著者
井上 道子
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.47-64, 2004-03-31

レオシュ・ヤナーチェク(1854-1928)はチェコの近代音楽を代表する、どのジャンルにも属さない独自の作法を編み出した作曲家である。それゆえ、正統派の間で長い間無視され50歳頃になってようやく世の中に認められるようになり、その後亡くなるまで次々に名作を発表していった。彼の音楽を語るときオペラやモラヴィア民謡なしでは語れない。交響曲や器楽曲にも必ず背景にはドラマがあり、話し言葉や人間の内に秘められた内容そのものに密接な繋がりがある。人間の持つあらゆる感情思考が音符に刻み込まれており、音楽の解釈は決して理論的であってはならない。また、彼はしばしば「瞬間の真実」を最も大事だと考え、ダイナミックスやテンポや発想記号をその場で変えたりもした。ヤナーチェク自身は"氷のような冷たい美とは何だろうか? 私は、どの音もただ指の運動を通して出たものではなく、燃える心を通して響いた音を聴きたい。"(注1)と言っている。ここでは、オペラを語る以前に長年にわたってモラヴィア民謡収集家として活躍してきたモラヴィア民謡に彼の音楽表現の原点があると考え、ピアノ曲「草かげの小径」を通してその関連性を探ってみた。
著者
日野 勝吾
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.95-106, 2016-06-30

本稿は、世間の耳目を集めた大王製紙事件東京地裁判決をもとにしながら、内部告発に関する事実を記した告発状の真実相当性の判断、及び内部告発の目的・手段における妥当性判断について具体的に論及するものである。上記の争点に係る論及にあたって、公益通報者保護制度の意義と限界について触れつつ、消費者と労働者における生活を連環的に捉えて、生活者法の提起もしている。
著者
中村 宙正
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-11, 2016-09-30

公債市場補完制度は、指定アドバイザー制度と市場関係者地域通貨を組み合わせて実用化するが、通貨発行益(シニョレッジ)の導出により、政府の予算制約を緩和する効果を確認できる。ゆえに「市場関係者地域通貨の口座におけるマイナス(赤字)を、政府に認めてはならない」とする、財政学においての新しい原則を定める。
著者
越智 信仁
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.22, pp.43-56, 2016-06

近年、わが国では会計上の見積りを巡る不正会計事例が目立っており、公正価値測定を含む会計上の見積りにおける不確実性は、国際的にも監査における重要論点と識別されるようになってきている。本稿では、国際財務報告基準(IFRS)の下、経営者裁量が比較的大きく不確実性の高い会計領域(レベル3 公正価値等)が拡大していく中で、経営トップが主導する会計不祥事に対する防波堤として、公正価値等見積り情報への監査が実効的に機能していくうえでの方策を考察する。そこでは、不正リスク対応基準の下、とりわけ会計上の見積りに不正の疑義ありと判断した後において、職業的懐疑心発揮の具体的態様である反証的立証活動の重要性を強調するほか、監査実務指針等で明示的に記述することの必要性にも論及する。従来、そうした監査プロセスの深度はブラックボックスであったが、監査人のアカウンタビリティの観点から、監査報告書での見積り情報等に関する「監査上の主要な事項(Key Audit Matters:KAM)」の開示が求められるとともに、KAMは監査品質に係るシグナル(情報)として機能していくことも期待される。
著者
梅澤 昇平
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-15, 2013-03-31

戦前の労働運動、無産政党運動の指導者として西尾末廣の存在は極めて大きい。戦時中に大政翼賛会運動ならびに産業報国会運動に最後まで抵抗したことが、戦後の指導者への道に直結する。
著者
石橋 透
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-21, 2014-03-31

プロオーディオの世界で使用されているワイヤレスマイクの歴史は50年以上にも前にさかのぼる。 今やワイヤレスマイクなくして映画作品、 テレビ番組制作はできないと言っても過言ではない。 また、 ライブ・コンサートをはじめとする各種イベント、 選挙の街頭演説、カラオケ、 教育機関の授業と枚挙にいとまないほどに、 ワイヤレスマイクは我々日常生活に深く入り込んでいる。 また、 携帯電話などの電波需要の増加に対応するため、 2011年6月1日の電波法改正で、 A型ワイヤレスマイクで使用していた周波数帯域が携帯電話専用となった。 そして、 2019年4月1日以降は、 全てのA型ワイヤレスマイクが一切使用できなくなる。 これに伴い、 全国の放送局はじめ劇場・ホール等で使用されている約27,000本(2014年2月推定)にも上るワイヤレスマイクは全てこれに則した製品への更新が発生する。 本学、 情報表現学科においても、 「映像ドラマ演習」 はじめ、 様々な演習系授業で、 映像実践においてのワイヤレスマイクの使用は避けられない。 しかし、 使用する場所によって電波がデッドポイント入り受信感度が極端に落ち、 音声がミュートすることがある。 この問題の解消を含め、 筆者の実践を踏まえ、 考察する。
著者
高橋 幸裕
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.85-102, 2015-12-25

高齢者介護では利用者のQOL(Quality of life:生活の質)が重視されている。しかし、政策的には人生の最後のあり方(死の迎え方)について十分に検討されてこなかった。その背景に、かつて日本では日常生活と死は密接したものであったが、医学の進歩に伴って延命治療が重視された結果、家庭から遠ざかってしまったことにある。1976年には在宅死よりも病院死の割合が上回って以降、日常生活の中で死を経験する機会が失われてしまうことになった。他方、介護職の養成テキストをみると、死が差し迫った利用者と家族への支援方法やその後の対応については僅かな記述しかなく、十分に意識されたものとはなっていない。このような実態を踏まえて、在宅介護現場では看取りに対してどのような課題があるのかを整理した。その結果、在宅介護現場では看取りを希望する利用者・家族に対し、どのような実態と課題があるのかを検討するために聞き取り調査を実施した。ホームヘルパーは利用者が生き続けることを前提とした介護サービスを提供していることから、利用者や家族から看取り支援を依頼された際に看取りに関する経験不足だけでなく医学的知識がないことを理由に戸惑いや不安を感じていることが明らかとなった。
著者
鳴海 史生
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.23-36, 2007-11-30

本論は、モーツァルトのオペラ《フィガロの結婚》の通奏低音チェンバロにもっとも適した調律法を探る試みである。モーツァルトの鍵盤楽曲全般がそうであるように、《フィガロ》の通奏低音チェンバロにもまた、平均律はふさわしくない。なぜなら、モーツァルトが作曲の際に使用する調と転調の可能性をみずから制限し、それとの引き換えに鍵盤楽器の美しい響きを求めていたことは明らかだからである。したがって、われわれは歴史的な不等分律のなかから、このオペラのレチタティーヴォ伴奏に最適な調律法を探り出さなくてはならない。しかし、ラモー、ヴェルクマイスターIII、ヤングII、ヴァロッティといった、よく知られる歴史的調律法を採用することには、いくつかの難点がある。鳴り響きの美しさや演奏効果、および演奏上のさまざまな条件を勘案すると、ピタゴラス・コンマをF-C-G-D-A-E-B-F♯の7つの5度に割り振る「1/7調律法」が、《フィガロ》にもっとも適した方法として推奨できる。
著者
丸山 恵美子
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.57-69, 2004-09-30

G.ヴェルディのオペラ《トロヴァトーレ》と《運命の力》に登場するレオノーラは、名前だけでなく、共通する部分が多い。二人とも身分の高いスペイン貴族、美しく清純で年の頃は20歳前後、信仰深いが一途で情熱的な女性、そしてどちらもアウトサイダー(ジプシー、インディオの末裔)を愛している。しかし歌の内容からは異なるところが多く、それぞれ別の歌唱表現が求められる。《トロヴァトーレ》のレオノーラには華麗なテクニックとともに情熱的で迫力のある声が、《運命の力》のレオノーラにはいっそうの重厚さと悲劇性が必要となる。そして両者いずれもが、「ヴェルディの声」、すなわちベルカントからさらにドラマティックな表現の可能な声で情熱的な人物像を描き出し、観客に感動を与えることが肝要となるのである。
著者
梅澤 昇平
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.1-14, 2010-09-30

世界の君主制に社会主義政党はどう向き合ってきたか。両者は必ずしも対立するものではない。英国、スウェーデンなどで比較する。日本ではどうだったか。「転向」問題を中心に戦前戦中の社会主義者を検証する。
著者
山崎 岩男
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.165-184, 2004-09-30

声楽発声に必要な人体諸器管の働きに関する知識と、さまざまな指導者により考案された声楽発声の方法、またそれを習得するためのトレーニング方法を比較検証し、演奏、指導の場での合理的な活用の形を模索し提言する。
著者
小池 保
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-26, 2010-03

マスメディアの経営が、極めて苦しい。不況による打撃だけではない。「マス」広告によるコミュニケーションが、以前のようには効かなくなったことが大きい。論考ではまず、その背景となっている、意識と行動を激変させた「賢い生活者」のあり方に注目し、「クチコミ」というコミュニケーションが表舞台に登場してくる必然性について論じる。続いて、新たな状況に適合すべく、広告ビジネスの先端的クリエイターたちが始めた「コミュニケーション・デザイン」という最新の取り組みが、どんな有効性を持つか検証する。賢い生活者との、最高レベルのコミュニケーションを実現するために、例えば全国の郵便局までをも「メディア」に変えてしまうなど、自由かつキメ細やかにデザインされたコミュニケーションの創出が、どのような新たな時代を拓いてゆくのかについて展望する。
著者
今間 俊博 近藤 邦雄
出版者
尚美学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

現状の制作環境を解析するために、これまでに制作されてきたセルアニメーションの解析を進めて行く中で、KEY POSEやACTION LINEなどを用いた新しいアニメーションの概念が形成されつつある。特にKIME POSEを有する日本独自のアニメーションの生成手法に着手した事は、今後の研究の進展が期待出来る
著者
木村 啓子
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.17-30, 2011-12-01

本研究の目的は、3週間の海外短期語学研修の効果を検証することである。研修前後に4部門(文法、作文、読解、リスニング)計75問の英語テストと15分のエッセイライティングを参加者14名に課した。木村(2009)ではリスニングに研修前後の有意差が確認できた為、今回は研修途中にも2回テストを行い、どの時点でリスニング力に伸びが認められるかを測定する試みも行った。ライティングの評価には、多くの研究者が使用しているT-unit、Error-free T-unitの他に、習熟度の低い学習者のライティング力評価には有用である可能性があると考え、新たな試みとして独自に、"Global-error-free T-unit" を導入してみた。英語テストの結果は、学生の作文、リスニング、総合点において有意差が認められたが、研修途中でのリスニングの伸びは確認できなかった。ライティングに関しては、accuracy(正確さ) には向上が見られなかったが、fluency(流暢さ) には大きな向上が認められた。
著者
梅澤 昇平
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.133-147, 2009-09-30

政党には「正史」に書かれない裏面史がある。本稿では、民杜党がめざした、あるいは関与した「政界再編劇」「連立政権劇」について、当時の関係者の証言録、さらに現存する関係者へのインタビューから真相に迫る。
著者
鐸木 昌之 後藤 富士男 平岩 俊司 礒崎 敦仁 室岡 鉄夫
出版者
尚美学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)研究の動向を調査し、方法論を再検討した。わが国における北朝鮮政治・経済体制研究の動向や関連図書の発行状況を確認するとともに、韓国や中国、北米地域の北朝鮮研究の動向等の現状について意見聴取、調査を行った。また、新資料の入手に努めるとともに、複数の脱北者へのインタビューによって同証言の有用性と特性を検証した。北朝鮮研究における比較の視点導入についても再検討した。
著者
小池 保
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.47-67, 2006-11-30

かつての売り声は、なぜ日本人の心の原風景に流れるBGMとなり得たのか—— 心に響く表現が、どのように工夫されていたのか、音声分析を用いながら考察を重ねるうち、売り声が「市井の詩」となり得たいくつかの条件をはじめ、高いコミュニケーション力を備えていることが明らかになってゆく。やがて、拡声器で売り声を聞かせる時代が到来する。なぜ拡声器が用いられたのか、日本人の住まい方の構造変化にまつわる問題点が見えてくる。その点に注目しながら探るうちに、戦後に起こったコミュニケーション上のパラダイム・シフトとの関係が浮かび上がる。日本人に親しまれた売り声の文化は、事実上、消えてしまった。しかし、それは生活の片隅でさえずっていた小鳥がいなくなったというレベルの、ささいな出来事ではなかった。忍び寄る気体の毒性をいち早く知らせる、カナリアの死であったのかもしれない。