- 著者
-
横松 宗太
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本年度ははじめに企業の地震保険保有行動について分析した.それによって有限責任である企業のリスクファイナンス行動の特徴や,それに対応するための保険商品の特徴を分析することによって,家計のリスクファイナンスとの相違を明らかにし,家計の保険問題がもつ特殊性を把握した.ついで,近年各自治体により創設されている住宅再建支援制度が家計の災害保険行動や,被災後の居住地・住宅選択行動に及ぼす影響について分析した.分析の結果,住宅再建補助制度は低年齢の家主によって利用され,家賃補助制度は高齢の家計に適用されることがわかった.住宅再建支援制度,家賃補助制度は,被災地からの人口流出を抑えることが確認されたが,その一方,住宅市場の分析を通じて,補助金の最終的な帰着先は一様ではないことも明らかになった.また住宅再建補助は災害保険行動に負の影響を与えることが確認された.また,リスクの不認知を解消する媒体として,地域の自主防災会に着目した.災害リスク認知の個人差は地域住民が協力して自主防災活動に取り組む過程で大きな問題となる.よって自主防災会はリスクコミュニケーションの媒体としても期待されているが,ある地域においてアンケート調査を実施したところ,多くの自主防災会で活動内容に関する議論やRCはなされていないとの調査結果を得た.そこで本年度は,ゲーム理論を応用して自主防災会の防災会長と住民の間のコミュニケーションの過程を理論的に分析した.分析の結果,自主防災会の始動が急務であり,一部の住民がリスクを強く認識しているほど,彼らがリスクを認識しない住民に地域リスクの大きさを理解させるよりも,自分達で活動を行ってしまう可能性があることが示された.一方,互いのリスク認識の根拠までを伝達し合う場合や,活動のコストを小さくする知恵を提供し合う場合にはコミュニケーションが成立する可能性が大きくなることも判明した.