著者
関谷 昇 セキヤ ノボル SEKIYA Noboru
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.22, pp.17-31, 2011-03

政治社会の構成原理として「補完性原理」が注目されているが、その理解と援用のあり方は必ずしも明確ではなく、解釈如何によっては既存の政治権力の自己正統化に利用されうる。そこで、その思想史的源流とされるアルトジウスの政治思想に立ち返って検討することにより、補完性原理は自己完結的には構成原理たりえず、諸々の生活共同体の自立が前提とされなければならないことを明らかにする。宿敵ボダンは、主権者の絶対的な命令から演繹的に政治秩序を導いたが、アルトジウスは法学を政治学に援用する混同を批判し、法学的な演繹に先立つ、政治学的な事実の解明を試み、それを「共生(symbiosis)」の営みとして理解しようとした。政治とは、国家に先立つ諸々の「生活共同体(consociatio)」の自立が尊重される共生の保持に外ならず、そこから主権の共有も導き出される。この生活共同体の自立があって、はじめて補完性原理に基づく政府間の権限配分の適正さが具体的に模索されるのである。
著者
池田 忍 イケダ シノブ IKEDA Shinobu
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.279, pp.191-204, 2014-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 第279集 『歴史=表象の現在』上村 清雄 編"The Presence of History as Representation", Chiba University Graduate School of Humanities and Social Sciences Research Project Reports No.279近年、アイヌの人々を主体とする文化の発信力は高まり、その需要や研究の状況は大きく変わりつつある。とりわけ、かねてより知られる木彫、刺繍、アットゥシ織といった工芸分野を中心に展覧会の機会が増えた。背景には、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(本稿では通称の「アイヌ文化振興法」を用いる)の成立(一九九七)以後、衆参両議院における「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択され(二〇〇七)、内閣官房長官の要請により設置された「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が報告書を提出(〇九)、白老ポロト湖畔に「民族共生の象徴となる空間」となる国立博物館の二〇二〇年度開設が決定する(一三・七)といった国の政策の進展がある。「アイヌ文化振興法」の成立以降は、公益財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構(通称の「アイヌ文化財団」を用いる)が予算措置の面でも重要な役割を果たし、各地の博物館や美術館と共に主催する展覧会において、国内外のアイヌ工芸や民具のコレクションが継続的に紹介されるようになった。また博物館や美術館に限らず、現代の作品に触れる場、機会も開かれている。しかしながら、アイヌの人々が手がける造形は必ずしも「工芸」分野に限らず、またたとえ「伝統」的とみなされる木彫や刺繍などの手法を用いても、それぞれの作家がめざす表現世界は広がりをみせている。版画、イラスト、アニメーション、映像作品などを手がける表現者が現れている。そのような状況下で、「アイヌ・アート」という呼び名がさまざまな文脈で用いられ始めた。それは、…
著者
南雲 大悟 ナグモ ダイゴ NAGUMO Daigo
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.250, pp.58-75, 2012-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書第250集「近現代東アジアにおける相互認識と表象-「脱亜」と「アジア主義」-」山田 賢編"Mutual Understanding in Modern East Asia:The Idea of 'Escape Asia' and 'Pan-Asianism'" Report on the Research Project No.250
著者
光延 忠彦 ミツノブ タダヒコ MITSUNOBU Tadahiko
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.28, pp.58-72, 2014-03

1955年の自民党の成立以降65年の「刷新都議会選挙」までの間、東京都議会(都議会)内では自民党の多数が継続されたが、当該選挙を分岐に多数党は存在しない政党配置にそれは変容した。その後、東京都の自民党は、都内一部の選挙区での補選で勝利して一時的に多数を占めたことはあったものの、ほぼ少数の勢力で推移した。 65年の都議会選挙において東京都の自民党が少数化した直接的要因は、都議会議長の交替に伴う贈収賄事件とされてきた。しかし、一方で、65年の都議会選挙で東京都の公明党や東京都の民社党も議席を獲得したことから、都議会は、「多党化の時代」を迎えることにもなった。こうしたことから、65年の「刷新都議会選挙」は、戦後都議会内の政党配置に決定的な変化をもたらす契機となったのである。 そこで、東京都の自民党は、いかなる要因から長期に低迷して少数にならざるを得なかったのか。本稿は、この点に、「政党組織の候補者選定」という視角から一定の解答を提出する。政党による「候補者調整と政党間の棲み分け」が、東京都の自民党組織の消長に影響したという結論を、「刷新都議会選挙」の前と後との、東京都の自民党勢力の比較を通じて提出する。 ところで、こうした研究は、一中核自治体の議会選挙の分析ではあるが、しかし、それとともに、大都市部における自民党組織の集票活動は如何なる状況なのか、この点についても示唆が得られる意義を有する。
著者
鈴木 奈生
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.32, pp.29-35, 2016-03

本稿は、棚橋正博氏の著書『黄表紙の研究』(若草書房、一九九七年、四一四頁、ISBN4-948755-11-7)の書評である。黄表紙とは、近世期の絵入り小説である草双紙の一時期の形態を指す。一般に、安永四年から文化三年にかけて出板されたとし、時代に応じて内容や作者を変化させつつ多くの作品を提供した。本書は、その黄表紙に関する八つの論考を所収する。棚橋氏は、『黄表紙総覧』の著者でもあり、本書ではその成果を踏まえた上で、新たに黄表紙に関わる諸問題について論じている。本稿では、まず黄表紙の特色について触れ、構成・内容を要約した上で、成果と問題点について指摘する。
著者
黄 成湘 HUANG Chengxiang
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.19, pp.249-264, 2009-09

「名詞+格助詞+用言」の用言を名詞化して、ガ、ヲ、ニなどの格助詞を「の」に転じ、全体で名詞句を作ることを《「の」の代用による連用から連体への転換》という。本稿は日本語の深層格を再度まとめなおした上で、その深層格の角度から、どんな連用格が「の」の代用によって、連体関係に転換できるかを考察した。その結果、二種のガ格、四種のヲ格、二種のニ格、二種のデ格が「の」の代用で連体関係に転換できることがわかった。
著者
池田 さつき
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.24, pp.95-107, 2012-03

名前が(Frege 流の)意義をもつと見なすことは、しばしばそれが内包や記述的意味の類をもつと見なすことであると考えられてきた。John McDowell は、この考えに強く反対し、我々に必要なのは意義の理論として利用可能な指示の理論のみであるとする指示-依存的な意義解釈を提示する。けれども、本稿の筆者の見る限り、彼の意義解釈は、任意の名前の正しい指示はいかにして決定されるのかという問題を棚上げし、そうした正しい指示の存在をいわば前提として意義の、つまりは理解の理論を与えることを含意する。本稿は、そのような前提に依存することなく意義を指示-依存的に解釈することは可能でありまたより望ましいことを論じたうえで、McDowell の定式化した意義解釈の基本的な枠組みを継承しつつそれを独自に展開したGareth Evans の意義解釈がまさしくそうした要請にこたえていることを示し、指示-依存的な意義解釈の一つの展開の道筋を跡づける。
著者
池田 さつき
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.24, pp.95-107, 2012-03

名前が(Frege 流の)意義をもつと見なすことは、しばしばそれが内包や記述的意味の類をもつと見なすことであると考えられてきた。John McDowell は、この考えに強く反対し、我々に必要なのは意義の理論として利用可能な指示の理論のみであるとする指示-依存的な意義解釈を提示する。けれども、本稿の筆者の見る限り、彼の意義解釈は、任意の名前の正しい指示はいかにして決定されるのかという問題を棚上げし、そうした正しい指示の存在をいわば前提として意義の、つまりは理解の理論を与えることを含意する。本稿は、そのような前提に依存することなく意義を指示-依存的に解釈することは可能でありまたより望ましいことを論じたうえで、McDowell の定式化した意義解釈の基本的な枠組みを継承しつつそれを独自に展開したGareth Evans の意義解釈がまさしくそうした要請にこたえていることを示し、指示-依存的な意義解釈の一つの展開の道筋を跡づける。
著者
三宅 晶子 ミヤケ アキコ Miyake Akiko
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.268, pp.1-12, 2014-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書第268集『文化における想起・忘却・記憶』三宅晶子 編"Remembering , Forgetting , and Memory in Culture" Report on Research Projects No.268
著者
太田 貴之 オオタ タカユキ 小池 翔太 コイケ ショウタ KOIKE Shota
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.249, pp.37-44, 2012-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書第249集「社会とつながる教員養成に関する実践的研究」藤川大祐編"Practical Research on the Teacher Training Connected with Society" Report on Research Project No.249近年、コンピュータの処理能力の発達によって、情報工学は発展した。情報工学の一つに位置づけられる最適化問題は、巡回セールスマン問題やスポーツスケジューリング問題など、社会の諸問題を解決することに役立っている。中学生や高校生にとって、最適化問題が社会の諸問題に応用されていることを学習することは意義があると考えられる。そこで本研究では、最適化問題である「最長片道切符」を事例として取り上げ、中学生にタブレット端末(iPad2)を用いて問題などに取り組ませる授業プランを作成した。そして、その授業を中学校の選択数学「社会を読み解く数学」の中で実践し、その有効性と課題を明らかにした。その結果、本授業が生徒に情報工学の発展や最適化問題の社会での応用について興味を持たせたり、理解させたりすることに寄与したことが明らかになった。
著者
栩木 憲一郎
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.23, pp.148-159, 2011-09

本論文は1790年代のドイツにおけるカントとフィヒテという二人の政治思想家の永遠平和にむけた政治理論の展開に焦点をあて、その一定の概説を試みる。前者であるカントは平和論の古典とも言うべき『永遠平和のために』(1795 年)で政治思想史上著名な人物であり、その永遠平和に向けた議論に対する後世の注目はきわめて高い。しかし他方、後者であるフィヒテが1790年代においてカントの問題意識を引き継ぎ、カントと同様に永遠平和に向けた政治思想を独自の形で展開しようとしていたことは、あまりこれまで注目されては来なかった。本論文では1790年代におけるカントの『永遠平和のために』における議論の展開と、このカントの著作に対するフィヒテの書評を取り上げ、当時のドイツにおける政治思想の展開の一端を明らかにしようとするものである。
著者
根岸 千悠 ネギシ チハル NEGISHI Chiharu
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.249, pp.7-14, 2012-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書第249集「社会とつながる教員養成に関する実践的研究」藤川大祐編"Practical Research on the Teacher Training Connected with Society" Report on Research Project No.249今日、学校に求められるもの、教員に求められるものは非常に多様化している。教員養成系大学・学部では、学校だけでなく社会と積極的につながり、幅広い見識や視点を持った教員を養成することがより一層求められる。このような状況の中、本報告書の執筆者である教育学部学生らは、大学を基盤としつつも、学校を飛び越え、社会とつながる様々な取り組みをおこなっている。そこで本稿では、「社会とつながる教員養成」の各事例を「1.大学による授業科目の受講」、「2.学生による研究としての授業づくり」、「3.越境型の研究会への参加」の3つに分類した。そして「社会とつながる教員養成」の持つ可能性と課題を整理し、今後のあり方を検討した。
著者
今田 高俊 イマダ タカトシ Imada Takatoshi
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
公共研究 (ISSN:18814859)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.57-85, 2006-03
被引用文献数
1

千葉大学公共研究センター21世紀COEプログラム「持続可能な福祉社会に向けた公共研究拠点」
著者
持丸 眞弓 モチマル マユミ MOCHIMARU Mayumi
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.279, pp.134-144, 2014-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 第279集 『歴史=表象の現在』上村 清雄 編"The Presence of History as Representation", Chiba University Graduate School of Humanities and Social Sciences Research Project Reports No.279本論は、文政期(一八一八~二九)末から天保期(一八三〇~四三)前半に大阪で活動していた浮世絵師春梅斎北英(生年負傷-天保七年[一八三六]没)大判錦絵八枚揃の役者見立絵「里見八犬子内一個」を取り上げる。「里見八犬子内一個」はこれまでほとんど注目されることがなかった作品ではあるが、曲亭馬琴著『南総里見八犬伝』(以下『八犬伝』という)の八犬士すべてをはじめて大判錦絵に描いた、また八犬士をはじめて役者に見立てて描いた揃物である。さらに『八犬伝』の演劇化は天保五年(一八三四)十月以降であり、「里見八犬子内一個」は歌舞伎芝居の初演に先立って読本が役者見立絵として描かれたという点で、ほかに例のない作品といえる。…
著者
祎丽琦 イリチ YILIQI
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.273, pp.2-41, 2014-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 第273集 『言語接触と言語変化-ユーラシアにおける言語の混交』田口 善久 編"Language Contact Language Change in Eurasia", Chiba University Graduate School of Humanities and Social Sciences Research Project Reports No.273以下に紹介する会話テキストは、筆者が 2009年 8月に中国内モンゴル自治区シリンホト市において調査したチャハル方言日常会話テキストである。コンサルタントは内モンゴルシリンホト市に在住するB氏とG氏である。B氏とG氏は、 現在に至るまで4回の調査において、コンサルタントをお願いしている。そして、コンサルタントの自然会話を収録する際に、ほかにも数名のコンサルタントの協力をいただいた。ここで皆様に心から御礼申し上げたい。
著者
綿内 真由美 ワタウチ マユミ Mayumi Watauchi
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.255, pp.99-114, 2013-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書第255集『子どものための哲学教育研究』山田圭一 編"Studies of Philosophical Education for Children" Report on the Research Projects No.255
著者
高橋 典嗣 富川 奈津子 山崎 良雄 富川 奈津子 冨川 奈津子 フカワ ナツコ FUKAWA Natsuko 山崎 良雄 ヤマザキ ヨシオ YAMAZAKI Yoshio
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.20, pp.16-48, 2010-03

2009年7月22日に皆既日食が日本のトカラ列島、硫黄島、南太平洋で見られ、国内各地では部分日食が観察された。この機会に、最も荘厳な自然現象の一つである皆既日食を多くの児童生徒に観測体験してもらうことをねらいとした科学体験活動「日食観測体験授業」を企画した。授業の実践に向け、学習方法の検討、学習内容の検討を行い、学習環境システムを構築した。授業は、中国(嘉興市第五高級中学)から千葉(千葉大学)、東京(町田市立南第一小学校)、神奈川(南足柄市立福沢小学校)の各観測点をインターネットで結び、各会場に集まった301名の児童生徒を対象に行った。皆既日食当日の中国の天候は雨天で、太陽コロナの観測はできなかった。しかし、皆既中に真っ暗になることや皆既中の様子を体験する科学体験活動は成功し、参加した児童生徒の科学への興味関心を高めることができた。
著者
小川 信雄
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.217, pp.15-27, 2012-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書第217集「日本における『標準化』の史的考察」三宅明正 編"The "Standardization" in Japan" Report on Research Project No.217
著者
江 涛 コウ トウ ジャン タオ JIANG Tao
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.28, pp.218-227, 2014-03

香港は急速な高齢化社会が進んでいるため、成年後見制度の整備が導入されている。香港の成年後見制度は、法定後見と任意後見との2つの制度からなる。この2つの制度は、主に成年の意思無能力者の財産管理に対応するため、成年の意思無能力者の治療及び介護に対応するのは、代行決定と事前指示に委ねる。本研究は、香港成年後見制度の法的枠組について検証し、法律関係規定を引用することにより成年後見制度の基本的構成及び法技術を確認し、その動向を考察するのを目的とする。
著者
壁谷 彰慶 カベヤ アキヨシ Kabeya Akiyoshi
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.13, pp.188-198, 2006-09

Fischer & Ravizza は、著書Responsibility and Controlにおいて、「フランクファート・ケース」と呼ばれる一連の設定を具体的に吟味しながら、行為の責任についての包括的な理論構築を目指している。本書の基本方針は、「別様にすることができた」という様相概念に訴える「統制コントロール」ではなく、現実に行為者が当の出来事に対して適切な因果関係をもちえたかどうかという、「誘導コントロール」に注目するというものである。それは、当の行為を導いた人物の内的構造と、人物から当の出来事に至る外的経路がもつ特徴づけによって説明される。このアプローチの一つの利点は、別様になすことができたがゆえに帰責がなされる場合だけでなく、別様になすことができなかったにもかかわらず帰責がなされる場合をも、一貫した説明図式で対応できる点にある。本稿では、本書の基本主張と帰結責任についての議論を確認し、最後に問題点を指摘する。