著者
スチュアート ヘンリ 大村 敬一 常本 照樹 落合 一泰 佐々木 利和 岸上 伸啓 窪田 幸子 葛野 浩昭 室 淳子
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

北米、北欧、オーストラリアを中心に、先住民をめぐる異化と同化について、先住民が宗主国の主流社会とどのように異化を表象しているかを追究した。生業活動、世界観、文学、博物館展示を対象とした調査成果に基づいて、異化の方法とそのダイナミズムを提示した。さらに、先住民集団同士、そして同一の先住民集団の中で生じている異化の力学についても成果を挙げることができた。
著者
柳原 正治 植木 俊哉 明石 欽司 岩本 禎之 三牧 聖子 丸山 政己
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2019年5月に『世界万国の平和を期して―安達峰一郎著作選』(研究代表者が編者)を出版した。公表された学術論文や随筆のみならず、外交官として書き記した口上書や調書や報告書、日露戦争の捕獲審検所評定官としての調査書や判決、国際連盟や万国国際法学会での報告書、常設国際司法裁判所所長としての報告書や命令・勧告的意見に対する反対意見などを一冊にまとめた、安達峰一郎の最初の著作集である。フランス語を主とする欧文著作(書簡を含む)も巻末に一括して掲載した(100頁あまり)。この著作集の出版によって、安達の業績が内外に一層広く知られることとなることが期待される。また、6月15日には東京で、安達峰一郎記念財団の主催で「よみがえる安達峰一郎―世界が称賛した国際人に学ぶ」という記念シンポジウムが開催された。200名近くの参加者を得て、安達の思想と行動が現在の混迷する国際社会にとって持つ意義について、熱心な討論が行われた。研究代表者が基調報告を務め、複数の研究分担者も個別報告を担当するとともに、パネルディスカッションにも参加した。また、国際法協会日本支部が主催して、2019年4月27日に「日本における国際法学の誕生」という共通テーマでの研究大会が行われた。研究分担者の三牧が「大戦間期の戦争違法化と安達峰一郎」というテーマで報告を行った。海外の史料館の一次史料の収集作業も引き続き行った。ベルギーの外交史料館で再度の一次史料の収集作業を行った。これまでほとんど知られていない、黒澤二郎関連の史料をかなりの数収集できた(“Correspondance politique Japon”や13.584など)。
著者
坂井 素思 馬場 康彦 色川 卓男 影山 摩子弥 永井 暁子 濱本 知寿香
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

この研究の目的は、「生活政策学」という研究分野の可能性について、基礎的かつ応用的な模索を行うことにある。現代社会の変動は、少子高齢化やサービス経済化などを通じて、政府・市場・家計などの経済領域に対して、かなり強い影響を及ぼしてきている。たとえば、労働や社会組織のフレキシビリティ問題は、典型例である。あるいは、少子高齢社会の中での柔軟な「仕事と家庭」との社会的な調整の問題などが起こってきている。このため、今日の生活領域では、政府が行う公共政策、企業や家庭が行う経営・運営なとが「ミックスした状況」のもとで政策が立てられてきている。このような状況のなかで、これらの社会変動のもたらす弊害に対して、総合的な視点が求められている。このような変動する社会の不確実な状況に対して、一方では市場経済のなかで個人がそれぞれ能力を高めて、これに対処することが求められ、他方で個人では対処が困難なときには、公共政策が企てられてきている。実際には、このような二つの領域が接するところで、はじめてこれらの行動原理が調整される必要があり、ここに生活政策学が求められる可能性がある。基礎的な研究作業では、「生活政策」とは何かについての理論的な研究の展望が行われた。従来、「政策」とは政府が中心として私的分野へ介入を行うような公式的な施策が基本的なものであった。けれども、今日では政府以外の組織によって行われるインフォーマルな施策にも、「政策」と同等の位置づけが行われるようになってきている。このような状況のなかで、これらの複合的な政策に関する整合的な理論が求められている。「生活政策学」に関する応用的な研究を行う段階では、それまで行ってきた基礎的な研究、その性質についておおよその見通しが得られたので、これらの成果を基にして、公共領域と市場領域、市場領域と家計領域、さらに家計領域と公共領域などに見られる中間的な組織や経済制度を対象に選んで、「事例研究」を進めてきている。このなかで、国や地方公共団体のIT政策の生活政策的意味についての検討を試みた研究、または、成果主義や裁量労働制などが導入されている現代における労働生活過程のシステム転換について考察を行った研究、あるいは、生活領域における「ケア」のあり方のなかに、社会の中間的な組織化の原理があると考え、このようなケア組織化の特性についての研究、さらには、平成不況の特質について、現代日本の家計構造を調べることで明らかにしている研究などの成果が上がってきている。
著者
近藤 成一 海老澤 衷 稲葉 伸道 本多 博之 柳原 敏昭 高橋 敏子 遠藤 基郎 渡邉 正男 神野 潔 野村 朋弘 金子 拓 西田 友広 遠藤 珠紀 山田 太造 岡本 隆明
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

未刊古文書釈文作成のための協調作業環境を構築することにより、未刊古文書の釈文を歴史学のコミュニティにおいて協同で行うことを提起し、史料編纂のあり方について新たな可能性を模索するとともに、歴史学のコミュニティの実体形成にも寄与する基礎とした。釈文作成のために外部から自由な書き込みを許す部分と、作成された成果を史料編纂所の管理のもとに公開する部分を構築し、前者から後者にデータを選択して移行するシステムを設けた。
著者
徳井 厚子
出版者
放送大学
雑誌
メディア教育研究 (ISSN:13441264)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.115-127, 2002

小論では、日米学生の討論場面をビデオ録画したものを参加者と共に振り返るプロセスリコールの実践例を紹介し、その有効性を述べたものである。プロセスリコールは、録画したビデオを視聴しながら、討論に参加した被験者がコミュニケーションスタイルや心理状態を振り返りながら、それらを討論に参加した学生が他の参加者と意見を共有する方法である。当実践の有効性として、以下の3点が挙げられた。1)異文化摩擦の場面を参加者自身が分析することにより、自ら意識的に摩擦の過程を解明し、解決する能力を養うことができる。2)振り返りの過程を他者と共有することにより、多様な立場から摩擦の要因を考えることが可能である。3)映像を利用することにより、より具体的、視覚的に討論場面が喚起され、非言語的側面も含め、相互作用の過程のより詳細でかつ客観的な観察が可能であり、場面をモニターする能力が向上する。また、プロセスリコール後のアンケートでは、異文化接触における対面相互作用の過程をより客観的に分析し、摩擦の原因、解決方法について考察するものが多くみられた。
著者
若松 茂 関口 修 若松 伸夫 永山 陽一 荒川 新一郎
出版者
放送大学
雑誌
放送教育開発センター研究紀要 (ISSN:09152210)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.151-164, 1995

Experiments on a lifelong learning system were carried out in a rural district in Fukushima prefecture, by an audiovisual learning with video programs of the University of the Air which were followed occationally by the tutoring session at a distance with a 64/128 kbs compressed interactive video via ISDN (INS-Net64). During the course of pedagogical examinations, it was found that the tutoring session at a distance was quite acceptable for students on condition that sound was good, that a statue of teacher as big as lifesize was shown on TV, and that interaction was sought between teacher and students during session. Since the foregoing compressed video via ISDN is cost effective, through this study it appears that practical use of interactive video can effectively be realized in lifelong diatance learning.
著者
高橋 和夫
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.23-33, 1997

ペルシア湾情勢の将来を語ることは,専門家のする事ではない.この地域は,予言者の墓場である.いわく,イランの王制は安泰である.いわく,イランの革命政権は短命である.いわく,イラン・イラク戦争がイラクの短期間での圧勝に終わる.などなどである. しかし,その将来を敢えて展望して見ると,不安定な要素が多い.四つの変化の流れが合流してアラビア半島諸国を洗うだろう.それは,人口爆発,石油収入の低下,アメリカ軍の存在が引き起こす民族・宗教感情高まり,そして指導者の世代交代である.またイラクではサッダーム・フセインの独裁が続いている.しかし,この長期不安定政権にもいつかは変化が訪れるであろう. こうして見ると,ペルシア湾岸諸国で一番安定感があるのはイランである.そのイランでは緩慢ながらも革命熱の低下するプロセスが進行してる.革命体制の「進化」が起こりつつある.この進化に注目して,イランとの批判的な対話を進める日本やEUと,イラクとイランの同時封じ込め,いわゆる「二重封じ込め」政策を掲げるアメリカとの間に齟齬が生じている.イランの国内情勢の変化に対応した「進化」が,アメリカのイラン政策にも求められている.
著者
島内 裕子
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.132(1)-122(11), 2011

吉田健一には、神戸とその周辺の土地の食べ物や酒について書いたエッセイがある。それらのエッセイの記述の背景には、当地を案内してくれた須磨在住の詩人・竹中郁の存在があった。竹中郁が書いた同様のエッセイと読み比べながら、吉田健一の神戸周辺の「味わいエッセイ」を検証すれば、そこに選ばれている食べ物や店の選択に、竹中郁が大いにかかわっていたことが明らかになる。このことはそのまま、吉田健一の記述に対する注解ともなり、吉田文学をより深く理解するための一助となろう。
著者
スチュアート ヘンリ 岸上 伸啓 窪田 幸子 大村 敬一 齋藤 玲子
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

4年間の研究調査機関で、1)カナダおよびグリーンランド政府の先住民メディア政策の歴史と現状に関する調査を行った、2)同国およびヨーロッパ7ヶ国の博物館・美術館展示におけるかつての植民で支配されていた先住民の表象に関する比較研究を実施した、3)映画、ビデオなどの媒体による過去の先住民の表象と、先住民自ら制作している映像に関する比較研究によって、古いステレオタイプが改められている一方で、先住民が提示するステレオタイプがあることを明らかにした、4)極北のイヌイト村でのテレビ、ラジオ、電話というメディアの利用に関する調査研究の成果として、そうしたメディアには社会的な役割が認められた、5)北アメリカ先住民文学について、資料収集および作家のインタビューを行ない、新しい動向を探った。以上の調査を通じて、先住民メディアにおいては文字媒体が低調になりつつある一方、インターネットやハンディキャム(ビデオ・カメラ)による電子媒体を通じて自らを表象する傾向が顕著になっていることが明らかになった。また、博物館・美術館学の視点からではなく、メディアとして調査した新しい試みを実施した。その視点から調査した結果、先住民の表象は、植民地史のあり方によって大きく異なっていることがわかった。
著者
蘇 雲山 河合 明宣 奥宮 清人 Tetsuya Inamura Yumi Kimura Kiyohito Okumiya
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.33, pp.45-67, 2015

高所では一般に、エネルギー摂取量が低い一方、運動量が多いため、糖尿病や高血圧などの生活習慣病はもともと少ないと考えられてきた。しかし、生活スタイルの変化によって、近年、急激に生活習慣病が顕在化してきた。そこで、本研究では、インド・ラダーク地方に焦点を絞り、文化人類学と栄養学と医学の共同により、高所環境に対する人間の医学生理的適応と生態・文化的適応を明らかにし、そして、近年の変化によって適応のバランスがどのように崩れ、それが高所住民にどのような影響を及ぼしているかを明らかにすることを主な目的とした。 本稿では、まず、ラダークの都市レー(標高3600m)の概要、チャンタン高原(標高4200-4900m)の遊牧民とドムカル谷(標高3000-3800m)の農民・農牧民の伝統的生活とその変化、及びその背景について論じる。つぎに、それぞれの地域で実施した健診調査のうち、栄養学調査の結果、および分析について論じる。 チャンタン高原の人びとは、以前はヤクとヤギ・ヒツジの遊牧と交易によって生計を立ててきた。遊牧については、基本的に固有のシステムが継承されている。一方、かつて行われていた、北のチベット、西のザンスカル等との長距離のキャラバン交易は、消滅した。 ドムカル谷では、農耕とともに、ヤク、ゾモ(ウシとヤクの交雑種)、ゾー(ゾモの雄)、バラン(在来ウシ)などの移牧が行われてきた。ドムカルにおける農牧複合は、この地方の厳しい自然環境に適応した、独自の特徴を持っている。それは相互扶助などの社会システムによって支えられてきた。しかし、若者が軍関係の仕事につくため、村外に出ることが多くなり、家畜の飼養は急激に減少し、むらの生活も近代化して大きく変化してきた。その背景には、中国との国境紛争、舗装道路の開通、政府による食糧配給による援助、さらに、レーの都市の拡大・観光化や軍の需要などによる市場経済化などがある。 ラダークにおける食事調査により、高所環境という食料入手の困難な環境を反映した、質・量ともに乏しい栄養状態を明らかにした一方、レーやドムカルでは過栄養やこれに関わる生活習慣病も見過ごせない問題となっていることが明らかになった。さらに、栄養摂取と糖尿病との関連を分析すると、エネルギー摂取量の多い人だけではなく、少ない人にも糖尿病がみられた。エネルギー摂取量の少ない人では、食品摂取の多様性が少なく、炭水化物に偏った食事内容になっていることも要因の一つと考察できる。 現在の人々の食の嗜好からも食事の変化をみてとることができた。特に大麦から米・小麦への主食の転換は、元来の高所住民の伝統的な食生活の中心を大きく変えるものであり、生活習慣病の増加の一因となることが懸念される。伝統的な食生活を見直すこと加え、野菜などの摂取頻度の少ない食品群の補強がうまく行われること、さらに健康に関する知識の向上が今後ますます重要になると考えられる。
著者
島内 裕子
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.33, pp.158-145, 2015

本稿では、近世に出版された徒然草の注釈書の中から、『徒然草吟和抄』(1690年刊)に焦点を当て、その注釈態度を考察する。 本稿が『徒然草吟和抄』に注目するのは、十数種類の注釈書の注釈内容を集約した『徒然草諸抄大成』(1688年)が成立した以後の注釈書であること、および、挿絵付きの注釈書であることの二点から見て、徒然草の注釈書の中で、独自の位置を占めると考えるからである。 この二点に着目して、『徒然草吟和抄』の注釈態度を考察することで、「諸抄大成以後」における徒然草注釈書の可能性を見極めたい。さらには、『徒然草諸抄大成』に集成された注釈書の中から、どの注釈書が、『徒然草吟和抄』において、参照・摂取されている頻度が高いかが明らかになれば、徒然草注釈書の中で、後世に残ってゆく注釈書の特徴も明確になるであろう。 『徒然草吟和抄』は、これまで徒然草注釈書の中で、あまり注目されてこなかったように思われる。それだけに、近世における徒然草注釈の全体像を概観するための、一つの具体例として、貴重な存在であると思う。
著者
道家 達將
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

津山藩主森家に仕えた久原宗清良政に発し、その後藩医となった初代久原甫雲良賢(亨保5[1720]年没)から、9代目久原宗甫(明治29[1896]年没)に及び久原家は、代々藩医を勤めた医家であった。その医術は、漢方だけでなく、南蛮流、まだ和蘭流(蘭方)にも及び、時代と共に、新らしい医学を学び続けた名門である。筆者はとくに、宗甫について調べるとともに、宗甫の長男久原躬弦および次男茂良(本籟)について、その手紙、日記、関係者の写真等について調査し、整理した。長男躬弦は、藩の貢進生として大学南校に学び東大理学部化学科を卒業(1877年第1回生卒)、東大教授、京大教授また総長となり、明治期のわが国の化学の開拓者として働いた。次男茂良は、町の医者として献身的に働いた。この二人の業績を明らかにするとともに、久原家の代々の系譜、また子孫についてもかなり明らかにすることができた。これは、ひとえに、茂良の娘涛子女史(彫刻家)の協力によるものである。久原躬弦の直系の孫久原輝夫(東京工業大学建築学科を昭和16年に卒業後、戦時中に死亡)についても明らかにし得た。