著者
工藤 哲夫
出版者
東京学芸大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

1. 「話し合いの図解(ファシリテーショングラフィック)」の方法企業において合意形成活動のために開発された「ファシリテーション」では、自由度を高めることで、さまざまな可能性を探るのであるが、学校の授業現場においては、学習指導と生活指導において制約されることがある。「(1)一定の時間内に仕上げること。(2)全員が参加すること。(3)模造紙には関係のあることのみ書かせること。」などである。そのために、ファシリテーションにより話し合いの過程を模造紙に書く際に、ある程度細かい指示を与える必要があることが分かった。以下のように集約される(1) 学習活動(話し合いの手順)○ 個人で意見をまとめる1.今の自分の考えを書く。○ 話合い(話合いの過程を「見える化」する。原則として模造紙一枚使用。最初から最後までの全員の考えが見えるのであれば、一枚を超えても構わない。)2.司会者と記録者を決める。一人が兼ねてもよい。3.左側に全員の考えを書く。未完成の場合でも、そのまま書く。(個人の意見は尊重する。)4.話合いで班の結論をつくるために、話合いの様子を書く。5.時間短縮のため、余計なこと・絵はかかない。氏名は姓名またはイニシャルを使う。○ 発表(模造紙を黒板に貼って、発表する。発表者は原則的に一名。)6.班の話合いの過程と結論をはぐっきりと「見える化」するように発表する。7.質問を受ける。(発表班の誰もが答えて良い。)○ 聞き手(模造紙は、話し合いのためのものであり、聞き手に見せるためのものではないので、聞き手メモをとる。)8.ルーズリーフに書いた自分のものの周りにメモを書く。(2) 指導上の留意事項・ 自分の意見を必ずまとめる。わからない場合は、はっきりわからないとする。・ 話し合い中では、ひらめいたことなどが読みを発展させることがあるので、遠慮なく発言し、記録する。・ 通常の場合、相違点・類似点などから話し合いを発展させる。また、つぶやきも重視する。・ 考えを常に整理するために、全体の考えが把握できるように、模造紙は広げ、発言者の氏名も書く。2. 「話し合いの図解(ファシリテーショングラフィック)」の有効性この手法はおおむね好評である。生徒同士が最初の発言を確認し合うことは多く見られた。以下に生徒の感想の一つを示す。「最初は「何に気付いた」のか全くわからなかったけど、班で話し合っているうちに、「子供たちに押しつけて現実逃避している」ということに作者は気づいたということにたどりつくことができた。」3. 保存手段としてのハイビジョンビデオカメラの有効性生徒の発言の記録の方法として、ファシリテーションを援用し、模造紙に話し合いの過程を書かせたが、模造紙も大量に使用することになる。これを解決するために、模造紙に書かれた小さい字も読むことができるハイビジョンビデオカメラでの記録が大変有効である。
著者
齋藤 淳一
出版者
東京学芸大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では第一に遺伝子リテラシー教育のカリキュラムとテキスト作りを目指した実践研究を意図した。特に生命倫理の問題を盛り込んだ統合的構成を意識し、実践と理論の両面から効果的な形で遺伝子リテラシー教育を行うためのカリキュラム作りを目指した。基礎データ収集として国際生物学オリンピックのネットワークを有効活用し、欧米、特にイギリス・アメリカ等で行われている生命倫理教育を徹底的に調査・研究して。そしてそれらの題材を日本の教育現場にマッチした形に練り直し、実験・実習と組み合わせた新しいカリキュラムを作成した。第二に現場で比較的容易に行える新しい実験教材の開発を行った。組換えDNA実験を通してバイオハザードや遺伝子組換え食品の安全性に関する問題を考察し、SNP解析についてはPCR法で、実際にALDHIIの多型を調べ、それらをもとに遺伝子診断の持つ様々な問題点を考察する教材を組み立て、最先端技術であるDNAチップを用いたSNP解析の実験を授業に導入した。第三に遺伝子教育に関する情報と設備・備品を共有するネットワーク作りを企画した。
著者
村松 泰子 河野 銀子 藤原 千賀 高橋 道子 高平 小百合 中澤 智恵
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

学校教育におけるジェンダー・バイアスに関し、中学生の理科という教科の学習を取り上げ、興味や関心、態度のジェンダー差の有無、その背景要因を明らかにすることを目的とした実証的研究を行った。理科と自然・科学への関心や態度に関する質問紙調査を、初年度は中学1年生に、2年度は2年生となったほぼ同一の対象に実施した。中2調査は、中1調査と同質問と新質問で構成した。調査対象は中1調査が全国各地の公立中学校9校961名、中2調査は同様の8校869名である。中1調査は、学校特性差を見るため東京都と近県の国公立・私立中学計22校でも実施した。第3年度には、調査校の教員インタビュー調査を行った。データ分析の軸は、男女差、理科の好き嫌いによる違い、中1から中2への変化、理科のおもしろさの変化のしかたによる違い、成績の自己評価ランクによる違い、学校特性(入試の有無、共学と女子校)による違いなどである。主な結果は次のとおりである。(1)科学的現象への関心は、内容により女子が高いもの、男子が高いものがある。(2)理科への関心は、女子は生物的内容、男子は物理的内容で高く、学習内容の理解度は数学的センスを要する単元ほど女子が低い。(3)理科の好き嫌いや学ぶ意味のとらえ方の男女差は中1から中2にかけて拡大し、とくに女子は理科嫌いの傾向が強まる。(4)理科に対する態度や信念の男女差は、全般的には中1から中2にかけて減少傾向にあるが、女子の方が理科に対し否定的な学習態度を示す。(5)理科の実験時の中心的役割は男子、準備・片づけや記録担当は女子が多い。(6)得意・苦手な科目は、英語を除きジェンダー化しており、また理科の得意・苦手は男子のほうが全般的な成績の自己評価との関係が強い。(7)女子校の生徒は実験や理科に積極的だが、意識としては理科は男子の教科とする傾向が強い。
著者
橋本 創一 伊藤 良子 菅野 敦 大伴 潔 林 安紀子 池田 一成
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

発達障害児の就学を支援するためのシステム化されたプログラムはまだ少ない。この研究では、発達障害児の就学における支援ニーズを明らかにするために、発達障害児の親と発達障害児への支援の専門家たちに対して調査をおこなった.さらに、調査によって得られた知見と文献研究から発達障害児の就学のための支援プログラムを作成した。そして、子どもたちに対してそのプログラムを実施し、効果を調べた。その結果、コミュニケーション支援を中心としたグループ指導の必要性が示唆された。一方で、一人一人のニーズに応じた個別支援の必要性が明らかになった。加えて、発達障害児の個別の支援ニーズを評価するための支援ツールを活用する必要がある。それにより、個別の発達段階や特性に応じた就学支援が可能になると考えられる。
著者
国分 充
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

知的な障害を有する子どもに運動を行わせるときにもっている能力を十分に発揮させるような課題設定のあり方を検討することを目的として、立ち幅跳びの計測を、何の目標もなく最大の力を発揮するよう言語教示して行う目標なし条件と、そうして得られた跳躍距離の20cm遠くに設定された目標まで跳ぶように求める目標あり条件の2つの条件下で行った。その結果、目標あり条件での成績は目標なし条件の場合よりも有意に高く、跳躍距離を伸ばすのに目標をしめすことは一般に有効であることがわかった。また、条件間の違いと有意に関係していた被験児の属性は、行動調節能力であった。すなわち、行動調整能力が低ければ低いほど、条件間の差は大きかった。しかし、ダウン症児は、彼らの行動調節能力の如何にかかわらず、条件間の違いは小さく、目標の効果はほとんど見られなかった。これは、ダウン症児では、運動の表出に係わる系ではなく、運動能力自体、すなわち運動の実行系に問題を有するためと考えられた。しかし、彼らにあっては、丁寧さを必要とするような運動課題では、他の知的障害児とかわらないことが、水を入れたコップが載ったお盆を3メートル運ぶというお盆運び課題から明らかになった。この課題において、ダウン症児では時間は長くかかり、また、歩数も多かったものの、こぼした水の量は他の知的障害児で差がなかった。このことは、ダウン症児の運動実行系の障害の性質を考える上できわめて示唆に富む事実であり、また、運動課題設定上も十分留意すべきことと考えられた。
著者
奥住 秀之
出版者
東京学芸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は,知的障害者の身体バランスの制約のメカニズムを解明し,その支援方法を考案することの一環である.今年度の目的は,知的障害者の測定事態と日常事態におけるバランス能力の差異を,関連する要因に注目しながら検討して,その教育支援原則を考案することであった.検討項目は以下の通りである.まず,測定事態の評価のために,平均台歩きと片足立ちというバランス運動課題を行い,日常事態の評価のために,歩行評価を行った.歩行については,普通歩行に加えて,コップ運び歩行と最速歩行も行い,様々な日常の歩行バリエーションについて吟味した.その結果,以下のことが明らかになった.まず,多くの場合,自閉症者は,もっているバランス運動それ自体は発達的に高い水準にあり,活動の文脈が理解しやすい場面では,そのパフォーマンスをかなり発揮できる.一方,ダウン症者は,そもそもの運動パフォーマンスが低いのであるが,その低さゆえ,安全性や正確性を重視する運動ストラテジーをとるために,さらに運動の力が低いようにみなされてしまう.教育支援法として,自閉症者については,活動の文脈がわかりやすい環境を呈示する.例えば,歩行の目的地や運搬する物体を明示するという支援が有効であった.平均台歩きのように,活動を具体物で補償するという支援も重要であろう.一方,ダウン症者については,なかまや教師がともに活動して,楽しくやりがいのある活動と結びつけて行うこと,次の運動の繋がる声がけなどの支援が有効であることが明らかになった.
著者
湯浅 佳子
出版者
東京学芸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、曲亭馬琴の読本・合巻作品の典拠調査から作品論を目指すものである。今年度は、昨年度同様に馬琴の初期の読本作品に注目し、物語世界がどのような先行作品をふまえ、それをどのような世界として描いているのかについて考察した。まず、馬琴読本世界の中で輪廻転生や因果応報という仏教的世界観、儒教的な道徳観念を背景として主張される善悪の問題について考えてみためが、「『新累解脱物語』考」である。『新累解脱物語』は、文化四年という比較的初期の中編読本作品であるが、馬琴読本の中でも登場人物の善悪の設定が曖昧な作品と評価されてきた作品である。そこで本論では、人物の善悪の描かれ方について詳細に検討した。その結果本作品では、従来の怪異説話を利用しながら、その怪異性よりもむしろ因果応報の理が強調され、親から子へ、子から孫へと、人物が犯してきた罪の報いが受け継がれる世界を描いていること、また、珠鶏という女性の善を終始一貫して描くことにより、勧善懲悪の世界が全うされているということが明らかになった。読本作品が前代の怪異説話をどのように継承・展開させたかを示した一論である。また、「『盆石皿山記』小考」では、同じく馬琴の中編読本『盆石皿山記』における善悪・神威の問題を、典拠作品との比較から考察したものである。そこでは、本作品が、浄瑠璃『苅萱桑門筑紫〓』の世界を、殺生の罪という問題を強調しつつ取り入れていること、また、紅皿欠皿伝説に取材した幾種かの草双紙作品や民間伝承に基づきながら、継子いじめの因果応報譚を描いていること、さらに、それら登場人物の罪の消滅が、皿屋敷伝説を展開させた話に添いながら、名僧による怨霊解脱譚としてなされていることを指摘した。
著者
吉田 伊津美 杉原 隆 森 司朗
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、幼稚園における幼児の運動経験の内容およびその実態を明らかにし、運動指導の内容を運動能力との関連で検討することであった。43園を対象とした質問紙調査からは以下のことが明らかとなった。1.多くの幼稚園で子どもの健康・体力に対する意識を高くもっていた。2.約6割の園に体育専門の指導者がおり、保育者は運動を特別なものとして捉えその活動を専門の指導者にまかせる傾向がみられた。3.運動指導の内容は、体操やサッカーなどのスポーツなど特定の活動が中心であり、これらの活動は好きな遊びの時間などでは活発に行われておらず、指導時間限定の活動であることが示唆された。4.運動会は、半数の園は普段の遊びの延長として行なわれ、残りの半数の園では特別な出し物を披露する行事として行われており、保育時間にそのための練習が行われていた。一方、4園を対象に行なった保育場面の観察により以下のことが明らかとなった。1.一斉保育を中心としている園では、全体的に子どもの活動に対する選択の自由度が低く、動きのバリエーションも少ないという保育形態の違いによる子どもの運動経験の違いが示唆された。このことが運動能力の低いことと関連しているものと思われる。2.一斉活動における保育者の運動指導はどの子にも画一的に一様の指導が行われていた。3.運動能力の高低によらず幼児の活動の中には高い運動強度のものはほとんどみられなかった。このことから幼児期には高い運動強度の活動は必要なく、からだを多様に動かすことが運動発達に影響していることが示唆された。保育者は遊びの重要性を意識し、遊びを通しての教育を実践していく必要がある。また、活動を中心とするのではなく、子どもの経験を重視した保育内容を計画していくことが大切である。
著者
森 厚 丸山 健人
出版者
東京学芸大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は教材開発も含めて行う予定であったが、教材開発そのものの成果は十分とは言えない。しかし、予備実験として以下のような様々な成果を得ることができた。1. 自動観測装置の作成人の手による観測は様々な困難を伴うので自動観測装置を開発した。PCとデジタルカメラを組み合わせた装置で、現在も自動的に5分おきに観測し、データの蓄積に多いに役立っている。以下の結果はこの装置で得られたデータによるものである。2. 空の明るさについての基礎的な研究(1) 理論との比較仰角が大きいところの空の明るさについて簡単化された理論モデルを用いて検討した。冬の良く晴れた日の観測結果とある程度の一致が確認されたので、空の明るさについての角度依存性がはっきりし、同時に、明るさの日変化・季節変化についても情報が得られた。これらはエアロゾルで大気が汚染される前の状態を反映していると考えられ、観測結果の背景場の特定の重要な鍵となる。また、エアロゾルによるミー散乱の量が多ければそれが明るくなるはずであるが、その点に関して次の(2)〜(4)のような傾向が見られた。(2) 空の明るさの時刻による違い冬の晴れた日では、午前中に比べて午後の方が空が明るいようである。前回の報告では逆のケースを報告したが、こちらのケースが多いようである。(3) 空の明るさの曜日による違い観測結果は、休日の方が空が暗い傾向がある。(4) 空の明るさの季節による違い(1)で述べた理論モデルを基準に考えると、夏は冬に比べて空の明るい傾向がある。3.空の青さについての基礎的な研究空の青さについて、昨年度検討したことを新たなデータを使って再確認した。以上、1.〜3.を踏まえ、早急に教材として確立したいと考えている。
著者
三浦 軍三 岡本 敏雄 堀口 秀嗣 篠原 文陽児 児島 邦宏 井上 光洋
出版者
東京学芸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

授業録画ビデオテープは、全国の教育系大学・学部で制作・管理され、現在精力的に収集され、いくつかの大学・学部ではライブラリーとして体系的に保存・管理されつつある。これらのビデオテープは、教育に関する臨床的・実践的・実証的研究に不可欠な資料である。とりわけ授業分析・設計に関する研究、教科教育および教育実習の改善研究にとって貴重な素材として位置づけられ、その価値がますます高まりつつある。本研究はつぎの課題で研究を遂行した。1)分類カテゴリーの設定:授業録画ビデオテープには原則として"授業の指導案"を添付することとし、(a)そこに、授業に関する基本事項、(b)授業を特徴づける枠組、(c)さらにビデオテープの種別を設定する。したがって、データファイル構成としては、3次元構造をもつ分類力テゴリーを開発し、その試案の段階で、テープライブラリーをもつ3つの大学・学部の研究者と情報交換を行うとともに、専門家に対し意見をもとめ、分類カテゴリーの再構成をはかった。2)検索システムは、(ア)分類カテゴリー・システムにもとづく基本データ管理(イ)検索の2つのモジュールから構成され、マイクロコンピュータによるシステム開発を行った。3)検索システムの開発試行をふまえて、検索の適切性の視点から分類カテゴリー、とくに授業を特徴づける枠組について再検討する。あわせて、他の教育系大学・学部の研究者の協力を得て実験試行した。4)上記、1)、2)の分担課題にふまえ、検索システムのアセスメントと改善点(システムの柔軟性,拡張性,利用,流通等の視点)を明らかにし、総合的評価とシステムの再構築をはかった。
著者
小澤 紀美子 松村 祥子
出版者
東京学芸大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

日本はきわめて高度な高齢社会に移行していくために、高齢者が自立して暮らせるためのケア付き住宅やソ-シャルケアなどのサ-ビスシステムの開発が緊要な課題となっている。そこで本研究は3年間にわたって調査を進め、次のような成果を得た。1住宅及びケアサ-ビスを受けている程度によって高齢者の住まい方を5カテゴリ-に分類し、7施設居住および在宅高齢者110人に面接調査を実施した。その結果、社会的・文化的要因や家族関係及びライフヒストリ-、地域社会の差異によるサ-ビス受容レベル、供給レベルの実態と住居の形態別のサ-ビスへの要求、生活の自立の程度に差がある等、高齢者のかかえる問題点等を明らかにした。2社会福祉関係者、福祉行政関係者、学識経験者、一般住民61人への面接調査により、高齢者福祉に必要な30項目の相互関連性を調べ、DEMATEL法によりソ-シャルサ-ビスシステムの問題構造を明らかにした。さらに日本型ソ-シャルサ-ビスシステムの問題解決のための方策を検討した。3以上の調査結果、及びフィンランドの研究成果の概要、研究担当者がこれまで調査した住民への意識調査結果から、日本型ケアサ-ビスシステムとそのサポ-トのための組織づくりへの課題を検討し、その方策の提案を行った。
著者
川手 圭一
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、国境変更後にポーランド国内に居住することになったドイツ人住民を主体・客体として展開した「国境を超える」「ホームランド・ナショナリズム」の実態を追った。そのさい、併せてドイツ国内のポーランド人住民、とりわけドイツ本土から「ポーランド回廊」によって切り離された東プロイセンのポーランド人を取り巻くナショナリズムの問題にも注目することで、「ホームランド・ナショナリズム」の客体として翻弄される国境地域の住民の社会的問題を明らかにした。
著者
山田 昌弘
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

夫婦の情緒的関係の構造を把握するために、カップルへのインタビュー調査、並びに、サンプル数317の質問紙調査を行った。その結果わかったことを数点にまとめる。(1)意識調査により、カップルは情緒的関係を二つの基準(親密性とロマンス)で把握していることがわかった。(2)その二つの基準は、男女で異なっている。男性は、親密性(気安さ)と性的満足を結びつけ、ロマンス的なものは結婚とは別のものとして把握している。一方、女性は、性的満足はロマンスと結合しており、親密性とは別のものと意識する傾向がみられた。(3)配偶者への期待は、かかわりたいか、かかわりたくないかという一次元で把握できることがわかった。(4)夫婦間の親密性を生み出す行動は比較的よく行われているが、地方では日常的買い物、都市部では記念日を祝うという非日常的行動が特徴的である。(5)ご機嫌をとるなどの感情労働は、地域差、性差がみられた。地方では、妻が夫のご機嫌をとるなど、女性の方がより相手に気をつかうが、都会では逆転し、夫が妻に気をつかう割合が増える。(6)夫婦の情緒的満足度においては、親密性の点では、男女差がないが、ロマンスという点では、女性の満足度が低くなる傾向がみられた。