著者
齋藤 司 相澤 仁志 澤田 潤 油川 陽子 片山 隆行 長谷部 直幸 林 恵充 安栄 良悟 佐藤 正夫 程塚 明
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.133-137, 2009-11-25 (Released:2010-03-29)
参考文献数
8
被引用文献数
6 1

【背景・目的】小脳梗塞の臨床的特徴を検討し,初期診療上の問題点を明らかにする.【方法】2006年1月1日から2008年12月31日までの3年間に,旭川医大病院Stroke teamが診療した脳卒中患者514例のうちの小脳梗塞患者22例(4.3%)を対象とした.【結果】典型的な小脳症状を全く呈さない症例,あるいは一つのみ呈する症例が8例(36.4%)見られた.3例が救急車を利用し発症後3時間以内に受診したにもかかわらず,当初小脳梗塞と診断されず神経内科や脳神経外科以外の病棟に入院した.その3例はいずれもめまいを主訴とし,構音障害と歩行障害が見られなかった.その他2例を合わせ全体の22.7% にあたる5例が,Stroke teamによる初期の診察を受けておらず,それが当初小脳梗塞と診断されなかった要因の一つと考えられた.【結論】めまいや嘔吐を主訴とする場合は,常に小脳梗塞である可能性を考慮する必要がある.Stroke teamによる早期の正確な神経学的診察が重要である.
著者
田中 智貴 猪原 匡史
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10608, (Released:2018-04-11)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

近年,脳卒中急性期治療,予防学の進歩により,脳卒中の再発率,死亡率は年々減少してきているが,依然として脳卒中が要介護の最大の要因となっており,脳卒中生存者の長期的QOL の向上が望まれている.脳卒中生存者のQOL に関わる因子としては,脳卒中による失語や麻痺等のdisability に加え,認知障害,抑うつ,感染症などが挙げられる.それに加えて,脳卒中後てんかんはQOL に影響する重要な合併症であり,脳卒中生存者の5~10%前後に認められると報告されている.本報告では,2015 年に当院の行った脳卒中診療施設(189 施設)におけるアンケート調査を通し,脳卒中後てんかんについての概説および診断,治療に関する現状やエビデンス,今後の課題について述べる.
著者
角田 亘 安保 雅博 清水 正人 笹沼 仁一 岡本 隆嗣 原 寛美 木村 知行 武居 光雄
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.274-280, 2013-07-25 (Released:2013-07-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2

要旨:【目的】健側大脳への低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(以下,RTMS)と集中的作業療法(以下,OT)は,いずれも脳卒中後上肢麻痺に対する有効な治療的介入である.本研究では,これら2つの介入の併用療法の安全性と有用性を検討した.【方法】全国8つの施設に入院し本併用療法を施行された上肢麻痺を呈する脳卒中患者1,008人を対象とした.各対象は15日間の入院下で,20分間の低頻度RTMSと120分間の集中的OTからなる併用療法を計22セッション施行された.【結果】全患者が有害事象をみることなく本併用療法を完遂した.治療によりFugl-Meyer Assessment点数,Wolf Motor Function Testの課題遂行平均時間,Functional Ability Scale点数が有意に改善した.【結論】我々が考案した併用療法は安全であり,脳卒中後の上肢麻痺を改善する可能性が示唆された.
著者
岡本 定久 石原 大二郎 荒木 淑郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.48-50, 2013-01-20 (Released:2013-01-25)
参考文献数
4
被引用文献数
1

要旨:症例は41歳男性,配管工.40歳から高血圧,脂質異常症の既往あり.平成X年7月から建設中施設内での溶接作業に従事し,体重が5 kg以上減少した.8月某日,最高気温36度,湿度67%と炎暑下での屋外作業となった.午後から,手足のしびれ,有痛性筋痙攣を自覚した.帰宅時に筋痙攣・全身倦怠感が増悪し,その後から傾眠傾向となり当院救急外来を受診した.来院時,傾眠傾向,右眼球偏倚,左中枢性顔面神経麻痺,構音障害,左不全片麻痺,左半側空間無視を呈し,また,診察時有痛性筋痙攣を頻回に認めた.検査所見では,低Na性脱水を認めた.頭部MRIにて,右中大脳動脈領域に脳梗塞を認めた.本症例は,熱中症を契機に脳梗塞が発症したと考えられた.
著者
辻 将大 秋山 恭彦 杉本 圭司 上村 岳士 内村 昌裕 藤原 勇太 宮嵜 健史 永井 秀政
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.375-380, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
20

症例は66 歳の女性.30 秒~1 分間程度持続する一過性の右上肢脱力発作を繰り返し発症した.脳血管撮影により頸部頸動脈解離の診断に至った.患者には,約1 カ月前に頸部への鈍的外傷歴があった.急性期の脳虚血巣はMRI では認められず,MRI および造影CT において解離病変部内に明らかな血栓が同定できないこと,非脳虚血発作時の脳血流検査で脳血流低下や脳血流予備能低下も認められないことから,当初,脳虚血発作の発症機序を特定できなかった.血管内視鏡による病変部観察の結果,解離した血管壁が可動性を有するフラップ形状を呈しており,偽腔内へ流入する血流により解離フラップが血管腔を閉塞するように上昇運動する状態が観察されたことから,解離血管壁が間歇的に血管腔を閉鎖することが本症例の病態生理と推測された.頸動脈ステント留置術により解離血管壁を固定した結果,脳虚血症状は消失した.
著者
葛目 大輔 西本 陽央 佐島 和晃 小松 奏子 金子 恵子 山﨑 正博
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.44-46, 2018 (Released:2018-01-25)
参考文献数
9

症例は50 歳女性.2014 年10 月下旬(第1 病日)早朝,突然,回転性眩暈,右耳難聴を自覚し,当院に搬送された.神経学的所見では,左方向への回旋性眼振,右難聴を認めた.頭部MRI 拡散強調画像で小脳梗塞を認め,同日入院した.第22 病日に実施した脳血管造影検査では,右前下小脳動脈(AICA)は椎骨動脈から分岐し,右後下小脳動脈分岐部から椎骨動脈が狭小化していた.以上より,右椎骨動脈解離によって右AICA が閉塞し,内耳に虚血性障害を来した結果,難聴を呈したと判断した.第40 病日に当科を退院したが,現在も,難聴は残存している.
著者
石川 智彦 近藤 礼 山木 哲 毛利 渉 齋藤 伸二郎 長畑 守雄 嘉山 孝正
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.161-166, 2015 (Released:2015-05-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

要旨:症例は37 歳女性.テニス中に首を捻った際から頭痛が出現し,その後頭痛の増強,立位保持困難,構音障害を訴え救急搬送された.精査にて頸部左内頸動脈解離による脳梗塞を認め,抗凝固療法を行い経過良好であったが,第14 病日のMRI にて新たに頸部左椎骨動脈解離を認めた.無症候であったため抗凝固療法を継続し,第26 病日に退院し外来通院とした.発症5 カ月後には両血管とも正常に復していたが,発症6 カ月目に頭痛,めまいで救急搬送され,新たに頸部右内頸動脈解離を認めた.本邦では頸部動脈解離の再発例に関する報告が少なく,特に本症例のように約半年間で異なる頸部血管に3 回にわたり解離が出現した報告はない.本症例では3 カ所の解離部位がいずれも類似した高位であることから,発症時期は異なるものの1 回のminor neck injury が誘因となった可能性が考えられた.
著者
溝口 忠孝 津本 智幸 鶴崎 雄一郎 徳永 聡 桑城 貴弘 矢坂 正弘 岡田 靖
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.81-85, 2018 (Released:2018-03-23)
参考文献数
18

特発性内頸動脈解離に対し,頸動脈ステント留置術を行い,良好な転帰を得た1 例を報告し,その原因を考察する.症例は30 歳男性.患者は睡眠時に頸をかしげた状態で寝てしまう習慣があった.起床後入浴中に頸部痛,運動性失語,右半身麻痺を呈した.頭部MRI では左基底核と左前頭葉深部に微小梗塞を認め,MRA では左内頸動脈の偽性閉塞を認めた.諸検査から頸動脈解離に伴う偽性閉塞と診断し,来院時には無症候性であることから内科治療を選択した.しかし,第4 病日目に行った血管撮影でも内頸動脈偽性閉塞所見は全く改善していないため頸動脈ステント留置術を施行し,脳血流の改善を認めた.後遺症なく15 病日目に自宅退院となった.本症例では発症機序としては入眠時の特徴的な姿位による頸部の過伸展が関与していると考えられた.内頸動脈解離の発症機序に関して,十分な病歴,生活習慣の聴取をすることも肝要であると考える.
著者
外山 祐一郎 矢坂 正弘 桑城 貴弘 湧川 佳幸 齊藤 正樹 下濱 俊 岡田 靖
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.428-433, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2

要旨:症例1 は63 歳男性.頸部回旋時より右後頭部痛を自覚した.右椎骨動脈に6 mm の拡張を認め,右椎骨動脈解離と診断した.出血や脳梗塞の所見なく,降圧療法を開始(150/90 から100/60 mmHg)した.後頭部痛は改善し第17 病日に消失し,第26 病日に退院した.症例2 は39 歳男性.起床時に正中後頭部痛を自覚した.第12 病日に当科受診.右椎骨動脈に9 mm の瘤形成を認め,降圧を行い(血圧120/60 から110/60 mmHg),後頭部痛は改善し第17 病日に消失し第23 病日に退院した.2~3 カ月後のMR 検査にて解離病変は症例1,2 ともに改善した.椎骨動脈解離急性期の降圧療法は頭痛や血行動態の改善に有効と考えられる.
著者
寺崎 修司 米原 敏郎 藤岡 正導 橋本 洋一郎 内野 誠
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.70-73, 1996-02-25 (Released:2009-09-16)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

症例は既往疾患のない38歳, 男性.ゴルフ練習を4時間した後, 右後頸部痛が出現した.その2時間後から左上肢のしびれと歩行障害を自覚し, さらに2日後から吃逆が出現した。第4病日の入院時には症候学的に右延随外側症候群を呈していた.第5病日の右椎骨動脈造影で右後下小脳動脈がV2 portionから分岐し, 右椎骨動脈のV3 portionから両側椎骨動脈合流部までの血管壁不整を伴う狭窄 (string sign) とその直後の閉塞 (tapering occlusion) を認めた.この部位は第56病日には再開通していた.これらの所見は頭蓋外から頭蓋内までの椎骨動脈解離を示唆するものと考えられた.MRIにて下部延随外側の右側に梗塞巣を認めた.椎骨動脈解離の原因としてゴルフスウィングによる外力が考えられた.
著者
青木 淳哉 木村 和美 井口 保之 井上 剛 芝崎 謙作 渡邉 雅男
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.51-55, 2012

約25%の急性期脳梗塞例は発症時間が不明であるためt-PA静注療法の対象から除外される.頭部MRI DWIで高信号を呈していてFLAIRで信号変化がない場合(DWI/FLAIRミスマッチ),発症3時間以内と推定できる.我々は発症時間不明の脳梗塞例に対しDWI/FLAIRミスマッチに基づいたt-PA静注療法を行った.2009年6月から2011年10月までに13例[83 (67-90)歳,NIHSSスコア16 (11-20)点]が登録された.最終無事確認時間からt-PA静注療法まで5.6 (5.0-11.6)時間であった.24時間以内の再開通は10例(完全再開通:5例),症候性頭蓋内出血は0例であった.発症7日後の著明改善例は7例で,3カ月後の転帰良好例(mRS 0-2)は5例であった.発症時間が不明であってもDWI/FLAIRミスマッチがあればt-PA静注療法の対象になる可能性がある.
著者
松田 昌之 李 英彦 大橋 経昭 半田 譲二
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.257-263, 1997-08-25 (Released:2010-01-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血 (SAH) の発症は冬 (12月~2月) に多く, 秋 (9月~11月) に少なかった.1日のうちでは午前6時~9時および午後6時~9時に有意に高い二峰性を示した.発症時の身体活動・行動では談笑中・テレビ観賞中・自宅でくつろいでいる時など身体活動が特に活発とは思われない時の発症数が最も多いが, 費やす時間を考慮すると排便・排尿に関連しての発症率が最も高くなり, その他食事・飲酒, 入浴, 起床時・洗面・着替えなど日常生活動作に伴った発症率が高かった.勤務中, 家事仕事中の発症数も多かったが, 両者を仕事として合わせても従事時間を考慮すると仕事中の発症率は高くはなく, 仕事や労働によってSAHが生じやすいという医学的根拠は認められなかった.また, 既往症または入院時合併症として高血圧の合併率が最も高く, 特に若年群では対照群より高く, 脳動脈瘤破裂の危険因子である可能性が高いことが示唆された.
著者
橋本 洋一郎 伊藤 康幸
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.434-441, 2016 (Released:2016-11-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1

要旨:潜因性脳卒中は病因不明の脳梗塞を指しており,脳梗塞全体の25%程度を占める.その原因としては,潜在性発作性心房細動,卵円孔開存,大動脈プラーク,がんなどがある.潜因性脳卒中では,①病歴(現病歴,既往歴,家族歴),特に発作性心房細動の既往歴,②症候の的確な把握,③ D-dimer やBNP の測定,④ 12 誘導心電図,心電図モニター,Holter 心電図検査,長時間の心電図モニター,⑤ MRI (拡散強調画像)・MRA,⑥経胸壁心エコーや頸部血管エコー,⑥経食道心エコーやTCD によるbubble study(卵円孔開存などの検出),⑦下肢静脈エコー,⑧遺伝子検査を含めた特殊な検体検査も行う必要がある.植込型心電図記録計などのtelemonitoring,冠動脈CT,高解像度動脈壁MRI (頸動脈や頭蓋内血管壁の評価),経食道心エコー,D-dimer,がんのスクリーニングなどの高度診断機器を駆使する.
著者
高橋 若生
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10503, (Released:2017-02-16)
参考文献数
16
被引用文献数
1

感染性心内膜炎(infective endocarditis: IE)は多彩な合併症を伴うが,脳血管障害は代表的な合併症である.虚血性脳卒中はIE における神経合併症の半数以上を占め,出血性脳卒中は6~18%に相当する.IE に伴った脳卒中はIE の病初期に発症することが多く,しばしばIE の初発症状となる.脳梗塞の大半は皮質枝領域に認められ,脳内出血は皮質下の多発性の血腫として認められる.また,神経症候を有さない症例においても,無症候性脳梗塞やmicrobleeds を含む無症候性出血性病変を伴うことが少なくない.IE に伴った脳卒中は,Staphylococcus aureus を起炎菌としたIE で発症頻度が高く,心エコーで検出される疣贅のサイズが発症リスクと関連する.
著者
高木 繁治 篠原 幸人 小畠 敬太郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.434-441, 1984-12-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
34

非侵襲的脳血流測定法である133Xe吸入法と静注法を同一日に12例に施行し,その測定値を比較した.静注法の脳血流値は吸入法にくらべて,F1,ISI共に有意に高値を示し,W1は有意に低値を示した.12例の両側脳半球平均のF1は静注法71.5±10.8ml/100g brain/min(mean±S.D.),吸入法64.3±7.3であった.両法での差異の原因の一つは,動脈血中133Xe濃度を呼気から推定する点にあると考え,動脈血ガス分圧が正常である4例について吸入,静注後の呼気および血中濃度曲線を比較したところ,吸入法では全例に,静注法では3例に両曲線での差異が認められた.以上より,動脈血ガス分圧が正常で,臨床的に肺機能障害の認められない症例においても,動脈血中濃度曲線と呼気中濃度曲線の間には明らかな差が存在し,それが両方法の測定値の差に関与する可能性があると考えた.
著者
下畑 光輝 成瀬 聡 渡部 裕美子 田中 一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.123-128, 2011-01-25 (Released:2011-01-26)
参考文献数
14

中大脳動脈狭窄を伴い脳梗塞を生じた高ホモシステイン(Hcy)血症の1例を経験した.症例は48歳男性.有意な既往や健診異常なし.数分の右半身脱力,しびれが繰り返し生じ入院した.頭部MRI FLAIR画像,拡散強調画像で左被殻後方に高信号,MRAおよび脳血管造影で左中大脳動脈狭窄を認めた.脳血栓症と考えアルガトロバン,エダラボン,アスピリン,シロスタゾールを開始し,5日後より発作は消失した.血液検査で血清総Hcy高値,ビタミンB6低値,葉酸低値を認め,methylenetetrahydrofolate reductase 677多型はTT型であった.高ホモシステイン血症は独立した心血管リスクであり,近年のメタ解析では葉酸,ビタミンB6,B12によるHcy低下を介した脳卒中発症リスクの低減が報告された.原因不明の脳梗塞では高Hcy血症の有無を検索し,葉酸,ビタミンB群の投与を検討してもよいと思われる.
著者
渡部 真志 平野 聡子 越前 康明 榊原 健二 若林 由佳 髙谷 美和 原田 祐三子 村上 あゆ香 小林 麗 岡田 久 奥田 聡
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-6, 2018 (Released:2018-01-25)
参考文献数
13

【目的】Stanford A 型急性大動脈解離(type A acute aortic dissection: TAAAD)に伴う脳梗塞ではrt-PA 療法が致死的結果を招き得るため,鑑別に有用な臨床因子を検討した.【方法】TAAAD に伴う脳梗塞13 例(TAAAD 群)を後方視的に分析し,rt-PA を投与した脳梗塞57 例(rt-PA 群)と比較検討した.【結果】TAAAD 群は胸痛が多く(p<0.01),全例で何らかの意識変化が見られた.TAAAD 群は血圧が低値で(p<0.01), 収縮期血圧のcut-off 値はROC 解析で130 mmHg 以下であった. 特に110 mmHg 以下では陽性尤度比35.1 と特異性が高かった.また徐脈傾向が見られた.【結論】疼痛の問診がTAAAD 鑑別に重要で,収縮期血圧130 mmHg 以下でTAAAD が疑われ,110 mmHg 以下かつ心拍数60 回/分以下では積極的に疑うべきである.
著者
舟橋 怜佑 前島 伸一郎 岡本 さやか 布施 郁子 八木橋 恵 浅野 直樹 田中 慎一郎 堀 博和 平岡 繁典 岡崎 英人 園田 茂
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10516, (Released:2017-06-13)
参考文献数
35

【目的】リハビリテーション(リハ)目的で入院した右被殻出血患者を対象に,半側空間無視の有無やその検出法に関与する要因について検討した.【対象と方法】対象は回復期リハ病棟に入院した右被殻出血103 名で,発症から評価までの期間は40.5±27.4 日.発症時のCT より血腫型を評価し,血腫量を算出して,半側空間無視がみられたかどうかや,その検出法を診療録より後方視的に調査した.【結果】半側空間無視は103 名中58 名(56.1%)でみられた.血腫量が多く,血腫が内包前後脚または視床に及ぶ広範な場合に半側空間無視は高率にみられた.半側空間無視の検出率は消去現象と注意で最も高く,次いで模写試験,視空間認知の順であった.【結論】回復期リハの時期でも被殻出血の半数以上に半側空間無視を認め,その発現には血腫量や血腫型が関与した.半側空間無視の検出に複数の課題を用いることで,見落としを大きく減らすことができた.
著者
松本 勝美 山本 聡 鶴薗 浩一郎 竹綱 成典
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.152-156, 2009 (Released:2009-06-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

[背景,目的]椎骨脳底動脈閉塞は発症より6時間以上経過して診断されるケースが少なくなく,血栓溶解を施行するかどうか判断が困難な症例が多い.今回椎骨脳底動脈閉塞例に対し血行再建を行った例について,再開通の有無,重症度および治療開始時間が予後に及ぼす影響を検討した. [症例と方法]当院での椎骨脳底動脈閉塞に対する血行再建は発症時間にかかわらず,diffusion MRIで梗塞の面積が20 ml以下または脳幹全体が高信号になっていない例としているが,該当症例は19例あり,12例は発症6時間以内に血行再建が行われ,7例は発症6時間以降に血行再建が行われた.各群について初診時NIHSSと3カ月後のmRS(modified Rankin scale)の関連性を検討した.再開通の評価はTIMI分類で施行した.統計はmRSと年齢,再開通までの時間,NIHSSは分散分析を行い,開通の有無とmRSは分割表分析を行った. [結果]予後は再開通の有無が最も影響し,TIMI分類のGrade 3∼4の11例中9例でmRSが3以下であったが,Grade 0∼1では全例mRSが4以上であった(P<0.01).発症時間,受診時NIHSS,年齢と予後の関係は有意差は認められなかったが,mRS 0∼1の4症例はいずれも発症3時間以内の再開通例であった. [結論]椎骨脳底動脈閉塞は発症時間にかかわらず,diffusion MRIで広範囲に高信号を呈さなければ血栓溶解療法の適応はある.発症時間からの経過にかかわらず再開通後の予後は比較的良好である.神経症状を残さない結果を得るには発症3時間以内の早期再開通が望ましい.
著者
木村 和美 矢坂 正弘 宮下 孟士 山口 武典
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.363-368, 1990-08-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
8

症例は68歳の心房細動を有する女性.上部脳底動脈の塞栓性閉塞に基づく特異な眼症候と無動性無言を呈した.両側性に垂直眼球運動障害があり, これに加えて, 左眼は外転位で内転障害が認められたが, 瞳孔異常はなかった.右眼はcorectopiaを呈し, 瞳孔は散大, 対光反射消失, 責任病巣として右Edinger-Westpha1核, 左動眼神経核, およびrostral interstitial nucleus of MLFが推測された.MRIで両側視床から中脳被蓋に連続した病巣を認め, 眼症候と無動性無言は, 傍正中視床動脈の閉塞に基づくものと考えられた.