著者
河島 茂生
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.53-69, 2016 (Released:2017-02-03)
参考文献数
42
被引用文献数
1

本論文では, ネオ・サイバネティクスの理論のなかでも特にオートポイエーシス論に依拠しながら, 第3次ブームの人工知能を定位し倫理的問題の基礎づけを目指した。オートポイエティック・システムは自分で自分を作るシステムであり, 生物の十分かつ必要な条件を満たす。一方, アロポイエティック・マシンは, 外部によって作られるシステムであり, 外部からの指示通りに動くように調整されている。この区分に照らせば, 第3次ブームの人工知能は, 人間が設定した目的に応じたアウトプットが求められるアロポイエティック・マシンであり, 自己制作する生物ではない。それゆえ, 責任を帰属する必要条件を満たさず, それ自体に責任を課すことは難しい。人工知能に関する倫理は, あくまでも人間側の倫理に帰着する。とはいえ人間は, しばしば生物ではない事物を擬人化する。特に生物を模した事物に対しては愛情を感じる。少なからぬ人々が人工知能に度を越した愛情を注ぐようになると社会制度上の対応が要される。そうした場合であっても, 自然人や法人とは違い, 人工知能はあくまでもアロポイエティック・マシンであることには留意しなければならない。
著者
辻 和洋 中原 淳
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.37-54, 2018-12-12 (Released:2019-02-02)
参考文献数
37

本研究は2001年に新聞協会賞を受賞した高知新聞社「高知県庁闇融資問題報道」を事例に,調査報道のニュース生産過程を明らかにした事例研究である。取材のきっかけとなる情報をつかむ基礎的調査の段階から,発展的調査の段階を経て,第一報の記事化の準備の段階までを,記者のインタビュー調査によって明らかにした。とりわけ,日本のマスメディアが持つ構造的な問題の一つとして指摘されている編集権の問題に着目し,編集権を持つ編集幹部が,ニュース生産過程において記者にどのような影響を及ぼすのかを考察した。研究の結果,記者が編集権を持つ幹部の介入を危惧して,情報管理を徹底し,取材対象者を慎重に選択したり,社内でも情報共有を行わなかったりするような行動が見られた。また,編集幹部が報道リスクを考え,記者に対して条件を提示,報道の先送り,代替案の提示といった介入を行ったことが明らかになった。それに対し,記者は報道することを強く促す上申,条件に対応,組織外の影響力の活用といった対応策を講じていた。本研究では,地方紙の単一事例の検証かつ記者のみのインタビュー調査にとどまるものの,石川 (2003) や花田 (2013) が指摘するように,編集権が,記者の行うニュース生産過程に影響を及ぼしうる可能性があることが示唆された。代表性に課題があり,編集権の影響が事例固有のものであるかどうかは検証の余地が残されている。しかし,本研究により調査報道の質的・量的向上をもたらす上で,調査報道のニュース生産過程における記者の取材行為だけでなく,組織内における記者と編集者の相互行為にも着目する重要性が示された。
著者
崔 銀姫
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.93-108, 2012

本稿では,1950年代の日本における「観光アイヌ」の誕生をめぐって全国的な流行と社会的なブームに至るまでの歴史を,近代後半からおよそ60年間(1899年の「北海道旧土人保護法の制定」〜1959年の『コタンの人たち』)の時代における「観光アイヌとは何か」の問題を中心に,単なる「差別」と「同化」の問題に帰結させるのではなく,20世紀初期から半ばのメディアの空間の成立と変容をメディア文化論の視点から鳥瞰的に検討することで,「覧(み)せる/観(み)られる」といった身体を媒体にした経験のなかに隠れていた歴史社会的意味とその変容を考える。考察の結果,第1期の時代(1899年〜1926年)において,アイヌにとってはそうした博覧会の主催者たちの欲望への理解には至らず,「観られる」アイヌの身体の方向性は異なったものであった。その後,第2期の時代(1927年〜1945年)になるとアイヌの大きな変化としては,「民族意識の高揚」とアイヌ自らが各種の著作物を出版したことであった。その後の第3期(1946年〜1959年)の戦争が終わってから1959年までの特徴は,「観光の介入」による変化があった。「観光アイヌ」とは,さまざまなファクターが相まった60年間のなかで「観られる」アイヌとして風景化されていたといえる。
著者
境 真良
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.147-163, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
16

ディープフェイクは,動画又は写真の人の容貌データから,別の動画の特定の人の容貌をそれに似せて合成する偽作動画作成技術である。その被害を受けるのは自らの容貌で偽作動画を生成された芸能人等の著名人であるが,偽作動画の公開の民事的差止を行う際に,ディープフェイク以前の手法であれば有効であった実演家の隣接権は,容貌データ上の実演記録と偽作動画の間に表現の類似性・依拠性が認められにくいことから用いることが困難であり,アイコラ裁判等に鑑みると,肖像権又は肖像パブリシティ権に基づく請求が認められるのみである。現状のディープフェイクによる偽作動画の内容及び公開態様からみて,容貌再現の制度が高ければ差止請求の認容は可能性が高いが,財産権である肖像パブリシティ権に基づくのではなく,人格権たる狭義の肖像権に基づくことになろう。しかしながら,人格権は権利者本人が行使することが必要とされ,一般的に芸能人のビジネス支援(ビジネストラブルの解消を含む)を行う芸能プロダクションはこれを行使できない。偽作技術の発展,根拠となる権利として著作権法上の実演家隣接権が選択不可能となり肖像権(人格権)に限定されることで公開差止の法的請求を行いにくくなることは,産業実態上の不都合を生じる。これを緩和ないし解消するための新たな法解釈や立法措置が望まれる。
著者
西川 順子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-16, 2022-06-30 (Released:2022-08-30)
参考文献数
26

世界各国の政府機関や大使館がソーシャルネットワーキングサービス(SNS)アカウントを持ち,オンラインのコミュニケーション活動を行っている。ソーシャルメディアの活用は外交の今日的な課題の1つであるが,諸外国による日本社会に向けたオンライン・コミュニケーションの研究は,本質的な議論を進めるに十分な蓄積がされていない。本研究の目的は,日本が承認する195ヵ国のうち東京に大使館を置く156カ国を対象として,諸外国による日本社会に向けたソーシャルメディア活用の実態を駐日大使館のSNSアカウント運用の比較分析から明らかにすることである。まず156カ国の駐日大使館についてTwitterとFacebookのアカウント開設の有無を調査し,119カ国によるTwitterアカウント89件とFacebookページ99件を特定した。そしてソーシャルメディアの黎明期に始まるそれら駐日大使館のアカウント開設の推移を概観する。さらにTwitterについて,各アカウントの総フォロワー数とツイート数およびツイートに使用する言語の分析を行い,月ごとの平均フォロワー増加数と平均ツイート数の相関,使用言語の観点から散布図に示し比較を行った。本研究により,駐日大使館を設置する国の4分の3以上がソーシャルメディア上にも存在することが明らかになった。また,日本の人々に向けたコミュニケーションを行うパブリック・ディプロマシーのツールとしてソーシャルメディアを活用する国は限られることがわかった。さらに,欧米主要国と中規模・小規模国でも日本語でツイートする国は比較的戦略的にアカウントを運用していると考えられる。
著者
根村 直美
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.73-88, 2016

<p>本稿では,まず,押井守監督の映画『イノセンス』と欧米発の「サイボーグ映画」との比較考察を行った。そして,『イノセンス』には,「ポスト・モダン」状況の中で呼び起こされつつある理論的・思想的な懐疑がヒューマニズムへと回収されてしまうのを回避しようとする思考が認められることを明らかにし,そのような思考をポスト・ヒューマニズムと呼んだ。</p><p> 続いて,そうしたポスト・ヒューマニズムがどのような身体図式・イメージをうみだしているのかを分析することを試みた。『イノセンス』においては,人形の身体は人工的に構築されたものとして捉えられている。その身体図式・イメージは,映画全体の基調となっているのであるが,人形の身体は,実は人間の身体の表現に他ならない。すなわち,『イノセンス』は,その<社会的に構築されたもの>という身体理解を通じて,<有機体>としての<人間の身体>に付与された<神秘性>から我々を解き放ったのである。</p><p> また,『イノセンス』の身体図式・イメージにおいては,構築される身体とは,<他者>と関わることにより立ち現れる具体的な状況において,画定された境界線をもつ。すなわち,その身体は,自分ではないが自分の一部であるような<他者>とのネットワークと相互作用がうみだす「偶発性」に基づくものである。しかも,そうした身体図式・イメージは,ヒューマニズムの枠組みには回収されえない<他者>への<敬意>とも結びついているのである。</p>
著者
後藤 晶
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-16, 2015-10-31 (Released:2017-01-25)
参考文献数
29

東日本大震災に見られるように, 人間は常にいつ生じるかわからない「変動」に直面しながら生きている。本研究においては突然起こる外生的な変動を「カタストロフ」と定義する。その上で, 発生時期においてあいまい性を有するカタストロフの「予告」及び「発生」が協力行動に与える影響を検討する。そのために, 繰り返し公共財ゲームをベースとした新たなゲームである「カタストロフゲーム」を提案し, 実験的な検証を行った。実験時には損失の「発生の確実性」「発生する期間」, そして「発生する損失の規模」を伝えて実施した。その結果, ①カタストロフの予告による貢献額の変化は認められなかった。一方, 予告されたカタストロフの発生によって, ②全てのプレイヤーにカタストロフが発生する条件における貢献額の増加, 一部のプレイヤーにカタストロフが発生する条件において③カタストロフ発生群における貢献額の増加, ④カタストロフ非発生群における貢献額の増加が認められた。本研究では実験ゲームの枠組みによって災害時に観察されてきた人間行動と類似した結果が観察された。損失発生の単純な予告や予測は人間行動に影響を与えないことが示唆され, どのような情報が予告や予測として効果的なものになるのか, そしてなぜ損失発生時に協力行動が促進されるのか, その動機に対する検討が今後の課題としてあげられる。
著者
杉原 名穂子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.19-33, 2018 (Released:2018-10-12)
参考文献数
15
被引用文献数
2

本稿はジェンダー論の観点から社会関係資本(SC)の効果について実証的に検討するものである。SC研究はしばしばジェンダーブラインドであるという批判が寄せられてきた。それはSC生産活動が性別役割を強化・再生産することに無自覚であることへの批判である。本稿ではそれらの批判をふまえ,特に家族での活動およびそこでの権力作用に注目し,それらが個人が所有するSCにどのように関連しいかなる利益をもたらすか,都市の家族を対象にした量的調査から分析した。その結果,次のことが明らかになった。豊かなSCから多くの利益を得ているのは女性の方である。満足感,健康,娯楽活動,市民意識などとの関連をみると,男性にとっては本人が所有する経済・人的資本と家族が資産となっているのに対し,女性では自身と家族に加えネットワークが資産である。女性にとって特に,橋渡し型SCは満足感,娯楽,健康,市民意識の醸成といった利益をもたらしている。家族内SCは男女とも多くの面でプラスの効果をもたらしている。密な家族は家族内SCを用いてネットワークをつくる。ただし,密な家族とは協力行動を多くおこなう家族であり,女性のケア活動への大きな貢献を意味するのではない。ケア活動は女性の橋渡し型SCの構築を阻害する。つまり,家族内SCを増やすという提案は男性にはプラスの利益をもたらすが,女性の場合には橋渡し型SCの醸成を阻害しない途を探ることが必要である。
著者
金 相美
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.49-62, 2018 (Released:2018-10-12)
参考文献数
35

本研究は2013年7月21日に行われた参議院議員通常選挙時に男女有権者930人を対象に行なったウェブアンケート調査の結果をもとに,政治プロセスにおける女性有権者の投票行動,政治関心,政治知識など政治的占有傾向について分析・考察を行うことを目的とする。女性有権者は男性有権者より投票率,政治への関心,政治有効性感覚,国内政治への満足度,政治知識が有意に低い結果が示された。政治関連イシュー的政治知識においては女性有権者の知識習得度が低いことが判明し,政治社会化における男女差がその背景に存在している可能性について考察した。
著者
仲嶺 真 田中 伸之輔 上條 菜美子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.159-168, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
23

近年,SNS利用者数の増加が著しい。SNSを有効活用できれば良好な人間関係が築ける可能性が高まる一方で,SNSで知り合った異性と対面で会ったことによって未成年がトラブルに巻き込まれる事案が社会問題となっている。SNSで知り合った異性と対面で会う理由に関して,個人特性との関連や,やりとり内容との関連が検討されているものの,やりとり過程については十分に検討されているとは言い難い。SNSで知り合った異性と対面で会うまでには,継続的にやりとりが続いていると考えられるため,やりとり内容だけでなく,どのようなやりとりを経て対面で会うに至っているのかを検討する必要があると考えられる。そこで本研究では,高校生を対象に,SNSで知り合った異性とSNS上でどのようなやりとりを経た結果,対面で会うに至るかについて検討した。SNSで知り合った異性と対面で会った経験がある高校生および高専生207名を対象に,SNSで知り合った異性と行ったやりとりに関して調査した。その結果,地元が一緒であることや趣味などの共通の話題について継続的にやりとりをした結果,対面で会いやすくなることが示された。また,相手が自分に会いたい場合ではなく,自分が相手に会いたい場合に対面で会っていることも示された。これらを踏まえ,禁則的な防犯教育とは違った形の防犯教育が今後必要であることが議論された。
著者
加藤 千枝
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.31-43, 2013-06-30 (Released:2017-02-04)
被引用文献数
1

本研究では「SNS疲れ」に繋がるネガティブ経験について明らかにし,「SNS疲れ」という抽象的な言葉で捉えられてきた現象を具体化することが目的である。高校生15名に対して半構造化面接を行った結果,36のエピソードを得た。36のエピソードをコード化し,それが「受信者」または「発信者」としてのエピソードであるのか,「現実世界で交流のある者」または「現実世界で交流のない者」とのエピソードであるのか,上記2つの軸に基づき分類することが妥当であると思われた。その結果,「受信者」としてのネガティブ経験が複数語られ,特に「誹謗中傷発信」「見知らぬ者からの接近」が挙げられた。つまり,SNSでほとんど発信を行っていない者であっても,「SNS疲れ」に至る可能性が明らかになったと言える。また,「現実世界で交流のある者」に関するネガティブ経験も複数語られ,その理由として,SNSが既存の関係の中で主に利用されており,SNSを退会することによる既存の関係への悪影響を高校生が懸念している為だと思われる。
著者
與那覇 里子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.1-13, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
18

本研究の目的は,新聞において若者がネット上のフェイクニュースを信じているとの言説が浸透していった経緯を明らかにすることである。2016年の米大統領選以降,沖縄の地元紙2紙は,インターネット上のフェイクニュースを若者が信じているとの指摘が多いが,高齢者がフェイクニュースを信じているという指摘をした記事もなかった。全国紙・地方紙の過去記事のデータベースから若者がフェイクニュースを信じているとする関連記事を抽出する。記事内容を確認し,新聞言説の広がりの経緯を追う。結果,メディアを専門としない複数の専門家がコメントの中で学生とのやりとりを通しての言及をはじめ新聞週間や主権者教育など,フェイクニュースを信じる若者を問題視する形で,繰り返し新聞に取り上げられていた。一方で,専門家が発言を始めてから,記者が実際に裏付け取材をするまで1年7カ月を要していた。沖縄の若者がフェイクニュースを信じているとの根拠は乏しかったものの,「伝聞」の状態でマスメディアが取り上げ続けたことで「本当」のこととして見なされていた。また,地元2紙が沖縄の若者がデマを信じているとの指摘を始めた後に,地元2紙以外の新聞社も同様の記事を扱い始めていた。本研究は,対象となった記事の件数が少ないため,一般化することは適当ではないが,正確と公正を謳う新聞社が専門家のコメントに依存している可能性があると指摘した点では意義がある。
著者
是永 論
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.1-9, 2013

本稿では,「人々の経験」について考察することを社会情報学の課題とした上で,その課題へのアプローチとしてのエスノグラフィーの位置づけを,特にエスノメソドロジーにより特徴付けられた(informed)ものとして論述する。とりわけ,人々が「情報」という表現をともなう知識を用いる際に,そこで参照されている規範を明らかにすることに対して,エスノグラフィーがどのように貢献する可能性を持ち,さらにそのことが情報に関する経験に根ざして社会現象をとらえる視点にどのように作用するのか,について論述する。
著者
正木 誠子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.1-16, 2019-06-30 (Released:2019-07-09)
参考文献数
47

本稿では,視聴者によるテレビに対するネガティブな反応全般を「テレビ批判」と定義し,その規定因を検討する。テレビ批判の規定因として「他者がテレビから影響を受ける程度の見積り」と「第三者効果」に注目し,仮説1「テレビが他者に与える影響を高く見積る傾向にある人は,テレビを批判する」,仮説2「他者への見積りが高く,さらに『自分も影響を受けない』と見積る人(=第三者効果傾向の人)は,テレビを批判する」を設定した。20~60代の男女520名を対象にオンライン調査を実施した。分析の結果,因子分析によってテレビに対する批判態度を「危険・下品描写への批判」「報道への批判」「犯罪助長・過激表現への批判」「ドラマへの批判」に分類した。さらに仮説の検証のために相関分析,重回帰分析を行った。結果,他者への見積はすべてのテレビ批判に効果が認められ,仮説1は支持することができる。一方,第三者効果は報道のみに効果が認められたが他の3つの批判との関連は確認できなかったため,仮説2は一部支持という結果になった。しかし,犯罪助長・過激表現への批判には第三者効果と逆の概念であるFirst-person effectが認められた。
著者
中村 肇
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.15-30, 2019-06-30 (Released:2019-07-10)
参考文献数
22

メディアが透明な媒介としてわれわれの生活世界を侵食する際に立ち現れる身体性の剥奪という問題は如何にして記述できるのだろうか。本論考は,その些か巨大すぎる問いに,ネオ・サイバネティクスと総称される思想的潮流の一端を担う「基礎情報学」の観点から,社会美学における「共通美」の概念を手がかりに考察する。より具体的には,昨今のSNS文化における加工写真=〈新しいテクノ画像〉が,被写体の身体性が剥奪されているにもかからず広く受容されている状況に対して,基礎情報学の心的システムの議論やヴィレム・フルッサーのメディア理論,さらにはマイケル・ポラニーの暗黙知などの諸概念に依拠しつつ,理論的な検討を加える。主観的な知から出発したわれわれの心的システムが,二人称的な対話を通じて共振しながらコミュニケーションの発展過程として描出されていく一方で,それが社会システムへと転化し,安定状態へと達した結果,逆に個人の美的価値から身体性=視覚ディスプレイ上から立ちのぼるある種の生々しさを剥奪させていく様態を,階層的自律コミュニケーション・システムHACS(Hierarchical Autonomous Communication System)モデルから捉え直す。
著者
木下 浩一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.19-35, 2018-12-12 (Released:2019-02-02)
参考文献数
41

放送制度では多元性・多様性・地域性が重視されてきたが,地上波テレビにおいては東京一極集中が進行している。しかしながら1975年以前には,フリーネットやクロスネットが存在し,現在よりも多様性が高かった。なかでも,教育局である日本教育テレビ (NET) と準教育局である毎日放送テレビ (MBSテレビ) によるネットワークは,多様な展開をみせた。一方でNETとMBSテレビは,教育局・準教育局ゆえに,教育番組や教養番組であっても視聴率がとれる番組を追求した。その結果,1960年代末にクイズ番組が大量に編成された。「クイズ局」と呼ばれたこの現象は,商業教育局による特異なネットワークにおいて,いかにして生じたのだろうか。本稿では,「クイズ局」という事象を史的に分析し,番組種別の規制がネットワークを通じて傘下の送り手に与えた影響を明らかにした。結論は以下の通りである。「クイズ局」という現象は,クイズ番組という形式が,教育局が量的規制をクリアしつつ高い娯楽性を実現するのに有効であったと同時に,ネットワークを組んだ在阪局が東京へ情報発信する上で有効な形式であったがために生じた。番組種別の量的規制は,規制対象の局に影響を与えるだけでなく,ネットワーク関係にある局に対しても影響を与えたことが確認された。
著者
佐藤 忠文
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.187-203, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
36

本研究では,自治体が広報活動で使用する広報写真について,情報資源化へ向けた課題を考察する。近年,オープンデータや文化情報資源に対する関心が高まるが,資源としての広報写真の現状はこれまで明らかにされていない。そこで本研究では,まず広報写真の性質を論じ,行政広報論の視点のもと広報写真家の言説に着目,そこから広報写真の共通構造を導出した。次に,それをもとに情報資源化の問題点について仮説を構築し,自治体に対し質問紙調査を行いその現状を明らかにした。最後に,調査結果をもとに課題を考察した。研究の結果,広報写真は,効率的な内容理解と行動変容を促す創造的な視覚媒体と言え,広報目的の達成に向けて,確実性,共感性,倫理性,記録性からなる共通構造を持つと考えられた。そして質問紙調査から,①撮影・管理,②アーカイブ,③二次利用の状況が明らかになった。そのうえで,①の課題として,撮影量に対応可能な効率的なメタデータ管理方法と柔軟な権利処理手続きの開発,②の課題として,広報写真の文脈までを保存し管理の煩雑さに対応可能なアーカイブ構築,③の課題として,商用利用を含む利用促進へ向けた利用ルール等の整備が明らかになった。本研究の成果は,主に3点である。従来の言説をまとめ広報写真理解のための理論を構築したこと,これまで明らかにされなかった広報写真の現状を一定明らかにしたこと,そこから情報資源化へ向けた具体的な課題を明らかにしたことである。
著者
藤代 裕之 松下 光範 小笠原 盛浩
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.49-63, 2018 (Released:2018-05-19)
参考文献数
10

東日本大震災以降,ソーシャルメディアは大規模災害時の情報伝達ツールとして重要度を増しているが,情報爆発やデマといった課題により活用が困難になっている。本研究では,課題解決を目的に,限られた時間的制約のもとで優先度の高い情報を整理する情報トリアージのソーシャルメディアへの適用可能性を検討する。調査手法は,熊本地震に関するソーシャルメディア情報を収集・分析するとともに,報道機関や消防機関に対してソーシャルメディア情報の影響についてインタビューを行った。その結果,ソーシャルメディアから救助情報を探すことは困難であること,消防機関では通常時には情報トリアージが機能しているが,大規模災害時にはソーシャルメディアの情報を含む膨大な通報が寄せられたことにより,機能不全に陥っていたことが明らかになった。ソーシャルメディア情報の整理を消防機関の活動と連携して行うことで,情報トリアージが機能し,情報爆発やデマといった課題を解決出来る可能性があることが明らかになった。本研究は,大規模災害時の情報伝達ツールとしてソーシャルメディアを活用するためには,ソーシャルメディア情報のみを対象に研究するだけではなく,被災地での活動を調査し,連携する方法を検討することが重要であることを示している。この知見は,救助活動のみならずソーシャルメディアを通した被害状況の伝達や物資支援などにも応用が可能であろう。
著者
棚田 梓 岡田 勇
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.33-47, 2013

インターネットメディアの発展により,いわゆる放送と通信の境界があいまいになるにつれ,地上デジタルテレビ放送の地位が急速に低下してきている。しかし,多メディア化が進むにつれ,テレビ局の持っているノウハウや高度な編集能力に基づく高品質な番組を提供しうるポテンシャルは,引き続きメディアとしての差別化された価値を維持する可能性を持っている。視聴者がメディアを選択する時代に,地上デジタルテレビ放送が番組の品質を維持することは,重要な政策課題となるはずである。本稿では,地上デジタルテレビ放送のこのような差別的価値を強化するための方策として,放送倫理・番組向上機構(BPO)に着目し,事例分析を行いBPOの機能と役割について考察した。はじめにBPOは3つの事件を契機として,公権力の介入を阻止することを主目的として役割強化が図られてきたことを明らかにした。次に,BPOは視聴者の苦情処理という側面に加え,番組の品質向上への期待や業界への提言といった積極的役割を行っている一方,BPOの決定を放送局が遵守するというのは申し合わせに過ぎず,BPOが有効に機能しない事例もあることを示した。BPOで討議された事例を分析した結果,BPOは地上デジタルテレビ放送の差別化要因になりうることを指摘した。また,そのために放送業界がBPOの決定を遵守したり,社員教育の徹底を行ったりする必要があることを示した。現在のBPOには客観性についていくつかの批判が存在しているが,その是正には時間がかかることであり現在のBPOの自由度に配慮しつつ活動を見守るべきであることを主張した。