当院へ救急搬送された.頭部MRI拡散強調画像上,左上小脳動脈灌流域に急性期脳梗塞所見を認め,加療を開始した.入院後上記症状の改善を認めたが,入院5日後に施行した神経心理学的検査では記憶・遂行機能などの認知機能の著明な障害を呈し,SPECTでも両側基底核,小脳,側頭葉,頭頂葉および前頭葉におよぶ広範な血流低下がみられた.入院約1カ月および2カ月後の神経心理学的検査では認知機能の著明な改善を認め,SPECTでも上記部位の血流は改善していた. 本症例は小脳梗塞にて認知機能障害を呈したCerebellar cognitive affective syndromeと考えられた.従来,認知・行動障害は小脳後方領域の障害,また感情障害は虫部の障害と関連があるとする報告や,認知障害は後下小脳動脈領域の障害で生じ,上小脳動脈領域の障害では生じないという報告があるが,本症例では上小脳動脈領域の梗塞で遂行機能障害を呈し,情動性変化は認められなかった.
著者
小守林 靖一 久保 慶高 幸治 孝裕 西川 泰正 小川 彰 小笠原 邦昭
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.291-294, 2013-07-25 (Released:2013-07-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1

要旨:44歳,男性.頭全体の痛みを自覚し独歩受診.精査上くも膜下出血や脳梗塞は認めなかったが,左椎骨動脈解離を認め,2カ月おきに画像追跡を行い,半年後に左椎骨動脈の閉塞を確認した.なお,反対側の右椎骨動脈には異常所見は認めなかった.その後も画像追跡を行ったが,両側椎骨動脈には変化がなかった.最終画像追跡から2カ月後,左椎骨動脈閉塞から25カ月後に突然くも膜下出血を来した.右椎骨動脈-後下小脳動脈分岐部より近位側に紡錘状動脈瘤を認め,出血源と診断した.血行再建を伴った根治手術を企図したが,肺炎を合併したため待機手術の方針となった.2週間後に再出血を来し,死亡した.これまでの報告では,一側の椎骨動脈解離の自然閉塞または治療による閉塞後に対側の椎骨動脈解離によるくも膜下出血を来す期間は,14日以内であったが,本症例のように2年以上の長期経過後でも反対側椎骨動脈に解離が出現し,出血することがありうる.
著者
今井 明 鈴木 ひろみ 渡辺 晃紀 梅山 典子 塚田 三夫 中村 勤 松崎 圭一 加藤 開一郎 冨保 和宏
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.572-578, 2010-11-26 (Released:2010-12-03)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

脳卒中の自然経過を検討する目的で,生命予後と死因について調査し,AHAによる報告と比較した.対象は1998年4月から1999年3月に脳卒中を発症し,栃木県内で登録された5,081人である.発症から5年9カ月までの死亡の有無と,死因簡単分類で死因を調査した.生存率はKaplan-Meier法で算出した.脳卒中全体の5年生存率は62.3%であり,病型別の5年生存率は,くも膜下出血54.9%,脳出血57.9%,脳梗塞62.8%であった.死因の観察では,すべての病型で1位を脳卒中,2位を循環器系の疾患が占め,3位はくも膜下出血と脳出血では悪性新生物,脳梗塞では呼吸器系の疾患が占めた.くも膜下出血と脳出血では原疾患による急性期死亡が多く,75歳以上の脳梗塞では肺炎による死亡が多かった.AHAの報告によると,脳卒中の5年以内の致死率は男性47%,女性51%であり,栃木県の致死率は男性38.5%,女性36.7%とアメリカの報告より低かった.脳卒中の生命予後の改善には,急性期治療の充実と慢性期脳梗塞の肺炎に対する対策が重要と考える.
著者
森永 一生 大川原 修二
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.291-295, 1991-08-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
10

高血圧性脳出血, 脳梗塞患者に対し血漿ANP, ADHを測定し, 低Na血症におよぼす影響について検討した.対象は過去1年間に当院に入院した高血圧性脳出血19例, 脳梗塞11例である.低Na血症発生例は, 脳出血例の4例だけで, 脳梗塞例は1例もなかった.脳出血例の血漿ADHは, 低Na血症の発生の有無にかかわらず急性期において高値であり, 以後漸減した.脳梗塞例の血漿ADHは, 各時期間で有意な変動を示さなかった.血漿ANPは, 脳出血の低Na血症発生例では, 急性期の値が低Na血症期まで持続する傾向にあったが必ずしも高値ではなかった.脳梗塞例では, 各時期とも有意に高かったが, 低Na血症の発症例はなく, 心疾患などの合併症によるANPの上昇と考えられた.以上の結果から高血圧性脳出血, 脳梗塞患者において, 急性期の血漿ADH, ANP値より低Na血症の発生を予測することは困難であるが, ANPの不適切分泌が低Na血症発生に関与する可能性は残された.