著者
井上 英治 竹中 修
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.831, 2004

ニホンザル餌付け集団において、父性解析と交尾行動の観察を行ない、どのようなオスが子供を残していたのかを明らかにした。ニホンザルは、母系の集団であり、オスは性成熟に達すると、群れを移籍し、その後も数年経つとまた他の群れに移籍するとういう生活史を持つ。また、明確な交尾期があり、秋_から_冬に交尾を行ない、春_から_夏にかけ出産をする。<br>これまで、ニホンザルの性行動について、オスの交尾成功は順位で決まるものではなく、メスの選択が影響していて、メスにとって新しいオスを好む傾向があることが示されてきた。また、DNAを用いた父性解析を行なった研究でも、オスの順位と子供の数は相関せず、メスの選択が影響することが示されている。しかし、どのような特徴のオスが子供を残しているのかについては分かっていない。そこで、本研究では、嵐山E群という個体の詳細な情報がわかっている群れを対象にして、交尾期の行動観察と引き続く出産期に生まれた子供の父親を決定した。<br>父性解析は、サルの毛からDNAを抽出し、11座位のマイクロサテライト遺伝子の遺伝子型を決定した。そして、子供と遺伝子を共有していないオスを排斥し、残ったオスを父親と決定した。<br>父性解析の結果、嵐山E群では、群れの中心にいるオトナオス(中心オス)は子供をほとんど残していないことが明らかになった。周辺にいるオトナオス(周辺オス)や、群れ外オスが子供を多く残していた。また、中心オスは、交尾が少ないわけではなく、個体追跡を行なったオスについて、交尾頻度と子供の数に相関は見られなかった。子供を産んだメスの交尾行動を分析すると、受胎推定日から離れている時には、高順位のオスとの交尾が多いが、受胎推定日の近くになると周辺オスとの交尾が増えることが示された。<br>嵐山の中心オスは、在籍年数が長く、子供を産んだ母親の父親である可能性があるためにメスに避けられていたと考えられる。<br>
著者
池田 和子 明田 佳奈 向井 宏
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.700, 2004

ジュゴン (<i>Dugong</i> <i>dugon</i>)は沖縄本島周辺にもわずかに生息し,沿岸浅海域に生育する海草を摂餌している.本研究は,ジュゴンが利用した海草藻場の1つにおいて,摂餌痕(ジュゴントレンチ)を基にジュゴンの摂餌率を調査し,また同海域で海草の生長量を測定することで海草の回転率を把握することを目的とした.<br> 2003年9月に,沖縄県名護市の東海岸の海草藻場において,10cm×10cmの方形枠をジュゴントレンチ内・外のペアで14ペア設置・坪刈採取し,海草種毎の現存量を測定した.また,海草種毎(10株)の葉部の生長量を夏季,冬季で測定した.<br> 調査地の海草藻場は6種の海草が混生しており,調査地点ではボウバアマモが優占し,海草現存量は0.713-1.302gdw/100cm<sup>2</sup>(1.01gdw±0.25/100cm<sup>2</sup>)であった.<br> ジュゴントレンチの平均長は110-230cm(平均172cm±49),平均幅は15-25cm(平均20cm±3)であった.トレンチ内外の海草現存量比較から求めたジュゴンによる海草葉部の摂餌率は33.7-87.7%であり,平均71.5±22.1%であった.また,トレンチ毎の葉部の摂餌量は0.153-0.678gdw/100cm2であった.<br> 海草の生長量については,夏季ではボウバアマモが5.0±2.3 mm、マツバウミジグサが6.5±3.0 mm,ベニアマモが10.6±3.9 mm,リュウキュウスガモが11.6±3.3 mm,リュウキュウアマモが6.8±3.5mmであった.冬季は夏季の成長に比べて,ボウバアマモが53.9%(2.7±1.3mm),マツバウミジグサが56.0%(3.7±1.2mm),リュウキュウスガモが42.5%(4.9±1.6mm),リュウキュウアマモが73.8%(5.0±1.5mm)であった.<br> 伸長から求めた海草の種毎の回転率は夏,冬それぞれ,マツバウミジグサで14.8日,29.5日,リュウキュウスガモで16.5日,40.4日,ボウバアマモで23日,45.7日,リュウキュウアマモで29.6日,40.6日で,マツバウミジグサの回転率が夏期・冬期とも一番高かった.
著者
太田 彩子 森長 真一 熊野 有子 山岡 亮平 酒井 聡樹
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.234, 2004

これまでの研究では、集団間では送粉者が異なることによって、花の香りが異なることが知られている。しかし、花の香りは以下の要因でも変化しうるのではないだろうか。<br>1. 個体サイズ:個体サイズによって繁殖形質(花冠の大きさ等)が変化することがあるため。<br>2. 花齢:訪花要求量が変化するため。<br>3. 昼夜:送粉者が変化することがあるため。<br>そこで本研究では、花の香りが個体サイズ・時間(花齢・昼夜)に依存して変化するのかどうかを調査した。今回は、香りの強さに特に着目して解析を行った。<br>・ 実験方法<br>ヤマユリ(ユリ科・花寿命約7日)を用いて以下の調査を行った。<br>1. 香りの個体サイズ依存変化<br>2. 香りの時間依存変化<br>3. 送粉者の昼夜変化<br>4. 繁殖成功(送粉者の違いの影響をみるため、昼/夜のみ袋がけ処理を行い、種子成熟率・花粉放出率を比較)<br>・結果<br>1. 個体サイズが大きいものほど花の香りは強くなる傾向にあった。<br>2. 昼に比べ夜の方が香りは強くなるが、花齢が進むにつれて香りは弱くなる傾向にあった。<br>3. 昼にはカラスアゲハ、夜にはエゾシモフリスズメが訪花していた。<br>4. 種子成熟率・花粉放出率共に、昼夜での違いはなかった。<br> 今後はGC-MSを用いた香りの成分分析を行う予定である。これらの結果を統合することにより、個体サイズ・時間に依存した花の香りの適応戦略を明らかにしていきたい。
著者
小野寺 佑紀 小林 繁男 竹田 晋也
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.632, 2005

森林の分断化とそれに伴う消失は、人間活動の広がりとともに世界中で見られる現象である。しかし、一部の森林は住民が保全することで森林パッチとして残存している。タイ東北部の代表的な景観は、水田と森林パッチである。これらの森林パッチは、先祖の魂を奉るための「守護霊の森(don puta)」、火葬・埋葬に用いられる「埋葬林(pa cha)」、そして林産物および薪炭材採取のための公共林に分類されると言われてきた。利用形態は変容しながらも、現在でも住民の生活に森林パッチは欠かすことができない。ところが、これまで森林パッチの構造と種構成に関する調査は行われてこなかった。そこで、森林パッチの植生に及ぼす人為・環境要因を明らかにするために、ヤソトン県南部のK郡に分布する35の森林パッチを対象に、植生調査および村人への聞き取り調査をおこなった。植生調査では、パッチの面積に応じて3から10のコドラート(10m×10m)を合計206個設置した。その結果、K郡では172種の木本を記録した。 35の森林パッチは、既存の分類(e.g. Prachaiyo 2000)のように明確に分けられるものばかりではなく、その利用形態は複合的なものが多かった。今回確認された埋葬林は7つであったが、そのうち6つではすでに埋葬は行われていなかった。なかでも放棄された埋葬林は、利用頻度が高い森林パッチと比較して、個体数密度および種数が大きい値を示す傾向があった。一方で、「守護霊の森」は、個体数密度が小さく、大径木が多く出現する傾向があった。以上より、異なる住民利用は森林パッチの構造に異なる影響を与えていることが明らかとなった。さらに、住民利用が森林パッチの種数および種構成に与える影響および環境要因として河川の氾濫を取り上げ、それが森林パッチの植生に及ぼす影響についても検討する。
著者
山本 和司 佐々木 晶子 中坪 孝之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.257-262, 2012-11-30

ランタナ(シチヘンゲ)Lantana camara L.は南アメリカ原産のクマツヅラ科の低木で、観賞用に栽培されているが、逸出・野生化した個体による悪影響が世界各地で顕在化しており、IUCN(国際自然保護連合)の「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定されている。日本では、要注意外来生物に選定され、沖縄や小笠原をはじめとする島嶼部、本州の一部地域での野生化が報告されているが、地域レベルでの分布の広がりに関する詳細な報告はない。本研究では、瀬戸内海沿岸域におけるランタナの野生化の実態を明らかにするとともに、分布の制限要因の一つと考えられる冬期の気温との関係を検討した。広島県の沿岸域と島嶼部を調査地域とし、GISで1km四方ごとに4000のメッシュに区切った。このうち、森林などランタナが植栽されていないと考えられるメッシュを除外して、約500のメッシュを抽出した。これらのメッシュごとに2010年5月から同年12月にかけて目視による調査を行った結果、100メッシュ、186ヶ所でランタナの生育を確認できた。このうちの47ヶ所は周囲の状況から逸出・野生化したものと判断された。従来の研究では、気温が頻繁に5℃を下回るところではランタナの生育は困難であるとされていたが、2011年1月は調査地域が大寒波に襲われ、ランタナが生育していたすべての地点で平均気温が5℃を大きく下回まわった。しかし、同年の7月から11月にかけて再調査したところ、ほとんどの個体の生存が確認され、ランタナの潜在的な生育可能温度域が従来の報告より広いことが示唆された。
著者
小野 勇一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, 1997-08-25
著者
池田 啓 江口 和洋 小野 勇一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-48, 1979-03-30
被引用文献数
10

Pattern of habitat utilization, home range and food habits of a raccoon dog are studied in a small islet, Takashima, western Kyushu. The home range and the number of individuals in the area are established by means of a bait-marking method which is a new technique developed in this study taking notice of the peculiar behaviour or the raccoon dog to defecate its feces daily on a definite fecal pile site. The size of home range estimated by the method ranged from 1.1 to 4.3 ha (2.8 ha av.) and the total number of individuals in this islet was 8.6-16.1,0.46-0.86 per ha in density. The individual home ranges overlapped closely to each in four seasons. The small population size and high population density in this islet are explained by the confined circumstances of habitat in the one hand and by the specific modes of life of the raccoon dog, that they can live together in a small area with cooperative utilization of the habitat on the other.
著者
中島 俊彦 鈴木 信彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.602, 2005 (Released:2005-03-17)

ある特定の花に選択的かつ連続的に訪花する行動を一貫訪花という。モンシロチョウには一貫訪花とランダム訪花の2つの訪花パターンがみられることが知られている。野外では花蜜をめぐる多くの競争者がいるため、蜜のある花とない花が存在する。したがって、モンシロチョウは報酬の得られる確率により一貫訪花を行うか否かを決定している可能性が考えられる。そこで本研究では花の蜜含有確率がモンシロチョウの訪花パターンに及ぼす影響について調査した。 蜜含有確率の異なる実験区(A;100%、B;50%、C;25%、D;12.5%)を設け、黄色と青色の人工花を交互にそれぞれ8花ずつ配置したケージ内でモンシロチョウの訪花行動を観察した。訪花した花の報酬の有無や訪花する花色の推移を記録し、Bootstrap法によりその個体の訪花パターンを解析した。 実験区A,Bでは同色花推移率が高く、一貫訪花をする個体が多くみられた。実験区C,Dでは同色花推移率は比較的低く、ランダム訪花をする個体が多くみられた。一貫訪花をした個体とランダム訪花をした個体が経験した蜜獲得確率はそれぞれ62.3%と16.4%であった。また、一貫訪花した個体とランダム訪花をした個体のどちらも蜜のある花に訪花した後は高い確率で同色花に訪花した。一方、蜜のない花に訪花した後の異色花へ訪花する確率(switching率)は一貫訪花をした個体で9.2%、ランダム訪花をした個体で48.2%であった。また、異色花へのswitchingの意思決定にはそれまでの訪花履歴(蜜獲得率や蜜のない花への訪花頻度など)は関与していないことが判明した。これらのことからモンシロチョウは報酬が得られれば同色の花に訪花するというルールに基づいた訪花をしていることが示唆された。よってモンシロチョウは蜜含有確率の高い花では一貫訪花をする確率が高く、効率よく採餌をしていると考えられた。
著者
玉手 剛
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.832, 2004 (Released:2004-07-30)

体サイズの性的二型 (sexual size dimorphism, SSD)、すなわち体サイズの性差は多くの動物種で認められており、SSDの進化プロセスを解明することは進化生態学の主要課題の1つとなっている。本研究においては、降海型サクラマスにおけるSSDの緯度間変異の把握とその進化プロセスを検証した。 降海型サクラマスの回帰親魚の性比には緯度クラインがあると考えられている。例えば、降海型の南限地域 (北陸南部および三陸中部) においては回帰親魚の100%近くがメスで占められるが,北限地域にあたるロシア沿海州北部地域やカムチャッカ西岸ではメスの割合が60%ほどになる。 この回帰親魚における性比の緯度クラインは,北方域ほど回帰メス一尾に対する回帰オスの数が増加すること(すなわち実効性比が増加すること)を示している。 このことから北方の個体群ほど繁殖場での降海型オス間の競争が激化するため,より大型のオスが高い受精成功を得ることができる(北ほど大きな降海型オスが有利)と推察される。 そこで本研究ではサクラマスの降海型個体群において,1)メスの回帰親魚の平均サイズは緯度と関連がないが、個体群の緯度位置が高くなるほど 2) オスの回帰親魚の平均サイズは大きくなるので、3) 回帰親魚の相対サイズ (オスの平均サイズ / メスの平均サイズ) が大きくなることを予測した。 今回は、日本海沿岸の20個体群 (北緯36_-_49度の範囲) のデータを用いて、それらの予測を検証した結果を発表する。
著者
鈴木 卓磨 川合 里佳 足立 有右 足立 佳奈子 山下 雅幸 澤田 均
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.566, 2004

近年、日本各地で外来種の侵入問題が顕在化してきた。我々は外来種の侵入が確認された河原の植生構造を把握し、急流な東海型河川の河原植生に関するデータベースの作成を目的として、一昨年度より静岡県内の主要河川において植生調査を行っている。特に、侵入種として問題視されているシナダレスズメガヤ<i>Eragrostis curvula</i>の優占地に注目し、本種の分布拡大が県内の河原植生にどのような影響を及ぼしているのかを検討している。<br> 河原の植生調査は、静岡県西部の天竜川、中部の安倍川、東部の富士川の3河川の下流域で2002年から2003年の春と秋に行った。また、安倍川と富士川については中流域にも調査地を設けた。調査方法は河流に対して垂直にコドラート(1×1m)を並べるライントランセクト法を用い,コドラート内の種数、個体数及び植被度を調査した。<br> 調査の結果、3河川とも1年生草本が最も多く、次いで多年草が多かった。今回の調査地では、外来種が出現種数の過半数を占めるコドラートが多く、帰化率は天竜川の調査地で10%、安倍川と富士川ではともに30%以上で、外来種の侵入程度が極めて高いことが明らかとなった。 特にシナダレスズメガヤについては、河岸近くで大きな集団を形成しているところが中・下流域で広く確認された。各河川の生育地において本種の形態を測定したところ、平均で草丈138cm、株周り55cmと大型化した個体が多く、河原植生に及ぼす影響が大きいものと推察された。<br> 今後、河川植生の保全活動のためにも、生育している個々の種を継続して詳細に調査していくことが必要である。特に帰化率の高かった河原では外来種の優占化,それに伴う種多様性の低下が懸念されるため、在来種と外来種双方からの研究アプローチが不可欠であろう。<br>
著者
安部 哲人
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.200, 2005 (Released:2005-03-17)

海洋島への生物の侵入過程には不明な点が多い.火山島での数少ない研究事例としてクラカタウ島,スルツェイ島,ロング島などがあるだけである.一般に海洋島生態系にはさまざまなシンドロームがあるが,その中の一つに植物の性表現に関してフロラが雌雄異株性に偏っていることがあげられる.この理由については大きく分けて,1.雌雄異株が侵入しやすい,2.侵入してから雌雄異株になった,という2つの対立する仮説がある.しかしながら,実際に誕生して間もない海洋島での生物の侵入過程を観察できる機会は世界的にもほとんどないため,検証することは非常に困難である.その意味でも噴火31年後の小笠原諸島西之島の生物相の現状は興味深い. 2004年7月に調査した結果,西之島のフロラはわずか6種で構成され,前回報告された1978年以降で2種増加したのみであった.種子散布型の内訳は海流散布4種,付着型鳥散布2種であった.このことから,他の火山島での侵入過程と比較しても,西之島の生物相は侵入のごく初期の段階を脱しておらず,海洋島では侵入速度がはるかに遅いことが示された.植生は1978年以降,大きく拡大していたが,溶岩部分には全く植物が侵入できておらず,新たに拡大したのは砂礫が堆積した平地部分のみにとどまっていた.島内ではカツオドリをはじめとする海鳥が高密度で営巣しており,種の侵入や植生に対しても少なからず影響がありそうな反面,植物の果実を食べる山鳥は全くみられず,被食型鳥散布種子が侵入できる確率は非常に低いと考えられた.また,フロラの構成種は全て両性花植物であり,被食型鳥散布種子を持つ種も見られなかったことから,侵入に関して雌雄異株の優位性は認められなかった.一方で,非常に貧弱なフロラであるにもかかわらずハマゴウやスベリヒユなどの花には540分間で複数種の訪花昆虫が観察された.このことは自家和合性のある種でなくても定着が十分可能であることを示唆する.
著者
石井 弘明 角谷 友子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.152, 2004

アメリカ北西部の老齢ダグラスファー-ツガ林において、樹冠内の枯死枝現存量とその分解過程を明らかにするために、ダグラスファーの樹冠内に単ロープ法で登り、調査を行った。個体あたりの枯死枝現存量は個体サイズ(胸高直径および樹高)と高い相関が見られ、生枝現存量の増加に伴い枯死量は指数的に増加した。このことから、個体成長に伴い枯死枝が樹冠内に蓄積していくことが示唆された。森林全体の樹上の枯死枝現存量は5.19-12.33 Mg/ha、地上は1.80-2.05 Mg/haで樹上が地上の約5倍であった。<br><br> 樹冠内の枯死枝と地上に落下した枯死枝では、水分や微生物などの条件が異なるので、分解の過程も異なると考えられる。樹冠内及び地上の枯死枝を腐朽の進行具合によって5段階に分け、各段階におけるC、N、リグニン含有量を分析した。樹上と地上の間でCN比に明瞭な違いが見られなかったことから、地上で採取された枯死枝は樹上で枯死し、時間が経ってから落下したことが示唆された。一方、倒木に由来し地上で分解が進んだと考えられる枯死枝ではCN比が低かったことから、地上で分解が進むと菌や微生物などの分解作用により、CN比が減少すると考えられる。よって、樹上での分解には生物的作用があまり働かないことが示唆された。樹上では各腐朽度の間でリグニン含有率に明瞭な違いが見られなかったが、地上では腐朽の初期に増加する傾向があり、腐朽が進むと減少した。リグニンの分解においても、樹上では生物的作用があまり働かないことが示唆された。<br>
著者
竹中 宏平 戸田 正憲
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.692, 2004 (Released:2004-07-30)

Many species of Colocasiomyia (Diptera, Drosophilidae) depend exclusively on flowers of Araceae species for mating, oviposition and larval development. These flies play an indispensable role in pollination of their host plants. This resembles fig and fig wasp system in having features of both plant-herbivore and plant-pollinator relationships. Characteristic of this pollination mutualism is that fly larvae do not eat the seeds. Furthermore, plant-insect relationships range widely, from obligate mutualism to broad generalism. However, there is some correspondence in host selection between Araceae tribes and Colocasiomyia species-group. Another feature of this pollination mutualism is ‘synhospitalism’, in which two Colocasiomyia species coexist in a single host inflorescence. Usually, one fly species in a synhospitalic pairs uses mainly the upper (male) part of the inflorescence and the other species the lower (female) part. A phylogenetic tree of the flies suggests two possible pathways for the coevolution of this synhospitalism. We review this pollination mutualism and present new findings from Borneo.
著者
村上 正志 平尾 聡秀 久保 拓弥
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.362, 2005 (Released:2005-03-17)

植食性昆虫の群集構造を制限するメカニズムとして、捕食者や寄生者を介した植食者間の見かけの競争が重要である可能性が示唆されている。しかし、これまでのほとんどの研究は実験条件下での検証であり、野外においてはわずかに一例が報告されているにすぎない。森林生態系において、ジェネラリスト寄生者である寄生蜂は被食者である潜葉性昆虫間に見かけの競争を引き起こす可能性があるが、これは空間構造をもつ生息場所を舞台として生じており、空間構造が見かけの競争の有無に影響を及ぼしていると考えられる。寄生者の分布様式に空間的な集中が見られるならば、近接する樹木個体上に生息している潜葉性昆虫個体群の間に見かけの競争が生じていることになる。本研究では、森林生態系において潜葉性昆虫_-_寄生蜂群集を対象として、空間スケールに依存した生物間相互作用の定式化を試みる。調査は北海道大学苫小牧研究林で行った。30m四方の調査プロットを5つ設定し、樹木7種の位置を計測した。また、すべての樹木個体から潜葉性昆虫を定量的にサンプリングし、潜葉性昆虫を飼育することによって樹木パッチあたりの寄生率を調べた。生物間相互作用の空間パターンの解析に際しては、寄生の空間相関モデルを検討した。モデルでは正の空間相関が検出されたときに見かけの競争があることを仮定している。寄生蜂の空間分布パターンは潜葉性昆虫種や寄生蜂種、モデルで仮定する近傍情報に依存して様々な変動を示したが、近傍までの距離が比較的近い場合,寄生の空間パターンとして正の空間相関が見いだされる傾向があった。これらの結果から,森林内で寄生蜂は空間的に集中し、潜葉性昆虫の間に見かけの競争が生じていることが明らかになった。
著者
中田 兼介 森 貴久
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.590, 2005 (Released:2005-03-17)

円網性クモは網を定期的に張り替えるが、その際にしばしば網の大きさや横糸の間隔を変える事が知られている。この現象はクモが網場所の質に応じて網糸への投資量を調節しているためであると考えられている。この調整が餌収益の上昇に結びつくためには網場所の質を知る必要があるが、クモは過去の採餌経験からこれを推定していると考えられる。この意味で円網は採餌のためのデバイスであると同時に情報獲得のデバイスでもあると言える。一方、円網性クモは、餌捕獲量の減少、網の破壊、成長に伴う最適な造網場所の変化などの理由によってしばしば網場所を移動させる。このとき新しい網場所は過去に利用した事のない場所である事が一般的で、クモは移動直後にはその場所の質を知る事無しに、どのような網を張るかについて意思決定しているだろう。本研究では、このようなクモの網場所移動直後の造網行動がどのようなものになるのかを、「採餌経験からの網場所の質の推定には誤差が伴うが、その誤差は網サイズが大きくなればなるほど小さくなる」という仮定の元で最適網糸投資モデルを作り解析した(この仮定を置いた理由は、網サイズが大きくなる事は、より広い空間をサンプリングする事であり、推定の際のサンプリング量の増加は推定の精度の上昇に繋がると考えられるからである)。その結果、網場所移動率が小さいほど移動直後には最適網糸投資量が大きくなる、という結果が得られた。このような最適モデルからの予測が実際に当てはまるかどうかについて、コガネグモ科の円網性クモ数種を使い、1)野外で人為的に網を壊してやることで網場所移動を引き起こし、新しい場所に造網させた時の最初の網の総糸量、2)連続した二日間同じ場所に造網している頻度、計測し、これらのデータを種間で比較する事で検討した。
著者
高倉 耕一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.697, 2005

外来生物などにおいて、ある種では新規生息地への進入直後に爆発的に分布域を拡大し、他の種では分布域の拡大が比較的緩やかであるという現象はしばしば観察されている。しかし、その違いがどのような要因に差によるものなのか必ずしも明らかでなかった。本研究では近年日本に侵入し広範囲に分布するにいたったハブタエモノアラガイ <i>Lymnaea columella</i> と数種の近縁種を材料として、大阪とその近郊における分布の現状を明らかにし、その分布域拡大の要因について調べた。その結果、大阪および京都南部の平野では大部分の潜在的生息地に外来種ハブタエが生息していた。室内実験から、ハブタエは在来種のモノアラガイ <i>L. auricularia japonica</i>とともに飼育した場合に死亡率が高く、産卵数も少なかった。また、2種間には配偶攪乱は検出されなかった。一方で、ハブタエは同種個体間でも求愛および行動が観察されず、自己交配による近交弱勢もほとんどなかった。これらの結果をふまえ、大きな空間スケールでのメタ個体群の挙動を予測するシミュレーションモデルを構築し解析を行った結果、分断化された小パッチからなる生息域においては、ハブタエのように近交弱勢が存在しない場合には速やかに分布域を拡大したが、他種のように近交弱勢が存在する場合にはその速度はゆるやかであった。以上から、大阪・京都南部におけるハブタエの蔓延は、生息地の分断化と近交弱勢の低下が主要な要因となってもたらされた現象であると推測された。
著者
青木 優和 山口 あんな
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.304, 2004 (Released:2004-07-30)

コンブノネクイムシは、褐藻類の茎部に穿孔造巣し、寄主である海藻を生息場所および餌資源として利用する端脚目の海産小型甲殻類である。静岡県下田市大浦湾において本種が寄主とするワカメの藻体は 12月から 3 月までは生長するが、生長停止後は崩壊し始め、5 月までには消失する。寄生率はワカメの生長期である 1 月から 3 月にかけて増大し 90% 以上に達し、坑道状の巣内では、一夫一妻のペアが最大 3 腹分の幼体と同居する。体長組成解析と野外飼育実験により、初令幼体が新規加入サイズに成長するまでに約 1 ヶ月、加入後ペア形成して繁殖開始するまで約 2 週間、成熟メスは約 1 ヶ月間に脱皮成長を繰り返しながら最大 3 回産仔、寿命は約 2 ヶ月半であることが分かった。親と同居する幼体のサイズは体長 1.0-4.5 mm のものであり、このうち体長 2.0 mm 以上のものは新規加入個体としての造巣が可能なサイズであり、親との共存巣から取り出したこのサイズクラスの幼体は単独で造巣可能なことも確認された。加入初期のコンブノネクイムシでは、巣の容積増加率がワカメの茎部容積増加率に追いつかないため、ワカメ茎部の利用率は低下するが、2 月中旬に入ると上昇に転じた。1 巣当たりの個体数は巣容積の増加に対して成体がほぼ一定であるのに対して、幼体は次第に増加する。しかし、親が 1 腹分の仔のみと同居の場合には成体のみの場合と資源消費率に差がなく、0.5cm3 を越える巣の拡張には、2 腹以上の幼体との共存が必要であった。幼体にとって早期の移動分散は捕食や流失といったリスクを伴う。したがって、幼体はできるだけ長くワカメに留まり、分散後すぐに繁殖するのがよい。コンブノネクイムシは 2 腹以上の幼体の親との同居によって、短期的に増大するワカメ資源を集中的かつ効率的に利用していると考えられる。
著者
大黒 俊哉 松尾 和人 根本 正之
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.245-256, 1996-04-25
被引用文献数
34

Successional patterns of vegetation on abandoned paddy fields and their levee slopes were analyzed in mountainous regions of central Japan. The samples were classified into two types, the Miscanthus sinensis type and Phragmites australis type, at the first division level of TWINSPAN, based on the dominant species regardless of location or fallow duration. The M. sinensis type occurred at dry sites on convex slopes and the P. australis type at wet sites on concave slopes. M. sinensis and P. australis have dominated paddy field stands for 20 years. Both the clump size and litter accumulation of M. sinensis increased with fallow duration, and this litter effect would be one of the important factors related to the long-term dominance of M. sinensis. During 20 years of fallow in the M. sinensis type, however, woody species invaded the gaps among the M. sinensis clumps. As individuals of M. sinensis become clumped and form heterogeneous spatial patterns including gaps, seeds dispersed from the levee slope vegetation and surrounding forests and /or buried seeds may establish themselves. On levee slopes, most stands were of the M. sinensis type, and dominated by woody species except in those that had lain fallow for three years. These results suggest that the succession of abandoned paddy fields in the surveyed regions is affected by soil moisture conditions related to micro-landform, litter accumulation, the growth form of dominant species and the levee slope vegetation as a seed source.