著者
今満 亨崇 松村 敦 宇陀 則彦
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.109-112, 2011

本研究は,集団に対する読み聞かせ(お話会)のための絵本選択支援を目的とする.そのために,読み聞かせ時の子どもの様子を活用することの検討を行った.具体的にはまず,子どもの様子をお話会の記録から収集し,現在出版されている絵本リストと組み合わせることで,子どもの様子付き絵本リストを作成した.次に,被験者にお話会を想定した絵本選択を行ってもらい,子どもの様子がどのように参考にされるのかを見た.その結果,子どもの様子は絵本の内容と同程度に参考にされ,絵本選択支援に有効であることが分かった.さらに,絵本選択時に参考にする情報の傾向を記録することで,個人にあった絵本選択となる可能性が示された.
著者
鈴木 雅之 田中 瑛津子 村山 航 市川 伸一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.35-43, 2010

本稿は,自発的な計算の工夫を促進させるために,「式全体をよく見て計算する」という抽象的方略のもとに,いくつかの具体的な工夫方法を教授し,その転移効果について検証するものである.研究1では工夫速算問題にはどのようなものがあるのかを検討するために,工夫速算問題の工夫方法の類似度評定から,多次元尺度法とクラスター分析を用いて工夫速算問題の構造を示し,工夫速算問題を8つの群に分類した.研究2では,研究1の分類結果をもとに,どのような問題に効果がみられたのかを検討した.その結果,小学5年生は教えられた問題と同型構造の問題に対しては工夫を加えることが可能であるのに対し,小学2年生は指導された方略をある程度自発的に応用させることが可能であるということが示された.特に,もともと基本計算能力が備わっている生徒ほど,工夫して計算ができるようになるということが示唆された.
著者
安斎 勇樹 塩瀬 隆之 山田 小百合 水町 衣里
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.Suppl., pp.97-100, 2013-12-20 (Released:2016-08-10)

本研究の目的は,視覚障害者をリードユーザーとしたインクルーシブデザインワークショップにおいて,障害者に対する晴眼者の先入観を取り除き,共感的理解を持ちながらコミュニケーションを取ることができるようなアイスブレイク手法を提案することである.「視覚が奪われた状態で,リードユーザーが日常経験するような生活作業に取り組み,リードユーザーから支援を受ける」というアイスブレイク手法を考案し,この手法に基づく場合とそうでない場合の参加者の発話を比較したところ,考案した手法に一定の効果があることが示された.
著者
森 裕生 網岡 敬之 江木 啓訓 尾澤 重知
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.415-426, 2018-03-01 (Released:2018-03-16)
参考文献数
20

大学教育における学期を通した振り返り活動を促進するために,学生個人の各授業回と学期末の理解度の自己評価点の「ずれ」に着目し,「ずれ」の理由を記述させることで振り返りを促す「時系列自己評価グラフ」を開発した.本研究では大学授業2実践を対象に,学生が作成した時系列自己評価グラフを質的に分析した.その結果,(1)全体として学期末の自己評価点が各授業回の自己評価点より10点程度低い「ずれ」が生じること,(2)学生は「ずれ」を認識することで,学期を通して学習内容を関連付けた振り返りや,理解不足だった内容についての振り返りを行ったことなどが明らかになった.
著者
伊藤 崇達 神藤 貴昭
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.377-385, 2004-03-20 (Released:2017-10-20)
参考文献数
26
被引用文献数
3

本研究は,自己効力感,不安,自己調整学習方略,学習の持続性に関する因果モデルの検証を行うことを目的とした.自己効力感尺度,学習時の不安感尺度,認知的側面の自己調整学習方略尺度,自己動機づけ方略尺度,学習意欲検査(GAMI)の下位尺度である持続性の欠如が,中学生449名に対して,試験の1ヶ月前と1週間前の2回にわたり実施された.共分散構造分析によって検討を行った結果,以下のことが明らかとなった.(1)自己効力感が高いものほど,認知的側面の自己調整学習方略と内発的調整方略をよく用い,外発的調整方略は用いていなかった.(2)学習時の不安感が高いものほど,認知的側面の自己調整学習方略,内発的調整方略,外発的調整方略をよく用いていた.(3)内発的調整方略の使用は,学習の持続性の欠如と負の関連を示し,外発的調整方略の使用は,学習の持続性の欠如と正の関連を示していた.
著者
藤本 徹 荒 優 山内 祐平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.267-273, 2019-12-31 (Released:2020-02-14)
参考文献数
33

近年の大規模公開オンライン講座(MOOC)の進展により,世界規模で受講者を集めるグローバルなオンライン教育プラットフォームが普及した.その一方で,学習意欲の向上や継続的な学習支援の仕組みの不足が指摘されている.本稿では,MOOC の学習支援の手法としてゲーミフィケーションに着目し,MOOC のコースデザインにゲーミフィケーションを取り入れた先行研究をレビュー調査した結果をもとに,ゲーミフィケーションの構成要素やそのコースへの導入のための基本的なモデルや理論的枠組みの研究動向を検討した.MOOC のコースデザイン上の課題に対し,ゲーミフィケーションを試行的に取り入れた研究が見られ,デザインフレームワークを体系化する取り組みも見られるが,ポイントやバッジなどの実装しやすい要素の導入が多いことが確認された.
著者
向居 暁
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.44, no.Suppl., pp.41-44, 2021-02-20 (Released:2021-03-08)
参考文献数
20

本研究では,都道府県(以下,県)の形とその名称の対連合学習において,素朴理論に基づいて考案された2種類の指導方法の有効性が検討された.その方法の一つは,学習教材にあるように県の形をイラスト化するものであり,もう一方は,県の形を利用して奇異性の高い,すなわち,面白おかしいイラストを付加したものであった.その結果,これらの2つの学習条件では,県の形をそのまま提示した条件よりも県名の記憶成績が低いことが明らかになった.つまり,県の形をイラスト化しても,そのイラストを面白おかしくしても,県名の記憶は促進されないことがわかった.素朴理論ではなく,科学的知識に基づいた指導方法の重要性が示唆された.
著者
佐渡 真紀子 鈴木 佳苗 坂元 章
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.77-80, 2005
被引用文献数
2

本稿の目的は, 日本のテレビ番組における暴力および向社会的行為描写の内容分析を通じて, テレビ番組の批判的視聴能力を向上させる教育プログラムの開発に資する情報を得ることである.米国のNational Television Violence Study(1996-1998)の研究枠組みをもとに開発したコード化基準とコード票を用いて, サンプル・ウィークからランダムに抽出した280時間分の放送時間帯の番組に描かれた暴力と向社会的行為の頻度と文脈を分析した.その結果約7割の番組に暴力描写があり, 特に子どもが好んで視聴するアニメ番組では暴力行為が多く見られた.向社会的描写を含む番組は45%にとどまり, 行為の学習を促すような描写が少なかった.
著者
青山 郁子 高橋 舞
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.39, no.Suppl, pp.113-116, 2016-01-25 (Released:2016-02-12)
参考文献数
15

本研究は, 大学生のインターネット依存傾向,ネット上での攻撃性を,「他者の能力を批判的に評価・軽視する傾向に付随して得られる習慣的に生じる有能さの感情」である仮想的有能感の視点から検討したものである. 大学生176名(男性56名, 女性120名, M=19.51歳, SD=.80)を対象に, 仮想的有能感, 自尊感情, インターネット行動尺度(攻撃的言動, 没入的関与, 依存的関与)を測った. その後, 仮想的有能感と自尊感情それぞれの尺度の高低から4群に分類し, インターネット行動について群間差が見られるかどうか検討した. 結果は, ネット上での攻撃的言動では有意差が見られなかった. 没入的・依存的関与ではともに, 自尊型< 仮想・萎縮型となった. 依存的関与に関しては自尊型と全能型の間にも有意差がみられた.
著者
渡辺 雄貴 瀬戸崎 典夫 森田 裕介 加藤 浩 西原 明法
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.38, no.Suppl., pp.109-112, 2014-12-25 (Released:2016-08-11)

モバイルデバイスの画面は小さく,提示する情報である教授メディアは適宜選択しなくてはならないことから,その開発はeラーニングコンテンツの開発方法とは異なる可能性がある.本稿では,講義スライドとインストラクタおよび指示棒の合成,講義スライドとポインタの合成という指示メディアの異なる2通りのコンテンツを開発し,学習者に与える影響を測定するために実験を行った.その結果,パフォーマンステストでは,両コンテンツで学習効果には差がないものの,主観評価では多くの項目でポインタを合成したコンテンツが高い値を得た.
著者
椿本 弥生 高橋 薫 北村 智 大辻 雄介 鈴木 久 山内 祐平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.255-267, 2013-11-20 (Released:2016-08-10)

日本語母語話者の高校生を対象に,日本語で産出した小論文をグループで協同推敲できるシステム「Re:(アール・イー)」を開発した.推敲の観点として内容・構成・言語使用の3つを設定した.グループの構成員が得意とする観点がそれぞれ異なる実験群と,得意とする観点が統一された統制群とで,システム使用前後の小論文の得点を比較した.その結果,全体的評定値については,実験群のシステム使用後で有意に得点が高かった.さらに分析的評定値では,論拠の質などの小論文の質に深く関わる評価項目について実験群のほうが統制群よりも有意に得点が高かった.プレとポストの得点差において,統制群よりも実験群のほうが,各グループで一定に近かった.このことから,提案するグループ編成方法がより多くの学習者に一定の学習効果を保証できる可能性が示唆された.
著者
稲垣 俊介 和田 裕一 堀田 龍也
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Suppl., pp.089-092, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)
参考文献数
8

対人依存欲求が高校生のインターネット(以下,ネット)利用の性差に及ぼす影響ついて検討した.ネット利用に関する項目として,ネットの利用時間やその利用内容,例えばLINE のトーク数やグループ数,Twitter のツイート数やアカウント数,ゲームの利用時間,さらにネット依存傾向の高低を調査対象とし,それらと対人依存欲求との関連を検討した.その結果,女子はネット利用と対人依存欲求に関連がみられたが,男子は特にその関連がみられなかった.これらの知見から,ネットでコミュニケーションを取る相手への態度や向き合い方に男女間で質的な違いがみられることが,高校生のネット利用やネット依存傾向の性差につながっている可能性が示唆された.
著者
香山 瑞恵 永田 奈央美 高谷 知憲 高橋 正憲
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.97-106, 2007
被引用文献数
2

教科「情報」の教科書は,平成15年度に初版が発刊され,平成17年度には改訂版が発刊されている.本研究ではこれらの教科書に関する定量的データに基づく分析から,その特徴を明らかにし,特に変化の著しい内容に関する変化傾向の定性的分析を通じて,普通教科「情報」の範囲と教授内容の方向性に関して考察した.その結果,情報Aでは「問題解決」に関する内容の記述が詳細かつ具体的になり,主体的な情報活用のための態度形成に関わる記述が増加した一方で,コンピュータリテラシーに相当する記述の本文内での扱いが減少していることがわかった.また情報Bでは,コンピュータの機能や仕組みに関する記述の精査が進み,社会における情報技術の在り方を示す内容が重視されていることがわかった.情報Cでは,情報A同様にリテラシー的記述の減少がみられ,さらに情報通信ネットワークの仕組みと適切なネットワークコミュニケーションの在り方とに関する記述が顕著に増加していた.
著者
田中 敬志 小林 聡 中川 聖一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.273-282, 2003-12-20
参考文献数
18
被引用文献数
1

これまでに多くの語学学習教材が開発されてきているが,その製作においては多大な時間と労力がかけられている.また,これまでの語学学習教材では,そのコンテンツが限られているため,長時間飽きずに使用を継続することは困難であり,さらに学習者が興味のあるコンテンツを選択する余地はない.そこで本研究では,学習者に興味のあるTVニュース放送をパソコンに取り込み,そのニュース放送を素材とした学習教材を教師または学習者自身で手軽に作成することができるシステムを開発した.勿論,本システムは教師や学習者が自前で収録したビデオを語学学習教材化することもできる.本論文では特に,副音声と字幕の同期手法を取り入れた教材作成システムと教材プレイヤーによって実現される各機能とシステム全体の評価について述べる.教材プレイヤーを用いた被験者実験では学習効果が得られ,それらの評価アンケートでも教材について肯定的な意見が得られた.
著者
齋藤 ひとみ 源田 雅裕
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.197-200, 2008
参考文献数
8
被引用文献数
6

本研究では,ノートテイキングにおける方略の使用が学習内容の理解に与える効果について検討した.調査1では,学習者のノートから6つの方略(箇条書き・強調・図表・下線・囲み・矢印)を抽出した.調査2では,方略使用の数やノートに書かれた重要なキーワードの数とテストの関係について検討した.調査2の結果から,理解度の高い学習者は低い学習者に比べ,(1)学習内容においてポイントとなる内容をより多く抽出できていること,(2)ノートテイキング方略を多く使用していることが確認された.
著者
平野 智紀 中尾 教子 脇本 健弘 木村 充 町支 大祐 野中 陽一 大内 美智子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.Suppl., pp.125-128, 2020-02-20 (Released:2020-03-23)
参考文献数
7

本研究では,横浜市の公立小学校の校長を対象に行った質問紙調査をもとに,ICT 活用とアクティブ・ラーニング推進の実態の類型化を行った.推進のタイプについてクラスタ分析を行い,5つのクラスタを得た.クラスタごとの特徴を分析すると,ICT 活用とアクティブ・ラーニング推進に取り組んでいる学校はカリキュラム・マネジメントが進んでおり子どもの成長を実感していることが明らかになった。教員同士が高め合う学校文化が重要であることも示唆された.
著者
高橋 暁子 杉浦 真由美 甲斐 晶子 冨永 敦子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.253-265, 2019-12-31 (Released:2020-02-14)
参考文献数
46

本研究では,日本におけるインストラクショナルデザイン(ID)の先行研究をレビューし,研究動向を整理した.2003年から2018年までの教育工学領域の論文から72編のID 研究論文が抽出され,ここ10年の論文数は横ばいであった.そのうち61編が実践系の論文に位置づけられ,とくに「教育実践の改善および学習環境づくり」での活用が顕著であることが示された.教育現場における実践報告が多くの割合を占める一方で,実践研究と基盤的研究との往還やID 本来の趣旨である教育設計時の活用に関しての課題が明らかになった.
著者
加藤 尚吾 加藤 由樹 赤堀 侃司
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.25-28, 2006
被引用文献数
1

本稿では,大学の授業で電子掲示板を用いた議論を行い,この中で大学生の感情面を測定し,次の二つに注目した分析を行った.一つは,投稿の読み手として,投稿された文からその投稿の書き手の感情を解釈することであり,二つは,投稿の書き手として,自分の書いた投稿を読んだ読み手に生じるであろう感情を予測することである.結果,書き手がよりネガティブな感情で投稿した投稿文に対しては,感情解釈の正しさが低くなる傾向があった.また,書き手の感情をよりポジティブに解釈した時に,感情解釈がより正しい傾向があった.結果から,よりポジティブな感情の時に,電子掲示板を利用することで,感情の誤解が減少する可能性が示唆された.
著者
奥本 素子 岩瀬 峰代
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.205-215, 2012
被引用文献数
2

本研究では,PBLにおける社会的手抜きの有無,社会的手抜きと対立する状態の有無,それぞれの促進要素,阻害要素,各要素間の関連を質的手法によって調査していった.本研究の分析では,PBLにおいて社会的手抜きの発生の有無は個人よりもチームの活動に影響を受けていることが分かった.また単に社会的手抜きをしないだけでなく,学習者が自発的に行動するためには,チーム活動において意思決定に参与し,協力体制を構築した上で,責任を自覚し,具体的な問題発見を行うという過程を辿ることが明らかになった.よって,本研究では,PBLにおける自発的行動とは,チーム活動との相互作用の中で生まれると結論付け,自発的行動を促進するチームデザインを提案した.