著者
宮岡 等
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.675-678, 2005-09-01
被引用文献数
1

日本心身医学会が学会として心理士を認定する方向で動いているなか, (1)医師は心理士に何を求めるか, (2)本学会認定医療心理士制度が抱える問題を論じた.医療現場の心理士に対しては, 向精神薬療法が必要という判断, 身体疾患や薬物の副作用としての精神症状, 心理検査や心理療法の副作用などに関する知識を求めたい.医療心理士制度について, 医療現場で働く心理士に資格が必要であるという意見に異論はない.しかし, さまざまな心理士資格の中における位置づけ, 心身医学が対象とする範囲, 心身医学は心理士が関係しうる医療の中の限られた一分野に過ぎないこと, 申請者の経済面の負担, 国家資格との関係などを考えると, 本学会が現時点で独自に認定心理士を設けることには大きな疑問を感じる.会員全体を巻き込んだ精緻な議論がなされることを願う.(本稿は2004年6月4日のパネルディスカッションにおける発表をもとに執筆した)
著者
野村 吉宣 阪尾 学 江村 成就 黒田 健治 宮崎 真一良
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.325-330, 1996-04-01

症例は24歳男性, 会社員。元来宵型人間。23歳頃より過眠傾向となり, 昼過ぎまで覚醒できず, 遅刻欠勤が目立ち, 1992年7月末H病院受診。精査目的のため入院となった。睡眠日誌, 終夜ポリグラフィー検査, MSLT, 直腸温測定により睡眠相遅延症候群と診断された。VB12の経口投与とともに, 院内の生活に合わせて就床起床時刻を一定とし, さらにその後の1週間は高照度光療法も併用した。治療開始2週間後に再度諸検査を施行したところ睡眠相は前進し, 入眠起床時刻も午後10時と午前7時に固定した。退院後は起床時刻を守ること, できる限り規則的な生活を行うことを目的として寮生活をしたところ, 週末には一時的な入眠起床時刻の遅延があるが, ほぼ固定した生活を送ることが可能となった。本症例にみられた睡眠相の遅延に関しては, 単身生活による不規則な生活, 残業が続くことによる入眠時刻の遅延といったライフスタイルの変化が, 概日リズムヘの同調を困難とし, 睡眠相遅延症候群の発症に関与したと考えられた。
著者
中川 哲也
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.281-291, 2006-04-01
被引用文献数
2

日本心身医学会は1959年に設立され,その第1回大会が1960年に開催された.今回で第46回を迎え,現在その会員数は約3,700人に達する.この間,1970年には「心身症の治療指針」を作成した.また1979年には,本学会の日本医学会への加入が認められ,1985年には,本学会の認定医制度が発足した.1991年には新しい「心身医学の診療指針」を作成した.1996年には「心療内科」という標榜科名が認可され,2005年には,本学会の認定による「医療心理士」の制度が設けられた.私は,特に日本心身医学会の草創期前後における種々のエピソードや思い出,先駆者たちの活動状況などを中心に紹介し,以来,今日に至るまでわが国の心身医学の歩みを振り返りつつ,心身医学,心身医療に関する私の意見や感想を述べる.
著者
大場 眞理子 安藤 哲也 宮崎 隆穂 川村 則行 濱田 孝 大野 貴子 龍田 直子 苅部 正巳 近喰 ふじ子 吾郷 晋浩 小牧 元 石川 俊男
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.315-324, 2002-05-01
被引用文献数
5

家族環境からみた摂食障害の危険因子について調べるために,「先行体験」「患者からみた親の養育態度」について,患者からよく聞かれるキーワードを用いて質問表を作成し,健常対照群と比較検討した.その結果,「母親に甘えられずさびしい」がどの病型でも危険因子として抽出された.また患者群全体で「父親との接点が乏しい」も抽出され父親の役割との関連性も見直す必要性があると思われた.さらにANbpとBNにおいては,「両親間の不和」「両親の別居・離婚」といった先行体験の項目も抽出され,"むちゃ食い"が家庭内のストレス状況に対する対処行動としての意味合いをもつのではないかと考えられた.
著者
芦田 明 村田 卓士 田中 英高 玉井 浩
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.443-448, 1998-08-01

大阪府堺市で発生した病原性大腸菌O157 : H7集団食中毒では, 続発して100名を超える患者が溶血性尿毒症症候群に罹患した.当科に搬送された患者の両親に対しアンケート調査を, 看護婦に対し聞き取り調査を実施し, 入院中の治療環境に対する認知を検討した.その結果, (1)病院転送時に, 患者側に病院を選択する余裕はなく, 家族は自宅より病院まで遠くても仕方がないと考えていた.(2)同一疾患患者を一大部屋に収容したことは, 患者間および保護者間ともに連帯感が生じ, 心理的サポートが得られた.(3)他疾患で入院している患者および家族からの感染に対する不安は少なく, 適切な感染防止処置がとられていれば, 一般病棟内で治療を行っても, 大きな混乱には陥らないことが明らかとなった.
著者
中野 弘一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.407-413, 2004-06-01

男性更年期における問題は,生物・心理・社会にわたる多次元評価理解が必要である.社会的にはライフサイクル的評価の視点が有力である.仕事中毒は中年期に陥りやすい対処様式であるが,破綻しやすいスタイルでもあり修正が必要であることが多い.仕事中毒の成立の背景には戦後の日本の経済成長を支えた利益共同体的価値観が深く関わっていると考えられる.仕事中毒の破綻の一つの形が中年発症の出社困難である.中年期に発生する生活習慣病である肥満,アルコール性肝障害,高脂血症などの中で心理社会的問題と密接に関連しているケースは容易には修正できない.中年期危機には心理社会的価値観の再構築と,ソーシャルサポートの構築が有力な対策となる.
著者
久保木 富房 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, 2005-04-01

第45回日本心身医学会総会の最終日に永田頌史会長の発案で,「心身医学が進むべき方向」と題してシンポジウムが開催された.シンポジストとしては東京大学心療内科の熊野宏昭氏,九州大学心療内科の久保千春氏,関西医科大学心療内科の中井吉英氏,琉球大学精神衛生学教室の石津宏氏,そして指定発言に鹿児島大学心身医療科の成尾鉄朗氏が指名され,座長は筆者と久保千春氏が務めた.まず,熊野氏より「東京大学心療内科から」と題して,その研究方法論と臨床活動について述べられた.研究方法論としては,Ecological Momentary Assessment(EMA),大脳機能検査,神経内分泌学の3つを中心に据えた具体的な説明と現在までに得られているエビデンスが紹介され,今後の心身医学の研究方向が示された.また,臨床活動においては,心身症,摂食障害,パニック障害,軽症うつ病などが中心であること,精神科とは自ずから守備範囲が重なってくるが,心療内科はあくまでも身体や行動の側から眺めていくという特徴と,コミュニケーションの観点からは,「話せばわかる」という立場を堅持することが述べられた.次に,久保氏より,「九州大学心療内科から」というテーマで,臨床活動においては東京大学心療内科とほぼ同様のデータが,研究面ではストレス研究の新しい動物モデルなどが提示され,多くの研究グループの具体的な研究成果が発表された.臨床面,そして研究面においてevidence based medicineを追求しているスタンスが強調された.東京大学と九州大学がほぼ同様の方向へ研究を展開していることが確認されたことは,今回のシンポジウムにおける大きな産物の一つとして挙げることができよう.3番目は,中井氏より,「全人的医療学の臨床,教育,研究を通して」と題する発表があった.30年以上前より心身医学の中心に据えられてきたbio-psycho-socio-ecologicalモデルに基づく,関西医科大学における臨床,教育,研究の実際と今後の展望が述べられたが,心身医学がもつnarrative based medicineとしてのよさが遺憾なく発揮された発表であるという印象を強くもった.4番目に石津氏より「精神医学的視点と課題」と題して,精神医学と心身医学の近似点や相違点に関して具体的な例を挙げて説明が示された.また,研究面ではゲノムレベルに及ぶ近年のbiological psychiatryは,心身医学に多大なresourseを提供し,心身相関の脳内機序やPsychoneuroendocrinoimmunomodulationメカニズム,器官選択性や個体のストレス耐性の解明などに新しい展開が期待できると述べた.一方,心身医学のbio-psycho-socio-ethics-ecologicalな考え方は,精神医学に人間学的な新展開を加えることが期待されると結んだ.最後に,成尾氏は指定発言として,「大学での教育,臨床,研究で果たすべき役割」と題して述べた.成尾氏は,「現時点で考えられる問題と方針としては,まずは学部教育と卒後教育段階での心身医学的知識や診療,研究スタンスへの啓蒙を充実させることと,リエゾン的役割をより積極的に発揮するとともに,臨床各科における心身医学的問題症例への能動的関与の機会を増やすことが重要と考える」と結ばれた.発表後,フロアの先生方を交えた討論も活発に展開し,今後の心身医学の進むべき方向に関して有意義なシンポジウムとなった.
著者
佐々木 惠雲
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.232-233, 2005-03-01

日本仏教は「葬式仏教」と化していると批判されて久しい.しかし最近,一般の人々の間で「葬式仏教」のイメージと葬儀や中陰,年忌法要のもつ重要性が混同されているように感じられる.確かに,いわゆる「葬式仏教」は仏教の本質とはまったくかけ離れたもので,仏教の教えそのものを人々に伝えることが大切であることはいうまでもない.しかし葬儀や法要を単なる儀式ととらえ,意味がないと捨て去るのではなく,これらのもつ新たな可能性や重要性を見直す時期に来ているのではないだろうか.最近,グリーフケアが世界中で注目されている.グリーフとは,愛する人や近しい間柄の人との死別に対する反応である.しばしば悲しみのあまり,不眠や食欲不振,不安感などの症状が現れることもあるが,この反応は誰にでも起こりうる正常な反応で,普通は自然に消滅していくものである.ところが長期間経過しても悲しみから抜け出せずうつ病になる場合や,喪失直後はそれほど深いグリーフを示さず,何年か経てうつ病を発症することもある.
著者
芝山 幸久 滝井 英治 加藤 明子 松村 純子 島田 涼子 坪井 康次 中野 弘一 筒井 末春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.547-551, 1999-10-01

症例は初診時18歳女性で, 身長163cm, 体重37kg, 無月経と体重減少を主訴に来院した. 自己嘔吐や過食のエピソードはなく, 治療経過中に心窩部痛が出現したため内視鏡検査施行したところ, GradeBの逆流性食道炎を認めた. さらに約1年後胸のつかえ感, 心窩部痛が出現したため内視鏡検査再検したところ, GradeDの重症逆流食道炎を呈してした, プロトンポンプ阻害薬(PPI)のランソプラゾール投与にて1カ月後には著明に改善していた. 発症機序として, 低栄養状態に伴う胃排出能低下によりTLESRが増加し, 逆流性食道炎を発症したと考えられた. BNに逆流性食道炎が合併することは知られているが, ANでも胸やけや心窩部痛は胃食道逆流症を想定すべきである. 自覚症状は摂食不良の一因にもなるため, 早期に内視鏡検査を施行して, PPIなどの投与を考慮すべきである.
著者
小林 伸行 濱川 文彦 松尾 雄三 高野 正博
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.1201-1207, 2009-11-01

初診時の問診や質問紙が治療中の自傷行為の予測に有用かを検討した.対象と方法:2000〜2005年に初診した1,665名を対象とした.(男性605名,女性1,060名,年齢36.4±18.6歳).カルテ記載から精神科・心療内科受診歴(受診歴),希死念慮,自傷行為の既往(自傷既往),受診直前の自傷行為(直前自傷),治療経過中の自傷行為(治療中自傷)などを調べた.初診時にGHQ28を行った.結果:全対象の22.6%に受診歴,24.7%に希死念慮,5.1%に自傷既往,1.5%に直前自傷を認めた.初診以降も治療を継続した1,132名中,治療中自傷は4.3%にみられ,非自傷者より低年齢で,受診歴,希死念慮,自傷既往が多く,GHQ28の重症抑うつ尺度が高く,診断別では摂食障害,うつ病に多かった.多変量解析では年齢,希死念慮,自傷既往が治療中自傷予測に有意な変数だが,自傷者の正分類率は4%だった.結語:初診時の希死念慮と自傷行為の既往が治療中自傷の予測に最も有用だが,十分ではない.