- 著者
-
門田 圭祐
- 出版者
- 日本認知科学会
- 雑誌
- 認知科学 (ISSN:13417924)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.1, pp.69-75, 2020-03-01 (Released:2020-03-15)
何かを貸してくれるように求めたり,相手が欲しがっている物を差し出したりといった援助は私たちの生活の至るところでおこなわれている.本稿では,そのようなありふれたやりとりが成り立つ仕組みの解明を目指し,人々の発話や身体動作を微視的に分析する相互行為研究の文献を紹介する.ここでの「微視的分析」とは,発話における1 つ1 つの表現の選び方や身体動作におけるタイミングや軌道といった,相互行為の中で時々刻々となされていくふるまいの調整について,その継起関係や共起関係を質的に記述していくような分析を指す. 本稿で紹介する文献は「援助のリクルートメント(recruitment of assistance)」というアイデアに基づき,発話による援助の依頼や身体動作による援助の引き出しを1 つの連続体(continuum)をなすものとして捉え,包括的に扱うことを提案している.第1 論文は,リクルートメントのために用いられる5 つの方法の特定と比較をおこなっている.また,これらの方法に関連して「補助的な行為(subsidiary actions)」というふるまいについて記述をおこなっている.第2 論文は,何かを探している(searching for)ことを示す様々な身体動作に焦点を当て,それらが他者から援助を引き出す方法として用いられていることを示している.なお,第2 論文はオンラインジャーナルに掲載されたものであり,参与者たちのふるまいを文字化したトランスクリプトのみならず,実際のビデオデータを参照しながら読み進めることができる. 以上2 編の文献は,第1 にはコミュニケーション研究を専門とする多くの研究者にとって役立つものだろう.また,人間と共棲するロボットの開発などを専門とする読者にとっても,示唆的な知見が提示されていると思われる.加えて,介護や看護などの実践に携わる方々にとっては,「当たり前」になっているふるまいの巧みさを捉え直し,改善していく手がかりとなるかもしれない.相互行為研究以外の分野を専門とする読者に文献を紹介するにあたり,本稿では事例と分析の概要を示すだけにとどめた.紹介した両文献に関心をもっていただけた方は,ぜひ,元の文献に掲載されている完全な事例と詳細な分析にあたっていただければ幸いである.