著者
佐藤 全敏
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

各寺院の歴史書(寺誌)に埋もれていて、これまであまり注目されてこなかった古代文書を発掘し、その集成を行った。また、蔵人(平安時代の天皇の秘書)のマニュアルである『蔵人式』は、現在、さまざまな書物に断片的に引用されて伝わるだけだが、これらの集成を行った。その上で、集成したこれらの史料群を活用して、なかなかおもてに現れにくい、平安時代の朝廷の「政治原理」の展開過程について、さまざまな視角から明らかにした。
著者
山本 英二
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、平成13年度から15年度にかけて、フィールドワークをおこない、偽文書に関する古文書調査を全国各地で実施した。そして平成16年度は、3ヶ年の調査のデータをもとに報告書と古文書目録の作成に専念した。その概要は以下に述べるとおりである。1.主要な調査先は、長野県木曾郡大桑村定勝寺、長野県長野県立歴史館、山梨県山梨市窪八幡神社、山梨県甲府市山梨県立図書館甲州文庫、東京都文京区東京大学史料編纂所、東京都千代田区国立公文書館、などである。2.調査の方法は、史料所蔵機関の目録を検索して、古文書を閲覧、調査し、真偽を鑑定した。そのうえで関連する周辺情報を収集して、偽文書の作成者、作成時期、作成理由などを突き止めていった。3.なかでも長野県木曾郡大桑村定勝寺では、これまで未公開であった古文書の悉皆調査を実現することができた。調査した古文書は、すべて目録を編成し、デジタルカメラで撮影し、画像データを収集した。整理した古文書は総点数1551点におよび、信州大学人文学部日本史研究室編『長野県木曾郡大桑村須原定勝寺古文書目録』として刊行することができた。また調査成果の一部は、『ブックレット定勝寺』に掲載され、一般向けの啓蒙書として広く社会に還元することができた。とくに木曾地方が美濃国から信濃国に変わった時期を確定するという新発見をすることができた。4.偽文書の鑑定技術に関しては、現状記録方式による総合的な古文書調査が有効であることが確認することができた。とくに江戸時代に作成された偽文書は、関連する近世の古文書を調査することで、ほとんど作成時期や作成理由を特定できることがわかった。またデジタルカメラによる画像情報は、きわめて有効であることもわかった。5.4年間の研究成果は、学術論文8編、口頭発表1編、学術書3編、古文書目録1編として公表することができた。
著者
多田 剛
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

クモ膜下出血患者の髄液TGF-β1濃度を、正常圧水頭症を併発した患者と、しなかった患者の間で比較すると有意差が存在する。(1994)今回の研究でクモ膜下出血後くも膜下腔に遊離された白血球よりIL-6,TGF-β1などの炎症性サイトカインが多量に放出され、引き続いてCRPが上昇してくることがわかった。また出血後2週後の髄液中には活性型のTGF-β1が明らかに増加しており、これがクモ膜下出血後のくも膜下腔の繊維化に重要な役割を果たしている可能性があることがわかった。(2001)実験的にもマウスの髄膜腔内にhuman recombinant TGF-β1を注入すると3週以降に容量依存性に脳室拡大が出現し交通性水頭症ができる。(1994)また、同種血清をマウス髄腔内に注入しても、同様の交通性水頭症が誘導され、これは抗ヒトTGF-β1ウサギ抗体で阻止できた。(1997)マウスの髄膜を電子顕微鏡で観察すると髄注後約2週間でくも膜下腔に繊維芽細胞が遊走してきてくも膜下腔の繊維化がおこる。(1998)TGF-β1注入により水頭症が発生したマウスのくも膜下腔にインクを注入すると、シャム群では10分以内に髄液が頚部リンパ節に流出が確認されるのに対し、水頭症群では有意の流出遅滞が見られ、くも膜下腔の繊維化が髄液の流れを阻害していることが明らかとなった(1999)また、ラットの側脳室にhrTGF-β1を注入すると、同様にクモ膜下腔の繊維化がみられ、Morris水迷路で空間認識能が低下していた。さらにラットの側脳室にNa^+,K^+-ATPaseの阻害剤であるouabainを注入すると空間認識能が可逆的かつ容量依存性に抑制されることを見い出した。またラットの脳室内にTGF-β1を投与すると、脳室拡大がないにもかかわらずくも膜細胞のNa^+,K^+-ATPase活性が低下し、空間認識能が抑制されることも見い出した。これらの実験やこれまでの研究から我々は正常圧水頭症の病態は脳脊髄液の灌流障害による脳室拡大というよりも余剰のneurotransmitterやneuronやgliaの代謝産物を含む脳の細胞外液の排泄不全がこの病態の本質であると考えられる。
著者
山折 大
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、大麻の薬理・毒性研究の一環として大麻摂取による有害作用に着目し、大麻の 3 大成分である THC、 CBD および CBN が薬毒物や内因性物質の代謝に関わるシトクロム P450(CYP)の活性を阻害するか否かを解析した。その結果、これら主要フィトカンナビノイドが種々の CYP 分子種(CYP1A1、 CYP1A2、 CYP1B1、 CYP2A6、 CYP2B6、 CYP2C9、 CYP2C19、CYP2D6、CYP2J2、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP4F2、CYP4F3B、CYP4F12)の活性を阻害することを明らかにした。その機構として、可逆的な阻害(競合、非競合、混合)や不可逆的な阻害など CYP 分子種によって異なる阻害様式を示した。
著者
佐々木 明
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.139-152, 1997-02

This paper, by reading 160 Japanese articles appeared in journals published in the 1950-1965 period, rediscovers that the Third World War strategy shift from the total war (Log Pull) to the nuclear warfare (New Look) in 1953 byproduced the third world postwar depression and theconcentratedi ndependences of colonies.T heU nitedS tates- Kingdom's massive import of materials for the strategic reserves and for public and privates tockse xpectingt heW arp rolonged,o re venf ortitiedt heS econd World War economy prosperity in the developing countries and areas. But tinancial and economic disturbances caused by the total war preparation forced the United States-Kingdom govermentst oa bandont hee xpensive strategy.C ontroledp ublicr eserve venditiona nd destructive private stock dumping in midst of the third world production expansion immediately generated the third world postwar depression which in unemployment colonies nourished uprisings which often developed into the independence movements.
著者
辻 竜平 長谷川 孝治 相澤 真一 小泉 元宏 川本 彩花
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

クラシック音楽祭を題材に文化資本と社会関係資本との関連性について検討した.また,その主題と関連する芸術至上主義的態度,音楽祭への参加と人々のアイデンティティや精神的健康についても検討した.主な調査としては,「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」の一般のオーディエンスを対象とした調査と,中学生向けのプログラムに参加した中学生を対象としたパネル調査を行った.中学生調査では,発達過程の状態を知ることができる.主な結果として,クラシック音楽への初期接触と,クラシック音楽の好み,および,地域活動や地域への評価との間に関係があることが明らかになった.
著者
池田 秀敏
出版者
信州大学
雑誌
信州大学法学論集 (ISSN:13471198)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.195-220, 2006-12-22

「ファンブック罪に濡れたふたり~Kasumi~」事件・控訴審判決 東京高等裁判所平成17年3月3日判決 〔判例時報1893号126頁,判例タイムズ1181号158頁〕
著者
佐々木 明
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.99-122, 2006-03-15

The 1.6-1.1 kaB.C. period was characterized by two ameriorations, early and terminal, and by stable law temperature inbetween. Increased tin production in northern China Zongyuan, where unlimited labour supply was available of the immense Neolithic populations, was the most important event of the era. The extensive mining of the semi-rare metal realized not only an ancient civilization at the very location of the inorganic yield, but also bronze penetration into whole China and southwest Asia. Contemporary circummediterranean cultures were at least indirectly affected by the abundant supply of Chinese Sn which in the Indus valley ruined the precedent economy based on locally collected and highly priced tin export, forcing the first south Asian rulers to desert their cities. In central Asia the "tin road" bronze culture zone connecting Zhongyuan and Ukraine came into existence. Although the Orient world was at its final formative phase, and the kingdoms recorded their impressive histories, Egyptian and Mesopotamian conditions followed the repeated pattern of hypsithermal disorder and hypothermal reconstruction. Anatolian highlanders, having suffered for long from the bronze production growth limited by the shortage of the carbon family element, eventually introduced steel technology which had changed the circummediterranean and southwest Asian history as early as at the end of this demimillennium. In Oceania the Micronesian navigators of Taiwanese origin were widening human habitat. Epipalaeolithic still survived in vast high latitude Americas, but until the last century of this 0.5ka period the first proto-urban complex were constructed at the both extremes of the longitudinally spread core of American prehistoric cultures. Three themes are discussed: (12.7) controlled firing was the most effective forest clearing tool of lithic peoples, (12.8) closed woodland lithic life were centered at waterside-fired grasslands and surrounding secondary forest, and (12.9) Bronze age tin problem was partially and escalatingly solved at first by minute local mining, later by Indus resources, then by material produced at Iran -Afghanistan border, and finally by the Chinese Zhongyuan metal.
著者
成澤 孝人 丸 祐一 蟻川 恒正 西土 彰一郎 石川 健治 成原 慧 坂井 大輔 小池 洋平 中川 律 福嶋 敏明
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、戦後憲法学を切り開いた奥平康弘の憲法学を、多面的、総合的に検討することによって、日本憲法学における奥平憲法学の足跡を改めて確認し、戦後憲法学の成果を奥平憲法学との比較において検討することを企図している。そのために、本研究は、奥平の死後、信州大学に寄贈された資料を整理した上で利用する。資料の中でも、奥平が所蔵していた図書は、すでに「信州大学奥平康弘コレクション」として信州大学付属図書館に所蔵されている。本研究は、奥平が遺した図書以外の資料を整理し、信州大学付属図書館の協力を得て、コレクションの拡充をおこなう。研究者は、コレクションを利用しながら、奥平憲法学の深部に迫る。
著者
高橋 亮
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

(1) 全反射加群の圏の反変有限性が局所環のGorenstein性を特徴付けることを示した。これはAuslander-Buchweitzの定理の逆に相当する。これを用いて全反射加群の個数の有限性による単純特異点の特徴付けも得た。また,Gorenstein Hensel局所環上の反変有限分解部分圏を完全に分類した。(2) 正則環の局所化のD加群構造に関するAlvarez-Montaner-Blickle-Lyubeznikの定理と局所コホモロジー加群の素因子に関するHuneke-Sharpの定理を有限F表現型の環に拡張した。
著者
渡邊 勉
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.65-78, 2005-03-15

最後通牒ゲーム (Ultimatum Game) に関する実験研究の知見は, 経済理論から得られる予想と大きくずれていることが知られている。つまり, 経済理論では不平等が実現すると予想するのに対して, 現実の実験では平等が実現するのである。このズレを説明する有力な仮説の一つとして, 人々が経済合理的個人なのではなく, 公正観を持つ個人だからという仮説がある。本稿では, 最後通牒ゲームの実験研究から得られている知見を, 理論的に説明することを目的とする。その際, 競争志向プレーヤーと平等志向プレーヤーを想定し, それらのプレーヤーがゲームをおこなった場合に, 平等が実現するのかを検討した。その結果, 競争志向プレーヤー間, 平等志向プレーヤー間だと平等が成立する。その一方で, 異なるプレーヤー間, あるいは相手のタイプがわからない場合には平等が実現しないことも示した。つまり, 人々が経済合理的個人であっても, 公正観を持つ個人であっても条件次第によって, 平等が実現することが明らかとなった。
著者
河邊 淳 酒井 雄二 木村 盛茂 山崎 基弘 高野 嘉寿彦
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.解析学で有用なε-論法の代わりとなる新たな滑らかさの概念(漸近的Egoroff性)をRiesz空間に導入し,可測関数列の概一様収束に関するEgoroffの定理がRiesz空間値ファジィ測度に対して成立することを示した.また,多くの重要な数列空間や関数空間が漸近的Egoroff性をもつことを示した.2.Riesz空間がEgoroff性を満たす場合は,Egoroffの定理が性質(S)を満たす強順序連続なRiesz空間値非加法的測度に対して成立することを示した.また,Egoroff性よりも弱い滑らかさの条件である弱σ-分配性を仮定した場合は,一様自己連続かつ強順序連続で下から連続な非加法的測度に対してEgoroffの定理が成立することを示した.3.漸近的Egoroff性を精密化した多重Egoroff性をRiesz空間に仮定することにより,距離空間上の弱零加法的なRiesz空間値ファジィ測度はつねに正則となることを示した.応用として,Borel可測関数の連続関数列による近似に関するLusinの定理が,同種のファジィ測度に対して成立することを示した.4.Riesz空間値非加法的測度に対するAlexandroffの定理が,Riesz空間が弱漸近的Egoroff性をもち,測度が自己連続の場合と,Riesz空間が弱σ-分配性をもち,測度が一様自己連続の場合に成立することを示した.応用として,Riesz空間が多重Egoroff性をもつ場合は,完備あるいは局所コンパクトな可分距離空間上の自己連続なRiesz空間値非加法的Borel測度に対して,そのRadon性と連続性は同値となることを示した.5.Duchon,RiecanらによるRiesz空間におけるリーマン・スティルチェス積分論を用いて,Riesz空間値非加法的測度に対するショケ積分の概念を定式化し,共単調関数に対する積分の加法性などの基本的性質を調べた.
著者
諏訪 雅顕
出版者
信州大学
雑誌
信州大学法学論集 (ISSN:13471198)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.229-259, 2006-03-22
著者
牛山 佳幸
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

これまで一般に女性差別であると誤解されることの多かった、「女人禁制(女人結界)」という歴史事象について、主として「女人禁制」条項をを含む寺院法制文書(本研究でいう「女人禁制」文書)の網羅的な収集と分析という新しい手法を導入することにより、その成立事情と歴史的意義の解明を進めた。その結果、これが仏教の戒律(不邪淫戒)に本来的に由来するものであることに疑いの余地がないこと、したがって、従来一部で指摘されていたような我が国固有の習俗ではなく、中国など東アジアの仏教圏に共通してみられた慣行であったこと、さらに尼寺における「男子禁制」の事例も僅かながら存在していたことから性的差別とは言えないことなどが確認できたが、本研究の最大の成果は、上記の「女人禁制」文書の内容分析によって、我が国における「女人禁制」の時代的変遷や、寺院毎の相違などを明確にすることができた点にある。すなわち、「女人禁制」には、(1)寺内の持律僧の強い指導力によって保たれているもの、(2)住僧らの連帯意識により自主的に守ろうとしたもの、(3)檀那や為政者など外部からの規制で維持できたものの、三つのタイプに分類できるが、南北朝期頃までは(1)(2)の例が多く、この時期にはいわば自主規制としての意味を持っており、したがって、「女人禁制」を遵守できるかどうかは個別寺院の住僧らの持戒意識の有無にかかっていたと言いうる。一方、室町期以降、とくに戦国期になると(3)のタイプが目立つようになるが、これは破戒行為の横行によって、領主権の介入と規制が強化されるという事態を招いたことを反映している。また、各時代にわたり、高齢で身寄りのない女性には寺内居住を認めるといった、例外規定を設けていた例も多く判明し、そのことが「女人禁制」の形骸化に拍車をかけた点も明らかとなった。