著者
和泉 雄一 青山 典生
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.374-377, 2014 (Released:2014-09-25)
参考文献数
11

要旨:歯周病は,歯肉,歯根膜,セメント質および歯槽骨で構成される歯周組織の破壊を伴う炎症性疾患である.日本人の約70%に何らかの歯周病の症状が認められている.従来,血液疾患,発育異常,代謝異常や感染症などの全身疾患が歯周組織の状態を悪化させると考えられていた.しかし近年,口腔と全身との関連性が科学的に追求されたことにより,歯周病が循環器疾患,糖尿病,呼吸器疾患,早産・低体重児出産などに深く関わっていることも報告されている.特に,歯周病患者は健康な人と比較して,冠動脈疾患による死亡,心筋梗塞,脳卒中のリスクが高いことが報告されている.歯周病により血中のCRP 増加やアテローム形成の亢進が認められていることから,これらが歯周病と脳卒中などの循環器疾患を結びつけている可能性がある.
著者
今泉 俊雄
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10354, (Released:2015-11-13)
参考文献数
85
被引用文献数
9 3

要旨:White matter lesion(WML)は,高血圧性のmicroangiopathy,amyloid angiopathy による脳灌流障害や脳血液関門の障害などが原因であり,進行性の病態である.最近WML の成因に関連する遺伝子のいくつかが同定され,複合的な成因が理解されつつある.多くの高齢者に点状のWML が見られ,軽度のWML は加齢現象と考えるのが適切かもしれない.しかしWML 進行例では,臨床的に問題を呈し,注意深い経過観察,関連する危険因子や疾患の治療が必要である.WML 進行例は,脳卒中(特に脳内出血,ラクナ梗塞)の発症率,再発率が有意に高く,WML は脳卒中発症の危険因子として重要である.しかし,脳内出血発症率の高いWML 進行例の抗血栓療法についての指針はなく,今後更なる検討が必要である.またWML は,アルツハイマー型認知症,脳血管性認知症,うつ,不定愁訴などに関連する.
著者
佐伯 覚 蜂須賀 明子 伊藤 英明 加藤 徳明 越智 光宏 松嶋 康之
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.411-416, 2019 (Released:2019-09-25)
参考文献数
36
被引用文献数
3 1

要旨:若年脳卒中患者の社会参加,特に復職は重要なリハビリテーションの目標であり,ノーマライゼイションの理念を具現化するものである.国際生活機能分類の普及に伴い,社会参加の重要性が再認識されている.また,政府が主導している「働き方改革」に関連した「治療と就労の両立支援」施策の一つとして,脳卒中の就労支援が進められている.しかし,脳卒中患者の高齢化・重度化,非正規雇用労働などの労働態様の変化は脳卒中患者の復職に多大な影響を与えており,若年脳卒中患者の復職率は過去20 年間,40%に留まっている.脳卒中患者の復職は医療だけでなく福祉分野とも関連し,職業リハビリテーションとの連携,さらには,復職予定先の企業等との調整など様々なレベルでの対応が必要であり,医療福祉連携を超える高次の連携が必要となる.
著者
尾原 知行 山本 康正 田中 瑛次郎 藤並 潤 森井 芙貴子 石井 亮太郎 小泉 崇 永金 義成
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.167-173, 2013-05-20 (Released:2013-05-24)
参考文献数
14

要旨:【背景/目的】脳静脈血栓症は近年日常診療で遭遇する機会が増えている.脳静脈血栓症自験例の臨床像,急性期画像所見につき検討する.【方法】対象は2008年4月~2011年3月に当院に入院した脳静脈血栓症10例(平均49歳,男性5例/女性5例)である.【結果】初診時臨床症状は,7例で局所神経症状(うち5例は軽度の運動麻痺)を認め,3例は頭痛のみであった.4例はけいれん発作を伴った.閉塞静脈洞は上矢状洞6例,横静脈洞3例,直静脈洞1例で,初診時脳出血を4例,静脈梗塞を3例に認めた.9例で頭部MRI T2*強調画像にて閉塞静脈洞が低信号で強調された.全例抗凝固療法で治療し,8例は退院時modified Rankin Scale 0~1であった.【結論】自験10症例は比較的軽症で予後良好な例が多かった.T2*強調画像を含むMRI検査による早期診断が臨床経過に影響を与えている可能性が考えられた.
著者
白石 渉
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.452-456, 2021 (Released:2021-09-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

要旨:症例は48歳女性.母親と母方祖母に難聴と糖尿病がある.5年前に糖尿病を指摘された.来院6カ月前からメトホルミンの導入を開始され,その後増量された.この頃から難聴を自覚していた.X日,突然発症の運動性失語で前医に緊急入院し,ヘルペス脳炎の診断で加療され X+15日に退院となった.その翌日に運動性失語と右同名半盲,右半側空間無視が出現し,当院に入院した.頭部MRIで,左の側頭葉,後頭葉,頭頂葉病変を認め,同部位は MR spectroscopy で乳酸ピークを認めた.血清と髄液の乳酸,ピルビン酸値とL/P比の上昇も認め,ミトコンドリア病と診断した.本症例は,メトホルミン導入後に難聴,脳卒中様発作を生じたが,メトホルミンは乳酸上昇を介してミトコンドリア病を悪化させる.難聴,抗体陰性の1型糖尿病,低身長などが母系遺伝する糖尿病患者では,ミトコンドリア病の可能性を考え,乳酸値の測定等を検討することが望ましい.
著者
大平 雅之 桑原 博道 小原 克之
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.10-15, 2014 (Released:2014-01-25)
参考文献数
8
被引用文献数
3

要旨:近年,脳卒中に関連する診療ガイドラインが公開され,医療現場において利用されている.「脳卒中治療診療ガイドライン」が判決文中引用されている裁判例のうち判決文全文が入手可能で脳卒中の診療が争点となった裁判例について検討した.対象は7 事例(8 裁判例)あり,判決の理由中ガイドラインが過失判断において引用された場合,おおむねガイドライン通りの認定がなされていた.特にガイドライン中,エビデンスレベルが引用されている判決が目立った.民事訴訟はその制度的特性から必ずしも客観的な医学的妥当性は担保されていないものの,民事訴訟での医学的妥当性を必要最低限担保するためにガイドラインが寄与しうる余地がある.
著者
田中 愛実 三間 洋平 安部 裕子 礒田 健太郎 井村 隼 大原 真理子 上田 直子 池田 充 庄田 武司 森川 雅史 大坪 亮一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.429-434, 2020 (Released:2020-09-25)
参考文献数
15

要旨:症例は21 歳女性.入院1 週間前より発熱,頭痛,腹痛,血便がみられるようになった.入院当日に左不全片麻痺を来し,来院した.入院時検査で血小板減少,凝固線溶系の異常を認め,画像検査で多発性出血性脳梗塞と脳静脈,上腸間膜静脈,右大腿静脈の血栓症を認めた.劇症型抗リン脂質抗体症候群を疑い,ステロイドパルス療法とヘパリンによる抗凝固療法を開始した.入院3日目に右前頭葉および側頭葉の血腫増大を認めたため緊急開頭術を行った.抗リン脂質抗体陽性が判明し,劇症型抗リン脂質抗体症候群と診断した.血漿交換,リツキシマブ,シクロホスファミド静注療法を追加した.その後疾患活動性は低下し,プレドニゾロンとワルファリンによる維持療法に移行し再燃なく経過した.1 週間以内に複数臓器に静脈血栓症を来し,急激に重篤化する症例では,劇症型抗リン脂質抗体症候群を念頭に置き,迅速な精査加療を行う必要がある.
著者
高野 勝弘 尾崎 由基男
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.953-959, 2008 (Released:2009-01-13)
参考文献数
10
被引用文献数
5 1

To monitor the effectiveness of anti-platelet therapy should be important since anti-platelet drug "resistance" or non-compliance can be evaluated clearly by it. However, the anti-platelet therapy monitoring is not widely practiced, probably due to poorly-standardized platelet function test. Among the anti-platelet drug resistance, aspirin resistance is one of the most important topics in clinical thrombosis and hemostasis field. Also, clopidogrel resistance recently became a big issue. Monitoring of anti-platelet therapy is needed for further understanding of these anti-platelet drug resistances.
著者
白石 渉
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10873, (Released:2021-05-14)
参考文献数
16
被引用文献数
1

要旨:症例は48歳女性.母親と母方祖母に難聴と糖尿病がある.5年前に糖尿病を指摘された.来院6カ月前からメトホルミンの導入を開始され,その後増量された.この頃から難聴を自覚していた.X日,突然発症の運動性失語で前医に緊急入院し,ヘルペス脳炎の診断で加療され X+15日に退院となった.その翌日に運動性失語と右同名半盲,右半側空間無視が出現し,当院に入院した.頭部MRIで,左の側頭葉,後頭葉,頭頂葉病変を認め,同部位は MR spectroscopy で乳酸ピークを認めた.血清と髄液の乳酸,ピルビン酸値とL/P比の上昇も認め,ミトコンドリア病と診断した.本症例は,メトホルミン導入後に難聴,脳卒中様発作を生じたが,メトホルミンは乳酸上昇を介してミトコンドリア病を悪化させる.難聴,抗体陰性の1型糖尿病,低身長などが母系遺伝する糖尿病患者では,ミトコンドリア病の可能性を考え,乳酸値の測定等を検討することが望ましい.
著者
西本 祥大 福田 仁 福井 直樹 上羽 佑亮 濱田 史泰 樋口 眞也 帆足 裕 細川 雄慎 古谷 博和 上羽 哲也
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.94-99, 2020 (Released:2020-03-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

要旨:症例は16 歳女性で,両側もやもや病の保存的加療中に過眠症発作を来した.過眠発作の形式と脳波所見はナルコレプシーに類似していたが,診断基準からはナルコレプシーの診断に至らず,中枢性過眠症と診断した.右大脳半球に血行再建術を行ったところ,過眠発作が消失したため,本症例はもやもや病による症候性過眠症と診断した.脳血管障害による過眠症は稀ではあるが,もやもや病と中枢性過眠症とでは血行動態に類似する点もあり,もやもや病による血行力学的脳虚血が中枢性過眠症を引き起こす可能性がある.
著者
植田 明彦 寺崎 修司 永沼 雅基 松浦 豊 橋本 洋一郎 平野 照之 内野 誠
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.461-464, 2004-09-25 (Released:2009-06-05)
参考文献数
10

症例は30歳男性.3年前よりソファーに寝そべり肘掛けから頭部を垂らし頸部を後屈させて,ドライヤーで髪を乾かす習慣があった.2002年12月2日,この姿勢で頸部を左に回旋させたところ,急に回転性のめまいが出現したため,当院を受診した.来院時,右注視方向性眼振,構音障害,顔面を含む右半身の温痛覚低下を認め,左延髄外側症候群を呈していた.MRIT2強調画像で左延髄外側に高信号域を認めた.左椎骨動脈V3部にMRIでinitimal flap,intramural hematomaを認め,脳血管造影では,string signを認めたため,椎骨動脈解離と診断した.近年,美容院での洗髪の際に頸部を後屈させた姿勢で発症する美容院卒中症候群(beauty parlor stroke syndrome)が注目されているが,本症例も同様の機序で発症したと考えられた.
著者
本田 和也 森塚 倫也 伊藤 健大 松尾 彩香 日宇 健 川原 一郎 小野 智憲 原口 渉 牛島 隆二郎 堤 圭介
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10802, (Released:2020-08-31)
参考文献数
40

要旨:日本における脳卒中診療は,患者数増加・高齢化等,多様な問題に直面しており,専門医不足に伴う過重労働や燃え尽き症候群が危惧されている.医師以外の人的資源を有効活用した診療システムが必要であり,高度実践看護の能力を持つ nurse practitioner(NP)はこの診療分野に貢献し得る.NPは医師の指導・協働下に,専門性の高い特定行為や医師業務の代行が可能であり,脳卒中チーム内の多職種ならびに患者・家族間をコーディネートする中核的存在としても活躍している.米国ではすでに半世紀前より,医師の過重労働を予防・緩和する解決策のひとつとして,NP制度が多方面の医療現場で積極的に導入されてきた.NPの能力・技量や果たし得る業務の可能性は,未だ医師の間で十分に認識されている状況ではない.日本版NPは,今後の本邦脳卒中診療システムを改革する医療職として期待される存在である.
著者
水野 正彦
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.176-183, 1996-06-25 (Released:2009-09-16)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

くも膜下出血の患者が連続して搬入されることは多くの脳外科医たちが経験している.この臨床的印象を確かめるため, 昭和伊南総合病院在任中 (1972~1991) に扱った患者のうち脳動脈瘤の破裂と出血源不明な症例で, さらに発症日が明らかな632人について一人の患者が発生してから次の患者が発生するまでの間隔を調べたところ, 同日発症 (Day0) 31例, 翌日発症 (Day1) 163例などDay6までに検討例の55.1%が発症していた.これは平均発症11日に1例とは明らかな差が認められ, 経験が数字的に裏付けられた.個々の発症状況をみると, 前後に長期間の空白がある孤発型と同日ないしは数日のうちに複数の患者がばたばたと続いて発症する群発型とが明らかであったので, それぞれについて気圧変動との関係について検討した.今回は気圧の日内変動のデータを全期間にわたって得ることが出来なかったので, 一日の平均気圧を取り上げた.得られた結果は以下の通りであった.1.くも膜下出血は群発する傾向にあった.2.発症当日の気圧の絶対値は関連性がなかった.3.発症前の気圧変動の絶対値も関連しなかった.4.発症前の気圧変動のパターンにも特徴的な変化を証明できなかった.すなわち, 今回の検討では, くも膜下出血と気圧変動の間には一定の関係が得られなかった.
著者
足立 智英 小林 祥泰 山下 一也 岡田 和悟 恒松 徳五郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.495-498, 1992-10-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
10

視床出血は片麻痺, 意識障害, 知覚障害等の症状にて発症することが多い.いわゆる視床症候群では, その一症状として小脳性と考えられる運動失調を呈することが知られているが, 他の神経症状を伴っていることが多く, 運動失調のみを呈することは極めて稀であるとされている.今回我々は, 運動失調を主徴とし, CT上左視床外側に限局した視床出血を認めた例を経験した.視床出血で, 運動失調を主徴とした症例は, 過去にも自験例を含めて4例の報告しかなく, いずれの例も視床外側部に一致した出血巣を認めている.本例は, 運動失調を主徴とする場合に小脳のみならず視床出血の可能性を考える必要があることを示しており, 病巣の局在診断上注意を要する症例と考えられたので報告する.
著者
小松本 悟 大庫 秀樹 五十棲 一男 横塚 仁 奈良 昌治
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.236-240, 1997-06-25 (Released:2009-09-16)
参考文献数
11

症例は73歳男性で, テレビを見ていたとき突然テレビの画面の色が白黒になった.その後も色彩が判断できず, 視野に映るものは白黒の濃淡で識別していた.相貌失認, 地誌的失見当, 着衣失行等は認めず, 視力は保たれていたが, 軽度の右同名半盲を認めた。色覚検査では以下の如くであった.物体の識別, 認知はすべて白と黒の濃淡でなされるため明度の配列は正確であった.色の命名は黒と白は可能で, 赤は茶色, 黄色は白ということが多く, 他の色は白と黒の濃淡でのみ表現した.頭部MRIでは, 両側後頭葉底面に脳回に沿った出血性梗塞を認め大脳性色覚障害の病巣を考える上で示唆に富む症例と思われた.
著者
静 雅彦 長田 乾 柚木 和太 荒木 五郎 水上 公宏
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.255-261, 1980-09-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
12
被引用文献数
3 3

CTによって視床出血と診断した71例の神経症状, 特に視床出血に特徴的とされている眼症状と血腫の拡がりとの関連を明らかにした.さらに予後との関連についても検討を加えた.1) 脳出血のうち視床出血は35, 4%であった.2) 血腫の大きさによりA群からD群の4群に分け, さらに血腫の拡がりにより脳室内出血のない限局型, 脳室内出血少量型, 脳室内出血多量型の3型に分類した.3) 視床出血の片麻痺で特徴的なことは, 手指の麻痺が軽度である視床不全片麻痺thalamic hemiparesisを呈することである.4) 瞳孔は縮瞳傾向を示し, 2.5mm以下の大きさのものが大多数であった.脳室内出血のある症例では瞳孔不同, 内下方視, 対光反応消失が高頻度にみられる.5) 予後不良の徴候として意識障害の外に4.0cm以上の血腫, 脳室内出血多量, 病巣側の瞳孔が大きい瞳孔不同, 共同偏視, 開散外方視があげられる.computed tomography (CT) の出現により,高血圧性脳出血 (脳出血) の部位および,その拡がりを正確に診断できるようになった.したがって,これまで剖検所見に基づいて行われてきた出血の部位別頻度や神経症状の解析は臨床例を対象とした場合とは大きく異なることも考えられる.また脳出血の予後についても正確に判断し得るようになり,従来とはかなり異なった成績が得られている.本報告ではCTによって視床出血と診断した症例の神経症状,特に視床出血に特徴的とされている眼症状と血腫の拡がりとの関連を明らかにする.さらに予後との関連についても検討を加えた.
著者
大櫛 陽一 小林 祥泰
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.943-947, 2008 (Released:2009-01-13)
参考文献数
12

1. Introduction Cost of antihypertensive therapy has increased constantly. It accounts 7.8% in total cost of medical treatments in japan. Cost of antihypertension drugs also accounts 12.5% in all kinds of medical drugs. Especially, angiotensin receptor blocker (ARB) is discussed to be set cheaper. We verified the performance of antihypertensive therapy with our cohort study. 2. Methods We performed (1) cohort study to compare blood pressure levels and total disease's mortality in general population, (2) calculated hazard rates of antihypertensive therapy in general population, and (3) odds ratio of hypertension and antihypertensive therapy between general population and patients with stroke. 3. Results The total mortality were in lowest level until SBP/DBP of 160/100 mmHg. The hazard rate in persons who had cure of hypertension and blood pressure more than 180/110 mmHg at the baseline was increased five times than that in persons who did not have the cure. Hypertension did not show risk of stroke for older people over 60 years. Hypertensive therapy was risk of stroke for younger and elder people. 4. Conclusion Severe antihypertensive therapy will cause increase of total mortality and incidence of stroke. The target of the therapy should be restricted to people who have hypertension over 160/100 mmHg without atrial fibrillation. We should not decrease acutely blood pressure beyond 20 mmHg by drugs.
著者
加藤 宏一 比嘉 隆 中野 紘 野村 俊介 中川 将徳 門山 茂 氏家 弘 寺本 明
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.185-189, 2018 (Released:2018-05-25)
参考文献数
17

出血発症の椎骨動脈解離(vertebral artery dissection: VAD)において,前脊髄動脈(anterior spinal artery: ASA)が解離側VA から2 本分岐しY 字型にfusion している症例を経験したので報告する.症例は43 歳男性.くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage: SAH)で発症した破裂VAD で,解離部から1本,解離部より末梢の正常部位から1 本ASA が分岐し,fusion 後に下行していた.マイクロカテーテルを3 本使用しASA を温存しVAD のinternal trapping を行った.片側VA から2 本のASA が分岐しfusion するタイプの血管走行は今まで報告がなく本症例が初めてである.ASA の起始部にはvariationがあり,VA union 近くの塞栓術では脳幹への穿通枝とともにASA 分岐の詳細な観察が必要である.
著者
安藤 宏明 丹羽 淳一 泉 雅之 中尾 直樹 道勇 学
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10684, (Released:2019-08-30)
参考文献数
9

要旨:72 歳女性.左眼痛・複視を主訴に受診し,CT で左篩骨洞後部に軟部影を認め,副鼻腔炎の診断で篩骨洞開放術と抗菌薬・ステロイド投与で治療され改善した.その後,症状が再燃し,抗菌薬・ステロイドの投与で改善する経過を繰り返しながら徐々に増悪し,眼窩先端症候群を呈した.ステロイドへの反応性から,多発血管炎性肉芽腫性症を念頭にシクロフォスファミドを導入したが改善せず,さらに脳梗塞を発症した.この時点で血清β-D グルカンと血清・髄液のアスペルギルス抗原の上昇を認め,侵襲性アスペルギルス症と診断したが,次々に脳梗塞が続発し死亡した.経過中に眼窩先端部病変に対し2 回経副鼻腔的生検を行ったがアスペルギルスは検出されなかった.副鼻腔炎から眼窩先端症候群を呈し侵襲性アスペルギルス症が除外できないときは,ステロイドの投与で一時的な改善を認めたとしても,抗真菌薬投与を開始しながら繰り返し生検を行うなど慎重な対応が肝要である.
著者
井上 智貴 酒向 正春 石原 健
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.188-196, 2009 (Released:2009-06-30)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

【目的】回復期リハビリテーション期に脳卒中を再発し急性期病院へ転院となった症例の特徴を検討する.【対象と方法】対象は2004∼2006年に当院で入院治療した脳卒中1,538例(脳梗塞917例,脳出血621例)で,脳卒中を再発し急性期転院となった20例である.原疾患に基づき分類し,再発病型,治療,病態,発症からの期間,性別を検討した.【結果】再発20例は男性8名,女性12名,平均年齢70.6±14.1歳,平均在院日数49.2±35.3日(4∼111)であった.脳梗塞17例の再発は脳梗塞14例,脳出血3例であり,心原性脳塞栓症11例の再発は9例が塞栓症(PT-INR<1.6:4例;ワーファリン未使用:4例PT-INR1.77:1例),2例が脳出血(抗血小板剤使用:PT-INR1.78±0.45)であった.アテローム血栓性脳梗塞5例の再発は4例がアテローム血栓性脳梗塞であり,1例が高血圧性脳出血であった.ラクナ梗塞1例の再発は高血圧性脳出血であった.一方,脳出血3例の再発は2例が高血圧性脳出血であり,1例がアミロイドアンギオパチィーであった.【考察】回復期リハビリテーション期における脳梗塞と脳出血の再発率はそれぞれ1.7%と0.5%であった.心原性脳塞栓症再発例はPT-INR管理不良が主であり,回復期入院直後に再発する症例もあり,正確な病型診断の上で早期にPT-INR 1.6∼2.6での管理が必要である.一方,脳梗塞からの脳出血再発は抗血小板剤併用に限られ,血圧管理に注意を要する.アテローム血栓性脳梗塞の再発は外科的治療適応症例であり,回復期前の早期外科的治療の必要性が示唆される.脳梗塞からの脳出血例,および脳出血再発例ともに通常の収縮期血圧は130 mmHg以下で,週1回140 mmHgを超える程度であり,脳出血の再発予防には厳密な血圧管理が必要である.