著者
上野 陽里 青木 達 栗原 紀夫 山本 啓一
出版者
京都大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1987

核融合研究が発展し試験炉が運転を始めると大量のトリチウムが環境に放出される恐れがある. 環境中のトリチウムが増加すると種々の経路を通じて体内に侵入したトリチウムにより放射線被爆の可能性が増加する. したがって現在の日本人体内のトリチウム量を測定し, 基準値となるバックグラウンド値を明らかにしておくことは今後の増加を知り, 環境のリスク評価を行う上で重要である. 日本人の体内自由水トリチウムについては現在まで今年度の9例を加えて29例の測定を行っており, 組織結合型トリチウムについても測定を始め数例の結果を得た. 材料は法医解剖をうけた生前は健康と思われた遺体から得た. 各組織は真空凍結乾燥法により72時間かけて捕集した. 捕集して得た自由水は従来からのアロカ製低バックグラウンド液体シンチレーション計数値LSCーLB1と, 今回本科学研究費で入手したパッカード製液体シニチレーションアナライザTRIーCARB1550を用いて測定を行った. 組織結合水については, 燃焼後の水を捕集して測定した. 全試料数は86個でその平均は105pCi/lであった. 個体間のばらつきは52pCi/lから210pCi/lの間にあった. 各組織の平均は脳で71pCi/l, 肺で88pCi/l, 肝で87pCi/l, 腎で162pCi/l, 筋で69pCi/l, 脾で102pCi/lであった. 組織結合水では肝で750pCi/l, 筋で600pCi/l, 蒸溜水で320pCi/lと大きい値を示した. この理由は不明であるが, 恐らくスペクトルがトリチウムに類似した有機物質の疑計数であろうと思われる. 今後この分析を行うと共に例数も増加させていく予定である. 試料は目下蓄積中である.
著者
中山 桂
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

昨年度に引き続き、2頭のサルが棒をひいて餌をとる課題をおこなった。この装置では、手の届かない場所にあるテーブルに餌がおかれており、サルは棒をひいてテーブルをひきよせて餌をとることができる。1頭が片側から棒をひくと力の方向にテーブルが回転、2頭が同時に両側の棒をひくとテーブル全体が力の方向にスライドするよう装置が工夫されている。このしくみにより、協力しないか(単独でひくか)・協力するか(2頭で一緒にひくか)をサルに判断させることが可能になる。単独でひくと少量の餌がすぐに手に入るが、協力するとより多くの餌を手に入れることができるときに、サルがどのような意志決定をおこなうかを調べた。今年度は、協力関係の成立したペアを対象に、協力がどのような条件でおこるのか、またどういった要因が協力関係の維持に影響するのかを検討した。まず、(1)高い成功率で協力したのは、餌に対する社会的寛容が高く、協力における役割分担がパターン化しているペアであることがわかった。そして、(2)いったん協力関係が成立した後でも、ペアのうち片方もしく双方が、少量でもすぐに手に入る餌を好む傾向が強い場合には、協力関係がこわれやすいことが確認された。興味深いのは、(3)少量でもすぐに手に入る餌を好む傾向と、働かずして相手の餌を横取りする傾向の間に相関がみられたことである。
著者
藤田 正治 AWAL R. AWAL Ripendra
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

氷河湖の決壊で一旦洪水/土石流が発生すると下流域に多大な被害をもたらす。このような洪水の発生原因の80%は、末端氷河が氷河湖に崩落する際に発生する津波の越波により堤体が侵食破壊することによって生じる。これ以外にも,浸透,パイピング,すべり崩壊といった様々な原因で決壊する。この中でパイピングによる決壊のメカニズムについてはほとんど分かっていない。多くの天然ダムの形成事例を調査した結果,決壊には至らない場合でも浸透流が堤体内に形成され,裏法面から浸透水が湧出しているケースが比較的多く見つかった。これは,比較的水分を含まず流動化しない形で天然ダムが形成される場合においては,堤体は十分締め固まって堆積するのではなく,緩く堆積するために堤体内に水みちが形成され,いわゆるパイプとなってここから水が流出し,場合によってはパイプ内の水の掃流力によってパイプの侵食が生じ,パイプの拡大からパイピングへと進行すると考えられる。ただし,パイプの形成過程から現象を再現するのは困難なため,本研究では予め氷河湖の堤体内にパイプが形成されている場合を想定し,パイプの形成位置,河道勾配,初期湛水位,初期パイプの大きさ等とパイピングによって形成される洪水/土石流ハイドログラフとの関係等について水理模型実験を行い,これらを考究した。その結果,初期水位が高いほど,氷河湖の長さが長いほど,洪水のピーク流量が大きいことが分かった。また,初期パイプの大きさの違いによって,洪水ピークの発生時刻が異なる(小さいほうが遅い)が,ピーク流量はほぼ同様であった。堤体は1)パイプの拡大,2)パイプの拡大とヘッドカット侵食,3)パイプ位置の違いによるヘッドカット侵食により決壊し,種々の条件によってハイドログラフが敏感に変化する。パイプの拡大による管路流れから開水路流れへの遷移も,ハイドログラフに大きく影響する要因であることが判明した。
著者
吉岡 洋
出版者
京都大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:03897508)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.80-98, 1983-03-31
著者
河原 達也 GOMEZ Randy GOMEZ R.B.
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

音声は人間同士のコミュニケーションにおいて最も自然なメディアであり、計算機やロボットとのインタラクションにおいても音声対話は重要な役割を果たすと考えられる。しかしながら、実際の環境において、計算機やロボットから一定(数メートル)以上離れた状況で発話がなされると、残響等の影響が顕著となる。その結果、音声認識や発話の理解の性能が大きく低下し、円滑な対話も困難になる。従来この問題に対して、音声強調・残響抑圧の研究が行われてきたが、人間の聴感上の改善を主な目標としていたため、必ずしも音声認識やインタラクションの性能改善につながるとは限らないものであった。これに対して、音声認識やインタラクションの改善に直接的に貢献するように音声強調を行う方法について研究を行った。今年度は特に、複数の分解能からなるウエーブレット分析の手法を研究した。提案するウエーブレットパケット分解では、遅い残響成分と音声の成分を効果的に分離するように、各々の分解能を設定する。これにより、各々に適切なウエーブレット基底を用いることで、観測された残響のある信号から効果的なウイナーゲインを計算することができる。残響抑圧は、ウエーブレットパケットの係数をウイナーゲインでフィルタすることで行われる、大語彙連続音声認識(JNASタスク)の評価実験において、提案手法はウエーブレット分析に基づく従来法や他の残響抑圧手法と比べて、高い性能を示した。
著者
西山 昌秀 石田 武和 野口 悟 川又 修一 加藤 勝 町 敬人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は銅酸化物高温超伝導体においてスーパークリーンな系であるYBa_2Cu_4O_8(Y-1248)単結晶を用いて、超伝導における競合秩序や隠れた秩序変数の共存などの精密な物性を明らかにすることを大きな目標として行った。実験結果の解析、実験環境の構築を主として行い、単結晶Rb_2Cu_3SnF_<12>やCu_2OCl_2試料の測定を通して、小さな試料、小さな信号に対する信号雑音比の改善に成功した。試料回転機構の構築も行った。微少単結晶に対するNMR測定の環境は整えることができ、このスーパークリーンな系であるYBa_2Cu_4O_8(Y-1248)単結晶を用いたNMRに応用し、詳細な知見を得ることが可能となっている。
著者
川上 浩司 須藤 秀紹 半田 久志 塩瀬 隆之 小北 麻記子 谷口 忠大 片井 修 平岡 敏洋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究課題は、便利の追求で見過ごされて来たが実は人を含む系においては重要であった事項を整理し、効率化や自動化に代わるシステムデザインの指針を探るものである。国内外の動向を整理すると共に、各種のデザイン領域における事例を収集・整理した結果は、学術雑誌や学会で報告するだけにとどまらず、平成23年に一般啓蒙書(不便から生まれるデザイン:DOJIN選書42)にまとめ、web でも逐次発信をしている。また、場のメカニズムデザインへの応用事例は、2013年に閣議決定された計画に盛り込まれた。日用品デザインへの応用事例は、各種メディアで採り上げられた。
著者
川上 浩司 片井 修 塩瀬 隆之 須藤 秀紹 半田 久志 谷口 忠大
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

手間いらずで効率的に要求が満たせる「便利な道具や方式」よりも、むしろ不便な道具や方式に、能動的工夫の余地・対象系の物理的理解促進・自己肯定感の醸成、などの効果がある。我々はこれらを積極的に評価する「不便益」という考え方を提唱し、この視点からの新たなシステム設計方法論の構築を試みた。最終年度にあたる2008年度に得られた成果を以下にまとめる。[不便益の総論:]初年度から継続する各種講演やOSを年に数回開催し、そこで得られた多くの知見の整理を通して不便益の輪郭を明らかにして、HI学会論文誌に総説論文としてまとめた。[不便益の各論:]システムデザインにおける「便利」を基礎づけるものとして、因果に基づく明瞭な説明・分類/分割による高いモジュラリティ・あいまいさの無い推論・中央集権的システム構成に注目し、それらが援用できない「不便」、すなわち均衡(バランス)に基づく説明・明瞭な分割ができないこと・解釈(推察)の多様性・分権的制御などから得られる益を積極的に活用する考え方を提出するとともに、それらのいくつかには具体的な活用方法や数理的基盤を与えた。[不便益の応用:]不便益に関する知見をシステムデザインに応用することによって、その有効性を検証した。適用対象としては、情報伝達に関して「見るのではなく触れることしかできない絵画」や音と画像による情報伝達におけるテロップの効用分析、解釈の多様性に関して比喩表現やピクトグラムによる非言語コミュニケーションの有効性検証と、エージェントシミュレーション、デザインの実践として月に一度のインクルーシブデザインワークショップ(塩瀬)、などを実施した。
著者
北 徹 中谷 矩章 松沢 佑次 KOREAKI NAKAYA
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

我国においても食生活の欧米化に伴い、狭心症、心筋梗塞等の虚血性心疾患の発生頻度が年々上昇している、我々の研究成果を基に上記症の根底をなす動脈硬化発症につき、ことに血清コレステロール代謝に注目し、まず食餌因子の血清コレステロールに与える影響について検討を試みることにした。従来より食餌性の諸因子が血清コレステロール、ことにLDLコレステロールに影響を与えることが知られている。我々は動物性食物の摂取がほとんど無い禅宗修行僧に注目し、彼等の血清脂質と食餌成分とを比較検討し、合わせて外国人および日本人修行僧の比較を試みた。<結果>京都市内の禅寺修行僧を対象に検討とたところ(平均年令29.7才)血清総コレステロール値135,1mg/dlでLDL値は73mg/dlであった。一方コントロールの成人男子は血清コレステロール値が188.9mg/dlでLDLが108.6mg/dlであり、明らかに修行僧の血清コレステロール値ことにLDLコレステロール値は低値を示した。次に外国人、日本人の同居する禅寺において検討したところ、外国人の総コレステロール値は149mg/dl、LDL値は77mg/dl、日本人のそれは150mg/dl、82mg/dlであった。一方コントロールのそれは187mg/dl、112mg/dlであり、人種差が影響していないことが判明した。また禅寺に入山前後で食餌成分の影響を検討したところ、入山前総コレステロール、LDL値は166mg/dl、92mg/dlで6ケ月後に136、77mg/dlに低下している事が判明した。食餌分析の結果、総摂取カロリーには変化が少ないが、禅僧はコレステロールの摂取がほとんど無くしかも動物性食物の摂取が無いためと思われるが、不飽和脂肪酸の摂取が多く、それに比して飽和脂肪酸の摂取が少ない事が明らかとなった。現在動物を用いて飽和脂肪酸を多く含んだ食事、逆に不飽和脂肪酸を多く含んだ食事により、血清コレステロール値の変動を検討する予備実験を進めている。
著者
若月 芳雄 HO Bow FOCK KWong M 千葉 勉 FOCK Kwong M BLASER Marti STROBER Warr
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

H.pylori感染患者は全世界で約20億人、日本では約7000万人にのぼり、単一感染症としてはその感染患者数は史上最大であり、上部消化管の様々な良悪性疾患の原因となり関連疾患に要する医療費は莫大である。感染患者の病型を決定する因子については、欧米と日本の報告に解離がありその大略は未だに不明である。 国立シンガポール大学のHo Bow,Chang Gi病院のFock Kwong Ming等との共同研究によりシンガポールでは、中国系・インド系の人種グループには80〜90%の高いH.pylori感染者が存在するのに対して、マレー系のグループには40%の低い感染率であることが判明した。一方H.pylori感染症によりおこる慢性萎縮性胃炎と胃癌との関係は確立しているが、中国系、マレー系にはH.pyloriの感染罹患度に応じた胃癌累積発生を観るのに対して、インド系ではその高度な感染率に比較して胃癌発生頻度が極めて低いことが判明した。そこで今年度はマレーシアのKebangsaan Malaysia大学医学部細菌・免疫学教室のRamelha Mohamed助教授と協力して、同国の中国系・インド系・マレー系マレーシア人の感染患者より、H.pyloriの臨床分離株を収集しその遺伝子型と、臨床病型の解析に着手した。一方日本人患者からの臨床分離株のゲノム遺伝子ライブラリーより患者血清と家兎抗体を用いて、幾つかの抗原遺伝子をクローニングしそのうち、約19Kdの二量体型の膜蛋白(HP-MP1)はH.pyloriに特異的な新規抗原遺伝子であること、その組み替え体は単球を活性化するものであることを発見した。これらの所見は、この感染症の病態解明のみならず宿主の免疫応答を利用した新しい治療法の開発につながるものと考えられる。
著者
北 徹 濱口 洋 若月 芳雄 久米 典昭 横出 正之 土井 俊夫 吉岡 秀幸
出版者
京都大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

まず、本研究の目的である血管内皮細胞への接着及びその阻害効果を判定する方法として、ヒト臍帯静脈から採取した内皮細胞を培養し、あらかじめ常法にて採取した単球の接着を行う。24時間培養を行い、dishを洗浄した後、ギムザ染色にて、その後着量を判定する。この際、あらかじめマロチラート(Diisoprophyl-1、3-dithiol-2-ylidenemalonate)、あるいは抗単球接着分子抗体を添加した群との間で比較検討を行う。マロチラート(diisoprophyl-1、3-dithiol-2-ylidenemalonate)の単球接着阻害効果については繰り返し実験を行ったが、際立った効果をあげるに至らなかった。単球接着分子については、invivoの判定を考慮に入れると、ウサギの系が最も扱いやすく、その場合にはVCAM-1が最もよい接着分子と考えられた。。VCAM-1と単球接着の関係を観察する目的で、まず、遺伝的に動脈硬化を引き起こすWHHLウサギを用いて、それぞれに動態を検討したところ、1ヶ月令ですでに動脈硬化の起こりやすい場合にVCAM-1の発現を抗VCAM-1抗体を用いて確認することができた。この際、第1肋間動脈では、その入口のみに接着分子の発現が観察されたが、2ヶ月令では、その付近の動脈では全周にわたって観察されることが明らかにされた。1ヶ月令ではすでに単球-マイクロファージの存在も確認された。約3ヶ月令ではTリンパ球の存在も同部位に確認された。この事実は始めての結果であり、学会発表予定であり、論文も準備中である。この間、接着分子のノックアウトマウスの研究が米国において行われ、単独の単球の接着が単球接着分子のみにて起こる現象ではないことが判明し、今回の研究テーマも方向転換せざるをえなくなった。
著者
礒島 知也
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

原子気体ボーズ凝縮体中の渦糸についての研究を行った。この凝縮体では、これまでに、2本の渦糸がそれぞれ螺旋状の配置をとる構造や、4本の渦糸が同一面内に平行に並んだ配置をとる構造が実現されている。これらに対する理論的研究をこれまで行ってきたが、それをさらに進めて、2本の渦糸が鎖状の配置をとる構造や、4本の渦糸が編目状の配置をとる構造を実現するための、理論研究を行った。どのような構造が発生するかは、ボゴリューボフ方程式の固有値と固有ベクトルを調べることでおおよそ予測できることを示し、その固有値等の性質によると、実験のための最適な条件は、原子気体凝縮体の、線密度の最大値を調節することで得られることがわかった。また、凝縮体を非調和型トラップに閉じ込めた場合には、凝縮体内の比較的広い範囲で、渦糸が鎖状や編目状の配置をとれることを示した。それらの情報を元に、実現可能な原子数や閉じ込めトラップの配置で、三次元空間で渦糸の位置の時間変化をシミュレーションし、鎖構造と網目構造ができることを数値的に示した。この研究内容の一部は、これまでに国内の学会で発表していたが、今回新たに、渦糸2本や4本からなる構造、ねじれ構造と鎖状構造といった空間配置のパターンごとに、それを実現するための条件を整理し、より精度を上げた数値計算を行って論文として発表した。これによって、海外の研究者に向けても、このような多様な構造の可能性を指摘することができた。
著者
高橋 信之 河田 照雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

これまで空腹時高脂血症が動脈硬化性疾患のリスク因子として重要であると考えられてきたが、近年、食後高脂血症の方が動脈硬化性疾患発症とより密接に関連していることが示され、食後高脂血症を予防・改善することが重要であると考えられている。しかし、これまでに小腸上皮細胞における脂肪酸酸化活性が食後高脂血症にどのような影響を及ぼすか検討されてこなかった。そこで本研究では、小腸上皮細胞での脂肪酸酸化活性を変化させる内因性・外因性因子の食後高脂血症に対する作用を検討した。その結果、内因性因子としてレプチンが、外因性因子として PPAR-alpha 活性化剤であるベザフィブレートが。小腸上皮細胞での脂肪酸酸化を亢進させることで食後高脂血症を改善することが明らかとなった。さらに PPAR-alpha を活性化する作用を有する DHA にも同様に食後高脂血症を改善する作用があることが明らかとなった。以上のことから、小腸上皮組織における脂肪酸酸化活性は、生体内への脂質輸送量を決定する上で重要であり、食品成分により食後高脂血症を改善することが可能であることが示された。
著者
玉田 芳史 河原 祐馬 木村 幹 水野 広祐 岡本 正明 麻野 雅子 日下 渉 横山 豪志 滝田 豪 河野 元子 上田 知亮
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

タイ、フィリピン、マレーシア、韓国の政治は、1997 年のアジア通貨危機直後には安定していたものの、その後不安定になった。その主因は、社会的な格差や分断を増幅した新自由主義経済政策であった。社会経済的地位が不安定になった中間層は、多数派庶民の政治的台頭を前にして、数に対抗するために道徳という質を強調するようになった。そうした対立と不安定化が、タイとフィリピンではとりわけ顕著になっている。
著者
田窪 行則 OSTERKAMP Sven
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年度には新資料の発見がいくつかあったが、主なものとしては、バチカン図書館蔵『伊呂波』と、シーボルト旧蔵にかかるマンチェスター・ジョンライランズ図書館現蔵『倭語類解』との欧洲所在朝鮮資料2点である。前年度に始めたそれらの調査を平成23年度にも続けた。後者に関しては、Medhurst編『朝鮮偉國語彙』(1835年刊)の前半の底本となったものであるということがわかったが、マンチェスター本『倭語類解』のみならず、『語彙』の後半のもととなった和刻本『朝鮮千字文』(Sturler旧蔵、パリ国立図書館現蔵)などをも調査した結果を2012年1月の教授就任講義で改めて取り上げ、今後『語彙』の成立過程と出典をテーマとした小論としてまとめる予定である。また、平成23年度には新たに、『朝鮮通信考』なる写本(京都大学附属図書館蔵)に「諺文いろは」が載せてあることを発見した。寛永13年(1636年)の朝鮮通信使の際、朝鮮人文弘績が林羅山と筆談する時に記したと見られるものである。とすれば、18世紀のものがほとんどの、先行研究において指摘されてきた「諺文いろは」の諸本よりも一世紀近く早いものということになる。従って、朝鮮資料のみならず一般的に日本語音韻史の研究にとって好資料となると思われる。特に、その原形がこの「諺文いろは」とほぼ同じ年代に遡るとされている原刊本『捷解新語』のハングル音注に矛盾するところが少なくないという点で、示唆に富む資料といえる。平成23年度内に発表した論文としては、まず、管見に入った若干の補遺を加えるとともに西洋の学界に紹介する目的で、2009年刊行の『譯學書文献目録』(遠藤光暁他編)の書評を執筆した。これ以外に、広く朝鮮時代におけるハングルによる外国語表記を扱った小論も平成23年に出たが、朝鮮資料の日本語表記などにも触れている。
著者
荒木 崇 遠藤 求 山口 礼子
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フロリゲン(花成ホルモン)の実体がFTタンパク質であること、輸送される主要な形態は蛋白質であってmRNAではないことを明らかにした。FTタンパク質の長距離作用能と輸送能において重要なアミノ酸残基を見いだし、輸送とその調節機構を解明するための糸口を得た。FTタンパク質のパートナーであるFD蛋白質のリン酸化を実証し、14-3-3タンパク質を介した複合体形成に必須であることを示した。フロリゲンの新たな役割として、側芽分化と側枝伸長の調節を見いだし、BRC1タンパク質が側芽・側枝におけるフロリゲン複合体の活性調節因子であることを明らかにした。
著者
高橋 義朗
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

核スピン5/2を持つフェルミ同位体173YbによるSU(6)系フェルミモット絶縁体の生成とポメランチュク冷却法のスピン増強効果の実証、ボース・フェルミ混合系における混合モット絶縁体相の生成と同定、高次スピン対称性を持ったフェルミ・フェルミ混合系の実現、などに成功した。また、光フェッシュバッハ共鳴法を、ボース凝縮およびp-波相互作用するフェルミ原子系に適用し、基底および準安定状態間の磁気フェッシュバッハ共鳴を発見した。
著者
小山 倫史
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,ゲリラ豪雨時の雨水浸透現象の把握および表層崩壊メカニズムの解明を目的として,ゲリラ豪雨の降雨波形および斜面内の水収支を正確に捉えるための計測技術の高度化を図るとともに,連続体・不連続体モデルを用いたより高度な応力-浸透連成解析手法を開発した.また,集中豪雨により崩壊を起こした実斜面について,現地の地質調査・土質試験の結果および高精度な雨量観測データをもとに表層崩壊の再現解析を実施し,数値解析による斜面安定性評価および崩壊危険予測が可能であることを示した.
著者
小野 薫 泉屋 周一 秦泉寺 雅夫 松下 大介 石川 剛郎 山口 佳三 高倉 樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

symplectic 構造は、古典力学における Hamilton の運動方程式の定式化などで重要な幾何構造である。近年は、symplectic 構造そのものの幾何学的研究が進展し、ミラー対称性の数学的研究と相俟って多くの研究者が関心を持つ対象となっている。研究代表者は、symplectic 幾何学で特に重要な Floer 理論とその応用の研究を続けている。今研究計画においては、Floer 理論をトーリック多様体とその Lagrange トーラスファイバーに対して、具体的な研究をし、いくつもの興味ある結果を得た。