著者
山本 晴彦 山崎 俊成 坂本 京子 山下 奈央
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.381-397, 2018

2017年台風18号が 9月17日11時半頃に鹿児島県薩摩半島を通過し,12時頃に鹿児島県垂水市付近に上陸した。その後は宮崎県を通過して日向灘に抜け,17日16時半頃に高知県西部に再上陸した。その後,台風は兵庫県,北海道に再上陸して,18日21時にサハリンで温帯低気圧となった。台風や活発な前線の影響で豪雨となり,大分県と宮崎県の県境の祖母山系を中心に17日の日降水量が500 mmを超える豪雨域が北西-南東方向に約20 km,北東-南西方向に約10 km の楕円形状の豪雨域が形成されていた。津久見市では17日の 9 時前後に第 1のピーク,11時過ぎに20 mm/10分間を超える豪雨に見舞われ,台風接近時の13~16時には東寄りの風が卓越して約 10 mm/10分間の強雨が継続し,日積算降水量427 mm を記録した。本豪雨により津久見川や支流の彦の内川が氾濫し,標高が低い場所や両河川の合流点付近では最大150 cm前後の浸水痕跡が確認され,住家の半壊,浸水被害が相次いで発生した。本災害による大分県内での住家被害は3,359棟に達し,洪水災害としては近年では甚大な被害であった。
著者
佐藤 翔輔
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.157-174, 2020 (Released:2021-02-24)
参考文献数
17

1967年羽越水害に由来する新潟県関川村「たいしたもん蛇まつり」を対象に,インタビュー調査や資料調査にもとづいて,どのようにしてはじまったのか,どのようにして継続できているのか,災害伝承として機能しているのか,を明らかにすることを試みた。その結果,1 )「大したもん蛇まつり」は,祭を通した人材,特にリーダーの育成がもともとのモチベーションであり,災害伝承ありきではなかったこと,2 )大蛇をモチーフにしたのは,村に伝わる大里峠伝説では大蛇を退治するというストーリーと,大蛇が水害・土石流の象徴する神であることとが,羽越水害の犠牲者を供養するという位置付けと整合していたこと ,3 )竹と藁で作る大蛇という,「こわれるもの」「くちるもの」を媒体にすることで,更新の際に世代間をつなぐ役割が果たされていること,4 )村民に対しては強制をしないように,また,外部の人材資源を積極的に活用していること,5 )祭の由来を学習する学校教育を媒介することで,伝承の機能が果たされていること,などが明らかになった。
著者
山本 晴彦 早川 誠而 岩谷 潔
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.31-44, 1998-05-30
被引用文献数
9

Meteorological disaster was caused by heavy rainfall during typhoon 9709 in northern part of Yamaguchi Prefecture and western part of Shimane Prefecture. At Fukuga area in Abu town, the amount of preciptation from July 26 to 28 was 922 mm, and amount of preciptation on July 27 was 606 mm. The farmland was flooded because of the flood of the Ohi and the Zoumeki rivers by increased water. A farm pond collapsed four places at Mutsumi village. At Aso and Era Farm ponds, rice plants were buried by earth and sand because of bank collapse. The loss of money in the agriculture of Yamaguchi Prefecture due to heavy rainfall with typhoon 9709 exceeded 6.6 billion yen.
著者
藤井 弘章 難波 明代 西村 伸一
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.283-335, 2021

本研究では,淡路島北部のため池の,地震被害・無被害を分けた要因とメカニズムを明らかにしょうと試みた。多変量解析(10ないし11アイテム)を,野島領域395(被害:112,無被害:283)個, 5 町領域1562(同じく348,1214)個につて行った。主なアイテムのカテゴリースコア(CS)のピークは,震央角度が6 個(野島領域:CS の大きさ順に,10,150,30,70,100,130度。5町領域:同じく,100,160,140,70,40,10度),断層角度が7 個(野島:同じく,100,80,20,160,40,140,120度),震央距離 が1 個(野島・5 町領域共10 km),断層距離2個(野島:-150,600m)あった。これらの結果は放射パターンから説明できた。CSのピーク角度と強調された地震波の放射角(理論値:P 波・SV 波:45度と135度,SH 波: 0 度と90度)との関係から,震央付近の第1 の強震点As と共に,第2の強震点As'があると言えた。
著者
山本 晴彦 川元 絵里佳 渡邉 祐香 那須 万理 坂本 京子 岩谷 潔
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.185-205, 2019 (Released:2019-12-23)
参考文献数
23

2018年7月5日から8日にかけて,広島県中部では梅雨前線に伴い豪雨が発生した。安芸と天応の観測所では,48時間降水量が412mm,388mmを観測した。広島市の安芸区,坂町,呉市,熊野町,東広島市などでは豪雨により土砂災害が発生した。広島県では土砂洪水災害による死者は108人,全壊住家は1,029棟に達した。安芸区矢野地区の矢野川,呉市天応地区の大屋大川と支流の背戸の川では上流で土石流が発生し,住宅の全壊,住宅への土砂の流入や浸水被害が相次いだ。
著者
佐藤 翔輔
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.157-174, 2020

1967年羽越水害に由来する新潟県関川村「たいしたもん蛇まつり」を対象に,インタビュー調査や資料調査にもとづいて,どのようにしてはじまったのか,どのようにして継続できているのか,災害伝承として機能しているのか,を明らかにすることを試みた。その結果,1 )「大したもん蛇まつり」は,祭を通した人材,特にリーダーの育成がもともとのモチベーションであり,災害伝承ありきではなかったこと,2 )大蛇をモチーフにしたのは,村に伝わる大里峠伝説では大蛇を退治するというストーリーと,大蛇が水害・土石流の象徴する神であることとが,羽越水害の犠牲者を供養するという位置付けと整合していたこと ,3 )竹と藁で作る大蛇という,「こわれるもの」「くちるもの」を媒体にすることで,更新の際に世代間をつなぐ役割が果たされていること,4 )村民に対しては強制をしないように,また,外部の人材資源を積極的に活用していること,5 )祭の由来を学習する学校教育を媒介することで,伝承の機能が果たされていること,などが明らかになった。
著者
塚越 勝宏 西宮 仁史
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.477-485, 2006-02-28
参考文献数
1
著者
斎藤 徳美 山本 英和 佐野 剛 土井 宣夫
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.59-74, 2003-05-30
被引用文献数
1

岩手山では,火山性地震の頻発や表面現象の活発化に伴い, 1998年7月1日以降人山の規制が行われた。その後,噴火は発生していないものの,沈静化にも至らない状況で経過した。この間,経済環境の悪化が背景にあるものの,風評被害による観先客の落ち込みなど,地域経済への影響も考慮せざるを得ない状況となった。そのため,噴火の可能性が否定しきれないなかで,火山活動の監視や登山者の安全確保体制の整備をもとに,山頂まで入山規制の緩和を図るという,わが国では例のない「火山との共生」の試みが模索された。火山活動の監視や検討体制を整備し,研究者,防災関連機関,報道機関が連携する「減災の正四面体構造」(岡田・宇井, 1997) の実践のなかで,規制緩和のために必要かつ実効可能な安全対策の検討が行われた。そして,関係機関の連帯責任と連携を背景に,「気象台からの火山情報の適切な発表」,「登山者への緊急連絡システムの整備」,「自己責任の登山者への啓発」を三本柱とする安全対策が構築され. 2001年7月1日から10月8日まで岩手山東側登山道での入山規制の一時緩和が実施された。安全確保のためには,活動が活発化した火山には近づかないことが最善である。しかし,火山が有力な観光や地域振興の源である以上,有効な安全対策を構築し,地域社会と共生する取り組みが求められる。火山活動次第で規制や緩和を繰り返すいわば受け身の姿勢から,監視,評価,対策などの充実を図り,積極的な安全確保の対応に基づき入山を認めるといった岩手山での取り組みは,噴火周期の長い我が国の多くの火山にとって,先駆的な指針となりうると考えられる。本論文では,岩手山の入山規制の緩和に向けての登山者の安全対策の理念と具体的対策および今後の課題について論じることとする。
著者
早川 哲史 今村 文彦
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.51-66, 2002-05-31
参考文献数
19
被引用文献数
3
著者
鈴木 介 今村 文彦
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.521-538, 2005-02-28
参考文献数
12
被引用文献数
1

The purpose of the present study is to develop and improve the simulation model of tsunami attack evacuation by including the experience, recognition, and knowledge of the people in each area affected by tsunamis. Firstly, we carried out two field surveys to clarify various factors that influence selection of evacuation routes for making a synthetic judgment model. We determined regional knowledge, altitude, road information, road signs, following process, and functions on the route to be major factors in the route selection. A comparison with results of a field survey in the case of a tsunami evacuation drill at the coastal village in Sendai city shows that with the improved model, we obtained more than 80% agreement on selection of evacuation routes and time to the safety area. Secondly, we designed a questionnaire to be distributed at the time of the drill, which provided us with information to determine route selection process, parameters and initial conditions of the evacuations. Furthermore, the improved model, including means of evacuation, such as by foot or in vehicles, is developed and applied to this area. In the case assuming that all residents evacuate at the almost same time in the night, it is suggested that most traffic congestion occurs on the major roads, which long time it takes people to complete the evacuation.
著者
梶川 正弘 薄木 征三 武藤 哲男
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.249-254, 1995-01-31

A strong wind disaster was caused by Typhoon 9119 in the Tohoku district on September 28,1991. The purpose of this report is to investigate the relationship between the surface wind field and the localization phenomena of severe forest damage by the typhoon in Akita Prefecture. The results are summarized as follows. 1)The strong wind of about 20 m/s in mean wind speed prevailed for about three hours in the restricted region of the northern inland part in Akita Prefecture. 2)This restricted region was coincident with the towns and villages suffered the severe forest damage. 3)The facts mentioned above suggest that Typhoon 9119 possessed the unique structure in the dissipating stage.
著者
岡田 夏美 矢守 克也
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.241-256, 2019 (Released:2019-12-23)
参考文献数
39

近年,わが国では,学校防災教育への期待が高まっている。学校防災教育の推進のための議論には,“何を教えるべきか”,という政策的な“規範論”と,教師の側の“現実論”が存在する。 そうした議論をさらに整理すると,4つのフレームワークが存在することがわかった。すなわち,1防災の教科化,2総合的な学習の時間での実施,3既存の教科での実施,4教科横断的な実施,である。本稿では,それら4つのフレームワークに対して行われている議論や,調査の結果などをもとにして,それぞれのフレームワークが,防災教育の“規範論”と“現実論”の 共存を目指す中で,どのように評価できるかを考察した。本稿では,クロスカリキュラムの概念のもとでの防災教育の展開が,今後の学校教育現場において必要であることを結論とした。
著者
佐藤 翔輔 今村 文彦
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.383-396, 2019 (Released:2019-05-20)
参考文献数
11

本稿では,2018年西日本豪雨災害を対象に,発災当時に発信されていた「# 救助」ツイートに対する内容分析を,先行研究として実施した2017年7月九州北部豪雨の事例と比較しながら行った。その結果はつぎのようにまとめられる。1)「#救助」ツイートで,場所や人数等の具体的な状況を記述している「救助要請」のニーズを発信していたツイートは,分析対象の2,171件のうち,16.5 %とごくわずかであり,「救助要請」を実際に求めているツイートが埋没し,ハッシュタグ「#救助」による検索か゛困難て゛あった状況か゛定量的に確認された。2)「#救助」は付与されているものの,「救助要請」て゛はない, 「#救助」の存在や注意点を紹介するニュース記事とそのリンクや,一般ユーザーからの善意の投稿は依然として多く存在していた。「#救助」ツイート のうち,真に「救助要請」を行っていた発信の比率は,西日本豪雨災害では九州北部豪雨災害に比べて倍程度となり,やや検索・抽出しやすい状況になったものの,被災地外の不急の発信は依然として多いことが明らかになった。
著者
小坂 丈予 平林 順一 山本 雅弘 野上 健治
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.131-154, 1998-08-31
参考文献数
24
被引用文献数
3

Volcanic gas disasters around active volcanoes all over Japan have occurred 27 times and 45 people have been killed since 1950. Configuration of the ground near fumarolic areas and weather conditions are the principal factors in gas accidents. Making gas-hazard maps, setting of restricted zones and installation of automatic alarm system with continuous monitoring are effective measures to prevent volcanic gas disasters. Knowledge of toxicity of volcanic gases and first aid are also helpful in reducing volcanic gas disasters.
著者
野々村 敦子 谷 淳弘 桝本 みな
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.407-418, 2019 (Released:2019-05-20)
参考文献数
17

南海トラフ巨大地震が発生すると,津波の影響を受ける沿岸部のすべての人は,すみやかに避難しなければならない。強い余震が頻発する可能性を考えると,避難を強いられる期間は数日に及ぶことも視野に入れておく必要がある。津波浸水域外に避難することが最善の避難方法であるが,高台がない,避難経路が閉塞されている,体が不自由である場合などは,津波浸水域外への避難が困難な場合も考えられる。沿岸部において津波からの避難の可能性を広げるためには,避難場所の選択肢をいくつか設けておく必要がある。本研究では,まず,津波避難に向けた準備の現状を調査する。次に津波からの避難の可能性を広げるため,津波避難ビルを増やすための住民主体のワークショップを提案する。
著者
米山 祥平 竹内 康二
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.267-293, 2019 (Released:2019-02-13)
参考文献数
35

本研究では災害ストレスマネジメント教育の学習プログラムをふたつ開発し,小学校におい て実施して,その有効性を検証した。参加児は小学校 5 ・ 6 年生229名であった。ふたつのプロ グラムのうちの一方は第 1 回目の授業で実施し,他方は第 2 回目の授業で実施した。第 1 のプ ログラムではストレス反応の個別の症状を知り,それらを 4 つのグループに分類できるように なることを学習のねらいとした。第 2 のプログラムではストレス対処法を選択し,実行できる ようになることをねらいとした。各授業の前後には,豊沢らの開発した尺度を元に修正を施し た尺度を用いて,質問紙調査を実施した。質問紙は各授業の終了後に回収し,統計的分析にか けた。分析の結果,授業 1 のプレテストとポストテストの間で恐怖感情が有意に増加し,特に プレテストにおいて低~中程度の恐怖感情得点を示した児童において大きく増加することが確 認された。また,授業 2 の後には,自己効力感と反応効果性が有意に増加し,脅威の深刻さが 有意に減少していた。
著者
片岡 俊一 片岡 正次郎 大町 達夫
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.125-142, 1997-08-30
参考文献数
17
被引用文献数
4

To deepen our understanding on long period ground motion used for seismic design, the ground motion in the Osaka basin due to the 1995 Hyogo-ken Nanbu earthquake is studied. First, peak frequencies observed at Fukushima in Osaka city are discussed with the underground structure. Then, direction and velocity of wave propagation are estimated, using up-down component observed at very densely spaced stations in Osaka city. The velocities are close to the phase velocity of the fundamental mode of Rayleigh wave. Propagating direction is about N30W, indicating that the long period ground motion is predominated by the surface waves affected by 3-D topographical conditions. Using boundary element analysis, the 3-D effects on the ground motion is investigated, with a result that the long period ground motion is propagated from N40W direction with surface wave velocity.