著者
松浦 健二 瀬藤 光利 岩淵 喜久男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

なぜ生物は老いるのか?この問いに答えることは、至近要因的にも進化的・究極要因的にも生物学の最重要課題である。近年の分子生物学的手法の発展により、老化や生理寿命の分子基盤に対する理解は急速に進んできている。しかし、主要な研究は線虫・ショウジョウバエ・マウスといった短命なモデル生物を用いて行われてきた。本研究では、70年以上の寿命をもつと推定されるヤマトシロアリの王に着目し、従来の短命なモデル生物の研究では到達しえない寿命研究の全く新しい領域を開拓するものである。最新の研究により、孵化した幼虫がワーカーとして発育するか、羽アリとして発育するかのカースト決定に、フェロモンだけでなく、ゲノムインプリンティング(精子・卵特異的なエピジェネティック修飾)が影響することが明らかになった。カースト分化に対するインプリンティングの効果を検証するため、まず若い王に対してDNAメチル基転移酵素(DNMT1、 DNMT3)をターゲットとしたRNAiを行い、精子のエピジェネティック修飾を操作し、コロニーを創設させた。現在、子のカースト分化への影響を評価している。王の代謝活性は全体として年齢とともに変化するのか、また、どの代謝経路が駆動しているのかを判別するために水同位体比アナライザー(PICARRO社 L2140-i)を用いた二重標識水法により、代謝フラックス解析を行っている。現在、標識水投与による生存への影響評価を完了し、本試験の実施中である。ヤマトシロアリのワーカーは王と女王に対して特殊な餌(以後、ロイヤルフードと呼ぶ)を給餌している。このロイヤルフードの成分を特定し、その機能を明らかにするため、ワーカーから王と女王への口移し給餌物の直接採取、および解剖によって中腸内容物を回収した。現在、MALDI-IT-TOF 型顕微質量分析装置を用いて成分を分析中である。
著者
小西 昭
出版者
京都大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

運動ニューロンの変性機序を解明するために、その変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)で選択的に病変を免れるオヌフ核の入力線維の特異性を標識法により検索した。1.ネコの脳室内にコルヒチンを投与後、灌流固定し、脊髄の切片を作製して各種神経ペプチドに対する免疫活性をABC法で調べた2.下部腰髄と上部仙髄前角では、オヌフ核に、エンケファリン(ENK)陽性終末の密な分布を認めた。ENK陽性ニューロンは、後角とオヌフ核レベルの中心管周辺領域(第十層)に存在した。3.電顕でオヌフ核内のENK陽性終末を観察した結果、1)、多形性シナプス小胞を含み樹状突起と対称性シナプス結合をする終末70-80%、2)、球形シナプス小胞を含み樹状突起と非対称性シナプス結合する終末20-30%、3)、扁平シナプス小胞を含む終末0%、4)、クレストシナプスを形成する終末は約1%であった。4.オヌフ核へのENK陽性終末の起始ニューロンを同定するために、上部腰髄または下部仙髄の半切、後角の破壞実験を行ないENK免疫反応を調べたが、オヌフ核のENK陽性終末は減少しなかった。5.第十層にWGA-HRPを注入し、順行性に標識された終末の仙髄前角での分布を調べると、ENK陽性終末の分布と酷似していた。上記の実験結果から、オヌフ核への主要な入力線維終末はENK免疫活性を有し、その起始ニューロンは主に第十層に存在することが判明した。第十層には陰部神経に含まれる求心性終末が終止しており、第十層のENK陽性ニューロンはオヌフ核ニューロンを密に支配する。このような脊髄内神経回路は腰・仙髄の他の運動神経核では見られなかった。したがって、オヌフ核へのENK陽性脊髄内入力線維の存在が、ALSで他の運動核の変性にもかかわらず、オヌフ核が選択的に保存される機構の一因をなす可能性が高い。
著者
西村 智貴
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

従来の薬物輸送システム(DDS)は、「薬」を運搬体に内包させ、がんなどの疾患部位へと送達する。しかし、運搬体からの薬の漏出に伴う副作用と薬効低下が問題となっており、安全かつ治療効果の高い、新しい医療戦略が求められている。このような背景のもと、本研究では、抗がん剤ざどの薬を必要とせず、がん局所で薬を合成する好中球類似のナノデバイスを創製し、従来型のDDSの課題を黒風した治療システムの構築を目的とした。本年度は、がん周囲のpHで親水化するポリマーの合成及び先行研究の糖鎖ポリマーとの混合により、がん局所でとう可能が更新するベシクルの構築を行った。先行研究で開発したベシクルは、イオン性親水性分子の透過が遅いため、酵素反応が遅い。そこで、がん周囲の環境でプロトン化し、親水化するポリマーを用いて透過性の亢進を試みた。そのために、弱酸性領域にpKaを持つDiisopropyle amineからなるポリマーを銅触媒リビングラジカル重合により合成し、糖鎖セグメントとのカップリングを行った。得られたポリマーは、弱酸性領域にpKaを持ち、そのpKa以下でポリマーの親水化することが判明した。このポリマーと先行研究で得られた糖鎖ポリマーを混合することにより、ハイブリッドベシクルを形成することを電子顕微鏡観察ならびに放射光小角散乱測定より確認した。
著者
櫻井 庸明
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

冷結晶化は“昇温に伴って融点以下で起こる結晶化”とされており、準安定相である過冷却非晶質固体を形成したのちに昇温時により安定な相である結晶相へと相転移する挙動である。熱の貯蔵という応用の側面からもこの冷結晶化は注目すべき現象であるが、高分子化合物と比較すると、低分子有機材料においては珍しい挙動であり、どのような分子設計を採用すれば冷結晶化を示す材料を実現できるかについての知見は未だに乏しい。今回、溶液中で自由回転するフェロセン骨格の有する回転自由度に注目し、結晶化を促すドデシル側鎖を有する発達共役分子ユニットであるオリゴチオフェンと連結したπ-Fc-π型の化合物を合成したところ、0.1 K/minまで低速で降温した際も非晶質固体を形成し、その後の昇温時に冷結晶化を起こすことが確認された。π-Fc-πは等方相から冷却されると、さまざまなコンフォメーションの分子が共存することにより過冷却非晶質固体を形成しやすく、その後に昇温することで。π-Fc-π分子の折り畳みが誘起され、ラメラ状に分子が自己集積し結晶化するという機構が推定される。回転のみという制限された自由度を有するフェロセンは、冷結晶化を起こし、熱貯蔵が可能な材料の開発に有用なモチーフであり、本系は、凝集相においてもフェロセンが回転自由度を有していることを熱制御して利用した希有な例である。この固相におけるFc部位の回転運動は、(Fc-π)n型の多関節高分子へと拡張することでフォルダマーの分子設計として有用であると予測したが、現在のところは、合成した高分子は結晶化に至らず、アモルファス相の形成のみが観察された。複数のFc部位の回転自由度に由来するエントロピーが凝集相構造を支配していることが推測される。一方で、溶液中においては当該高分子の折り畳みに伴うオリゴチオフェンユニット同士の積層が吸収スペクトル変化から示唆された。
著者
松平 千秋
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1962

博士論文
著者
松本 卓也
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2016-08-26

今年度は、マルティン・ハイデガーのヘルダーリン論にみられる狂気と詩作の関係についてラカン派の精神分析理論を用いながら研究し、その成果を研究会で発表した。また、ジル・ドゥルーズにおける狂気と創造性の関係を中心にラカン派の精神分析理論を用いながら研究しその成果を投稿できるようにまとめた。今年度の補助金は、主に上記の研究を遂行するための文献の購入費に当てられた。1. マルティン・ハイデガーのヘルダーリン論にみられる狂気と詩作の関係については、関西ハイデガー研究会第43回研究会にて発表した。なお、この研究を遂行するにあたって、補助金を用いて実存哲学に関する文献を多数購入した。2. 交付前の2016年6月26日に筑波大学にて開催された第63回日本病跡学会総会で発表した内容(ジル・ドゥルーズにおける狂気と創造性の関係については、彼の主眼が統合失調症ではなく自閉症スペクトラムにあったと考えることによって晩年の著作『批評と臨床』のパースペクティヴがより明瞭となること)の研究を深め、同内容に関する学術論文を準備した。その他に、ドゥルーズの「器官なき身体」という概念が、対立しているとしばしば目されるラカン派精神分析における言語の原初的形態である「ララング」に実際は近く、作家ジェイムズ・ジョイスの一部の作品がそのような言語によって構成される芸術であることを『早稲田文学』誌1022号で発表した。なお、この研究を遂行するにあたっては、補助金を用いて現代フランス哲学および精神分析と文学に関する文献を多数購入した。
著者
藤 直幹
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1948

博士論文
著者
東畑 開人
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2010

教博第87号
著者
梶 茂樹 品川 大輔 古閑 恭子 米田 信子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

声調声調というと、東アジア大陸部のいわゆる単音節語をイメージすることが多い。しかしながら、これらをもって声調言語一般を語るわけにはいかない。アフリカにおいては多様な声調言語の類型が現れる。例えばコンゴのテンボ語のように、単語を構成する音節(あるいはモーラ)数に従って声調のパターンが等比級数的に増える言語もあれば、タンザニアのハヤ語のように互換の音節数に従って等差級数的に増える言語もある。さらにウガンダのニョロ語のように単語の音節数に関係なくパターン数2を保持する言語もある。さらにアフリカの声調・アクセント言語において重要なことは、声調の語彙的機能にも増して文法的機能が卓越していることである。
著者
棚橋 光男
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1987

博士論文
著者
上横手 雅敬
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1971

論文博第66号
著者
山下 泰幸
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

本研究の初年度にあたる2017年度は、以下の研究活動を行った。第一に、2016年夏季にフランスで実施した質的調査に基づくデータから、パリに在住する社会・経済的な成功をおさめる北アフリカ系の移民二世のムスリムたちの語りを分析し、その結果を2017年5月に開催された関西社会学会第68回大会にて口頭発表した。そこで得られた批判を受けて内容を大幅に再検討したものを、2018年1月に学術雑誌『ソシオロジ』に研究論文として投稿し、査読の結果、2018年7月に刊行予定の同誌192号での掲載を許可された。この研究においては、新しいイスラームの理念型のひとつでとして「順応型イスラーム」という概念を提起した。新しい世代のムスリムたちの一部は、目立った信仰実践を行わないことで、社会・経済的な成功を目指す上で周囲の人々との間で発生しかねないコンフリクトを回避していることが明らかになった。第二に、今後の研究において理論的な一つの主軸として用いるために、ポストコロニアル研究に関連する理論的な先行研究を広く収集・学習した。とりわけスピヴァックやモハンティなどをはじめとするポストコロニアル・フェミニズムに関連する研究や、フランスにおいて比較的参照されることの多いサヤードなどの著作を読み進めた。ポストコロニアル研究の影響が限定的であるフランスのイスラーム関連の先行研究を批判的に再検討するためには、このような研究において用いられている視座が必要不可欠である。第三に、2017年夏および2018年初春に、それぞれ二カ月程度フランス・パリに滞在し、ムスリム・コミュニティへの参与観察およびインタビュー調査を実施した。この調査結果をもとに、今後、ジェンダーとレイシズムへの抵抗の関係性に焦点を当てながら、ムスリムとしてのアイデンティティを有し、自らの権利を主張する女性たちを事例とした分析を行う予定である。
著者
福田 耕佑
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

今年度の研究では、現代ギリシアを代表する作家ニコス・カザンザキスの文学において、第一次世界大戦前後に難民としてギリシアに流入したポントス人表象を主に取り上げた。この研究において、ポントス人とカザンザキスとの接触がカザンザキスの「ギリシア性」探求におけるモチーフのきっかけを与えたこと、そして彼の主著群を成す『その男ゾルバ』と『キリストは再び十字架に』、そして自伝的小説『エル・グレコへの報告』において「ギリシア性」を表象する際の中心的な登場人物として取り上げられていることを明らかにした。ここで挙げらた研究はギリシアの新聞であるPontosnewsにおいて取り上げられる等、国外においても一定の評価を得たと言えよう(http://www.pontos-news.gr/article/168983/o-iaponas-poy-agapise-ton-kazantzaki-kai-vrike-toys-pontioys 最終閲覧日;1917年9月13日)また、1920年までの、カザンザキスが政治的にナショナリストとして中央で活動した時期の作品について分析し、イオン・ドラグミス等の先行する作家や「メガリ・イデア」等の政治思想から大きな影響を受けていたことを明らかにし、ここでの成果を主に、「福田耕佑、二十世紀初頭のカザンザキスの政治活動とナショナリズム : ディモティキ運動とドラグミスからの影響、プロピレアー日本ギリシア語ギリシア文学会、(23) 12-30、2017年」として論文化した。
著者
安田 拓人
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2007

論法博第164号