著者
小川 文秀 佐藤 伸一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.349-358, 2006 (Released:2006-12-31)
参考文献数
49
被引用文献数
7 7

我々の皮膚は常に外界からの様々な刺激にさらされている.その刺激の代表的なものとして太陽光線中の紫外線があげられる.紫外線は皮膚癌の発生の誘因となる他に,紫外線の曝露により皮膚には光老化と称される変化が生じてくる.光老化の特徴的な変化として皮膚表面のびまん性の色素沈着と深い皺があげられるが,その変化を特徴づけるものとして皮膚真皮におけるsolar elastosisと称される膠原線維・弾性線維の変化がある.この皮膚光老化には紫外線による酸化ストレスが深く関与していると考えられている.一方,酸化ストレスが関与する全身疾患の一つとしてとして全身性強皮症(systemic sclerosis ; SSc)があげられる.SScは全身の皮膚硬化を主徴とする膠原病であるが,レイノー症状をはじめとする血管障害も病態形成に深く関与していると考えられている.本稿では,酸化ストレスが皮膚に与える影響を光老化とSScに関して我々の研究結果とこれまでの研究知見を中心に概説する.
著者
中嶋 蘭 三森 経世
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.71-76, 2013 (Released:2013-04-28)
参考文献数
17
被引用文献数
36 34

抗MDA5抗体は皮膚筋炎特異的抗体であり,同抗体陽性例は筋症状が少なく,高率に急速進行性間質性肺炎を併発し予後不良であること,高フェリチン血症・肝胆道系酵素上昇を伴うなど特徴的な臨床像を呈する.抗MDA5抗体陽性患者と陰性皮膚筋炎患者の治療前血清サイトカインを比較したところ前者では有意にIL-6, IL-18, M-CSF, IL-10が高値を示し,IL-12, IL-22は低値を示した.これらのことから,抗MDA5抗体陽性例においては単球・マクロファージの異常活性化が病態の背景に存在すると考えている.抗MDA5抗体陽性例は一旦酸素投与が必要な呼吸不全状態になると極めて救命率が低いため,診断後可及的速やかに治療介入が必要であると考えられる.ステロイド大量療法・シクロスポリン内服・シクロホスファミド間歇静注療法(IVCY)の3剤を併用した強力免疫抑制レジメンを用いることで,同抗体陽性例の予後が改善した.特に疾患活動性を反映することが報告されている血清フェリチン値は,IVCY投与約2週後に低下する傾向を認め,IVCYが同抗体陽性例の治療においてキードラッグとなることが示唆された.
著者
前田 悠一 熊ノ郷 淳 竹田 潔
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.59-63, 2016 (Released:2016-05-14)
参考文献数
16
被引用文献数
3 15

関節リウマチに代表される自己免疫疾患の発症には遺伝的要因,環境要因の関与が示唆される.環境要因の一つとして,腸内細菌叢の変化について研究が進められている.腸内細菌が注目されている理由の一つに解析方法の進歩が挙げられる.16S rRNAを標的とした次世代シークエンス法により,難培養細菌のDNA配列レベルでの菌種同定が可能になった.本論文では,腸内細菌叢とマウス及びヒト関節炎との関連について紹介する.腸内細菌叢は,関節炎モデルマウスにおいて重要な役割を示す事が明らかにされている.K/BxNマウス,IL-1受容体アンタゴニスト欠損マウスのような関節炎モデルマウスは腸内細菌叢がないと関節炎を発症しないが,特定の腸内細菌の定着により関節炎を発症する.また,ヒト関節リウマチ患者においても腸内細菌叢の異常がフィンランド,アメリカ合衆国,中国において認められた.腸内細菌叢の異常と宿主の免疫異常の関係を明らかにすれば,腸内細菌叢を対象にした新たな治療あるいは発症を予防する戦略が期待される.
著者
田中 聡 坂口 志文
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.291-299, 2005 (Released:2005-11-05)
参考文献数
45
被引用文献数
7 8 2

内在性CD25+CD4+ 制御性T細胞は,胸腺で産生され,試験管内での抗原刺激に対して,自らは低反応であり,他のT細胞の増殖を抑制する.この細胞集団を生体より除去すると,各種の臓器特異的な自己免疫疾患が自然発症する.その際,制御性T細胞を移入すれば,自己免疫病の発症が阻止される.すなわち,制御性T細胞は,末梢での免疫自己寛容の維持に重要な働きをしている.CD25+CD4+ 制御性T細胞の発生及び機能発現のマスター制御分子は,転写因子FoxP3であり,FoxP3の異常は,ヒトの自己免疫病の原因となる.また,自己免疫マウスモデルや自己免疫疾患患者において,制御性T細胞に量的もしくは機能的異常を認める.自己免疫マウスモデルを用いた実験では,制御性T細胞の移入により,発症後の自己免疫疾患を治療することが可能である.制御性T細胞をヒトの自己免疫疾患の治療に応用するには,制御性T細胞と活性化CD25+ T細胞を区別できる細胞表面マーカーの検索,抗原特異的な制御性T細胞の増殖法の開発などが重要課題である.
著者
只野 裕己 鳥越 俊彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.102-108, 2017 (Released:2017-06-12)
参考文献数
67
被引用文献数
10 7

抑制性共シグナルを伝達する免疫チェックポイント分子Cytotoxic T lymphocyte antigen 4(CTLA-4),Programmed death 1(PD-1),PD ligand 1(PD-L1)に対する阻害抗体が開発され,メラノーマ,非小細胞肺がん,腎細胞がん,ホジキン病,頭頸部がんなど,多くのがん種において新たな標準治療法となりつつある.その一方で,これら免疫チェックポイント阻害剤の副作用と考えられる免疫関連有害事象(irAEs)の報告も増加し,その病態と発生機序の解明が課題となっている.本稿では免疫チェックポイント阻害剤によるirAEsの特徴である,①多様性,②多発性,③持続性,④相関性の4点について概説する.
著者
松本 孝夫
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.10, no.5, pp.544-546, 1987

1. 昭和60年7月から昭和62年3月までの間に,主として東京地区を中心に在住する男性同性愛者413名につき,抗HIV抗体を検索した.<br>2. 413名中17名(4.1%)が陽性であった.内訳は日本人352名中10名(2.8%),在日外国人61名中7名(11.5%)が陽性を示した.<br>3. 抗体陽性者13名のうち無症候キャリア7名(53.8%),いわゆるARC 5名(38.5%), AIDS (カポジ肉腫発症)が1名(7.7%)であった.
著者
小村 一浩
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.125-131, 2008 (Released:2008-06-30)
参考文献数
37

紫外線は免疫を制御する因子の一つである.紫外線照射により腫瘍免疫が抑制される事,SLEや皮膚筋炎などの自己免疫疾患が増悪する事,ヘルペスウイルスなどによる感染症が増悪する事などがよく知られている.さらに紫外線は,尋常性乾癬や尋常性白斑などの炎症性皮膚疾患の治療にも広く臨床応用されている.紫外線による免疫抑制機序は複雑で,未だ一定の見解を得られていない.リンパ組織を移入する事で,紫外線により生じた抗原特異的な免疫寛容が他のマウスに転嫁できるという所見より,抗原特異的な免疫抑制性の細胞が紫外線により誘導された可能性が考えられてきた.近年,CD4+CD25+T細胞を選択的に移入した系で免疫寛容が転嫁できた事よりCD4+CD25+T細胞が中心的な役割を果たすと考えられるようになってきた.さらに,免疫抑制性の細胞はIL-10を含めた種々のサイトカインなどを介して,細胞接着分子の発現を制御していると考えられる.細胞接着分子が炎症細胞の局所浸潤を精密に制御しているからである.また,SLEや皮膚筋炎患者では,高率に光線過敏を有することや,免疫抑制性細胞の機能異常があることなどから,紫外線による免疫抑制機構が破綻した結果発症する可能性が示唆された.このように,紫外線は腫瘍免疫のみならず,自己免疫疾患の発症/制御に関与すると考えられるため,紫外線免疫学は臨床免疫学の中でも重要な分野の一つであると考えられた.
著者
深澤 弘志 影近 弘之 首藤 紘一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.114-126, 2006 (Released:2006-07-01)
参考文献数
80
被引用文献数
7 7

レチノイドとは,核内ホルモン受容体スーパーファミリーに属するレチノイン酸受容体(RARα, β, およびγとRXRα, β, およびγ)に結合し,これらを活性化する化合物の総称である.内在性に存在する最も重要な生体内レチノイドは,all-trans-レチノイン酸(ATRA)であり,これはRARα, β, γを区別なく活性化する.ATRAおよびその類似化合物が急性前骨髄球性白血病(APL)や皮膚疾患の治療に用いられている一方で,数多くの合成レチノイドが合成され,医薬としての性状を改善する試みも行われている.中でも,タミバロテン(Am80)は,RARα, βのみを活性化し,RARγやRXRsには結合しない特徴的な合成レチノイドである.Am80は,乾癬と再発APLの治療において有効性が確認されていることに加え,コラーゲン誘導関節炎モデルや実験的自己免疫性脳炎(EAE)においてもその効果を示す.レチノイドは,特にTh1優勢な自己免疫疾患に有効ではないかと考えられる.
著者
谷川 真理 東 賢一 宇野 賀津子 東 実千代 萬羽 郁子 高野 裕久 内山 巌雄 吉川 敏一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.414a-414a, 2013 (Released:2013-10-31)
被引用文献数
1

【背景と目的】いわゆる化学物質過敏症(Multiple chemical sensitivity : MCS)は現代の環境がひきおこした後天的疾患である.日常的にさまざまな化学物資に曝されることに反応して神経系,免疫系,内分泌系をはじめ全身の多様な症状が起こり,通常の社会生活にも支障をきたすようになる.しかしその病態の詳細は解明されておらずMCS有訴者は診断を受けることも困難な状況に置かれている.MCSの病態解明を目的として免疫学的機能検査を実施し解析した. 【方法】2009年10月以来百万遍クリニックのシックハウス外来に通院するいわゆる化学物質過敏症の有訴者(患者)の協力を得て,一般的な血液検査と多種の免疫機能検査を測定し解析した. 【結果】18人のMCS有訴者と17人の健常成人の比較の結果,MCSではNK活性が統計学的有意に高かった.リンパ球サブセットではMCSではNKT細胞の割合が高く,CD3とCD4が低かった.多種のサイトカイン産生能の測定ではIL-2,IL-4,IL-13,GM-CSFが有意に低かった. 【結論】MCS患者では自然免疫系が高めに保持されている一方,Th2型サイトカインが低い傾向で,アレルギーとは異なる病態と考えられる.
著者
高田 英俊 峯岸 克行
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.15-19, 2010 (Released:2010-02-28)
参考文献数
14
被引用文献数
2

高IgE症候群は,乳児期早期から始まる難治性湿疹,反復性黄色ブドウ球菌感染症(皮膚,肺,関節,軟部組織など)によって特徴づけられ,高IgE血症を示すまれな原発性免疫不全症である.これらの症状以外に,顔貌異常,易骨折,側彎,関節過伸展,乳歯脱落遅延などを呈することも多く,multisystem diseaseの病像を呈する.この優性遺伝形式をとる高IgE症候群に加えて,劣性遺伝形式を示すものもある.高IgE症候群の原因は長年不明であったが,STAT3, TYK2, DOCK8などの責任遺伝子が解明され,その病態が次々と明らかになりつつある.
著者
中面 哲也
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.164-171, 2016 (Released:2016-06-17)
参考文献数
30
被引用文献数
1

抗CTLA-4抗体,抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体などのいわゆる免疫チェックポイント阻害抗体の登場により,その劇的かつ長く効く抗腫瘍効果は世界を驚かせ,さらには,CD19を標的としたCAR-T細胞療法はCD19陽性造血器腫瘍に対して極めて高い奏効率を示し,今や,がんに対する免疫の存在,それらの治療法の有効性について疑う者はいなくなった.また,それに伴い,腫瘍特異的変異抗原(ネオアンチゲン)が注目されており,今や,患者個別のネオアンチゲンを同定してのそれらを標的とした個別化ペプチドワクチン療法の臨床試験も欧米では始まっている.一方で,日本で本格的に取り組んできた共通自己抗原を標的としたペプチドワクチン療法は未だ承認されたものがなく,開発に苦戦している.本稿では,まず近年有効性が示されたがん免疫療法やネオアンチゲンについて概説し,後半は特に日本におけるがんに対する免疫療法の開発状況を期待とともに紹介する.
著者
服部 正平
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.412-422, 2014 (Released:2015-01-06)
参考文献数
26
被引用文献数
3

近年のDNAシークエンシング技術の革新的進歩(いわゆる,次世代シークエンサー; NGS)により,数百兆個の細菌から構成されるヒト腸内細菌叢の集合ゲノム(マイクロバイオーム)の網羅的で高速な解析が可能となった.また,細菌叢の生物学的あるいは生態学的知見を正確に得るための解析技術の開発や改良もなされ,細菌叢の包括的な研究が世界的に進められるようになった.その結果,ヒト腸内細菌叢の基本的な全体構造や機能,食事等の外的因子による影響,さらには様々な疾患における腸内細菌叢の異常(dysbiosis)等が明らかとなり,腸内細菌叢と宿主ヒトの生理現象がこれまでの想像を越えて密接な関係にあることが示唆された.一方で,サンプルの保存や搬送法,DNA抽出法,用いるシークエンサーの種類等の解析プロトコールによる影響についての詳細な精査も必要になっている.本稿では,NGSを用いたヒト腸内マイクロバイオームの解析法について解説する.
著者
岩崎 由希子 藤尾 圭志 岡村 僚久 柳井 敦 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.40-46, 2013 (Released:2013-02-28)
参考文献数
33
被引用文献数
2 2

IL-10は炎症・自己免疫応答を抑制するサイトカインとして知られており,近年報告が相次いでいる誘導性制御性T細胞(Treg)の抑制能の一端を担うサイトカインとしても重要である.Type1 regulatory T (Tr1)細胞は,IL-10産生を特徴とするIL-10産生制御性T細胞の中でも代表的なものである.Tr1を特徴づける細胞表面マーカーや分化誘導機構については未解明の部分も多いが,近年IL-27がT細胞にIL-10産生を誘導し,Tr1を誘導し得るサイトカインとして注目されてきている.また,既に我々が報告しているCD4+CD25−lymphocyte activation gene (LAG-3)+ Treg(以下LAG3+ Treg)は末梢で誘導されるTregであり,やはりIL-10がその制御活性に重要である.LAG3+ Tregにおいて,T細胞にanergyを誘導する働きをもつ転写因子Egr-2の発現亢進が確認され,Egr-2のCD4+ T細胞への強制発現によりLAG-3発現およびIL-10産生が付与されることを我々は見出しており.Egr-2がLAG3+ Tregの抑制能付与において重要な働きをする可能性が示唆されている.本稿では,Tr1およびIL-27誘導性IL-10産生に関する知見について概説し,LAG3+ Tregについて紹介すると共に,自己免疫疾患の新規治療応用への可能性について考察する.
著者
小倉 剛久 亀田 秀人
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.25-32, 2014 (Released:2014-03-05)
参考文献数
52
被引用文献数
1 1

関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどに代表される自己免疫性疾患の発症,増悪と季節の関連が報告されている.季節性の特徴は各々の疾患,報告によって異なるが,日光(紫外線)や感染の関与など病態における環境因子を推測する上で重要な要素となり得る.近年ではビタミンDと疾患の関連や,同一疾患における自己抗体による病因の違いなどの報告も認められている.
著者
大野 博司
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.403-411, 2014 (Released:2015-01-06)
参考文献数
35
被引用文献数
3 4

腸内フローラは,宿主腸管と複雑に相互作用することで,「腸エコシステム」と呼ばれるユニークな環境系を形成している.筆者らは,複雑な腸エコシステムを解析する方法として,ゲノム,トランスクリプトーム,メタボロームなどの異なる階層の網羅的解析法を組み合わせた,統合オミクス手法を提案している.本手法の応用により,腸内フローラが食物繊維を代謝分解して産生する短鎖脂肪酸の一種である酢酸が,腸管出血性大腸菌O157感染モデルにおいて,マウスの感染死を予防するメカニズムを解明した.また,クロストリジウム目などの細菌群が産生する酪酸が,大腸局所でナイーブT細胞に対するエピゲノム制御を介して制御性T細胞への分化を誘導することも明らかにした.酪酸のエピゲノム制御はまた,大腸のマクロファージに働いてToll様受容体の感受性を抑えることで抗炎症性の性質を付与し,腸エコシステムの恒常性維持に寄与している.この他,短鎖脂肪酸はGタンパク質共役受容体を介するシグナル伝達作用も有しており,腸内フローラによって産生された短鎖脂肪酸が吸収されて全身性に作用することで,好中球や制御性T細胞のアポトーシスや遊走を介して炎症制御に働くことも示唆されている.
著者
久保 亮治
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.76-84, 2011 (Released:2011-05-31)
参考文献数
18
被引用文献数
4 4

生命にとって自己と外界を区切るバリア構造を持つことは,生体内部のホメオスターシスを保ち,生命活動を維持するために必須である.我々の身体の表面,すなわち皮膚の最外層では重層扁平上皮のシート(表皮)とその表面を覆う角質層がバリアとして働いている.上皮細胞シートにおいては,細胞自体を物質が通過しようとする場合(transcellular pathway)は細胞膜がバリアとして働き,細胞と細胞の隙間を物質が通過しようとする場合(paracellular pathway)は細胞間を密に接着するタイトジャンクション(TJ)がバリアとして働く.角質層とTJによるバリアの内側には様々な免疫系の細胞が存在し,外来物質の侵入に備えている.表皮内にはランゲルハンス細胞と呼ばれる樹状細胞が存在し,表皮細胞間に網目のように樹状突起を張り巡らせている.ランゲルハンス細胞は通常,TJバリアの内側に留まるが,活性化すると表皮TJバリアの外側に樹状突起を伸ばし,樹状突起の先端部分より抗原取得を行う性質を持つことを,我々は見出した.外敵との闘いの最前線における索敵活動のように見える本現象について詳しく解説する.
著者
田中 敏郎
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.291b, 2015 (Released:2015-10-25)

現在,関節リウマチ,若年性特発性関節炎,キャスルマン病に対する治療薬として承認されているヒト化抗IL-6受容体抗体トシリズマブは,他の様々な慢性に経過する免疫難病にも新たな治療薬となる可能性があり,臨床試験が進められている.また,最近,キメラ抗原受容体を用いたT細胞療法に合併するサイトカイン放出症候群にもトシリズマブが著効することが示され,IL-6阻害療法は,サイトカインストームを呈する急性全身性炎症反応に対しても新たな治療手段となる可能性がある.サイトカインストームには,サイトカイン放出症候群,敗血症ショック,全身性炎症反応症候群,血球貪食症候群やマクロファージ活性化症候群など含むが,特に敗血症ショックでは,病初期のサイトカインストームとその後の二次性の免疫不全状態により,予後が極めて悪く,しかし有効な免疫療法がないのが現状である.敗血症患者ではIL-6は著増し,IL-6の血管内皮細胞の活性化,心筋抑制や凝固カスケードの活性化等の多彩な作用,また,同様な病態を呈するサイトカイン放出症候群に対するトシリズマブの劇的な効果を見ると,IL-6阻害は敗血症に伴う多臓器不全に対して有効な治療法となる可能性がある.しかし,現在,トシリズマブは重篤な感染症を合併している患者には禁忌であり,どのように挑戦するのか,症例(報告)の解析,患者検体,動物モデルを用いた我々のアプローチを紹介したい.
著者
藤田 義正
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.155-159, 2017 (Released:2017-07-26)
参考文献数
34
被引用文献数
5

レプチンは脂肪細胞から分泌され主に視床下部に作用して食欲の抑制やエネルギー消費の亢進よって体重減少をきたす分子である.一方でレプチン受容体は血球系細胞にも発現しており免疫系に対する作用も知られるようになり,それとともにレプチンの自己免疫疾患における意義も次第に明らかとなった.多くの自己免疫疾患でレプチンが増悪因子として作用していることが示されており,レプチンシグナルの阻害療法が自己免疫疾患の新しい治療方法となる可能性が示唆されている.本稿では現状までの報告をふまえて,免疫系におけるレプチンの意義について概説する.
著者
岩永 希 原田 康平 辻 良香 川原 知瑛子 黒濱 大和 和泉 泰衛 吉田 真一郎 藤川 敬太 伊藤 正博 川上 純 右田 清志
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.478-484, 2016 (Released:2016-10-30)
参考文献数
21
被引用文献数
11

症例は25歳女性.2013年6月前医で原発性シェーグレン症候群と診断.2014年7月発熱,著明な炎症反応,全身リンパ節腫脹,肝脾腫を認め前医に入院.抗生剤(ceftriaxone,meropenem)を投与,ステロイドを増量(PSL 50mg)するも無効で,急速に進行する全身浮腫を認め当院へ転院.リンパ節生検では好中球浸潤を認め,骨髄穿刺では巨核球増加と線維化を認めた.minomycinを併用したところ,発熱・全身浮腫・炎症反応は徐々に改善したが,貧血・血小板減少を認めていた.感染症を疑いステロイドを減量したところ,再び発熱,浮腫・胸腹水の出現,血小板減少・貧血の増悪を認めた.ステロイドパルス,ステロイド再増量を行うも治療抵抗性で,cyclosporin(CyA)を併用し軽快した.典型的なリンパ節の病理像を認めなかったが,本症例の臨床像はTAFRO症候群と酷似していた.TAFRO症候群は,Castleman病の一亜型と考えられているが,感染,リウマチ性疾患,悪性腫瘍などによる高サイトカイン血症により二次的に生じ得るとされている.本症例では原発性シェーグレン症候群を背景に発症し,化膿性リンパ節炎様のリンパ節病理像を認めた点が興味深いと考え報告する
著者
天谷 雅行
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.325-333, 2006 (Released:2006-10-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1

デスモゾームは様々な組織の複雑な構築の形成,維持に重要な役割をしている.デスモゾームの膜構成蛋白として,カドヘリン型の細胞間接着因子デスモグレイン(Dsg)がある.Dsgは,4種のアイソフォームの存在が知られ,自己免疫,感染症,そして遺伝性疾患の標的蛋白あるいは原因遺伝子となっていることが明らかとなった.皮膚・粘膜に水疱,びらんを生じる天疱瘡は,Dsg1とDsg3に対するIgG自己抗体により生じる自己免疫性疾患である.近年,天疱瘡の一部の患者では,Dsg1/Dsg4交叉自己抗体が存在することも明らかにされた.ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)あるいは水疱性膿痂疹を起こす黄色ブドウ球菌産生外毒素(ET)は,Dsg1を特異的に切断するセリンプロテアーゼである.そして,SSSS罹患後に低いながらも抗Dsg1 IgG自己抗体の産生が確認された.DSG1遺伝子に変異があると線状掌蹠角化症となり,DSG4遺伝子に変異がある先天性貧毛症となる.なぜ,これだけ多くの皮膚疾患がDsgを標的としているのか明らかでない.しかし,Dsgを鍵として,感染症との接点から自己免疫の発症機序が解明されることが期待される.