著者
加藤 進 市岡 高男 山内 徹
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.331-336, 1999-07-10
被引用文献数
2

1997年12月2日から7日まで, フィリピン, ケソンシティーのビサヤス通りに面した環境天然資源省の敷地内でハイボリュームエアーサンプラー(High Volume Air Sampler)とパッシブサンプラー(Passive sampler)を用いてエーロゾル総重量(TSP)濃度とその組成およびNO_2濃度を求めた。その結果, TSP濃度は平均値で216μg/m^3であり国家基準(230μg/m^3)を満足していた。鉛の平均濃度は0.43μ9/m^3で, 1980年代の値よりも1/2まで濃度が減少し, 無鉛化燃料への転換状況の進行が伺えた。しかしながら, TSP濃度は鉛やNO_2と良好な相関関係を示し, 移動発生源の寄与が高いことも伺わせた。重金属分類のうちでは鉄の濃度がもっとも高かった。水溶性イオンの中では硫酸イオン濃度がもっとも高く, ついで塩化物イオン濃度が高かった。測定地点が海岸線から約12km離れているのにもかかわらず, 塩化物イオン濃度は1992年に測定された四日市(環境科学センター, 海岸線から3km, 国道1号線から約50m)の測定値よりも高く, 海塩粒子以外の発生源の存在が示唆された。また, 硫酸イオン濃度は1.77μg/m^3で四日市の年平均値の1/3値であった。また, 石油燃料の寄与度を示すバナジウム濃度は同方法で観測された四日市の値に比較すると高く, NO_3^-やSO_4^<2->との相関も良好であった。
著者
速水 洋 内田 敬 桜井 達也 藤田 慎一 三浦 和彦
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.193-200, 2005-09-10
被引用文献数
5

1999年度に, SPMの全国平均の年平均濃度が急減し, 環境基準達成率が大きく改善された。この低濃度の実態を明らかにし, 気象要因を解析した。1999年度のSPMの全国平均濃度は, 月別には4月, 6〜8月, 2月に低かった。このうち7, 8月の濃度低下は関東で著しく, 週単位で低濃度が連続したことが特徴的であった。そこで1999年7, 8月の関東について気象解析を行ったところ, 月間値では他年に比べて強風, 多雨であり, 全月的な濃度低下との関連が示唆された。しかし, 低濃度が連続した期間では低濃度と降水, 風速との関連性は乏しく, むしろ, ほぼ同一風向の風が維持され, 太平洋からの清浄な空気が流入し続けたことが要因であると考えられた。
著者
米倉 哲志 本田 雪絵 Oksanen Elina 吉留 雅俊 渡邊 誠 船田 良 小池 孝良 伊豆田 猛
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.333-351, 2001-11-10
被引用文献数
3

3年生のブナ(Fagus crenata Blume)苗のガス交換速度, 葉の水ポテンシャル, 光合成系IIの最大光量子収率(F_v/F_m), クロロフィル含量, 葉の微細構造および年輪幅に対するオゾンと水ストレスの単独および複合影響を調べた。自然光型ファイトトロン内に浄化空気を導入した浄化区と60nmol・mol^<-1>のオゾンを毎日7時間(11 : 00〜18 : 00)にわたって導入したオゾン区を設け, 各ガス処理区において, 3日毎に250mL灌水した土壌湿潤区と175mL灌水した水ストレス区を設定した。これらの4処理区において, ブナ苗を156日間(1999年5月10日〜10月12日)にわたって育成した。水ストレス処理によって, 葉の水ポテンシャルが7月以降に有意に低下し, ブナ苗の葉における純光合成速度(A_<350>), 気孔コンダクタンスおよび蒸散速度が8月以降に有意に低下した。また, 葉緑体内のプラスト顆粒が水ストレス処理によって有意に大きくなった。オゾン処理は, ブナ苗のA_<350>, CO_2固定効率, 最大純光合成速度, F_v/F_mおよび年輪幅を有意に低下させた。このオゾンによるA_<350>の低下は, まずRuBPカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco)含量の低下によって引き起こされ, その後はRubisco含量の低下と共に, RuBPの再生能力や光化学系活性の低下によると考えられた。また, 葉緑体内のプラスト顆粒がオゾン処理によって有意に大きくなったが, デンプン粒は有意に小さくなった。葉のガス交換速度, 葉の微細構造および年輪幅においてオゾンと水ストレスの有意な交互効果は認められなかったが, 両ストレスは相加的に作用し, 純光合成速度や年輪幅を著しく低下させた。
著者
伊豆田 猛 松村 秀幸 河野 吉久 清水 英幸
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.137-155, 2001-05-10
被引用文献数
12

世界各地で森林衰退が観察されており, 様々な原因仮説が出されているが, 酸性降下物はオゾン(O_3)と共に注目されている。したがって, すでに衰退している, または, 今後衰退する可能性がある樹種に対する酸性降下物の影響やそのメカニズムなどを実験的に調べる必要がある。これまでに欧米や我が国で行われた実験的研究の結果に基づくと, pH4.0以上の人工酸性雨や酸性ミストを数カ月から数年にわたって樹木に処理しても, 著しい成長低下や可視障害は発現しない。しかしながら, 酸性雨に対する感受性が比較的高いモミなどの樹種では, その成長がpH4.0以下の酸性雨によって低下する可能性がある。樹木に対する土壌酸性化の影響に関する実験的研究で得られた知見に基づくと, (1)酸性土壌で生育している樹木の成長, 生理機能および栄養状態を制限する最も重要な要因は, 土壌溶液中に溶出したAlであること, (2)土壌溶液中の (Ca+Mg+K)/Alモル比は, 樹木に対する酸性降下物による土壌酸性化の影響を評価・予測する際のひとつの有用な指標であること, (3)スギやアカマツは, ノルウェースプルースに比べると, 土壌溶液中の (Ca+Mg+K)/Alモル比の低下に敏感であることが考えられる。欧米では, 実験的研究や現地調査の結果に基づいて, 森林生態系を保護するための酸性降下物のクリティカルロードが評価されている。日本と欧米の土壌の特性はかなり異なり, さらに酸性雨, 酸性霧, 土壌酸性化および土壌窒素過剰などの環境ストレスに対する感受性に樹種間差異が存在することが実験的研究から明らかになっている。したがって, 我が国における森林衰退の原因を明らかにし, 森林生態系における酸性降下物のクリティカルロードを評価するためには, 様々な樹種に対する酸性降下物の影響に関する実験的研究が必要である。
著者
香川 順
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-5, 1997-01-10

我が国では1970年に光化学スモッグ事件が発生し,光化学大気汚染との関係が問題になった。この問題を解決するためには,観察された健康影響は,そのときに発生している光化学大気汚染に因果的に関係しているのか,しているとすれば,どのような汚染物質が主に関係しているのか,その量・影響(反応)関係や発生率などに関する情報が必要で,これらの情報を得て光化学大気汚染と健康影響の関係を評価することをヘルス・リスク・アセスメントという。このような情報は,疫学研究,人への実験的負荷研究,動物暴露研究や臨床医学的研究等から得られる。本稿では,この研究を疫学調査と人への実験的負荷研究から調べ,光化学スモッグ事件で観察された気道刺激症状は,主にオゾンで引き起こされる事を明らかにした経緯を要約した。
著者
大原 利眞 坂田 智之
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.47-54, 2003-01-10
被引用文献数
28

1985〜1999年度に日本全国の大気常時監視測定局で測定された光化学オキシダント年平均濃度を解析した結果,82%の測定局において経年的な増加傾向を示し,その増加率は全国平均で年間0.33 ppb/年 (1.1%/年) であった。特に1991〜1996年度における増加は著しく,その間に全国平均で約5 ppb増加した。また,濃度上昇は全国的な現象であること,6月を除く暖候期に増加傾向がやや大きいことなどの特徴が認められた。しかし,大気常時監視測定局のO_x測定機には1980年代中頃から向流吸収管の自動洗浄装置が装着され始め,この測定法の変化がO_x測定濃度の長期変動に一定の影響を及ぼしている可能性もある。
著者
森 博明 北田 敏廣
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.352-375, 1999-09-10
被引用文献数
4

濃尾平野およびその周辺地域において, 大気環境が悪化する場合の気象条件を明らかにするため, 1985・1986年度における大気常時監視測定局73局の日平均値, 日最大値(NO_2,NO_x, O_x, SO_2,SPM)を基に, 年間を通しての高濃度日の出現状況とその時の気象条件について統計解析を行った。その結果, 月別ではO_xを除き, 高濃度日は寒候期(10〜3月)に多く出現したが, 特にNO_xの場合はその傾向が顕著であり, 11〜1月の3か月に高濃度日の7〜8割が集中していた。また, 高濃度日の気象条件を集約すると7類型に分類できたが, このうち, NO_2の場合は曇・雨天弱風型が45%強を占め, これに続いて晴天弱風型と晴天→曇・雨天移行弱風型がそれぞれ20%前後を示したのに対し, NO_xでは晴天弱風型が50%前後, 曇・雨天弱風型が30〜40%を占め, 両者の出現傾向には相違が見られた。また, O_xの高濃度日は, 暖候期の広域海陸風型が約9割(日最大値)を占め, 前駆物質の主要発生源が位置する臨海部を風上として吹く海風との強い関連が認められたが, 日平均値については名古屋南部や尾張西部を中心に, 春季に成層圏オゾンの影響と考えられる晴天北西風型でもしばしば高濃度を示した。このほか, SO_2は晴天弱風型と曇・雨天弱風型で高濃度日の50〜60%を占めたが, 暖候期の海陸風型も20〜30%見られた。また, SPMは全域では曇・雨天弱風型が50〜60%を占めたが, ただし, 岐阜については, 海陸風型の出現率が他地域よりも高いことから, 名古屋地域からの移流汚染の可能性が示唆された。このように, O_xを除く4物質については, 全般に寒候期の晴天弱風型と曇・雨天弱風型において高濃度が多く出現したことから, これらの2つの型について, 高層気象観測結果等を基に, 気流および気温の鉛直構造と濃度の日変化を比較・検討した。その結果, 晴天弱風型では, 概ね21〜23時頃にかけて, 周辺の地形特性に基づく局地風系の切り替え(西よりの風→北又は東よりの風)に伴い生じる静穏〜微風状態と, 接地逆転の発達(最大で地上約300m)により高濃度のピークを生じることが明らかになった。
著者
林 健太郎 野口 泉
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.279-287, 2006-09-01
被引用文献数
5

アルカリ含浸ろ紙を2段としたフィルターパック法を用いて,茨城県つくば市のシバ草地における2004年6月29日〜2005年1月11日のガス状の亜硝酸(HONO)および硝酸(HNO_3)の濃度および濃度勾配を観測した。暖候季および寒候季のHONO濃度はそれぞれ0.86および1.2ppb(v/v),HNO_3濃度はそれぞれ1.0および0.23ppbであり,HONO濃度はHNO_3濃度と同程度であった。一方,暖候季および寒候季の地上4-2m間のHONOの濃度勾配はそれぞれ-0.012および-0.027ppb m^<-1>,HNO_3の濃度勾配はそれぞれ0.10および0.008ppb m^<-1>であった。負の濃度勾配はネットフラックスが発生であることをあらわし,HONOが地表から発生していることに加えて,発生量が乾性沈着量を上回っていることが示された。地表からのHONOの発生は,気相-地表系の不均一反応による二酸化窒素からのHONOの生成によると考えられる。大気-地表間のHONOの交換はネットフラックスとして定量されるべきであり,沈着速度の推計では地表からのHONOの発生を考慮する必要がある。
著者
小林 隆弘
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.271-282, 2007-09-10
被引用文献数
2

大気環境中のナノ粒子に曝露される可能性がある。ラッシュアワーのとき道路沿いの大気中では自動車由来と思われるナノ粒子が増加することが観察される。ディーゼルエンジンは多数のナノ粒子を排出する。一方,極めて粒子径が小さいことから,ナノ粒子は化学的,電気的あるいは光学的な新たな物性を持ち,外界からの光や熱や電圧等の刺激に対して大きい粒子に比較し異なる挙動を示す。このようなことから工業的に生産されるナノ粒子は化学,電子工業,化粧品,医薬,食品,環境技術といったあらゆる分野で使われるようになりつつある。作業環境中においてもこれらのナノ粒子に曝露される可能性が増加しつつある。しかしながら,大気および作業環境中のナノ粒子の曝露評価や健康影響評価はあまり行われていないのが現状である。ここではナノ粒子の曝露評価や健康影響評価の現状と課題について概観した。曝露評価については,屋内・屋外ならびに作業環境中での曝露に関する知見の充実や毒性やナノ材料のライフサイクルを考えた曝露指標の選択とそれに基づく曝露量の計測手法の開発が課題である。また,健康影響評価においては粒子の物理・化学的性状に基づいた体内動態や毒性評価や評価に必要な曝露手法の開発が課題となる。
著者
神成 陽容
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.209-219, 2006-07-10
参考文献数
15
被引用文献数
6

関東・関西地域における1990〜2002年度にかけての光化学オキシダント(Ox)濃度の週日から週末にかけての変化(週末効果)を調べた。その結果,Ox昼間平均濃度,日最高1時間濃度とも,長期間平均濃度における日曜日の週末上昇効果がほぼ全ての測定局で認められた。また,日曜日のOx濃度上昇量は,NOxの低減量と強い相関関係があり,HC-limitedの環境におけるNOxのO_3生成抑制効果が週末のNOx排出減少によって解除されることが原因であることが推定された。しかし,Ox濃度パーセンタイル点に沿って週末効果を調べたところ,低パーセンタイル点(オゾン生成ポテンシャルの低い日)ではほとんど全ての地点でOxの"週末上昇効果"がみられるものの,高パーセンタイル点に移るにつれて(オゾン生成ポテンシャルが高くなるに従って),多くの地点で"週末低減効果"に反転する現象が見いだされた(時間的な週末効果反転現象)。類似した週末効果の反転現象が空間的にも体系的に生じており,比較的高い特定のパーセンタイル点で観察した場合,発生源地域では"週末上昇効果"がみられるが,発生源地域から離れるに従って"週末低減効果" に反転する現象がみられた(空間的な週末効果反転現象)。これらの2種類のOx濃度週末効果反転現象がきわめて組織だって生じていることから,その原因としてオゾン生成レジームの時間・空間的変化があるものと推測された。
著者
松本 利恵 米持 真一 丸山 由喜雄 小久保 明子 坂本 和彦
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.135-143, 2006-05-10
被引用文献数
3

埼玉県南西部の産業廃棄物焼却施設が集中して存在していた地域において,1999年7月から2000年7月まで大気沈着物の観測を実施した。その結果,焼却施設群の中心部や風下の地点でnss-Cl^-沈着量が大きくなる傾向を示していた。調査地域に存在する大気汚染防止法の規制対象の廃棄物焼却施設について,経済産業省低煙源工場拡散モデルを用いて採取地点付近のばい煙の相対的な影響度を推計したところ,観測したnss-Cl^-沈着量と比例関係が得られた。この関係を用いて,大気汚染防止法の対象となる民間の産業廃棄物焼却施設,市町の一般廃棄物焼却施設,およびその他の要因に由来するnss-Cl^-沈着量の割合を推計した結果,地点により異なるが,調査した10地点の要因別寄与割合の平均はそれぞれ55%,38%,7%であった。
著者
大原 利眞 神成 陽容 若松 伸司 鵜野 伊津志
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.103-112, 2000-03-10
被引用文献数
1

1997年7月2日10時頃,東京湾中央部において大型タンカーが底触し,大量の原油が流出した。流出油は揮発性の高い原油であったため,その3割程度はすぐに蒸発し大量の石油蒸気として大気中に放出された。本研究は,この原油流出事故による大気環境影響を実測データ解析とモデル数値解析によって検討した。実測データを解析した結果,東京湾央部の流出油から揮散した高濃度NMHCは風速10m/s程度の南西風によって東京湾北東部から茨城県南部にパフ状に輸送され東京湾北部陸上で最高6ppmCに達したこと,高濃度NMHCパフの通過時にはNMHCとともに光化学オキシダントも上昇することが認められた。次に数値解析によって事故による大気環境影響を検出した。基本ケースの数値計算によって原油流出に伴う大気環境影響の基本的特徴が再現されるのを確認した後,事故ケースと事故なしケースの差を影響量とみなして分析した。この結果,高濃度NMHCパフ内においては光化学反応によってO_3等の光化学オキシダントやNO_2が生成し,その最大上昇濃度はO_318ppb,NO_22ppbであることが明らかとなった。
著者
林 健太郎 駒田 充生 宮田 明
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.78-90, 2006-03-10
被引用文献数
7

茨城県つくば市のシバ草地において,2004年8月14日〜2005年2月28日のアンモニア性窒素(NH_x;アンモニア:NH_3とアンモニウム塩粒子:NH_4^+粒子)の乾性沈着を調べた。フィルターパック法によりNH_xの大気濃度を観測し,インファレンシャル法によりNH_xの沈着速度を推計した。NH_3の沈着速度の推計では,気孔からのNH_3揮散および地表のぬれの効果を考慮した。大気濃度および沈着速度の積を乾性沈着量とした。期間全体の平均として, NH_3およびNH_4^+粒子の大気濃度は150および89μmol m^<-3>,沈着速度は0.66および0.061cm s^<-1>,乾性沈着量は80および4μmol m^<-2>d^<-1>であった。大気濃度は田園地域の代表的なものと考えられ,沈着速度は既往研究の下限付近であった。期間全体の平均として,気孔からのNH_3揮散は沈着速度に対して0.013cm s^<-1>(2.0%)の減少効果,地表のぬれは0.042cm s^<-1>(6.4%)の増加効果を示した。年間値に換算したNH_xの乾性沈着量はわが国のNH_4^+の湿性沈着量と同程度であり,NH_xの大気沈着において乾性沈着が重要な寄与をなすことが示された。さらに,自然草地や森林など,調査地よりも粗度が大きな植生では沈着速度がさらに増加するため,これらの植生ではNH_xの乾性沈着の寄与はより大きいと推定される。
著者
松田 和秀 中江 茂 三浦 和彦
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.251-259, 1999-05-10
被引用文献数
1

東京都心のビル屋上において1995年3月〜1996年2月の1年間, 大気エアロゾルをサンプリングし化学組成分析を行った。大気エアロゾルはニュクリポアフィルタ上に1週間毎に採取し, 蛍光X線分析装置とイオンクロマトグラフィによる定量分析を施した。蛍光X線分析において, 標準試料の作成とマトリクス効果の補正に注意を払い定量分析を行った。2つの装置の併用により, 季節を問わず, 大気エアロゾル濃度の約40%を分析することができた。季節変化について, NH_4^+, Na^+, Mg^<2+>, SO_4^<2->は暖侯期に増加, NH_4^+, NO_3^-, Cl^-, P, K, Znは寒侯期に増加する傾向を示した。因子分析法を用いて発生源の推定を行ったところ3つの因子(Factor)が抽出された。Factor 1は都市大気中で最も強い因子で, 主に人為起源のKおよびZnから構成されていた。Cl^-は, 高濃度となる寒侯期においてのみFactor 1に系列していた。Factor 2は土壌起源元素, 主にAl, Siから構成されていた。これらの成分の季節変動は, 梅雨期に減少が見られる他は明確ではなかった。Factor 3は最も弱い因子で, 主にNa^+, Mg^<2+>から構成されていた。これらの濃度が増加する夏季には, 海洋からの風が卓越し, 海塩起源のNa^+, Mg^<2+>を増加させていることが示唆された。
著者
鵜野 伊津志 森 淳子 宇都宮 彬 若松 伸司
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.109-116, 1998-03-10
被引用文献数
1

梅雨期にみられる長距離越境汚染の特徴と大気汚染物質濃度の変化を, 3次元長距離輸送モデルを用いたシミュレーション結果と長崎県対馬, 福岡県筑後小郡, 韓国ソウルで1991年6月に観測されたエアロゾル高濃度の観測と対比し, その汚染物質の濃度変化の特徴を示した。長距離輸送モデルとトラジェクトリー解析より中国大陸〜朝鮮半島で発生した大気汚染物質が, 日本の南岸にかかる梅雨前線の北部を長距離輸送・反応・変質しつつ, 九州北部にもたらされることが明瞭に示された。梅雨前線の南北の移動に伴う大気汚染質の輸送が, 梅雨期の九州から西日本域のエアロゾル濃度レベルに重要であることが判明した。
著者
森 孝司 大河内 博 井川 学
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.157-161, 1997-03-10
被引用文献数
5

1994年4月35日に大山においてpH1.95の霧が観測された。この霧は非海塩起源の塩化物イオン濃度が12.8mmol/lと極めて高く, 塩化水素ガスの吸収によりpHが低下したことを示していた。非海塩起源の塩化物イオン濃度が高くpHの低い霧はこの他にも観測されたが, いずれも夕方を中心とした時間帯に限定され, また濃度は急激に増加し短時間の内に再び減少することから, 局地的な塩化水素ガスの汚染が考えられた。霧水量と霧水内濃度から霧発生前の大気中塩化水素ガス濃度は約2ppbと推測されるが, この値は都市部では普通に観測される濃度であることから, 塩酸により強酸性となる霧は都市近郊山岳部で今後も発生することが予想される。
著者
山本 晋
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.133-144, 2003-05-10

大気境界層は大気と陸面間の熱的,力学的相互作用と物質交換に重要な役割を持っている。そこでタワー,飛行機などを観測プラットホームとした野外観測により,陸面と大気間の熱,運動量,微量物質の交換過程,大気境界層の構造を解明してきた。研究の成果は大きく分けると1)大気境界層の構造の解明とそこでの大気汚染物質の拡散モデル構築,2)地球温暖化問題との関わりでは二酸化炭素の循環,収支の解明と森林生態系のC0_2吸収能の評価に応用されてきた。第1の課題では飛行機観測においては晴天時,日中に平坦陸地上に形成され,高度1500m程度に及ぶ混合層の解析を中心に行った。高タワー観測においては,観測高度が300m程度までであることを考慮して,晴天時の夕方から夜半にかけて高度200m以下に形成される安定接地境界層と早朝から日中にかけての比較的低高度の現象である安定接地境界層解消・混合層形成初期過程を重点的に調べた。第2では大気と森林生態系間のC0_2正味交換量(NEE)を野外でのタワー観測に基づき調べ,NEEと気象条件の関係, NEEの季節・年々変化を解明した。岐阜県高山の冷温帯落葉広葉樹林での1993年からの観測ではNEEは平均1.8tC/ha/年であるが,その年々変動は大きい。なお,日本の代表的な森林での観測から2から5 tC/ha/年程度という結果が得られているが,これらの結果は温帯林がC0_2の吸収源であることを示している。しかし,陸上植物生態系のグローバルな吸収・固定量を推定するには,気候,緯度などの異なる諸地域での多様な植物種に対する結果を更に集結し,総合的に解釈することが必要である。
著者
福崎 紀夫 原 宏 Ayers Gregory P.
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.35-41, 1999-01-10
被引用文献数
5

降水試料を, (1)無処理一室温, (2)ろ過(洗浄済みの孔径0.45μmメンプランフィルター使用)一室温, (3)チモール添加(40mg/100mL)一室温, (4)無処理一冷蔵(4℃), (5)ろ過(同上)一冷蔵の各方法で21日〜59日間保存しH^+(pH)変化および溶存成分の濃度を比較した。H^+(有機酸)やNH_4^+の保存には, チモール添加が最も有効である。冷蔵保存がこれに次ぎ有機酸以外の主要な成分の保存に, また, ろ過は黄砂現象時のように懸濁物質が多い場合カルシウム化合物などの溶出を防ぐために有効な保存方法と考えられる。これらの結果から, 降水時開放型捕集器を用いて降水試料を捕集する場合であっても冷蔵保存できない場合や有機酸を測定対象項目に含める場合には, 試料捕集ビンにあらかじめチモールを入れて降水を捕集し, 試料を実験室に持ち帰ってから懸濁物質およびチモールの残結晶をろ別し分析時まで冷蔵保存することが推奨される。
著者
板橋 秀一 弓本 桂也 鵜野 伊津志 大原 利眞 黒川 純一 清水 厚 山本 重一 大石 興弘 岩本 眞二
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.175-185, 2009-07-10
被引用文献数
9

日本各地で光化学オキシダント注意報が発令された2007年4月下旬から5月末の期間を対象に,化学輸送モデルCMAQを用いてモデルシミュレーションを行い,光化学オゾン(O_3)を中心に,硫酸塩粒子(nns-SO_4^<2->)などにも着目して,その濃度変化や気象学的な特徴について解析した.シミュレーションの結果は観測されたオゾン濃度などを概ね再現しており,対象とした期間内には九州北部においてO_3とnss-SO_4^<2->が同時に高濃度となる5つのエピソードが見られた.これらの中から九州地域で典型的な越境汚染が起こっていると考えられた3つのエピソードに着目してより詳細な解析を行った.これら3つのエピソード時には,いずれも東シナ海南部に高気圧が位置し,高気圧の北部をまわる西から北西の気流に乗って大陸起源の汚染気塊が輸送されていることが明瞭に示され,それはnss-SO_4^<2->の高濃度域の広がりと合致していた.また,後方流跡線解析から,中国大陸上の汚染気塊がおよそ2日かけて九州北部へと輸送されたことが示された.中国起源の一次汚染質排出による越境汚染の寄与を見積もるため,中国国内の一次汚染質の排出量をゼロとした感度解析も行った.中国起源のnss-SO_4^<2->とO_3には高い相関があり,直線回帰の傾きは気象条件により異なるが0.8〜1.3(ppbv_-O_3)/(μg/m^3_nss-SO_4^<2->)を取り,nss-SO_4^<2->=20μg/m^3に対する中国起源の汚染質に起因するO_3は16〜26ppbvであることが示された.全球モデルで与えているO_3の西側境界濃度レベルの50ppbvを勘案すると,今回着目した3つのエピソード時のオゾン濃度に対する中国起源のO_3前駆物質の寄与率は東アジア起源の約30〜50%に達し,高濃度オゾンエピソードにはアジア大陸を起源とする越境汚染が強く影響していることが示された.