著者
岡本 沙織 濱田 真輝 田鹿 安彦 川畠 弘子 岡田 芳和
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.351-355, 2014 (Released:2014-09-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1

要旨:グリチルリチンと抑肝散併用で偽アルドステロン症を生じ,脳内出血と低カリウム性ミオパチーを合併した症例を経験したので報告する.症例は85 歳の女性.肝機能障害と認知症に対して半年以上前より両剤を併用していた.失禁と食欲低下,認知症悪化のため当院を受診し,四肢脱力と左同名半盲,CT で右後頭葉皮質下出血を認めた.血液検査ではカリウム1.6 mEq/l,レニン活性低下,心電図変化を認め,偽アルドステロン症と診断し,保存的加療を行った.入院後,血圧は高値で推移したが,カリウム値の正常化に伴い1 週間程度で安定した.甘草含有製剤である抑肝散は,偽アルドステロン症発生により薬剤抵抗性の二次性高血圧を来すことがあるため,効果を増強させ得るグリチルリチンなどの他剤との併用時には留意が必要である.また,脳内出血などの合併症を予防するために,定期的な血圧管理,電解質検査,心電図検査などが重要であると考えられた.
著者
大川原 舞 山口 裕之 上田 幹也 前田 高宏
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.195-199, 2018 (Released:2018-05-25)
参考文献数
8

症例1 は39 歳男性,作業中に突然の後頸部痛で発症した右椎骨動脈解離.約1 カ月間で疼痛・解離ともに軽快したが,6 カ月後に再度後頭部痛があり右椎骨動脈解離部が紡錘状に拡張しており,急激に増大していくため破裂予防のために親動脈閉塞術を行った.症例2 は48 歳男性.突然発症の左耳の奥の痛みあり,左椎骨動脈に紡錘状拡張が認められ解離性動脈瘤と診断し降圧治療を行った.1 度は疼痛が改善したが,左耳の奥の痛みが8 カ月にわたり断続的に繰り返され,徐々に動脈瘤の増大が認められたためステント併用動脈瘤塞栓術を行った.椎骨動脈解離に伴う疼痛が慢性期にも持続する場合は解離性動脈瘤の増大を示唆している可能性があり,厳重な経過観察を要すると思われた.
著者
宮原 牧子 井上 雅人 玉井 雄大 大野 博康 岡本 幸一郎 原 徹男
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.262-266, 2016

症例は33 歳女性,妊娠9 週3 日で突然の頭痛にてくも膜下出血を発症した.妊娠中ではあるが,産婦人科医師と連携し,遅滞なく通常通りCT,CTA,血管撮影を行った.急性水頭症を認め当初Grade5(H&K,WFNS)であったが,脳室ドレナージ施行後から意識レベルの改善を認めたため責任病変である左内頸動脈眼動脈分岐部の破裂脳動脈瘤に対し血管内治療を行った.術後経過良好で,妊娠も安定していたため中絶は行わず,第24 病日にリハビリテーションのため転院後,妊娠38週5 日で帝王切開術にて正常児を出産した.現在まで母児ともに経過は良好である.妊娠極初期の血管内治療については過去報告がなく,今回一連の治療後,良好な転帰を得たため報告する.
著者
渡部 真志 二宮 怜子 近藤 総一 鴨川 賢二 冨田 仁美 藤原 聡 奥田 文悟 岡本 憲省
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
2020

<p><b> 要旨:</b>症例は41 歳男性.習慣的に行っていた頸部回旋直後に後頸部痛を自覚した後,ふらつき,呂律困難,右半身の脱力が順に出現した.意識はJCS 1 で,右同名半盲,構音障害,右片麻痺,左上下肢の運動失調がみられた.頭部MRI,DWI で左小脳と左視床内側に急性期脳梗塞を認めた.頭頸部MRA ならびに造影CT にて右椎骨動脈解離による動脈原性塞栓症と診断した.脳血管撮影では左回旋位で右椎骨動脈の血流の途絶がみられた.撮影中,右頸部回旋時に後頸部痛を生じた.左椎骨動脈に狭窄性変化と右回旋位で血流の途絶を認めた.検査後から一過性の浮動感が出現した.翌日の頭部MRA にて新たに左椎骨動脈解離を認めたため,両側椎骨動脈解離によるbow hunter 症候群(BHS)と診断した.抗血小板剤内服と頸部硬性カラー装着にてBHS に関連する症状は速やかに改善した.頭蓋頸椎移行部における椎骨動脈解離を疑って脳血管撮影を行う際には,頸部回旋により新たな動脈解離を来す恐れがあることに最大限の注意を払うべきと考える.</p>
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 山根 文孝 栗田 浩樹 石原 正一郎 佐藤 章 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.98-105, 2011-01-25 (Released:2011-01-26)
参考文献数
25
被引用文献数
2

【目的】小脳出血急性期の臨床像と機能予後や転帰に及ぼす要因について検討した.【対象と方法】小脳出血45名(男性28,女性17)を対象に,初回評価時の神経症状に加え,嘔気・眩暈などの自覚症状,認知機能,嚥下機能,血腫量と退院時の日常生活活動,転帰先について検討した.なお,入院期間は平均24.6日であった.【結果】意識障害は11名に認めたが,いずれも血腫量が大きく,機能予後が不良で,自宅退院に至ったものはなかった.意識障害のない34名中,嘔気・眩暈を22名,四肢失調を19名,体幹失調を16名,嚥下障害を19名,構音障害を8名,認知機能障害を24名に認めた.自宅退院は12名で,日常生活活動が良好であると同時に認知機能と嚥下機能が保たれていた.【結語】急性期病院において,小脳出血の退院先を決定する要因には,意識障害や日常生活活動だけでなく,認知機能や嚥下機能も念頭におく必要がある.
著者
佐伯 覚 蜂須賀 明子 伊藤 英明 加藤 徳明 越智 光宏 松嶋 康之
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.411-416, 2019
被引用文献数
1

<p><b>要旨</b>:若年脳卒中患者の社会参加,特に復職は重要なリハビリテーションの目標であり,ノーマライゼイションの理念を具現化するものである.国際生活機能分類の普及に伴い,社会参加の重要性が再認識されている.また,政府が主導している「働き方改革」に関連した「治療と就労の両立支援」施策の一つとして,脳卒中の就労支援が進められている.しかし,脳卒中患者の高齢化・重度化,非正規雇用労働などの労働態様の変化は脳卒中患者の復職に多大な影響を与えており,若年脳卒中患者の復職率は過去20 年間,40%に留まっている.脳卒中患者の復職は医療だけでなく福祉分野とも関連し,職業リハビリテーションとの連携,さらには,復職予定先の企業等との調整など様々なレベルでの対応が必要であり,医療福祉連携を超える高次の連携が必要となる.</p>
著者
豊田 章宏
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.37-42, 2020
被引用文献数
2

<p><b>要旨</b>:わが国における脳卒中罹患労働者の復職率は30~50%であり,予測される機能回復に見合った数字には至っていない.就労支援を成功させる因子として,適切なアセスメントと患者自身の病状理解,復職を念頭に置いたリハビリテーションの実施,医療者の仕事に対する理解,職場との情報共有などが重要と考えられている.労働者健康安全機構では,平成26 年度から,患者に寄り添いながら適切な時期に必要な評価や情報提供を行う両立支援コーディネーターの養成を開始した.介入に同意した脳卒中罹患労働者に対して発症早期からの介入を行った結果,70%近い復職率が得られている.両立支援には職場側の理解や適切な配慮が必要であるが,罹患後の早期離職を防ぐためには,脳卒中診療に関与する医療者が急性期から関わることも重要である.</p>
著者
高橋 徹至 遠藤 乙音 古閑 寛
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.100-106, 2020 (Released:2020-03-25)
参考文献数
20

要旨:症例は75 歳,男性.X−1 年11 月,左上肢と両下肢の脱力を呈する脳梗塞で他院入院.退院後も症状再燃を繰り返した.クロピドグレル内服にて経過観察となるも両下肢脱力の進行を認めた.ビタミンB12 欠乏性多発神経炎の診断でビタミンB12 投与されたが症状進行.下肢遠位筋の筋力低下と深部腱反射消失,手袋靴下型の温痛覚障害を認め,女性化乳房,肝脾腫,下肢に色素沈着と浮腫を認めた.POEMS 症候群の疑いにてX 年9 月当院に精査入院.入院数日後に構音障害と左上下肢麻痺出現し,右中大脳動脈領域の梗塞と右中大脳動脈閉塞を認めた.血清VEGF 著明高値,神経伝導検査(以下,NCS)で脱髄および軸索障害の所見を認め,POEMS 症候群と診断した.本症例は当初主幹動脈狭窄を認めなかったが,POEMS 症候群の発症とともに閉塞に至った.POEMS 症候群とビタミンB12 欠乏,脳血管障害との関連を文献的考察含めて報告する.
著者
渡辺 光太郎 藤堂 謙一 奥野 龍禎 佐々木 勉 望月 秀樹 岡崎 周平 谷口 茉利子 柿ヶ野 藍子 北野 貴也 秀嶋 信 石倉 照之 中野 智仁 神野 隼輝
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
2019

<p>要旨:可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は稀ながら周産期脳卒中の原因として重要な疾患である.症例は37 歳の初産婦,妊娠40 週に緊急帝王切開で第一子を出産した.産褥3 日目に,頭痛,めまい,左手の使いにくさが出現し,当院に搬送された.頭部MRI で左小脳半球と橋に急性期脳梗塞,右前頭葉に皮質下出血を認めた.来院時のMRA では主幹動脈に異常を認めなかったが,第8 病日に脳底動脈・両側椎骨動脈に高度狭窄が新たに出現し,basi-parallel anatomical scanning(BPAS)および3 dementional-T1 weighted imaging(3D-T1WI)の所見から血管攣縮と考えられた.カルシウム拮抗薬で治療を行い,次第に狭窄は改善し,数カ月の経過で正常化した.本例では,MRA に加え,BPAS および3D-T1WI を経時的に撮影することにより,非侵襲的にRCVS の診断が可能であった.</p>
著者
山下 勝弘 柏木 史郎 加藤 祥一 伊藤 治英 亀田 秀樹
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.469-474, 1998

高血圧性脳内出血患者の長期予後と理学療法の現状について検討した.山口県の北部地域において1990年から1996年までの7年間に高血圧性被殻,視床出血に罹患した330人を対象とした.患者の平均年齢は66.2歳で,男女比は1.4:1であった.発症からデータ集計までの平均期間は3.8年で,長期予後はBarthelindex(BI:10~29点)で評価した.<BR>多変量解析では,長期予後は出血の大きさと理学療法の積極性に有意に相関した(p<0.05).被殻出血では小出血,中等大出血,大出血の80%,40%,11.1%が長期予後良好(BI:29点)であり,視床出血ではこれらの割合が,75%,51.6%,14.3%であった.一方,長期予後が不良(BI:10~28点)の患者では,理学療法を積極的に継続している患者は,わずかに22%であった.<BR>高血圧性脳内出血患者では,特に長期予後不良の患者で理学療法が積極的に行われておらず,患者の長期予後改善に向けて理学療法に対する積極的な取り組みが必要である.
著者
林 成人 武田 直也 藤田 勝三 森川 雅史
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.34-37, 2009 (Released:2009-02-24)
参考文献数
5
被引用文献数
4 1

急性期の脳幹梗塞巣が拡散強調画像(DWI)により検出されにくい理由として,病巣の小ささや脳幹の虚血耐性の強さなどが挙げられる.我々はDWI矢状断像を追加することで診断が可能だった2症例を経験した.症例1は69歳男性で,頭痛,呂律障害,左顔面の痺れを主訴に来院した.発症6時間後のDWI水平断像で左延髄外側に虚血性変化を疑ったがT2強調画像(T2WI)水平断像では有意な所見を認めず,DWI矢状断像を追加し梗塞巣を確定しえた.症例2は65歳男性で,呂律障害,左片麻痺を主訴に来院した.発症日のDWI水平断像では虚血性変化を認めず,2日後のDWI水平断像で橋下部右内側に淡い高信号を疑うもT2WI水平断像では有意な所見を認めなかった.DWI矢状断像を追加し梗塞巣を確定した.急性期脳幹梗塞巣のDWIによる検出では,水平断像のみでなく矢状断像など複数の断面で評価することが,視認性を改善し診断に有用である.
著者
太田 昭生 山縣 然太朗
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10774, (Released:2020-04-13)
参考文献数
9

要旨:【背景および目的】無料低額診療事業を利用して脳卒中治療を受けた患者を調査することで,貧困者の脳卒中の特徴を明らかにすることを目的とする.【方法】2010 年10 月~2018 年3 月に無料低額診療事業を活用して受診した113 人のうち,脳卒中の治療で回復期リハビリテーション目的に入院した患者を無低群,当該患者の次に入院してきて無料低額診療事業を利用しなかった脳卒中患者を対照群とした.【結果】無低群は27 人.無低群では収入の対生活保護率は64%,平均年齢は72.0 歳,男性は18 人,全入院期間は143.7 日だった.対照群は,平均年齢78.9 歳,男性14 人,全入院期間は95.1 日だった.【結論】貧困状況で生活している人たちは,非貧困者と比べ若年時に脳血管障害に罹患する危険性が高く,発症した際には入院期間が長期化する.
著者
藤岡 祐介 真野 智生 荒木 周 橋詰 淳 辻本 昌史 須賀 徳明 冨田 稔 安井 敬三 長谷川 康博 柳 務
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.15-22, 2009 (Released:2009-02-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

50歳以下で発症した若年性脳梗塞において,臨床特徴を検討した.対象は2002年1月から2006年12月までの5年間に当院に入院した急性期脳梗塞患者の連続2,080例である.このうち若年群は93例(4.5%)で,年齢は最低が15歳,平均は42.4歳であった.高血圧,糖尿病,心房細動を有する頻度,アテローム血栓性脳梗塞の割合はそれぞれ非若年群で有意に高かった.一方,喫煙の頻度,発症時に頭痛を伴う割合,動脈解離,血管炎をはじめとするその他の脳梗塞や原因不明の脳梗塞の割合は若年群で有意に高かった.退院時mRSは若年群で有意に低かった.発症後3時間以内の来院およびrt-PA使用の頻度は若年群と非若年群で有意差を認めなかった.若年の心原性脳塞栓症では非弁膜症性心房細動の割合は低く,何らかの先天性心疾患を有する割合が高かった.また,動脈硬化性脳梗塞は40歳を境に急増しており,動脈硬化性脳梗塞の若年化が示唆された.
著者
小林 祥泰 山口 修平 小出 博巳 木谷 光博 岡田 和悟
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.106-110, 1988-04-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
18

我々が以前より脳循環を追跡調査している健常老人66名 (男31名, 女35名, 平均75.6歳) を対象として133Xe吸入法による脳血流量, 知能, 心理的因子と毛髪中のマグネシウム, カルシウムおよび関連ミネラルの関係について検討した.毛髪中のミネラルの分析はICP法でおこなった.結果 : 1) 年齢, 血圧と毛髪中マグネシウム, および関連ミネラルとの間には, 相関は認めなかった.2) 全脳平均血流量と毛髪中マグネシウム, カルシウムは各々r=0.428, r=0.35と有意の相関を示した.また燐は負相関を示した.3) 言語性, 動作性知能およびSDSによるうつ状態度はこれら毛髪中ミネラルと相関を示さなかった.4) 毛髪中マグネシウム, カルシウムは男性で女性に比し有意に低値であった.またナトリウム, カリウムについても同様であった.5) 脳血流量は男性で有意に低値であったが, 知能については性差を認めなかった.
著者
前島 伸一郎 土肥 信之 梶原 敏夫 佐野 公俊 神野 哲夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.480-483, 1990-10-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

混合型超皮質性失語を呈した1例を報告し, 局所脳血流からみた責任病巣と発現機序について考察した.症例は67歳の右利き女性で, 左内頚動脈・前脈絡叢動脈分岐部の動脈瘤クリッピング術後, 右片麻痺と失語症のリハビリ目的で当科を受診した.初診時, 意識は清明で, 右顔面神経麻痺と右片麻痺を認め, 右半身の知覚鈍麻を認めた.言語学的には自発話に乏しく, 呼称や語の想起は著しく障害をうけていた.しかし復唱は良好で, 5~6語の短文でも可能であった.言語の聴覚的理解や文字の視覚的理解はともに単語レベルで障害をうけ, 書字は全く不可能であった.CTでは左前脈絡叢動脈領域に低吸収域を認めたほか, 左中前頭回皮質~皮質下にも低吸収域を認めた。123I-IMP SPECTでは左大脳半球全体に血流低下を認めるが, 言語野周囲の血流は比較的保たれていた.本症例は言語野が2ヵ所の病変によって周辺の大脳皮質から孤立した状態であると推定された.
著者
渡辺 正樹 浜田 健介 竹内 英之 真野 和夫 渡邉 英夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.393-399, 1998-08-25 (Released:2009-06-05)
参考文献数
20

視床内側部梗塞14例について,その成因と症候の関連をMRI, MR angiography所見も参考にして検討した.症候を起こすものは従来の報告通りMRIにおいて左側あるいは両側障害例であった.何らかの精神知的機能障害が恒常的にみられる例は14例中9例で,重症例で心原性塞栓が原因と考えられるものが多かった.精神知的機能障害軽症例,垂直眼球麻痺例,無症候例の中には低血圧や起立時血圧低下が発症の誘因と考えられる例も認められた.このような例ではMRIにて他領域に合併病変を認めず,MR angiography上でのWillis輪の形成不全(P1低形成)を伴う場合が多かった.視床内側部梗塞の成因は多彩で,治療法も大きく異なると考えられた.
著者
佐藤 雄一 田川 皓一 平田 温 長田 乾
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.263-268, 1985-06-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
17

一側視床前内側部の梗塞により, 急性発症のhypersomniaと記銘力障害を呈した2例を経験した.症例1 : 62歳, 女性, 右利き.hypersomniaと記銘力障害を認めた.CTscanにて, 非優位側視床の前内側部にX線低吸収域を認めた.症例2 : 68歳, 男性, 右利き.hypersomniaと知的能力の低下や記銘力障害などの精神機能の低下を認め, また, Horner症候群と右上肢の軽度の脱力および異常知覚を認めた.CTscanにて, 優位側視床の前内側部にX線低吸収域を認めた.2症例とも, hypersomniaは約2週間の経過で消失した.hypersomniaと記銘力障害の発現に関する視床前内側部の意義について検討し, 文献的考察を加えた.
著者
橋本 洋一郎 大谷 智子 平野 照之 平田 奈穂美 荒木 淑郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.80-86, 1991-04-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

Tuberothalamic artery領域の右視床梗塞を来した結核性髄膜炎の32歳男性例を報告した.発熱と頭痛で発症し, 経過中に失見当識, 了解不良や傾眠状態が出現した.CTではtuberothalamic artery領域の右視床に造影効果のない梗塞巣と考えられる低吸収域を認め, これが失見当識などの原因と考えられた.脳底槽は等吸収域を呈し著明な造影効果を呈した.MRIでは脳底部の血管はflow void phenomenonのため低信号域を呈したが, 脳底槽はT1強調画像で等信号域, T2強調画像では髄液より低い高信号域を呈し, 著明な造影効果を呈し, これがgranulomatous basal arachnoiditisの部位を示していると考えられた.結核性髄膜炎で急に意識障害や精神症状を来した場合には脳梗塞の合併を考慮する必要がある.
著者
藤盛 寿一 遠藤 俊毅 田澤 泰 中村 起也 渡辺 みか 冨永 悌二
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.495-500, 2011 (Released:2011-09-27)
参考文献数
10

脊髄出血にて発症した脊髄海綿状血管腫の2例を経験した.症例1は72歳の男性で左下肢近位筋の筋力低下,左第2~3腰髄(L)領域の感覚障害および左膝蓋腱反射の亢進を認めた.MRIにて第11胸椎(Th)レベル傍正中左側の海綿状血管腫および第9-10胸椎レベルの脊髄出血を認めた.39病日目に血管腫摘出術が施行され神経症状の回復は良好であった.症例2は65歳の女性で,上腕内側,側胸部,背部の体動時の痛みを左側優位に認めたが他覚的神経学的異常を認めなかった.MRIでは第1胸椎レベル傍正中左側の海綿状血管腫および第6頸椎(C)から第4胸椎(Th)レベルの脊髄出血を認めた.疼痛は半減したが残存した.他覚的異常に乏しいことから経過観察の上,再出血を認める場合には積極的に手術を検討する方針とした.脊髄海綿状血管腫は稀な疾患で,脊髄出血により急性発症する場合があり,個々の症例に応じた治療方針決定が重要となる.
著者
辻 裕丈 近藤 直英 山本 亜紀子 藤田 嘉子 西田 卓 鈴木 淳一郎 米田 厚子 宮崎 みどり 清水 由美子 安田 武司 伊藤 泰広
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.651-659, 2008 (Released:2008-10-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

急性期の脳卒中患者のトリアージと,特にt-PA療法の適応のある脳梗塞患者のトリアージを目的にして,救急隊と脳卒中プレホスピタルスケール(TOPSPIN:TOYOTA prehospital stroke scale for t-PA intravenous therapy-経静脈的t-PA療法のためのトヨタ脳卒中プレホスピタルスケール-)を導入した.今回,このTOPSPINに連動し,特に超急性期t-PA療法に対する院内体制の迅速化,標準化を計るため,(1)救急外来で脳卒中の鑑別と,特に脳梗塞ではt-PA療法の適否決定のための諸検査を実施するパス(TOPSPIN path),(2)ICUでt-PA療法を遂行するパス(TOPSPEED:TOYOTA path for stroke with t-PA therapy after emergency evaluation and decision-緊急評価と決定後のt-PA療法のためのトヨタ脳卒中パス-),(3)ICU/SUで後療法を行うパス(TOPSTAR Jr.:TOYOTA path for stroke treatment, activity and rehabilitation judged by reexaminations-再評価で決定された治療,活動度,リハビリテーションのためのトヨタ脳卒中パス-)からなる,電子パス診療システム(3 TOP system)を構築した. 2007年4月1日の3 TOP system導入後,96例がTOPSPINで搬送され,11例でt-PAが投与された.TOPSPINと,これに連動した3 TOP systemは,t-PA療法の迅速・確実な診療に有効である.