著者
遊磨 正秀 長田 芳和
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、琵琶湖に侵入した生物としてヌマチチブ、ブルーギルをとりあげ、琵琶湖における生態について水中観察を行った。ヌマチチブは、湖底の石礫上に成育する糸状藻類を主要な餌として利用していた。糸状藻類は、琵琶湖沿岸部ではここ10数年ほどの間に急増したものであり、現在、ヌマチチブ以外はこれを餌資源として利用していなかった。このことから、餌資源の分割様式の点では、ヌマチチブは最近に生じた新たな餌資源を利用しており、琵琶湖の在来種と競合することなく、その生態的地位を確立したものと考えられた。またブルーギルでは、琵琶湖に生息するものの中に、体型や微生息場所が異なるものが混在しており、それぞれに摂食様式や繁殖様式も異なると予想されるため、さらに詳しく調査をすすめる必要性が生じた。一方、琵琶湖在来の魚類では、ほぼすべての種が沿岸部で産卵を行い、稚仔魚期も産卵場所付近で生活することがわかっている。そこで在来種のコイ・フナ類に焦点をあて、その産卵様式の詳細について調査を行った。その結果、コイ・フナ類では、繁殖をひかえた成魚は数日先の降雨を予想し、降雨による沿岸部への栄養塩の流入によって引き起こされる動物プランクトンの増大を見込んで産卵していることが推察された。また、そこでは外来種のブルーギルやオオクチバスの稚仔魚はほとんどみられなかった。このことは、在来種と外来種では、初期生活史における餌、空間資源の利用様式に違いがあることを示唆している。このように、ヌマチチブやブルーギルなどの侵入種と琵琶湖の在来種の間では、餌資源などの利用様式に違いが見られ、このことによって侵入種がすでに多様な群集を形成していたと言われてきた琵琶湖に定着できた要因の一つであると考えられる。
著者
賀川 恵理香
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本研究においては、現代パキスタンにおける女性たちのパルダ実践に着目する。パルダとは、パキスタン、インド、バングラデシュを中心とした南アジア地域に広く存在する性別規範のことであり、狭義には女性のヴェール着用、広義には男女の生活空間の分離を意味する。多くの先行研究において女性に抑圧的な規範として分析されているパルダであるが、現代パキスタン都市部に暮らす女性たちの多くは、パルダ規範を守りつつも、進学や就職などを通して社会と積極的に関わっている。本研究においては、女性たちがどのようにパルダを解釈し、そしてどのようにパルダを実践しているのかを、聞き取り調査や参与観察(住み込み調査)を通して明らかにする。
著者
竹下 悦子 牧角 悦子
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2010

授与名簿の責任表示: 竹下悦子
著者
金坂 清則
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

R.H.ブラントンの名は日本の灯台建設の父として知られ、幾つもの研究があるが、彼が作成した地図類、特に、帰国後に編纂しロンドンで出版した日本図Nippon〔Japan〕(1876)については、従来ほとんど注目されてこなかった。しかし、この図は、当時日本で出版されていた日本図のどれよりもすぐれた内容を備えた作品として、またブラントンのお雇い外国人としての事績が明確に盛り込まれた図として注目に値する。やはりお雇い外国人であったE.クニッピングの編になる日本図Stanford's Library Map of Japanが出版されたこの3年後の時点では、既に陸軍参謀局「大日本全図」(1877)は出ていたものの、内務省地理局編「大日本国全図」が出版されたのは1881年のことだったし、当時の日本に存在した大部分の日本図の水準はこれら欧州製日本図の水準を下回るものだった。このようないわば逆転現象が生じたのは、何よりもブラントンやクニッピングがお雇い外国人の立場を生かして、国の基本地図の整備を急務としていた当時の国家機関がその作成のために収集・保持していた最高の地図情報-それには伊能図、「官板実測日本地図」も含まれる-もを入手することができたからである。また、そのようなローマ字表記された日本図の需要があったことも無視できない。そこで、本研究では、近代日本図に関する研究の立ち遅れの克服とブラントン研究の展開をも目指して、ブラントン図に関する詳細な書誌的・地図学的検討を行い、新たな多くの知見を提示した。この成果については、雑誌「地図」に発表し、そこに、原寸大の精巧な複製図4シートを併せ出版することになっているが、このような研究のために、精緻な複製図の見本印刷を作成したり、国会図書館や内閣文庫・神戸市立博物館・横浜開港資料館での調査と、写真や複写の形で収集した所蔵資料の分析を行い、また、当時の世界の地図や地理学の水準を示す書籍を購入しての検討も行った。
著者
丹羽 太貫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

放射線照射精子受精でうまれたF1マウスでは、初期胚・胎児発生期において母親由来の遺伝子における組換え突然変異頻度が上昇していることが、超可変ミニサテライト配列と網膜色素上皮細胞におけるpink-eyed unstable遺伝子の復帰突然変異の解析により明らかになった。これは精子が持ち込んだDNA損傷がゲノム不安定性を誘導し、2次的に突然変異頻度が上昇したためと考えられる。この機構を明らかにするため、照射精子受精卵について解析したところ、まず受精卵においては照射された精子がもちこむDNA損傷によって雌性前核に微小注入したp53依存性転写レポーター遺伝子が活性化されることが明らかになった。この細胞質を介してみられるp53依存性のゲノムクロストークの生物学的な機能を解析したところ、これまで知られていなかったp53依存性のSチェックポイントの存在が明らかになった。マウスの初代培養繊維芽細胞を用いた解析から、このp53依存性SチェックポイントはATM依存的損傷シグナル伝達のもとに、DNA複製フォークの進行を遅くさせる機能を果たすことが示された。このSチェックポイントにはp53のDNA結合ドメインが必要で、転写には非依存的であった。初代培養細胞では、複製フォーク進行速度の遅延に呼応して、姉妹染色分体交換の頻度が上昇し、p53は損傷依存的にDNAの相同組換え頻度を上昇させることが明らかになった。従来p53は相同組換え頻度を抑制するといわれてきたが、今回の結果はそれとまったく相反する結果である。これには、これまでの研究が細胞株に相同組換えの検出用レポーター遺伝子で行っていたためと考えられる。姉妹染色分体交換は間違いの少ない相同組換えであるので、これがp53により高められるのはまことに合目的性に富んでいる。すなわちこれまで我々が明らかにしてきた照射精子受精F1マウスにおいてみられる母親由来のミニサテライト配列とpink-eyed unstable alleleの非標的組換え突然変異は、p53が損傷存在下で複製フォーク伸長抑制を行い、これが姉妹染色分体間の組換え頻度を上昇させるためであると推測される。
著者
杉山 正明
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2006

博士論文
著者
深沢 眞二
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2005

博士論文
著者
森 哲
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

調査地域でのシマヘビとヤマカガシの食性は主にカエル類で、共にシュレ-ゲルアオガエルとモリアオガエルが中心であった。このほかに胃内容物からアマガエル、トノサマガエルが少数発見されたほか、ヤマカガシではタゴガエルやヒキガエルを捕食していることもあり、シマヘビに比べてヤマカガシは食べているカエルの種類が多かった。一方、シマヘビはカエル以外にトカゲや小型哺乳類も食していた。捕食していたカモルの大きさを2種のヘビの間で比較したところ、ヤマカガシの方がシマヘビよりも相対的に大きなカエルを食べていた。さらに、呑み込んだ方向を調べたところ、シマヘビは大きなカエルの場合は頭部から呑む傾向が強かったのに対し、ヤマカガシではその様な傾向は見られなかった。しかしながら、ヤマカガシはカエルを後肢から呑み込むときは、両後肢をそろえて呑むという、シマヘビには見られない傾向が観察された。呑み込む方向の違いが、どのような理由から起こっているかを確認するため、飼育下で両者の捕食行動をビデオを用いて詳細に観察し比較した。この結果、シマヘビは大きなカエルを捕食する場合には、最初に咬み付いた場所に関わらず、ほとんど頭部から呑み込んだのに対し、ヤマカガシでは呑み込む方向は最初に咬み付いた場所に大きく依存することがわかった。しかしながら、ヤマカガシは、最初に片方の後肢のみに咬み付いた場合、まず両後肢を呑み込んで続いて胴体へとうつっていき、片方の後肢だけを先に呑んでしまうことはほとんどなかった。このように、ヤマカガシは顎を用いてのカエルの扱い方においてシマヘビよりも器用であることが示唆された。一方、野外での電波発信機を用いた採餌行動の調査は現在も継続中であり、特にヤマカガシについて、さらにデータを追加していく必要がある。
著者
笠井 倭人
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2001

博士論文
著者
五箇 公一
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1996-03-23

本文データは平成22年度国立国会図書館の学位論文(博士)のデジタル化実施により作成された画像ファイルを基にpdf変換したものである
著者
渡辺 信三
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1963

博士論文
著者
斎藤 盛彦
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1988

博士論文
著者
待鳥 聡史 砂原 庸介 竹中 治堅 浅羽 祐樹 MCELWAIN KENNETH
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

政府の運営の基本原則、すなわち統治の制度やルールがいかに定められ、変更されるかについては、今日国際的な関心が高まっている研究課題である。本研究は、このような研究動向に棹さしつつ、統治の制度やルールの変更が憲法典の改正に拠らない場合を含む多様なものであることに注目し、その帰結として変更に際する多数派形成の過程にも著しい多様性があることを、理論モデルの構築、国際比較可能なデータセットの作成、さらに計量分析と事例分析による検証から解明し、それらの作業を通じて国際的な研究発展に貢献することを目指している。
著者
望月 新一
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

14年度は、「Hodge-Arakelov理論」のDiophantus幾何への応用に向けて理論を具体的に定式化する上で大きな進展を見た。主な発見および新しく得た視点は次の通りである:(1)以前は、この応用を妨げている技術的な障害を取り除くための手段として、遠アーベル幾何によるアプローチを考えていたが、様々な理由により、13年度に検討していたアプローチでは不十分であることが判明した。しかし、遠アーベル幾何の精神を受け継ぎながら、Galois圏だけでなく、もっと一般的な圏や圏論によるアプローチが有効になる可能性が高いことが分かった。(2)この圏論的アプローチを実現するための技術ないしは「言語」として、圏論や、集合論における「宇宙」の概念を活用した宇宙際幾何(inter-universal geometry)を開発した。(3)圏論的なアプローチでは、遠アーベル幾何におけるGrothendieck予想に対応する様々な結果を証明した。その中で代表的なのは、log schemeの圏に関するものである。なお、最近では、このような結果を、archimedeanな構造が付いているlog schemeの場合に拡張し、またこの結果の延長線上にある理論の中で、数体上の大域的な数論的Frobenius射(=正標数の関数体上のp乗写像の類似物)という興味深い対象も構成している。(4)Hodge-Arakelov理論との関係でいえば、以前考えていたHodge-Arakelov理論の基本定理である「比較同型」よりも、theta convolutionという対象による定式化の方が、圏論的なアプローチとの相性がよいことが分かり、そのような観点による、圏論とHodge-Arakelov理論との「融合」を推進することにした。また、Diophantus幾何への応用と直接は関係ないが、正標数のコンパクト双曲型代数曲線のGrothendieck予想の証明の完成に向けて様々な技術的な進歩があった。
著者
藤原 辰史
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

伊藤永之介の描いた東北地方の農村分析によって、わたしは、近代日本の開発政策におけるある重要な性質について明らかにすることができた。それは、開発を進める日本政府が、単に、農村住民の生活世界を破壊しただけではなくて、農村内外の非合法的な世界に対する農村生活者の柔軟な対応力に頼っていた、という点である。たとえば、農村住民たちは、開発政策と不況で苦しむなかで、非合法でどぶろくを作り、販売して苦境を凌いだり、軽犯罪をおかしてわざと逮捕され、一時的に苦境から脱出したりしていた。伊藤文学は、いかに農村住民たちが日本のダイナミックな開発政策を生き延びたのかについて、生き生きとかつコミカルに描いているのである。
著者
星 裕一郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

(1)劣p進体上の多重双曲的曲線、p進局所体、Kummer忠実体上の双曲的曲線、という3つの数論幾何学的対象に対するGrothendieck予想型の成果を得た。(2)望月新一氏との共同研究により、組み合わせ論的遠アーベル幾何学を発展させた。(3)双曲的曲線に付随する外Galois表現の核や像の研究を行い、数体上の一点抜き楕円曲線の上の穏やかな有理点の有限性を証明した。(4)合同部分群問題の副p版に関する共同研究を飯島優氏と行った。(5)p進Teichmuller理論における重要な対象である冪零許容固有束、冪零通常固有束の標数が3の場合の研究を行った。(6)数体の単遠アーベル幾何学を発展させた。
著者
木村 裕介
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

超弦理論に関する研究を進めました。数学の分野である代数幾何学の手法を用いて超弦理論のモデルを調べました。超弦理論は素粒子が点ではなくひも状の物体であるとする理論です。ひも状の粒子は9次元の空間にしか存在できないことが分かっています。私たちの普段目にする空間は3次元ですので、残りの6次元は小さくなり観測を逃れていると考えられています。この6次元空間は数学的に複雑な構造をしており、その上での物理を調べるには高度な数学の手法が必要と考えられます。このような理由から、超弦理論では高次元空間の物理を調べる必要があります。私は代数幾何学の手法を用いて、高次元空間上の物理を調べました。また、超弦理論に関する研究会に参加し、超弦理論への知見を広めることが出来ました。超弦理論の一分野であるF理論で最近、セクションのないモデルに興味が持たれています。セクションのないF理論のモデルは低エネルギー有効理論のゲージ群にU(1)部分を持ちません。私は、K3曲面と呼ばれる複素曲面の直積上の、セクションを持たないF理論のモデルを研究しました。代数幾何学の手法を用いて、調べたセクションを持たないF理論のモデルに現れるゲージ群や物質場を決定しました。これらのモデルを研究をするに当たり、代数幾何学の手法は有効でした。研究結果は論文として発表しました。査読の終了した論文は雑誌 Journal of High Energy Physicsに掲載されました。