著者
苧阪 良二 伊藤 法瑞 伊藤 元雄 ITO Hozui
出版者
愛知学院大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

1.カウフマン装置(K-1,K-2)と関連器具の製作:単眼視しかできない原型を改良し、大口径レンズによって両眼視のできる比較刺激装置(K-1,K-2)を完成た。併せて既設のガンツフェルト大視野への投映装置、4筒(上下左右)の標準刺激装置、接眼小視野呈示装置、野外実験用人工月提示器具などを製作した。主力となる大型カウフマン装置は口径120mm、焦点距離250mmのレンズを装着し、自動光円提示部を内臓しており、K-1は等視角ステップで10〜85分角の16光円、K-2は等面積ステップで15〜84分角の16光円が逐次呈示できる。また小形ハーフミラーに代えて大型透明ガラス衝立を作った。他に既製の苧阪型(O-2)1mm直径ステップ、22〜103分角を改修した。2.カウフマンらは在来型のボーリング(苧阪)型の測定法を批判しているが、その点を満月を対照に反復実測した。被験者は心理学科の大学生4〜10人で2年間にわたり10回の満月チャンスに測定比較したところ、K-1,K-2の両眼視のため当然カウフマンより異方度が高値でK-1=1.73,K-2=1.63,O-2=1.43であり、KとOの列位相関は0.7以上あった。在来型の測定法も使用可能であることが判った。使用体験しないとわからないが、K型は観測距離は20〜40cmと融通がきくが、いわゆる方向と位置の恒常性に乏しく比較の際の視線の制約が大きかった。3.小室間で人工月(紙)を用いた実験ではカラースライド投映の風景差が認められたが、与えられた風景の中での月の大きさに適応水準があるように思われ、あまりに大きい人工月では過小視が起こった。4.視野の上下に関し、坂道での抑視と俯視では下方の過大視が認められた。またVER(視覚誘発電位)の実験では上より下方に提示した人工月に対してC-II成分に特異生が認められ、月の錯視への関連生は不明であるが、上下方向差があるのは事実である。
著者
中田 栄
出版者
愛知学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、社会性の指標としての自己統制をとりあげ、これまでの西洋的な観点に偏った自己統制の理論を改善・発展させていくため、米国の研究者と連携し、日米の自己統制の規定要因を縦断的に検討してきた。まず、国際的な視点から自己統制の理論化を進め、人間関係の支援に貢献するため、(1)社会性の指標としての自己統制にかかわる要因を状況別に明らかにすること、(2)日米の文化的背景をふまえた.自己統制の理論化、(3)子どもにとって新奇な2種類以上の情報が同時に提示された場合に、一方の情報を探索した後、もう一方の情報を探索し、先に見た情報を修正し、新たな情報を付け加えながら複数の情報を統合していく過程における衝動性および他者の表情変化の予測を縦断的に検討することを目的とする。このために遂行した今年度の研究内容は次の通りである。1.米国における児童の自己統制の理論化にあたって、デラウェア大学のGeorge Bear教授と協力・連携して規律性との関係から自己統制の理論化を進めてきた。2.米国研究チームの協力を得て日米の対象が同数になるように配慮し、他者の表情変化の予測と観察場面における行動を検討した。(1)対象:米国デラウェア州ニューアークおよびニュージャージの9歳から12歳までの児童48名(男子24名、女子24名)。(2)期間:2005年10月から2006年9月までのうち、冬休み期間(12月〜2月)を除き、一ヶ月あたり12回の観察記録を行った。(3)手続き:VTR撮影は児童一人あたり64分とし、米国の児童48名の合計3072分のVTR記録の中から自己統制を中心に取り上げた。3.平成18年度は、児童の自己統制について日米との共通点を取り上げ、以下の点から理論化を試みた。(1)他者の情動の予測力の正確さは、他者に対する怒りの情動を自ら調整していく力とかかわることが示唆された。(2)複数の情報の統合過程において衝動的な行動傾向を示した子どもは、攻撃行動の調整が困難な傾向が示唆された。(3)日米の児童の自己統制の共通点として、参与観察からは、(1)攻撃に対する怒りの反応は、さらなる攻撃の反応となり、悪循環となること、(2)他者からの攻撃行動に対して、衝動的に怒りの情動と攻撃行動を返したとき、周囲の第三者から助けられにくいこと、(2)他者が一方的に攻撃される状況では、周囲の第三者が、攻撃を受けている他者のために助ける行動を起こすことが示唆された。4.上記の結果に基づき、以下のような支援を提案するに至った。(1)衝動的な行動傾向を示した子どもは、攻撃反応を示しやすい傾向がみられたため、攻撃に代わる自己表現として要求の伝え方を理解させ、社会的に望ましい自己表現につなぐ必要性が示唆された。(2)視線の向け方が、他者に誤解をもたらすメッセージを与えてしまうことへの気づきを促す必要性が示唆された。(3)社会性の指標としての自己統制の役割を質的に検討することによって、対人関係の効果的な支援に貢献できることが示唆された。(4)攻撃に対する怒りの反応は、さらなる攻撃の反応を生じさせ、悪循環となるため、自己統制トレーニングにおいて、他者の立場に配慮した自己表出への理解を促す意義を提案するに至った。なお、本研究は、米国デラウェア大学およびハーバード大学との専門性を生かした協力体制のもとで実施された。
著者
水谷 規男
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究では、フランス未決拘禁法の改革動向を、1970年から2000年までの期間においてフォローし、フランス法が、特に1990年代以降、国際人権法(特にヨーロッパ人権規約)との整合性を意識して改正され続けてきたこと、しかしそれでもなお、フランス法には、警察段階での捜査のための拘禁制度の利用、人員、期間ともに過剰な未決拘禁制度の利用があり、なお国際人権基準に照らして問題点を含んでいること、そしてフランス法の持つ問題点がほぼ同様に日本の未決拘禁法(逮捕・勾留および保釈)にも当てはまることを明らかにし、日本の未決拘禁法が国際人権基準に照らして改正ないしは運用の改善が必要であることを明らかにした。なお、本研究の課題との関係で、フランスにおいて大規模な法改正が予定されていることが研究期間中に判明したので、論文執筆および成果報告の提出は、法改正を待って行ったことを付言する。
著者
川口 高風
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学教養部紀要 (ISSN:09162631)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.128-111, 2006-03-31
著者
伊藤 弘子
出版者
愛知学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

四月三日から四月二三日まで前年度に引き続きロンドン大学SOAS(オリエント・アフリカ学院)において南アジア家族法および在イギリス南アジア系住民に関する在外研究を行った。同学院のメンスキー教授指導のもとでインドおよびパキスタン現代家族法につき研究したほか、スリランカおよびネパールの家族法文献収集も行った。平成一九年度後期から二〇年度前期の一年間はインドおよびイギリスにおいて在外研究を行う予定であったが家族の体調悪化に伴い在外研究は短期滞在を複数回行う事とした。南アジア家族法研究の成果として雑誌「戸籍時報」九月号に論文「インドにおける代理出産の現状と出生子の法的取扱い」が掲載された。同論文は、前年度に「戸籍時報」に掲載された「バングラデシュ家族法概説」翻訳(A.イスラーム著)とともに雑誌「法律時報」の平成二〇年度学会回顧の国際私法、民法(家族法)およびアジア法の分野において四ヵ所で引用された。この他に「戸籍時報」では「パキスタン家族法概説」翻訳(F.コーカー著)が平成二〇年十二月号から掲載され現在も連載中である。七月一七日にはSOASにおける研究成果を「国際私法を語る会」で「南アジア家族法比較一人的不統一法国における多元的家族法構造」として研究発表し、論文を執筆中である。十一月二一日から二三日まで台湾の世新大学において開催された「アジア三国会議」に出席した。養子縁組に関する各国家族法に関する紹介がなされ、日本の国際私法上の養子縁組について質疑応答に参加した。アジアの家族法研究会メンバーとして今後シンガポール、インドネシア、ブルネイおよびフィジー法翻訳も担当する予定であるのでこれらの諸国の人際法、国際私法を含めた身分関係法研究準備もはじめた。いずれもイスラーム法、ヒンドゥー教法の影響が強く人際法研究を継続、拡大する上でも重要な位置づけにあると考えられる。
著者
片山 和男
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.101-106, 2007-03-31

強迫性障害は,強迫観念・強迫行為が反復・持続し,時間の浪費や回避行動のために日常生活や人間関係が困難になることを特徴とする精神障害である.治療については,薬物療法と行動療法の有効性がわかっている.行動療法では,エクスポージャーが用いられることがある.本稿では行動療法を中心とした症状軽減を目指す立場から,確認の強迫症状などの生活に支障をきたす安全確保行動を,どのように生活に支障をきたさない新しい適応的な安全確保行動に置き換えることができるか,事例を通して検討した.治療目標としては,行動面の「ひとりで外出する」と感情面の「情緒の安定」の二つを設定した.まず信頼的な治療者患者関係を構築したうえで,行動面は段階的なエクスポージャーを用いた行動的アプローチにより,強迫症状が改善した.感情面は,筋弛緩法,自律訓練法と具体的検討に基づいたフィードバックが奏功した.さらに過程が進むにつれて自尊感情が高くなった.
著者
小見山 隆行
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 商学研究 (ISSN:02858932)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.39-63, 2006-12-20

本稿は,江戸時代,明治維新以降の商業教育の生成・変遷を概観し,商業道徳がどのように位置づけられてきたかを検証し考察する。江戸期の商人教育の関わりとして,年季奉公以前の幼少時の「寺子屋」教育と「丁稚奉公」制度,「家憲・家訓」及び「商売往来」の説く商人道,石田梅岩の「石門心学」にみられる商業道徳,近江商人の「三方よし」の思想等について,商業教育と道徳教育の観点から検証を試みた。日本商人観の近世・近代の連続・非連続論,明治維新以降の近代教育と商業学校制度の発達,渋沢栄一の「道徳経済合一説」の説く道徳思想等を分析するともに,戦後の新教育制度における学習指導要領「商業科目」の変遷を概観し,次期改訂への若干の提案とともに,これからの商業教育(ビジネス教育)における新たな使命と役割,商業道徳教育のあり方等について考察した。
著者
青木 均
出版者
愛知学院大学
雑誌
地域分析 : 愛知学院大学経営研究所々報 (ISSN:02859084)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.87-100, 2008-09

百貨店経営統合の一事例として大丸と松坂屋の経営統合を取り上げる。市場が縮小するなか,効率経営を実現する大丸が業績低迷の松坂屋を実質的に吸収する形で経営統合が進んできた。過去10年間大丸は最大の顧客満足を最小の費用で実現することを理念として営業改革を中心として経営改革を進めた。営業改革の本質は百貨店経営にチェーンストア経営の考え方を取り入れ,標準化と分業化を進めることだった。営業を前方業務と後方業務に分け,後方業務は標準化・システム化して費用削減に努め,前方業務は顧客満足向上の切り札として充実させた。その改革を松坂屋に移植することが経営統合初期段階の眼目になっている。改革移植の進行で松坂屋の業績が改善しつつある。
著者
早川 昌範
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.95-102, 2008-03

日本社会心理学会第42回大会が,2001(平成13)年10月13日(土)・14日(日)に,愛知学院大学(日進学舎)で開催された.本稿はその大会の概要を述べ,大会のメインテーマである「21世紀の社会心理学の重要課題と方法論」に関して企画された,講演と公開シンポジウムについて,口頭発表部分の若干の補足を行なったものである.愛知学院大学文学部心理学科の教職員が核となった大会準備委員会が,講演と公開シンポジウム,さらに公開講演を1つとトーク&トーク(ミニシンポジウム)を6つ企画した.自主企画・運営シンポジウムも6つ開かれた.口頭発表数は89件,ポスター発表数は212件.実際の大会参加者は,678人,懇親会の参加者は356人,という大勢であった.講演(「この40年間,社会心理学に進歩はあったか-では,これからの40年は?」)と公開シンポジウム(「21世紀における社会心理学のパラダイム」)からは特に貴重な示唆が与えられた.
著者
根津 永二
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 商学研究 (ISSN:02858932)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.127-144, 2007-03-31

日銀の福井総裁は「家計の生活経営が切り拓く日本の新時代」という講演の中で, 生活におけるリスク・テイクは家計には新しい道を開き,マクロ経済的には新しいビジネスを創造する可能性を高めるだろうと述べ,積極的なリスク・テイク(リスク投資)を推奨している。しかし,積極的にリスクを取るには,リスク管理は欠かせないが,現在の金融取引環境や家計・個人の金融面の知識やリスク管理能力は,家計・個人にリスクを積極的に取るように勧めるような金融環境は整っていないように思われる。また,所得や資産の少ない階層ほど安全資産の保有比率が大きいが,低金利,株主重視・配当重視のなかで,リスク投資を行っている階層との資産格差は増大する。階層間の格差が固定しないような政策が必要になるであろう。日本では土地・住宅取得や教育費が高い。これは金融資産の選択にも影響するだろう。このような状況では,危険回避的な日本人の金融資産選択では,低利ターン・低リスク・高流動性の金融資産選択が最適な選択と判断される。これは現状の選択を最適と見なす顕現選好の理論(Theory of Revealed Preference)の考え方とも整合的である。