著者
太田 正穂 浅村 英樹 高柳 カヨ子 福島 弘文 猪子 英俊
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

昨年度、HLA遺伝子多型について日本人と他の集団における遺伝子頻度、ハプロタイプ頻度の分布の比較を行い、そのデータベースを作成した。東北アジアに位置する日本民族は、韓国、東南アジアを経た幾通りの民族移動により形成されていることが、HLAの遺伝子頻度やハプロタイプ頻度、さらには対応分析から明らかであった。このような経緯から日本人には、近隣の民族と共通するHLA遺伝子やハプロタイプも存在するが、近隣の民族とは異なった日本人に特徴的なHLA遺伝子やハプロタイプも確認できた。実際の検査で、他民族と共通性の示すHLA遺伝子やハプロタイプが得られたときの解決策として、HLA領域内にあるマイクロサテライトの有用性を検討した。はじめに日本人、イラン人、ギリシャ人、ヨルダン人、イタリア人、カナダ人のDNAを用いてHLA-B座近傍のマイクロサテライトタイピングを行い、各ローカスの遺伝子頻度分布を作成した。つぎにHLA型がホモ接合体である64種類のセルラインを用いて、同型ハプロタイプ間でのマイクロサテライトのアリルの比較を行った。さらに、日本人で最も多く見られるハプロタイプをもつ人のDNAを用いて角解析を行った。これらの結果、HLAが一致したハプロタイプを保有していても、HLA遺伝子間に存在するマイクロサテライトを調べることにより、より詳細な識別が可能であった。以上から微量、陳旧性資料を日常扱う法医鑑定実務では、高感度で精度が良いHLA-SPP法によるHLAタイピングとHLA領域内にあるマイクロサテライト解析は人種判定に有効な方法であることが示唆された。しかし、HLA遺伝子多型では、十分条件ではないので、今後ミトコンドリDNA多型、Y染色体上のマイクロサテライト、常染色体上のマイクロサテライトに関して日本人を含めた世界的な規模でのデータベース作成が必要であると考える。
著者
水野 知昭
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

エッダ詩の代表作品「巫女の予言」について、生と死および運命を司る,月の古代思想を探った。古ノルド語veroldや古英語woroldその他のゲルマン諸語の同系語は、みなそれぞれ「人間」(古ノルド語verr)と「時代、生涯、世代」(old)から成る複合語であり、単に空間概念としての「世界」(英語world、ドイツ語Welt)を意味するばかりか、「人がある時代を生き、老いて死にゆきながらも次々と世代が生まれ代る領域」をさし、時間概念をも包括していた。生と死、創造と破壊、没落と再生のテーマが脈打っている本詩の根底には、古ゲルマン的な運命観と月の信仰が潜んでいる。別稿にて、同作品が円環詩法の原理に基づき、対応する表現要素が幾つもの同心円を描きつつ、中核の主題を取り巻く構成になっていることを実証した。「異人来訪」という根本テーマがその円環を貫通し、直線的な連鎖となって語りの進展を支配している。印欧神話の三機能体系に対応する「三つの罪を犯す戦士」というG.デュメジルの図式を適用すれば、イェーアト王国(5-6世紀)の戦士ベーオウルフも三つの罪を犯していることが分かるが(水野1999)、王権・戦士・平和(または愛)に係わる三つの罪は、実はこの勇者が討ち果たした三種の水界の怪物たちの所作と特性のなかに反映されていた。また「異人的な勇者」に武器を供与し、殺害を教唆する「賢者たち」の群像に探りを入れた。後者は例えば、王の顧問官ウンフェルス、または最高神オージンの「友」ロキ等であり、王権ないしは神権を維持するための知恵と予言ひいては謀略をも司っている。そしてギリシア・北欧・日本の神話に共通する、「川を渡る神々と勇者たち」の特性を究明した。川の徒渉は一種の「異人の禊ぎ」であり、その後に「求愛」の行動が続くが、その愛の成就を阻む宿敵は必ず血祭り(犠牲または追放)にあげられている。また、ノアの洪水説話を皮切りに、ギリシア・北欧・日本の神話において、洪水の終わりに出現する鴉(烏)の関連モチーフを追究し、うつぼ舟漂流譚と「異人来訪」のテーマを抉出した。
著者
村山 忍三 那須 民江 青山 俊文
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1.遺伝子工学的に合成されたヒトP450による有機溶剤の代謝を検討した。これらのP450のトルエン,エチルベンゼン,スチレンの代謝への寄与は類似しており,最も代謝活性が高いのはCYP2B6で,CYP2F1,CYP2E1,CYP1A2,CYP2C8,CYD4B1がこれに次いでいた。CYP3A3,CYP3A4,CYP3A5も活性を示したが,その程度は僅かであった。CYP2A6,CYP2C9,CYP2D6の有機溶剤の代謝活性は殆ど認められなかった。一方ベンゼンとフェノールの代謝活性が最も高いのはCYD2E1であった。CYP1A2,CYP2B6,CYP2C8,CYP2F1のこれらの代謝への寄与は非常に低かった。しかしCYP1A2/1は骨髄で発現されているが、CYP2E1は発現していないので、ベンゼンの骨髄毒性という観点からはCYP1A2の方が重要である。2.トルエンの代謝をモデルとして、CYP2B1-次構造とトルエンの代謝物生成との関連性を検討した。58番目のLenをPheに置換するとベンジルアルコール(BA)の生成は60%以上保持されるが、O-とP-クレゾールの生成は消失していた。114番目のlleをPheに置換するとすべての代謝物が50%以下に低下したが、トルエン環の水酸化は確実に保持されていた。282番目の置換(Glu→Val)はトルエンの代謝に大きな影響を与えなかった。CYP2B1によるトルエン環の水酸化には58番目のLeuが重要な役割を果しているといえよう。3.ヒトの肝のみならず肺ミクロソームにおいて多くの有機溶剤が代謝された。しかし肺における代謝速度は肝の数パーセントであった。喫煙は肝においてトルエンからO-クレゾールの生成を促進させ、肺におけるスチレンの代謝を亢進させた。飲酒の有機溶剤の代謝に与える影響は認められなかった。ヒトの肺におけるトルエンの代謝のパターンは肝におけるパターンと異っていた。すなわち、肝ではO-とP-クレゾールの生成比率は10%以下であったが、肺においてはそれぞれ20%と30%であった。
著者
長谷川 孝治
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.91-103, 2007-03-15

本研究では,個別的自己評価が自尊心に及ぼす影響過程に対して,重要性と他者からの評価が調整要因として機能するかが検討された。さらに,反映的自己評価は個別的自己評価や他者からの評価に代わって,自尊心に影響を与えるかどうかについても検討された。分析の結果,まず,個別的自己評価と重要性と他者からの評価が自尊心に及ぼす影響過程については,優しさに関して他者からの評価と重要性の交互作用が見出された。優しい自分というものに対して重要だと認知している場合には,他者からの評価の高さによって自尊心レベルが影響を受けることが示唆された。また,反映的自己評価と重要性と他者からの評価が自尊心に及ぼす影響過程については,運動能力と知性に関して3要因の交互作用が見出された。両者とも重要性を高く評価している場合には,他者からの評価が低く,反映的自己評価も低い場合に最も自尊心が低下するという知見が得られた。これは,自尊心が他者からの拒絶を検知するメーターであるというソシオメーター仮説を支持するものである。最後に,個別的自己評価と重要性と反映的自己評価が自尊心に及ぼす影響過程については,外見に関して3要因の交互作用が見出された。外見に関して重要性を高く認知しており,友人からの反映的自己評価が低く,個別的自己評価も低い場合には自尊心が低くなることが示された。以上の結果から,自尊心の形成要因について考える際,従来指摘されてきた,個別的自己評価とその重要性だけではなく,他者からの評価や反映的自己評価を考慮する必要があることが示唆された。
著者
林 琢磨
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

子宮平滑筋腫(子宮筋腫)は、50歳以上の成人女性に罹患率70~80%で発症する良性腫瘍で、女性に発生する腫瘍で最も頻度の高い腫瘍のうちの一つである。従来はその大きさを基準に手術が行われてきたが、女性の晩婚化・高齢初産婦の増加などライフスタイルの変化により、40 歳代女性の妊孕性温存希望が強くなっている。故に、今日の子宮筋腫の治療方針ではこの社会的背景を考慮して、子宮を温存する方法が要求される。しかし、子宮筋腫に類似した悪性疾患である子宮肉腫がまれながら存在するため、多くの子宮筋腫患者の中で子宮温存の是非を決定する際、その除外診断が重要となる。残念ながら、現行の鑑別法は、手術摘出組織の外科病理診断であり客観性に欠けている。さらに、これまでに各国において臨床試験が行われているが、既存の抗癌剤では、子宮肉腫に対する顕著な延命効果が認められていない。そこで、子宮肉腫に対する新規治療法・診断法の確立に向け、子宮肉腫の生物学的特性を理解することが重要である。林らの研究グループは、蛋白分解酵素複合体プロテアソームの構成因子であるLMP2の欠損マウスにおいて、子宮肉腫が自然発症することを見出した(利根川 進 教授:米国マサチューセッツ工科大学の研究協力)。そこで、私達は、病理ファイルより選別された各種子宮間葉系腫瘍の生検組織でのLMP2の発現状況について免疫組織化学染色により検討し、特異的に子宮肉腫でLMP2の発現が著しく減弱することを報告した。提携の医療機関との連携の基、私達は、LMP2に着目したDNA MicroArrayの遺伝子プロファイリングを行い、子宮間葉系腫瘍の診断マーカーの候補分子の探索を行っている。本研究より、林らの研究グループは、カベオリン、LMP2、Cyclin Eなどの候補因子に対する子宮間葉系腫瘍の診断マーカーとしての可能性を検討した。
著者
徳永 澄子
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

<本研究目的と実施>近年、図書館や博物館、美術館において資料のデジタルアーカイブ化が進んでいる。資料の保存の他に広く閲覧性を高めることで、市民や学生、研究者の利用促進を図り、より高度で多様な文化の理解や創造のために図書館や博物館、美術館の利用を促進することが目的である。研究者や学生のみならず、特に市民に対して誰もがいつでもどこでも自由に学習して学ぶことのできる開かれたデジタルアーカイブは生涯学習社会を支える基盤となる。しかし、多様な学習ニーズ・学習レベルが混在する市民の生涯学習に対して、一次資料、二次資料のみ提供を行うデジタルアーカイブでは充分な情報を提供しているとは言い難く、生涯学習を実践する市民から十分に活用されているとは言えない。そこで、本研究では市民参加型のデジタルアーカイブの構築を通して市民の生涯学習をより支援するため、デジタル化された資料と市民を有機的に結合するデジタルアーカイブシステムの研究開発を目的とする。(1)デジタルアーカイブを単純に掲示するのではなく閲覧性を高めるシステムの開発(2)デジタルアーカイブの横断的な利用を可能とするインターフェース、および、専門家や図書館員等の専門職員が所蔵するデジタルアーカイブに対して、一般的なメタデータ以外の多様で様々な関連した情報を自由に掲示できるシステムの開発<研究成果>(1)地図表示アプリケーションを利用したサーバーインストール型高精細画像閲覧ビューワーを開発し安定運用が可能となった。画像回転機能を開発し立体・地図など図書館等の収蔵物画像の閲覧性が高まった。(高精細画像閲覧ビューワーアプリケーション)(2)図書館等の収蔵物画像の任意の箇所にコメントを記述できるツールを開発し実装した。Facebookアカウントをもつ市民や学生、研究者がコメント等の付帯情報を記述でき、意見交換する環境ができた。(付帯情報掲示ツール)
著者
齊藤 忠彦 中山 裕一郎 小野 貴史 木下 博
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では,子どもの心を動かすことができるような音楽科教育のあり方について,脳科学からの検討を試みた。歌唱や鑑賞の具体的な授業場面を想定し,活動に伴う脳内のヘモグロビン濃度の変化をNIRSまたはfMRIを用いて計測し,そのデータをもとに考察を行った。その結果,歌唱の場面では,一人で歌う時より複数の人の声に合わせて歌う時の方が,脳内の賦活部位が拡がり,ブロードマン22野および25野,大脳基底核あたりが関与する可能性が高いことなどを指摘した。
著者
小林 國夫
出版者
信州大学
雑誌
信州大學紀要
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.9-25, 1951-07

1) フォッサ・マグナ西部における内陸性堆積物,地殻運動,火山活動,地形発達史等を比較することにより,第四紀地殻運動により時代的区分を試み,かかる運動の特性により,表現される現象に注目し,侵蝕区時代,地塊化時代,現河川による礫層形成時代とした。2) フォッサ・マグナ内部における対比基準として第6表の如きタイプを定めた。比較されている地質年代は暫定であり,その細分は本邦標準小区分のa,b等とは異るもので単に同時性を示す程度のものであるから(a),(b) とした。3) 地塊運動期として次の4回が顕著に認められる。F1先塩川層群変動(dl II前期)F2後塩川層群変動(dl II後期)F3先旧河床礫変動(du I)F4後旧河床礫変動(du I)4) 気候史に就いてはdu II (c)~(a₁)の唐花見泥炭層より, du I後期の古溜泥炭層の間が寒く,塩川バイオータも寒い様であるが,それ以外に気候資料はない,氷期はdu IのMenyanthes層準に成るらしいととは他の機会に説明し度い。In this paper on the geologic and physiographic developments of thewestern parts of the Fossa Magna, the crustal movements were taken as a chronological standards. It is very difficult to correlate the geological events in this district with the chronological standard of Japan, because of the remoteness from the marine deposits. Therefore the local chronological standard shoud be established, for the FossaMagna. The Quarternary Era was divided into 3 epochs of the crustal movements,as follows;as follows;ⅠEpoch of Denudation ⅡEpoch of Block Movement ⅢEpoch of Deposition of Fanglomerates As the products of the first block movement the epoch, the land was raised, the thick deposits of gravel formed large scaled fan outside the mountains. A lower part of the gravel was raised by the last faulting(f4), and was called "Older Gravels". The sandards of crrelation in the Fossa Magna were enumerated in Table 8, and the increase and the decrease of the relief of the land is also schematized in it.
著者
松尾 信一
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.明治以前の日本での最大の西洋百科事典の和訳書であるショメ-ル『厚生新編』の中の家畜(馬、驢、山羊、水牛、猟犬、猫、駱駝、羊、ラム、馴鹿など)、家禽・飼鳥(アヒル、鵞、七面鳥、雉、孔雀、カナリヤなど)、畜産物等(乳、バタ-、チ-ズ、獣皮、膠、鮓答、肉料理)について詳細に調査し、更に、シヤルモ(Chalmot)のオランダ原本及び江戸時代の本草書などとの比較を行った。例えば『厚生新編』の福禄獣と天狗はオランダ原書ではzebra(シマウマ)とangelus(天使)であることが判明した。これらの成果は論文として、信州大学農学部紀要第27巻115ー132頁(1990)に掲載してある。2.我国では、七面鳥のことを吐綬鶏、ホロホロ鳥を珠鶏と記した書物や資料がある。江戸時代以降の百以上の古書や古資料について詳細に調査した。その結果、江戸時代には七面鳥のことをカラクン鳥、唐国鳥と記した文献もあった。これは七面鳥のオランダ語Kalkoenから来た言葉で、日本語の発音から唐国鳥という漢字まで作成されていることが判明した。又、七面鳥とホロホロ鳥が江戸時代に渡来していることを確認できた。これらの成果は論文として在来家畜研究会報告第13号133ー143頁(1990)に掲載してある。3.3月29日の日本畜産学会で、図書として、江戸時代の『毛詩品物攷』(1785)、『相馬略』(1867)、明治時代の『養豚説略』(1870)、『斯氏農業問答』(1875)、『斯氏農書』(1876)、『新撰農書』(1886)、『農用家畜論』(1882)(以上畜産学書):『泰西訓蒙図解』(1871)、『博物新編訳解』(1874)、『動物学初編』(1875)、『薬用動物篇』(1876)、『通常動物』(1882)、『小学動物教科書』(1882)、『応用動物学』(1883)、(以上動物学書):雑誌として「牧畜雑誌」(1889年創刊)と「東京家禽雑誌」(1903ー5)の中の家畜・家禽、特に図と表に注目して展示報告をした。
著者
橋本 政晴
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、1991年から鹿島アントラーズのホームタウンとなり、2002年のW杯開催の受け皿となった茨城県鹿嶋市を事例として、これらプロスポーツチームやスポーツイベントに対して地域住民たちは、どのような「働きかけ」をおこなったのかを明らかにすることである。さらには、その働きかけを駆動させた背後には、どのような「生活の倫理」が内在しているのかについても明らかにするため、サポーター活動に奔走し、その後市議会議員をつとめている地元出身のT氏と、彼をとりまく同市佐田地区の地域住民たちを対象とした。プロスポーツチームやスポーツイベントに対するT氏とその地域社会の対応の諸相から、次のことが明らかになった。第一に、住民たちにとってサッカーは、決してい身近なスポーツではなく、言説によって凝り固められたメディアスポーツであり、メディアイベントであった。T氏はそうした住民よりも近くでサッカーを経験してはいるが、「熱い」サッカーを諦観する住民たちの暮らしぶりにも寄り添っている。ここから、メディアスポーツ/メディアイベントにおける受け手の能動性/受動性について語ろうとすることは、彼らの経験をあまりにも単純化・抽象化してしまうことにならないだろうか。第二に、住民たちがサッカーに対して諦観の姿勢を固持していたのは、自らの暮しをつつがなく送っていきたいがためのものだった。加えて、そうした地域の生活に配慮しつつ、「もの静か」な暮らしぶりに近づこうとするT氏の姿は、他方のサポーターとしての「過激な」振る舞いとは対照的であった。サポーターの代表としてのT氏は、地域の生活者でもある。両者が繋がりがないままに癒合している彼の身体性。それは、「地域」の歴史的な暮らしぶりが、かろうじてつなぎとめているのかもしれない。第三に、T氏はスタジアムに足を踏み入れると過激になり、ゴール裏を纏め上げることが求められる。鹿島に興味を注ぐマスコミや研究者に対しても、「地元サポーターの代表」としての役割が期待される。ところが共に地域生活を営んでいく人物としてのT氏に求められているのは、「つつがなく暮らしていく」ために地域に貢献することだった。だからこそスタジアムでは「ガラ悪く」しているのだが、地域生活者としての彼は、自身のこれまでの活動に苦悩し、「地域」に対して控え目に振る舞うのである。それだけ彼にとって「地域」の共同生活とは揺るぎのないものなのだ。鹿島においては地域生活とは無関係なままにサッカーが展開してきた。しかしそこで生活するT氏は「地域」とかかわらざるを得ない。スポーツ社会学の問いは、こうした生活の事実から出発することが求められている。
著者
株丹 洋一
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ESD(持続可能な発展のための教育)理論に基づいて設計されたドイツのリューネブルク大学で実施されている環境教育プログラムを日本の教育体制に合わせて圧縮したプログラムを、国際的な環境規格ISO14001の規定上、毎年すべての構成員に対して実施することが義務付けられている「一般教育訓練」として、学生を対象にして実施することで、高い教育効果を挙げることができる。
著者
横川 吉晴
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

【目的】脳卒中既往者に血流制限を伴う低負荷抵抗運動(以下加圧トレーニング)を行い、運動療法としての可能性と安全性について検討した。【対象】73歳男性。脳梗塞(被殻部位)。平成13年7月に発症。左片麻痺、感覚障害あり。高次脳機能障害、心疾患既往なし。現在ADLは自立。下肢静脈血栓症なし。【研究方法】シングルケーススタディ。4週間毎にプログラムを交代するABABデザイン。A:既存の理学及び作業療法を各40分。B:A+加圧トレーニング30〜40分。A、B共に治療は週2回。専用ベルトを上腕及び大腿基部に装着、空圧式加圧装置により加圧し運動を行った。1回加圧時間は10分以内。手指の屈伸、重錘1kgによる肘関節屈伸、肩関節挙上を麻痺側上肢のみ行った。下肢は、ハーフスクワット、一歩踏みだし、つま先立ちを行った。各回数は3セットにわけ合計45回とした。【測定項目】肘および膝関節等尺性収縮筋力。10m歩行速度、Timed up and go test(以下TUG)、片脚立位時間。筋力と10m歩行速度は、A、B前後に測定した。TUGと片脚立位は、すべて治療開始前に測定した。最終日上下肢各10分間の加圧トレーニングを行い、開始前、直後、終了15分後に採血、生化学検査を行った。介入前後に上腕中央部と膝蓋骨上縁10cm上位の断面をCT画像撮影した。【結果】運動中、脳貧血など健康被害はなかった。初回A期に比べ、TUG遂行時間は短縮、非麻痺側片脚立位時間は延長した。同じく終了時麻痺側筋力は、非麻痺側以上の増加を示した。10m歩行速度は23.1%増加した。成長ホルモン、IGF-1、ノルアドレナリン、硝酸イオンがトレーニング直後に増加した。CT画像では麻痺側上腕三頭筋横断面積が増加した。【まとめ】一定の実施基準のもとで、加圧トレーニングによる身体機能の改善を得ることが示唆された。
著者
三野 たまき 熊谷 哲
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

簡易被服圧測定器の開発:従来より丈夫な受圧部の測定器を開発した.血圧トランスデューサーはディスポーザブルで,圧媒体に水を選び,駆動電源は乾電池のハンディタイプの簡易被服圧測定器を組み上げた.全身の適正圧分布,圧迫が足部容積・皮膚温・血流量・呼吸運動に及ぼす影響を明らかにした.周応力発生時の"ちょうど良い"被服圧は,頸部・胸部・腹部では低く,下腿部・足首・前腕・手首・指等で高かった.
著者
菅原 聰 白幡 洋三郎 赤坂 信 中堀 謙二
出版者
信州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

平成5年度には、国内調査として、地域住民の森林観の調査・大学生の森林認識の調査・山村においての森林の利用状況の調査・日本人の自然観に関する予備調査・森林休養についての調査・森林風景についての調査・里山についての調査をおこない、海外調査として、ドイツ・フランス・オーストリー・北欧・イギリスならびにカナダで森林観と森林施業の調査をおこなった。そして、平成3年度と平成4年度の調査結果とを合わせて、「森林観の比較研究」として、次のようにまとめることにした。(1) 東西の森林観:東洋と西洋について、とくに宗教との関係をめぐって、森林観を比較した。(2) 呼吸する里山:信州においての農民と里山との変遷を、資料(古文書・古絵図など)を用いて探るとともに、山村においての農民と森林との交流についての調査に基づいて、里山をめぐる森林観の推移を明らかにした。(3) 森林風景の行方:森林は人間によって創られたものであるから、森林風景は森林観と密接に関係している。技術的視点で森林風景の創造について接近し、現代人の森林観と現代社会においての技術展開の方向から森林風景の行方を探った。(4) 大英帝国の森林の盛衰:イギリスで大英帝国時代に森林がどのように取り扱われたかについての考察を通じて、森林観と森林の盛衰との関係を明確にした。(5) 変貌する森林観:森林観は社会構造と密接な関係にある。古代社会では神秘のなかに森林をみていたが、農耕社会で有用な存在となり、工業社会では無用となり、情報社会では貴重なものとなってきた森林に対しての森林観の推移を明らかにした。