著者
寺本 万里子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

報告者は、内部磁気圏を飛行する二衛星(DE-1とAMPTE/CCE)が観測したPi2地磁気脈動の解析を行った。地上磁場データからウェーブレット解析を用いて選び出した849例のPi2地磁気脈動と衛星磁場3成分との比較を行ったところ、地上Pi2と類似の波動が圧縮波成分に多数観測された。これらの圧縮波成分の振幅、位相差の空間分布を調べたところ、衛星で観測されたPi2はPVR(Plasmaspheric virtual resonance mode)の波動の特徴を持つことが明らかになった。また極軌道衛星Cluster衛星とヨーロッパと南極に位置する低緯度から高緯度の地上観測点を用い、内部磁気圏高緯度と地上高緯度で観測されるPi2地磁気脈動を比較した。高緯度で観測されるPi2の周期は低緯度のPi2の周期よりも短く、偏波の方向が異なっていることが明らかになった。以上の結果は、Pi2は高緯度と低緯度で発生源が異なることを示している。以上の研究によって、サブストーム発生時に内部磁気圏で引き起こされる擾乱の空間特性をより詳細に明らかにした。また、アメリカ合衆国・ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所に10ヶ月間滞在し、今年度から新たに、THEMIS衛星を用いたGiant pulsationの解析にも取り組んだ。Giant pulsationは、太陽活動度が極小の時にサブオーロラ帯に引き起こされる周期40-150秒の非常に大きな振幅を持つ波動である。地上磁場データで引き起こされているGiant Pulsationと衛星の磁場データを比較したところ、Giant Pulsationは朝側の限られた領域にしかみられない現象である事を確かめた。
著者
仲谷 満寿美
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度はレオン・バッティスタ・アルベルティ(1404-1472年)の恋愛小品群を中心に研究を進めた。『デイーフィラ』においては、失恋した若い男性がかつての恋人に病的なまでの執着を見せる。このような精神状態は西洋中世の医学では正真正銘の精神病と看做されていたことが、本年度の研究で明らかになった。当時の権威ある医学書のかずかずにおいて、仕事の精励や旅行などが恋の病の正式な療法として推奨されていた。この病気については、文学的トポスと医学的処方が交錯していたのである。『エカトンフィレ』では、女性の愚かさが再三話題にのぼる。『デイーフィラ』では女性の性悪さが、『エカトンフィレ』では女性の愚昧さが強調されており、両作品には強いミソジニー(女性に対する反感・蔑視)の傾向が認められる。ただし、アルベルティの作品におけるミソジニーは、一般的な男尊女卑とは異なっているように見受けられる。両作品を鑑みるに、作者自身の強い自意識、誰よりも優れているのを認めてほしい自尊心、自分の優秀さは女性(たち)からも称賛されるのが当然とする自負心、にもかかわらず認めてくれない女性(たち)にたいする不満、それでもなお女性(たち)から認めてもらえなければぐらついてしまう自信、といったものが言外に表明されている。『レオノーラとイッポーリトの愛の物語』は、ロミオとジュリエットの物語の原型の一つであるとされるが、この物語には、恋人を危機から救うために居並ぶ政府要人の前で滔々と演説する若い女性が登場する。この小品がアルベルティの真作かどうかは不明であるが、アルベルティと同時代に、このように主体的に行動する女性の物語が流行していたことは注目に値するだろう。建築家・思想家として有名なアルベルティが、表向きのミソジニーの下に複雑な人間心理を巧みに表現するこれらの文学作品を書いていたという事実は、きわめて興味深い。
著者
小島 剛
出版者
京都大学
雑誌
京都社会学年報 : KJS
巻号頁・発行日
vol.9, pp.149-164, 2001-12-25

The purpose of this paper is to consider how the public who are not engaged in special scientific work understand and interact with science. Recently we are surrounded by various risks caused by science, so the public needs to know and participate in increasing more scientific related affairs. To deal with this issue of "Public Understanding of Science", first, we sum up the scientific enlightenment action and policy during the twentieth century in the United Kingdom. We refer in particular to the Royal Society's report The Public Understanding of Science. In this report an evidence is found of aims to increase the publics understanding of science for national prosperity, and a "deficit model" is given which regard the public as scientifically vacant, ignorant people. On the contrary, there are studies that aim to make it clear that the public understanding of science has its own actuality and positive significance. We take Misunderstanding Science? as the representative study of this kind. Two examples in this book are introduced in this paper, one explains how the patients of Familial Hypercholesterolaemia get on with scientific and medical knowledge, and the other explains how sheep farmers around the Sellafield Nuclear Plant get on with the scientists sent from the United Kingdom. From these examples, we can find that there are rationalities in the lay public's scientific judgment. However, these examples are local and specific, so in order to make it clear that the lay public's scientific judgment has the great power to make scientific policies more democratic, we introduce global consumers' action against Royal Dutch Shell concerning the Brent Spar, an old oil rig that was dumped in the Atlantic ocean. This affair happened as global consumers ignored the authorized scientists' opinions, displaying the power of the public's own judgment. The main theme of this paper, that the public understanding of science has the critical power for scientific governance, is arranged in the last section.
著者
石田 毅 村田 澄彦 深堀 大介 薛 自求
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

火力発電所などから排出される CO2(二酸化炭素)を分離回収し地中に貯留すれば,有効な地球温暖化対策となるが,そのためには,地中に圧入された CO2 の挙動を調べておく必要がある.本研究では CO2 を花崗岩に圧入して破砕する実験を行った.その結果,CO2 は粘度が小さいため,水に比べて分岐の多い 3 次元的亀裂が広い範囲に造成される傾向が見られた.このことは,シェールガスや高温岩体地熱開発などの亀裂造成に CO2 を有効に利用しつつ地中貯留を実現できる可能性を示している
著者
田中 真介
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、幼児群4〜6歳児計43名、及び障害者群として授産・更正施設で共同生活する成人期の28名を対象として、幼児期の自己認識の深化が中間概念の形成とどのように関連しあって発達するかを調べた。その際、(1)中間概念の形成水準を1)系列円描画課題と2)七つのマル・テストで推定した。(1)系列円の描画:「小さいマルからだんだん大きいマル」を、たくさん及び7つ描かせたあと、最小と最大のマル、次いで「真ん中」はどれか、そして中央の判断理由を問うた。(2)自己認識の水準を自己全身像描画課題(三方向描画)と「真ん中」の判断理由から推定した。三方向描画では「自分の顔と体を、前、後ろ、横から見たところ」を描くよう指示した。また(3)新版K式検査で発達年齢(DA)を推定した。3歳から6歳に、中間項の認識のしかたと自画像の描き方から5つの発達過程が区分できた。横顔描画が確定する発達過程4に到るのは幼児群ではDA5歳後半であったのに対し、障害者群ではDA7歳半ばだった。自己概念の形成不全が個別諸機能の発達を制約していることを示す重要な結果である。両群間で「真ん中」の判断理由が顕著に異なっていた。幼児群は、(1)「真ん中と思ったから」「わかったから」など、自分自身の思考の働きを意識した答え方、及び(2)「真ん中みたいだから」「中ぐらいだから」「ちょっと〜だから」など自らのイメージや見立ての上に対象を重ねた判断の仕方を示し、間を刻む精細な対象把握ができていた。幼児群では5歳後半以後の20名中12名(60%)が上記のいずれかの答えだったのに対し障害者群では14名中3名(21%)のみがこのような答えだった。自分自身の思考活動を対象化することによってそれが学童期以後にどのようにして自己を客観的に見る力につながり、自他そして集団や社会に共通する普遍的な価値を見い出すに到るのか。その解明が今後の課題である。
著者
木梨 友子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

今年度は、バイスタンダー効果の臨床応用としてホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を受けたときのバイスタンダー効果による人体影響について研究をすすめた。BNCTの生体におけるα線のバイスタンダー効果は、ホウ素化合物の投与の有無の条件下で、中性子照射後に直接α線の照射を受けない正常組織の変化の差を比較することで証明することができる。、BNCTにおいてα線の照射を直接受けない末梢血のTリンパ球のBNCT治療後のマイクロヌクレウスの出現頻度の増加率を中性子照射前のマイクロヌクレウスの出現頻度をもとに算出し、BNCT患者のリンパ球のマイクロヌクレウス形成率の解析により生物学的線量を評価することができた。さらに、従来のライナックによるX線治療や甲状腺のアイソトープ治療と比較し中性子照射の生体への影響を評価した。BNCTを受けた、頭頚部腫瘍患者および脳腫瘍患者患者の治療前後の末梢血リンパ球におけるマイクロヌクレウスの出現頻度の変化を解析し、生物学的被ばく線量の推定を行なったところ、生物学的被ばく線量の平均値は頭頚部腫瘍患者が0.24Gy、脳腫瘍患者が0.20Gyであった。ライナック治療を受けた患者の治療前後の末梢血リンパ球におけるマイクロヌクレウスの出現頻度の変化と比較したところ、BNCTにおける治療前後の末梢血リンパ球におけるマイクロヌクレウスの出現頻度の変化は約三分の一以下の増加率にとどまり、BNCTがX線による放射線治療と比べても、全身への被ばく線量の少ない効果的な選択的放射線治療であることが確認された。
著者
川上 養一 船戸 充 岡本 晃一 岡本 晃一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

本研究プロジェクトによって、近接場マルチプローブ分光技術、すなわち、光ファイバー先端に設けた微小開口から試料の微少領域を光励起し、数100 nm程度離れた場所からの光信号を別の微小開口プローブを用いて分光する技術の開発に成功した。これによって、半導体ナノ構造など光材料におけるキャリア・エキシトン・プラズモンなどの素励起の時間的・空間的な再結合ダイナミクスを可視化でき、光物性評価のための新しいツールが開発された。
著者
北島 宣 片岡 圭子 札埜 高志 羽生 剛 山崎 安津
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

'無核紀州'由来の無核性発現には植物生長調節物質は直接的に関与していないことが明らかとなった。この無核性発現機構は、高温条件で解除され、種子が形成されることが明らかとなった。開花0~4週間後の高温が無核性発現機構の解除に関与することが示唆された。
著者
津田 敏隆 堀之内 武 小司 禎教 瀬古 弘 河谷 芳雄 矢吹 正教 佐藤 一敏 川畑 拓矢 國井 勝
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究はGPSや準天頂衛星による衛星測位データを大気科学に活用する「GPS気象学」の一環であり、以下の3課題を実施した。1) 小型低軌道(LEO)衛星を用いたGPS電波掩蔽により、高度分解能と精度が優れた気温・水蒸気プロファイルを解析する、2) GPS掩蔽データと地上GPS観測による可降水量データをメソ数値予報モデルに同化し予報精度向上を評価する、および3) GPS掩蔽データを用いて大気構造・擾乱の時間空間特性を解明する。
著者
中尾 央
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は交付申請書でも記載したように,遺伝子と文化の二重継承節(Robert BoydやPeter Richerson),ミーム論(Daniel Dennett, Richard Dawkins),また心のモジュール説に基づいた文化の疫学モデル(Dan Sperber, Scott Atran)などを主に検討した.その検討の結果,これらが互いに対立するものではなく,むしろ補完し合うものであることを明らかにしてきた,これらの研究や(進化心理学や人間行動生態学に関する)前年度の研究をあわせて,これまで人間行動の進化的研究に関して提唱されてきた様々な研究プログラムは,部分的な修正を加えることによっておおむね両立しうるものであることが示された。これらの研究成果はこれまであまり明確な形で行われてこなかったものであり,その意味では意義ある成果であると言える(論文は,現在印刷中で来年度以降に出版予定である).また,本年度においては,これらの研究プログラムでは補いきれない部分にも着目し,研究を進めてきた,その一つが文化の系統学的アプローチである.他にも文化や人間行動の進化にとって重要な役割を果たすであろう(がこれまではあまり注目されてこなかった)教育や罰の進化について,より具体的な研究も進めつつある.前者については生物体系学者の三中信宏氏と共編で論文集を企画し,また後者については,2010年9月から2011年3月にかけて,ピッツバーグ大学科学史科学哲学科を訪問し,Edouard Macheryと共同で研究を行った.これらの研究はまだ明確な成果を残せていないが,来年以降には論文や発表などにおいて,成果を残すことができるだろう
著者
木田 章義 ZHONG JinWen
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

西部裕固語(以下彼等の自称「ヨグル語」を使用する)は、トルコ系民族がイスラム化する前に、甘粛省に東遷したので、他のトルコ系民族の受けたイスラム教やアラブ文化の影響がない。そのためもあって、その言語は古代トルコ語の特徴をよく残している。今回の共同研究によって、それが確かめられると同時に、古代日本語の文法現象について、新たな視点が得られた。例えば、ヨグル語では受身形は、時には可能、自発の意味を持つが、それは古代日本語の受身助動詞「る」「らる」と同じである。特に興味深いのは、ヨグル語では受身が可能の意味をもつ過程が跡づけられる点である。日本語の受身形は「自発」を基本として発達したという見解については改めて考える必要がある。ヨグル語の研究は、ほとんど進んでいない。今回、招聘できた鐘進文氏が唯一の研究者と言っても良いが、この共同研究によって鐘氏の文法分析が、中国語や、これまでの漢族の分析の影響を受けて、かなり矛盾のあるものとなっており、丁寧に日本語と対比することによって、分析すべき多くの言語現象があること、文法体系がかなりゆがんで捉えられていることが分かった。日本語と、細部まで比較するためには、あらためてヨグル語の文法書を作成しながら、共同研究を続けなければならない。また、文法書の作成以前に、ヨグル語の単語の正書法を決めなければならない。ヨグル語の表記はローマ字を使うことになるが、その正書法が決まっていないために、同じ単語が全く違った表記になったり、二つの語が融合した形式になっているものも少なくない。資料を残してゆくためにも、正確な文法分析のためにも、正書法を決めることは喫急の作業である。現在、ヨグル語の話手は3千人ほどしか居ず、年々、漢語の影響が強くなり、若者にはヨグル語を解さない者が多くなってきている。放っておけば、この一世代で滅亡してしまうことになるだろう。この共同研究は、ヨグル語が滅亡する寸前に、その言語を記録し、分析する貴重な機会となった。
著者
高橋 徹
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ロボットによる,音源定位,音源追跡,音源分離,分離音声認識の精度を改善した.これらの改善により,ロボットの動作により音源の方向変化に追従した音源分離が可能になった他,ロボット動作に起因するロボット自身の動作音の影響を受けにくくなり,ロボット動作中の分離音声認識が可能になった.つまり複数音源下でのアクティブオーディションのための身体動作制約が,ほとんどなくなった.音源に近づき信号対雑音比を改善し,複数音源間の方向角度差を広げるように移動し,分離音声認識精度を改善可能になった.音源とマイクロホン間に身体が入り込むような特別な場合を除き,動作中の認識精度を低下させることなく,分離音声認識が可能になった.
著者
渡邉 慶
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

計画初年度および2年度の研究の結果、ニューロン活動記録実験(本実験)に用いる行動課題として、Dual task paradigm(二重課題法)と呼ばれる刺激提示方法を用いることが本研究の目的に最も適していることが明らかになった。二重課題とは、被験者に同時に二種類の異なる課題を行わせる実験手法である。この時、二重課題を構成するそれぞれの課題の正答率は、個々の課題を単独で課した場合の正答率より低下することが、二重課題干渉(Dual task interference)として知られている。本研究で用いた二重課題では、サルに、視野内の異なる場所に配置されたリング状の視覚刺激の輝度の微細な変化を検出(注意課題)させる傍らで、視野内の5カ所の内のいずれかに提示される別の視覚刺激(正方形の一様光ディスク刺激)の場所を記憶させる(短期記憶課題)という二種類の課題を同時に課した。行動データ解析の結果、2頭のサルにおいて、二重課題干渉が起こることが示された。即ち、両課題を同時に行った二重課題場面における各課題の正答率が、注意課題と短期記憶課題を別個に行った場合の正答率に比べて、顕著に低下した。更に、サル前頭連合野から単一ニューロン活動を記録・解析した結果、2頭のサル両者において、前頭連合野のニューロン活動が二重課題干渉を示すことが明らかになった。即ち、短期記憶課題を単独で課した場合に記録された記憶関連活動が、同一の課題が二重課題の一部として行われた場合には、顕著に減衰することが示された。更に、二重課題場面における記憶関連ニューロン活動の減衰の大きさは、行動レベルで観察された二重課題干渉の大きさと相関していることが示された。従って、行動レベルで観察された二重課題干渉という現象は、前頭連合野の単一ニューロンの挙動によって説明されることが示された。本研究の結果は、多くの心理現象の説明に幅広く用いられてきた「認知資源」という心理学的概念に、神経科学の立場から直接的な証拠を提示するという意義を持つ。
著者
小山 英恵
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

ミューズ教育は、20世紀前半ドイツの学校音楽教育の指導的理念である。これまで、このミューズ教育の思想を実践に移したブリッツ・イェーデ(Fritz Jode, 1887-1970)の音楽教育論およびイェーデに対する批判的な見解に焦点を当てて研究してきた。今年度は、イェーデが自身の新たな音楽教育論を実践するために構想した音楽学校構想、および教師教育論について研究を進めた。まず、イェーデの構想により1923年に創設されたシャルロッテンブルク青少年音楽学校のカリキュラムについての研究を進めた。青少年音楽学校の理念は、すべての人々に「共同」の精神や「生彩に富む」の内面の「生」の表れとしての能動的な音楽活動を可能にさせることを目指すことにあった。この理念を実現するためにイェーデは、未来の音楽家や音楽教師の育成を担う音楽大学附属の青少年音楽学校を構想し、あらゆる社会的階層の子どもたちを生徒として呼び集めた。この学校のカリキュラムは、音楽授業と授業外の活動の2つからなっていた。次に、イェーデの青少年音楽運動における教師教育について、1925年に実施された民衆音楽学校のための教師教育講座および1926年以降に実施されたベルリンの国民学校教師のための学校音楽講座に関する2つの史料を取り上げて検討した。この教師教育の目的は、「音楽への能動的な参加」によって「生」や「愛における共同体」を人々の内面にもたらすという青少年音楽運動の理念を音楽教育において実現する教師の育成にあった。その教育内容の特徴は、音楽の専門的能力や教育者としての能力だけでなく、音楽のもつ人間形成の力を基盤とする青少年音楽運動の教育観や音楽観を育成しようとする点にあった。授業方法の特徴は、参加者が共同で考えを練り上げ新たな価値を生み出していくという「作業共同体」の方法論にあった。この方法論は、自らの価値判断において教育における課題解決を行う自律的な教師を育成しようとするものであった。
著者
有賀 哲也 奥山 弘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

固体表面上に形成された低次元金属においては、電子と電子の間の相互作用、電子と格子の間相互作用、あるいはラシュバ型スピン軌道相互作用によって、さまざまな興味深い低次元物性が発現する。本研究では、将来の半導体スピントロニクスの基盤となる半導体表面上低次元金属において、さまざまなタイプのラシュバ型スピン偏極状態を発見した。また、ケイ素表面上の低次元インジウム単原子層における金属-絶縁体相転移が擬一次相転移であることを明らかにした。
著者
南雲 泰輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、まずは昨年度取り組んだ研究成果を口頭報告および論文として発表することから始めた。第一に、第8回日本ビザンツ学会において口頭で報告を行なった21世紀以降の「古代末期考古学」の動向分析を学界動向として論文化し、『古代史年報』8号(2010年)に発表した。第二に、ローマ帝国西部の武官スティリコに関する研究成果の一部を、第60回日本西洋史学会大会(2010年5月30日、別府大学)において口頭で報告し、この口頭報告を基にした論文を『古代文化』62巻3号(2010年)に発表した。この論文は、後期ローマ帝国において「蛮族」という属性が持った意味について、近年主流となっている考え方とは異なる視角から解明を試みたものであり、詩人クラウディアヌスのラテン詩等の分析に基づき、皇帝家と「蛮族」出身の武官スティリコとの間で形成された姻戚関係に着目して考察を行なった,続いて本年度は、ローマ帝国西部における当時の代表的元老院貴族クイントウス・アウレリウス・シュンマクスの著作を中心とした考察を新たに進めた。予定通り、2010年9月に英国・ロンドン大学古典学研究所および大英図書館において集中的な文献調査・資料収集を行ない、国内では入手・閲覧の困難な多数の関連資史料を参照・収集することができ、これによって現在までの研究状況とその問題点とを概ね把握しえたことは大きな成果であった。また、この文献調査・資料収集の結果、本年度の当初の研究計画は部分的に修正する必要が生じ、とりわけ分析の中心となる同時代史料については、シュンマクスの残した『書簡集』のみならず『陳述書』をも視野に含めることとして、それぞれの史料の読解を進め、これを検討した。
著者
吉井 秀夫 SEONG JeongYong
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度は、研究代表者の吉井の指導の下、研究分担者が日本および中国における資料の実見調査を精力的におこなった。中国での調査については、5月に遼寧省の朝陽・瀋陽周辺の鮮卑系考古資料を見学し、この地域の騎馬に関わる文化が、4・5世紀の百済の馬具とどのような関係にあるのかについて検討をおこなった。日本での調査については、これまで研究分担者が訪れる機会のなかった中部・関東地方の資料を集中的に調査することにした。5月には、大室古墳群に代表される、長野市周辺の渡来系考古資料の見学と検討をおこなった。また岡山県でおこなわれた、古代山城である鬼の城についてのシンポジウムに参加して、百済山城との関係を議論し、城門を復元中の鬼の城の現地を見学した。7月には福井県・東京都・群馬県・埼玉県・千葉県で資料調査を行った。福井県では、福井県立郷土若狭歴史民俗博物館などを訪れ、若狭を中心とする渡来系考古資料の実見調査をおこなった。東京都では、東京国立博物館および宮内庁書陵部が所蔵している日本各地出土の渡来系考古資料(主に馬具類)を集中的に見学した。群馬県・埼玉県・千葉県では、群馬県観音山古墳・観音塚古墳、埼玉県埼玉古墳群、千葉県金鈴塚古墳など、関東における環頭大刀や青銅製容器が多量に出土した古墳の現地を訪れ、また出土資料を見学して、百済との関係について検討をおこなった。個人的な事情から、今年度の研究費による調査を中断せざるをえなくなったが、昨年度の調査と含め、日本および中国において、百済との関係が深い考古資料の概要を大まかに把握することができたのが最大の成果であった。この成果をもとに今後も、引き続き百済の対外交渉について、東アジア的な視角から研究を進めていきたい。