著者
森 一代
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は、タイ在住のラオス人労働者と村落社会を結ぶ多様な互助実践について参与観察をおこなった。2002年以降、タイと国境を接するラオスの調査村では、タイの携帯電波を受信できるようになり、出稼ぎ労働者と家族らの国内通話が可能になった。これによって、送金といった経済活動に留まらない、電化製品や衣料品などの取り置き、仕事の紹介、タイを訪問時の宿泊提供に関する事前の打ち合わせなどが可能になった。またパクター郡の調査村では、内戦期を北タイのフエイルックで過ごした住民が多く、現在も緊密な交流が見られる。とくにフエイルック寺では調査村から見習僧を継続的に受け入れており、調査村での祭祀には必ず僧侶を派遣していることが、聞き取り調査から明らかになった。このように、タイに居住する村出身者が、自らの生活圏にあるものを活かすことで、送金に見られるような直接的な経済活動とは異なった範疇で、村落社会をタイに取り込ませていく外延化の様態が見られた。しかしながら、互助関係はさらに外延に拡大する渦中にあることが明らかになった。フエサイ郡での二度目の生業調査では、養豚の出荷先がラオス人から、県北の中国人コミュニティに代替され、豚の種類も、タイから入荷していたランドレース種から、安価かつ飼育が容易な在来種の黒豚に変更されていた。この変化に対し、住民らは現金一括払いによる大量の子豚を購入を、互助実践のひとつとして肯定的に捉えていた。中国経済の浸透による村落社会の変容は、ラオスの農村研究において、土地利用や経済的側面からの分析が中心である。規範の面から中国人の経済活動を評価する本事例は、新たな示唆に富み、今後の検討の余地を大いに残すものである。
著者
高木 博志
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

明治維新と京都文化の変容というテーマのもと、以下の諸点を明らかにした。(1)賀茂別雷神社所蔵の「日次記」(17世紀から20世紀まで)をはじめとする文書の分析を通じて、賀茂祭が、前近代の「宮中の儀-路頭の儀-社頭の儀」といった流れの「朝廷の祭」から、東京の皇居とは切れた「神社の祭」へと変容する過程を研究した。(2)近世の東山や嵐山、あるいは公家町の桜の名所が、由緒や物語とともにあったのが、近代のソメイヨシノの普及により、ナショナリズムと結びつけられて考えられ、また新たな名所が形成された。(3)近世の天皇のまわりには、陰陽師・猿回し・千寿万歳などの賤視された芸能者や宗教者の存在が、不可欠であった。そのことを正月の年中行事の言祝ぎや、天皇代替わり儀式の陰陽師の奉仕などから検証した。近代になってそうした雑種賤民は東京の皇居から排除され、天皇には近代の聖性が獲得される。またそれに照応して、京都御所、伊勢神宮・橿原神宮・賀茂社から全国の神社に至る神苑などの清浄な空間が連鎖して生みだされる。(4)古都京都と奈良の文化財保護政策の展開や、国風文化・天平文化といった「日本美術史」の成立について深めた。(5)近世の九門内の内裏空間は、人々の出入りが自由な開かれた場であり、公卿門(宜秋門)前は観光スポットであり、また京都御所の中にも、節分やお盆や即位式の時に、庶民が入り、年中行事をともに楽しむことがあった。今回、翻刻した『京都御所取調書』上下(明函193号)は、その研究の過程で出会った史料であり、近世の京都御所の場の使われ方・ありようをリアルに伝える。
著者
佐藤 卓己 佐藤 八寿子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

従来のテレビ論やテレビ史の大半は娯楽文化論か政治報道論であり、教育・教育とテレビの関係は「子どもとメディア暴力」や「メディア・リテラシー」に集中していた。本研究では「教養のメディア」としてテレビ放送の意義を再検討することをめざした。『テレビ的教養-一億総博知化の系譜』(NTT出版・2008年)などにおいて、NHK、民間放送、放送大学など諸組織ごとに分かれた既存の個別研究を統合する放送メディア教育研究の新しい枠組みを提示した。
著者
室崎 美紀 (石田 美紀)
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

前年度に引き続き、ファシスト政権下にアフリカ各地の植民地(リビア,エチオピア,ソマリア)において製作された映画を重点的に調査した。とりわけ、砂漠が占領地の大部分を占めるリビアにおいて製作された作品の分析に傾注した。その理由は以下の二点にある。まず、当該作品群がファシスト・イタリアの推進する、植民地支配の安定と国民的メディウムとしての映画産業の整備という「近代化」の達成を計るうえで、重要なテクストであること。次に、圧倒的な光量が所与の条件としてある砂漠にてロケーション撮影されたフィルム群の視覚的肌理が、視聴覚表現媒体である映画が当時達成し、洗練された、スタジオにおける三点証明が生み出す「白く輝く」視覚的肌理が担った文化的意義を考察するための理想的な参照項となること。以上の二点をテクスト分析の主軸とし、リビア砂漠で撮影された劇映画をニュース映画における砂漠表象と照合させ以下の結論を導きだした。砂漠のシーンにてはからずも溢れた白い光はファシスト・イタリアが求める植民地他者表象を大きく裏切り、植民地経営という近代化プロジェクトの限界を予言したものであること。さらに砂漠表象分析から導きだされたこの結論を多角的に掘り下げるために、1930年代半ばから建築の分野で盛んに討論れていた「地中海性」の動向とリンクさせ、「遅れていた」はずのリビアが、ファシスト・イタリアにとって未来をも先取っていた空間であったことを論じた。以上の結果は、「ファシスト政権期イタリア映画における「白」の視覚、「白い電話」と白い砂漠」(『美学』第56巻第二号(通号222号)41-54頁)に発表した。
著者
高倉 弘喜
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

まず、研究対象のデータとして、数Gbpsクラスの巨大なトラフィックデータを不正アクセス検知装置(IDS)で観測した警報を対象とした。京都大学に設置されたIDSでは、毎分200件程度の警報が出ている。ただし、このうちの99%は誤検知、あるいは、被害を生じない過去の脆弱性を狙った攻撃である。残り1%は、既知ではあるが脆弱性対応が不完全で被害を生じる可能性の疑われる攻撃、もしくは、攻撃の存在を遮蔽するため意図的に過去の攻撃を模倣した未知の攻撃である。また、大量の誤検知に埋もれてしまっているが、(D)DoS攻撃に関する警報も散発的に発せられている。本研究では、この1%の攻撃、あるいは、(D)DoS攻撃を抽出する手法を開発した。まずは、IDSに関するマイニングアルゴリズムのベンチマークデータとして広く利用されているKDDCup99データについて調査を行い、当該データがIDSの性能評価には不向きであること、特に、41次元データ中8次元程度しか有為な情報を持たないため、巧妙化・複雑化した最近の攻撃を反映できていないことを示した。次に、京都大学のIDSデータに対するマイニングアルゴリズムの開発を行った。前日、1週間前、1ヶ月前、3ヶ月前、6ヶ月前それぞれの警報データを全て正常データ、すなわち、誤検知として学習させクラスタリングを行なった。次に、生成されたそれぞれのクラスタを用いて、当日の警報データの判定を行った。さらに、異常データと判定された警報を、ハニーポットで検知された攻撃データと比較した。その結果、僅か十数件しかなかったが、マルウェアallapleのゼロディ攻撃が開始されたことによる警報であることが判明した。また、マイニング結果の可視化手法も開発し、上記allapleに起因する警報を強調表示したり、誤検知に埋もれていた(D)DoS攻撃を強調表示することで、攻撃を認識しやすい可視化を実現した。
著者
重田 眞義 ベル アサンテ
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2009年度は、博士学位論文「地域住民による文化遺産管理の取り組み-エチオピアのハラールとアジスアベバにおける博物館活動の事例-」に関する研究成果の公刊とその準備に精力を集中した。研究分担者(特別研究員)が日本ナイル・エチオピア学会誌(Nilo-Ethiopian Studies)(1報)および、UCLAの発行するAfrican Art誌に論文2報を投稿し掲載された。また、2008年度にエチオピアのハラールで主催した国際ワークショップの成果をまとめて、京都大学アフリカ地域研究資料センターが出版する国際学術雑誌African Study Monographsの特集号を代表者と分担者が共同で編集出版した。分担者の受け入れ先である京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科においては、在来知研究グループを主催する受け入れ研究者(研究代表者)と協力してアフリカにおける文化遺産保全に関する研究会を2回開催した。11月にはアジスアベバ大学にて開催された国際エチオピア研究学会に参加し、地元アジスアベバ大学における同分野の研究者との意見交換をおこなった。あわせて受け入れ先の大学院アジア・アフリカ地域研究研究科が運営するエチオピア・フィールドステーション主催の国際ワークショップをアジスアベバで組織し、ケニア、イギリス、日本から10人の研究者、実践者を招いて研究発表をおこなった(発表題目:Communities and Cultural Heritage Centers in East Africa : A call for collaboration.)。また、これらと並行してこれまでの成果をまとめた単著の出版準備をすすめた。以上の活動を展開して、2010年5月にナイロビにおいて開催される国際学会Shaping the Heritage Landscape : Perspectives from East and southern Africa British Institute in Eastern Africaにも参加発表することが決まっている。国内では京都大学アフリカ地域研究資料センター公開講座「創る」アフリカの人びとが創りだす美と技の世界で講師をつとめたほか、JSPSサイエンスダイアログに協力して奈良と福井の高校において2回講演をおこなった。
著者
倉光 正己
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究では、広い分野で注目される自己組織化の概念を、非線形現象の研究では蓄積のある電気回路網を具体的対象として解明することを目的とした。特に、従来、自己組織化の具体例とされてきた周期現象、同期現象などの秩序化の対極にあるカオス現象に注目し、その発生条件、物理的本質を解明することにより、非線形電気回路網に生じる諸現象を統一的に理解することを目指した。本研究の主な成果は以下の通りである。(1)非線形能動素子1個、線形で正のインダクタ及びキャパシタ合わせて3個、線形抵抗1個、以上計5個の素子で構成できる11個の3次元発振器群を考えた。パラメタ値の変化に伴う平衡点の安定性の変化とカオス発生との関係を明らかにし、これらの発振器群をカオスの発生に関して分類することに成功した。これにより、3次元発振器におけるカオス発生の必要条件を得ることができ、従来、試行錯誤的にしか求められなかったカオスを系統的に探索することができることになる。今後、同様の考え方を、他の非線形特性素子を用いた系、あるいは4次元以上の系に対して拡張し、一般的なカオス発生条件を明らかにすることが課題である。(2)以上の結果から、カオスとは、非線形性の強さに伴い、非発振から発振状態(交流)、さらに発振停止(直流へと変化する経過で、発振状態の一つの特殊な状況として生じ得るものであることが明かとなった。今後、筆者が先に提唱した「平均ポテンシャル」を拡張し、これら一連の現象を物理的、統一的に理解する必要がある。(3)非線形素子が2個の系として、同一特性の2個の弛張振動発振器の結合系を考察し、2つ存在する同期状態の一方が、非線形性が強くなるとき不安定化する現象を見いだした。多数の非線形素子を含む系の振舞いを理解する基本として、この現象を物理的に解明することが今後の課題の一つである。
著者
加藤 幹郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

映画は、今年一九九五年で満百歳をむかえる。しかし、これは映画が発明されて百年になるという意味ではない。映画を撮影鑑賞するのに必要な機材は、一八九五年以前にすでに実用化されている。では今年を映画生誕百年と呼ぶのは、どういうことなのか。それは映画が今日の上映形態に近いかたちで、初めて公共の場所でスクリーンに投影され、それを見るために一般の観客が入場料をしはらって一堂に会したのが、ちょうど百年前のことになるということである。つまり映画が、のちに映画館と呼びうるような場所で公開された一八九五年を、映画元年としているのである。今日さまざまな種類の映画史が書かれ、映画の歴史は映画作品の歴史、映画作家や映画製作会社の歴史、あるいは映画技術の歴史として広く知られている。しかるに、われわれは肝腎なことをまだよく知らないでいる。それが映画館の歴史であり、映画館をにぎわせた観客の歴史である。だれがどのようにして映画をつくったのかという歴史は、比較的多くの研究者によって解明されている。しかし、だれがどのような場所で映画を見せたのかという歴史、そして観客がどのように映画を享受したのかという歴史は、いまだに不分明な点が多い。括弧つきとはいえ、「映画館」生誕百年を祝う今年は、劇場とそこにつどう観客の歴史の研究元年としなければならないだろう。
著者
長谷川 誠紀
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

家免を用いた片側肺結紮モデルの確立本実験に入る前に、適度な肺障害を起こすモデルの確立を行った。一定の肺障害を再現できるモデルを作成するため試行錯誤した結果、(1)家免の体温保持が極めて重要である。体温が35℃以下になると障害が大幅に減少する。このため、温水潅流式ブランケットを使用、直腸温を38℃に保持した。(2)肺門をクランプする器具が重要である。家免の肺血管・気管支は極めて脆弱なため、器具によってはクランプによる組織損傷で実験結果が左右される。最終的に、バクスター社製ラバークッション付きクランプ鈕子を採用した。(3)肺門遮断時間は120分が適当である。我々の使用したモデルは、左肺動静脈、気管支の遮断にて温阻血を加えるものであるが、この温阻血時間で障害の程度を調節できる。温阻血時間を90分とすると、再潅流120分後の純酸素呼吸による動脈血ガスは平均10mmHg程度となり、コントロール群の差が有意に出ない恐れがある。一方、温阻血時間を120分とすると、再潅流120分後の純酸素呼吸による動脈血ガスは平均110mmHg程度となり、ネオプテリンが有効であれば有意差を持って高い酸素化を示す可能性がある。以上のようにモデルを確定し、ネオプテリンを投与する実験を開始した。以上のように、ネオプテリンは家免肺門クランプによる温阻血障害を全く抑制しなかった。われわれはネオプテリンのラットにおける脳虚血再潅流障害抑制効果を既に証明しており、今回の結果が種差によるものか臓器の違いによるものかを明らかにする必要がある。われわれは続いて酸化型ネオプテリンを用いて実験を重ねて行く方針である。
著者
足立 明 山本 太郎 大木 昌 加藤 剛 内山田 康
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、アジア諸社会において行われてきた公衆衛生に関わる社会開発の客観的・実態的把握に加え、政治的、社会文化的に構成され演出されてきた「清潔さ」「衛生」「健康」の関する語りやイメージを把握し、人々の社会開発をめぐる生活世界を解明することであった。そして、複数の社会での比較研究を通して、「開発現象」の共通性と個別性を明らかにすることを目指した。具体的には、(1)スリランカ、インド、インドネシアにおける公衆衛生プロジェクトの事例研究と、それに付随する様々な「開発現象」の学際的資料の収集、(2)開発言説を軸にした公衆衛生をめぐる新しい開発研究における枠組みの構築の2点であった。その結果、この3年間収集してきた資料は保健衛生に関わる開発プロジェクト、特に村落給水計画事業に関わるものであった。また、それと相前後して、調査のとりまとめに向けた理論的枠組みの再検討(アクター・ネットワーク論、サバルタン研究論)と、このような医療衛生研究の背景となる社会史的な資料の検討も行った。また、オランダに所蔵してあるインドネシアの医療史関係の資料も収集し分析した。ただし、とりまとめの研究成果報告書には、時間の関係で、村落給水事業の分析を十分に行うことは出来なかった。今後、村落給水計画に関する資料の整理を行い、開発言説と公衆衛生との関わりを論じていきたい。
著者
向川 均 佐藤 均
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

熱帯大気には活発な対流活動を伴う循環変動が存在するが、これまで熱帯大気循環の予測可能性は正しく評価されていなかった。このため、本研究では、熱帯大気循環の予測可能性評価に必要な熱帯域有限振幅不安定モードについて気象庁アンサンブル予報システムを用いて詳しい解析を行い、その力学特性を明らかにした。また、熱帯域大気循環偏差が、中高緯度域の大気循環の予測可能性に及ぼす影響についても評価した。
著者
松井 正文 西川 完途
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

流水性種からみたボルネオ産両生類多様性の起源を探るため、マレーシア領のマレー半島とボルネオ島のサラワク州において野外調査を行い、得られた標本や組織サンプルから形態・音声・分子に基づく系統分類学的な解析を行った結果、ボルネオの両生類ファウナは高度の固有性をもち、極めて古い時代に周辺地域から孤立して独特の進化を遂げたこと、マレー半島の両生類相の固有性が高いことが明らかになった。
著者
高野 裕久 小池 英子 柳澤 利枝 井上 健一郎
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

粒子状物質・エアロゾルやそれらに含有される化学物質の健康影響について、免疫細胞と気道上皮細胞への影響に注目し、実験的に評価した。その影響は、微小粒子・エアロゾルに含有される化学物質種により異なること、また、ベンゼン環数、官能基の有無やその種類、配置、酸化活性等が健康影響を規定する要因として重要であることも明らかにした。併せて、健康影響評価に有用なバイオマーカーを探索・同定し、健康影響発現メカニズムを分子レベルで明らかにした。
著者
MORI James Jiro 加納 靖之 柳谷 俊 大見 士郎
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

2009年7月、中国・?川地震(2008年、Mw7.9)による余震域の上空を皆既日食が通過した。これは地球潮汐が小規模地震を誘発するかどうか調べる貴重な機会となった。2008年5月から2009年9月までの期間の余震について中国地震局のデータを調べたところ、M1.3以上の地震は4万回を超えていた。われわれはスペクトル解析やスタッキング法などいくつかの方法を使って16ヶ月分のデータを研究し、潮汐の振幅の大きい日食期間中のものはとくに詳しく調べた。その結果、スペクトル解析においては、12時間の地球潮汐との弱い相関関係を見つけることができた。われわれは断層地域に掘られたボアホールでハイドロフォン観測を行うことも計画していた。しかし、ボアホールの完成が5ヶ月も遅れたため、日食に合わせて計器を設置することができなかった。その後、ボアホールに設置された地震計は多くの小規模地震を記録している。ここでも、われわれは12時間の地球潮汐との弱い相関関係を見つけることができた。
著者
横松 宗太
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度ははじめに企業の地震保険保有行動について分析した.それによって有限責任である企業のリスクファイナンス行動の特徴や,それに対応するための保険商品の特徴を分析することによって,家計のリスクファイナンスとの相違を明らかにし,家計の保険問題がもつ特殊性を把握した.ついで,近年各自治体により創設されている住宅再建支援制度が家計の災害保険行動や,被災後の居住地・住宅選択行動に及ぼす影響について分析した.分析の結果,住宅再建補助制度は低年齢の家主によって利用され,家賃補助制度は高齢の家計に適用されることがわかった.住宅再建支援制度,家賃補助制度は,被災地からの人口流出を抑えることが確認されたが,その一方,住宅市場の分析を通じて,補助金の最終的な帰着先は一様ではないことも明らかになった.また住宅再建補助は災害保険行動に負の影響を与えることが確認された.また,リスクの不認知を解消する媒体として,地域の自主防災会に着目した.災害リスク認知の個人差は地域住民が協力して自主防災活動に取り組む過程で大きな問題となる.よって自主防災会はリスクコミュニケーションの媒体としても期待されているが,ある地域においてアンケート調査を実施したところ,多くの自主防災会で活動内容に関する議論やRCはなされていないとの調査結果を得た.そこで本年度は,ゲーム理論を応用して自主防災会の防災会長と住民の間のコミュニケーションの過程を理論的に分析した.分析の結果,自主防災会の始動が急務であり,一部の住民がリスクを強く認識しているほど,彼らがリスクを認識しない住民に地域リスクの大きさを理解させるよりも,自分達で活動を行ってしまう可能性があることが示された.一方,互いのリスク認識の根拠までを伝達し合う場合や,活動のコストを小さくする知恵を提供し合う場合にはコミュニケーションが成立する可能性が大きくなることも判明した.
著者
宇佐美 文理 秋庭 史典 岩城 見一 上村 博 魚住 洋一 碓井 みちこ 加藤 哲弘 篠原 資明 長野 順子 根立 研介 岸 文和 島本 浣 西 欣也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、〈醜〉という〈否定美〉に注目した。それは広い意味でのアートを、社会的、政治的文脈に戻して捉え直すことが、今日の大切な課題だと考えられるからである。〈醜〉の判定と、それを〈排除〉しようとする感情とは、人々の倫理観や宗教観と深く関わっている。また政治イデオロギーや、宗教的信念は、人間の感情の奥底にまで染み込み、美や醜の判断はそれに結びついている。〈醜〉に考察を加えることは、単に非歴史的な美的カテゴリー論にとどまるものではなく、きわめて歴史的社会的、そして政治的な文脈の中で知らないうちに形作られる、私たちの感情の文化的枠組みに光を当て、そこに隠れている力学を批判的に考察する文化研究的作業になる。古今東西の〈醜〉現象(判定)と、〈排除〉の感情の構造を考察し、現在の、私たち自身の経験のあり方に反省を加えること、これが本研究の主な課題となる。特に「醜」が主題にされたのは、このような否定美への感情こそが、人間の美意識の変遷のありようをむしろ鮮明に示すと思われるからであるし、また同時に、美的カテゴリーと政治的感情、人間経験におけるイメージと言語、感情とイデオロギーとの切り離せない関係を灸り出す重要なヒントになると思われるからである。本研究は、平成17、18年度は各年4、5回の公開研究会を開き、ゲストをも迎えて、課題遂行のための議論の場を設けた。最終年度は、これらの成果に基づく報告書作成に当て、分担者から寄せられた諸論考において、多様な切り口で醜の問題が論じられている。この報告書は、「醜の国」が「美の国」以上に豊穣な国であること多様な角度から照らし出すであろう。
著者
山本 聡史
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2011-01-24

This study explored the development of a stationary robotic strawberry harvester that was combined with a movable bench system as part of the development of an industrially production system for a strawberry in a plant factory. At first the difficulty of approaching target fruit was investigated using table-top plants cultured in a greenhouse. Then the maximum force needed to separate fruit from the peduncle was measured. Based on these results, an end-effector was designed with three unique functions; (1) suction cup was vibrated to minimize the influence of the adjoining fruits at the time of approach; (2) compressed air was blown toward the adjoining fruits to force them away from the target fruit; (3) peduncle was removed with the motion of tilting and pulling the target fruit. Next, an optical system to equip the machine with the ability to detect and determine the position and coloration of strawberry fruit was constructed. The position of the fruit was detected from below with a stereo-camera. The coloration measurement unit was set against the bed of the movable bench system at fruit level to capture images of target fruit. Considering the spectral reflectance characteristics of strawberry fruit, the coloration measurement unit was equipped with red, green, and white LEDs. Finally the stationary robot was tested in an experimental harvesting system in which the robot was combined with a movable bench unit. In the experiment system, the stationary robot enabled highly stable harvesting operation.
著者
伊達 洋至 小池 薫 板東 徹 庄司 剛 陳 豊史 藤永 卓司 岡本 俊宏 佐野 由文 大藤 剛宏 山根 正修
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、京都大学(呼吸器外科および救急医学分野)と岡山大学(呼吸器外科)の共同研究により、心停止ドナーからの肺移植臨床応用をめざすものである。体外肺還流(ex-vivo lung perfusion, EVLP)の実験系を用いて、両大学で大動物実験を継続した。京都大学では、EVLP還流液としてのET-Kyoto液の有用性とEVLPによる肺水腫を来したグラフト肺修復の可能性を報告した。一方、岡山大学では、EVLP中に吸着膜を使用して炎症性サイトカイン(TNFαとIL-8)を除去する効果を検討し、サイトカイン以外の因子がグラフト肺の傷害に関与している可能性を示した。
著者
和田 修二 高木 英明 田中 昌人 坂野 登 柴野 昌山 岡田 渥美
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

今年度において特に明らかになった重要な知見として次のようなものがある。1.今日の大学教育のあり方を考える上で、最も重要な論点の一つは、大学教育におけるいわゆる「一般教育」の位置づけにあると思われる。しかし、戦後の大学改革の経過においても「専門教育」と「一般教育」との接続の仕方は未だ十分に改善されているとは言い難く、その結果「一般教育」の必要性すら疑問に付されている。しかし、一方で専門的な学習・研究にとって「一般教育」は依然として不可欠であり、また他面、現在ではむしろ大学が融通の効かない専門家ではなく、「一般教育」を十分に身につけ広い視野をもった人材育成の場となることも各界から望まれているという事実もあり、この点に鑑みれば、「専門教育」の準備段階としてのみならず、それをより高い次元で総合し、広め深めるもっと積極的な意義と位置を「一般教育」に与えることが、今後の大学改革にとって必要な視点と思われる。2.今日の大学のあり方の問題に関わって、企業による新卒学生の選抜過程や、学生生活の実態の調査から次のような新しい観点も提出された。従来大学の機能は専ら専門的な技能や知識の習得にあると考えられてきたが、しかし現実には、大学は各学生の一種の社会化をフォ-マル・インフォ-マルに促進する「かくれた」機能ももっており、この点も明確に考慮にいれた大学の改革が必要である。3.近年社会人の再教育・継続教育の場として大学が注目されているが、大学入試制度の一環たる社会人入学の選抜方法は未だ模索中であると言える。わが国の選抜方法は、諸外国に比べ入学希望者にとって比較的条件の厳しいものであり、この点では更に多様で開かれた選抜方法の可能性が検討される必要がある。