著者
佐賀 啓男
出版者
放送大学
雑誌
メディア教育研究 (ISSN:13441264)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.167-183, 1998

メディア教育(media education)は、教育におけるメディアや情報テクノロジーの利用と密接な関連を保ちながらも、その実践的文脈ではメディアによる教育とは区別され、「メディアについての教育」と考えられてきた。しかし、最近における情報テクノロジーの進展は、伝統的なメディア教育観に影響を与えている。そこで、本稿は、これまで、メディア教育の概念がどのような変遷を経てきたかのあらましを把握することを目的とした。そのための材料として用いたのは、西ヨーロッパと北米における1970年代おわりから90年代はじめにかけての報告書、手引書、雑誌論文等であるが、主たる関心を、国際映画テレビジョン協議会(IFTC)が示した定義、スコットランドとフランスの教育実践、及び、アメリカの視覚リテラシーの教育実践に置いた。これらをとおして、メディア教育の概念の変遷をたどり、その実践の評価にふれたうえで、新たな情報テクノロジー、とくにコンピュータとそのネットワークの教育利用が伝統的メディア教育観に与えている影響を指摘し、それらが融合する可能な方向を示唆した。
著者
柳沼 良知 鈴木 一史 児玉 晴男
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.91-98, 2010

カリフォルニア州では、公立学校での教科書配布に必要な、印刷や製本にかかる多額の費用を削減するため、教科書の電子化とオープンソース化の検討を行っている。また、日本国内でも、「すべての小中学生がデジタル教科書を持つ」という環境の実現を目指す民間主導のコンソーシアムが発足した。このような教科書の電子化は、電子化の方向性から、「書籍の電子化」と「アプリケーションの書籍化」に大別することができる。このため、本稿では、まず、これまでの教科書の電子化の試みを「書籍の電子化」と「アプリケーションの書籍化」に分類し、それぞれの動向について述べる。次に、教科書や映像、それらの検索機能などを組み合わせたプロトタイプシステムの開発について述べ、「書籍の電子化」と「アプリケーションの書籍化」の観点から議論する。
著者
市川 昌
出版者
放送大学
雑誌
放送教育開発センター研究紀要 (ISSN:09152210)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.171-199, 1993

The purpose of this paper is to review the developments of the mass lecture system in undergraduate courses in many university. In Japan, especially, lecture of 100 students or more are not uncommon in humanities and social sciences subjects. Under this circumstances the attitude of students in large lectures is deteriorating. The educational effect of mass lectures is limited unless interactive educational technologies such as audio visual methods or demonstrations are employed feedback communication channels between the professor and students. The German sociologist J. Habermas emphasized the rationality of communication must be to develop mutual understanding and agreement, but most of lectures are insufficient from this view point. Academics are major changes in what they teach, new methological approaches to the way they teach and trends in the needs of students of the new generation. This paper will also introduce means for improving teaching softwear for higher education (EDUCOM/NCRIPTAL) in the USA in 1980-1990. Good softwear can be used to structure and connect information based on the context. The training of academic personnel and the study of teaching methods in mass undergraduate education same as the UK and the USA is necessary in Japan.
著者
秋鹿 研一 東 千秋 加藤 之貴 劉 醇一
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-10-20

アンモニアはCa,Mgなどのハロゲン化合物と安定な錯塩を作る。塩化カルシウムにアンモニアが近づくと、窒素のローンペアーの強い配位力と塩素イオン同士の排斥力により、アンモニアのほうがカルシウムイオン近くに取り込まれる。結晶は2配位、8配位へと変化し、膨潤する。これをアンモニアの吸蔵材料として使うために、これらの錯形成反応の速度論データを取る装置をくみ上げ、データ取得を始めた。これらのデータは全くないこと、材料実用化のためにはあらゆる種類のデータを多くの技術者にとって貰う必要があるため、簡便な装置として、食品の水分量を測定する自動天秤を利用することを企画した。CaCl2にアンモニアを吸蔵させる際、水蒸気が共存すると正確なデータがとれないため、天秤を窒素気流雰囲気下へ設置した。CaCl2などの潮解性試料に対し、水分の吸収条件を検討した。吸収、脱離の速度に影響する因子は、アンモニア圧、(塩素、臭素混合であれば)陰イオンの種類と割合、結晶子あるいはクラスターサイズ、温度などである。CaCl2-CaBr2系は、常温、常圧でアンモニアを分離、貯蔵、放出でき、実用化の可能性がある。CaCl2は高い圧で、CaBr2は低い圧でアンモニアを吸収する。Cl/Bn比,1:1,の混合系は中間的構造を取るため、両者の中間的圧力(常圧付近)でアンモニアを吸蔵放出できる。これらについて、速度論データを取るための予備的実験を重ねたが、出発物質の水分制御が思ったより難しく、比較検討できるデータが十分に得られたとはいえない。従って、平衡に近い挙動のデータはこれまでのデータに加えることが出来たが、速度論的データについては再現性を得るに至っていない。サンプル調製法、速度データ取得装置については更なる検討を必要とした。実験データの整理法については理論的考察をさらに推し進めた。
著者
石井 祥子 奈良 由美子 鈴木 康弘 稲村 哲也 バトトルガ スヘー ナラマンダハ ビャンバジャブ Shoko ISHII Yumiko NARA Yasuhiro SUZUKI Tetsuya INAMURA Sukhee BATTULGA Byambajav NARMANDAHK
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.19-33, 2023-03-25

筆者らは、2017年10月から、JICA草の根技術協力事業(パートナー型)「モンゴル・ホブド県における地球環境変動に伴う大規模自然災害への防災啓発プロジェクト」を実施してきた。当初計画では、2022年9月までの5年間を予定していたが、COVID-19感染症流行のため、それ以後は現地での実践活動が継続不可能となった。幸い、これまでの成果と今後の活動の可能性が認められ、約1年半をめどにプロジェクト延長が承認された。そこで、筆者らは、2022年8-10月にウランバートル市とホブド市を訪問し、約2年半ぶりに本格的に活動を再開することができた。 本稿では、感染症流行により活動が制限された状況下における持続的な取り組みと、渡航が再開された2022年後半の活動をまとめる。主な内容は、防災カルタ大会の開催、市民を主体とする防災ワークショップの開催、そして映像コンテンツの制作と評価・活用についてである。
著者
戸ヶ里 泰典 橋爪 洋美 関根 紀子 波田野 茂幸 安藤 優樹 Taisuke TOGARI Hiromi HASHIZUME Noriko ICHINOSEKI-SEKINE Shigeyuki HATANO Yuki ANDO
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.1-6, 2022-03-25

目的:近年では医学系学会の学術誌においては、論文投稿にあたり研究倫理委員会の承認を条件としているケースが多い。本研究は、日本国内の学協会のうち人文・社会科学系分野に登録されている団体の機関誌における研究倫理に関する配慮規定、および、研究倫理審査の承認を投稿条件としているのかを明らかにすることを目的とする。方法:2021年度前半期(4月から9月)に日本学術会議等が作成する学会名鑑に登録学会のうち、哲学・史学を除く人文・社会科学分野、および境界領域でもある環境学・情報学・総合工学の各領域を関連分野として登録している1117団体を抽出した。このうち機関誌に関する情報公開をしている1076団体を分析対象とした。結果:研究対象者の権利保護に関する倫理について言及していた学会は153団体(14.2%)であった。分野別に検討した場合心理・教育系は96団体で、分野全体の36.1%の団体が記載していたが、他の領域では分野全体の10%に満たなかった。研究倫理指針や綱領のうち、人を対象とする(生命科学・)医学系研究に関する倫理指針を挙げていた学会は39団体(3.6%)で、学会独自の倫理指針・綱領を挙げていた学会は111団体(10.3%)であった。学会独自の倫理指針は心理・教育系で多く、系全体の25.9%である69団体が該当した。投稿にあたり研究倫理委員会の承認を必須としている学会は42団体(3.9%)であった。これも心理・教育系で多く 分野全体の7.5%になる20団体であった。他分野ではそれぞれの分野全体の2.0~ 4.3%にとどまった。結論:学際領域の学会では医学系研究倫理指針に基づいた対応が行われている傾向があるが、医学系以外の行動科学系の学会でも国際的な動きと連動して人を対象とする研究倫理対応を強化している可能性がある。研究倫理委員会のニーズが高まっているとともに、審査が研究の枷とならず礎となるようなシステムを模索することも必要だろう。
著者
廣瀬 洋子 Yoko Hirose
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.93-99, 2015-03-20

この論文の目的は、放送大学の障害者支援の現状を紹介することにある。そのために、第一にこの領域の国際的な動きを概観し、第二に、近年の日本の高等教育における障害者支援の進展について議論する。米国、英国、EU諸国、豪州では強力な障害者差別禁止法によって、教育分野での差別が解消されてきた歴史がある。日本においても2013年に障害者差別解消法が成立し、2016年4月から施行されることになった。しかし、その実現のためには、乗り越える課題が山積している。第三に、放送大学の障害者支援、とくにICTを活用した支援について議論する。障害のある学生にとって学びやすい教材や教授法を開発することは、多くの学生にとって有益で、豊かな学びの環境を作り出すことにも繋がっている。
著者
稲村 哲也 大貫 良夫 森下 矢須之 野内 セサル良郎 阪根 博 尾塩 尚 Tetsuya Inamura Yoshio Onuki Yasuyuki Morishita Cesar Yoshiro Nouchi Hiroshi Sakane Hisashi Oshio
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.33, pp.79-95, 2015

1898年に秋田で生まれた天野芳太郎は、30歳のときに中南米にわたって実業家として成功し、後にペルーのリマ市に考古学博物館を創設した人物である。 天野は少年時代から考古学に関心をもっていたが、その関心を決定づけたのは、1935年のマチュピチュ訪問であった。天野はマチュピチュで、そこに住んでいた野内与吉という日本人に出会い、彼の案内で一週間ほどマチュピチュを踏査した。 しかし、第二次世界大戦が始まると、天野は総てを失い、北米の収容所に入れられたあと、日本に送還された。戦後の1951年に再び南米に向かい、ペルーで事業を再開し成功するが、後半生は古代アンデス文明の研究と土器、織物などの考古遺物のコレクションに身を投じ、1964年リマに博物館を設立したのである。 それに先立つ1956年、当時東京大学助教授であった泉靖一がリマで天野芳太郎と出会った。泉はすぐにアンデス研究を始め、調査団を組織し発掘を始めた。最初のコトシュ遺跡の発掘で、アメリカ大陸最古の神殿を発掘した。東京大学はそれ以来アンデスの研究で大きな実績を重ねてきた。 岡山出身の実業家森下精一は、1969年リマで天野芳太郎の博物館を訪問し、古代アンデスの土器や織物のすばらしさに衝撃を受け、中南米の考古遺物を蒐集し、1975年自らも岡山県に博物館を開設した。 筆者らは、放送大学のTV特別講義「古代アンデス文明と日本人」を制作し、2015年秋田でそのテーマの展示会を企画し実現した。本稿では、それらの内容を中心に、日本人による古代アンデス文明研究、その背景としての先人たちの「運命的」な出会い、そして秋田で開催した展示会について論じる。
著者
下夷 美幸
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

離婚後、子どもと離別した父親の多くが養育費を支払っていない現実がある。そこで本研究では、離婚により子と離別した父親を対象にインタビュー調査を行い、離婚過程および離婚紛争の実情、離婚後の生活実態、離婚前と離婚後の子との関係性、子に対する扶養の実態と扶養意識等について分析する。そのうえで、離婚当事者の実情に即した、養育費確保の支援のあり方について探究し、その実現のための政策的課題を提示する。
著者
吉岡 一男
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.16, pp.211-228, 1999-03-31

おうし座RV型星は,主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な脈動変光星である.この変光星は,光度変化をもとに,RVa型とRVb型に細分類されており,RVb型は脈動周期の光度変化に重なって長周期の光度変化が見られるのに対して,RVa型ではそのような長周期変化は見られない. われわれは,国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡の多色偏光測光装置を用いて,この星の多色偏光測光観測を行っている. その結果,現在までに観測された17個のおうし座RV型星の中で,ふたご座SU星,いっかくじゅう座U星,おうし座RV星の3個の星で,偏光が長周期の時間変動をしていることを検出した.これら3個の星はすべてRVb型である.そして,観測された偏光の長周期時間変動は周期的で,その周期は長周期光度変化の周期と大体一致しているようである.この長周期の時間変動はおうし座RV星のほうが,いっかくじゅう座U星よりも顕著である.一方,観測誤差が大きいので,ふたご座SU星に対しては,長周期時間変動の大きさについては,明確な結論は下せない.さらに,偏光の長周期時間変動の特徴から判断すると,RVb現象の説明の1つとして提案されてる星周圏ダスト殻を伴う伴星による単純な掩蔽によっては,この時間変動が引き起こされてはいないようである.
著者
吉岡 一男
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.79-88, 2005

おうし座RV型星は、主極小と副極小を交互にくり返す光度変化が特徴の半規則的な変光星である。この変光星は、光度曲線をもとにRVa型とRVb型に細分類されており、RVb型が脈動周期に重なって長周期の光度変化を示すのに対して、RVa型はそのような長周期変化を示さない。またこの変光星は可視域のスペクトルをもとに、酸素過剰なAグループと炭素過剰なB,Cグループに細分類されている。われわれは、国立天文台の堂平観測観測所と岡山天体物理観測所の91cm反射望遠鏡に偏光分光装置(HBS)を取り付けて、明るい5個のおうし座RV型星の偏光分光観測を行った。そして次の結果を得た。(1)ふたご座SS星といっかくじゅう座U星とおうし座RV星では、偏光度の波長依存性に時間変動が見られる。とくにふたご座SS星の時間変動は、この星には星周圏ダスト層がないとの、われわれのMCP観測から得られた結果を覆す。(2)上記の時間変動の多くには脈動の位相との相関が見られないが、長周期光度変化と相関がありそうな星がある。(3)いっかくじゅう座U星のいくつかの観測では、その偏光度にいくつかの波長でピークが見られ、ピークの波長が放射の吸収帯に一致している。この結果を確認するために、さらなる観測を要する。(4)おうし座RV星以外では、偏光位置角に波長依存性は見られない。おうし座RV星では、長周期光度変化の増光期に5500Å付近よりも短波長域で偏光位置角が波長とともに減少している。この波長依存性は、たて座R星の過去の偏光分光観測で観測されたものと似ている。
著者
吉岡 一男
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.127-136, 2007

おうし座RV型星は、主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な変光星である。この変光星は、光度曲線をもとにRVa型とRVb型に細分類されており、RVb型が脈動周期に重なって長周期の光度変化を示すのに対して、RVa型はそのような長周期変化を示さない。またこの変光星は可視域のスペクトルをもとに、酸素過剰なAグループと炭素過剰なBグループとCグループに細分類されている。われわれは、国立天文台の堂平観測所と岡山天体物理観測所の91cm反射望遠鏡に偏光分光測光装置(HBS)を取り付けて、明るい5個のおうし座RV型星の偏光分光観測を行った。そして、それぞれの星に対して星間偏光を差し引いて固有偏光を求め、次の結果を得た。ふたご座SS星といっかくじゅう座U星とおうし座RV星では、固有偏光度の波長依存性に時間変動が見られる。上記の時間変動の多くには脈動の位相との相関が見られないが、長周期光度変化と相関がありそうな星がある。いっかくじゅう座U星のいくつかの観測では、その固有偏光度にいくつかの波長でピークが見られ、ピークの波長が放射の吸収帯に一致している。ふたご座SS星とヘルクレス座AC星とおうし座RV星では、固有偏光位置角にも波長依存性が見られる。とくにおうし座RV星では、長周期光度変化の増光期に5500Å付近よりも短波長側で固有偏光位置角が波長とともに減少している。この波長依存性は、たて座R星の過去の偏光分光観測で観測されたものに似ている。