著者
中村 康則 向後 千春
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.44, no.Suppl., pp.77-80, 2021-02-20 (Released:2021-03-08)
参考文献数
11

本研究では,セルフ・ハンディキャッピング(SHC)とハーディネスの特性に注目して,社会人学生を類型化し,その成績・学習時間との関係について検討した.クラスター分析によって分類した結果,学生は「高SHC 型」「時間不足SHC型」「低SHC 型」の3タイプに類型化された.これらの3タイプにおける成績・学習時間の差を検討したところ,「高SHC 型」の成績は,他にくらべ有意に低いことが示された.また,「低SHC 型」は,学習時間が他にくらべ有意に長く,成績は「高SHC 型」よりも有意に高いことが示された.本研究で示された学生の類型を用いることにより,成績や学習時間の傾向を予測できる可能性が示唆された.
著者
児玉 佳一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.283-296, 2019-01-20 (Released:2019-02-02)
参考文献数
31
被引用文献数
2

本研究はグループ学習中における教師のモニタリングとサポートの特徴について,小学校5年生1学級における社会科の調べ学習の授業観察および教師への再生刺激インタビューにより事例的に検討した.教師にはウェアラブルカメラを装着してもらい,教師の視野からの授業映像の収集を行った.分析の結果,単元の前半では児童の学習への参加状況や学習者像を掴むために俯瞰的なモニタリングを行っていることが示された.内容面へのモニタリングは,「進行表」というツールを基に行っており,サポートについても進行表を媒介して行っていた.また,軌道に乗せたいという想いから,数多くまたは長めの教師から関与するサポートを提供していた.単元の後半では,リソースの配分に意識を向けて,グループ間差を捉えようとモニタリングを行っていた.また,軌道に乗ってきたという心的余裕から,サポートをしながら他グループへのモニタリングを行う様子も見られた.
著者
加藤 由樹 加藤 尚吾 杉村 和枝 赤堀 侃司
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.403-414, 2008-03-10 (Released:2016-08-04)
参考文献数
27

本研究では,テキストコミュニケーションの受信者の感情面に及ぼす感情特性の影響について検討するために,電子メールを用いた実験を行った.本実験の被験者は,42名の大学生であった.彼らを,無作為に2人1組のペアにし,電子メールを使ってコミュニケーションを行ってもらった.そして,電子メールを受け取るたびに,どんな感情が生じたか(感情状態)と,送信者の感情状態をどのように解釈したか(感情解釈),について尋ねる質問紙に回答を求めた.また,感情特性の指標である個別情動尺度-IVによって被験者を3群に分類し,受信者による感情解釈と受信者の感情状態の関係と,送信者の感情状態と受信者による感情解釈の関係を,3群で比較した.結果,これら二つの関係は,受信者の感情特性の影響を受けることが示された.結果から,テキストコミュニケーションで生じる感情的なトラブルの原因を考察した.
著者
小山 義徳
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.351-358, 2009-02-20 (Released:2016-08-05)
参考文献数
23
被引用文献数
2

英文速読指導が大学生の英語リスニング能力の伸長に効果があるか検討を行った.まず,予備実験を行い,英語リスニング得点高群と低群の英文読解時の読み戻り数を比較した.その結果,高群は低群と比較して読み戻り数が少ないことが明らかになった.本実験では速読訓練を行うことで読み戻り数が減少し,入力情報を継時的に処理するスキルが向上することで英語リスニング能力の伸長につながるのか,ディクテーション訓練との比較検討を行った.8週間の間,速読群(24名)には週1回10分間の英文速読訓練を行い,ディクテーション群(18名)には8週間の間,週1回10分間のディクテーション訓練を行った.その結果,ディクテーション群のリスニング能力は伸びなかったが,速読群のリスニング成績が向上し,英文速読訓練を行うことで読む速さが向上するだけでなく,副次的に英語リスニング能力も伸長する可能性があることが明らかになった.
著者
楠見 孝 西川 一二 齊藤 貴浩 栗山 直子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.265-275, 2020-10-10 (Released:2020-10-15)
参考文献数
12

本研究の目的は,プログラミング教育の授業実践に対する小中学校教員の意欲とその規定因を解明することである.小中学校教員633人にWeb 調査を行った結果,プログラミングを教える機会をもちたい小学校教員は1/3であった.残りの2/3の教員に,教える機会をもちたくない理由を尋ねたところ,半数の教員がプログラミングについてよく知らないこと,他の仕事が忙しいことをあげていた.回答者のうち,コンピュータ不安をもつ者は3割,コンピュータを苦手とする者は半数であった.パス解析によって,プログラミング教育の授業実践に対する意欲の規定因を分析した結果,(a)プログラミングスキルが高いことが人-AI の協働社会への肯定的認知に影響し,教育効果への期待を高め,教育に関与する意欲を高めていた.一方,とくに,小学校教員では,(b)プログラミングスキルの低さが,コンピュータ不安や固定的マインドセットを介して,教育への関与の意欲を低下させていた.
著者
泰山 裕 堀田 龍也
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.44070, (Released:2020-12-21)
参考文献数
22

平成29・30年改訂学習指導要領において,情報活用能力は学習の基盤となる資質・能力と位置付けられ,教科等横断的な育成が求められている.しかし,各教科等の学習活動を通して指導可能な情報活用能力やその各教科等相互の関連は十分に整理されていない.本研究では,文部科学省による情報活用能力のIE-School体系表をもとに小学校,中学校,高等学校の各教科等の学習指導要領本文を分析した.分析の結果,各教科等にはIE-School体系表で整理された情報活用能力の項目のうち「問題解決・探究における情報活用の方法の理解」が多く求められているのに対して,操作技能や情報メディアの特徴,情報モラル等の知識及び技能,態度などは,各教科等の学習と対応づく数が少ないことが明らかになった.また,各教科等の学習活動を通して指導可能な情報活用能力とそれらの各教科等相互の関連が明らかになった.
著者
緒方 広明
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.221-231, 2018-01-31 (Released:2018-02-05)
参考文献数
29

近年の情報通信技術の発展により,大学教育において,e-Learning の導入など,教育の情報化が推進されており,授業内外を問わず,教育・学習活動に関する膨大な量のデータが急速に蓄積されつつある.本稿では,このような教育・学習データの蓄積と分析を目的とした,ラーニング・アナリティクスの研究の概要を紹介する.また,先端事例として,九州大学における教育改善と学習支援を目的としたラーニング・アナリティクス研究について述べる.
著者
古賀 竣也
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.43086, (Released:2020-06-01)
参考文献数
30

研究の目的は,統計的リテラシーにおける批判的思考態度の構造を明らかにすること,および統計的リテラシーのスキルに関係する批判的思考スキルは何かを明らかにすることである.まず,質問紙調査を実施し,「数値やデータへの関心」,「懐疑的・複眼的な見方」,「他者との関わり」の3因子から構成される態度に関する尺度を開発した.次に,統計的リテラシーのスキルを測定するテストと,複数の批判的思考スキルを測定するテスト,作成した尺度を含めた質問紙調査を実施し,これらの相関を検討した.その結果,統計的リテラシーの得点と全ての批判的思考スキルの得点に正の相関がみられた.また,統計的リテラシーの得点と尺度の得点には有意な相関がみられなかったことから,統計的リテラシーにおける批判的思考態度を有していても,統計情報を適切に解釈できるとは限らないことが考察された.
著者
吉田 道雄 佐藤 静一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.93-99, 1991-09-20
被引用文献数
4

教育実習の時期および性別の要因が教育実習生の「子ども」というものに対する認知に与える影響を分析した.具体的には,教育実習生に対する予備調査で得られたデータを分析し,「子どもの態度や行動・属性」に関して,六つの因子を見いだした.このうち,「自己中心性の因子」「創造性・積極性の因子」「反抗的・現実的態度の因子」は共通して,実習前に相対的に子どもをポジティブに(楽観的)評価し,実習2週間後には,ネガティブな(悲観的で厳しい)評価に変化し,最終的には再びポジティブな(再評価,再認識)評価をするという一貫した傾向が認められた.実習を通じてさまざまな心理的な「揺れ」を体験することが実習にとっては欠くことのできないポイントであることが指摘された.また,「公平さの要求」「事実を見通す力」の二つの因子については,性別による違いが認められた.いずれも男子の方が,子どもたちは,「不平等やえこひいきに敏感で」「ごまかしがきかない」と認知する傾向が見られた.実習生の性別によって子ども自身が反応の仕方を変えているのではないかと思われる.実習生の性別と子どもたちの関係のあり方についても,さらに分析を進めていくことの必要性が指摘された.
著者
谷田貝 雅典 坂井 滋和
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.69-78, 2006-09-20 (Released:2016-08-03)
参考文献数
10
被引用文献数
3

教授者と学習者の視線が一致する一斉講義における遠隔教育の研究事例はない.本研究では,視線一致型テレビ会議システム,従来型(視線不一致)テレビ会議システムを利用した授業と,対面授業における教育効果の比較分析を行った.各授業では質問紙調査と学習効果測定試験を実施した.試験成績を分散分析した結果,各授業間の成績差は見出されなかった.質問紙評価を分散分析および多重比較により評価した後,主観学習評価として理解感と学習意欲に関する項目を省き,因子分析をした結果,「ノンバーバルコミュニケーション」「飽き」「緊張」「視線・姿欲求」「疲労・不満」「弛緩」の6因子が抽出された.各因子を独立変数,試験成績(客観学習評価)および主観学習評価を従属変数として,単回帰分析および重回帰分析を行った.結果,以下のことが明らかとなった.「ノンバーバルコミュニケーション」は,主観学習評価および客観学習評価に対し正の影響を与える.視線が合わない学習環境では,学習者に学習活動の負荷を与える.視線が一致する遠隔教育は,対面一斉講義の教授方略が適用できるが,「飽き」に関する対策が必要である.
著者
安斎 勇樹 青木 翔子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.231-242, 2019-01-20 (Released:2019-02-02)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本研究の目的は,様々な領域でワークショップを行っている実践者(初心者~熟達者)を対象に,ファシリテーションにおいて認識されている困難さの実態について明らかにすることである.152名を対象とした質問紙調査と16名を対象としたインタビュー調査の結果,ワークショップのファシリテーションの主な困難さは(1)動機付け・場の空気作り,(2)適切な説明・教示,(3)コミュニケーションの支援,(4)参加者の状態把握,(5)不測の事態への対応,(6)プログラムの調整,に類型化することができた.また,ワークショップの実践領域の違いによって困難さの傾向は異なること,また熟達するにつれて困難さは軽減されていくが,初心者〜中堅には見えていなかった新たな困難さが認識されることが明らかになった.
著者
石川 奈保子 向後 千春
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.329-343, 2018-03-01 (Released:2018-03-16)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本研究では,オンライン大学で学んでいる学生を対象に,自己調整学習およびつまずき対処方略の使用状況について明らかにするために調査を行った.その結果,以下の3点が明らかになった.(1)オンライン大学の学生のつまずき対処方略は,「学友に質問する」「教育コーチに質問する」「放置する」「自分で解決する」の四つの方略に分類された.(2)ゼミに所属している場合,学習の相談ができる学友がいる学生は,教育コーチや学友に援助要請することでつまずきを解消していた.一方,そういった学友がいない学生は,つまずいたときでも援助要請しない傾向があった.(3)学習の相談ができる学友がいる学生は,より多くの自己調整学習方略およびつまずき対処方略を使用していた.以上のことから,オンライン大学での学習継続においてメンターや学友との交流が重要であることが,自己調整学習方略使用の側面から裏づけられた.
著者
斎藤 有吾 小野 和宏 松下 佳代
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.Suppl., pp.157-160, 2017-01-15 (Released:2017-03-06)
参考文献数
11

近年,大学教育では,学習成果の直接的指標と間接的指標との関連が活発に議論されている.本研究では,ある歯学系のコースのパフォーマンス評価を事例とし,教員の評価と学生の自己評価 (直接評価) と,学生の学生調査用アンケート項目への自己報告 (間接評価) との関連を検討し,そこからそれぞれの評価が担うべき役割と射程を議論する.
著者
箕浦 恵美子 武岡 さおり 廖 宸一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S43028, (Released:2020-02-06)
参考文献数
4

本研究の目的は,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いた全天球画像の提示による実空間再現性について,実験的に検証することであった.研究協力者30名を3群に分け,ラテン方格法を用いて,HMD 提示,全天球提示,静止画提示の3条件を比較させた.実空間再現性の評価を空間記憶テスト,空間平面再現テスト,空間把握活動時間を用いて行った結果,HMD 提示と全天球提示は,静止画提示に比べて評価が高いことが明らかになった.また,印象評価の結果から,全天球画像の提示にHMD を用いることによって,現実感と没入感が向上することや,実空間がわかりやすく再現され,雰囲気も感じやすくなることが明らかになった.