著者
広瀬 洋子
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.89-102, 2011

ICT活用は世界の大学のあり方を大きく変えようとしている。放送大学においても、従来の放送授業から、インターネットによるオンデマンド型配信授業で学習する学生が増加しており、印刷教材のデジタル化も検討課題になりつつある。 日本でこうしたICTによる学習の変革を一番切実に必要とし、ここ20年、パソコンを最も先鋭的に活用し学習に役立ててきたのは視覚障がい学生である。2011年現在、放送大学に学ぶ視覚障がい者は142名。全国の高等教育機関に学ぶ視覚障がい者の20%を占めている。 放送大学では第一期卒業生の杉山和子氏がボランティア組織「菜の花の会」を立ち上げ、視覚障がい者が抱えていた印刷教材を読むことの困難さに支援がなされた。放送大学がこの地道な活動を継承し、ICTを活用した活動として発展させるために、「菜の花の会」のこれまでの活動を振り返り、記録しておきたい。
著者
大石 和欣
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.107-118, 2008

1780年代から社交界のお騒がせなセレブとして注目を浴びたロビンソンだが、感性と詩才に恵まれた詩人であり、小説家としても活躍していた。彼女が最晩年に書いた「亡霊たちの浜辺」は、そうした彼女の詩的資質をもっとも典型的に示していると同時に、女性として、また詩人として彼女が置かれた不安定な環境を多分に反映したものである。シャーロット・スミスが顕著に示した女性的な感受性言語の残響を内にとどめながら、コウルリッジの「老水夫行」から題材や主題を借用している点で非独創的だが、斬新な韻律によって女性としての不安と孤独を吐露している点で独創性を確保している。詩の不均質な言語と不統一な語りの声は、詩のテクスト内の分裂を生んでいる。さらに、そこには、実生活や経済、ジェンダーのすべてにわたって不安定に動揺し続けるロビンソンの苦悩が潜んでいるだけではなく、18世紀末の社会において女性一人の力で生きようとした女性たちが直面したジレンマと実存的な不安が映し出されている。中途半端な言語と語りは、同時代の詩人との間テクスト的交渉の上に成り立った、分裂し、動揺し続ける女性のアイデンティティの姿なのである。
著者
佐藤 康邦
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.45-53, 2010

『判断力批判』の第一部「美的(直観的)的判断力の批判」の「美の理想」について語られる場面で、カントは、美的判断に含まれる知的契機に関して、踏み込んだ考察を加えている。それが、「美の理想」を構成する二つの契機のうちの、「美的(直観的)基準理念」についての考察である。人間の形姿、またサイズには、種に固有な基準、典型というものがあるという考え方に従う概念である。カントの表現では、「美的(直観的)基準理念」というものは、「ある種族に属するすべての個々の個体の美的(直観的)判定の普遍的尺度として役立つような、その形態の構成における最大級の合目的性、すなわちあたかも自然の技巧の根底に意図的であるかのようにすえられている心像」であるとされている。身長、体重、鼻の高さ、口の大きさすべてに、それぞれ、理想の美人、美男子にふさわしいサイズというものがある。これは、私たちの心のうちで知っている観念、理念であり、それが個々の個体の美的判定の際に尺度を与えてくれるという。その際重要なことは、その理念は、構想力が与えてくれるとされていることである。『判断力批判』では、『純粋理性批判』とは異なって、悟性に対決する位置に置かれているのは、直観ではなく、構想力である。ということは構想力が直観に重ねられているということ、したがって、基準理念は感覚に近づけられているということである。さらに、この基準理念が生得的なものなのか、経験を通して獲得されるものなのかに関するカント記述は、これを「諸直観の間に揺よう曳えいする心像」としていることから明らかなように誠に微妙なものとなっている。しかし、この揺れ動きにこそ、この概念の今日的な意義があると思われる。そこに、ゲシタルト心理学や、認知心理学におけるアフォーダンス概念やトップダウン概念に関わるものの先駆形態が見出されるだけではなく、無意識に関する理論全体の捉え直しにつながるものが見出されるからである。
著者
大石 和欣
出版者
放送大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本科研2年目そして最終年度にあたる本年は、それまでの研究成果を公表していくことが目標であり、一応その目標達成することはできたと判断する。女性が十八世紀末において福音主義を受容していく過程で、宗教的な要素ばかりではなく、感受性文化の中で受容し、さらに慈善活動や消費活動といった社会行動へと応用し、さらには日記や詩、小説といった文学においても宗教的感性を発露させていったことは重要な意義を持つことを確認した。文学において宗教的要素は軽視される傾向が強いが、とくに十八世紀後半からのイギリスにおいて福音主義の及ぼした影響は広範囲かつ甚大であり、それが行動様式のみならず言説上にもはっきりとした痕跡を残しているのは当然といえば当然なのだが、クエーカーの女性はもちろんのこと、ユニタリアン派の女性の言説においても露骨に政治的な意味をもってその痕跡が残っているのは学術上新しい発見であったと言ってよい。また、ハナ・モアのような国教会福音主義者たちの言説には、福音主義が単に慈善や政治イデオロギーと結びついているのではなく、女性たちを「公共圏」へと参画させる推進力を保持していることが証明できた。一年のほとんどを国内における資料調査を行いながら、学会発表は論文執筆に費やした。ノリッジの女性たちの文学作品と福音主義の影響、およびフランシス・バーニーの小説における慈善と福音主義の関係については、12月末から調査・研究をはじめ、2月に3週間にわたる海外資料調査を行って国内にない資料調査を行った。それらについての論考は現在投稿中であり、来年度に公表される予定である。
著者
三輪 眞木子 河西 由美子 松嶋 志津子 中村 百合子 竹内 比呂也
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

内外の有識者インタビュー調査により、図書館情報専門職の学位・資格の国際的同等性と互換性の実情を把握した。専用ウェブサイトを開設し、世界各国の図書館情報専門職養成コアカリキュラムデータを収集・分析した。アジア・太平洋地域の学校図書館の国際研修プログラムを開発しセミナーの形で実施した。世界各国・地域の有識者に当該地域の図書館情報専門職教育の動向と質保障に関する論文の執筆を依頼し、論文集を編纂した。
著者
トーステン マリー
出版者
放送大学
雑誌
メディア教育研究 (ISSN:13441264)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.53-60, 1999

In the past decade, the number of NGOs (nongovernmental organizations) has risen dramatically. At the same time, various forms of media have also proliferated. At the intersection of these two juggernauts, where international organizations take advantage of media, we can look forward to new perspectives on international education new ways of critically thinking about the world. This paper will consider a documentary film that was made available to the public through satellite educational programming in the United States. Produced by an NGO, Hope is a Literate Woman (Laubach Literacy International, 1997), is available through the Adult Learning Satellite Service (ALS) of the Public Broadcasting Service (PBS), which makes a variety of media resources available to educators. As this film demonstrates, women in ten different countries use literacy programs at the local level to overcome larger problems of poverty, disease, calamity and injustice. The extraordinary determination of these women in inspires viewers to think globally about the international sharing of problem-solving skills, and about local and personal issues common to many women in both rich and poor countries.
著者
比嘉 昭子
出版者
放送大学
雑誌
MME研究ノート : multi media education (ISSN:02891220)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.67-85, 1986-03

最近(昭和60年10月)遺伝子操作で作られたインシュリン(タンパク質で,糖の代謝を調節するホルモン)の使用が許可されたことが報道された。このように第一章で概観した遺伝子操作(遺伝子工学又はバイオテクノロジーとも言う。)の一部は,既に実用化されている。遺伝子操作に必要なことは,第一に目的の遺伝子を取り出して自己増殖できるようにし,第二にそれを適当な細胞(宿主)に入れて増やすことである。こうして増やした遺伝子を再び取り出してその構造を調べたり,細胞の中でその遺伝子の産物を生産させて実用に供する。ここでは第一の技術について述べる。
著者
草光 俊雄 大石 和欣 笠原 順路 鈴木 雅之 鈴木 美津子 石幡 直樹 アルヴィ宮本 なほ子
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、イギリス帝国主義(パクス・ブリタニカ)の基盤が築かれた時代において、旅行記や見聞記、探検記を地域ごとに 7 名の研究者で手分けをしながら調査し、それぞれの地域の民族、風物、風俗の描写の背後で、イギリス人としての自意識がどのように働いているかを実証した。帝国の拡張はいわば膨張であり、海外探検は科学・文明の拡張であり、旅行記や探検記にはイギリスの覇権拡張という隠された意図と自負が潜むと同時に、異質の民族・文明との接触を通じて不安定に揺れ動いている意識が浮かび上がっている。「イギリス的なもの」(Britishness)についての意識が変容し、国民の帰属意識が再編され、多様化し、ぐらついていく実体を言説上において捕捉できた。研究遂行の課程では、海外研究者の招聘や国際シンポジウム、国際学会の開催・共催、さらに学会発表や論文のかたちで成果を問うことができた。
著者
大曽根 寛
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、当初、フランスと日本の新しい障害者政策の構造と施行実態に関する比較研究を構想していたが、両国の政策の全体系の比較検討を報告書として印刷するには到らなかった。最終年度の2010年度末に発行した報告書では、焦点を精神障害という領域に絞り、さらに職業支援に関することがらに限定した。それゆえ、最終報告書のタイイトルは「フランスと日本における新しい障害者政策に関する比較研究-精神障害者への職業支援を中心にー」としてある。また、2009年度末に、中間報告書として発行した「フランスの新しい障害者政策の紹介」では、制度・政策の詳細を示している。あわせて参考にしていただければ幸いである。
著者
田中 博之
出版者
放送大学
雑誌
研究報告 (ISSN:09152202)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.81-93, 1989-09

筆者が滋賀大学附属中学校と研究上のおつきあいを始めてもう5年近くになる。その間,特に当校の「びわこ学習」のカリキュラム開発や評価に関する研究のお手伝いをさせていただいた。(田中1987)そして本年度からは,新しく始められた「選択学習」のカリキュラム評価と改善のプロジェクトに参加する機会を得た。研究開発学校での実験的な取り組みにたいして研究者として新しいアイディアを提供したり,また具体的なデータに基づいて実践の評価を行なうことで当校の実践の基盤を固めることができればと願っている。
著者
工藤 庸子 笠間 直穂子 南 玲子 郷原 佳以
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.51-63, 2005

平成17年度に開設された面接授業「初歩のフランス語」は、まったくフランス語に触れたことのない学習者が5回の授業を通して発音の原則を覚え、簡単な挨拶を交わすことができるようになることを目標としている。また同時に、異文化を内包する市民社会という点において日本にはるかに先んじているフランスおよび広域フランス語圏について馴染んでもらうことで、「社会、文化、歴史に開かれたモティヴェーション教育」を行うことを目指している。実際の授業では、一方向的な放送授業との差異化を図り、教師と学生のふれあいを大切にし、学生の反応に応じて、また時事問題などを取り入れながら、臨機応変に授業を運営する方針をとっている。こうしたヴィジョンに則って、担当講師たちがオリジナルの共通教材を制作した。「共通教材」とは、すべての教室で共有する最小限のコンテンツであり、各講師はそれをもとに自由に授業を展開することができる。今回制作したのは、カラーの図版やイラストを豊富に用いた6ページのコピー教材と、教材の例文のネイティヴ講師による発音を録音した音声教材である。教材制作は授業計画に沿って行われた。授業計画において、初回と第2回は発音やアルファベットを丁寧に解説し、第3回から第5回までは「パリ」、「フランス諸地方」、「フランス語圏」をテーマにして会話練習等を行うこととした。そこで、それぞれの地域について分担して資料を集め、カラー教材に収めた。教材の具体的な活用については、平成17年度1学期の担当講師による授業報告を参照していただきたい。初回と最終回の授業では、フランス語および授業についてのアンケートを実施した。アンケート結果の分析によって、生きた知識を取り入れながらコミュニケーションの手段としてのフランス語の基本を学ぶ「初歩のフランス語」の試みが好スタートを切ったことが窺える。
著者
宮代 彰一
出版者
放送大学
雑誌
MME研究ノート : multi media education (ISSN:02891220)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.9-24, 1985-11

学習センター機能のいくつかにつき,発足の期間の状況を,神奈川学習センターでふりかえってみた。再視聴室や図書室の利用は,面接授業,通信指導,認定試験などの周期にあって増減し,学生の勉強の動態を物語る。この期間,未完工で手狭であったけれども,これらはよく利用されていた。学習相談は,もちろん学習にからむ話であっても,教務事務的なことや,まだ一般初歩的なことが多い。実際に相談にきた学生は実に喜んで帰るが,一方,相談希望の人の数は多くない。いづれにしても,初期段階であるから,当分は実情の把握につとめるべきであろう。
著者
中野 重大
出版者
放送大学
雑誌
研究報告 (ISSN:09152202)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.9-18, 1993-03

平成元年に改訂された小学校学習指導要領は、平成四年度から全面実施となる。その間の移行措置については、すでに特例と通達で示され、いわゆる「慣らし運転」も、いよいよ最終段階に入った。この移行措置期間の平成3年3月に、文部省は、小学校児童指導要録を改訂し、各都道府県教育委員会等に通知した。指導要録の改訂は、学習指導要領の改訂を受けてなされるものであり、新学習指導要領に基づく教育を適切に評価するために、指導要録の改訂がなされたのである。このように、新学習指導要領と新指導要録は一体のものであり、新指導要録によって、新しい学習指導要領の目指すものが、より鮮明にされたのである。「子供のよさを生かす」ということは、今次改訂の学習指導要領と指導要録の目玉の一つであり、これからの取り組みの重要な課題なのである。
著者
島内 裕子
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.156(11)-138(29), 2007

東京藝術大学大学美術館蔵「徒然草画巻」は、三巻・計五十三図の徒然絵を収める画巻である。狩野派や英派の絵師たちだけでなく、谷文晁や鳥居清長など著名な絵師も含む。本稿は、この画巻の各々の場面が徒然草のどの章段を描いているかを特定し、従来知られている他の徒然絵と比較検討しながら描き方の特徴や配列、制作意図などを考察した。本画巻には俳画風の簡略な絵が多いが、これらの絵は徒然草の文学的な雰囲気をよく捉えており、徒然絵の一つの到達点として評価できる。