著者
横尾 俊成
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.65-79, 2019-06-30 (Released:2019-07-10)
参考文献数
16

本稿は,渋谷区の「同性パートナーシップ条例」から波及した札幌市の「札幌市パートナーシップ宣誓制度」を事例に,その導入過程における「フレーム伝播」と呼ぶべき現象を捉え,現代の日本において,地方自治体の新政策の波及にSNSを用いた社会運動がどのような影響を持ち得るのかを実証的に分析するものである。札幌市の制度の特徴は,首長からの発案ではなく,社会運動からの提案の結果つくられた点にある。札幌市でみられた社会運動は,組織による資源動員,さらにSNSを活用した「フレーム増幅」と「フレームブリッジ」の組み合わせからなる「フレーム伝播」を経て,市長や職員,議員の判断に影響を与えた。また,世田谷区での運動のキーパーソンは,制度の波及を意識した区議会議員,札幌市のキーパーソンは,渋谷区や世田谷区の事例に学び,行政にアプローチしたLGBT当事者であり,どちらもSNSの影響力を意識していた。新政策の波及に住民による運動が影響を与えた背景には,SNSやそれが生み出すネットワークによって,住民が多くの人の共感を生み出す発信力と受信力を持ったことが大きい。人々は,投稿によって社会的な認知をつくり出し,行政などに対して多数の賛同者の姿を見せられるようになったのである。
著者
遠藤 薫
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.1-18, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
40

20世紀後半に始まった「情報社会」は,21世紀に入って,より高度なレベルに達した。現代では,単に高機能のコンピュータおよびそのネットワークによって社会が効率化されるというだけでなく,人工知能(AI)技術や,世界のあらゆるモノが常時相互にネット接続されるIoT (Internet of Things)技術が,すでに深くわれわれの生活に浸透している。このような状況の中で,いま注目されている学術領域が,社会情報学とも密接に関係する「計算社会科学(Computational Social Science)」である。計算社会科学とは,張り巡らされたデジタル・ネットワークを介して獲得される大規模社会データを,先端的計算科学によって分析し,これまで不可能であったような複雑な人間行動や社会現象の定量的・理論的分析を可能にしようとするものである。この方法論によって,近年社会問題化している,社会の分断,社会関係資本の弱体化,不寛容化など,個人的感情や社会規範,世論などの形成過程の解明に新たな可能性を切り開くことが期待される。その一方で,社会規範を逸脱する目的にこのような手法が応用されれば,かえって社会監視を密にしたり,情報操作を巧妙化したりする具になり,先に挙げた社会の分断などの問題を再帰的に拡大することも起こりうる。本稿では,計算社会科学をキーワードとして,ポスト・ヒューマンの時代を射程に入れつつ,社会を解明する具としての科学と,社会の動態とが入れ子状になった今日のAI/IoT社会の規範問題について考察する。
著者
日高 真人 松田 裕貴 諏訪 博彦 多屋 優人 安本 慶一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.23-36, 2021-12-31 (Released:2022-01-25)
参考文献数
36

スマートツーリズムは,世界的に注目を集めている。その構成要素の一つとして,ユーザの観光履歴や嗜好に基づく推薦システムが多く提案されている。一方で,マーケティングの分野では,近年,パーソナリティや動機などの心理的要素に着目した推薦の研究がなされているが,観光分野では少ない。そこで,本論文では,どのような特性のユーザにどのような推薦をすべきかを明らかにするために,観光客のパーソナリティに着目し観光行動との関係性を分析する。具体的には,「観光客のパーソナリティの違いによって観光行動(観光行動エリア・観光行動カテゴリ)が異なるか」について検証を行う。検証のために,1,000人に京都観光を想定したアンケート調査を実施している。検証の結果,観光客のパーソナリティの違いによって観光行動が異なることを確認している。具体的には,外向性が低い観光客は清水寺などの人気のある観光エリアに行きやすいなど,を明らかにしている。また,その結果に基づいて,外向性が低い観光客に対しては観光スポットの人気度を示したり,他の観光客からのレビューを表示したりするなど,パーソナリティに合わせた観光推薦について考察している。
著者
藤代 裕之
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.143-157, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
24

本研究は,2018年に行われた沖縄県知事選挙に関するフェイクニュース検証記事を事例に,地方紙である沖縄タイムスのニュース制作過程を,地方紙のニュースバリューである「地域性」,「取材先」,「社内」,「同業他社」をインターネットメディアとの関係性を考慮に入れながら明らかにしたものである。3人の記者の聞き取り調査から,フェイクニュースを取材することで,これまでは異なると考えられていた既存メディアとインターネットメディアのニュースバリューが重なり,インターネットメディアであるバズフィード日本版が「同業他社」として位置づけられたことが分かった。これにより,候補者間で偏りが生じないよう報道するという記者が捉えていた選挙報道のニュース制作過程の公平性の「原則」が揺らぐことになった。また,地理的環境に左右されないインターネットメディアにより,地方紙が重視するニュースバリュー「地域性」に二重性が生じた。これらの変化が,これまでの地方紙のニュースバリューで取材を進める記者に戸惑いを生むことになった。選挙時のフェイクニュース検証記事における課題として,公平性についての議論が必要である。本研究の調査対象者は限られており,フェイクニュース検証記事の制作過程を一般化することは難しいが,フェイクニュース検証というソーシャルメディア時代の新たなニュース制作過程を明らかにしたという点で意義がある。
著者
澤岡 詩野
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.1-11, 2022-03-31 (Released:2022-04-20)
参考文献数
24

2020年4月に発出された1回目の緊急事態宣言以来,接触の機会が制限される生活が一年以上も続いている。特に社会関係が元の職場や学生時代を介したつきあいに限定されがちな都市部の高齢男性においては,遠方に住むことの多い他者たちと会う機会が失われた結果,高齢女性よりも深刻な影響を受けていることが予測される。本稿では,都市部の企業退職した高齢男性を対象に,社会生活のなかでのインターネット受容プロセスを明らかにしていく。調査対象は,新型コロナウィルスの感染拡大前からインターネットを使ってきた,東京都と神奈川県在住の70代前半~80代後半の企業退職した男性8人である。2020年6月25日~7月8日に,半構造化インタビューを行った。研究協力者は,コロナ禍の生活が長期化するなかで,【インターネットの限界】や直接に顔をあわせることの良さを再確認しつつも,インターネット上の【使い慣れた手段の掘り起こし】や【新しい手段を試行錯誤】して集いを代替しょうとする動きが加速していた。ただし,社会生活の全てを一つの手段で代替していたわけではなく,【課題に応じた手段の取捨選択】が行われていた。コロナ禍を通じ,交流や社会活動の手段としてのインターネットの可能性に気付いた高齢者は少なくないことが考えられる。今後は,使い方の多様性やこれらの変化を前提にした孤立化の抑止や働きかけのあり方を考えていくことが求められている。
著者
岡野 一郎
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.37-51, 2016 (Released:2017-02-03)
参考文献数
26

本稿の目的は, 情報化と呼ばれる現象を, 「情報の消費化」及び「情報の個人化」という観点から捉え直すことである。Websterが批判しているように, 情報化という要因によって社会に何か質的な変化が生じたことを示すのは困難であるし, そもそもBellらの言う物質中心の社会から情報中心の社会へという変化自体が疑わしい。むしろ検討するべきなのは, 情報に関して何が変化したのかである。本稿ではそのような変化として, 「情報の消費化」及び「情報の個人化」を検討する。まず, 情報の消費化とは, 資本主義市場がますます情報関連に広がっていくことを指す。製造業中心からサービス産業中心の社会への移行は, 市場が覆う生活の範囲の拡大として理解できる。しかし, 情報化と見える現象のすべてが「情報の消費化」で説明できるわけではない。Castellsらの言う「ネットワークされた個人主義」は, 「ネットワークの個人化」ないし「情報の個人化」として捉えることができる。Beckらは個人化を, リスク管理の責任がますます個人に課せられるようになる現象として描き出している。情報という観点からは, これは期待効用の最大化を目指すゲーム理論的人間観となる。これは「情報の消費化」と「情報の個人化」が重なることで生じたと言えるが, 進化ゲームの知見は, 私たちがゲーム理論的人間観になじまないことを示している。Beckらの示唆するシステム理論的観点からすれば, 私たちは市場のみに巻き込まれるのではなく, 多元的自己を持った存在として, 個人化の時代を生きていく必要がある。
著者
藤代 裕之
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.15-28, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ファクトチェックは,2016年のアメリカ大統領選挙をきっかけに世界的に拡大しているが,党派的な偏りや人々に適切な情報を届ける難しさといった課題が指摘されている。国内では,政府がフェイクニュース対策のためファクトチェック推進を求めているが,課題に関する議論は置き去りとなっている。本研究では,2018年に行われた沖縄県知事選挙を対象に,地元新聞社が行ったファクトチェックに対するソーシャルメディアの反応を定性的に分析することで課題を明らかにする。その結果,一部のファクトチェック記事が党派的な反応を引き起こし,政党関係者により対立候補の攻撃に利用されていた。ファクトチェック記事を紹介するツイートとフェイクツイートの反応を比較したところ,党派的な分断が存在することが明らかになった。党派的な反応を引き起こす要因は,ファクトチェックの国際基準違反とファクトチェックとうわさ検証の区分の曖昧さにあった。ファクトチェックにおけるジャーナリズムの役割は,有権者に判断材料を提供することにある。その実現のためには,ファクトチェックという言葉を整理すること,確認・検証する対象を分かりやすく有権者に提示して透明性を高めること,ファクトチェックの取り組みが中立・公正であることを有権者が確認できる仕組みの導入が必要である。
著者
木下 浩一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.125-141, 2019

<p>情報格差が拡大するなか,手軽に情報が摂取できる地上波テレビは,情報弱者にとって重要性を増している。現在,日本の地上波テレビは,大量のソフトニュースで編成されている。例えば日本テレビは,月曜から木曜の朝4時から夜7時の15時間のうち,14時間35分をソフトニュースで編成している。日本におけるソフトニュースの嚆矢は,1964年に日本教育テレビ(NET,現在のテレビ朝日)で放送が開始された《木島則夫モーニング・ショー》であるとされる。1960年代のNETは,ニュースショーというジャンルを牽引する存在であった。</p><p>本稿は,1960年代のNETという送り手を事例に,送り手がどのような意志のもとニュースショーという形式を決定していったのかを,当時の社会状況などを含めて史的に分析した。この分析から,①ニュースショーの原型は,どのような形式の番組であったのか。②ニュースショーという新しい番組形式をもたらした要因や主体は何だったのかを明らかにした。</p><p>結論は次の通りである。①内容はコーナーなどによって細部化され,教育的な内容も娯楽化されて取り込まれた。帯の生番組という編成形式は不変であり,細分化された内容は視聴率によって迅速に見直された。送り手内部では,内容と作り手が分離され,内容の見直しの自由度が向上した。②NETが商業教育局であったことが,大きな要因のひとつであった。NETにおけるニュースショーという形式は,ラジオの経験者と雑誌編集の経験者という主体によってもたらされた。NETが教育局であったために,番組種別上の「教育」と「報道」の混交が生じ,さらに「娯楽」の要素も付加されたことが,付随的に明らかになった。</p>
著者
山口 達男
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.55-70, 2021-02-28 (Released:2021-03-16)
参考文献数
24

本稿は,Z. BaumanがSNSやインターネットへのアップロードを「告白」として捉え,それらが日常的に行なわれている現代社会を「告白社会」と評したことに対して,批判的に検討する試みである。その際にまずM. Foucaultの議論を参照し,4~5世紀の修道院で行なわれていた「エグザコレウシス」や,中世以降のキリスト教における「告解」の特徴を整理することで,キリスト教的告白には「権力関係」「言表行為」「文脈依存」「秘密主義」という四つの特徴があることを明らかにした。次に,非キリスト教的な在り方を探るため,日本近代文学で描かれてきた告白についても言及した。そこでもやはり「権力関係」「言表行為」という特徴を見出すことができた。他方,インターネットをコミュニケーションの技術的な基盤としている現代社会にとって,こうした特徴はすべて無効化されてしまう。「ネットワーク」の特性として「平面化」「データ化」「脱文脈化」「透明化」を挙げることができるからだ。つまり,ネットワークの特性は告白の特徴を無化してしまうのである。したがって,ネットワーク社会の現代では,SNSやインターネット上で告白するのは不可能な営みと指摘できる。むしろ,ネットワークの特性から窺えるのは,われわれのあらゆる情報がインターネット上に〈露出〉していってしまう状況である。すなわち,われわれはインターネットに向けて何かを告白しているのではなく,ネットワークの「運動」によってわれわれの営みが露出させられているのだ。このことを踏まえると,Baumanが評したのとは異なり,現代社会は「告白社会」ではなく〈露出化社会〉と称すべきだと言い得る。
著者
吉見 憲二 上田 祥二 針尾 大嗣
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.97-113, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
16

スマートフォンやソーシャルメディアの普及を背景に,SNS等を通じた児童の被害が増加しており,青少年を取り巻く情報環境は大きなリスクと隣り合わせになっている。本研究ではその中でも近年深刻な社会病理となっている「売買春」に着目し,Twitterにおける問題投稿に付帯されるハッシュタグの特徴について計量テキスト分析の手法を用いて分析した。結果より,登場頻度の高いハッシュタグについて「エリア示唆」「援助(間接的表現)」「援助(直接的表現)」「裏アカウント示唆」「学生示唆」「性描写」「その他」の7つに分類し,その中でも地域名を明示する「エリア示唆」と売買春を間接的に示唆する「援助(間接的表現)」の共起関係が強いことが明らかとなった。こうした知見はサイバー補導における効率的な事前検知につながることが期待できる。
著者
河島 茂生
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-14, 2019-06-30 (Released:2019-07-10)
参考文献数
18

本論文は,AIやロボットが社会に普及している状況下において,また複数のAIが通信ネットワークにおいて接続していく状況下において,いかに倫理的責任の帰属を位置づけるかを検討している。ネオ・サイバネティクスの理論に依拠しつつ,EU議会における電子人間の提言への懸念を示し,AIネットワーク環境下の集合的責任ともいうべき考え方を支持した。電子人間確立の提案は,オートポイエティック・システムでないものに人格という位置を与えることであり,それは,実情に合わないのに加えて倫理的問題を引き起こしかねない。電子人間を制度的に確立しなくとも,集合的責任の制度構築により補償は可能である。近年のコンピュータ技術の動向を鑑みるに,特定の人や組織に責任を帰属できない場合が想定される。その場合は,被害者を救済し,開発者・利用者の萎縮を引き起こさないために集合的責任の導入が求められる。ただしAIネットワーク状況下における責任のありようは,集合的責任のみだけは不足である。特定の人や組織の瑕疵が明確である場合は,そこに責任を帰属させることが望まれる。これは近代以降の慣習になっており容易に変えることが難しいうえ,開発者・利用者の故意の過失もしくは怠慢,責任感の減退を防ぐためには,また技術を改善する動機の維持のためには必要であると考えられる。
著者
佐々木 加奈子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.1-14, 2018

<p>東日本大震災後に開始された地域情報のアーカイブ活動には,以前から複数の問題が指摘されてきた。これに加えて,近年,多くの震災アーカイブが「あの時,どう避難したのか」という被災上の教訓の伝達に焦点を当てすぎており,その土地に生きた人々の多元的なライフストーリーが省略されているとする指摘が現れた。先行研究の分析は,しかしながら,多元的なライフストーリーの生成プロセスの理論化がまだ十分ではない。佐々木(2016)では,福島県双葉郡浪江町民に焦点をあてて多元的なライフストーリーの生成を実際に試みており,「協働」の場を設定することで,その中での相互行為の中から多元的なライフストーリーが語られうることを実証的に示している。しかし,なぜその結果が得られるのか等は明らかにされていない。本論文では,行為を演技として捉えるゴフマンの演劇論的アプローチの役割概念を用いて,その仕組みを明らかにした。協働の場では,多層的なオーディエンス構造とオーディエンス・パフォーマー間の親密な関係性によって,チームパフォーマンスが促された。その際,参加者たちは自由に自身の役割を見出すことができ,メディアが設定する避難者像から距離を取ることができ,これにより新たな語りの発現に至った。</p>
著者
吉見 憲二
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.15-29, 2016

<p>日本では長らくインターネットを利用した選挙活動が禁止されていたが,2013年4月の公職選挙法改正を契機にネット選挙が解禁されることとなった。ネット選挙解禁後の初の国政選挙は第23回参議院議員選挙であり,2014年12月の第47回から衆議院議員総選挙もネット選挙解禁を迎えている。</p><p>本研究では,先行研究において選挙期間中の候補者のソーシャルメディアにおける投稿内容分析の手法が確立されていない一方で,新聞社により単純な単語抽出からの分析がなされている現状を問題意識とし,各政党における利用傾向の差異について検討した。分析結果より,別アカウントの利用や代理投稿,外部サービスの利用を行っている投稿が多数存在し,単純な単語抽出からではこうした特徴的な投稿の差異が十分に捉えられないことを明らかにした。加えて,こうした特徴的な投稿の利用傾向は政党間で異なっており,単純な単語抽出からの分析を政党間の比較に用いることが不適切である可能性が示された。</p>
著者
吉見 憲二
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.15-29, 2016-03-31 (Released:2017-01-25)
参考文献数
16

日本では長らくインターネットを利用した選挙活動が禁止されていたが,2013年4月の公職選挙法改正を契機にネット選挙が解禁されることとなった。ネット選挙解禁後の初の国政選挙は第23回参議院議員選挙であり,2014年12月の第47回から衆議院議員総選挙もネット選挙解禁を迎えている。本研究では,先行研究において選挙期間中の候補者のソーシャルメディアにおける投稿内容分析の手法が確立されていない一方で,新聞社により単純な単語抽出からの分析がなされている現状を問題意識とし,各政党における利用傾向の差異について検討した。分析結果より,別アカウントの利用や代理投稿,外部サービスの利用を行っている投稿が多数存在し,単純な単語抽出からではこうした特徴的な投稿の差異が十分に捉えられないことを明らかにした。加えて,こうした特徴的な投稿の利用傾向は政党間で異なっており,単純な単語抽出からの分析を政党間の比較に用いることが不適切である可能性が示された。
著者
遠藤 薫
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-17, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
16

マスメディア,ソーシャルメディア,リアル空間という異なる特性をもったメディアが重層的に併存し,緊密な相互作用を行う,現代の「間メディア社会」において,民主主義の根拠というべき「世論」は,静態的な規範ではなく,再帰的自己創出を行う動的な〈世論〉として捉えられる必要がある。本論では,この視座から,2016年前半に起こった,舛添スキャンダルの〈世論〉化をめぐる一連のスキャンダル・ポリティクスを分析し,間メディア社会における〈世論〉の動的特性を明らかにする。
著者
田畑 暁生
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.67-81, 2013

丹後半島は近畿地方の最北端に属する半島であり,近畿の中では南紀地方と並んで,京阪神から最も時間距離の遠いところと言えるだろう。平成の大合併を経て丹後半島地域は,それまでの1市10町体制から,広域合併を行った京丹後市,3町が合併してできた与謝野町と,合併をしなかった宮津市,伊根町の2市2町体制となった。本稿はこれらの自治体の地域情報化政策の特徴を調査で明らかにする。合併で成立した京丹後市,与謝野町の方が,宮津市,伊根町よりも積極的な情報化施策を行っている。京丹後市では,2006年の『京丹後市地域情報化計画』に謳われた情報基盤の整備,CATVやコミュニティFMの開局などを実現,日経の「e都市ランキング2006」では全国50位にランクインしている。与謝野町では,合併前の旧加悦町で敷設されていたCATVを全町に拡大する方針を決定,通信・放送・防災に利用し,また,2009年に策定された『与謝野町地域情報化計画』では情報ネットワークやCATVの活用を謳った。宮津市は,市が補助金を出すプロポーザル入札によって,条件不利地域に2007年度からADSLを,2009年度から光ファイバー整備を行った。また,総務省の地域ICT利活用事業で,島根県海士町と組んでソフト振興策としての映像発信事業を始めたが,残念ながら持続的な事業には至っていない。伊根町は最も小規模かつ余裕のない自治体のため,特筆すべき地域情報化政策はなく,また,自治体が行った住民アンケートでも情報化への関心は低かった。
著者
柳瀬 公
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.61-76, 2012

日本社会は,Beck(1986=1998)らが指摘するリスク社会を東日本大震災(2011年3月11日)で経験することになった。特に,福島第一原発事故は,事故後の避難計画や除染方法,食品や水の安全性,健康被害,風評被害,政府の対策,エネルギー問題,環境問題などのさまざまな問題を提起している。人びとがこうした「新しいリスク」に対処するとき,その主要な情報源となるものがメディア報道である。本研究では,「新しいリスク」の事例として「放射性セシウム汚染牛問題」を取り上げ,メディア報道が「新しいリスク」の情報を人びとに伝える際に,どのように報道の枠組み,つまり,メディア・フレームを使用するのかを,計量テキスト分析によって探索的に検討した。その結果,「放射性セシウム汚染牛問題」の新聞報道では,「現状フレーム」,「対策フレーム」,「原因フレーム」,「要求フレーム」,「被害フレーム」,「人体への影響フレーム」,「食品フレーム」,「原発事故フレーム」の8つのメディア・フレームが強調されていた。さらに,これら8つのメディア・フレームの出現数は,時系列で変化していたことが明らかになった。以上の知見から,「放射性セシウム汚染牛問題」の報道は,8つのメディア・フレームに依拠し,そのメディア・フレームを時期的に変化させることで,リスク事象の報道内容にストーリー性をもたせ,短期間でパッケージ化されていることが見出された。しかし,短期間でのメディア・フレームのパッケージ化による情報伝達が,リスク社会下に生きる人びとに対して,「新しいリスク」の危険性を浸透させることに適しているのかといった問題点も挙げられた。