著者
矢持 秀起 御崎 洋二 藤原 秀紀 森田 靖 大塚 晃弘 前里 光彦 中野 義明 白旗 崇
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

π電子共役系の電子機能性を引出すため、共役系の形状や大きさ、組込むヘテロ原子の種類と位置、更には共役系外の置換基を自在に設計し、実際に多様な電子状態を持つ物質を合成した。環境変化や外部刺激に対する応答を検討し、パルス光照射に超高速に応答する分子性導体の電子状態と結晶構造の変化過程を0.1ピコ秒単位で計測するなど、基礎科学の新展開を促進する成果が得られた。さらに、実用電子材料の動作原理を与える成果も得られた。
著者
三野 和雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

マクロ経済学では、依然として経済主体が同質であることを前提とする代表的家計モデルが中心的な役割を果たしている。本研究は、経済主体の異質性を明示的に考慮したマクロ動学分析を行い、同質な経済主体を前提にした従来の標準的理論がどのように修正されるかを検討した。特に、(1)世代重複モデルにおける世代間の消費の外部効果が生み出す影響、(2)無限視野を持つ家計に資産保有の異質性があるような成長モデルにおいて、消費の外部性が長期的な資産分配に及ぼす効果、(3)家計間の時間選好率や選好が異なる成長経済における財政・金融政策の効果、(4)2国間が非対称な場合の2国動学モデルのふるまい、を中心に検討を行った。いずれの場合も、家計の同質性を前提とする標準的な理論では見られない分析結果が得られ、代表的個人の仮定が、分析を簡明にする反面、現実の経済で生じている重要な現象のいくつかを捉え損ねる可能性が高いことを確認した。
著者
渡邊 一弘
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度の主要研究業績である論文「応用哲学の現状と課題」および学会発表「経済学におけるモデルと実在」は、一方で過年度の古典的・理論哲学的研究の成果を基礎としつつ、他方で本研究がその目的のひとつとする応用的・学際的研究の積極的展開を企図して進められた。「経済学におけるモデルと実在」では、経済学方法論でいまや古典の位置を占めているミルトン・フリードマンの科学観を取り上げた。議論の出発点は、「経済学を含む実証科学の目的は予測の成功であり、理論における諸前提は非現実的なものであってもかまわない」という主張と解釈されてきたフリードマンの「実証的科学の方法論」が、現象に大きな変化が起こった場合の理論選択ないし理論構築の問題にそのままではまったく対処し得ないという問題である。ここからさらに次の点を論じた。(1)科学の現場において理論選択や新しい理論構築にあたって実際に指針とされるのは「科学的モデル」である。(2)そのような科学的モデルには、力学モデルからグラフィック・モデルに至るまで、多種多様なものが含まれる。(3)ただし経済学において通常扱われるモデルはほとんど「数式モデル」だと考えられている。(4)しかし、経済学にも多様なモデルの使用が理論の改良・構築に貢献してきたことは、いくつかの理論史的事例から確認できる。(5)このような科学的モデルと理論構築との関係を視野に入れることで、フリードマン流の科学方法論をより実際の科学の営みに即したものに作り替えることができる。また、「応用哲学の現状と課題」では、「経済学の哲学」と「哲学カウンセリング」という我が国においては未発達な哲学の応用的分野の欧米における先行研究をサーベイし、今後の展開への示唆を与えた。
著者
山本 衛 THAMPI Smitha SMITHA Thampi
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、低緯度・赤道域電離圏に発生する赤道スプレッドF現象(Equatorial Spread-F;ESF)や中緯度域の電離圏構造について、衛星-地上のビーコン観測、衛星からのGPS掩蔽観測、MUレーダー観測等を用いて研究を進め、以下の成果を得た。(1)衛星ビーコン観測用のディジタル受信機GRBR(GNU Radio Beacon Receiver)を用いて潮岬-信楽-福井の3地点ネットワーク観測を行って、トモグラフィ解析から電子密度の緯度・高度分布の推定を行い、緯度約20度の範囲の電離圏構造の把握に成功した。(2)上記のトモグラフィ観測と衛星FORMOSAT-3/COSMICからのGPS掩蔽観測結果を駆使して、夏季の中緯度域電離圏に現れる夜間の電子密度が昼間よりも増大する現象MSNA(Mid-latitude Summer Nighttime Anomaly)について、北半球では東アジア域が現象の中心であることと、日々変動の状況を明らかにした。(3)GRBR観測を東南アジア域(ベトナム、タイ、インドネシア)に展開して電離圏全電子密度の観測を継続した。ESFの発生に関連して、LSWS(Large Scale Wave Structure)と呼ばれる東西波長数100kmの緩やかな電子密度変動が発生することを、衛星C/NOFSを用いたビーコン観測から初めて明らかにした。(4)2009年7月22日に発生した日食時にMUレーダー観測を実施し、部分日食の最大時を中心として強い中緯度電離圏イレギュラリティの発生を見出した。昼間であっても夜間と類似した準周期構造が現れることを明らかにした。以上の成果について国際学術誌に合計6編の論文を発表し、本研究を成功裏に終了した。
著者
高田 滋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

凝縮相の相変化によって起こる気体の非定常1次元流を気体分子運動論によって調べ主に次の成果を得た.(1)凝縮相に隣接する薄層(境界層)の構造解析から広い適用範囲を持つ線形化問題における相反性に関する一般定理群を発見した.(2)一定の条件を満たす初期状態からは互いに逆向きに進行する2つの膨張波が生じるが,それらの間に真空に成長する高度希薄領域が現れうることを示した.この領域は極めて非平衡で気体温度が強い非等方性を示すことを明らかにした
著者
西里 喜行
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2004-11-24

新制・論文博士
著者
平岡 眞寛 溝脇 尚志 澁谷 景子 松尾 幸憲 板坂 聡 門前 一 澤田 晃 千田 道雄 小久保 雅樹 成田 雄一郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

Deformable Registrationソフトウェアと4次元線量分布評価システムを開発した。また、新規に一筆書き照射法を考案し、その有用性を膵臓癌および頭蓋底腫瘍において確認した。さらに、膵臓癌において臓器移動や変形が線量分布に及ぼす影響を評価し、呼吸停止下強度変調放射線治療を開発して第一相線量増加試験を開始するとともに、悪性胸膜中皮腫および頸部食道癌に対する強度変調放射線治療を用いた臨床試験プロトコールをそれぞれ立案し実施中である。
著者
王 福林
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度には建物周辺における緑の日射遮蔽や蒸散は,どの程度の省エネルギーが達成できるか,空調システムの屋外機の効率向上にどの程度貢献するのかなどを明らかにすることを目的とする。そこで本年度には,植物の生育が制御しやすいサツマイモの葉を使う水気耕栽培屋上緑化を使用し,緑化による気温低減効果で空調熱源の効率改善にも寄与するようなシステムを構成し,そのシステムの気温低減効果・省エネルギー効果を実測・解析・モデル化した。それらを用いて,北方から南方までの代表都市4箇所において,本システムの省エネルギー効果がどの程度あるかをシミュレーションを用いて確認した。結果,1)水気耕栽培屋上緑化の日積算蒸散量:平均は6.3kg/m2であり,期間最大値は8.3kg/m2であった。既往研究と比較すると,期間最大の日積算蒸散量は潅水のない屋上緑化(セダム)の13.8倍,潅水のある屋上緑化(セダム)の1.8倍にあたり,単木にも匹敵する値であるということがわかった。2)冷却温度差:日射量が十分にある10:00〜16:00の冷却温度差の測定結果は,降雨日を除いた期間の平均冷却温度差は1.3℃であった。これに対し,散水実験日の平均冷却温度差は3.0℃と,約2.3倍になっている。3)冷房熱源の効率向上効果:オフィス用熱負荷標準問題に準じ,簡略化した建物モデルを作成し,札幌・東京・大阪・那覇の四地域にある建物の熱負荷をシミュレートし,提案したシステムが各地域でどの程度省エネ効果を得られるかを検討した。8月1日〜9月30日の期間において緑が成長し,冷却効果を利用できるとし,省エネ効果を試算した。結果,2ヶ月間の積算エネルギー消費量は,効率向上率の小さい空調機のグループが約1%,中のグループが約6%,大のグループが約8%,エネルギー削減できることがわかった。
著者
藤田 和生 板倉 昭二 明和 政子 平田 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

意識や内省と呼ばれる自身の心の内部への能動的アクセス、及び読心と呼ばれる他者の心的状態の理解の発生過程、ならびにそれらの相互関連性を、広範な種比較と発達比較を通じて多面的に検討した。その結果、霊長類のみならずイヌや鳥類にもこれらの認知的メタプロセスが存在することが明らかになった。また霊長類は自身の利益には無関係な第3者の評価をおこなうなど、優れた他者理解機能を持つことを示した。さらに、他者理解は対応する自己経験により促進され、自己理解と他者理解に確かに関連性があることを示した。
著者
池田 菜穂 GURUNG Janita GYALSON Sonam
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ネパール・ヒマラヤ高地と,インド・ヒマラヤ西部のラダーク地方において,地域住民の災害リスク認識と災害対応に関する研究を行った。ネパールでは,高山帯全体を対象として,地域社会の社会環境及び住民の生業活動に関する現状と近年の変化を調査したほか,国の防災実務に関する文献調査を行った。インドでは, 2010年8月にラダーク地方で発生した豪雨災害について,災害被害が地域住民の生活に及ぼした影響と地域住民の災害対応に関する現地調査を行った。今後は,これらの成果を元に,災害に関するヒマラヤ高地住民の知識と対応力の向上に貢献する活動を実施したい。
著者
谷口 栄一 山田 忠史 安東 直紀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究においては、都市物流システムについて、所要時間変動を考慮した動的経路選択モデルを開発し、それを時間指定付配車配送計画に組み込み、コスト信頼性を評価できるモデルを構築した。また危険物輸送について総走行時間および交通事故に巻き込まれたときの周辺住民への損害リスクを考慮した多目的の指定時間付配車配送計画モデルを開発した。これらのモデルを用いて安全安心、快適な都市を支える信頼性の高い都市物流システムを構築することが可能となる。
著者
石津 浩一 杉本 直三 山田 亮 池田 昭夫 中本 裕士 大石 直也 酒井 晃二
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

FDG-PET画像による認知症の診断支援システム構築の基礎的検討を目的とした。健常者とMCI(早期認知症)の鑑別を、日本人の健常者23名、MCI患者58名で検討した。FDG-PET画像上に自動処理で116個の関心領域を設定し、各領域の全脳に対するFDG集積率を用いた。クラス判別にはSVMと研究代表者が独自に開発したk-index法を用いた結果、ROC解析のカーブ下面積はそれぞれ74.3%と71.1%であった。MCIの臨床診断の精度の低さを考慮すると画像のみでの判別として良好な結果と思われた。また多数の癌患者の脳FDG-PET画像では患者体重と大脳皮質のFDG集積に逆相関が見られた。
著者
高橋 大輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は、進化的時間スケールにおける形質進化と群集構造との関わりを明らかにしようというものである。本研究では食物網構造に注目し、計算機モデルを用いて捕食被食関係の進化的構築過程を解析する事で、進化的時間スケールにおいて個々の個体への選択圧が群集という大規模な構造に対して及ぼす影響を明らかにする。特に、これまでの解析で群集内の種多様性が急激に変化しうる事が観察されており、群集内での相互作用の進化に伴った多様性の増大及び減少過程がいかなるプロセスによってもたらされているかを明確にするというものであった。先年度までに、生産者及び植食者という栄養段階の低い種の動態が群衆全体の動態に強く影響している事が観察されていた。植食者の出現によって多様な群集の進化は開始し、植食者の絶滅が生産者間の競争を介して群集全体に伝搬する事で崩壊が開始する。本年度の研究ではさらにシミュレーションを増やし、より多くのパラメータにおいて同様な動態がみられる事を確認し、提案しているメカニズムの頑健な事を確認し、投稿論文とした。また、個体群動態の理論研究では複数の個体群が移動分散によって接続されたときに動態は異なる事が知られている。このため群集間の移動を考慮した場合も同様の結果をもたらすかどうかを拡張したモデルで検討した。結果、一方の群集にのみ天敵を持つ種が存在し、この種が他方の群集から移入することで群集は常に撹乱を受けるため、複雑な群集は群集間の移動が稀な場合に特に不安定化した。上記研究は、進化的時間スケールにおいては群集内の多様性はきわめて複雑な挙動をする事、またそのメカニズムを理解するためには進化生態学的観点からアプローチが不可欠である事を示した。本研究では個体ベースの進化モデルを用いる事で群集動態と進化動態を統一的に扱い、実際に観察される捕食被食関係の進化のさらなる理解に貢献できた。
著者
田中 正之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、研究例のほとんどないマンドリルの認知能力について,比較認知科学の観点から解明しようとしたものである。京都市動物園で飼育中のマンドリルを対象として,タッチモニターを用いたアラビア数系列の学習課題を課した。実験はマンドリルの屋外放飼場において公開で行い,他個体と隔離することなく,自発的に参加してきた個体を対象にした。実験参加個体は,最終的に大人オス2,子ども3となった。本研究課題は,3つの研究により構成される。1)タッチパネルへの反応の文化的伝播過程に関する研究,2)アラビア数系列課題の習得と作業記憶に関する研究,3)マンドリルと近縁種についての視覚的選好性に関する研究である。