著者
田中 義行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

辛味はトウガラシ果実の重要形質である。辛味の強弱に関する嗜好性は、国・地域・用途で異なっており、辛味成分カプサイシノイド含量を制御できる育種技術が求められている。これまでに、生合成経路の一遺伝子であるputative aminotransferase(pAMT)遺伝子の機能欠損がカプサイシノイド含量を激減させることを示した。さらに近年、1.カリブ 原産の栽培種Capsicum chinenseには、トランスポゾンの挿入と転移を介した様々なpAMT変異が存在すること、 2.トランスポゾンの挿入位置が辛味の強弱と相関していることを明らかにしつつある。これら種々のpAMT変異を導入し、その遺伝子マーカーを利用することで辛味程度を簡便に調整できる育種技術を確立できる可能性がある。本研究課題では、pAMT遺伝子の構造変異がトウガラシの辛味低下を引き起こすメカニズムを解明し、それに基づいてカプサイシノイド含量の新規調整法を確立する。本年度は、辛味系統のレッドハバネロを元にした戻し交雑集団を用いて3種の変異型pAMTとカプサイシノイド含量に及ぼす影響を調査した。結果、戻し交雑集団においても異なるpAMT遺伝子型はカプサイシノイド含量を異なる程度に低下させることを明らかにした。さらに戻し交雑を続けることで、辛味程度だけ異なるトウガラシ系統を育成できると思われる。また研究の過程で、新規のpAMT変異アレルも発見し、塩基配列を調査し、その構造変異を明らかにした。新規アレルにおいてもトランスポゾン挿入が認められ、Capsicum chinenseのpAMTアレルの多様性にトランスポゾンが関与することが示唆された。
著者
上原 章寛
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

塩化カルシウム6水和物は、常温で液体の濃厚電解質である。濃厚電解質中でのイオンの挙動は希薄な電解質水溶液中と異なる挙動を示すため、本研究ではこの液体を「常温無機イオン液体」と名付け、次のことを明らかにした。ウランイオンはU(VI)からU(V)に電気化学的に還元され、その後不均化反応によってU(VI)及びU(IV)を生成する。また、希薄な電解質中では短寿命のU(V)は常温無機イオン液体中では比較的長寿命で同化学種を電解吸光分光法により検出することに成功した。U(VI)を含む水相と酸化還元体を含む有機相の界面において水相中のU(VI)の還元及び有機相の還元体の酸化に起因する電子移動電流を検出した。
著者
劉 欣寧
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2013

博士論文
著者
朝田 郁
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、イエメン・ハドラマウト地方出身のアラブ移民ハドラミーに注目し、彼らの移住活動を支える現代的なファクターの解明を目的とする。特にインド洋海域世界の西側、東アフリカとアラビア半島の間に構築された、彼らのネットワークの多元的な理解を目指している。これまでの調査では、東アフリカ・タンザニア島嶼部のザンジバルと、アラビア半島の湾岸産油国アラブ首長国連邦のドバイ、アブダビ、そしてアジュマーンを対象として、現地に存在するハドラミーのコミュニティでフィールドワークを実施した。ザンジバルは東アフリカ沿岸部の中でも、20世紀の後半まで多くのハドラミー移民を集めた場所であり、アラブ首長国連邦は近年、ハドラミー移民の新たな移住先となっている場所である。調査においては、ホスト社会と移民の関係を使用言語、共有されたイスラーム的規範、そして移民の送り出しと受け入れに関わるエスニシティの役割を通して記録している。2020年度は、後述のように新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受けて、現地への渡航が不可能であった。そこで収集済みの調査資料から、移民とホスト社会で共有されているイスラーム的規範についての分析を進めた。ハドラミー移民は、独自のスーフィー教団をホスト社会に導入しており、ザンジバルのコミュニティではその活動が顕著に見られるようになっている。特に、長年にわたって現地政権が禁止していた公の場での宗教的祭事が、近年、スーフィー教団を中心に様々な形で復活している。一方で、アラブ首長国連邦におけるハドラミー・コミュニティでは、スーフィー教団の活動は認められるものの、その影響は限定的なものに留まっていた。また、東アフリカからの再移住者とイエメンからの直接の移住者の間でも、スーフィー教団の活動に対する関心に温度差があり、必ずしも同様のイスラーム的規範が共有されているとは言えない面があった。
著者
田所 竜介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究代表者のライブイメージングにより明らかとなった色素細胞から表皮細胞へのメラニン色素の輸送の結果に基づき、輸送方法と色素輸送量の関係に注目して輸送の分子機構と普遍性多様性の理解に努めた。色素細胞内で働く輸送を制御する分子および表皮に発現して輸送を促す分子を同定した。また色素輸送を解析する新たな手法も確立した。加えて、輸送の普遍性を問うためにガン細胞についても解析をおこない、ガン細胞が多様な小胞を放出することも見出した。
著者
後藤 和也
出版者
京都大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

アルツハイマー型認知症患者に対しては音楽療法が有効という報告は多くあるが、パーキンソン病(Parkinson disease、以下PD)患者における非運動症状(認知機能低下、抑うつなど)に対して音楽療法が有効であるという報告は少ない。また、現時点ではPD患者の非運動症状に対する根本的治療法はない。本研究では認知機能の低下を伴うPD患者へ音楽療法を行い、その有効性を検証することを目的とする。具体的に、音楽療法士による小グループでの音楽療法を一定期間行い、評価スコアを用いて非運動症状が改善したかを評価する。また、介護者へのインタビューも行い、負担の軽減がみられたかを評価する。
著者
原田 浩二 小泉 昭夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

南アジアの島国・スリランカでは1990年代より、セイロン島中東部、中北部および周辺地域において、慢性腎不全が急増している。これまでに続いて遺伝的素因を検討し、SLC13A3、KCNJ10、LAMB2の候補遺伝子を示した。バルカン半島腎症の原因とされる腎毒性を有するウマノスズクサ、また農薬曝露の関与について検討するため、尿中アリストロキア酸、ネオニコチノイドの分析方法を検討した。また症例対照研究を行った。結果として、検出できる量のアリストロキア酸は見出されなかった。病理組織の検討も行い、電子顕微鏡観察を行った。腎組織の電子顕微鏡観察は、CKDuの病因における重金属毒性を支持する証拠はなかった。
著者
植野 洋志 武市 陽一郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1.CAD65遺伝子をパン酵母に組み込み、酵母内可溶化タンパク質としてグルタミン酸デカルボキシラーゼを発現する系を作成した。2.発現効率の向上を目指して、培地中に加える炭素元の検討、誘導をかけるためより効率のよい誘導因子の探索、ベクターの変更、プロモーターの変更、ターミネータの変更、及び宿主の変更を行った。3.発現タンパク質の安定性に関わる因子について見当を行った。熱安定性について調べた結果、発現タンパク質は40℃に置くことで失活するが、基質アナログ、特に拮抗阻害剤、の存在下では顕著な熱安定性を示した。この結果より、基質アナログはGAD65の構造安定化に寄与し、その抗原性を長期にわたり保持できる可能性を示唆することができた。4.GAD活性の測定は従来より放射性同位元素であるC-14でラベルされたグルタミン酸を気質として用い、遊離の二酸化炭素中の放射線量を定量する手法がとられてきた。放射性同位元素の使用は環境問題とも関連して避けたいのでこれに代わる高感度で簡便な二酸化炭素測定装置の開発を行った。その結果、マイクロキャピラリー管と光センサー・カウンターの組み合わせが有効であることが判明し、現在さらなる改良を加えている。5.我々が開発した発現系は外来タンパク質の発現に有効利用できることをヒト由来のヒスチジンデカルボキシラーゼを発現することで示すことができた。これにより、従来困難であった微量タンパク質の大量培養・精製に応用できると考える。
著者
太田 出 神長 英輔 赤松 紀彦 河原 典史 土屋 由香 川島 真 奈良岡 聰智 下平 拓哉 石原 俊 浅野 亮 太田 淳 楊 名豪
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、従来の歴史学ではほとんど検討されることのなかった「海洋」問題を正面から取り上げ、新たな学問領域を構築することを目的とする。これまでも「海域アジア史」「海の帝国史」など「海(海洋)」を標榜した研究は少なくなく、興味深い歴史像が提出されてきたが、「海」それ自体、すなわち国家権力が「海洋」を囲い込む「領海主権」、そこで確保・利用される「海洋権益」、そこに形成される「海洋社会」を意識的に中心に据えたものはほとんどなかった。従って本研究では、歴史学・国際政治・海洋法・軍事・社会学・文化史などの諸方面から学問横断的に分析し、近代から現代までをも視野に入れた総合的な「海洋の歴史」研究を切り開く。
著者
近藤 尚己
出版者
京都大学
雑誌
戦略的な研究開発の推進 戦略的創造研究推進事業 RISTEX(社会技術研究開発)
巻号頁・発行日
2021

長引くコロナ禍が子どもや若者、女性へ及ぼす影響のメカニズムは十分明らかになっておらず、支援ニーズの増加と支援者間の情報共有や連携の困難により相談支援の現場負荷が高まっている。支援対象者の特徴の把握や支援プラン策定は、支援者の経験とスキルに大部分が委ねられており、経験の浅い支援者などへの支援と地域ぐるみの支え合いを可能にする環境整備が急務となっている。 本プロジェクトでは、①3万人の縦断インターネット調査データを活用して、コロナ禍が子どもや若者、女性に及ぼす社会的孤立・孤独や健康・生活への影響を分析する。②分析で得た知見を踏まえ、これまでに開発してきた支援者の支援データシステムの「子ども・若者・女性版」をつくる。③別途開発してきた「住民主体の共生型地域づくり普及支援ガイド」および「地域住民を含む顔が見える社会資源マップ」などのツールをアップデートして、同システムに接続する。このシステムには対象者のタイプ(ペルソナ像)情報や支援記録の分析に基づく優れた支援者のナレッジを盛り込む。支援対象者のタイプとタイプ別の効果的な支援プランを提示し、これを現場とオンラインの両面(ハイブリッド)のネットワーク上で運用する。地域の人々の誰もが支援の入口(ドア)となり、どこから入ってもケアの輪に包摂され、互いに支え・学び合い、豊かなケアが継続する「どこでもドア型」のケアネットワークを構築する。
著者
IP Ivan
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

Positive Representationsに関する研究を行った。主にPositive Representationsのクラスター構造を発見して、普遍R行列の分解を作った。それを使って、A型の場合、最も重要な予想二つがやっと証明した。特に、Borel部分のテンソル積分解を明示的に書けて、さらに、シレダ・シャピロによってPositive Representationsのテンソル積分解も同じようなアイデアで証明した。彼らとの共同研究でPeter-Weyl定理も同様に証明した。また、ペナー・ゼットリンの共同研究によって、N=2 タイヒミュラー超空間を作って、奇次元など色んな性質を研究した。
著者
佐野 真由子 有賀 暢迪 飯田 豊 市川 文彦 井上 さつき 君島 彩子 辻 泰岳 牧原 出
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究は、研究史の空隙となっている第二次大戦後の万国博覧会史に取り組むものであり、時期的対象は、万博を統括する政府間組織BIE(在パリ、1931年発足)が大戦終結を受けて活動を再開した1945年から、植民地独立を主要因とする国際社会の変容を背景に、今日も有効な万博の新定義を打ち出すに至った1994年までである。その目的は、催事としての万博それ自体を詳解することではなく、万博史研究というレンズを通じて、国際情勢から開催・参加各国内の政局、関係業界の動向、関係者個々人のミクロな経験までを途切れなく見通し、かつ、自ずと世界の多様な視点に立脚する、新たな戦後世界史叙述の可能性を提示することにある。
著者
岡 真理 宮下 遼 山本 薫 石川 清子 藤元 優子 福田 義昭 鵜戸 聡 田浪 亜央江 中村 菜穂 前田 君江 鈴木 珠里 石井 啓一郎 徳原 靖浩 細田 和江 磯部 加代子 岡崎 弘樹 鈴木 克己 栗原 俊秀 竹田 敏之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

アラビア語、ペルシア語、トルコ語、ヘブライ語など中東の諸言語で、中東地域で生産される作品のみならず、中東に歴史的出自を持つ者によって、欧米など地理的中東世界を超えた地域で、英語、仏語、独語、伊語などの西洋の諸言語で生み出される作品をも対象に、文学や映画などさまざまなテクストに現れた「ワタン(祖国)」表象の超域的な分析を通して、「ワタン」を軸に、近現代中東世界の社会的・歴史的ありようとそのダイナミズムの一端と、国民国家や言語文化の境界を越えた共通性および各国・各地域の固有性を明らかにすると同時に、近現代中東の人々の経験を、人間にとって祖国とは何かという普遍的問いに対する一つの応答として提示した。
著者
岩室 史英 舞原 俊憲 太田 耕司 戸谷 友則 岩室 史英
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題では、広視野の主焦点を有するすばる望遠鏡に、多天体ファイバー分光器を開発して搭載すること、およびそれを用いて、本研究題目にかかげた「初期銀河と原始クェーサーの形成過程の研究」を行っていくことを目標にして、FMOSと呼ばれる新しい機能を備えた分光器システムの開発的研究を進めてきた。この分光観測装置は、可視域の0.9ミクロン帯から1.8ミクロンまでの近赤外線スペクトルを、約400本の光ファイバーを用いて大型分光器に導入するもので、研究計画では、赤方偏移の値が2〜5以上の比較的宇宙のはじめに存在している銀河とクェーサーなどを、観測目標にしながら、予定されていた試験観測期間にそれらの形成過程の糸口を得ることを想定していた。実際にFMOSを搭載する補正光学系や姿勢制御機構を用いた試験観測を2度実施したが、主焦点制御機構の不具合や、複雑な分光器システムの調整に予想以上の時間が必要となったため、銀河やクェーサーをターゲットにした試験観測自体は少し実施時期が遅れてきている。しかし、広視野かつ多天体分光機能をもつFMOSに対する今後の研究全般に対する期待は大きく、この装置をつかった色々な研究課題の検討もまた、予想以上に進んできた。したがってこの研究成果報告では、FMOS装置の開発的研究の進捗に関する詳しい報告と、その装置を大型望遠鏡の主焦点に搭載して行うことのできる非常に先進的な観測の計画内容についての報告を主に行う。具体的には、開発的研究面では、冷却分光器の低温性能、光学系全体としての結像性能、検出器の特性とデータ取得制御、アーカイブシステムとのインターフェースなど、また観測計画の検討の面では、初期銀河の形成過程の系統的研究、ダークエネルギー探査プロジェクトの検討、などがあり、平成19年度からの本格的な観測的研究が期待できる。
著者
戸谷 友則 太田 耕司 岩室 史英 秋山 正幸 田村 直之
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

現在の最新宇宙論における重要問題はいくつかあるが、その最大のものは「宇宙のダークサイド(暗黒面)」という言葉で以下の三つにまとめることができる。すなわち、(1)宇宙を加速膨張させる「ダークエネルギー」、(2)宇宙の重力を支配する「ダークマター(暗黒物質)」、そして(3)宇宙の晴れ上がりから最初の天体形成と宇宙再電離をつなぐ「ダークエイジ(暗黒時代)」である。その中でも、ダークエネルギーは現代物理学の根源的な改訂につながる可能性すら秘めた、とくに重大な問題として認識されている。すばる望遠鏡の新観測装置FMOSを用いたバリオン振動探査計画により、このダークエネルギーに迫る事ができると期待されている。本研究の目的は、このバリオン振動探査計画のサーベイデザインを検討し、FMOS完成の際にすみやかに観測提案書を作成する準備を進める事にある。この目的のため、戸谷を中心に分光ターゲット銀河選定の手法や実現性を詳細にしらべた。「すばるディープフィールド」や、「すばるXMM-Newtonディープフィールド」と呼ばれる領域のすばる望遠鏡を中心とする膨大なデータをもとに、バリオン振動探査に使用できる銀河が十分に存在するかどうかを精査した。その結果、バリオン振動探査に十分な数の銀河があり、また、イメージングサーベイデータから測光的赤方偏移計算の手法により効率よく選択できる事も判明した。また、メンバーがハワイに集まってミーティングを開催し、FMOS装置に対する理解を深めるとともに、今後の問題点を洗い出して計画の推進に役立てた。国際的な注目も高く、国際会議で進捗状況を報告した。
著者
角谷 寛
出版者
京都大学
雑誌
戦略的な研究開発の推進 戦略的創造研究推進事業 さきがけ
巻号頁・発行日
2001

睡眠時呼吸障害は、睡眠中に無呼吸・低呼吸を引き起します。このために頻回に生じる低酸素血症によって、不可逆的な脳の障害が生じ、痴呆症を引き起こす可能性が示唆されています。本研究では、睡眠時呼吸障害の状態をマウスで再現し、痴呆症との関係を解明します。