著者
菅 靖子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.11-20, 2004-09-30

本稿は19世紀から20世紀にかけて日本の「美術製造品」のイギリスヘの輸出に関わっていた商社の相互関係や本国での活動に着目し,後期ヴィクトリア朝からエドワード朝にかけて同国における日本趣味を支えたインフラストラクチャの一端を解明することを目的とする。そのためにイギリス・日本の両国に活動拠点をもっていた3つの人脈,マリアンズ,ストロームとロットマン,そしてホームとセールを中心に築かれた諸商会の経営体制を検証する。彼らが縁戚関係あるいはパートナーシップを通して経営していた諸商会は,名称変更こそあったが,しばしば数年で消えてゆく当時の外国商会の高い破産率を乗り越えて比較的継続した活動を展開した。その要因のひとつには,これらの同業者達のあいだに代理店制度など直接の相互関係があったことがあげられる。雇用主や従業員の繋がりや店舗や在庫の引き継ぎからなるこうした横のネットワークは、イギリスの日本趣味の流通を支えた一要素であった。
著者
井磧 伸介 宮崎 紀郎 玉垣 庸一 李 震鎬
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.71-78, 1996-05-31
参考文献数
11

近年の雑誌広告ではカラー表現が一般的であるが,モノクロ写真を取り入れた広告も少なくない。本研究は,カラー全盛とも言える現在の広告表現において,モノクロ写真を使用した雑誌広告がどのようなイメージで受け取られるのか調査を行ない,モノクロ写真を使用する効果を検討するものである。まず,収集した雑誌広告を配色や構図などで分類し,代表的な広告サンプルを選び出した。次に,これらのサンプルについてのイメージ調査を20代前半の男女70名に対してSD法によって実施した。その結果,整然性,鮮明感,重厚感の3つの因子が抽出された。このうち,「まとまった」,「静かな」等の形容詞のみならず,「好きな」,「美しい」といった形容詞とも相関の高い整然性因子では,モノクロ写真を使用した広告がカラー写真を使用した広告より高く評価され,文字や製品写真にカラーを重点的に使用すれば,さらに評価を高めることが判明した。これは,モノクロ写真とから部分との対比が,それぞれをより際立たせた結果であると推測される。
著者
奥野 淳也 岩井 将行 瀬崎 薫
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.60, 2013

SNSの普及に伴い,現代では日々膨大なデータが蓄積されている.これらのデータの中には,ユーザの行動や興味に関する情報が含まれている.ユーザに関する情報は,都市計画やマーケティング等の分野から注目され,様々なデザインにおいても重要視される.一方で,現代におけるリサーチ手法はパーソントリップ調査に代表されるようなアンケートやワークショップが主流である.これらの手法では参加者の偏り,コスト面,実施期間といった点における問題が指摘されている. このような背景を受けて,SNSやブログからの情報抽出に関する研究が活発に議論されている.これらの研究の多くが,特定のキーワードや人物,地域に関する情報に注目しており,ユーザが意識的に共有する情報だけでなく,潜在的に共有あるいは保持している情報に注目しているものは多くない.本研究ではユーザ自身のSNS上の情報に対する認識範囲に注目し,SNSにおけるユーザの情報の認識範囲を視覚的に把握する手法について提案し,評価を行った.その結果,ユーザが意識していなかったSNS上の情報を把握することができた.今後は考察により明らかとなった課題の改善と,より多くのユーザが利用できるようにアプリケーションを公開することで,行動情報に関するリサーチ手法の一助となるよう研究を継続したい.<br>
著者
庄山 茂子 浦川 理加 江田 雅美
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.87-94, 2004-03-31
被引用文献数
1

本研究は、女子学生のリクルートスーツにおいて、シャツの色彩の違いが、服装メッセージにどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。調査に用いた試料は、ベーシックなdark Grayのスーツにオープンカラーのシャツである。12色のシャツの色について調査した(ペールトーン10色と無彩色2色)。調査対象者は、就職活動中の女子学生166名と採用者側の銀行員157名とした。女子学生が着たい色、採用者側が好感を持つ色について回答を求めた。それぞれの色について、25対の形容詞を用いてSD法によるイメージ評価をしてもらった。その結果、女子学生が着たい色および採用者側が好感を持つ色の上位は、White、Blueであった。因子分析の結果、女子学生は、着たい色に「洗練」や「知性」を求め、採用者側は交換を持つ色に「誠実さ」を感じている事が明らかとなった。シャツの色彩の違いにより異なる服装メッセージが認められた。
著者
斎藤 共永
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.55-62, 2002-05-31

本稿では、多様な可能性を秘めたデジタル機器のデザインにおいて、イノベィティブなデザイン生成のための方法としてのプロトタイピングについて検討する。プロトタイピングのもつ意味は、次の諸点にまとめられた。1)プロトタイピングの文化はイノベーションの質を決定づける。2)デジタルの価値創造においては、非線形的なプロトタイピングの役割が大きい。3)それは、デジタルの価値が、主に非モノ特性からなることによる。4)プロトタイプからスペックを導くプロトタイピング主導型のプロセスが必要である。5)プロトタイプは、開発過程における共通言語となる。これらを検証するために、企業のデザイン組織において、プロトタイピングがどのように行われているか調査を行った。その結果、技術や社会の変化を考慮に入れて、製品のあるべき姿を描くというプロトタイピングが、企業の開発プロセスや、組織構造などの中に組み込まれており、プロトタイピングが、これからのデザインプロセスとして、有効であるとの認識が定着しつつあることが分かった。
著者
樋口 孝之 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.1-10, 2004-01-31
被引用文献数
2

「意匠」の語としての由来は、3世紀後半に、文章の構成の進めかたを説いた陸機『文賦』という漢籍にあり、8世紀に、杜甫が詩のなかで画の構想を苦心して構想する描写に用いた用例が広<知られる。それらの解釈は、作文や絵画の制作における「構想」「旨趣」として理解される。日本では、漢籍からの解釈が学ばれる一方で、字義の訓から、「こころだくみ」「こころのたくみ」としての解釈がなされる。このときの「たくみ」は、「匠」の字義からではなく、ヤマトコトバの語義で理解されたものとみられる。明治初期に、作文や絵画の制作に関する表現以外に、普遍的な思考・思想の上での「考案」や「工夫」といった意味で用いられたことが確認された。「意匠」は、明治の初期には多用されることばではなかったが、明治中頃になって、一般的に用いられるようになっている。Designの対訳語として用いられる以前に、日本語語彙のなかで使用された漢語としての語義の構造があきらかになった。
著者
林 孝一 馬場 亮太 御園 秀一 小野 健太 小原 康裕 渡邉 誠
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.6_39-6_48, 2014-03-31 (Released:2014-06-10)
参考文献数
25

60年近い歴史をもつ東京モーターショーに出展されたショーカーはそれぞれの時代の社会変化を鋭く反映してきた。本研究は各ショーカーの訴求ポイントをグループ化し、そのコンセプトを、「性能」、「社会対応」、「サイズ」、「付加価値」の4カテゴリーに分類し考察を加えた。その結果、日本の自動車産業とデザインの変遷は7つの時代に分類して精査していくことが適切であるとわかった。さらにその時代ごとのデザインへの期待や役割の変化が以下の4つに区分される事も判明した。1954~70年:欧米のライフスタイルに追従するドリームデザイン、1971~84年:機能とデザインの融合により意味と独自性があるデザインの創生、1985~2008年:製品多様化と市場の飽和を背景とした新規性コンセプトの探求とデザイン領域の拡大、2009年~現在: 環境問題や高齢化を反映した車の次世代モビリティーとしての再構築である。この様に社会情勢の変化に応じたデザインへの期待、役割の変化を明らかにした。
著者
小野 英志
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-10, 1998
参考文献数
58

スタンリ・モリスンは, ゴランツ書店の斬新なブック・ジャケットによって知られるデザイナーあるいはアート・ディレクターであると同時に, 印刷・出版の歴史に関する深い学殖を備えた研究者でもある。1932年に発表され, 現在では最もポピュラーなローマン書体とも見做すことのできるタイムズ・ニュー・ローマンの開発経緯を例として, 彼の書体開発態度を, その著作を通じて検討した。その結果, 書体開発における彼の態度は, ブック・ジャケットのデザインのような場合とは異なり, たいへん慎重かつ保守的であり, そのことがまた彼の書体観ないし書体史観の反映であることが了解された。モリスンにおいてこうした態度を支えているものは, 文字の歴史に関する該博な知識と, それが差し示す書体の正統的形態を尊重する姿勢である。
著者
村山 久美子 山下 利之
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.92, pp.13-20, 1992-07-01

本研究では美術大学生のキャリアの成功を援助するという目的を持った創造性開発訓練コースにアートセラピーの技法を応用している。「美的表現訓練」と名づけたコースは9週間のセッションから構成された。プログラムの中心は成功のためのイメージトレーニングの考え方を応用して,過去の成功イメージに相当する過去の絵の再現,現在の問題に対処するためのフォーカシング技法を用いた表現を2回,未来の成功イメージに関連する将来作りたい作品のスケッチ,というテーマを用いた。さらに代表的なアートセラピー技法として風景構成法を加え,またコースの前後には訓練効果を測定する意味でK-H-T-P描画テスト(Kinetic-House-Tree-Person Drawings)と美的関心度テストと自己評価尺度を繰り返した。美的関心度テストにはコースの効果が明らかに見られた。また自己評価の改善にも若干の改善をもたらした。
著者
金 恩子 宇野 英隆
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.19-24, 1999-03-31

スチュワーデスは航空機という限られた空間と時間の中で多種多様な仕事をこなさなければならない現状にある。最近, スチュワーデスの腰痛の問題が労働災害として表面化し, 作業空間の改善が求められているところである。そこで本研究ではスチュワーデスの主な作業空間であり, 航空機内の台所と言われるギャレー空間の再構築を目的に, スチュワーデスの作業内容やギャレー空間の特徴を調べた。さらに住宅用の台所との比較を通して, 人間工学的な考察を行った。その結果, ギャレー空間は調理や洗浄をしないこと, 一度に何十人もの食事を準備すること, 狭い空間の中に膨大な量の搭載品を収納していることなどから, 台所というよりはむしろ収納室に近い空間であることがわかった。また, ギャレー空間は十分な作業領域と十分な通路領域が確保できないほどの狭い空間であった。さらにギャレー空間はその構成要素の一つであるカートの出し入れによって, 空間的大きさが刻々と変化することが分かった。最後に本研究によって得られた知見をもとに, 今後の研究課題を示した。
著者
池田 マイケル
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.11-18, 2008-01-31
被引用文献数
3

本研究は本文用欧文書体を通して、SD法を用いた印象評価実験を行うことにより、通念的な印象と、実際の印象の整合性を検証した。また、それをすることによって、書体のもつ造形的特徴が、どういった印象を誘発しているのか関連性を探った。今回の実験では、用途別、国別、様式別という選定基準から選出した、Gill Sans、Futura、Frutiger、Caslon、Didot、Palatinoの書体に対して、SD法データに基づいた因子分析とクラスタ分析を行った。その結果、書体の印象を説明しうる共通因子として「穏和性と曲線美」、「完全性と均衡美」、「重厚性と品格美」、が抽出された。それらをもとに分析を進め、最終的に「書体の通念的印象と実際の印象は、ある程度は一致するが、そうでない部分も多い」、という結論に至った。また、装飾性の低さと、ストロークが均一であることが「読みやすい印象」を誘発する最も強い造形的特徴であることも分かった。
著者
山本 政幸 石川 重遠 後藤 吉郎
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究. 研究発表大会概要集 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.56, pp.258-259, 2009-06-20

This study concerns the development of Gothic types in the ninteenth-century U. S. A., focusing on the formation of American Type Founders Company, the biggest type vendor which was consolidated from twenty-three small foundries. It refers the old-taste Gothic types, produced by regional foundries, that aquired lower-case and Italic characters. Then it makes clear the process of amalgamation of foundries into ATF Company which had newly organised type design section. Last it concerns the work of Morris Fuller Benton and his type desgin especially about Gothic types including Franklin Gothic (1902), Alternate Gothic (1903), News Gothic (1908), and Lightline Gothic (1908).
著者
全 聖福 釜堀 文孝
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.31-38, 2004-01-31
被引用文献数
3

大型スパーマーケットとショッピングセンター、コンビニエンスストアなどの出現は私たちの消費パターンを変化させ、そのため多くの企業が自社商品の広告やデザインに莫大な費用を投資している。これらの販売形式は消費者にいかに自社商品を認識させるのかが重要であり、特に多くの商品を陳列している陳列台で消費者に強い印象を与えるか否かは企業の自社商品の購買をうなかす大きな役目をはたしている。本論文は食品や生活用品購入において商品の消費行動はどんな動機と媒体によって影響を受け、商品においてどんな要素を重要だと思うのかについてその要因を蔚山(ウルサン)大学の学生52入に対して調査を行い、分析した。その結果、商品購入においては「色相」と「パッケージデザイン」が重要視されており、要素としては「品質」が最も重要視され、購入するタイプでは「広告でよく見た商品を購入」「陳列している商品を見て購入」するのが非常に高いことがわかった。又,広告媒体についてはTV広告が全体の2/3を占めるほどに大きい影響を及ぼしているという結論を得た。
著者
梁 根榮 赤瀬 達三 桐谷 佳惠
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.21-30, 2010-07-31
参考文献数
13

日本は世界で有名数の地震多発地帯にある.2005年1月1日を起点として,今後30年以内に震度6弱もしくは震度5弱以上の揺れに見舞われる確率も高い.そこで,本研究は日本に住んでいる外国人の災害に関する情報の伝達状況などを把握し,実際にどのような支援が必要かを知ることにより,災害時に必要な情報と問題点を調査した.その結果,在住外国人は災害について,具体的な災害の知識はもっているが実際の対策はあまり行っていないことが明らかになった.災害が発生した場合や発生の恐れがある場合,正確な情報を得ることが防災や減災を図るために非常に重要である.しかし,在住外国人は日本語によるコミュニケーションが十分にできないことが多いため,情報提供に関し、外国人への災害防災教育等の様々な提案が必要であることが示唆された.
著者
蓮見 孝 松井 彩乃 .tud
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究. 研究発表大会概要集 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.52, pp.238-239, 2005-05-30

This study is a basic research for people's image structure of good QOL(Quality of Life) to develop some research for QOL and its measurement for participatory designing. Cards filled with wishing matters were collected with help of graduating students. Then cards were analyzed by Kansei-based workshop and classified 3 groups as Physical activity, Social communication and Lifespan-management. The 3 axes QOL Map was drawn out from the result of analysis of wishing matters. We will make another research for measuring social effects of participatory designing project using the 3 axes QOL Map.
著者
宋 基正 宮崎 清 朴 燦一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.37-46, 2011-01-31

本小論では、全羅北道淳昌郡において2005年から展開されている地域革新体制(RIS:Regional Innovation System)に関する現地調査に基づき、当該地域の伝統的生活文化を活かした内発的地域振興計画の特質を考察したものである。伝統的な醤類づくりを基底に据えた淳昌における地域づくりは、以下の特質を有している。1)淳昌では、当該地域の自然・風土のなかで育まれてきた韓民族の伝統食文化である醤類産業を淳昌のアイデンティティーととらえ、その生活文化の産業化を通した地域振興が展開されている。2)核家族化の進行につれてかつての醤類の自給自足形態が脆弱化したことにより、住民-自治体-中央政府の連携的事業展開がなされてきた淳昌の伝統的醤類産業は、今日では韓国における不動の醤類産業としての地位を淳昌にもたらしている。3)淳昌における醤類産業を基底に据えた地域振興が今後とも持続的に展開・進展していくためには、醤類づくりの原材料生産を協働して実施する地域住民の意思と実践、ならびに、その協働を基点として形成される人びとの醤類に対する価値認識の共有化が不可欠である。