- 著者
-
是枝 雄二
- 出版者
- 日本大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1993
1)GTase-Sは透析BHI培地培養上清を硫安塩析,DEAE-SephaphacelおよびCM-celluloseのイオン交換クロマトグラフィーに供して,また,GTase-Iは1%硫安添加M4培地培養上清を硫安塩析、CM-celluloseイオン交換クロマトグラフィーおよびToyopearl HW-55ゲルクロマトグラフィに供して分離精製した.最終標品はいずれもSDS-PAGE的に均一であり,推定分子量はそれぞれ145kDa,160kDaであった.2)唾液被覆HAデイスクに対するS.sanguis菌体の吸着は,粗酵素標品の唾液への添加により顕著に促進され,吸着率は添加酵素量の増加とともに増大した.なおこのような吸着促進はショ糖存在下で菌体を長時間(10時間以上)インキュベーションすることが必要であった.3)GTase-Iの純化標品の添加によっても粗酵素と同様のS.sanguis菌体の著明な吸着促進が認められた.これに対し,GTase-S純化標品にはそのような吸着促進は認められなかった.4)S.milleri菌体に関しては,粗酵素標品,GTase-IおよびGTase-Sの純化標品のいずれにも菌体吸着を促進する作用は認められなかった.しかし本菌は,GTase-Sを含む酵素標品で前処理することにより,GTase-I添加唾液で被覆処理したHAデイスクに対する吸着性を獲得した.以上の結果,歯垢の主要構成菌であるS.sanguisは,S.mutans由来のGTase-Iの酵素作用で人工ペリクルに強く吸着すること,その吸着は,菌体結合性GTaseとペリクル中のGTase-Iとの協同作用によるde novoグルカン合成を介してなされること,外来性GTase-Sを表層に結合したS.milleriは同様の機序でペリクルに吸着することが明かになった.これらの結果より,血清型c S.mutansのGTase作用による歯面獲得ペリクルへの菌体吸着系が,歯垢形成の初期過程に機能していることが示唆された.