著者
錦織 千佳子
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

フロンガスによるオゾン層の破壊が進むと従来オゾン層により遮断されていた300nm以下の、より生物効果の大きい短波長の紫外線(UV)まで地球に到達するようになり、UVB領域(280-320nm)の紫外線の人体に及ぼす影響と、その防御について研究することは、急務である。本研究は太陽光紫外線がヒト遺伝子レベルでどのような変化を及ぼすかを解明することを目的としてヒト皮膚に類似する無毛マウス背部に太陽光近似の紫外線を照射し、その紫外線の照射量に依存してp53遺伝子にどのような変化がおこっているかをみた。一方、紫外線によって、露光部に皮膚腫瘍が生じる疾患である色素性乾皮症(XP)患者に生じた露光部皮膚腫瘍におけるp53遺伝子の変化についても調べ、実際のヒトにおいて太陽光によってp53遺伝子にどのような変化がおこっているかを解析し、マウスの結果と比較しすることをめざした。紫外線は点突然変異をおこしやすいとされており、これまでの私達の研究から、紫外線がras遺伝子に突然変異をおこさせることにより20%くらいの頻度でras遺伝子が活性化されることが明らかになった。p53遺伝子では、点突然変異をおこすことにより正常の機能の制御からはずれる例が知られているので、p53遺伝子に着目し、露光部と非露光部皮膚及び肝臓でこれら遺伝子の変化がないか、またどのくらいの照射量によりどのような変化があらわれるかについて解析した。無毛マウスに健康蛍光ランプを週2-3回、20週照射したマウス皮膚の露出部皮膚に生じた腫瘍からDNAを抽出し、PCR法で増幅したp53遺伝子部を一本鎖DNA高次構造多型解析法(SSCP法)によりp53遺伝子のエクソン6、7、8の突然変異の有無をスクリーニングしたところ3/16に正常とは異なる永動度を示すものが検出された。一方XPの患者皮膚腫瘍では16/37にSSCPの異常が見つかった。それらについて、塩基配列を決定したところCC→TT(4つ),C→T(2つ)の変異が多く見られ、大腸菌などにUVCを照射して得られた研究結果で示されているように、ピリミジンの並んだところに変異がおこりやすい傾向がみられた。しかし、一塩基挿入、G→C,G→TなどのトランスバージョンもみられUVBとUVCとで損傷の種類、生じる突然変異のタイプが異なる可能性もしめされ太陽光近似のUVBをもちいることの重要性が示唆された。今後マウスにおいてSSCPの異常がみられたものについても塩基配列を決定して実験的なサンランプ照射が実際の太陽光照射のモデルとしてどの程度有用かを検討したい。
著者
棚次 正和
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1998

博士論文
著者
土畑 重人
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

本研究では,進化生物学の主要な概念である社会進化と種分化の両理論を橋渡しする実証系を確立することを目標とし,社会性昆虫の一種アミメアリの同種内社会寄生者(裏切り系統)に着目した.集団遺伝学的な証拠から,裏切り系統は宿主たる協力系統から同所的に分化したと推定されたため,本年度はこの同所的な進化的分岐現象が可能となる生態学的・遺伝学的条件の理論的検討を主眼とした.報告者が作成したコロニーベース格子モデル(格子点には個体ではなくコロニーが入る;Dobata et al. in prep.)を発展させて,個体の協力形質の度合いが突然変異によって連続的に変化する進化シミュレーションを行った.コロニー内の個体数動態には,コロニー内の協力系統頻度に応じた公共財の利益,協力形質の程度に応じた個体へのコスト,コロニーサイズに応じた(負の)密度効果の線形結合で適応度を記述する一般化線形モデルを用い,階層ベイズ法を用いて野外データからパラメータを推定することで,計算が現実的な条件を反映するようにした.個体のコロニー間移出入,突然変異率とその表現型への効果については不明であるため,感度分析を行った.シミュレーションの結果,協力系統から裏切り系統が進化的分岐するかどうかは,コロニーの世代あたり分裂率,個体の世代あたりコロニー間移動分散率に大きく影響されることが明らかとなった.また,初期集団の協力形質の程度も進化的分岐の発生を左右するという結果が得られた.さらに,とりうる表現型の区切り幅(1回の突然変異で変化できる表現型の大きさ)を小さくするほど,進化的分岐が生じにくくなる傾向が得られたため,アミメアリの系においては,協力系統・裏切り系統の共存は何らかの断続的な表現型変化が関与している可能性が残された.モデルの単純化,解析的な取扱いが今後の課題であり,感染症のモデルを応用することを検討している.
著者
松本 和将
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

多くの動物は、生存・繁殖に様々な利点があることから集団を形成して生活している。集団の中で単なる性的な活動以上の協調的な相互コミュニケーションがあれば、その集団には「社会」があると規定される。社会には、複数の個体の間で繰り広げられる様々な個体間相互作用があり、これらは総称して「社会行動」とされる。社会行動は、その意味合いから順位制や縄張りなどいくつかに分けることができ、社会的に複雑な群れを作る種は様々な社会行動をすることが分かっている。霊長類をはじめ多くの動物において社会行動に関する膨大な量の研究が行われてきた。これにより、それぞれの社会の構造や機能が解明されてきた。しかし、進化の過程でいかにして社会が誕生して社会行動が獲得されるのかについての議論は、いまだ確証がないため推測の域を出ない。すでに明確な社会が確立されている種を対象にしていては、社会行動の獲得のための条件を解明することは不可能である。なぜなら、それぞれの動物に特有な社会行動は、長い時間の中で進化した形質であることから、その形成過程を現在では観察することができないからである。3500種以上いるヘビ類は、一般的に全て単独性で集団を形成しない。また多くの有性生殖の動物と同様に繁殖に関する個体間相互作用は存在するが、それ以外の行動においてはほとんど確認されていない。これらのことから、ヘビは一般的に社会性が非常に低いとされてきた。しかし、沖縄島に生息するアカマタという 夜行性のヘビにおいて、ウミガメ卵を採餌する時に限って、社会的な行動をすることを発見した。ヘビがウミガメ卵を餌にすることは非常に珍しく、世界でも本種を含めた2種のみが頻繁に採餌する。本来は社会をもたないヘビが、特定の条件下において社会行動をするようになるメカニズムを解明することができれば、動物の社会の芽生えに必要な条件を探る一助になる。
著者
加藤 文元
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

リジッド幾何学の将来的な応用を見据えた基礎付けとして、対応するZariski-Riemann空間の位相的性質や、その土台部分をなす環論の基礎付けを行い、多くの有用な結果を得た。またその基礎付けに至る過程で、数理物理学や非アルキメデス的一意化理論などへの応用の新たな可能性が明らかとなった。特に後者については、非アルキメデス的一意化に関係した不連続格子について、従来の理論では1 次元の場合に限って有効であった手法を多次元に応用する道が開かれた。
著者
平井 義和
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

アルカリ金属ガスをシリコンとガラスで作製したセルに封入した「MEMS型ガスセル」は、小型原子時計や高感度磁気センサの心臓部として使用される。そのため、高性能な小型原子デバイスを作製するには、微細加工技術によるガスセル作製法が重要である。本研究では、多孔質アルミナやシリコンの三次元構造にアルカリ金属アジ化物の結晶を析出したアルカリ金属生成源を開発し、この生成源とプラズマ陽極接合を融合したウェハレベルのガスセル作製法を確立した。提案手法ではMEMS型ガスセルが高効率かつ低温で作製できることを実証したとともに、小型原子デバイスの高性能化につながる作製法であることも明らかにした。
著者
岡 真理 宮下 遼 新城 郁夫 山本 薫 藤井 光 石川 清子 岡崎 弘樹 藤元 優子 福田 義昭 久野 量一 鵜戸 聡 田浪 亜央江 細田 和江 鵜飼 哲 細見 和之 阿部 賢一 呉 世宗 鈴木 克己
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

難民や移民など人間の生の経験が地球規模で国境横断的に生起する今日、人間は「祖国」なるものと様々に、痛みに満ちた関係を切り結んでいる。ネイションを所与と見なし、その同一性に収まらぬ者たちを排除する「対テロ戦争パラダイム」が世界を席巻するなか、本研究は、中東を中心に世界の諸地域を専門とする人文学研究者が協働し、文学をはじめとする文化表象における多様な「祖国」表象を通して、人文学的視点から、現代世界において人間が「祖国」をいかなるものとして生き、ネイションや地域を超えて、人間の経験をグローバルに貫く普遍的な課題とは何かを明らかにし、新たな解放の思想を創出するための基盤づくりを目指す。
著者
岡 道男
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1977

博士論文
著者
中山 耕至
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2000-05-23

新制・課程博士
著者
田中 克 中坊 徹次 山下 洋 中山 耕至 益田 玲爾 上田 拓史
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

有明海筑後川河口域を中心に有明海産スズキの生態を種々の側面より調べるとともに,養殖場から逸散したタイリクスズキの成長,成熟,仔稚魚の分布などを宇和島海域を中心に調べた.得られた主な成果は以下のとおりである.筑後川河口域におけるかいあし類分布は,塩分1〜3psuにピークを持つ低塩分汽水性特産種Sinocalanus sinensisを優占種とする群と,塩分15〜20psu以上の下流域におけるAcartia omorii, Oithona davisae, Paracalanus parvusなどの沿岸性種より構成される群に分かれた.前者の分布は高濁度水と一致した.S. sinensisの消化管内容物からはフェオ色素が多く出現したが,A. omoriiなどの消化管よりはクロロフィルaが多く出現した.前者はデトリタス食物連鎖であることが推定された.低塩分汽水域にはスズキをはじめ,エツ・アリアケヒメシラウオ・ハゼクチ・ヤマノカミなどの有明海特産種の稚魚や当歳魚が集合し,S.sinensisを専食した.一方,塩分15〜20psu以上の河口下流域に出現するカタクチイワシやメバルなどは優占する多様なかいあし類を摂食した.実験的に確認したスズキ当歳魚のδ^<13>Cの濃縮係数や半減期をもとに,スズキの胃内容物と筋肉のδ^<13>Cを調べた結果,多くの個体は4月には淡水・低塩分域まで遡上し,5〜7月には中塩分域に,8月には高塩分域に移動することが確認された.一方,タイリクスズキの採集場所より,養殖が行われている近くに分布することが明らかとなり,成長は日本産のスズキを上回り,雌雄の生殖腺より11〜12月に生殖可能なことが予想された.しかし,卵や仔稚魚は採集されなかった.有明海で採集されたスズキの遺伝子を分析した結果,個体変異は大きかったもののいずれの個体もスズキとタイリクスズキの遺伝子を有していた.また,中国大陸沿岸域には南北で異なる地方個体群の存在が示唆された.本研究を通じて有明海湾奥部筑後川河口域上流部に,高濁度汽水-特産種かいあし類・アミ類-特産種稚魚・当歳魚間の強いつながりが確認され,この「大陸沿岸遺存生態系」の起原を求めて韓国西岸で調査することが必須と考えられた.
著者
榛葉 旭恒
出版者
京都大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

精神的ストレスはインターロイキン17産生型ヘルパーT細胞(TH17細胞)の働きを介して炎症性腸疾患を誘引すると考えられているが、その機構は明らかではない。申請者はストレス感知により腎臓から産生されるプロレニンの受容体(PRR)がTH17細胞で発現することに着目し、PRRがTH17細胞の発生を促進すること、ストレスと免疫応答が腸管のTH17細胞を増加させることを見出した。そこで本研究は、PRRがTH17細胞の分化や維持、働きを促進する分子機構と、ストレス時に産生されるプロレニンがTH17細胞を介して炎症性腸疾患の発症と増悪に寄与する可能性を、PRR遺伝子破壊マウスを用いた解析から明らかにする。
著者
朝長 啓造 本田 知之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

生物には、感染したウイルスの遺伝情報をゲノムに記憶し進化に利用する仕組みがあることが示唆されている。本研究は、哺乳動物ゲノムで発見された内在性ボルナウイルス様配列(EBLs)の機能、特に感染防御に関する働きを明らかにすることを目的に遂行された。本研究により、ヒト由来EBLsの発現と遺伝子発現調節機能が明らかになるとともに、マウスならびにジュウサンセンジリスにおけるEBLsがそれぞれpiRNAとタンパク質を発現して、ボルナウイルスの感染防御に働く可能性を示した。さらに、Eptesicus属コウモリに内在化したEBLsが機能性のRNA依存性RNAポリメラーゼ酵素をコードする可能性も明らかにした。
著者
長野 史寛
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2017

不法行為責任内容論序説. 長野史寛著. -- 有斐閣, 2017.
著者
三宅 正浩 木土 博成
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、近世成立期(16 世紀末~17 世紀)における幕藩領主の政治意識の世代差について、その格差を個別の家ではなく幕藩領主層総体の格差を構造として把握することを通して、政治構造・意識の転換の諸段階を解明して提示することを目的として実施する。まずは、モデルケースとしていくつかの大名家を取り上げ、当主および家臣の世代交代について、軍事的要素に着目して分析する。並行して、幕藩領主層全体の世代交代について、先行研究や諸史料を参照しつつ、時期・年齢などについてデータを集め整理する。最終的には、上記の成果・データをに加えて、法令や書状を用いて分析し、世代交代の様相を構造的に把握して提示する。
著者
礪波 護
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1987

博士論文
著者
森 信介 鶴岡 慶雅
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

与えられた盤面およびそこから先読みを行った結果得られる盤面に対して解説を生成方法を提案し自動解説を実現した。この過程で得られる用語と局面の自動対応(シンボルグラウンディング)モジュールを用いて言語のキーワードによる局面検索が実現できることを示し、情報検索のトップ会議(ACM SIGIR 2017)に採択された。また、本研究テーマを通して作成した将棋の固有表現コーパスを LREC 2016 にて発表し、これを用いて、局面を参照する固有表現認識器を提案し、言語処理のトップ会議である ACL 2016 にて発表を行った。
著者
糸川 嘉則 田沼 悟 小林 昭夫 森井 浩世 矢野 秀雄 五島 孜郎 KIMURA Mieko YOSHIDA Masahiko
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1986

マグネシウムの必要性とその作用を解明するため実態調査, 動物実験, 臨床的研究を実施した. 実態調査においては, 種々な階層を対象にして聞き取りによる食事調査を行い, マグネシウム摂取量を算出した. その結果1日のマグネシウム摂取量は155〜300mgで, 出納試験から推定されるマグネシウム必要量を下回る摂取状況であることが判明した. 小動物による実験ではリン摂取量の増加により発生する異常がマグネシウム投与により抑制される事, リン欠乏食にすると高マグネシウム尿が発生するが, 腎不全状態にしてもマグネシウムの尿細管での再吸収抑制が機能している事, 脳卒中易発症ラットにマグネシウムを負荷すると尿中マグネシウムとカルシウムの排泄量が増加し, 血圧の上昇が軽度抑制される事が解明された. めん羊を用いた研究では甲状腺, 副甲状腺摘出めん羊では尿中マグネシウム排泄量が多くなり, 低マグネシウム血症を呈し, 絶食をさせても尿中マグネシウム排泄の増加は続き血中マグネシウム濃度は急激に低下した. 又, マグネシウムの投与による血中のマグネシウムの上昇が大きく, 副甲状腺ホルモンは腎臓でのマグネシウム再吸収を調節し, カルシトニンは血中マグネシウムの上昇を押える作用がある事が示唆された. 臨床的な研究ではリンパ球内マグネシウム濃度を指標とした結果, 超未熟児はマグネシウム欠乏状態にある事が解明され, マグネシウム含有輸液により改善する事が示された. 一般人では初老期からマグネシウム欠乏傾向になる. 小児ネフローゼ症候群では低マグネシウム血症を呈し, ステロイド療法を実施する事により正常化する事が解明された. 腎不全患者では高マグネシウム血症を呈するが, この病態は副甲状腺亢進症を抑制する利点もあり, その対処には検討の要がある事が示された. 更に, 細胞内のイオン化したマグネシウムを測定する方法について検討が加えられた.