著者
川村 龍吉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.70-75, 2011 (Released:2011-05-31)
参考文献数
30

世界における新規ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染の約8割は異性間の性的接触による.粘膜・皮膚表皮内ランゲルハンス細胞(LC)は,HIV感染初期においてHIVに対する初期免疫応答の誘導に重要な役割を担っている.さらに,LCに発現されるLangerinに捕獲されたHIVは不活化を受けることが最近明らかとなり,LCはHIVの侵入を防ぐバリアーとしても機能する.一方,Langerinによる不活化を免れたHIVは,CD4/CCR5を介してLCに感染し,これを足がかりとして生体内に侵入する(LCのPrimary gate keeper model).このように,LCはHIV感染初期に宿主にとって功罪様々な役割を担う.近年,世界的なHIVの流行を阻止するために,コンドーム以外の方法で性行為HIV感染を予防する外用マイクロビサイドの開発が試みられている.また,HIV以外の性感染症(STD)保有者のHIV感染リスクが数倍~数十倍高くなることから,STD治療も予防戦略の主軸となっている.最近,これらのHIV感染予防戦略がLCを介したHIVの生体内侵入に密接に関与していることが明らかとなりつつある.
著者
渡辺 守
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.295-302, 2006 (Released:2006-10-31)
参考文献数
14

消化器関連領域の臨床医にしか持ち得ない臨床情報に基づいた研究課題を抽出し,臨床材料を用いて研究を展開し,臨床の現場に還元することを目的とした,我々が提唱する概念である「クリニカル・サイエンス」が,いかにこれまでの基礎医学にインパクトを与えたかを我々の実例を挙げて議論した.我々は潰瘍性大腸炎患者の中で胸部X線上,胸腺が肥大している患者が見つかったという臨床情報より,患者の血清中にIL-7を証明した.更に,大腸内視鏡にて得た臨床材料を用いることにより,IL-7が腸管上皮細胞から分泌され,周囲のIL-7受容体を持ったリンパ球の増殖を調節していることを初めて示した.その研究の過程で,IL-7受容体が腸上皮細胞にも発現することを見出し,腸管上皮細胞の傷害時には骨髄由来細胞が入ってきて再生過程をレスキューする可能性を発見した.更に,ヒト骨髄由来腸上皮細胞が再生時に分化の方向が変化して,分泌型腸上皮細胞に変化すること,IL-7の産生機構の解析にて分泌型上皮細胞からのIL-7が極めて特殊な分泌機構になっていることを見出した.最近の腸管免疫,炎症性腸疾患に関する研究の発展は基礎医学と臨床医学を両輪とし,病態解明とそれに基づく疾患治療法の開発が完全に併走した極めて特殊な形態で進んでいる.臨床研究者が大きなアドバンテージを持って研究に参加可能な領域であり,事実,臨床研究者の貢献は非常に大きいことを強調したい.
著者
中澤 徹 西田 幸二
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第35回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.60, 2007 (Released:2007-10-12)

[目的] 網膜剥離は罹患率の高い眼疾患で、視細胞のアポトーシスが視力障害の原因となる。しかし、その機序は殆ど分かっていない。一方、網膜剥離患者の眼内で炎症性サイトカイン、ケモカインが増加していると報告されている。本研究では、視細胞変性と炎症性サイトカイン、ケモカインの因果関係を調べた。 [方法] 成体マウスに網膜剥離を誘導し、サイトカインの発現変化をRT-PCR、ELISA、免疫染色にて調べた。MCP-1中和抗体とノックアウトマウスを使用し、TUNEL法でMCP-1抑制の細胞死に対する効果を評価した。 [結果] 網膜剥離によりIL-1beta、TNFalpha、MCP-1、bFGFが増加し、特にMCP-1は100倍近い増加を示した。MCP-1を抑制すると著明に網膜剥離による視細胞死が抑制された。MCP-1は網膜グリア細胞の一つである、ミューラー細胞に発現し、CD11b陽性白血球(マクロファージやマイクログリア)を眼内に遊走させ、活性化されたCD11b陽性白血球が、活性酸素を介して視細胞を障害していることが明らかとなった。 [結論] マウスの網膜剥離による視細胞変性には、グリア細胞と白血球の相互作用が重要であることが示唆された。また、白血球の遊走に関わるケモカインMCP-1や活性酸素の抑制は、網膜剥離の視細胞変性に新規の神経保護治療となる可能性がある。
著者
中野 和久 松下 祥 齋藤 和義 山岡 邦宏 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-6, 2009 (Released:2009-02-28)
参考文献数
16
被引用文献数
5 10

ドパミンD2様受容体の過剰反応が主原因とされる統合失調症においては,関節リウマチ(RA)の発症率が顕著に低下することが知られるが,その原因は不詳である.神経伝達物質はリンパ球表面の受容体を介して免疫修飾作用を発揮する.脳内の主要な神経伝達物質であるドパミンは,D1~D5のサブタイプを持つ7回膜貫通型のGPCRを介してシグナルを転送する.   我々はこれまでに樹状細胞(DC)でのドパミン合成・貯蔵とナイーブT細胞への放出機構,およびヘルパーT細胞サブセット分化への影響を解明した.RAにおいてもDCは関節内抗原をT細胞に提示し病態形成の初期から重要な役割を果たすことから,RA滑膜組織におけるドパミン・ドパミン受容体の機能的役割を評価した.本稿ではこの一連の解析を概説し,ドパミン受容体を標的とした創薬の可能性についても述べる.
著者
野澤 智 原 良紀 木下 順平 佐野 史絵 宮前 多佳子 今川 智之 森 雅亮 廣門 未知子 高橋 一夫 稲山 嘉明 横田 俊平
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.454-459, 2008 (Released:2008-12-31)
参考文献数
9
被引用文献数
5 9

壊疸性膿皮症は,稀な原因不明の慢性皮膚潰瘍性疾患で小児例もわずか4%であるが存在する.クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患,大動脈炎症候群(高安病),関節リウマチなどに合併する例もあるが,本症単独発症例が約半数を占める.壊疽性膿皮症の標準的な治療であるステロイド薬,シクロスポリンに抵抗を示す難治例に対し,近年タクロリムス,マイコフェノレート・モフェチール,そして抗TNFαモノクローナル抗体の効果が報告されている.今回,壊疽性膿皮症の12歳女児例を経験した.合併する全身性疾患は認められなかったが,皮膚に多発する潰瘍性病変はプレドニゾロン,メチルプレドニゾロン・パルス,シクロスポリンなどの治療に抵抗性で長期の入院を余儀なくされていた.インフリキシマブの導入をしたところ潰瘍局面の著しい改善を認めた.最初の3回の投与で劇的な効果をみせ,投与開始1年3ヶ月後の現在,ステロイド薬の減量も順調に進み,過去のすべての皮膚潰瘍部は閉鎖し,新規皮膚病変の出現をみることはなく,経過は安定している.壊疽性膿皮症にインフリキシマブが奏効した小児例は本邦では初めての報告である.本症難治例に対するステロイドの長期大量投与は,小児にとっては成長障害が大きな問題であり,長期入院生活は患児のQOLを著しく阻害する.本報告により小児壊疽性膿皮症の難治例に対する治療に新しい局面を切り開く可能性が示唆された.
著者
岡部 浩祐 和泉 泰衛 宮下 賜一郎 入野 健佑 川原 知瑛子 地内 友香 野中 文陽 江口 勝美 川上 純 右田 清志
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.61-67, 2014 (Released:2014-03-05)
参考文献数
30
被引用文献数
1

症例は35歳男性.ぶどう膜炎,炎症所見,大動脈の主要分岐部の動脈壁の肥厚を認め,高安動脈炎の診断のもと,プレドニゾロン(40 mg/day)とメトトレキサート(6 mg/week)で治療が開始され症状の改善を認めていた.治療開始2年後に,躁症状などの精神症状が出現し,精査のため入院となった.神経学的所見,頭部MRI,脳血流シンチでは異常認めなかったが,髄液検査でIL-6の上昇(65.4 pg/ml),血清IgDの増加を認め神経ベーチェット病が疑われた.血管病変の存在と併せて,特殊型ベーチェット病と診断し,インフリキシマブの投与を開始した.30歳時より周期性発熱の病歴がありMEFV遺伝子解析を行った所,エクソン2にE148Q/L110P複合ヘテロ変異を認めた.これら遺伝子異常が,本症例の非典型的なベーチェット病の病態に関与している可能性があり文献的考察をふまえ報告する.
著者
熊野 浩太郎
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.448-453, 2008 (Released:2008-12-31)
参考文献数
47
被引用文献数
2

ヒトパルボウイルスB19は,小児における伝染性紅斑の原因ウイルスであるが,その他にウイルス直接の障害として,溶血性貧血患者におけるaplastic crisisや免疫不全者における慢性赤芽球癆や胎児水腫の原因となる.また,免疫学的な機序として関節炎や急性糸球体腎炎を発症することが判明している.その他に,関節リウマチや,血管炎,血栓性微小血管障害などとの関連を指摘する報告もある.成人発症例では,関節炎の遷延化により関節リウマチとの鑑別や,補体の低下や自己抗体が検出されることから全身性エリテマトーデスとの鑑別も要する.このように様々な疾患との関連が報告されている感染症であり,また臨床面ではリウマチ膠原病疾患との鑑別を要する重要疾患である.
著者
濱野 貴通 高橋 俊行 中島 翠 佐野 仁美 須藤 章 福島 直樹 西川 秀司 武内 利直
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.158, 2009 (Released:2009-10-21)

好酸球性胃腸炎は,消化管壁への著明な好酸球浸潤による消化器症状を認め,末梢血好酸球が増加する稀な疾患である。 今回,抗アレルギー剤の投与にて治療しえた小児好酸球性腸炎の1例を経験した。 症例は5歳女児。半年前からの繰り返す水様性下痢を主訴に当科を受診した。検査所見にて著明な好酸球増加(WBC 18800 /μl, Eos 54 %),鉄欠乏性貧血,低蛋白血症,便潜血陽性を認め,好酸球性胃腸炎の疑いで入院となった。 入院後,IgE RASTにて卵白,リンゴが陽性であり食事制限を行なったが,症状の改善はなく,検査所見にてWBC 21200 /μl(Eos 76 %) と増悪傾向を認めた。消化管内視鏡検査にて十二指腸球部の粘膜に発赤があり,病理像にて著明な好酸球の浸潤を認めた。 好酸球性胃腸炎と診断し,トシル酸スプラタスト投与を開始したところ,水様性下痢は消失し,7日後にはWBC 11800/μl(Eos 33.0 %)と改善傾向を認め,外来経過観察とした。 経過観察中,再びWBC 13300 /μl(Eos 42.0 %)と上昇傾向を認め,クロモグリク酸ナトリウム投与を追加した。投与2ヶ月後,WBC 5600 /μl(Eos 6.0%)となり,鉄欠乏性貧血,低蛋白血症状も改善した。投与4ヶ月後,便潜血陰性となった。 抗アレルギー剤の投与によって本疾患を治療しえたことは意義があると考え,報告する。
著者
村上 孝作 吉藤 元 小林 志緒 川端 大介 田中 真生 臼井 崇 藤井 隆夫 三森 経世
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第33回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.36, 2005 (Released:2005-10-18)

【目的】 抗Ku抗体は日本人の強皮症(SSc)+多発性筋炎(PM)の重複症候群に見出される自己抗体として報告された.しかし,米国ではSLEに最も多く検出されると報告され,人種ごとの遺伝的背景の違いによると考察されてきた.そこで我々は抗Ku抗体陽性の自験例について臨床的特徴を検討した.【方法】 2001年から2004年までに当院で診療した膠原病とその疑い例1185例の保存血清についてRNA免疫沈降法を施行し,高分子核酸スメアを沈降した血清をさらに35S‐メチオニン標識HeLa細胞を用いた蛋白免疫沈降法を行って抗Ku抗体を同定した.【結果】 70kDa / 80kDa蛋白へテロ2量体を免疫沈降する抗Ku抗体は6例(0.51%)に陽性であり,SLEとPMの重複例2例,SLE 2例(1例はCK値上昇あり),PM 1例,未分類膠原病(レイノー現象・手指硬化症・クリオグロブリン血症・CK値上昇)1例であった.抗Ku抗体陽性6例中,PMないし筋病変は5例に,SLEないしSLE様症状は4例に,両者の重複は3例に認められた.また,多発関節炎が5例に,レイノー現象が4例に,手指硬化などの強皮症様症状が2例に認められた.【結語】 少数例の解析ではあるが,抗Ku抗体は筋炎重複症候群と関連し,特徴的な臨床像を示す可能性が示唆された.
著者
河邊 明男 中野 和久 山形 薫 中山田 真吾 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.317a, 2015 (Released:2015-10-25)

【背景・目的】RAでは線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)が骨軟骨破壊の中心を担うが,RA由来FLS特有のDNAメチル化プロファイルは攻撃的表現型と関連する.今回,最近DNA脱メチル化酵素として同定されたTetファミリーの調節における炎症の関与を評価した.【方法】関節手術で得た患者由来滑膜とFLSを4~6継代で使用.Tet1-3発現をqPCR,WB,免疫染色で,5hmCの発現をDot blotで評価した.siRNAでTETノックダウン後にTNFで96時間刺激し,各種メディエーター分泌と表面抗原の発現,細胞移動度を評価した.【結果】RA滑膜組織ではOAとの比較で強いTet3発現を認めた.FLSにおいて,炎症性サイトカイン(TNF,IL-1L-6,IL-17等)はDNAメチル化酵素(DNMT)遺伝子発現を低下させた一方で,Tet3のmRNAおよび蛋白発現を増加し,5hmC発現を促進した.さらに,TET3 siRNAにより,TNF依存性のCCL2産生,ICAM-1発現,浸潤能等はほぼ完全に阻害された.【考察】炎症性サイトカインによる慢性刺激はDNMT発現低下による受動的脱メチル化だけでなく,Tet3の発現増加による能動的脱メチル化も促進することが明らかになり,滑膜炎症の持続はエピジェネティック異常を誘導し,FLSの攻撃的表現型を付与することで病態の悪化をもたらすことが示唆された.
著者
一瀬 邦弘
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.396-407, 2017 (Released:2018-01-25)
参考文献数
49
被引用文献数
1 4

全身性エリテマトーデスは自己抗体産生を背景に多臓器病変を呈する自己免疫疾患である.全身性エリテマトーデスでは多彩な臓器病変を認め,ループス腎炎および精神神経ループスなどが生命予後に関連する代表的な合併症として知られている.ここ30年でステロイドや免疫抑制剤により全身性エリテマトーデス患者の生命予後は改善し,5年生存率は90%を超えた.しかしながら,いまだに全身性エリテマトーデスの治療はこれらに依存することが大きく,合併症による副次的な要因で死に至らしめることもある.近年,生物学的製剤や低分子化合物などの治療標的に対してより効果的に機能する治療薬が開発され,治療抵抗性のループス腎炎や神経精神ループスに対する効果が期待されている.SLEの診断には1997年に改訂され米国リウマチ学会(ACR)によって提唱された分類基準や2012年発表のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準が用いられているが,診断を目的として作成されたものではなく,早期診断には必ずしも有効ではない.このような観点から全身性エリテマトーデスを早期に診断するための新しいバイオマーカーが必要である.本稿では全身性エリテマトーデスのunmet needs,特にループス腎炎と神経精神ループスについて自験例のデータを交えて概説する.
著者
千原 一泰 木村 幸弘 本定 千知 竹内 健司 定 清直
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.197-202, 2013 (Released:2013-08-31)
参考文献数
17
被引用文献数
3 4

Spleen tyrosine kinase(Syk)は,福井大学医学部において単離された非受容体型チロシンキナーゼである.SykはIgE受容体活性化を介したマスト細胞のヒスタミン放出やサイトカイン産生,マクロファージのファゴサイトーシス,破骨細胞の活性化,さらにB細胞の分化や活性化に必須の役割を担っている.また,最近の研究からある種の癌や自己免疫疾患,真菌やウイルス感染との関連も明らかになってきた.Sykが細胞機能の根幹に関わる重要な分子であることが次々と明らかとなるにつれ,その阻害薬の開発と種々の疾患に対する臨床応用への期待が高まっている.このような強い要望に応え,これまでに多くのSyk阻害薬が開発されてきた.しかし,そのすべてが臨床治験にまで至らなかった.ところが近年,新たなSyk阻害薬が開発され,アレルギー性鼻炎や関節リウマチへの有効性が脚光を浴びている.特にR788(フォスタマチニブ)は経口Syk阻害薬として開発され,米国において第III層試験が実施されている.本稿ではSykの発見の経緯,構造と生理機能を踏まえた上で,新しいSyk阻害薬について概説したい.
著者
浅野 善英
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.298, 2014

全身性強皮症(SSc)は血管障害と皮膚および内臓諸臓器の線維化を特徴とする膠原病で,その発症には免疫異常の関与が示唆されている.本症の病因は未だ不明であるが,近年ゲノムワイド関連解析やエピジェネティック解析により様々な疾患感受性遺伝子が同定され,また新規動物モデルの開発も進み,その複雑な病態が徐々に明らかになりつつある.一方,治療面ではボセンタン(エンドセリン受容体拮抗薬)がSScに伴う指尖潰瘍の新規発症を有意に抑制することが明らかとなり,同薬が本症の血管病変に対して疾患修飾作用を発揮している可能性が示唆されている.また,リツキシマブ(キメラ型抗CD20抗体)によるB細胞除去療法がSScの皮膚硬化・間質性肺疾患・血管障害に対して有用である可能性が複数の非盲検試験により示されている.リツキシマブなどの抗体医薬をはじめとし,疾患修飾作用が期待される数々の新規治療薬に対して,現在欧米を中心に無作為化二重盲検試験が行われており,近い将来これらの新規薬剤がSScの治療に大きなパラダイムシフトをもたらすと期待されている.一方,抗体医薬による治療は各種標的分子が病態に及ぼす作用を理解する上でも非常に有用であり,治療の進歩とともにSScの病態理解が進むことが期待される.本講演では,基礎研究や臨床試験のデータを基に,SScの基礎から展望まで最新の知見を含めて幅広く解説する.
著者
今井 俊夫 西村 美由希 南木 敏宏 梅原 久範
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.131-139, 2005 (Released:2005-06-30)
参考文献数
54
被引用文献数
9 12

炎症や免疫反応は生体局所で生じることから明らかなように,免疫細胞の時空間的局在は緻密に制御されている.免疫細胞は細胞接着分子と細胞遊走因子を巧みに利用して,炎症部位やリンパ組織に到達する.フラクタルカイン/CX3CL1は,ケモカインと細胞接着分子の2つの活性を併せ持ち,活性化血管内皮細胞上に発現する細胞膜結合型ケモカインである.その受容体CX3CR1は,NK細胞やcytotoxic effector T細胞(TCE)などの細胞傷害性リンパ球と成熟マクロファージや粘膜樹状細胞などの病原体や異常な細胞の排除に深く関わる免疫細胞に発現している.最近の臨床病態やマウス疾患モデルでの研究から,フラクタルカインは,関節リウマチや粥状動脈硬化症などの慢性炎症疾患にも深く関与していることが示唆されている.本稿では,フラクタルカインの特徴的な機能と炎症疾患における役割について概説する.
著者
小倉 剛久 平田 絢子 林 則秀 久次米 吏江 伊東 秀樹 武中 さや佳 水品 研之介 中橋 澄江 山下 奈多子 今村 宗嗣 亀田 秀人
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.374b, 2014 (Released:2014-10-07)

【背景】全身性エリテマトーデス(SLE)において,発症・再燃と季節の関係が認められるとすれば,臨床上重要な知見であるばかりでなく,病因・病態の解明にもつながるものと考えられる.【目的】SLEにおける発症・再燃と季節の関連性について明らかする.【対象・方法】ACR分類基準を満たすSLE患者122例(男性14例,女性108例)を対象に,診療録より発症・再燃月を調査した.再燃は疾患活動性の新たな出現,もしくは悪化を認め,3ヶ月以内にステロイド薬の新たな開始もしくは50%以上の増量および免疫抑制剤の変更,開始を行った場合とした.【結果】発症は秋に少ない傾向があった.再燃は春に多く,秋に少なかった.また複数回再燃した症例では,再燃時期が近似した.春の再燃では紅斑が多かった.【結論】SLEの発症,再燃は季節に関連性が認められ,春期に多かった.
著者
乾 直輝 須田 隆文 千田 金吾
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第35回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.12, 2007 (Released:2007-10-12)

肺および気道における免疫機構の特色は、豊富な血流を介した抗原のみならず、外来性の病原微生物や異物などの吸入抗原に対しても効率的に免疫反応を働かせる必要があるため、気道粘膜における免疫機構が発達してきた点にある。今回の発表では、気道粘膜免疫の誘導組織としての気管支関連リンパ組織(bronchus-associated lymphoid tissue : BALT)およびその構成成分であり強力な抗原提示細胞である樹状細胞(dendritic cell: DC)に焦点を当てる。 BALTは,細気管支粘膜下にみられるリンパ濾胞で,抗原特異的な分泌型IgA 抗体産生細胞を気道に分布させるための誘導組織として気道の粘膜免疫の中心的な役割を担っている。このBALTの発生,過形成には持続する外来性の抗原刺激と感作Th2細胞から産生されるIL-4などのサイトカインが重要であり、BALTが発生・顕在化すると、IgA循環帰巣経路の誘導組織として吸入抗原を積極的に取り込み、抗原特異的なIgA抗体産生を誘導する。我々は健常ヒトでは存在しないBALTが,びまん性汎細気管支炎,慢性過敏性肺炎,膠原病関連肺疾患において顕在化することを明らかにし、病態との関連性を解明した。 また、抗原に対して効率的に免疫応答が働くために、DCが集積し活性化され、T細胞へ効率的に抗原提示を行う必要がある。肺では大部分のDCが肺胞および気道上皮直下間質に存在し、他の細胞と協調しながら免疫応答を進めているが、我々は肺DCが脾DCや他の抗原提示細胞と比較し強力なIgA誘導能を持つことを示した。呼吸器疾患や病態におけるDCの存在と機能を検討では、びまん性汎細気管支炎で細気管支領域の粘膜下組織に主として成熟したDCが集族し、small airwayにおける抗原提示に中心的な働きをしていた。またBCG誘導肺肉芽腫病変では、肉芽腫周囲にBCG投与14日まで増加するDCが観察され、更にこのDCはnaive及びBCG特異的T細胞刺激能を有した。
著者
岡崎 仁昭 長嶋 孝夫 簑田 清次
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.357-360, 2004 (Released:2005-02-22)
参考文献数
13
被引用文献数
5 4

スタチン系薬物は高脂血症治療薬として現在,国内外で広く使用されている.   近年のスタチン系薬物を使用した大規模臨床試験によると,虚血性心疾患の初発と再発とを予防することが示されている.この動脈硬化性病変への効果は,必ずしもコレステロール低下作用だけに基づくものではないことが最近の研究成果から明らかとなってきた.すなわちスタチンは血清コレステロール低下作用以外にも多面的効果(pleiotropic effect)を有し,例えば,抗酸化作用,血管内皮細胞の分化増殖の促進とその機能障害の改善,血栓形成改善作用,抗炎症作用など直接的に冠動脈イベントなどの動脈硬化を抑制することが示されている.さらに,最近になってスタチンの多面的効果の一つとして,免疫抑制(調整)作用を示す報告が相次いでなされ,注目を浴びている.本稿ではスタチンの免疫系への作用について文献的考察を含めて概説し,最後に我々の研究結果の一部を紹介する.
著者
三宅 幸子
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.398-402, 2014 (Released:2015-01-06)
参考文献数
15

腸管は最大の免疫組織でもあるが,常に食物の摂取などを通して外来抗原に接するうえに,100兆個にも達する腸内細菌と共存するなど独特な環境にある.近年,自然免疫研究の進歩に加え,シークエンス技術の進歩による培養によらない腸内細菌叢の網羅的遺伝子解析などが可能となり,常在細菌による免疫反応の調節に関する研究が進み,自己免疫との関係についても注目されている.無菌飼育下では多発性硬化症や関節リウマチの動物モデルは病態が軽減する.また抗生剤投与により腸内細菌を変化させると病態が変化する.特定の細菌の移入による自己免疫病態への影響については,Th17細胞を誘導するセグメント細菌を移入すると病態が悪化する一方,制御性T細胞の増殖に関与するBacteroidesやLactobacillusを移入すると病態が軽減する.これら動物モデルの解析では,腸内細菌が積極的に病態に影響することが示されている.ヒトの疾患では関節リウマチで解析がされており,特定の菌が関与する可能性も示唆されている.免疫調節に最適な腸内環境の維持が可能になれば,疾患治療のみならず予防にもつながることから,研究の進展が期待される.
著者
牧野 聖也 狩野 宏 浅見 幸夫 伊藤 裕之 竹田 和由 奥村 康
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.350b, 2014 (Released:2014-10-07)

【目的】昨年本学会において,我々はLactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1(1073R-1乳酸菌)で発酵したヨーグルトの摂取が男子大学生に対してインフルエンザワクチン接種後のワクチン株特異的抗体価の増強効果を発揮することを発表した.今回,より幅広い世代の男女に対して,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルト(1073R-1ヨーグルト)がインフルエンザワクチン増強効果を発揮するか否かを明らかにすることを目的に二重盲検並行群間比較試験を実施した.【方法】インフルエンザワクチン株に対する特異的抗体価が40倍未満の20歳以上60歳未満の男女62名(25-59歳;平均年齢43.7歳;男性25名,女性37名)を2群に分け,1073R-1ヨーグルト群には1073R-1乳酸菌で発酵したドリンクヨーグルト,プラセボ群には酸性乳飲料を1日1本(112ml),インフルエンザワクチンを接種する3週間前から接種6週間後まで摂取させた.摂取開始前,ワクチン接種時,接種3週間後,接種6週間後,接種12週間後に採血を行い,接種したワクチン株に特異的な抗体価をHI法で測定した.【成績】インフルエンザA型H1N1,B型に対する抗体価はワクチン接種後にプラセボ群に比べて1073R-1ヨーグルト群で有意に高い値で推移した.【結論】1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの摂取は,幅広い世代の男女に対してインフルエンザワクチン接種の効果を増強する可能性が示された.