著者
松下 貴史 佐藤 伸一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.333-342, 2005 (Released:2005-11-05)
参考文献数
64
被引用文献数
4 12

B細胞の生存・分化・抗体産生に重要な役割を果たすBAFF (B cell activating factor belonging to the tumor necrosis factor family)はTNFファミリーに属する分子で単球,マクロファージ,樹状細胞の細胞膜上に発現され,可溶型として分泌される.BAFFの受容体にはBAFF-R (BAFF receptor), BCMA (B-cell maturation antigen)およびTACI (transmembrane activator and calcium-modulator and cyclophilin ligand interactor)の3種類が知られておりいずれもB細胞の広範な分化段階において発現がみられる.BAFFシグナルは主にBAFF-Rを介して伝えられ,TACIは抑制性のシグナルを伝達している.BAFFはB細胞上の受容体との結合により未熟B細胞の生存と分化,成熟B細胞の増殖,自己反応性B細胞の生存を制御する.BAFF過剰発現マウスでは全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus ; SLE)やSjögren症候群に類似した症状を呈する.さらにSLE自然発症モデルマウスや関節リウマチ(rheumatoid arthritis ; RA)モデルマウスであるコラーゲン誘導関節炎においてBAFFアンタゴニストの投与にて症状が改善することが明らかにされた.そしてSLEやRA,Sjögren症候群,全身性強皮症の患者において血清BAFF濃度の上昇が報告されている.BAFFは末梢性B細胞の分化・生存に影響することから,BAFF/BAFF受容体の異常が末梢性トレランスの破綻を来たし,リウマチ性疾患の発症に関与していると推測される.近年SLEやRAにおいてB細胞をターゲットした治療が脚光を浴びており, BAFFが有望な治療標的となることが期待されている.

4 0 0 0 OA B細胞

著者
長谷川 稔
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.300-308, 2005 (Released:2005-11-05)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

近年の研究は,B細胞が自己抗体の産生,サイトカインの分泌,抗原提示,共刺激作用などを介して自己免疫とその発症に重要な役割を果たしていることを明らかにした.CD20に対するキメラモノクローナル抗体(リツキシマブ)が作成され,これを用いることにより,B細胞をターゲットとした選択的治療が可能になった.関節リウマチや全身性エリテマトーデスを含むいくつかの自己免疫疾患において,この抗体の有用性が続々と報告されてきている.リツキシマブは,B細胞を消失させることにより長い期間症状の寛解を誘導する.自己免疫におけるB細胞の役割を明らかにすることは,B細胞をターゲットとした治療の開発に重要である.また,逆にB細胞をターゲットとした実際の治療から,自己免疫の病態解明につながる鍵が得られる可能性がある.この総説では,自己免疫疾患におけるB細胞の役割に関する最新の研究知見とリツキシマブによる自己免疫疾患の治療効果を中心に概説する.
著者
崎山 幸雄 小宮山 淳 白木 和夫 谷口 昂 鳥居 新平 馬場 駿吉 矢田 純一 松本 脩三
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.70-79, 1998-04-30 (Released:2009-02-13)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2 3

急性中耳炎,急性下気道炎を反復するIgG2欠乏症の乳幼児を対象に静注用免疫グロブリン製剤(IVIG; GB-0998)による感染予防効果を多施設共同研究で検討した.初回300mg/kg体重, 2回目以降は200mg/kg体重, 4週毎, 6回投与のIVIG療法はIgG2欠乏,抗肺炎球菌特異IgG2抗体欠乏を呈して急性中耳炎,気管支炎もしくは肺炎を反復する乳幼児の感染予防に有用であることが示された.
著者
畠山 昌則
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.132-140, 2008 (Released:2008-06-30)
参考文献数
27
被引用文献数
3 3

胃癌は全世界人口における部位別癌死亡の第二位を占める.近年の研究から,cagA遺伝子を保有するヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の持続感染が胃癌発症に決定的な役割を担うことが明らかになってきた.cagA遺伝子産物であるCagAタンパク質はピロリ菌が保有するミクロの注射針(IV型分泌機構)を通して菌体内から胃上皮細胞内へと直接注入される.細胞内に侵入したCagAはSHP-2癌タンパク質に代表される細胞内シグナル伝達分子と特異的に結合しそれらの機能を脱制御することにより,細胞増殖・細胞運動にかかわる多彩な細胞内シグナル伝達系を撹乱する.同時に,CagAは上皮細胞の極性制御を担うPAR1b/MARK2キナーゼと結合し不活化する結果,消化管粘膜構築を崩壊させる.一連のこうした生物活性から,CagAは胃癌発症に深くかかわることが推察されてきた.ごく最近,ピロリ菌CagAを全身性に発現するトランスジェニックマウスにおいて胃癌,小腸癌さらには骨髄性白血病,B細胞リンパ腫が発症することが明らかとなり,CagAが生体内で直接の発癌活性を示す細菌由来の初の癌タンパク質(bacterial oncoprotein)であることが示された.
著者
中島 友紀
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.17-25, 2015 (Released:2015-03-10)
参考文献数
32
被引用文献数
4

骨は,脊椎動物特有な運動支持の器官であると共に,生命維持に必須なカルシウムなどミネラルの代謝器官であり,免疫系細胞の分化増殖の場となる造血器官でもある.骨と免疫系は,骨髄微小環境をはじめ,サイトカイン・受容体・転写因子などの制御分子を共有し緊密な関係にある.関節リウマチにおける炎症性骨破壊の研究は,両者の融合領域である骨免疫学に光を当てた.破骨細胞分化因子RANKLのクローニングに加え,種々の免疫制御分子の遺伝子改変マウスに骨の異常が見いだされ,骨免疫学の発展を加速させた.近年では,骨の細胞と造血幹細胞の関係も解明され,骨免疫学がさまざまな疾患の制御に重要な知見を提供するようになった.
著者
村田 卓士 岡本 奈美 清水 俊男 玉井 浩
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.101-107, 2007 (Released:2007-04-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1 6

PFAPA症候群とは,周期性発熱,アフタ性口内炎,頸部リンパ節炎,咽頭炎を主症状とし5歳以下の乳幼児期に発症する非遺伝性自己炎症性疾患である.病因,病態は現在不明であるが,サイトカイン調節機能異常は重要な病態の一つと考えられる.発熱発作の周期は規則的で通常3~6日間続くが,間歇期は全く症状を欠き活動性も正常である.その他,扁桃炎,倦怠感,頭痛,関節痛,腹痛,嘔吐,下痢,咳,血尿,発疹など多彩な症状を呈するが,いずれも後遺症は残さない.発熱時の非特異的炎症反応の他は特異的な検査所見はなく,診断にあたっては他の発熱性疾患の鑑別を含めた臨床診断が重要である.特異的な治療法はなく,有熱期間の短縮効果としてステロイド薬,寛解導入が期待できるものとしてシメチジンや扁桃摘出術などが考慮されることもあるが,症例の集積および検討を要する.他のautoinflammatory syndromeに比して予後は良好で,多くの症例では発症後経時的に発作間隔は広がり4~8年程度で治癒,成長および精神運動発達も正常である.口腔内病変をともなう小児期の反復性不明熱においては,本症を常に考慮する必要がある.
著者
荒浪 利昌 佐藤 和貴郎 山村 隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.13, 2009 (Released:2009-10-21)

熱ショック蛋白(HSP)は、温熱のみならず、生体に対する様々なストレスの際に誘導され、ストレス蛋白とも呼ばれる。その役割はストレスにより障害された蛋白を修復し、蛋白、細胞の恒常性を保つことにある。多発性硬化症(MS)は原因不明の中枢神経系慢性炎症性疾患であるが、Th1やTh17細胞が病態成立に重要な役割を果たす自己免疫疾患であると考えられている。近年MS病巣のマイクロアレイ解析において最も高発現する遺伝子としてaB-crystallin (CRYAB)が報告された。CRYABは、HSPファミリー蛋白であるが、通常は中枢神経系に発現は認められず、MS、アルツハイマー病、パーキンソン病などでその発現が誘導されると報告されていたが、詳細な機能は不明であった。今回我々はMS患者末梢血に認められるCD28陰性T細胞がCRYAB反応性T細胞を多く含むことを見出した。HSPの中にはToll-like receptors (TLR)に結合し、抗原提示細胞(APC)を活性化させる機能を有するものが報告されていたが、CRYABもAPCを刺激し、IL-6、TNF-a、IL-10、IL-12といった種々のサイトカイン産生を、MYD88非依存性に誘導することが判明した。CRYABはまた、T細胞からのIFN-γ産生を増加させた。CRYABによるIFN-γ産生促進機能に関与するサイトカインを解析したところ、IL-12ではなく、IL-27であることが判明した。IL-27はTh17細胞反応や過剰な慢性炎症を抑制する働きが報告されている。しかし、CD28陰性T細胞がCRYAB反応性にIFN-γを産生した場合、CRYABの免疫修飾作用が障害され、慢性炎症に繋がる可能性が考えられる。このようなCRYABの免疫修飾作用とCRYAB自己免疫が、MS病態形成に重要な役割を果たしていると考えられる。
著者
横田 和浩
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.367-376, 2017 (Released:2017-12-13)
参考文献数
50
被引用文献数
11 20

破骨細胞は,骨髄造血幹細胞由来の単球/マクロファージ系前駆細胞から分化した生体内で骨組織を破壊・吸収することのできる唯一の細胞である.その分化はM-CSF(破骨細胞生存因子)/RANKL(破骨細胞分化誘導因子)シグナリングに依存していると考えられている.しかし,最近,関節リウマチのような全身性自己免疫疾患における慢性炎症病態では,関節局所の豊富な炎症性サイトカインが病的な骨吸収細胞の分化を誘導し,過剰な骨破壊を惹き起している可能性が提起されている.そして,著者らはマウス骨髄単球およびヒトCD14陽性単球を炎症性サイトカインであるTNFα + IL-6で刺激・培養することにより破骨細胞の特徴を呈する骨吸収細胞(破骨細胞様細胞)が分化誘導されることを見出した.本稿では,著者らのデータの一部とともにRANKL非依存性の破骨細胞分化誘導機構について,最新の知見を交えて解説する.今後,RANKL非依存性の破骨細胞分化誘導機構が明らかになり,新たな破骨細胞サブセットが同定されることで,炎症性関節疾患における病態解明と新規治療戦略へと発展していくことが期待される.
著者
新納 宏昭
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.412-420, 2015 (Released:2016-01-04)
参考文献数
50
被引用文献数
1

関節リウマチをはじめとした自己免疫疾患の病態におけるB細胞の重要性は,近年のB細胞標的療法の臨床効果によって再認識された.ただここで着目すべき点として,B細胞は,抗体産生のみならず,抗原提示,共刺激,サイトカイン産生などといった抗体非依存性の多彩なエフェクター機能を営んでいることが判明した.また,エフェクターB細胞とは異なった制御性B細胞の存在も近年明らかとなり,自己免疫疾患の病態におけるB細胞の役割は,我々が予想していた以上にきわめて複雑なものと思われる.自己反応性B細胞は,分化過程での複数のメカニズムを介して自己寛容となるが,それが破綻してエフェクター機能を発動することにより自己免疫疾患は発症する.ヒトB細胞には表面マーカーに基づいて複数のサブセットが存在するが,本疾患では特定のサブセット中にエフェクターB細胞が豊富に存在する.自己免疫疾患に対して様々なB細胞標的療法が開発されつつあるが,リスクベネフィットを考慮すると,無差別的な殺B細胞療法ではなく,エフェクターB細胞に対する選択的制御療法が今後の治療戦略として期待される.
著者
伊藤 大介 野島 聡 熊ノ郷 淳
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-10, 2014 (Released:2014-03-05)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

セマフォリンファミリーは分泌型及び膜型の蛋白である.もともとは神経発生のガイダンス因子として同定された.近年,様々な報告から,セマフォリンの中に生理的にも病理学的にも,免疫反応に関わるものが存在することが明らかになってきた.このようなセマフォリンは免疫セマフォリンと呼ばれ,Sema3A,3E,4A,4D,6D,7Aがあげられる.これらの中には,免疫細胞の活性化や分化に関わるセマフォリンもあれば,免疫細胞の輸送を助ける役割を持つものも存在する.さらに,セマフォリンの代表的な受容体には,plexinやneuropilinがあり,これらは細胞特異的な発現パターンを有し,多種のシグナル反応に関わっている.現在,セマフォリンとその受容体は様々な疾患の診断及び治療ターゲットとなる可能性があると考えられている.今回,免疫おけるセマフォリンとその受容体の役割をⅢ型及びⅣ型セマフォリンを中心に述べていく.
著者
井田 弘明 江口 勝美
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.90-100, 2007 (Released:2007-04-30)
参考文献数
41
被引用文献数
2 4 2

TNF-associated periodic syndrome (TRAPS)は,TNFが病態の中心と考えられる遺伝性周期性発熱症候群の一つである.TNFRSF1A(TNFR1)分子が細胞表面に留まり,TNFからの反応が持続するため,発熱などの様々なTRAPS症状が出現すると単純に考えられてきた.ところが,最近,TNFRSF1A分子の切断異常がみられない症例や突然変異のないTRAPS症例もあること,さらに孤発例も存在することが判明し,TRAPSとは大変heterogeneousな症候群であることがわかってきた.最近,細胞表面に発現されないTNFRSF1A分子が,TNFと無関係に細胞内で凝集し,NF-κBの活性化やアポトーシス誘導を生じていることも報告され,TRAPSの病因は混沌としている.本邦において,現在までTNFRSF1A遺伝子に突然変異をもつTRAPS症例は5家系15名と少ないが,突然変異のない孤発例は多い.本稿では,TRAPSについて自験例を提示しながら臨床像を紹介するとともに,TNFRSF1A分子の発現制御機構から考えられるTRAPSの病因,その病因とこれまで経験した症例から検討した診断のためのフローチャート,および,現存の治療法と私たちが試みた新しい治療法などを解説した.
著者
橋本 求 三森 経世
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.463-469, 2012 (Released:2012-12-31)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

IL-17を産生するヘルパーCD4 T細胞(Th17細胞)は関節リウマチ(RA)などの様々な自己免疫性疾患の病態に重要な役割を果たす.IL-17は,好中球やマクロファージ,線維芽細胞,破骨細胞などに作用し,慢性炎症を惹起し,骨破壊を促進することで関節炎に寄与する.近年の自然発症のRAモデルマウスを用いた研究により,TLRやC-type lectin receptor,補体,ATPなど様々な自然免疫の活性化が,マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞に作用しIL-6やIL-23などのサイトカイン産生を介して,Th17細胞分化誘導を促し,自己免疫性関節炎を惹起するメカニズムが明らかとなってきた.ヒトRAにおけるTh17細胞の役割については未だ定まっていないが,自然免疫の活性化とTh17細胞の分化誘導は,少なくとも一部のRA患者において関節炎の発症にかかわっていると考えられる.これらの研究は,RAの発症メカニズムの解明やRA発症の予防,早期治療につながると考えられる.
著者
大谷 直子
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.390-397, 2014 (Released:2015-01-06)
参考文献数
32
被引用文献数
2

近年,肥満は糖尿病や心筋梗塞だけでなく,様々ながんを促進することが指摘されている.しかし,その分子メカニズムの詳細は十分には明らかになっていない.今回著者らは,全身性の発癌モデルマウスを用いて,肥満により肝がんの発症が著しく増加することを見出した.興味深いことに,肥満すると,2次胆汁酸を産生する腸内細菌が増加し,体内の2次胆汁酸であるデオキシコール酸の量が増え,これにより肝臓の間質に存在する肝星細胞が「細胞老化」を起こすことが明らかになった.「細胞老化」とはもともと,細胞に強いDNA損傷が生じた際に発動される生体防御機構(不可逆的細胞増殖停止)である.しかし最近,細胞老化をおこすと細胞が死滅せず長期間生存し,細胞老化関連分泌因子(SASP因子)と呼ばれる様々な炎症性サイトカインやプロテアーゼ等を分泌することが培養細胞で示されていた.実際著者らの系でも,細胞老化を起こした肝星細胞は発がん促進作用のある炎症性サイトカイン等のSASP因子を分泌することで,周囲の肝実質細胞のがん化を促進することが明らかになった.さらに臨床サンプルを用いた解析から,同様のメカニズムがヒトの肥満に伴う肝がんの発症に関与している可能性も示された.本研究により肥満に伴う肝がんの発症メカニズムの一端が明らかになったと考えられる.今後,糞便中に含まれる2次胆汁酸産生菌の増殖を抑制することにより,肝がんの予防につながる可能性が期待される.
著者
田中 敏郎
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.433-442, 2015 (Released:2016-04-27)
参考文献数
64
被引用文献数
2 4

インターロイキン6(IL-6)は,多彩な作用を有するサイトカインで,病生物の排除や創傷治癒に役割を果たす.しかし,その過剰なまた持続的な産生は,炎症性疾患の発症や進展に関与することが示され,ヒト化IL-6受容体抗体トシリズマブが開発された.臨床試験での有効性,安全性評価を踏まえ,現在,トシリズマブは慢性炎症性疾患である関節リウマチ,若年性特発性関節炎,キャッスルマン病に対する治療薬として使用されている.また,世界で進められている臨床研究や試験により,IL-6阻害療法は,他の慢性炎症性疾患のみならずサイトカインストームを呈する急性全身性炎症性疾患に対しても有効な治療法となる可能性がある.
著者
天崎 吉晴
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.249-261, 2010 (Released:2010-10-31)
参考文献数
97
被引用文献数
1 9

免疫抑制剤シクロスポリンAとタクロリムスは臓器移植においてその利用が始まり,近年はリウマチ性疾患の治療にも使用され,優れた成績を上げている.これらの薬剤は脱リン酸化酵素カルシニューリン(CN)を標的としてその活性を抑制し,T細胞抗原受容体の刺激などによって惹起される細胞内カルシウム依存性シグナルを阻害することで,転写因子nuclear factor of activated T cells (NFAT)の核内移行を抑制する.CN-NFAT系は末梢ヘルパーT細胞のサイトカイン産生のみならず,他の免疫応答分子や制御性T細胞,NKT細胞などの様々な免疫系細胞の機能や分化,および免疫系以外の生命現象に関与している.CN阻害剤の投与はT細胞の機能抑制を及ぼすとともに,固有の機序による免疫系以外への影響をきたし,副作用の原因となる.それらの解明と理解はCN阻害薬のCNの適正・安全な使用のみならず,新たな免疫抑制剤の開発にも資すると考えられる.CN-NFAT系の機能に関する近年の知見と,現行および新たなCN阻害薬の可能性につき概観する.
著者
藤尾 圭志
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.23-29, 2016 (Released:2016-05-14)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

遺伝子発現はエピゲノム修飾による転写因子の結合性の調節により制御されており,この調節機構は染色体を構成するDNAおよびヒストンの,メチル化やアセチル化による修飾から成り立っている.近年,自己免疫疾患の感受性遺伝子多型の多くがエンハンサー領域に存在することが明らかとなり,この事実はエンハンサーの機能を制御しているエピゲノムの重要性を示唆している.DNAメチル化に関しては,全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチ(RA)の患者検体におけるエピゲノムワイドの解析が行われ,疾患発症に関わる重要な遺伝子のDNAメチル化が低下していることが明らかとなりつつある.ヒストン修飾については,解析に必要な細胞数の多さからこれまであまり進んでいなかったが,最近の技術の進歩により少数細胞からの解析が可能となってきている.エピゲノム修飾は遺伝素因と環境要因双方の影響が統合されるレベルであり,ヒト疾患におけるエピゲノム修飾を遺伝素因と環境要因と関連付けつつ詳細に解析することで,ヒト疾患のメカニズムが明らかになることが期待される.
著者
脇口 宏之 大賀 正一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.190-196, 2016 (Released:2016-06-17)
参考文献数
46
被引用文献数
2 8

リポ化ステロイドは,日本で開発された脂肪乳剤を結合させたデキサメタゾン製剤である.本剤は関節リウマチに対する有効性が認められ,デキサメタゾンに比して副作用を軽減させる特徴を有する.また,自己免疫疾患あるいは自己炎症疾患に合併するマクロファージ活性化症候群においても大量投与による有用性が報告されている.脂肪乳剤は容易に活性化マクロファージに取り込まれ保持される性質があることから,リポ化ステロイドはマクロファージが活性化する様々な病態に対する効果が期待される.関節炎や肉芽腫モデルラットに対するリポ化ステロイドは,デキサメタゾンに比して2∼5倍の抗炎症効果を示す.臨床的には,血球貪食性リンパ組織球症,移植片対宿主病および肺ヘモジデローシスなど致死性疾患の急性期治療においてその有用性が報告されている。本稿では,マクロファージに対するリポ化ステロイドの効果と視床下部–下垂体–副腎軸への影響から有用性が期待される病態について概説する.
著者
金子 英雄 鈴木 啓子 近藤 直実
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.142-148, 2009 (Released:2009-06-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

IgAはIgA1とIgA2,2つのサブクラスが存在する.各組織でサブクラスの存在比は異なる.IgA2は,細菌のプロテアーゼにより認識されるヒンジ領域のアミノ酸配列を欠いているため,IgA1と比較すると分解されにくく,粘膜面における細菌からの防御に重要である.IgAサブクラスは14番染色体長腕に位置するIgA重鎖遺伝子のα1とα2遺伝子により決定される.クラススイッチに先立ちIα germ-line transcriptsの転写が必要である.IgA欠損症はIgAのみの産生低下を示す免疫不全症であるがIg欠損症の一部はIα germ-line transcriptsの発現が低下しており,クラススイッチ障害がその病態として考えられた.IgA欠損症の血漿中のBAFF, APRILは健常人に比較し有意に高値を示した.サブクラスの発現ではIgA欠損症の多くはα1, α2ともに,発現低下がみられた.α2のみの発現を示したpartial IgA欠損は本邦2例目のα1-pseudoγ-γ2-γ4-ε遺伝子の欠失によるものであった.今後さらに,IgAサブクラスの異常も含めて,その病態が明らかにされることが期待される.
著者
山村 和彦 加藤 しおり 加藤 隆弘 溝口 義人 門司 晃 竹内 聡 古江 増隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第39回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.156, 2011 (Released:2011-08-20)

慢性蕁麻疹は6週間以上継続する蕁麻疹を指し、その病態には、自己免疫性メカニズムを介した肥満細胞の脱顆粒に伴う、ヒスタミンを中心としたケミカルメディエーター放出が深く関わっている。通常、抗ヒスタミン薬の内服治療を行うが、治療抵抗性症例も少なくない。我々は、こうした治療抵抗性の慢性蕁麻疹に対して、認知症に伴う精神症状や不眠症などで用いられる抑肝散の内服が奏功した症例を報告してきた。抑肝散はソウジュツ、ブクリョウ、センキュウ、チョウトウコウ、トウキ、サイコ、カンゾウの7種類の生薬からなる漢方薬で、近年、外傷性脳損傷後の精神症状の緩和やアルツハイマー病の痴呆による行動異常や精神症状の改善といった、中枢神経に対する新たな効能も報告されている。今回、我々は肥満細胞モデルとして良く使われるラット好塩基球白血病細胞(RBL-2H3細胞)を用いて、抑肝散の治療抵抗性蕁麻疹に対する抑制メカニズムを検討した。その結果、カルシウム蛍光指示薬Fura-2を用いた測定系で、抑肝散がIgE感作後の抗原刺激によるRBL-2H3細胞の急激な細胞内カルシウム濃度上昇(脱顆粒を反映)を著明に抑制することを見出した。この抑制効果は代表的な抗ヒスタミン薬であるクロルフェニラミンでは認められず、治療抵抗性蕁麻疹への抑肝散の薬効を反映するものと考えられた。
著者
木村 久仁子 岩野 正之
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.160-167, 2009 (Released:2009-06-30)
参考文献数
55
被引用文献数
4 8

組織線維化は臓器不全に共通の病態である.したがって,線維化の機序を解明することは,臓器不全の進展予防や治療法の開発に重要である.線維芽細胞は線維化において中心的役割を果たす細胞であるが,その起源としてepithelial-mesenchymal transition (EMT),末梢血前駆細胞・骨髄細胞由来,endothelial-mesenchymal transison (EndMT)などが報告されている.細胞を取り巻く微小環境において,低酸素は線維化を誘導する重要な因子である.われわれは,低酸素刺激がhypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α)を介して尿細管上皮細胞にEMTを誘導することを報告した.さらに,尿細管上皮細胞で特異的にHIF-1αを欠損あるいは安定発現させた遺伝子改変マウスを用いて,HIF-1αが腎間質線維化を促進させることを証明した.現在,シグナル伝達系を含む多くの線維化関連分子が同定され,これらをターゲットとした治療法の開発が進められている.EMT抑制因子,TGF-βシグナル修飾薬,およびHIF-1α活性阻害薬は線維化の新たな治療薬として期待される.