著者
西川 哲成 富永 和也 尹 聖澤 上村 学 好川 正孝 戸田 忠夫 田中 昭男
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.272-281, 1996-09-28
被引用文献数
7 2

共焦点レーザ走査顕微鏡(CLSM)でラット硬組織を観察する条件を得るため,硬組織の各種ラベリング剤を用いて,その染色方法を検討し,立体的に観察した。生後4週の雄性ラットの背部皮下,大腿部の筋肉,腹腔そして頸部の静脈にcalceinを投与し,その2日後灌流固定を行った。下顎骨を摘出しエポキシ樹脂に包埋して厚さ500μmの非脱灰切片とした。これらの切片を励起波長488nmで,波長535nm (CH1)と610nm (CH2)のバリアーフィルターを用いてCLSMで観察した。また,ラットにcalcein, tetracyclineおよびalizarin redの種々な濃度のラベリング剤を単独あるいは複数組合せて投与し,同様の方法にて切片を作製し,CLSMで観察した。その結果,体重100gにつきcalceinの量が1または2mgのときにCH1およびCH2を,alizarin redは4または8mgのときにCH2を,tetracyclineは4または8mgのときにCH1およびCH2をそれぞれ使用することによって最も明瞭に観察できた。Calceinを静脈に投与した場合には,皮下組織への投与と比較して,ラベリング線は細く,染色程度も強かった。さらに,筋肉あるいは腹腔に投与した場合は静脈内と皮下投与の中間の結果であった。2重ラベリングでは体重100gにつきcalcein 2mgとalizarin red 4mgの投与がCLSMの観察に適していた。この染色条件では,象牙質の基質および支持歯槽骨の外側は規則正しく,そして歯根膜に接する固有歯槽骨は不規則にそれぞれラベルされていた。また,骨小腔および骨細管が立体的に観察された。
著者
北村 秀和
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.554-586, 1990-06-28
被引用文献数
6 1

サルを用いてヒトに類似した外傷性咬合の実験モデルを作製し,臨床的ならびに病理組織学的に歯周組織の変化を検索した。実験開始にあたり,上下顎左右側犬歯歯冠を歯齦辺縁部から切断・除去するとサルはブラキシズムを開始した。そのサルに対して実験歯である上顎第2小臼歯頬側咬頭内斜面に,咬頭嵌合位には変化を与えない修復物を装着した。その結果,修復物装着6週後まで実験歯の動揺は増加し続け,その後は一定化した。病理組織学的には,修復物装着後4週までは組織の損傷性変化が,8週以降では修復性変化が主体をなしていた。また,観察期間の途中で修復物を除去し,犬歯を術前の状態に復位させた場合には実験歯の動揺は急激に減少し,歯槽骨頂部歯根膜側に著明な骨添加が観察された。以上より,本法によってサルに咬合性外傷を生じさせることができた。また外傷性咬合による変化は可逆性を示し,徹底したプラークコントロール下では歯周ポケットは形成されなかった。
著者
荻原 和孝 加藤 千穂美 斎藤 和子
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.628-640, 1995-12-28
被引用文献数
8 6

本実験は,歯周病原性細菌に対する多形核白血球(PMN)の活性酸素産生[Chemiluninescence (CL)反応],食・殺菌能への補体・抗体の影響を明らかにすることを目的とした。PMNはカゼイン刺激マウス腹腔内から採取した。また,歯周病原性細菌としてActinobacillus actinomycetemcomitans; Aa, Porphyromonas gingivalis; Pg, Fusobacterium nucleatum; Fnを使用した。マウスに生菌免疫を施し,超音波破砕抗原に対する抗体価をELISA法で測定した。IgGがAaとPg免疫マウス,IgMがFn免疫マウスで高かった。CL反応はルミノール依存性のCL反応を測定した。食菌能は各反応液をスライドガラスに塗抹・乾燥し,メイ・グルンワルド・ギムザ染色後,顕微鏡を使用して観察した。菌の生残は,血清,抗体,PMN単独または組み合わせて反応させ,平板培地上でカウントした。CL反応の増加は,Aaが補体,Pgで補体・抗体の両方に依存したが,Fnは補体,抗体のどちらにも反応性を示さなかった。またFnはD-ガラクトース,N-アセチル-D-ガラクトサミン,マンナンによって抑制された。食菌能はAaとFnが補体,Pgが補体・抗体の両方の存在で増加した。しかし,補体,抗体,PMN単独または組み合わせによる殺菌効果は得られなかった。結論として,補体はAaのCL反応と食菌能の増加に,補体と抗体の両方がPgのCL反応と食菌能に関与した。また,FnはCL反応でレセプターの相互作用が関係したが,食菌能には補体を必要とした。しかし,補体,抗体は殺菌効果を示さなかった。
著者
加藤 義弘 加藤 熈 小鷲 悠典
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.416-429, 1992-06-28
被引用文献数
13 2

本研究は,夜間睡眠中に生じる顎運動を記録する装置を開発し,この装置を用いてbruxismの自覚の有無による睡眠中の顎運動の違いについて調査することである。睡眠中の顎運動を記録する目的で開発した装置は,発光ダイオード(LED)と光電式変位検出センサーから構成され,下顎の側方・前方方向の移動をテレメータ方式で記録するものである。本研究はこの装置に,EMG,加速度計,コンデンサーマイクロフォンを組み合わせて,顎運動,左右咬筋筋活動,咬合接触,咬合接触音を記録した。被験者は歯周組織が健康な27〜32歳の男性で,bruxism自覚者2名,無自覚者2名を選択し,5夜繰り返し記録した。その結果,睡眠中のbruxism時の顎運動を記録することが可能になり,さらに顎運動とEMGからgrinding・clenching・その他の3種に分類できた。またbruxismを自覚する被験者は自覚しない被験者に比べgrindingの出現率が有意に高いのに対し,自覚しない被験者はclenchingの出現率が有意に高かった。
著者
小宮 明代
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.162-174, 1998-06-28
参考文献数
49
被引用文献数
5

チェアーサイドで簡単に迅速に使用可能な簡便DNAプローブ法を開発し,歯周炎局所のPorphyromonas gingivalis, Actinobacillus actinomycetemcomitansの検出率およびprobing depth (PD), bleeding on probing (BOP)の臨床評価との関連性により臨床応用の可能性を検討した。本法の特色は,チェアーサイドで行うことを目標とし,ハイブリダイゼーションおよび洗浄を行う際に可及的に恒温槽を使用しないですませられるよう工夫した。したがって,100℃加熱DNAプローブを試料DNAと直接10分間反応させ温度が自然に下降しアニーリングする様にした。また75℃0.2×SSC/0.1%SDSで洗浄効率を高めた。操作は24-well plate上で約2時間で終了し検出限界は細菌数10^4個/試料であった。被験者は歯周炎患者55名(14〜69歳)468部位とし,初期治療後,9名58部位の歯周ポケットを検索した。培養法との一致率はP. gingivalis 88%, A. actinomycetemcomitans 67%であった。P. gingivalis検出率とPDおよびBOPの間に有意な関連性が認められた(χ^2 test: p<0.001)。A. actinomycetemcomitans検出率とPDとの有意な関連性は35歳以上で認められたが(χ^2 test: p<0.001), BOPとの有意な関連性はなかった。A. actinomycetemcomitansは10歳代で最も高頻度で検出された。10歳代PD 3mm以下の症例でP. gingivalisは検出されなかったが,A. actinomycetemcomitansは22%に認められた。P. gingivalisの検出率は臨床症状改善部位のみで有意に減少し(χ^2 test: p<0.01), A. actinomycetemcomitansは治療後有意には減少しなかった。本簡便DNAプローブ法は,迅速診断,歯周治療法の選択,細菌学的な治療効果判定のチェアーサイドテストとして臨床的に有効であると示唆された。
著者
仲谷 寛 原 良成 宮里 明子 佐藤 聡 伊藤 弘 小林 博 鴨井 久一 菅谷 彰 杉山 裕一 辻上 弘 田村 利之 堀 俊雄
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.220-231, 1992-03-28
被引用文献数
14 2

歯周治療におけるTBC-コラーゲン複合骨移植材: KF-300(TBC-コラーゲン合材)の臨床応用について検討した。歯周疾患によって生じた歯槽骨欠損部68名,80部位に対してTBC-コラーゲン複合骨移植材を応用し,経時的にX線写真および臨床的な評価を行った。術前と比較して術後6ヵ月で,X線写真による骨欠損最深部までの距離は3.6mmの改善が認められた。また,プロービング・デブスおよびアタッチメントレベルは,それぞれ3.2mm, 2.1mmの改善が認められた。動揺度,プロービング時の出血は,術後有意の改善が認められた。骨移植材の漏出および創〓開は,術後2週まで認められたが臨床的には問題とならないと思われた。TBC-コラーゲン合材によると考えられる副作用は1症例も認められなかつた。以上の結果より,TBC-コラーゲン複合骨移植材は,生体親和性に優れ,歯周治療における有用な骨移植材であると考えられた。
著者
牧野 文子 瀬戸口 尚志 和泉 雄一 末田 武
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.233-239, 1998-06-28
被引用文献数
1

歯周疾患患者において歯ブラシの植毛部の形態の違いが隣接面部のプラーク除去効果に及ぼす影響を調べるため,2種類の歯ブラシ(ストレートカット歯ブラシ,山切りカット歯ブラシ)を試作し検討した。成人性歯周炎と診断され歯周治療を終了した,メインテナンス中の患者34名(男性8名,女性26名)を被験者とし,山切りカット歯ブラシ群,ストレートカット歯ブラシ群,ストレートカット歯ブラシと歯間ブラシ併用群の3群に分け,各ブラシを3週間使用させた。ブラッシング法や回数などは特に規定しなかった。プラーク付着量を実験開始時から1週毎に3週調べた。また,実験開始時および終了時にProbing Depth, Gingival Index, Bleeding on Probingを測定した。その結果,山切りカット歯ブラシは,ストレートカット歯ブラシに比べて,有意に隣接面のプラーク除去に対して効果的であったが,歯間ブラシ併用程の効果はなかった。また,この山切りカット歯ブラシは歯間空隙の大きな部位に比べ,小さな部位において効果が高かった。
著者
埴岡 隆 田中 宗雄 玉川 裕夫 雫石 聰
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.347-352, 1993-06-28
被引用文献数
17 3

喫煙習慣と歯周組織の健康状態との関連性について,大阪府にある事業所男子従業員167名(20〜58歳,平均年齢39.1歳)を対象として調査研究を行った。喫煙者97名と非喫煙者55名について,地域歯周治療必要度指数(CPITN)を指標とした歯周組織の健康状態の診査を行ったところ,喫煙習慣とCPITNによる有病者率との間に有意の関連性(P<0.05)が認められた。喫煙者ではコード0の部位数が少なく(P<0.001),コード3の有病部位数が増加していた(P<0.01)。また,コード3以上の有病部位数の増加が喫煙者では非喫煙者より若い年齢層に認められた。喫煙者と非喫煙者,両群の歯磨き回数と一人平均DMF歯数はほぼ同じであった。以上のことから,喫煙は歯周組織の健康状態に悪影響を及ぼす危険因子のひとつであることが示唆された。
著者
栗本 桂二 磯島 修 直良 有香 穴田 高 小林 芳友 小林 充治 新井 英雄 高柴 正悟 難波 秀樹 横山 雅之 光田 由可 水島 ゆみ 野村 慶雄 村山 洋二 上田 雅俊 寺西 義浩 藤原 一幸 橋爪 彰子 釜谷 晋平 細山 陽子 上羽 建二 大西 和久 白井 健雄 大橋 哲 東 浩介 木岡 慶文 南林 繁良 田中 真弓 北村 卓也 牧草 一人 山岡 昭 浦口 良治 萩原 さつき 福田 光男 小田 茂 林 成忠 竹蓋 弥 米良 豊常 峯岸 大造 梅田 誠 中元 弘 稲富 洋文 ナロンサック ラーシイシン 野口 俊英 石川 烈
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.191-205, 1988-03-28
被引用文献数
5 2

塩酸ミノサイクリン(MINO,日本レダリー,東京)を用いて歯周炎の局所治療法を確立するための研究を行なってきた。本研究は,MINOを2% (力価)に含有する軟膏製剤(LS-007)を臨床的に用い,その有効性,安全性ならびに有用性をもとに用法を検討したものである。4mm以上のポケットを有する辺縁性歯周炎患者45名の119歯を被験歯とし,LS-007とそのプラセボ,および市販のミノマイシン錠(日本レダリー)を用い,微生物学的および臨床的に用法を検討した。その結果,LS-007の局所投与は歯周病治療において,臨床的有効性,安全性および有用性があると結論した。
著者
西田 哲也 江田 昌弘 嶋田 浩一 山田 潔 伊藤 公一 村井 正大
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.692-697, 1993-12-28
被引用文献数
34 3

本実験の目的は,アクア酸化水(OX水)のプラーク形成抑制効果について検討することである。日本大学歯学部学生および大学院生,歯周病科医局員計13名(男子8名,女子5名)を被検者とした。ヒト第三大臼歯より大きさ5×5×1mmに切り出した象牙質試験片を埋入した口腔内保持装置を作製した。実験期間は7日間とし,装置を口腔内に装着しOX水で,朝夕(8:00, 17:00)1日2回(1回30秒)洗浄を行った。対照として,0.2%クロルへキシジン水溶液と生理食塩液を用いた。一試験片上に形成されたプラークの様相を,走査型電子顕微鏡で観察を行った。その結果,OX水で象牙質片を洗浄することで,0.2%クロルヘキシジン水溶液と比較して若干劣るものの,生理食塩液で洗浄した場合よりも明らかにプラーク形成量が抑制され,かつ初期プラーク形成における構成細菌叢に対して影響があった。このことから,OX水が化学的プラークコントロールの一方法として臨床応用できることが示唆された。
著者
伊藤 龍 寺井 明子 林 聰 金子 憲司
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.188-196, 1994-03-28
被引用文献数
2 2

ブラッシング圧が歯ブラシ毛を介して,口腔内組織に伝達される応力分布を定量的に明らかにするために,非線形有限要素法を用いて2つのケースの歯ブラシ毛の挙動を動解析し,次の結果を得た。1.歯肉モデル上のブラッシング運動の解析毛先形態が新規な形状である高度テーパード毛とラウンド毛の2種類の歯ブラシについて,毛の強制変位量が1mmとなるように歯肉に押しつけ,水平方向に6mmの振幅の運動を加えた。この時,ラウンド毛歯ブラシでは,歯肉に発生する応力は300〜600g/cm^2であったのに対し,高度テーパード毛歯ブラシでは,130〜200g/cm^2となり,かなり小さかった。2.歯周ポケットモデルへの毛先侵入の解析毛先形態が高度テーパード毛とテーパード毛の2種類について,各々2本の歯ブラシ毛を歯周ポケットに侵入させた。この時,高度テーパード毛は容易に歯周ポケットに侵入するが,テーパード毛では容易に侵入せず,周辺歯肉に対し高度テーパード毛の6〜7倍の高い応力を発生させた。また,高度テーパード毛の滑らかな侵入は,角度を変えてもほぼ同じ結果であった。
著者
小林 雅実
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.270-279, 1991-06-28
被引用文献数
3 1

ニフェジピンの炎症組織におよぼす影響を検索した。60匹のウィスター系ラットの背部に滅菌綿球を挿入してcotton pellet肉芽腫を形成し,24時間後よりニフェジピン投与(100mg/kg)を開始し,投与期間別に次の4群に区分した。1,2,4週間投与(1,2,4週群)および,4週間のニフェジピン前投与を行った後に綿球を挿入し,術後さらに4週間投与(前投与群)とし,各群についてコントロールは同匹数とした。実験期間終了後,屠殺,肉芽腫を摘出し,湿重量,タンパク質,ハイドロキシプロリンの定量ならびに組織学的検索を行ったところ,次の結果を得た。すなわち,肉芽腫の湿重量,タンパク質量は1週間目に増加し,その後経時的,または薬剤投与による変化はなかったが,ハイドロキシプロリン量は経時的にも,薬剤投与によっても増加する傾向があり,前投与により,さらに増加が認られた。また,組織学的所見では,著明な炎症性細胞浸潤と肉芽組織の増生がみられ,膠原線維は経時的に増加し,ニフェジピン投与によって束状の線維が増加する傾向が認られた。
著者
石垣 竜 高城 稔 伊藤 公一
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.55-63, 2002-03-28
被引用文献数
1 2

アル・カリフォスファターゼ(ALP)活性を指標とした酵素組織化学と in situ hybridization 法を用いて,胎生13.0〜15.0日齢(E13.0〜15.0)のラット下顎骨の発生過程における骨芽細胞の分化およぴこれにともなう非コラーゲン性タンパク(NCP)すなわちosteonectin(ON),bone sialoprotein(BSP),osteocalcin(OC),decorin,biglycan,osteopontin(OPN)の遣伝子発現を検討した。E13.5に軟骨原基とALP陽性の骨芽細胞前駆細胞が神経線維の近傍に出現した。軟骨原基は,分化の進行とともに免疫組織化学的にグリコサミノグリカンの発現を増加し,メッケル軟骨の形態を明確にした。一方,骨芽細胞前駆細胞は,骨芽細胞への分化に伴ってその数とALP活性を次第に増加した。E15.0になって,骨基質周囲に密接するALP陽性の骨芽細胞は上記のNCP遺伝子を初めて発現したが,細胞集団全体にわたって発現しているのは,ONとBSPで,OC,decorin,biglycan,OPNと順に発現する細胞の数が減少していた。特に,OPNは極めて少数の細胞に限局して発現していた。以上のことから,ラット下顎骨初期発生過程において,ALP陽性の骨芽細胞前駆細胞は,時問およぴ位置的にメッケル軟骨原基と神経線維に密接して出現し,E15になると骨芽細胞分化の様々なステージにある特異な細胞集団に達していることが明らかとなった。
著者
大久保 つや子 柴田 学 高橋 宏 山田 恭央 栢 豪洋 本田 武司 青野 一哉 川越 昌宜 長岡 成孝 武田 康男
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.1116-1121, 1988-12-28
被引用文献数
3

歯科領域でのカートリッジ方式による局所麻酔において,血液の逆流現象を調べ,注射に際して特別な吸引操作を行わずとも,血液が容易にカートリッジ内に逆流し,残液を汚染することをつきとめた。1. 1.25%ポンタミンブルー液中に,注射針の先端を浸漬した状態でカートリッジ局麻液0.8mlを一定速度で押し出し,加圧を停止し指先をハンドルから浮かせた状態にしたとき,カートリッジ内に逆流してくる色素を定量する逆流模擬試験を行った。市販カートリッジ用注射器7種について比較した結果,7種すべての注射器に逆流が認められた。逆流色素量と頻度からしてFujisawa aspirating syringe>Citoject>Fujisawa type II>JM syringe>Trixylest>BDN carupule syringe>Peri-pressの順であった。また,市販4種のカートリッジについても,逆流現象を比較した。この場合も,1種を除くすべてに高頻度,高濃度の色素逆流を認めた。2. 歯科診療3機関より回収した,使用済カートリッジの残液について,色素結合法による蛋白の定性,定量を行った。324サンプル中85例(26.2%)に蛋白陽性を認めた。3. 使用済カートリッジ残液について,ヒトヘモグロビンを,酵素免疫測定法によって定性定量した。99サンプル中24例(24.2%)に陽性を認めた。以上のことから,局所麻酔用カートリッジでは,注射時に血液が高濃度,高頻度に逆流することが確認されたので,残液を他患者に再使用することは,エイズ,B型肝炎感染防止の立場より,厳禁すべきことが示唆された。
著者
安藤 芳明 栗原 眞幸 鈴木 基之 宮下 元 長谷川 紘司
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.825-836, 1986-09-28

歯周病変に外傷性因子が加わると歯周組織の破壊は著しいものとなることが知られている。外傷性因子のなかでも Bruxism はその加わる力の大きさや持続時間, 作用方向などが特に歯周組織に影響を与える点で問題視されている。我々は, 浦口が開発した歯ぎしり音の録音装置, Grinding Monitoring System (以下, G.M.S. と略す。) を用いて, 録音した歯ぎしり音を FFT アナライザーにて解析, 検討した。被験者6名は, 実験前に歯周組織を健全な状態に近づけ, 装置, アンケート, テープを白宅に持ち帰らせた。起床時に, 就寝時刻, 起床時刻, アンケートへの答を録音させた。一カ月つづけた後回収し, 時系列波形と周波数成分について検討した。その結果, 客観性に乏しく区別しずらい歯ぎしり音も, 時系列渡形, 周波数成分の特徴から, 分類可能であることがわかった。さらに歯ぎしりには, 個人のリズムが存在すると思われる所見が観察された。
著者
鈴木 安里 葛城 啓彰 斎藤 和子
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.179-191, 1993-03-27
被引用文献数
2

歯周病原細菌に誘導される多形核白血球(PMN)の,培養ヒト歯肉線維芽細胞(Gin-1)への傷害を観察し,歯周疾患における歯肉の傷害細胞としてのPMNの役割を明らかにしようと試みた。このため^<51>Cr標識したGin-1上で健常者PMNと,A. actinomycetemcomitans, A. viscosus, F. nucleatum, P. gingivalisを,それぞれ37℃で反応させ,Gin-1傷害の指標として細胞崩壊と細胞剥離を測定した。この結果,4時間までの反応ではどの系においても細胞崩壊は発現せず,Gin-1傷害は著明な細胞の剥離として観察された。PMN単独,P.gingivalisを除く菌単独での傷害作用はみられなかったが,菌とPMNとの混合により,細胞崩壊を伴わない著明なGin-1の剥離が発現した。この時のGin-1剥離は,反応時間の延長と,Gin-1に対するPMNの割合の増加に伴って上昇した。P. gingivalisは菌単独でも,PMNとの反応によっても1時間でほぼ同等のGin-1剥離率を示した。また,菌の浮遊液濃度が一定(1mg/ml)ならば,各菌種とPMNとの反応によるGin-1剥離率のあいだにはほとんど差はなかった。Gin-1剥離はα_1-PI, PMSF, 5%ヒト血清によって抑制されたが,酸性プロテアーゼインヒビターや活性酸素のスカベンジャーによる抑制はほとんど起らなかった。このとき,PMNから多量の活性酸素を誘導することが報告されているF. nucleatumをPMN刺激に用いると,α_1-PIによるGin-1剥離の抑制率は他の菌を用いたときと比較して有意に低いものとなった。これらの結果は,この実験におけるGin-1の剥離が,おもにPMNから放出される中性プロテアーゼによることを示している。またPMNとF. nucleatumの反応により放出される活性酸素によるプロテアーゼインヒビターの不活化作用が観察された。
著者
和泉 雄一 笠毛 甲太郎 平岡 孝志 谷口 拓郎 濱田 義三 末田 武
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.658-666, 1995-12-28
参考文献数
45
被引用文献数
2 1

歯周病関連細菌のひとつであるPorphyromonas gingivalis (P.g)のextracellular vesicles (ECV)が,好中球の各種機能を発現させるために必要な基本的因子である細胞形質膜流動性に与える影響を検討した。P.g ATCC 33277から硫安塩析法にてECVを調製し,透過型電子顕微鏡観察,電気泳動,および化学組成分析を行うことによってECVが分離,調製されたことを確認した。好中球は全身的に健康でかつ歯周疾患の認められない成人の末梢血から分離した。調製されたECVを各種濃度(0, 10, 50, 100μg/ml)で好中球た作用させた後,5-あるいは16-stearic acidラベル剤(5-SAL, 16-SAL)を好中球に取り込ませ,電子スピン共鳴装置を用いたスピンラベル法にて膜流動性の測定とcytochrome C還元法による活性酸素産生量の測定を行った。その結果,好中球形質膜表層(5-SAL)で膜流動性を有意(p<0.01)に低下させた。しかし,ECVは各濃度において形質膜深層(16-SAL)では膜流動性に有意な影響を及ぼさなかった。さらに,ECV (100μg/ml)はN-formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine, phorbol myristate acetate刺激下で好中球の活性酸素産生を有意(p<0.01, p<0.05)に抑制した。以上のことから,歯肉溝あるいは歯周ポケットや歯肉組織中に遊走した好中球は歯周病関連細菌由来ECVによって影響を受け,膜流動性および細胞機能が低下する可能性が示唆された。