著者
山口 真奈子 石黒 竜也 榎本 隆之
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.412-416, 2018-04-20

がん検診のポイント❖わが国の子宮頸がん検診受診率は低く,平均で50%未満である.❖細胞診単独検診では感度の低さに留意する必要があり,特に腺癌は扁平上皮癌よりも細胞診で偽陰性となりやすい.❖世界ではHPV検査単独または細胞診との併用検査でのスクリーニングに移行しつつある.
著者
大日向 雅美
出版者
医学書院
雑誌
助産婦雑誌 (ISSN:00471836)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.749-753, 2001-09-25

はじめに 「子どもが小さいうち,とりわけ3歳までは母親が育児に専念すべきだ」という考え方は,子育ての真髄をあらわしているとして人々の間で長く信奉されてきた。その子育て観が近年,大きく揺らいでいる。1998年版『厚生白書』によって合理的根拠のない神話と断定されて話題となったのは記憶に新しい。しかし,依然として「3歳までは母親の手で育てるのが最適」という子育て観が根強く残っていて,出産や育児に専念するために仕事を辞める女性が少なくない。また,いじめや非行の凶悪化等,最近の子どもの成長の過程をみると正常とはいえない歪みを示す現象が目立つことから,乳幼児期の母子関係の重要性を再評価すべきだという論調も一部で強まっている。この立場に立つ主張は,幼少期に母親が育児に専念する重要性は古来普遍の真理であり,何よりも尊重すべきであって,それを神話とみなすような態度が昨今の子育てを歪めている元凶だという。 しかし,このように乳幼児期の育児を専ら母親一人で担うように主張する考え方は,歴史的にみれば大正期の資本主義の勃興期にルーツがあるのである。都市型の労働力を確保するための社会的・経済的要請に基づく性別役割分業体制を支えるイデオロギーであったにすぎない。そもそも子育ては現在の社会のあり方を反映するものであり,同時に未来の社会のあり方に対する要望に敏感に反応するものである。今,なぜ三歳児神話が問い直されるのか,時代が要請しているものは何かを明確にした議論が必要であろう。
著者
吉永 真理 佐々木 雄司
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.8-18, 2000-01-15

はじめに 憑依状態は狂気の歴史の中で最も古くから知られているものであり,多くの精神障害に憑依の状態像がみられることは注目すべきことである。症状発現の背景となる宗教・文化的要因への社会精神医学的な関心,特徴的な意識変容の状態像への精神病理学的な関心,あるいは分類や定義に対する診断学的な関心など,様々な視点からアプローチが行われてきた。 シリーズ「日本各地の憑依現象」は本誌「精神医学」40巻2号から41巻4号まで連載され,10編の論文が所収された。表にシリーズに掲載された全論文に関して,対象地域,憑きもの信仰の内容,著者の論点を整理した。地域は沖縄,四国,山陰,近畿,中部,北関東,北海道,および韓国と台湾である。いずれの論文においても,地域・事例固有の問題を浮き上がらせた上で,現代的な文脈における憑依現象に関して,問題提起を行っているものである。憑依の発生は世襲的に継承されて生じるか,あるいは当人の資質や状況に応じて偶発的に生じるかに分かれる。前者には当該家族や世帯,すなわち「筋」や「系」をめぐる差別や偏見の問題が起こる。後者では当人の特異的な心身状態が「病」や「障害」として精神医学をはじめとする現代科学的医療と接点を持つこととなる。そしていずれの場合にも,憑依の背景となる信仰や世界観を共有する人々が存在し,新たな「憑依」を生み出す土壌となっている。こうした問題を本論では以下の3点に整理し,それぞれ考察していく。
著者
渡辺 登 坂井 禎一郎 多田 幸司
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.26, no.10, pp.1120-1122, 1984-10-15

I.はじめに エフェドリン(ephedrine)は気管支喘息治療薬として繁用されるphenylethylamine誘導体であり,覚醒剤(phenylaminopropaneやphenylmethylaminopropane)と化学構造や薬理作用が極めて類似している。そのため,本邦では大量のエフェドリン服用によって覚醒剤中毒と近似した精神障害を呈した症例が現在までに23例報告1〜4,6,9,10,12,13)されている。 立津11)は慢性覚醒剤中毒の精神病状態として最もよく発現するのが,1)躁うつ病様状態であり,次いで,2)分裂病様状態,3)両者の混合状態,4)無欲・疲労・脱力状と述べている。ところが,報告されたエフェドリン精神病に生じた病像のほとんどは幻覚や妄想を主体とする分裂病様状態であり,躁うつ病様状態はなかった。今回,われわれはエフェドリンを主成分とする市販喘息薬である新エスエスブロン液を乱用し躁うつ状態を呈した1症例を経験したので報告したい。
著者
川崎 洋
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.514, 2015-06-01

腸管内には多様な微生物が大量に生息しており,宿主に対して重要な役割を担っている.宿主と微生物相との関係が崩れると,炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームなどの慢性炎症性疾患の発症につながる可能性が近年指摘されている.腸管表面は多層構造の粘液で覆われ,腸管上皮と腸内細菌を安全な距離に保っている.本研究では,食品添加物として汎用される乳化剤が粘液と細菌との相互作用に影響し,炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームの発症に関わる可能性を示した. 一般に使用されているカルボキシメチルセルロースとポリソルベート80という2種類の乳化剤をマウスに摂取させたところ,腸内細菌は腸管粘液層内に侵入し,腸管上皮近くに存在するようになった.さらに乳化剤の摂取は,細菌叢の構成を変化させ,腸内での炎症誘発や腸管上皮バリア異常を促進する方向に作用することがわかった.これらの乳化剤の作用は,低用量の使用であっても野生型マウスに軽度の腸内炎症やメタボリックシンドロームを引き起こし,Il10-/-やTlr5-/-などの腸内に慢性炎症を生じやすい素因を持ったマウスにおいては重度の大腸炎の発症につながることがわかった.一方,無菌環境下で飼育したマウスに乳化剤を投与しても,大腸炎やメタボリックシンドロームは生じず,粘液層の障害もみられなかった.乳化剤投与マウスの糞便を,乳化剤を投与していない無菌マウスへ移入する実験を行ったところ,腸管粘液層の障害を認め,腸内炎症やメタボリックシンドロームの発症を導いた.以上より,乳化剤が関与する大腸炎やメタボリックシンドロームの発症に腸内細菌が関与している可能性が示唆された.
著者
水野 昇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.798-819, 1993-10-10

はじめに 哺乳動物の三叉神経運動核(Vm核)には咀嚼筋を支配する運動ニューロン(MN)のほか,鼓膜張筋や口蓋帆張筋を支配するMNが含まれる。咀嚼筋MNのうち,閉口筋MNはVm核の背外側亜核を形成し,開口筋MNはVm核の腹内側亜核を形成するが106,107),鼓膜張筋MNはその他のVm核MNとはやや離れて(腹方ないし腹外方)独立の小群を形成しており109,170,179)蝸牛神経核からの投射線維を受ける56)。また,口蓋帆張筋MNはVm核背内側亜核の内側縁の付近に分布するが,少数である113,190)。以上のようであるから,Vm核の主部は主として咀嚼筋MNによって形成されるといえる。 大脳皮質や扁桃体を刺激すると顎運動が起こること,また,大脳基底核が損傷されると顎運動の異常が起こることがあること,は古くから知られている。以下では,大脳皮質(主として運動野と運動前野),大脳基底核(淡蒼球外節,淡蒼球内節または脚内核,および黒質)および扁桃体(主として中心核)からVm核,とくに咀嚼筋MNへの直接的な投射系について概説する(図1)。
著者
大沼 健一郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1001-1005, 2020-09-15

はじめに 論文を執筆するうえで,文献は研究背景や研究の必要性の考案,研究方法の立案,さらには,自身の新知見の主張などにおいて重要である.研究を実施するにあたって,研究前・研究中・論文作成時とさまざまな段階で文献を検索・収集し,管理する必要がある.しかし,膨大な文献を管理することとなり,容易ではない.特に,論文執筆時の参考文献リストの作成は,投稿誌を変更すれば修正が必要になるなど,大変煩雑な作業である. 本稿では,文献管理にかかわる煩雑な作業を効率化することができる5種類の代表的な文献管理ソフトについて概説する.
著者
越前屋 勝 三島 和夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1252-1256, 2007-07-10

ポイント ●睡眠覚醒リズム障害は生体時計の調節障害に基づく病態と考えられる. ●受診頻度が比較的高いのは睡眠相後退症候群と非24時間睡眠覚醒症候群である. ●頭痛・倦怠感・疲労感・食欲不振といった身体症状や抑うつ症状を伴うことが多い. ●睡眠覚醒のパターンを把握するためには睡眠日誌の記載が必要である. ●不登校や出社拒否といった社会心理的要因との鑑別が困難な場合も少なくない.
著者
松本 博之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1013-1017, 1993-11-01

I.はじめに 肢端紅痛症(erythromelalgia, erythermalgia)は,四肢末端の灼熱痛,紅潮,皮膚温の上昇を三主徴とする稀な症候群で,1872年にMitchell32)が初めて本症を記載した。皮膚科領域では皮膚紅痛症の用語も使用されている。現在,欧米で多用されているeryth—romelalgiaの語源はギリシャ語のerythros(赤い),me1os(四肢),algos(疼痛)であるが,Smith & Allen46)はこれでは主要症状である皮膚温上昇が表現されないので,erythrotes(赤い),therme(熱),algos(疼痛)を意味するerythermalgiaが適切であることを指摘し,本症を特発性と続発性とに分類することを提唱した。 Kurzrock & Cohen27)は成人期発症と小児期発症との分類を試みたが,これに対しては適切でないとの反論がある16)。症例の中には家族性11)のものや,常染色体優性遺伝19)を示すものも報告されている。
著者
比江嶋 一昌
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.64-67, 1976-01-10

reciprocal beat(回帰収縮)とは,心臓内のある場所(洞結節,心房,房室接合部または心室)に発生したインパルスが,短時間の間に房室伝導系,とくに房室結節のなかを往復して,もとの場所へ戻り,再びその場所の興奮をひき起こすという変わったタイプの不整脈で,reentryの一型とみなされる. reciprocal beatが心電図的に初めて記載されたのは,1915年,White1)によってであり,以後この種の報告例が文献上散見されてきた.その間,reciprocal beatはreturn extrasystole,return beator systole,reexcitation beatなどと呼ばれ,現在ではecho(beat)ともいわれている.このreciprocal beatが2個続く場合には,reciprocal rhythm,reciprocating rhythm,echoesなどと呼ばれる.また,最近では,発作性"上室性"頻拍例の多くは,reciprocal beatが早い頻度で連続したものに相当することがわかっており,reciprocating tachycardiaと呼ばれる.
著者
香川 雅信
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1241-1244, 1998-11-15

■犬神の歴史と伝承 犬神は,中国・四国・九州地方にかけて広く信じられている憑きもので,特に四国の徳島県・高知県および九州の大分県において顕著である。一種の動物霊のようなものと考えられていることが多く,小さな犬のような姿をしているとも,鼠のようなものであるとも言われている。犬神はある特定の家筋に代々伝えられるとされ,その家筋のことを「犬神筋」「犬神統」などと呼ぶ。犬神筋(統)の家の者に恨まれたり,妬まれたりすると,犬神に取り憑かれて病気になると考えられている。そのため犬神筋(統)の者との縁組は現在でも忌み嫌われており,重大な社会問題となっている。これとよく似た「憑きもの筋」の俗信は日本の各地に存在するが,山陰地方の「人狐」や関東地方の「オサキ」など,狐系統の憑きものがその家筋に富をもたらすと考えられているのに対して,犬神の場合はそうした性格が希薄である。 歴史的に犬神についての俗信がいつ頃から存在したかは正確にはわからないが,文明4年(1472)に将軍祐筆飯尾常房(常連)から阿波国の三好式部少輔長之にあてて「犬神使い」を捜し出して処罰するよう求めた下知状が出されていることから,室町末期にはすでに存在していたようである。一方,民間には,飢えた犬の首を切ってそれを呪術に用いたのが犬神の始まりとする起源伝承が伝えられている。おそらく,共同体内における何らかの葛藤や対立を背景として,ある家筋を印づけ,あるいは排除するために,邪術師(sorcerer)的なイメージが利用された結果,犬神筋というものが形成されたのであろう。
著者
速水 貴弘
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.38, no.7, pp.557-561, 2010-07-01

はじめに 従来,血糖測定は検査室内の生化学汎用測定器にて行われていたが,迅速性や簡便性の観点から自己血糖測定(self-monitoring of blood glucose,SMBG)機器が普及してきた.しかし,その一方で測定原理の違いからヘマトクリットや溶存酸素などの内的要因,マルトースやプラリドキシムヨウ化メチル(PAM)などの外的要因などさまざまな要因が測定値に影響を与えることが報告されている1~4). 今回筆者らは,アスコルビン酸大量投与後に低血糖症状を示しているのにもかかわらず,簡易血糖測定器にて偽高値を示した症例を経験した.干渉物質としてアスコルビン酸を用いた検討の報告5)もあるが,アスコルビン酸濃度は10mg/dlで,それ以上の濃度での影響は不明であった. そこで,高濃度アスコルビン酸が簡易血糖測定器およびポイント・オブ・ケア・テスティング(point of care testing,POCT)機器に与える影響について検討を行ったので報告する.
著者
永浜 武彦 武井 洋一 鮫島 千秋
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.577-582, 1960-07-20

I.緒言 最近感音性難聴に対するコンドロイチン硫酸の効果が注目され,その治療成績も発表され始めた。著者らの教室でもこの薬剤を使用しているが,現在までの治療成績を検討し,中間成績として発表することにした。
著者
菅井 有 上杉 憲幸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1275-1285, 2021-09-25

要旨●腺窩上皮型腫瘍は腺窩上皮に類似する低グレードの腫瘍として本邦では以前から認知されてきた組織型である.しかし,本腫瘍の臨床病理像および分子異常についてはこれまで明らかにされてこなかった.腺窩上皮型腫瘍は異型性の観点から低グレードと高グレードに分類することができるが,本稿では低グレード腺窩上皮型腫瘍のみを扱った.本腫瘍の臨床病理像としては,腺窩上皮への類似性が特徴であることは論をまたないが,粘液形質の観点からもMUC5ACの発現が全例にみられた.一方で,腸細胞の転写因子であるCDX2が高頻度に発現していた.背景粘膜においても腸上皮化生を有する萎縮性胃炎が全例にみられた.分子異常としてはWnt系シグナル異常の指標であるβ cateninの核内蓄積が陰性で,p53過剰発現もほとんどの症例で陰性であった.またMSIもほとんどみられなかった.一方AI(allelic imbalance)は通常型低グレード腫瘍と比較しても高頻度であったが,メチル化異常は低〜中等度であった.本腫瘍は分化型腫瘍に分類されるが,通常型腫瘍とは異なる組織学的特徴を有していることのみならず,分子異常の観点からも独立性を指摘できる特異な腫瘍であると思われる.
著者
柴垣 広太郎 三代 剛 福山 知香 高橋 佑典 古谷 聡史 大嶋 直樹 川島 耕作 石村 典久 長瀬 真実子 荒木 亜寿香 門田 球一 石原 俊治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1287-1298, 2021-09-25

要旨●H. pylori未感染者に発生するラズベリー様腺窩上皮型胃腫瘍とH. pylori既感染者に発生する腺窩上皮型胃癌の臨床病理学的特徴を検討した.前者は萎縮のない胃底腺領域に発生する発赤小隆起で,いわゆるラズベリー様外観を呈し,NBI拡大観察で不整な乳頭状/脳回様構造を呈した.後者は萎縮粘膜に発生する粗大な発赤隆起で,前者より大きく形態も歪であった.NBI拡大観察で乳頭状/脳回様構造を呈したが,形態不整は高度であった.病理組織学的には,前者はよく分化した上皮内病変で,WHO分類では多くがlow-grade dysplasia相当であったが,Ki-67 labeling indexは異型度によらず高値を示した.後者は構造異型・細胞異型が高度で,脱分化や脈管侵襲も認められ,胃型胃癌としての高い悪性度を示した.
著者
中沢 啓 吉永 繁高 関根 茂樹 岡村 卓真 奥田 奈央子 小山 洋平 福士 剛蔵 山崎 嵩之 春日 健吾 川島 一公 水口 康彦 張 萌琳 江郷 茉衣 阿部 清一郎 野中 哲 鈴木 晴久 小田 一郎 斎藤 豊
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1036-1042, 2020-07-25

要旨●当院で胃型腺腫(幽門腺腺腫)と診断された25例25病変を検討した.H. pylori未感染胃に発生した症例(癌化例含む)は2例(8.0%)のみであり,23例(92.0%)はH. pylori現感染胃,もしくは既感染胃に発生した症例であった.全症例U領域もしくはM領域に位置しており,L領域の症例は認めなかった.色調は白色調,褪色調,発赤調,同色調までさまざまであり,特徴的な所見は認めなかった.肉眼型は隆起型,もしくは表面隆起型に鑑別できるものが大部分であった.全25例中12例(48.0%)に癌合併を認めており,胃型腺腫に対して内視鏡治療を行うことを検討すべきと考えられた.
著者
宇佐美 貴士 松本 俊彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1139-1148, 2020-08-15

抄録 わが国における10代の薬物乱用の実態を調査するために,全国の有床精神科医療施設を対象に実施した病院調査から得られた10代の薬物関連精神障害症例71例を比較検討した。危険ドラッグは2014年調査の48%から2018年調査で0%へと低下し,市販薬は2014年調査の0%から2018年調査で41.2%へと増加し,乱用薬物が危険ドラッグから市販薬へと推移していた。2014年の危険ドラッグ乱用群と2018年の市販薬乱用群を比較すると,学歴やICD-10 F1分類の下位診断カテゴリー,併存障害が異なり,臨床現場において,新たな薬物乱用層が出現していることが示唆された。得られた知見から今後のわが国の薬物乱用防止教育と精神科医療に求められることについて考察を行った。
著者
林 明人 大越 教夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.847-851, 2004-09-10

はじめに パーキンソン病の治療は薬物療法が中心であるが,現在使用されている抗パーキンソン病薬では病気の進行を抑えることはできない.罹病期間が長期になると,運動障害,特に歩行障害が強くなる場合が多く,リハビリテーションの果たす役割が重要と考えられる. 近年,パーキンソン病の歩行障害に対して音リズムを取り入れた音楽療法などのリハビリテーションに関わる研究がなされ,その有用性が注目されている1,2).また,音リズム刺激による機序として,パーキンソン病で障害される内的なリズム形成に対して,外的なリズムである音リズムにより刺激することで歩行リズムの形成が安定化する可能性が推察されている3,4).また,メトロノームのような,より明確な音リズム刺激のほうが,行進曲などの音楽よりも効果があることも報告されている2).しかし,これまでの報告は音リズムに歩行訓練を合わせた課題だけの結果のみであり,音リズム刺激のみの効果について調べた報告はない.したがって,パーキンソン病に対する音リズム刺激のみの効果を検討することはその機序を考察するうえでも試みられるべきと考えられる. 本研究では,歩行障害を有するパーキンソン病患者に対して,歩行訓練を行わないで,音リズム刺激のみによる効果の有無を調べ,その有用性を検討することを目的とした.また,パーキンソン病患者はしばしば抑うつなどの精神症状を伴うことがあり,歩行障害だけではなく,抑うつに対する効果についても検討を加えた.
著者
藤崎 順子 山口 和久 山本 智理子 堀内 裕介 大隅 寛木 吉水 祥一 片岡 星太 平澤 俊明 由雄 敏之 石山 晃世志 山本 頼正 土田 知宏 五十嵐 正広
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.778-787, 2016-05-25

要旨●2013年4月〜2014年3月までの間に,当院でESDを施行した症例中,除菌後発見胃癌症例166例の検討を行った.臨床的には陥凹型,分化型が多く,除菌後5年未満,5年以上に分けると,5年以上で発見された病変サイズは小さい傾向にあった.さらに,レトロスぺクティブに画像の解析が可能であった分化型優位の140例について検討を行った.術前にNBI拡大内視鏡検査にて範囲診断を施行し,ESDを行った結果,病理学的に水平断端陽性,もしくはマーキング上に病変範囲が乗っていた範囲誤診例だった症例は,5年未満で79例中1例(1.3%),5年以上で61例中3例(4.9%)と5年以上の症例で多かった.画像の検討が可能であった140例は,除菌後5年未満が79例,5以上〜10年未満が38例,10年以上が23例であった.NBI拡大内視鏡検査での胃炎様所見は,5年未満で34例(43.0%)にみられ,5年以上で25例(41.0%)であった.さらに,5年以上を5〜10年と10年以上に分けた場合,5〜10年で13例(34.2%),10年以上経過例では12例(52.2%)であり,10年以上で高い傾向を示した.病理組織学的に表層の非癌上皮が確認できた症例は,5年未満で27例(34.2%),5〜10年で8例(21.1%),10年以上で8例(34.8%)であった.今回の検討では除菌後長期例での胃炎様変化の出現率が高かった.
著者
鎌田 智有 春間 賢 井上 和彦 石井 学 村尾 高久 山中 義之 藤田 穣 松本 啓志 眞部 紀明 楠 裕明 畠 二郎 塩谷 昭子 高尾 俊弘
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.750-758, 2016-05-25

要旨●H. pylori感染胃炎に対する除菌治療が2013年2月に保険認可された.現在,除菌による胃癌の予防が期待されているが,その一方で除菌後に胃癌が発見される症例も臨床上少なくない.除菌後10年未満と除菌後10年以上で発見された症例での臨床的特徴を比較検討した結果,10年以上で発見された胃癌は腫瘍径20mm大以下の比較的小さな病変であり,2次癌の比率が有意に高率であった.共通する特徴として,両群共に非噴門部領域に発生する0-IIc型病変を中心とした分化型早期癌であり,胃体部には高度な萎縮性変化を伴っていた.このような症例では,除菌から長期が経過しても胃癌発生のリスクが残存することを理解しておくことが重要である.