著者
山本 省
出版者
信州大学
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.111-120, 1999-03

『喜びは残る』の作者ジオノは人間が生まれ死ぬのはごく当たり前のことだから死を異常なものではなくむしろ自然な現象と考えていた。しかし,自殺についてはいささか事情が異なる。生きていく喜びの欠如,何らかの価値観の喪失,こうしたことが自殺の原因になりうる。『喜びは残る』では4人の登場人物が自殺する。エレーヌの夫とシルヴは何の喜びもないグレモーヌ高原の住人たちに特有の病気が嵩じて自殺し,オロールは喜びは見出したがそれを持続させることができず死を選ぶ。高原の住人たちに生きる喜びを教えてきたボビはジョゼフィーヌとの情交を重ねるうちに自分には穏やかな喜びは不可能になっていくのを痛感する。もはや高原にいる意味がなくなったと判断し高原をあとにしたポビは激しい嵐のなかで死ぬ。反対に動物や植物に喜びを見出し精彩あふれる生活を取り戻していった住人たちも存在する。この物語では,4人の死者がでたにもかかわらず,生きる喜びの種は確実にまかれたということが確認される。死者たちも世界の運行に異常なことは何もなかったかのように参加する。寂しげだったグレモーヌ高原に鹿が遊び,羊が啼き,小鳥や小動物が徘徊し,花々が咲き乱れるようになったのである。
著者
鈴木 俊太郎
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

いじめ予防プログラムの基盤となる「ポジティビティ・フォーカスト・アプローチ」について、前年度の理論研究を踏まえて、実際のカウンセリング場面、心理教育場面に利用できるように手続きや方法論を明確にする作業を行った。ポジティブ心理学の中でも肯定的感情側面に焦点を当てたB.Fedricksonらの研究成果を基盤に、対人コミュニケーション場面において、自身の肯定的感情が、認知的枠組みを拡大・再構築していくというプロセスを、教育プログラムとして実行できるように調整している。最初は、カウンセラーとクライエントという特殊な2者関係、つまりカウンセリングの一場面でこのプログラムを想定し、そこでパイロットスタディを踏まえて、集団場面、教育場面での応用が可能な形にブラッシュアップを図っていった。プログラムは大きく分けて2つのフェーズから構成され、1.ポジティブ感情喚起フェーズ、2.認知再構築フェーズの2段階に分けられる。それぞれのフェーズでは、一定のタスクが参加者に課される。例えば、1.のフェーズでは、過去の失敗経験と成功経験を同時に想起してもらい、成功経験のみについてその後詳細に事実を説明してもらう。このような作業を行うと、次いで思い出してもらった失敗経験の記憶が想起しずらくなる、価値が低下するなどの効果が見込める(検索誘導性忘却という現象を利用したトレーニング)。また、これと並行して、ここまでの研究成果を学会発表という形で公表し、他の研究者からプログラム実施に関して様々な意見をいただき、ブラッシュアップを図った。遂行過程で大幅な改変の必要性や手続きの補強、倫理的配慮をご指摘いただき、考慮に入れることとなったため、年度内で予定していた実際に施行するプログラム開発まで至ることは難しかった。なお、この遅れについては、年度をまたいで、次年度の計画施行スピードを調整することでも解消可能と考える。
著者
中村 浩志
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.最近日本でカッコウがオナガに托卵を開始した。オナガへの托卵がその後各地で急速に広がったのは、オナガが卵識別能力やカッコウへの攻撃性を十分もっていなかっためであることを、托卵歴の長さの異なる地域での比較調査から明らかにし、論文にした。2.托卵歴の長さの異なる地域での比較調査から、オナガは托卵されてから10年という短期間に、卵排斥行動や攻撃性といった対抗手段を発達させたため、オナガへの托卵は初期の頃のようにはいかなくなっていることを明にし、両者の関係は適応と対抗適応を通しダイナミックに変化することを論文として発表した。今年度の調査からは托卵が始まる前や始まった直後に比べとオナガの生息密度は著しく低下していることを過去の資料と現在の密度調査との比較から明らかにできた。3.一昨年カルフォルニア大留学中知り合ったカナダ、McMaster大学のGibbs氏との共同研究は、昨年計91個体のカッコウの成鳥と雛から血液サンプルを集めることができ、彼の研究室で現在分析中である。DNAフィンガ-プリント法などの血液分析で、カッコウの性関係、異なる宿主に托卵するカッコウどうしの遺伝的関係などの重要な問題が解明されることになった。また、京大理学部の重定氏らと2年前から共同研究の形で進めてきている、カッコウと宿主の相互進化の数理モデルによる解析を論文としてまとめることができた。4.カルフォルニア大学のRothstein教授とともに、昨年の8月京都で開かれた国際動物行動学会(IEC)で、「托卵における相互進化」をテ-マにしたラウンド・テ-ブルを開催するとともに、その後長野県の軽井沢と信大教育学部に会場を移し、3泊4日のサテライト・シンポジュウムを開いた。シンポは、世界の托卵鳥研究者のほぼ全員にあたる外国から16名、日本から6名が参加し、本格的な国際会議となった。この会議で、これまでの我々の一連の研究内容を発表し、高い評価を得た。また、日本でのカッコウとオナガの関係は、生物進化の事実を目で確認できるまたとないチャンスにあることを参加者に認識していただいた。さらに、今後ヨ-ロッパのカッコウとの比較調査などの共同研究を進めていく話しがまとまった。
著者
中島 卓郎
出版者
信州大学
雑誌
教育実践研究 : 信州大学教育学部附属教育実践総合センター紀要 (ISSN:13458868)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.31-40, 2002-07-31
被引用文献数
1

In this paper I started with a question that the piano teaching methods at the department of education have too much focus on the specialist curriculum, which is often seen at music colleges or conservatories. Contrary to those methods for a specialist curriculum, I devised a new method to train students' ability in music which would be applicable for different situations in school, for example string or blass ensemble, chorus, etc. This method was put in practice in group lesson form. I used many pieces for four hands as well as solo music in various styles and characters as materials. This paper reports a practical study under the concept of how to grasp various music theories and knowledge and how to develop them into the live musical expression, using piano as the medium.
著者
花里 孝幸 柳町 晴美 平林 公男 宮原 裕一 朴 虎東 豊田 政史 山本 雅道 武居 薫
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

水質汚濁問題を抱えていた諏訪湖の水質が近年になって改善されはじめ、それに伴って生態系が大きく変化し始めた。本研究では、その生態系変化の様子とメカニズムの解明を試みた。諏訪湖では、アオコ減少、不快昆虫ユスリカの減少、水草の増加、大型ミジンコの増加がほぼ同時期に起きた。生態系のレジームシフトが起きたといえる。植物プランクトンの生産力低下が生物間相互作用を介して生態系全体に波及したと考えられた。
著者
梶原 真樹子
出版者
信州大学
雑誌
信州大学経済学論集 (ISSN:02880466)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.87-92, 2006-02-28

本稿では日英バイリンガル児童が各言語のナラティヴでどのようにトピックを導入・維持するかに焦点を当てる。日英バイリンガル児童が日英両語で物語った「カエルくん,どこにいるの?(Frog, where are you?)」(Mayer, 1969)の比較を通し,ナラティヴでトピックが(1)初登場,(2)2番目の登場,(3)再登場,(4)継続的登場する際,トピックを表現する名詞句の使用について,日英両語間に相関が見られるかを検証している。使用したデータに(1)トピックとなる主語は何か,(2)それがどの名詞句で表現されているか(完全な形の名詞句,代名詞句,主語省略),(3)その登場順序(初登場,2番目の登場,再登場,継続的登場)の三観点からコードを付加し,統計的分析を行った結果,各登場順序においてトピックを表現する名詞句使用について日英両語間に正の相関が確認された。本稿で得られた結果は,ナラティヴでのトピック導入・維持に関する普遍的な法則の存在を示唆している。
著者
高寺 政行 大谷 毅 森川 英明 乾 滋 南澤 孝太 佐藤 哲也 鋤柄 佐千子 大塚 美智子 金 キョンオク 宮武 恵子 松村 嘉之 鈴木 明 韓 載香 柳田 佳子 古川 貴雄 石川 智治 西松 豊典 矢野 海児 松本 陽一 徃住 彰文 濱田 州博 上條 正義 金井 博幸 坂口 明男 森川 陽 池田 和子 鈴木 美和子 北折 貴子 鄭 永娥 藤本 隆宏 正田 康博 山村 貴敬 高橋 正人 中嶋 正之 太田 健一 堀場 洋輔
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

我が国ファッション事業の国際化に寄与する研究を目指し,国際ファッション市場に対応する繊維工学的課題の解決,国際ファッション市場に通用するTPS/テキスタイル提案システムの構築を行った.国際市場に実績ある事業者を対象とし,現場の調査,衣服製作実験,商品の評価を行い我が国との比較を行った.欧州・中国と日本における衣服・テキスタイル設計,評価および事業の違いを明らかにし,事業と技術の課題を明らかにした.デザイナーのテキスタイル選択要件を調査し,テキスタイルの分類法,感性評価値を組み込みTPSを構築した.日欧で評価実験を行い有効性を確認した.また,衣服・テキスタイル設計評価支援の技術的知見を得た.
著者
小宮山 敦 樋口 司 小池 健一
出版者
信州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

チェルノブイリ原発事故の放射線汚染による免疫異常と発がんとの関連性を明らかにする目的で、ベラル-シ共和国の高汚染地域住民について疫学的検査を行うとともに、がん発生の調査を実施した。1.免疫学的検査成績(1)白血球数(好中球、リンパ球)はほぼ正常であり、新たな数的変化はなかった。免疫グロブリンおよび補体にも明らかな低下傾向はみられず、一部の小児ではかえって高値を示した。(2)NK細胞上の接着因子(CD2、11a、18、69)の発現は正常であった。(3)NK細胞活性は、これまでと同様に、住民の約30%において低下または亢進を示していた。したがって、NK細胞機能異常が急速に進行してる兆候はなかった。2.染色体脆弱性やがん遺伝子検索のためにリンパ球を採取し保存できた。3.小児白血病発生の状況チェチェルスク地区の小児のなかで、1992年からNK細胞の異常が見いだされており、1997年に健康調査できた12名では、白血病などの小児がんの発生はなかった。ゴメリ州立病院小児血液部門における小児白血病発生頻度は、1997年度に明らかな変動はみられなかった。4.この研究調査と並行して、現地における小児白血病治療の一層の改善を目指して、末梢血幹細胞移植の実践指導を2例について行った。
著者
数土 直紀
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本プロジェクトでは、進化ゲーム理論を用いた数理的手法により、幾つかの具体的な社会現象を分析した。そしてその結果、権力現象を産出する二種類のメカニズムを特定化することに成功した。一つは、男性と女性というように性によって分割された異なる二集団間に存在する権力が生成されるメカニズムである。このメカニズムが成立する条件下では、自由で相互に対等であるような相互行為であっても、条件さえ整えば半ば必然的に権力関係が形成される。もう一つは、集団内において生成される権力である。このメカニズムが成立する条件下では自発的に搾取されることを選択する「利他的な」個人が広義の合理的選択を通じて出現する。しかも、搾取されることを自発的に選択するために、このような権力は個人の主観に定位する限り検出されない「見えない権力」となっている。本プロジェクトが解明したこれらのメカニズムの特徴は、いずれも自由で対等な相互行為から権力現象を明らかにしているところにある。従来の研究では、権力は自由と対立する概念だと理解されてきた。したがって、自由な相互行為からも権力関係が生成されるという認識が希薄であった,しかしながら、本プロジェクトの成果によって、対等で自由な相互行為からも結果として非対称的な権力関係が生成されうろことが示された。これは従来の権力研究を大きく前進させるものであり、それゆえ本プロジェクトの成果は重要な意義を有していると思われる。
著者
那須 良寛 土井 進 谷塚 光典
出版者
信州大学
雑誌
教育実践研究 : 信州大学教育学部附属教育実践総合センター紀要 (ISSN:13458868)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.105-114, 2003-09-30
被引用文献数
1

College of Education in Shinshu University introduced field placement activities, "Shin-dai YOU-Yu Saturday," as a part of preservice teacher education curricula. As prospective teachers, college of education students expanded their experience through the activities. Their reflective description on their practice was analyzed in order to clarify diverse aspects of expansion of their experience. The "Shin-dai YOU-Yu Saturday" facilitated students' growth of skills for lesson planning, communication, and material development. It provided prospective teachers with an opportunity to foster their practical teaching skills.