著者
立石 健 井手尾 寛 岸岡 正伸
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.219-224, 1997-03-01
参考文献数
11
被引用文献数
1

アサリは、山口県瀬戸内海側の重要な水産物の一つで、昭和62年頃までは一時期を除き、5000トン以上の安定した漁獲量があった。最高は昭和58年で8557トン(海面漁業の)10.0%、21.1億円)を示したが、近年の資源の枯渇から漁獲量は激減し、平成6年には965トン(同4.4%、5.9億円)まで低下した。一方、山口県ではアサリ資源が安定していた時期から、増殖場造成事業、漁業保全事業、資源管理事業等を実施してきたが、アサリ資源の維持増大にはまだ効果が見られず、昭和60年前後から全国的に続いているアサリの漁獲量減少は山口県でも同様である。アサリ資源減少の原因究明と対策が全国的に講じられているが資源減少を加速している要因の一つに、山口県では県外からのアサリ移植量の減少も考えられる。以前は主生産地であった熊本、福岡、大分の九州3県が軒並み資源減少したことにより、山口県への搬入が激減したうえ、種苗の質もかなり低下している。当県が必要とする移植長量(資源安定時十数億個、現在数億個)の大部分を人工種苗で補完しようという考えはないが、アサリ資源の回復を図る事業の一つとして、平成6年から5年間の県単独事業の「アサリ放流技術開発研究事業」に入った。まだ2年間実施したところで、放流技術の開発までは進んでいないが、種苗の量産や中間育成については、若干の知見が得られたのでここで報告する。
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.121-126, 1994-11

大分県は1970年に策定した「大分県基本計画」の中で資源管理型漁業の到来を想定して「海洋牧場的漁業への移行ー管理漁場の必要性」を説いているが、1973年には、水産庁の補助事業である瀬戸内海栽培漁業魚類放流技術開発調査で、マダイを対象に大分県南部の米水津湾で資源管理型漁場の造成試験をはじめている。この事業の中でナーサリーにおける中間育成方式に音響を利用した給餌方式を導入しているが、1979年に入って中間育成での音響馴致が順調に進んだため、種苗放流後のマダイ漁場で音響・給餌をすることにより特定の海域にマダイを滞留させ、漁獲まで発展させることができないかという海洋牧場的構想が浮かびあがってきた。そこで、米水津湾の入口に円盤型の給餌ブイを設置し、放流後のマダイを放音・給餌する実験を開始した。一方、大分県は1981年に県南地域の振興を図るために水産業を中核としたマリノポリス計画を策定して、各種の事業を推進する中で、この年に(社)日本産業機械工業会の委託を受けて、「広域漁業構造物における海域管理システムの研究開発」を企業7社と共同で設計し、漁場管理システムを提案した。この設計に基づいて1983年から3か年計画で(財)機械システム振興協会の助成を受けて、「音響給餌型水産資源管理システム」ー所謂海洋牧場の実験を豊後水道に面する佐伯湾の上浦町地先の海面で行った。その結果、放流マダイの再捕は1年目に多く、2年目以降は急減するが全体を通して再捕率は10~12%前後を示した。
著者
松本 隆之 北川 貴士 木村 伸吾 仙波 靖子 岡本 浩明 庄野 宏 奥原 誠 榊 純一郎 近藤 忍 太田 格 前田 訓次 新田 朗 溝口 雅彦
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.43-49, 2013-07-15

メバチThunnus obesusおよびキハダThunnus albacaresは三大洋の熱帯域を中心に温帯域にかけて広く分布し,日本をはじめとする各国により漁獲され,マグロ属魚類の中でもっとも多獲さる重要種である。大型魚,特にメバチは主としてはえなわ漁業で,小型魚はまき網,竿釣り等の漁業で漁獲される。日本沿岸においては,小型の竿釣り,曳縄等の漁業でも漁獲されており,それらの漁業にとっても重要な魚種である。しかしながら,これら2種については資源の減少もしくは低水準での推移が見られ,その動向には注視する必要があり,また,資源学的研究の強化,およびより精度の高い資源評価が望まれる。そのためには,移動,遊泳行動等の生物学的パラメーターのより詳細な解明も必要である。
著者
酒井 久治 北野 庸介
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.111-115, 1996-11
被引用文献数
1

漁船における海中転落事故は、海難によらない人身事故のうち、40%を占めている。なかでも、そのほとんどが一人乗りである小型漁船では、操業中や航行中に一度転落すると、本船に追いつくことが困難になり、生存の可能性は僚船に救助される以外、極端に低くなる。したがって、海中転落は、死亡事故に直結するので、小型漁船における海中転落時の救助対策は沿岸漁業の最重要課題の一つであると言える。一方、転落時の救命、救助のための支援対策として、漁労用救命胴衣の改良、エマージョンスーツおよび無線警報式海難救命ヘルメットの開発などがあり、発見されるまでの生存に大きく寄与していると推察される。しかし、どの場合でも、転落時に本船側が無人になるため、燃料切れを生じるまで航走することが考えられる。そこで、乗組員の転落事故が発生した場合、直ちに機関を停止させることができるならば、自力による救命が可能になり、漁業者の死亡事故を減らす近道であると考えられる。本研究では、一人乗り漁船の乗組員が海中に転落したとき、機関を自動的に停止させる装置を試作し、漁業者の救命、救助のための支援装置の開発を目的にしたものである。本論では機関停止装置を用いた海上実験を実施し、その効果を確認したので、装置の概要、実験結果、および若干の知見を報告する。
著者
酒井 久治 北野 庸介
出版者
日本水産工学会
雑誌
日本水産工学会誌 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.111-115, 1996
被引用文献数
1

漁船における海中転落事故は、海難によらない人身事故のうち、40%を占めている。なかでも、そのほとんどが一人乗りである小型漁船では、操業中や航行中に一度転落すると、本船に追いつくことが困難になり、生存の可能性は僚船に救助される以外、極端に低くなる。したがって、海中転落は、死亡事故に直結するので、小型漁船における海中転落時の救助対策は沿岸漁業の最重要課題の一つであると言える。一方、転落時の救命、救助のための支援対策として、漁労用救命胴衣の改良、エマージョンスーツおよび無線警報式海難救命ヘルメットの開発などがあり、発見されるまでの生存に大きく寄与していると推察される。しかし、どの場合でも、転落時に本船側が無人になるため、燃料切れを生じるまで航走することが考えられる。そこで、乗組員の転落事故が発生した場合、直ちに機関を停止させることができるならば、自力による救命が可能になり、漁業者の死亡事故を減らす近道であると考えられる。本研究では、一人乗り漁船の乗組員が海中に転落したとき、機関を自動的に停止させる装置を試作し、漁業者の救命、救助のための支援装置の開発を目的にしたものである。本論では機関停止装置を用いた海上実験を実施し、その効果を確認したので、装置の概要、実験結果、および若干の知見を報告する。
著者
光永 靖 河合 修輔 米山 和良 松田 征也 山根 猛
出版者
日本水産工学会
雑誌
日本水産工学会誌 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.251-255, 2005
参考文献数
13
被引用文献数
8

琵琶湖固有の定置網であるエリ周辺で,コード化超音波発信機と設置型受信機を用いてオオクチバスを追跡した。オオクチバス4尾(TL : 34.0〜37.0cm)の腹腔内に受信機(Coded V8SCL, VEMCO製)を埋め込み,エリの中心に放流した。エリの垣網に設置型受信機(VR2. VEMCO製)3台を250mと敢えて間隔を狭めて仕置し,詳細な移動を把握した。50日以上追跡した2尾は, 10℃以下の低水温にも関わらず,昼間にエリから遠ざかり,夜間にエリに近づく日周移動を示した。同時にエリ周辺に設置した流向流速計の記録から,5m/sec以上の南西流が卓越した後,個体はエリから遠ざかったことが分かった。受動型漁具である定置網の漁獲には対象魚の移動と周辺の流動環境が密接に関わっていると考えられる。
著者
柿野 純
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.31-39, 1992-07 (Released:2011-02-03)
著者
濵口 正人 木村 暢夫 天下井 清
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.79-87, 1995-11 (Released:2011-07-07)

わが国のまき網漁業はいわし漁業を主体としたあぐり網を改良したものに、アメリカ式巾着網漁法を取り入れ普及した漁法である。その中でも特に大中型まき網漁業は船団操業形態をとっており、一船団は網船、魚探船、灯船(集魚灯の使用が禁止されている海域もある)、運搬船(2~3隻)からなっている。このことから、他の漁法に比べ操業形態も特殊で、投網時に網船は旋回しながら40トン前後の漁具を海中に投下、揚網時には魚探船による裏漕ぎにより網なりを良くすると同時に、網船に大きな傾斜モーメントを与える鐶締め時の片舷への大傾斜を抑制している。さらに、漁獲物を運搬船に積載する場合は、係留索で網船と運搬船を張り合わせると同時に、両船が接近しないように魚探船と灯船でそれぞれを裏漕ぎする必要がある。このため、操業中には波浪や風だけではなく、さまざまな外力によるモーメントが網船に作用している。そこで本研究では、135GT型まき網漁船(網船)の投網から揚船までの一操業中における動揺特性に関し、実船実験を実施し基礎的な解析を行い、さらに、前報の魚群探索中の動揺特性と比較検討を行ったのでその結果について報告する。
著者
伊藤 敏晃 高木 力 平石 智徳 鈴木 健吾 山本 勝太郎 梨本 勝昭
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.39-43, 1995-07-31
被引用文献数
2

北海道では、エゾバフンウニやキタムラサキウニなどのウニ類を対象とし、種苗放流や、漁場造成によって資源を増加させようとする栽培漁業が積極的に推進されているが、地域によっては十分な成果が得られていない。その原因として波浪による稚ウニの打ち上げ、餌料の不足や海水交換の不良による死滅があげられる。これを防ぐために比較的静穏な海域に、稚ウニを集約的に放流し、給餌を行って育成する場を造ること、ウニが散逸しないようなフェンスを設けることなどが提案されている。また、ウニの食害による磯焼け現象が進むことも懸念されているため、ウニの行動領域を制限する安価で耐久性のあるフェンスの開発が強く要望されている。このようなウニ用フェンスを開発するためにはまずウニの行動特性を解明する必要がある。ウニの移動は管足先端部を付着基質に吸着させて管足全体を収縮させることによって行われるが、生態・行動学の分野における詳細な研究は少ない。外国産のウニについてはBullockによるアメリカムラサキウニの移動についての報告などがあるが、エゾバフンウニ、キタムラサキウニの行動学的な研究は非常に少ない。
著者
畠山良己
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.111-119, 1992-03
被引用文献数
14

水中においては、光や電波に比べ音は減衰が少なく広範囲に到達するので、魚への刺激として音は有効な手段である。魚自身も水中音を発生し、敵を威嚇したり、同種の魚が相互認識しあったり、仲間に危険信号を送ったりすることが知られている。また、漁師達は科学的裏付けが無くても自分達で創意工夫を重ね、いろいろな方法で音を発生し、魚を誘致したり威嚇したりして効率良く漁獲している。最近では大分県や長崎県などでマダイを音響馴致し、放流後大きく育ったマダイの再補率を向上させる事業が大規模に行われている。世界的には30種位の魚の聴覚特性が測定されているが、日本の水産業にとって有用な魚種のデータは少ない。魚の生理や感覚に関する参考書には聴覚の記述があるが、どれも一般的な説明で参考文献も古く有用とは言えない。今回は魚の一般的な聴覚特性については簡単に触れるにとどめ、マスキング・方向認知能力・周波数弁別能力など特殊で重要な聴覚特性について詳しく述べ、それらの応用問題として海洋牧場における音の有効範囲を検討することにする。
著者
伊藤 靖 三浦 浩 押谷 美由紀 深瀬 一之 柳瀬 知之
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.91-100, 2007-11-15
被引用文献数
1

森林は水源涵養や土砂流出防止、CO2固定等の公益的機能を有しており、自然環境保全に果たす役割は大きい。また、これらの機能維持のためには生産林等を中心とした間伐などの適切な森林整備が不可欠である。森林の間伐によって発生する木材を再利用することは、循環型社会の形成を推進する観点からも重要であると考えられる。こうした背景から、魚礁事業においても間伐材を導入する動きがみられている。一般に魚礁における間伐材の利用は魚類の蝟集や、餌料生物の増殖等の効果を期待するものである。その一方で、間伐材の魚礁部材としての特性や利活用に際しての基礎的知見が十分に集約、整理されていないのが現状である。そこで、本研究では、魚礁事業における間伐材の活用方策を策定するための基礎資料を得る目的で、間伐材を用いた魚礁試験を実施するとともに、アンケート調査によって得た全国各地の事例の整理を行った。
著者
塩谷 茂明 藤富 信之 斎藤 勝彦 石田 廣史 山里 重将
出版者
日本水産工学会
雑誌
日本水産工学会誌 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.123-134, 1996
被引用文献数
6

船舶工学の分野では、船体設計の観点から各種の抵抗軽減に関する様々な研究が行われ、造波問題を対象とした研究も発展してきた。そこでは、船舶による造波の情報は船体の極く近傍に限られ、船体から伝播する波は研究の対象外でほとんど関心がなかった。しかも、このような造波問題の研究はほとんどが模型船レベルであり、船体抵抗の推定が目的である。そのため厳密かつ高精度な船側波形や船体周り粘性流場の情報が要求されるので、船体近傍の波紋計算は複雑で容易ではない。また、研究対象が巨大船を含む比較的大型の船舶であるため漁船、高速艇ならびに滑走艇のような小型船舶による航走波の研究が十分行われていないのが現状である。一方、水産工学の分野では、航行船の造波問題は養殖筏や係留中の小型船舶の損傷、小型釣船の大動揺による転覆や、釣り客の海中落下等の人身事故誘発の危険性等に深く関わるため、航走波の研究が重要である。しかも、このような筏を代表とする養殖施設は大型船が航行する主要航路周辺より、湾内や入り江等に点在することが多い。したがって、大型船舶による航走波の影響をほとんど受けないと考えてよい。むしろ、漁船、モーターボートを含む滑走艇や、離島間就航の高速艇等の小型船舶は航路外の海域を、比較的自由に航行することが可能である。そのため、時には養殖施設の極く近辺を航走することがあり、かえって大型船舶による航走波より大被害を誘発する危険性がある。
著者
天下井 清 木村 暢夫 甫喜本 司 岩森 利弘
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.155-161, 1997-12-12
被引用文献数
5

小型漁船は、船長に比べ船幅が広く、平坦な船底勾配、ハードチャインや張り出し甲板等形状的特徴を有し、波浪中の横揺れ運動において非線形性が強い応答をすることが良く知られている。最近、非線形性の強い船体の横揺れ運動の解析にニューラルネットワークモデルを用いた報告がいくつかなされその有効性が指摘されているが、本報告では上記モデルを船体の横揺れ運動の中でも特に非線形性の強いとされる小型漁船の運動の解析へ適用し、その長期予測の有効性について検討する。具体的には、従来から利用されてきた自己回帰モデル(autoregressive (AR) model)を用いた代表的な線形予測法との間で予測精度を評価し、これらの比較を通して、非線形性の強い運動の解析に対するニューラルネットワークモデル利用の有効性を検討する。
著者
東海 正
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.69-80, 2009-07-15
被引用文献数
6

曳網のサイズ選択性は、漁具の選択性の中でもっとも基礎となるもので、袋状の網に入った魚が網目を抜けるかどうか、その現象を魚体の大きさを変数にとり、ロジスティック式などを利用して確率的に表現している。前報では、この選択性を表すロジスティック式のパラメータ推定をMS-Excelのソルバーで行えることを紹介した。このソルバーのシートは、漁具選択性のSELECT解析法で著名なMillar博士のWebサイトでも紹介されたためか、海外でも大いに利用され、いまだにメールの問い合わせや改良の提案が海外から送られてくる。また、国内でも、沿岸の資源管理や資源回復計画で小型魚の保護のための網目の拡大が組み込まれ、その調査データの解析にも利用してもらっているようである。そこで、本稿ではあらためて、ロジスティック式パラメータの最尤推定とともに、推定誤差と適合性を調べる尤度比検定について、MS-Excelのワークシートを示しながら紹介する。この適合度を説明するには、最尤推定をあらためて最初から説明したほうが分かりやすいと考えて、ここでは、前報と重複する部分があることをお許しいただきながら、稿を進めたい。
著者
慶野 英生 杉山 清泉 西沢 正 鈴木 輝明
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-7, 2005-07-15
被引用文献数
4

1)冬季波浪によるアサリへの影響を検討するため、個体識別したアサリを用いて、砂上への露出頻度と潜砂行動、肥満度および体内グリコーゲン含量との関係について調べた。2)殻長25mm程度の大型アサリは、水温8℃以下の冬季に露出を受けると、露出頻度およびその累積回数に対応して潜砂行動に影響が現れ、その影響は回復せず、その後も持続する。3)冬季波浪により露出や砂中での上下移動を繰り返したアサリは、冬季の低いグリコーゲン含量がさらに低下し、潜砂不能となったり砂中から這い出す場合がある。4)冬季の露出により、砂上に這い出した個体のグリコーゲン含量は、約10mg/gと他の個体に比べて顕著に低かった。5)冬季の露出1回当たりの体内グリコーゲンの減少量は0.05mg/gと試算され、アサリが這い出しを起こす限界値を約10mg/gと仮定すると、這い出し個体が出現する限界累積露出回数は約50回であった。6)冬季波浪によるアサリの死亡過程には、波浪による露出や砂中での上下移動の繰り返しによって活力を低下させ、潜砂できなくなった結果、岸側などへ運ばれ、へい死するシナリオに加えて、同じく波浪による露出や砂中での上下移動の繰り返しによって衰弱し、砂中にいた個体が自ら砂上へ這い出すことにより、結果的に岸側などへ運ばれ、へい死するシナリオが想定される。
著者
鈴木 達雄
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.61-69, 1999-07-15
被引用文献数
2

人類は急増する人口を支える食糧を得るため、農地を拡大し、家畜を飼うために森林を伐採し続けてきた。地球上の大型動物の多くは、人類が改良した家畜で占められ、陸上の生態系は、人類の都合のいいように作られてきた。しかし、世界の食糧供給は、需要の急激な増加に追い付けない状態になっている。その一方で、科学技術の発展に伴い、膨大な化石エネルギーと資源を消費して、大量の製品と廃棄物を生産し、その廃棄物で生物生産にとって重要な浅海域を埋め立て、有害物で地球環境を汚染してきた。そして、現在の科学技術でも達成不可能な高効率で、太陽エネルギーを光合成に利用する植物や植物プランクトンの働きを阻害することが、自殺行為であることに気付き始めた。我々が資源の利用方法、排出する廃棄物の利用、および処理方法を、正しく管理するように意識を変えないと、人類を含めた生物の存続が、脅かされることになる。可能な限り我々が生産する製品や廃棄物が、生物の行う物質循環を損なわないようにするのは勿論、智恵を働かせて、この物質循環を人類を含む生物にとって、持続可能な方向に変えてゆく努力が必要である。産業副産物と自然の力を巧みに利用して物質循環を円滑化し、食糧を増産する試みが行われている。
著者
俵佑方人
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.113-118, 1992-12
被引用文献数
2

愛知県におけるアサリ関係の調査研究は、明治27〜35年にかけての産卵期調査、大正4〜5年の養殖適地調査、大正6〜10年のアサリ養殖試験、および昭和26〜28年のアサリ資源調査等が報告されている。これらの知見を基にして昭和27年から沿岸漁業振興事業の一環としてブルドーザー等を使用して浅海内湾開発事業が行われ、また昭和28年からは主にアサリを対象とする貝類保護水面も設置されたが、これが本県におけるアサリ増殖場造成の嚆矢であった。その後福江湾槍ヶ崎根部堀削水路造成、吉田地区作澪耕転整地事業、ダイナマイトによる深部耕転2)、腐泥域における人工砂場造成、ハチの巣状人工干潟造成等の各種事業や試験が行われたが、これらの経験や知見を基にして昭和57-63年にかけて福江湾大規模増殖場造成事業が実施された。以下、愛知県におけるアサリ増殖場造成事例及び福江湾開発について報告する。
著者
高橋 秀行 佐伯 公康 渡辺 一俊
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.133-140, 2012-11-15

我が国の漁業就業者数は長期的な減少傾向にあり,またその年齢構成の高齢化,後継者不足は深刻である。このまま漁業者が減少し続ければ,我が国の漁業は労働力不足に陥り,産業としての存立が危ぶまれる。漁業は従来から身体への負担が大きく危険がともなう職業と言われる上に,近年の漁獲量の減少や魚価安が重なり,職業としての魅力が失われつつある。これらのことが,漁業就業者数の減少の主要な原因として考えられる。したがって,高齢の漁業者でも無理なく働け,かつ新規就業者が参入しやすい,安全で快適な労働環境を確立することは,漁業就業者数の減少に歯止めをかける有効な方策のーつと考えられる。しかし,漁業の労働実態について明らかにした事例は少なく,小型機船底曳網漁業,船曳網漁業,ワカメ養殖業,刺網漁業についての知見があるにすぎない。漁業の労働実態の全国的な様相を把握するには,事例調査の蓄積が必要である。著者は,小型機船底曳網漁業を主な対象として,労働実態の調査を行っている。小型機船底曳網漁業は我が国を代表する沿岸漁業種の一つであり,同漁業を営む漁船は日本各地に1万隻あまり遍在している。多くは個人経営で,乗組員は1~数名程度であるため,労働環境は個々人の裁量によって構築され,系統的な改善を図りにくいことが予想される。したがって,小型機船底曳網漁業の労働実態を定量的に把握し,系統的な改善方策を検討する必要がある。本報では,愛知県南知多郡の小型機船底曳網漁業を対象として,生産管理工学や人間工学の手法を用いて船上作業の状況を調査した結果について報告する。
著者
井上 悟 田川 英生 永松 公明 梶川 和武
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.39-46, 2004-06-07

前の3報に続いて,海中に設置した電極に微弱電流を流すことにより,海洋生物の付着を防止する試みを行った。水産大学校桟橋下と近くの海面に測定板を沈め,測定板への生物付着状況を調べた。2000年5月30日から10月2日までの4ケ月間(第1期)と,同年10月11日から翌年1月12日までの3ケ月間(第2期)に分けて実験を行った。電極には白金メッキされたチタン細線を使用した。あらかじめ,電極間隔および電極長と電流との関係を調べ,電極間隔50cm・電極長3mmの粂件のもとで,8V・数十mAの電流を常時印加した。海中に設置された電極に流れる電流は,電極間隔にはほとんど依存せず,電極長に大きく依存することが確認できた。8V・数十mAの電流を常時印加することにより,第1期と第2期を通じて,付着性の動物,特にフジツボに対しての周年の付着防止効果が確認された。ただ,第2期では,海藻類に対しての付着防止効果は認められなかった。しかし,海藻以外の付着生物(特に動物)は明らかに対照区に多く,8V・数十mAの電流による付着防止効果が認められた。
著者
濱口 正人 木村 暢夫 天下井 清
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.79-87, 1995-11-30
参考文献数
9
被引用文献数
3

わが国のまき網漁業はいわし漁業を主体としたあぐり網を改良したものに、アメリカ式巾着網漁法を取り入れ普及した漁法である。その中でも特に大中型まき網漁業は船団操業形態をとっており、一船団は網船、魚探船、灯船(集魚灯の使用が禁止されている海域もある)、運搬船(2~3隻)からなっている。このことから、他の漁法に比べ操業形態も特殊で、投網時に網船は旋回しながら40トン前後の漁具を海中に投下、揚網時には魚探船による裏漕ぎにより網なりを良くすると同時に、網船に大きな傾斜モーメントを与える鐶締め時の片舷への大傾斜を抑制している。さらに、漁獲物を運搬船に積載する場合は、係留索で網船と運搬船を張り合わせると同時に、両船が接近しないように魚探船と灯船でそれぞれを裏漕ぎする必要がある。このため、操業中には波浪や風だけではなく、さまざまな外力によるモーメントが網船に作用している。そこで本研究では、135GT型まき網漁船(網船)の投網から揚船までの一操業中における動揺特性に関し、実船実験を実施し基礎的な解析を行い、さらに、前報の魚群探索中の動揺特性と比較検討を行ったのでその結果について報告する。