著者
城間 祥子 茂呂 雄二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.120-134, 2007-03-30
被引用文献数
1

本研究では,参加の過程を学習とみなす観点から,中学校の音楽の時間に実施された和楽器の専門家とのコラボレーション型授業(出前教室)において,どのような「参加過程の変化」が生じていたのかを分析した。フィールドワークと,授業のビデオデータの分析にもとついて,次の3つの側面から参加過程の変化を記述した。(1)課題:参加者は何を目指して共同で実践を行っているのか。(2)人的・物的リソースの配置:参加者はどのように共参加者と関わり道具を利用することができるのか。(3)責任:参加者は課題や人的・物的リソースの配置にどの程度関与しているのか。その結果,コラボレーション型授業では,様々な制約や参加者の状態・要望に応じて授業の構成や目標が柔軟に変化すること,人的・物的リソースをうまく組織化することによってコラボレーションが促されること,課題の決定や学習の管理の責任を生徒に委ねることで生徒の積極的な参加を引き出していることが,明らかになった。最後に,出前教室におけるコラボレーションの変化から示唆された,学校と外部の専門家のコラボレーションの意義と留意点について検討した。
著者
菅原 ますみ 八木下 暁子 詫摩 紀子 小泉 智恵 瀬地山 葉矢 菅原 健介 北村 俊則
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.129-140, 2002-06-30
被引用文献数
11

本研究は,夫婦間の愛情関係が家族機能と親の養育態度を媒介として児童期の子どもの抑うつ傾向と関連するかどうかを検討することを目的として実施された。313世帯の父親,母親および子ども(平均10.25歳)を対象に郵送による質問紙調査を実施し,両親回答による夫婦関係と養育態度,および家庭の雰囲気と家族の凝集性,子どもの自己記入による抑うつ傾向を測定した。配偶者間の愛情関係と子どもの抑うつ傾向との間に相関は見られなかったが,家庭の雰囲気や家族の凝集性といった家族機能変数を媒介として投入した結果,両親間の愛情の強固さと家族機能の良好さが,また家族機能の良好さと子どもの抑うつ傾向とが関連することが明らかになった。また同時に,配偶者間の愛情関係は親自身の養育態度とも関連し,相手への愛情の強さと子どもに対する態度の暖かさや過干渉的態度との間に有意な関係が見られた。しかし,こうした養育態度のうち,子どもの抑うつの低さと関連が認められたのは,母親の養育の暖かさのみであり,父親の養育態度は子どもの抑うつ傾向とは関連しなかった。
著者
近藤 敏行 小林 利宣
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.1-9, 1960-12-30

さきに著者が発表した,K.K.改訂Bemreuter Personallty Inventoryを,中学生の生活や思考に適応するようにあらためた92項目の診断目録(K.B.P.I、-J特型)を作製し220名の被検者の応答に基づいて,各項目間の四分割相関係数を算出し,その相関行列をもとに三因子分析を行ない,7個の因子を抽出した。それはもとの診断目録の因子と5個一致し,2個はもとの因子とは別のものと解釈された。一致した因子は,神経質,自己充足・内向-外向,自信欠如・支配服従1の5特性であり,もとのB.P.I.にあつた社交性のかわりに,情緒性,自我の2特性が抽出された。次に各因子の各項目に対する負荷量を5段階法によって,重みづけを行をつて,2,1,O,-1,-2の得点をあたえた。次に中国・四国,近畿地区のづ・学校5年生以上高等学校1年までの児童,生徒約1,000名に,この診断目録を実施して,その標準化を行をつた。因子解釈において,特にS型との関連において,やや困難を感じさせられたものが若干あり,目録の妥当性についての検討が,今後に残された課題である。
著者
氏家 達夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.284-292, 1980-12-30

本研究は,子どもがどのようにして誘惑に抵抗できるようになるのかということを問題にした。そして,言語的自己教示方略(VSI)と気紛らわし方略の2つの統制方略によってそれらを説明するために,2つの実験を行った。その結果は次の通りであった。 (1)実験Iでは,誘惑に対する抵抗状況における統制方略の自発的使用の程度が検討された。その結果,(a)視線そらし方略(ATS)が有効である。(b)6歳児はATSを自発的に用いられるが,4歳児では自発的に用いることはできない。(c)VSIは,4,6歳両群で自発的に用いられない。(d)4歳群と6歳群の間の誘惑に対する抵抗能力の差はATSによって説明されると考えられた。 (2)実験IIでは,被験児に,ATS,VSIの2つの統制方略のいずれかを用いるように教示を与えた。その結果,(a)ATS条件は,4歳群に対してのみ効果的であった。6歳群ではATS条件と統制条件に差がなく,しかもそれらは,4歳群のATS条件と差がなかった。(b)一方,VSI条件は6歳群でのみ効果的であった。(c)従って,年齢と条件の間には交互作用が認められる。(d)以上の結果から,4歳児と6歳児の間の誘惑に対する抵抗能力の差と,6歳児と8歳児の間の差には質的な違いがあり,およそ6歳を境にして,誘惑に対する抵抗に必要な統制方略がATSからVSIに入れ替わるものと考えられる。
著者
西坂 小百合
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.283-290, 2002-09-30

幼稚園教諭の精神的健康へのストレスの影響,及びストレスへの個人特性の影響を明らかにするため,質問紙による調査を行った。ストレス評価に影響を及ぼす個人特性として保育者効力感,ハーディネスを仮定し,幼稚園教諭のストレス要因を明らかにするとともに,これらの個人特性の効果を検討するものである。質問紙の内容は,認知的評価の視点から作成したストレス評価尺度,精神的健康,個人特性としての保育者効力感とハーディネスが含まれる。調査の対象は東京都内公立幼稚園に勤める幼稚園教諭186人である。パス解析の結果,幼稚園教諭の精神的健康に影響を及ぼしているのは,「園内の人間関係の問題」及び「仕事の多さと時間の欠如」をストレスとして知覚することであった。そのほか「子ども理解・対応の難しさ」,「学級経営の難しさ」が因子分析によりストレス因子として得られたが,これらは精神的健康に影響を及ぼすものではなかった。個人特性としてのハーディネスが「園内の人間関係の問題」,「仕事の多さと時間の欠如」,「子ども理解・対応の難しさ」に対するストレス知覚を軽減し,精神的健康を維持する要因になっていることが示された。