- 著者
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田中 武志
山田 浩之
竹門 康弘
池淵 周一
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
- 巻号頁・発行日
- pp.247, 2004 (Released:2004-07-30)
河川に生息するモンカゲロウ(Ephemera strigata)などの水生昆虫類では,砂礫堆上流端に位置する淵尻の瀬頭に集中的に産卵する行動が知られている.このような産卵場所選択性は,砂礫堆の河床間隙水の透水性や溶存酸素濃度などの物理化学特性と関係していると考えられる.しかしながら,産卵場所の環境条件と産卵個体数の関係や産下された卵やふ化幼虫生存率などを実証的に示した研究は行われていない.一方,近年各地の河川で生じている砂礫堆の樹林化やツルヨシの繁茂によって,このような産卵適地が減少しつつあると懸念されている.そこで,本研究では,産卵雌数に対する瀬-淵,樹冠の有無,岸際の状態,微生息場所環境条件として透水係数,動水勾配および河床間隙水流速の影響を調べた.また,モンカゲロウ卵野外孵化実験を通して,卵の孵化率・死亡率に対する河床間隙水域の物理化学的環境の影響を調べた.その結果,モンカゲロウは,上空が樹冠で覆われず,岸際が植生に覆われていない裸地部分を産卵場所に選ぶことが確認された.また,産卵場所と瀬-淵の相対的位置関係を分析した結果,産卵の集中地点は,必ずしも瀬頭とは限らず,瀬中央付近でも集中的に産卵することがわかった.次に,微生息場所条件の分析の結果,瀬の産卵雌数は,ばらつきは大きいものの動水勾配との間に有意な正の相関が認められた(r=0.61, p<0.01).これに対し,透水係数,間隙水流速との間には有意な相関は認められなかった(透水係数r=-0.17, 間隙流速r=0.25,n.s.).さらに,野外孵化実験の結果,モンカゲロウ卵は産卵場所に選ばれていない場所でも孵化できることが確認できたが,死亡率は,間隙水流速が小さく,DO供給量が小さくなる砂礫堆内陸側や下流側において大きくなる傾向が認められた.本研究の結果は,「モンカゲロウの選択する産卵場所条件は,間隙流速が大きく豊富な溶存酸素が供給される間隙水域に対応しており,卵や孵化した若齢幼虫の生存率を高めるのに役立っている」という仮説を支持している.