著者
漆谷 真 守村 敏史
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は以前に筋萎縮性側索硬化症の原因蛋白質であるTDP-43の2つのRNA認識部位(RRM1とRRM2)内の配列を抗原とし、異所性局在型や凝集体形成型のTDP-43のみを認識する抗体を作出した。本研究ではこれらの抗体を用いて、TDP-43凝集体の形成を阻止する低分子化合物の同定や一本鎖抗体(scFv)を作製し細胞内のTDP-43凝集体の除去効果を検証した。RRM1抗体を用いた競合ELISA法によってTDP-43の異常会合界面に結合し凝集体形成を阻止する化合物を同定した。RRM2を抗原とし蛋白質分解シグナルを持つscFvはTDP-43凝集体と特異的に結合し分解促進し細胞死を抑える成果が得られた。
著者
松尾 雅博
出版者
滋賀医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

「眠気」は主観的に表現されるが、その実態は十分に解明されていない。実際、「眠気が強い」状態ですぐに眠られず、「自覚的な眠気がない」状態ですぐに寝てしまうことがある。本研究では、「眠気」の本質について生理学的な手法・心理学的な手法を統合的に用いて解析した。生理学的な手法としては、実際に眠てしまうまでの時間だけでなく、脳波、心電図なども用い、心理学的な手法としては「注意機能タスク」のほか、各種質問紙を用いている。この結果、「主観的な眠気」が実際の睡眠と十分に関連しないが、「注意機能」と関連する事が明らかとなった。眠気が「睡眠」だけでなく他の認知機能の評価になる可能性を示す、重要な研究となった。
著者
高田 達之 鳥居 隆三 土屋 英明 木村 博 木本 安彦 細井 美彦 入谷 明
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究は(1)サルES細胞を用いた遺伝子改変技術の確立と(2)そのES細胞由来の遺伝情報を有する産仔を得る、という2つの主目的からなっている。まず(1)の課題に関して、我々は世界に先駆けて遺伝子導入が困難とされたカニクイザルES細胞への蛍光蛋白GFP遺伝子の導入に成功した。そしてこのGFP発現カニクイザルES細胞(GFP-ES)がin vitro, in vivoにおいて内、外、中胚葉に分化し、多分化能を維持していることを明らかにした。さらにGFP-ES細胞を4-6細胞期のカニクイザル正常発生胚に注入すると、割球と混じり合って増殖し、キメラ胚盤胞を作る能力があることを証明した。すなわち目標であったサルES細胞を用いた遺伝子改変技術を確立することができた。さらにこの過程でsiRNAのサルES細胞への効率良い導入方法の開発にも成功し、サルES細胞において容易な遺伝子発現抑制方法を確立することができた。すなわちサルES細胞における遺伝子改変技術として、過剰発現系とその逆の発現抑制という2つの技術を確立することに成功した。次に2番目の課題に関して、このGFP-ES細胞を4-6細胞期の正常発生胚に注入後、レシピエント個体の卵管に移植し、キメラザルの作出を試みた。その結果、4頭の妊娠に成功し、1頭の正常仔の出産に成功した。この個体の皮膚、および血液における、明確なGFPの発現は認められなかったが、ゲノムにおけるGFP遺伝子の存在をPCR法により調べたところ、キメラであることが明らかになった。すなわち世界で初めてES細胞を用いたキメラザルを誕生させることに成功した。以上、本研究の結果、サルES細胞に遺伝子改変を行い、これを用いて遺伝子改変ザルを作製するための細胞工学的、発生工学的方法を開発し、必要な技術基盤を確立することができた。
著者
松井 克之
出版者
滋賀医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

健康な生後1か月の乳児50人を対象として血液検査とUGT1A1遺伝解析を行った。血清総ビリルビン値(TB)は母乳哺育で上昇していたが、完全母乳でない場合は母乳摂取割合による差は認めなかった。TBの平均±SDは完全母乳では8.71±3.77 mg/dL、完全母乳でない場合は4.31±2.58 mg/dLであり、完全母乳であるか否かがTBに影響を与えることが判明した。UGT1A1遺伝子の遺伝子解析も含めた解析を行った結果、完全母乳とp.G71Rのヘテロでは、それぞれでそうでない場合の約2倍にTBが上昇することがわかった。また胆道系肝機能にも大きく影響を受けることが明らかとなった。
著者
加藤 圭子 澤井 信江 土師 俊子 稲垣 寿美 徳永 香里 中川 栄太 川平 明子
出版者
滋賀医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では、日本の要介護高齢者が好む粥の誤嚥予防について検討するために、食事援助中の粥の粘度の経時的変化を明らかにした。また、食事援助中の粥の基本的な性質の経時的変化等についても明らかにした。
著者
今本 喜久子 喜多 義邦 高田 政彦 日浦 美保 大町 弥生
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

我々は、科研補助金・基盤研究(C)を受けて平成13年から16年にわたって大学の近隣に在住の高齢ボランティア29名(男10名:女19名)と施設入所者15名(男3名:女12名)を対象に、身体的基礎データを4年間8回継続的に採取した。これらの測定は、身長、体重、BMI,体脂肪率、バイタルサインなどの身体的基礎データの他、握力と下肢筋力、ドプラーERによる足背動脈の血流速度、超音波測定装置Achillesによる踵骨の骨指標、Stabilo-101による重心動揺を含む。また、転倒・骨折についてのアンケート調査、食事と運動についての生活習慣調査も行った。調査期間中の転倒者は8名、骨折者は11名であった。身体的基礎データについては、4年間に大きな変化は認められなかったが、高齢者ほど身長の短縮が目立ち、加齢にともない体脂肪率が高くなる傾向がうかがえた。1.骨量については、第109回日本解剖学会(福岡2003)、第1回コメディカル形態機能学研究会(福岡2003)第16回日本看護研究学会地方会(神戸2003)で口頭発表した。良い運動習慣を維持することで骨指標を高めることができた高齢者がいる事実は、骨量減少に生活習慣の弊害が深く関与することを裏付けた。骨粗鬆症の予防対策は、後期高齢者にまで対象を広げて効果を上げるべきである。2.重心動揺と下肢筋力は骨量への影響が明らかで、これらの関係については滋賀医科大学看護学ジャーナル3巻1号(2005)に論文として発表した。重心動揺計による総軌跡長をパラメーターとしたバランス感覚の変化に注目すると、男性では閉眼時に動揺が高まる傾向が著明であり、加齢にともなう視力の低下がバランス感覚に影響することが推測された。3.下肢の足背動脈の血流速度については、第17回日本看護研究学会近畿地方会(京都2004)、第2回コメディカル形態機能学研究会(大津2004)に口頭発表した。対象者の加齢に伴う明朗な変化は認められなかった。著しく血流の流速波形が変化した数例で、動脈硬化の進行が推測され、その例では骨量の低下が認められた。
著者
植村 直子
出版者
滋賀医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

在日ブラジル人女性を対象に、継続的に妊産婦交流会を実施し、参加者同士の交流を促し、その有効性を分析した結果、参加前は、【夫・子どもと一緒に健診・交流会に来る】【交流会のイメージがなく気が進まない】【なんとかなるさと思っている】、参加時は【子どもが生まれる前に勉強するのは良いと思う】【妊娠中のことや、赤ちゃんの世話、制度について知りたい】、参加後は、【妊婦健診後は家族で出かけるので早く帰りたい】【産後困った時に相談したいと思う】とカテゴリー化された。
著者
村上 義孝
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

喫煙状況別の平均余命・障害なし平均余命を日本の代表的なコホートデータ(NIPPON DATA)から算出、比較した。簡易生命表法(Chiangの方法)、Sullivan 法を用い、喫煙状況別に推定した結果、男性の60歳平均余命は非喫煙群で23.8年、喫煙経験群(現在喫煙+禁煙)で21.0年と2.8年の差が、60歳障害なし平均余命では非喫煙群21.0年、喫煙経験群では19.7年で1.3年の差がみられた。この差は他の先進諸国より小さく、喫煙の年次変化、間接喫煙、肺がん死亡率の高さなどが理由として考えられた。
著者
尾松 万里子 松浦 博 山元 武文 森 康博
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

Atypically-shaped cardiomyocytes(ACMs)は,成体マウスの心室組織から単離された細胞である。ACMsは低酸素環境に耐性を有し,培養すると自発的に大きく成長して拍動を開始する.培養ACMsを経時的に観察した結果,プリオンタンパク質を発現する小型細胞が互いに融合して多核の大型細胞に成長することを見出したが,細胞分裂は現在の培養条件下では観察されなかった.これらのことから,ACMsは幹細胞から次の段階へ分化の進んだ心筋前駆細胞の一種であると考えられた.また,ACMsはマウスおよびヒトにおいて老齢に至るまで心臓組織に存在することも明らかにした.
著者
守村 敏史 井上 健
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

多くの神経変性疾患では、細胞内に構造不良な蛋白質(ミスフォールド蛋白質)の蓄積する共通した病理像が認められる。オートファジーの活性化はミスフォールド蛋白質の除去に有望な治療法として注目されている。私は安全性の点から食品成分中のオートファジー誘導成分を検索し、治療に用いる試みを進め、オートファジー誘導可能な新規の食品成分3種類を同定した。また、カレーの有効成分でオートファジー誘導効果のあるクルクミンが小胞体ストレスによる疾患の一つPMDに有効である事、またオートファジ阻害薬として知られている抗マラリア剤のクロロキンが、蛋白質合成を止める事により同じ疾患に対して有効に働く事を報告した。
著者
畑野 相子 北村 隆子 安田 千寿
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、認知症高齢者の行動・心理学的症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia :以下 BBPSD とする)に対する非薬物療法として、赤ちゃん人形を用いたケア(以下人形療法とする)を展開し、その効果を科学的に実証することを目的とした。様々な BPSD を有する高齢者に人形療法を行い観察した結果、焦燥感や暴言・暴力の緩和に最も効果があった。人形に対する態度や言葉を分析した結果、人形の意味として(1)現在と過去の自分の存在をつなげる役割(2)気持ちの移行対象(3)高齢者自身が能動的に働きかけができる存在であることが示唆された。また、療法のポイントは、(1)高齢者が好みの人形を選択できること(2)導入は、自尊心に配慮して、対象者のために人形を準備したのではなく、セラピストの人形として提示すること(3)人形と高齢者の目線をあわせること(4)人形を渡し放しにするのではなく、療法として人形を用いることである。共通して好まれた人形は、目が開眼しているまたは開閉することであった。
著者
山崎 樹里 鳥居 隆三 土屋 英明
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

当該年度は、卵巣刺激を施した成熟メスカニクイザルから採取された未成熟卵IF(germinal vesicle : GV、Metaphase I : MDを用いて、体外成熟培養法の確立、および体外成熟卵子の評価としての顕微授精を行った。体外成熟培養法の確立を目指し、TCM-199に10%-FBS、penicillin-strepmmycnを添加したものを基本培地とし、BDNF、GDNF、IGFI、EGF、RGF、Leptin、BstatiClの7因子添加の影響を調べた。また、ヒト可溶化羊膜(Human Solubilized Amnion products : HSAP)を培養器剤にコートして使用することで、ラミニン、ニドゲン、コラーゲンなどの影響を調べた。その結果、GV、MIどちらのステージにおいても、7因子の添加、およびHSAPの使用による体外成熟率の改善は見られなかった。また、体外成熟卵子の顕微授精の結果、高い受精率が得られた。しかし、体外培養により発生の確認を行った結果、全ての顕微受精胚が8細胞期~16細胞期で発生を停止した。そこで、体外成熟卵子の核成熟を確認するために、体外成熟卵子を固定、染色して核相を調べた結果、多くの卵子で核成熟が確認された。次に、体外成熟卵子の細胞質成熟を確認するために、ヒト卵子において、細胞質が成熟すると細胞質表面に整列する表層顆粒の分布を調べるために電子顕微鏡観察を行った。その結果、採卵時に成熟している卵子においても、表層顆粒が細胞質表面に整列しておらず、ヒトと同様の評価ができないことが確認された。また、体外成熟卵子の観察により、表層顆粒が細胞質表面に整列しているものが多数含まれていた。体外成熟卵子が顕微授精後に発生停止になることから、カニクイザルにおいて、表層顆粒が細胞質表面に整列していることは、細胞質成熟が過剰なのではないかと推察された。
著者
岡村 智教 上島 弘嗣 門脇 崇 森山 ゆり
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

勤務者男性約250人の上下肢血圧比(ABI)、上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)を測定した。同時に血中の直接的・間接的抗酸化ビタミンであるα-トコフェロール、葉酸、ビタミンB12、炎症反応指標であるCRP(C反応性蛋白)、喫煙や飲酒などの生活習慣を測定し、ABI、baPWVとの関連を検討した。各血液検査指標の平均値は、α-トコフェロール;38.9μmol/、葉酸;15.4nmol/L、ビタミンB12;295pmol/L、CRP(geometric mean);0.47mg/Lであった。下肢の動脈閉塞症が示唆されるABI0.9未満の者は3名に過ぎず統計学的な解析は不可能であった。baPWVは年齢によって大きな差があるため、対象者のうち50歳代で循環器疾患の既往歴がなく、ABIが正常かつCRPの上昇を伴う急性・慢性炎症を持つ者を除外した178名を解析対象とした。baPWVの平均値は1468cm/sec(標準偏差;221)であり、単変量解析では、年齢、CRP、収縮期と拡張期の血圧値、心拍数、空腹時血糖値がPWVと有意な正の関連を示し、逆に血清脂質、BMI、葉酸、ビタミンB12、α-トコフェロール、喫煙、飲酒は関連を示さなかった。線形重回帰分析で危険因子相互の関連を調整すると、年齢、血圧値(収縮期または拡張期)、心拍数、CRPのみがbaPWVと有意な正の関連を示した。共分散分析で他の危険因子を調整した場合、CRP四分位別のbaPWVは、1431、1436、1507、1508cm/secであった。baPWVの増加は大動脈の早期の動脈硬化性病変の存在を示唆していると考えられるため、CRPの測定は動脈硬化の早期発見に有用と考えられた。一方、抗酸化ビタミンはbaPWVとは関連せず、より進行した動脈硬化プラークの形成抑制等に関連している可能性がある。
著者
吉川 玄逸
出版者
滋賀医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

研究対象は当初予定の32チーム約100名の投手から、最終的に22チーム80名の投手に変更され、調査を実施した。調査方法のうち(1)アンケート調査および全員の診察・レントゲン検査は対象80名に対して施行し得た。(2)投球動作の三次元解析については現在、対象者を順次呼び出しあるいは訪問によって解析を続行中である。現在までの結果は主に(1)によるものである。投球時の肩痛の既往がある選手は38.8%,現在投球時痛がある選手は12.5%であった。Relocation testは肩の痛みや痛みの既往と有意な関連があったが、個々の病態との特異性はなかった。全身関節過可動性と肩関節動揺性は肩の痛みや、理学検査上の異常とは関連がなく、投球障害には無関係であるように思われた。肩峰の形態と肩の痛みやimpingement signはとくに関連性はなかった。但し,type II群には有意に肩甲上腕関節後面の圧痛が少ないことが判明した。以上の概要を第12回日本肩関節学会で報告した。
著者
吉川 玄逸
出版者
滋賀医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

研究対象は以前に調査した22チーム80名を再度対象にして施行した。今回は肩に加えて肘関節の解析にも重点を置いた。アンケート調査の結果、肘痛の既往がある者は38名、現在肘に痛みのある者は15名であった。肘の痛みがある群に偏って多いのは肘外反ストレス検査と内上顆、肘頭外側の圧痛であった。X線検査上、肘に異常を認めたは12名(15%)であり、その殆どは上腕骨内上顆下方の異常であった。投球動作解析は今回から肩回旋運動、肘運動に対してねじりゴニオメーターを応用することを試みた。試験的運用において、データの正確な採取にいくつかの改良を要する点が見つかり、現在、改良を加えて解析方法の信頼性向上に努めている。
著者
馬場 忠雄 早島 理 佐藤 浩 丸尾 良浩 長倉 伯博 横尾 美智代
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

難治性の重篤な患者、末期状態の患者などを支える緩和医療のより望ましいあり方を構築するため、医学・医療を学ぶ者と宗教者が医学教育の場で共に学ぶことを通じて、両者が実践的に協働できるシステムを研究開発し、滋賀医科大学のカリキュラムで実践することができた
著者
柴田 純祐 川口 晃 江口 豊
出版者
滋賀医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

近年、癌の浸潤、移転に関する因子として、各種接着因子やプロテアーゼが注目されている。urokinase-type plasminogen activator(u-PA)はセリンプロテアーゼの一種で、plasminを介してpro-collagenaseを活性化し、細胞間基質を溶解することで癌の浸潤、転移に関与しているものと考えられている。本研究は、消化器癌手術切除標本を用いて、免疫組織化学染色法及びin situ hybridization法により、u-PAを中心とする線溶因子の発見と局在及びその臨床的意義について検討した。その結果、ヒト消化器癌において、u-PAは癌細胞自身が産生しており、その発現率は、食道癌で15例中1例(6.7%)と低く、胃癌では111例中44例(39.6%)、大腸癌で145例中48例(33/1%)であった。さらに、大腸癌u-PA陽性症例では有意にリンパ節転移率が高く、また、胃癌及び大腸癌のu-PA陽性症例で、5年生存率は各々有意にu-PA陰性症例と比し低かった(51.0% VS 77.5%:胃癌、60.2% VS 80.9%:大腸癌)。一方、u-PAの抑制因子である plasminogen activator inhibitor(PAI)の免疫組織化学的検討では、大腸癌において癌細胞周囲近傍の線維芽細胞に、PAI-2は胃癌、大腸癌において癌細胞自身に局在していた。さらに、PAI-1は大腸癌のリンパ節転移を抑制する傾向が、PAI-2に関しては、胃癌、大腸癌の5年生存率において、u-PA陽性PAI-2陰性例が最も予後が悪く、u-PA陰性PAI-2陽性例が最も良かったことより、PAI-1、PAI-2は、癌の浸潤、転移機構を抑制する可能性が示唆された。現在、消化器癌手術は、根治性とquaality of life (QOL)の立場より、拡大あるいは縮小手術の方向にあり、その指標として、真の悪性度、つまり生物学的悪性度が求められている。そこで、術前の組織生検、あるいは手術切除標本におけるu-PA、さらにPAI-1、PAI-2の発現を組み合わせて生物学的悪性度の一指標とし、術式、あるいは術後の化学療法を含めた集学的治療を行う臨床応用が期待される。
著者
醍醐 弥太郎
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

肺癌・食道癌の発症初期での検出および疾患増悪を早期に感知する統合的病態診断系を開発し、それを迅速に癌予防・診断・治療へ展開することを目的として、平成23年度は、バイオマーカー候補分子の同定を進めるとともに、複数のバイオマーカーを統合した新規診断システムの構築を行った。(1)ELISA法等を用いた肺癌・食道癌の迅速血清診断系の構築血清バイオマーカー候補に対する抗体を用いたELISA法による肺癌の早期血清診断システムの構築を行い、あらたに新規血清診断マーカーとしてEBI3を同定した。さらに複数のマーカーを組み合わせて、最小のマーカー数で最大の感度・特異度を示す診断系を検討した。糖鎖プロテオミクス解析と血清ペプチドーム解析による肺癌患者血清中のタンパクを探索して複数の候補バイオマーカーを同定した。(2)免疫組織学的マーカーによる肺癌・食道癌の迅速悪性度診断法の構築組織染色マーカーについて腫瘍組織マイクロアレイ(肺、食道癌他)および正常組織マイクロアレイを使用し免疫組織染色を行い、蛋白発現レベルと臨床病理・予後情報との相関を検討し、あらたに予後予測マーカーとして、CSTF2、CHODL、OIP5、CDC20、KIAA0101、MAD2、MCM7、EZH2を同定した。さらに最小のマーカー数で定量的に癌の悪性度を予測する診断法を検討した。(3)肺癌・食道癌の迅速病態診断系の構築と検証上記の血清および免疫組織学的マーカーを各診断段階で有機的に使い分ける肺癌・食道癌の迅速病態診断系を検討した。