著者
日野 勝吾
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.67-85, 2016-09-30

公益通報者や内部告発者の保護のあり方については、労働法学や消費者法学等を交錯領域の研究分野として位置づけられる。とりわけ労働者(公益通報者)の保護の立場から、労働法学の役割は大きく、労働契約論や就業規則論に基づいて、企業秩序の維持、秘密保持義務との関連において公益通報をどのように捉えるべきかについて考察した。また、本稿では公益通報者保護法の論点を中心に具体的検討を進めた。
著者
安 章浩
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.57-94, 2016-06-30

西ドイツにおいて近代立憲主義を担保する権力分立、連邦制の他に、アメリカの違憲審査制を参考にして、独立かつ自立した憲法機関としての連邦憲法裁判所が創立された。それによって、近代立憲主義がドイツ史上初めて確立された。本稿では、敗戦後、占領軍の要請に基づいて憲法制定過程において同裁判所が設立された経緯を辿り、アメリカの憲法裁判所とは異なるその独特な性格を有するようになった歴史的事情を明らかにした。次に、同裁判所がアデナウアー保守連立政権に対してその「独立かつ自立した憲法機関」としての地位を確立していく政治過程を解明し、さらにそれが権威主義的で反民主的な政治文化に染まっている社会の自由主義化や民主化にいかに貢献したか、その主体的な条件を探った。さらに、同裁判所の出現によって、ワイマール共和国時代に憲法解釈の「神官の役割」を担ったドイツ国法学者と同裁判所の関係が変化し、両者の対立や、同裁判所の地位の確立と共に「憲法の優位」体制が確立された。それに伴い、国法学も変容を迫られ、国法学の中心的概念も近代立憲主義に適合する形で解釈替えされるに至った学界の状況をも合わせて解明した。
著者
金子 晋一
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.15-31, 2004-09-30

本稿は、ビョーク・グズムンスドッティル(Bjork Gudmundsdottir)のアルバム「ヴェスパタイン」(Vespertine)で聞く非楽器音、たとえば氷の割れる音、雪上を踏む音等の、小さな音量の非楽器音を、ビョークがアルバムで使用する事を発見する動機と、プログラマーの助力について、の2点を中心にビョークの音楽創作姿勢の1つを提示している。さらに、ジョン・ケージ(John Cage)の非楽器音に対する姿勢にも触れている。現在、ヒーリング・ミュージックなどで非楽器音使用は常識となっているが、今後、ラップトップ等の活用と共に、ポピュラー音楽や現代音楽で、非楽器音をどのように扱うか--、音楽創作素材の1つとして、まだまだ無視出来ない分野である。
著者
日野 勝吾
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.47-61, 2012-12-25

我が国においては、平成12年から平成19年にかけて、国民生活の安心や安全を損なう企業不祥事が多発化したが、その多くは事業者内部の関係者等からの通報を契機として相次いで明らかになった。例えば、食品の偽装表示事件や自動車のリコール隠し事件はその代表例であるといえよう。こうした事象を踏まえ、我が国の政府は、企業不祥事を当該企業の労働者が通報した場合、解雇や不利益取扱いから法的に保護する制度を整備するとともに企業の法令遵守(コンプライアンス)経営を強化するため、「公益通報者保護法」(平成16 年法律第122 号)が平成16 年6月に成立し、平成18年4月1日に施行された。既に同法施行後、約6年が経過した(2)。以下では、我が国の公益通報者保護法との比較において有意な示唆を与える韓国の公益通報者保護法(なお、韓国では「公益申告者保護法」と訳されるのが一般である。)の全条文を掲載する。このことにより、我が国のそれとの比較において、公共政策の観点から考察するための好個な素材となるものと考える。すなわち、韓国の公益申告者保護法の全条文を概観することにより、我が国の公益通報者保護法の見直すべき論点を的確に見出すことができ、ひいては望ましい公益通報者保護制度の構築のあり方を再検討することにもつながると考える。なお、韓国の公益申告者保護法の詳説を含めた諸外国における公益通報者保護制度との比較法的検討については、別稿に期したい。
著者
上原 康雄
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.13-30, 2007-03-31

映画は19世紀末のルミエール兄弟のシネマトグラフを起源として、110年の時間が経過した。今日の映画界において、歴史と社会と風土と人間を一体として、壮大な映画を制作する監督の一人にテオ・アンゲロプロスがいる。彼のテーマはギリシアの現代社会の動向、民族、移民、国境、家族の絆、人間疎外など幅広い。そしてギリシア人独特な神話、叙事詩、悲劇を映画に取り入れ、現代と過去を融合させる。演出手法は徹底したリアリズムであるが、ユーモアとペーソスを滲ませ秀逸である。彼は映像をあくまでも実写の迫力で描き、その絵画的な美しさは比類がない。映像表現は1シーン=1カット、360度パン、移動ショット、オフシーンの重視により、「現在と過去の同一画面での描写」「現実と幻想の共存」など斬新な表現で映像空間を構成する。そしてギリシア独特の演劇と演舞が哀愁をこめた音楽と共に演じられる。この研究ノートではアンゲロプロス監督の「再現」から「エレニの旅」を分析し、我々の映像制作の参考にしたい。
著者
時本 楠緒子
出版者
尚美学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、定位操作の一種である「入れ子操作」用いてデグーの階層的物体操作能力を定量的に分析し、ヒトを含む霊長類と直接比較することにより、ヒト認知能力の特性を検討することを目的とした。実験に先立ち、物体操作におけるデグーの身体的不利を補うため、実験装置の改良を行った。これを用いてデグーに入れ子操作の訓練を行い、得られた結果を、時系列的に記述して霊長類の結果と比較した。結果、デグーの入れ子操作行動は、pairからpotまでの行動の変化がチンパンジーとi類似していることが確認された。また最終的に4個のカッフ.を用いたpot操作が確認されたが、 subassembly操作は現れなかった。これが謁歯類であるデグーの階層的操作能力の限界であると考えられる。
著者
川嶋 ひろ子
出版者
尚美学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

世界的ピアニストであり、作曲家としても数多くの作品を残しているクララ・シューマンのピアノ作品について、彼女の音楽的環境や性格、音楽的傾向に基づいて分析することにより演奏表現方法を見出し、楽譜上に校訂として表した。また日本語による演奏法の解説を付すことにより、日本でも彼女の作品を理解し、音楽的に演奏出来る人達が増えることを目指し、世界初となる「クララ・シューマンピアノ作品全集」を出版する。
著者
新井 久爾夫
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.35-51, 2001-03-31

2000年6月25日に投票が行われた第42回衆議院議員総選挙は、自民、公明、保守の与党3党が揃って大きく議席を減らしながらも、衆議院での絶対安定多数を維持するという微妙な結果に終わった。自民党は東京、名古屋などの大都市圈の選挙区で有力議員を含む多くの候補者が落選したばかりか、「1区現象」といわれたように県庁所在地の選挙区の1区でも苦戦をした。その一方で、農村部の選挙区ではこれまでどおり多くの議席を確保した。また、比例でも前回に比べてかなり議席を減らした。都市住民の批判が自民党を敗北させた、都市では有権者の政党離れが進み、いわゆる「無党派層」が増えており、その「無党派層」の自民党への反乱がこのような選挙の結果をもたらしたというのが選挙後のマスメディアなどの論調である。
著者
梅澤 昇平
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-13, 2011-06

日本の社会主義者が皇室とどう向きあったかを考えるうえで、北一輝らのいわゆる国家社会主義者を埒外に置くことはできない。そこで北をはじめとする有力な国家社会主義者の思想と皇室観を概観し、その共通性と異質性を探る。
著者
梅澤 昇平
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.57-69, 2010-12-20

満州事変を転機として我が国の政党政治は大きく揺さぶられたが、当時の無産政党はどうこれを受け止めたか。特に天皇を擁立せんとするいわゆる錦旗革命論の台頭など、無産政党とその指導者らの皇室観を検証し、その類型化を試みる。
著者
三輪 亜希子 田代 順
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.87-100, 2016-03-31

筆者の所属するダンスカンパニー〈プロジェクト大山〉は大学という教育機関から発足した。 卒業から様々なターニングポイントを経過し、 発足10年目を迎える現在も活動の幅を広げながら日本のダンスシーンにおける地位を確立し始めている。〈プロジェクト大山〉はコンテンポラリーダンスのカンパニーである。 コンテンポラリーダンスが日本に根付いてから30年あまりの時間が経過した。 同時代の感性を取り入れ, 斬新で新しい演出に富んだ芸術として瞬く間に90年代のダンスシーンを彩ったコンテンポラリーダンスであるが、現在は、手法や振付がある程度確立され、新しさが生まれにくいと認識されるような過渡期にもさしかかっているといえる。 また、 日本ではダンスが職業化していないという事情から、日本における多くのダンスカンパニーは契約や組織規定のない緩やかな結束で成立している傾向がある。こうしたことを背景に、この論文では、日本のダンスカンパニーの生成に関してメンバーの言葉を読み解くことで考察していく。今回を初考とし、さらなる考察の展開を図る計画である。
著者
バロソ イザベル
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.81-95, 2010-09-30

「神話」とは何か。神話が記録される理由、即ち神話の中に隠されているイデオロギーとは何であろうか。 19世紀にはドグマとして考えられた「神話」の概念は、20世紀に入ると新しい思想のもとに改めて考えられるようになった。比較文学の中で「受容美学」が「テクストの不確定性」を指摘するなど、神話の意味も疑問視され、その「絶対的」・「客観的」な意味を失った。神話の歴史性や芸術性はともかくとして、「下部構造」、或いは「ジェンダー差」という提起が重要なものとなり、神話学研究の中心となる。 日本神話で、「アマテラス」や「イザナミ」の象徴性や役割を分析すると、月経などの「女性のもつ神秘性」の中に「性的抑圧」の意味が隠されていると考えられる。 さらに、「集団のアイデンティティを強める」神話の中に、社会に対するメッセージがどんな風に現れているのか。1950〜60年代の反精神医学からニュー・エイジに表れるアルターナティブな文化が現代の神話のように考えられる。
著者
川浦 義広
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.41-62, 2016-03-31

ジェルジ・リゲティ (1923-2006) は、 20世紀後半を代表するハンガリーの作曲家である。 彼の音楽は 「音響の変化のプロセス」 を音楽の時間構造と結びつけたという点で非常に独創的であり、 1960年代には「ミクロポリフォニー」という語法を確立した。 その後一貫して音響空間や時間構造への試みを行うが、 1980年代以降になると和声的な書法や旋法を用いた書法など過去の時代の音楽にみられた書法に回帰する。 また、 同時にミニマリズムの影響からポリリズムやポリテンポなどの多層的かつ複雑なリズム書法を用いるようになる。 本論文では、 リゲティの作風の変遷を考察することによってリゲティの音楽的関心やそれに伴う作曲語法の変遷を明らかにし、晩年に書かれた作品である 「ヴァイオリン協奏曲」の分析を通して和声的な書法や過去の書法が彼の音楽においてどのような効果を持っているのかを考察する。 また、このような考察は、過去の音楽書法と現代作品の書法の関連性について検証することにもなるといえる。
著者
小林 正英
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.23-38, 2004-09-30

EUの安全保障政策形成は憲法条約における集団防衛条項の取り込みによって完成しつつあるが、NATOとの「棲み分け」という観点からは、EU安全保障戦略に見られるような新たな質的役割分担を目指していると思われる。
著者
小椋 久雄
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.21-34, 2015-03-31

今日の映像作品に於いてカメラワークの無い作品はない、つまりカメラの動かない作品はないと言っていいだろう。 では何のために、どういう効果を狙ってカメラは動くのだろうか。 本論では、「移動撮影 (パンを含む)」について実際に公開された海外の映画のシーンもとに解説し、さらに筆者が監督した映画 「世にも奇妙な物語 映画の特別編・結婚シミュレーター」(東宝配給2000年公開)を題材に具体的に検証および解析をしていく。
著者
小林 仁
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.63-73, 2016-03-31

1927年に初演された 「ショー・ボート」 は、 「それまでのミュージカルの概念、 常識を破った画期的なもので、 今日アメリカのミュージカル史に新しい時代の到来をもたらした歴史的な作品」と位置付けられている。 1 脚本・作詞のオスカー・ハマースタインII世と作曲のジェローム・カーンは、エドナ・ファーバーによる原作の小説に描かれた人種問題を始めとしたアメリカの現実的、社会的問題を、登場人物のキャラクターにおけるその独創的な脚色、および黒人音楽であるブルースをとり上げるなどした音楽の多様性をもって、それまで娯楽として位置づけられていたミュージカルとは違う、物語と音楽が文字通り融合した全く新しい演劇の形態としてまとめあげ、芸術性の確立と舞台表現の可能性を示した。 本稿は、作者であるオスカー・ハマースタインII世 (脚本・作詞) とジェローム・カーン (作曲) それぞれがこの作品において成し遂げた芸術的手法と、 この作品がミュージカル史において果たした役割を通して、その革新性を考察するものである。
著者
青沼 裕之
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.87-103, 2001-10-31

The Purpose of this study is to explain what help and cooperation Walter Citrine gave to the British Workers' Sport Association (BWSA) which tried to prepare for the Antwerp Workers' Olympiad in 1937, and send the British team to Antwerp. This thesis devides on four chapters : first introduction ; second, trading views on holding of the Antwerp Workers' Olympiad between the International Federation of Trades Unions (IFTU) and Walter Citrine ; third, negotiation between the Amateur Athletic Association and him about participation of the British team in the Antwerp Workers' Olympiad ; forth, conclusion. The Antwerp Workers' Olympiad was organized and conducted by the Socialist Workers' Sport International (SWSI) which was led and supported by IFTU and the Labour Socialist International (LSI). Then BWSA, which prepared for the Antwerp Workers' Olympiad and sent the British team to Antwerp, was patronaged by the Trades Union Congress (TUC). Walter Citrine was the general secretary of TUC General Council and the Chairman of IFTU in late 1930s, so that he could use his power to hold the Antwerp Workers' Olympiad.
著者
安倍 大輔
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.19-31, 2006-03-31

国連は2003年11月の国連総会決議によって、2005年を「スポーツと体育の国際年」と制定した。その制定目的は、教育、健康、開発、平和に対してスポーツと体育の持つ潜在的な力を世界各国が認識し、スポーツと体育を政策の中に反映させていくこと、とされている。そのための具体的な取り組みとして、年間を通じて様々なイベントが国際的なレベルからコミュニティーのレベルに至るまで数多く開催された。そしてそれらの成果は2005年12月の「マグリンゲン実施要項2005」として集約された。このような国連の「スポーツと体育の国際年」は2000年に国連が発表した「ミレニアム開発目標」との密接な関係がある。またIYSPEにおける様々な取り組みは、1970年代のスポーツ・フォー・オール運動や2004年の「スポーツを通じた教育のヨーロッパ年」といった蓄積の上に立つものである。
著者
川本 勝
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
no.28, pp.37-65, 2016-09

単純な「局所的な極小値で買い、極大値で売る」手法のみを用いてNISAの初心者が株式投資するための売買タイミングについて調査した。その結果、NISAの初心者でも、どのようなタイミングで売買をしても平均的には1~3%程度の成功率を得られる事が解った。また、この手法では、最大で25.5%の成功率を得ることが出来るが、最悪の場合は4.9%の損をすることが解った。しかし、この結果が東京証券取引所に上場している全ての企業について同様に当てはまるかどうかは、別途、調査が必要である。この結果は、筆者が既に発表している3本の論文(川本勝2014、2015、2016)の結果とも矛盾しない。
著者
周村 諭里
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.117-132, 2009-09-30

普段大学で利用されている教科書には、文章のみならず、様々なイラストが含まれている。本研究ではそれらのイラストが学習に及ぼす様々な影響について実験・調査する。第一段階として、教科書内に含まれる絵を大きく3つに分類した。イラスト、写真、図表の3つであった。次に、先の教科書内の絵分類ではイラストは教科書に必要ないものと評価されたことに対して検証を行った。筆者は、イラストは学習促進に有効なものであると考えたが、結果は顕著にはあらわれなかった。しかし、既学者・初学者・親などの立場の違いにより、教科書イラストの学習促進にもつ意味が変わってくる傾向がみられた。三つ目に、教科書イラストの配置デザインに関する調査をおこなった。本調査では、4タイプのイラスト配置デザインをした教科書を選び、第一印象で好みのタイプの教科書を選んでもらった。その結果、教科書内に含むイラストには適量があり、配置デザインとしても絵と文章の両方を用いた説明がなされているものが多くの学習者に好まれた。本研究では、教科書イラストと学習促進の関係は、教科書利用者の立場によって異なってくる傾向が伺えた。今後は、マンガ教材も含めたイラストと教科書利用者の立場の違いによるわかりやすい教科書について男女差など深めて検証を行う必要があると考える。