著者
朝倉 秀夫 池上 克重 中井 ゆかり 脇田 久伸
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.735-744, 2000-10-05
参考文献数
26
被引用文献数
3

酸化アルミニウム-酸化クロム(III)質耐火物(AC質耐火物)へのガラスビード(GB)/蛍光X線分析(XRF)法の適用を図った。AC質耐火物中には多量のCr<SUB>2</SUB>O<SUB>3</SUB>が含有されているため,試料の融解はLi<SUB>2</SUB>B<SUB>4</SUB>O<SUB>7</SUB>単独ではできず,酸化剤としてLiNO<SUB>3</SUB>を添加することによって可能となった。GB作製条件は,試料0.2000g-Li<SUB>2</SUB>B<SUB>4</SUB>O<SUB>7</SUB> 4.0000g-LiNO<SUB>3</SUB> 2.000g,1250°C-10分間とした。Cr含有試料の融解は,Cr(III)がCr(VI)に酸化され,CrO<SUB>4</SUB><SUP>2-</SUP>イオンとなることによって進行することが知られており,このことをCrK吸収端のX線吸収端近傍微細構造(XANES)スペクトルによって確認した。XANESによるCr(VI)の半定量分析結果によると,Li<SUB>2</SUB>B<SUB>4</SUB>O<SUB>7</SUB>単独で融解したGB中では全Crのうちの7%に過ぎなかったCr(VI)の量が,Li<SUB>2</SUB>B<SUB>4</SUB>O<SUB>7</SUB>にLiNO<SUB>3</SUB>を加えることにより39%にまで高められていた。また,定量成分のNa<SUB>2</SUB>Oを含有するため実用できないが,融解が非常に容易だったNa<SUB>2</SUB>B<SUB>4</SUB>O<SUB>7</SUB>にNaNO<SUB>3</SUB>を加えたGBでは95%がCr(VI)になっていた。検量線用GBはJRRMなどの市販標準物質と高純度試薬Cr<SUB>2</SUB>O<SUB>3</SUB>を1μgまで読み取れる精密ミクロてんびん上で量り合わせたものをGBにすることによって作製できた。検量線の標準偏差はAl<SUB>2</SUB>O<SUB>3</SUB>で0.21mass%,Cr<SUB>2</SUB>O<SUB>3</SUB>で0.07mass%であり,微量成分についても満足できるものであった。
著者
五十嵐 淑郎 佐伯 知司 四ツ柳 隆夫
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.39-43, 1983-01-05
被引用文献数
4 4

新しい水溶性ポルフィリン,α,β,γ,δ-テトラキス(5-スルホチエニル)ポルフィン{T(5-ST)P}を合成した. T(5-ST)Pは水によく溶解し,その水溶液は安定で,しかも酸性pH条件における試薬及びその錯体の二量体生成反応は認められなかった. ソーレー帯における吸収スペクトルは,酸性型(H_4P^<2+>)が特異的に長波長側(456nm,ε=32.9×10^4cm^<-1>mol^<-1>dm^3)に位置し,亜鉛錯体(428nm,ε=41.7×10^4cm^<-1>mol^<-1>dm^3)と十分離れていた. このスペクトル特性を利用して,二波長増感法による10^<-9>g/cm^3の亜鉛(II)の吸光光度法を開発した. 本法のsandell指標は,1.12×l0^<-4>μg/cm^2であり,公定法であるジチゾン法の14.3倍の感度である. 又,相対標準偏差値は1.31μ/25cm^3の亜鉛(II)に対しO.6%(10回測定)であった. 本法を市販の四塩化炭素特級試薬中の亜鉛(II)の定量に応用し,良好な結果を得た.
著者
武田 洋一 石田 宏二
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.729-734, 2004-07-05
被引用文献数
2 4

希土類元素の新しい分離系の開発を目的として,弱酸性陽イオン交換体カルボキシメチルセルロースに対するプロメチウムを除く全希土類元素の吸着挙動を塩化ナトリウム水溶液系について塩濃度の関数として薄層クロマトグラフィーにより調べた.本系における希土類元素のR_f値の決定には,カルボキシメテル基への競争的陽イオン交換,表面錯体の生成,塩析効果が重要な役割を果たし,希土類元素系列内の配位数の変化も影響を及ぼしていると思われる.通常,イットリウムは重希上類元素に属するが,本系ではイットリウムはランタンに極めて近いR_f値を示すので,ランタン以外の希土類元素からの分離が達成された.
著者
鈴木 章悟 平井 昭司^[○!R]
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.33, no.11, pp.596-600, 1984-11-05
被引用文献数
4 9

国立公害研究所で製作された環境標準試料ムラサキイガイ中の微量元素を機器中性子放射化分析法により非破壊・多元素・同時定量した.分析法の信頼性を増すために,試料量(50〜250mg)を変化させ,更に数回の繰り返し照射・測定を行った.試料は武蔵工大炉で短時間照射(気送管2分間)及び長時間照射(中央実験管5時間)を行い,冷却時間を変えてそれぞれ2回ずつGe(Li)検出器と4096チャンネル多重波高分析器(GAMAシステム)でγ線スペクトルの測定を行い,約50元素を分析した.その結果,20元素の濃度が数%の精度で定量され,そのほか18元素の濃度が多少精度が悪いが定量できた.
著者
高田 九二雄
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.197-200, 1983-03-05
被引用文献数
2 4

形状不定の1個のスズ試料{(O.1〜1)mg}を直接黒鉛炉に入れ原子化し,数ppmから数十ppmの銅及び百分の数ppmから数ppmの銀を原子吸光法で定量した. 分析のための標準化には定量元素である銅及び銀の標準溶液を用いた. 銅及び銀の原子化温度は2800℃及び2500℃で,原子化時間はどちらも45秒とし,吸光値は原子吸光シグナルの面積値とした. 原子化温度が高いため,主成分のスズも煙霧として大部分が銅や銀とともに蒸発し,バックグラウンド吸光(吸光度としてO.01〜O.1)を与えるが,これはゼーマン原子吸光法を用いることで補正された. 数十ppmの銅及び十分の数ppmから数PPmの銀の測定変動係数は(6〜28)%であった. 検出下限は,銅の場合O.082ng(試料量をO.4mgとするとO.2ppm相当)であり,銀の場合O.O11ng(試料量を1mgとするとO.O1ppm相当)であった. 分析時間は1試料につき試料のひょう量時間も含め約5分であり,黒鉛炉は(120〜200)回の繰り返し使用が可能であった.
著者
村上 文子 西沢 秀幸 石原 政雄
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.31, no.11, pp.624-627, 1982-11-05
被引用文献数
1

ポリアミンソ類(プトレシン,カダベリン,スペルミジン及びスペルミン)をダンシル化した後ポリアミド薄層を用いた薄層クロマトグラフィーにより分離し,薄層上のスポットをスキャニング蛍光光度計を用いて直接測定し定量した.ダンシルポリアミン類はポリアミド薄層上で少なくとも24時間は安定であり,測定下限はビスダンシルプトレシン,ピスダソシルカダベリン,及びトリダンシルスペルミジンでは10pmol,テトラダンシルスペルミンでは5pmolであった.1枚の薄層板上での蛍光強度の変動係数は5%以内であった.動物組織の定量ではほぼ文献どおりの値が得られた.
著者
武山 主郎^[○!R] 細谷 稔
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.80-84, 1984-02-05
被引用文献数
15 9

高純度鉄をはじめ各種金属中の微量ケイ素を簡便に定量するため,強硫酸酸性とした試料溶液にフッ化水素酸を加えてケイ素をフッ化ケイ素とし,加熱することなく酸素を送入して試料溶液から分離し,ホウ酸溶液に吸収させた後モリブデソ青吸光光度法によって定量する方法を検討した.試料液量に対し1.6倍以上の硫酸を加えることにより,定量的にフッ化ケイ素が発生することを確かめた.又生成したフッ化ケイ素を完全に吸収液中に移行させるためには,1000 ml/minの酸素流量で20分間通気する必要があった.本法を高純度鉄,多量のヒ素を含むガリウム-ヒ素半導体やその他の金偶中の微量ケイ素の定量に応用して良好な結果を得た.本法によるケイ素含有量0.0006%の鉄試料についての相対標準偏差は6.4%であった.又分析所要時間は(40〜45)分間で他の方法に比べて迅速に定量できた.
著者
奥谷 忠雄 鵜澤 惇 吉村 坦
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.120-123, 1989-03-05
被引用文献数
10 9

1,2-シクロヘキサンジオンジオキシムを活性炭に担持した吸着剤(以下、AC-DOxと略記)を用いて微量Niを分離濃縮した後、メタル炉AAS法で定量する方法を研究した。AC-DOxは水溶液中で活性炭にDOxを吸着させ、炉過した後、デシケーター中で乾燥保存した。試料溶液100-1OOO cm^3中にFe、Co及びCuなどが共存してもpH6.0〜9.0の範囲で0.5μg以下のNiをほぼ定量的に吸着分離できた。又吸着されたNiは希塩酸で容易に脱離できるのでこの溶液についてタングステンリボン炉を用いてAAS測定する。検量線は0.05〜0.50μgの範囲で再現性の良い直線関係が得られた。又濃縮は少なくとも200倍まで可能であった。0.10μg Ni/100cm^3について行った本法の再現性は相対標準偏差(n=5)は3.0%であった。本試料中の極微量Niの定量に本法を適用し満足する値を得た。
著者
松野 康二^[○!R] 岩尾 総一郎 児玉 泰
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.125-129, 1984-03-05
被引用文献数
1

急性タリウム中毒患者及び正常人の生体試料中タリウムのスクリーニング法について検討した.尿及び血液は0.1N硝酸による単純希釈液,頭髪は毛根部より5mmずつ切断したものを測定試料として,黒鉛炉原子吸光法により直接定量を行った.加熱プログラム特に灰化段階の温度のコントトール及び測定値の回収率での補正により,生体試料中タリウムを簡便かつ短時間に測定できた.従って,本法は中毒症状が発現する程度の暴露を受けた被験者のスクリーニング法として極めて有用な方法と考えられた.
著者
吉田 達成 岡田 忠司 保母 敏行
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.917-926, 1999-10-05
被引用文献数
1 3

前報において, アミド, ジオール及びシリカカラムを用いる水系順相法によるべプチド分離法を報告した. 今回, ベプチドの分離の保持機構を明らかにするために, ペプチドを構成する各アミノ酸の保持への貢献度を定量した. 本論文では, その貢献度を親水性保持係数 (hydrophilicity retention coefficients) として表現した.0.2%トリフルオロ酢酸+0.2%トリメチルアミンを添加したアセトニトリル-水系移動相を用い, アミド, ジオール, 及びシリカカラムの各カラムにおける121のべプチドの保持時間を検討した. 得られたデータを用いてシリカカラムに対しては, 線形回帰分析にて, アミド及びジオールカラムに対しては, 非線形回帰分析にて親水性保持係数を算出した. 各カラムにおける一組の親水性保持係数は, アミノ酸の保持の貢献への度合いをうまく説明した.
著者
下山 進 野田 裕子
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.243-250, 1992-06-05
被引用文献数
21 8

本研究では, 古代染織遺物の染色に使用された染料を非破壊的に同定することを目的として, 植物や動物から得られた染料で染色した染織物に直接励起光を照射し, 三次元蛍光スペクトルを測定して, その蛍光強度の等高線図を比較検討した.この結果, 等高線図上に年輪状の輪で描かれた蛍光スペクトルビークの位置で染織物に染着している染料固有の蛍光特性が励起波長と蛍光波長によって特定できることを確認し, 染織物を破壊することなく染着している染料をそれぞれ識別できることが明らかとなった.
著者
三留 真珠美 伊藤 克敏 荒川 秀俊 前田 昌子
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.355-361, 2000-06-05
被引用文献数
2 3

先天性代謝異常症であるフェニルケトン尿症,メイプルシロップ尿症及びガラクトース血症の診断の指標となる血液中フェニルアラニン(Phe),ロイシン(Leu)及びガラクトース(Gal)を迅速かつ簡便に定量することを目的として,固定化酵素カラムを用いるセミミクロFIAによる3成分同時定量法の検討を行った。本法は試料量20μl,分析時間17分間で3成分同時に定量可能であった。本法を先天性代謝異常症スクリーニング用血液濾紙ディスクの測定に応用したところ,それぞれの検量域は0.3~19.6(Phe),0.8~18.4(Leu),0.4~18.2(Gal)mg/dlであり,現在マススクリーニングで行われているカットオフレベルを十分カバーできた。日内変動は標準血液濾紙の各ポイントにおいていずれも2.4%(RSD,n=5)以下と良好であった。また,ヒト成人血液を用いて調製した血液濾紙からの平均添加回収率はPhe,Leu,Galそれぞれ,77.4,78.5,97.4%(n=11)であった。本法を用い正常新生児血液濾紙の測定を行ったところ,その平均血中濃度(n=30)はそれぞれ1.5(Phe),2.4(Leu),2.6(Gal)mg/dlであった。
著者
原田 芳文 倉田 奈津子
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.35, no.8, pp.641-645, 1986-08-05
被引用文献数
2 6

高純度酸化アルミニウム(99.99%)中の不純物(鉄,ケイ素,カルシウム,マグネシウム,銅,マンガン,亜鉛,クロム,ニッケル及びチタン)をICP-AESで定量することを検討した.試料は炭酸ナトリウムとホウ酸で融解し,融解物を希塩酸に溶解した後,水酸化ジルコニウムを担体に用いて目的の元素をマトリックスから共沈分離した.試薬類からは主にケイ素とカルシウム,及び融解に伴い白金るつぼから鉄などの汚染が認められるが,十分洗浄した白金るつぼを用いた場合,白金るつぼからの汚染は微量であり再現性もあるので(鉄:2〜3μg,銅:1μg),これらの元素はから試験を行って補正した.合成試料を用いて繰り返し分析した結果,試薬から試験値が高いケイ素(12μg)を除くと,他の9元素はそれぞれ5〜8μg/gで2〜10%の相対標準偏差が得られた.
著者
玉利 祐三
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.435-440, 1999-04-05
被引用文献数
6 3

微量リチウムの生体必須性が指摘されるなかで, リチウムが内分泌器官と関連していることが論議されている. 本研究では, 乳児のリチウム摂取量を把握するために, 乳児用調製粉乳中のリチウムを原子吸光分光光度計を用いるフレーム分析により定量する方法を検討した. 試料を硝酸・過塩素酸により加熱分解し, 測定溶液を0.1mol/l塩酸酸性とした. 共存する高濃度のナトリウム及びカリウムの影響なしにリチウムが定量できることが分かった. 本法を市販の乳児用調製粉乳16試料に適用したところ, 新生児用では106±13ng/g(p<0.05), 離乳期用では178±42ng/g(P<0.05)となり, アレルギー疾患等の特殊粉乳では118±10ng/g(P<0,05)であった. これらの粉乳中のリチウムの起源は, 含まれる他の成分との濃度相関より, 粉乳に添加されている無機化学薬品中の不純物と推定された. また, 乳児の1日当たりのリチウムの平均摂取量は, 一般の乳児用調製粉乳では12μg, フォローアップミルクでは20μgと算出できた.
著者
川本 博 赤岩 英夫
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.127-130, 1975-02-10
被引用文献数
2

Effect of Capriquat (trioctylmethylammonium chloride) on the extract ion of Co(II), Ni(II) and Cu(II) with 2-thenoyltrifluoroacetone (TTA=Htta) was studied. The experimental procedure was as follows: An aqueou ssolution (10.0ml) containing metal ion (M_<2+>) and acetate buffer solution (pH=4.75) was taken in a separatory funnel. An equal volume of the extractant solution which is a mixture of TTA and Capriquat in benzene was added. The mixture was then shaken, and the absorbance of the organic phase was measured. Concentrations of the remainig nickel(II) and cobalt(II) in the aqueous phase were determined by spectrophotometry. Both of the valence-saturated chelate M(tta)_2 and the co-ordination-saturated complex M(tta)_3-could be formed and extracted into benzene in the presence of Capriquat. The extraction of the former chelate was observed to occur in lower concentration region of TTA or Capriquat, and the extraction rates for Co(tta)_2 and Ni(tta)_2 were accelerated by the addition of Capriquat. However, the formation of Co(tta)_3- and Ni(tta)_3 from M(tta)_2 was found to be very slow. In contrast, the rates of extraction for Cu(tta)_2 and Cu(tta)_3- were very high, and the above equilibria were reached within 10 seconds.
著者
赤坂 和昭 今泉 啓一郎 大類 洋
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.1085-1094, 1999-12-05
被引用文献数
6 8

不斉を有するエタノールアミン骨格と2,3-アントラセンジカルボン酸無水物より, 非常に強い蛍光性を有する2,8-アントラセンジカルボキシイミド型の不斉誘導体化試薬を合成した. この試薬によりメチル基の分岐による不斉を有する分岐脂肪酸を誘導体に導いた後, -50℃〜室温で, ODSカラムを用いたHPLC分析に供したところ, 2〜12位の不斉を識別することができた. NMRやCDスペクトルの解析結果より, この試薬による脂肪酸誘導体は, 試薬のエタノールアミン部で, 試薬の立体化学に依存したゴーシュ/トランス配座を優位にとり不斉の折れ曲がり構造を形成するため, 脂肪酸のアルキル鎖が試薬のアントラセンイミド基の真上を規則的なジグザグ構造をとりながら覆いかぶさるような構造をとることにより, 遠隔位の不斉識別能が発現したものと考えられた. また, 本誘導体は蛍光検出によりfmol レベルの高感度検出が可能であった.
著者
斉藤 幹彦 堀口 大吉 喜納 兼勇
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.30, no.10, pp.635-639, 1981-10-05
被引用文献数
7 20

プロパンスルトンなどによってN-スルホアルキル化して8種類の水溶性ニトロソフェノール誘導体を合成し,吸光光度分析試薬としての有用性を検討した.これらの試薬は酸性溶液で安定であり,弱酸性ないしアルカリ性で鉄(II)と反応して濃緑色の水溶性錯体を生成する.最も高感度な2-ニトロソ-5-(N-プロピルーIV-スルホプロピルアミノ)フェノールの鉄錯休は1:4(金属イオン:試薬)の錯体組成を示し,吸収極大波長756nmでのモル吸光係数は4.5×10^4 dm^3 mol^<-1>cm^<-1>である.鉄濃度2×10^<-7>Mから1×10^<-4>Mの範囲でベールの法則が成立し,鉄1×10^<-5>Mにおける変動係数(n=5)は1.2%である.等モル量の銅,コバルト,ニッケル,亜鉛,カドミウム,アルミニウム,カルシウムは妨害しない.
著者
野澤 慎太郎 笠間 裕貴 鈴木 忠直 安井 明美
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.179-183, 2007-03-05
被引用文献数
6

改良デュマ法によるしょうゆの全窒素分定量法を検討した.11種類のしょうゆを試料として,その0.5gを石英ボートに量り取り,高純度酸素を助燃ガスとして870℃で燃焼して生成したNO_xの酸素を銅還元管で除去し,熱伝導度検出器で検出してそのピーク面積を求めた.まず,全窒素分を2.000%に調製したリジン水溶液を分析した結果,2.002%であり,理論値とほぼ一致した値が得られた.また,改良デュマ法と酸分解条件を最適化したケルダール法との室内再現性を一元配置分散分析で検証した結果,各法で1試料に有意差が認められたが,これらの日間及び日内変動はHorwitz式から求めた併行相対標準偏差より低く,実質的な日間差はないと判断した.更に,Welchのt検定により両法の測定結果の差の有意差を確認した結果,11試料中6試料について有意差が認められたが,それらの平均値の差がHorwitz式から求めたケルダール法での併行許容差内であり,実質的な有意差はないと判断した.改良デュマ法はケルダール法より併行精度が高く,両分析法の相関性もR^2=0.9999であった.以上の結果から,改良デュマ法はしょうゆの全窒素測定に適用可能であることを確認した.
著者
古崎 睦
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.829-834, 1999-09-05
被引用文献数
5 3

ホタテ貝の中腸せん(腺)(ウロ)を焼却処理すると, 含有重金属の中で比較的低沸点のカドミウムは一部気化すると考えられる. そこで, ウロを焼却したときの(1)焼却残留物, (2)焼却管壁析出物, (3)焼却飛灰, 及び(4)排ガス吸収液中の鉄, 銅, 亜鉛, カドミウムの量を調べ, 焼却過程におけるこれらの物質収支を検討した. 湿ウロは1kg当たり平均約20mgのカドミウムを含んでいるが, これを空気中900℃ で加熱するとその約57%が気化した. 気化したカドミウムの多くは焼却管壁に析出するが, 飛灰からも16%程度回収された. 一方, 窒素中で加熱した場合の残存率は10%程度で, 管壁から約88%, 飛灰から6.0%, 吸収液から1.8%のカドミウムが検出された. カドミウム金属を同条件で加熱した場合には, 空気中では酸化のみが進行し, 窒素中ではほぼ100%が気化した. また, 焼却残留物質量/ウロ質量で表される灰化率が大きいほど, すなわち焼却の進行が不十分であるほどカドミウム気化率が大きくなる傾向が認められた. これらの結果より, ウロを焼却した際のカドミウムの気化は, 有機成分の燃焼時に局所的な酸素不足雰囲気が形成されることによって進行すると考えられる.
著者
板橋 豊 河野 真子 青山 倫也 中島 寿昭
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.375-380, 2000-06-05
被引用文献数
3 2

必須脂肪酸の一つであるγ-リノレン酸のトリアシルグリセロール(TG)分子中での結合位置を決定する簡便な方法を検討した。糸状菌Mucor circinelloides及びその変異株の脂質からγ-リノレン酸高含有TGを分離し,これをグリニャール分解してsn-1,2-及びsn-2,3-ジアシルグリセロール(DG)のエナンチオマー混合物を得た。この混合物を3,5-ジニトロフェニルウレタン誘導体に変換した後,(R)-1-(1-ナフチル)エチルアミンを不斉部位とするキラル固定相を装備したHPLCを用いて光学分割し,純粋なsn-1,2-DG(I)及びsn-2,3-DG(II)画分を得た。IとII及びTGの脂肪酸組成からTG分子中のsn-1,sn-2及びsn-3位におけるγ-リノレン酸の分布を算出した。また,IとIIを逆相HPLCで分析して,それぞれの分子種組成を明らかにした。得られた結果から計算により求めたTGの脂肪酸組成はオリジナルTGのそれと近似したことから,本法の正確さを良好であると判断された。Mucor circinelloidesの産生するγ-リノレン酸はTG分子中のsn-3位に最も多く存在し,次いでsn-1位,そしてsn-2位であり,大きく偏って存在することが明らかとなった。