著者
安田 正美 赤松 大輔
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、イッテルビウム(Yb)光格子時計における、光格子レーザー由来の不確かさ低減のために、Yb原子の青方離調魔法波長を探索することを目的として、以下の成果を得た。①Yb光格子時計のさらなる高度化を達成し、絶対周波数測定不確かさを1桁以上低減した。これによりYb光格子時計が秒の2次表現に採択された。②Yb/Sr光格子時計周波数比の直接測定に成功した。マイクロ波周波数基準による光シフト周波数測定と比べて、1桁以上測定時間を短縮できる。③光シフト誘起用青色レーザー光源の開発に成功した。赤外線半導体レーザーを光増幅し、第2次高調波発生により、波長399nmで100mWの出力を達成した。
著者
石田 直理雄 花井 修次 霜田 政美 浜坂 康貴 宮崎 歴
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

種形成のための生殖前隔離分子機構としてショウジョウバエの交尾リズムの重要性を研究してきた。これまでの研究結果は,交尾時間を制御する雌特異的分子機構の存在を強く示唆している。既にこれまでの実験結果からアナナスショウジョウバエもキイロショウジョウバエやオナジショウジョウバエと異なるそれぞれの種独自の交尾リズムを示す事を示してきた。さらに,オナジショウジョウバエの時計遺伝子がどの程度キイロショウジョウバエの交尾リズムに影響を与えるかも解明してきた。現在,ロコモーター行動リズムや羽化リズムに関る脳内中枢は既に同定されているが,交尾リズムの中枢については全く未知である。そこで,交尾リズム脳内中枢を同定する目的で欠失変異株(per0)にPER蛋白質を様々な部位で発現しているトランスジェニックフライを用いてその交尾リズムの有無を解析してみた。その結果交尾リズム中枢は,行動リズムの中枢と別の部位であることを同定した。そこで,RNAi法を用いてこれら複数の領域を絞り込んだところ,DN1,2,3とLNd領域でのperの発現が交尾リズムに必要である事が明1らかとなった。生殖前隔離機構の1つとして雄バエが雌バエを追いかけるproximityリズムをビデオで測定する系を確立し,これに関わる脳内中枢の同定に成功した。脳内中枢の同定には,UAS/GAL4の系を用い,夜時計昼時計特異的な細胞死を起こしたショウジョウバエを使った。その結果,夜時計中枢の破壊を行った時のみproximityリズムが消失した。この中枢は我々が既にお見合い法で同定した雌の交尾受け入れ中枢とは異なる事から雌の交尾成功率を左右する脳内中枢と雄のproximity中枢が共進化することが解明された。
著者
大谷 実 杉野 修 森川 良忠 館山 佳尚 濱田 幾太郎 浜田 幾太郎
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

第一原理分子動力学シミュレーション手法を用いて,電気化学反応のシミュレーションを行った.固液界面における電子移動反応・界面構造の変化・吸着状態の変化など,電圧を印加した界面に特有な物理が多数明らかになった.
著者
成廣 隆
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、白川郷合掌造り家屋の床下で営まれていた「焔硝生産」の土壌遺構に生息する未知硝化微生物を分子生態解析による解明を目指した。16S rRNA及びアンモニア酸化酵素遺伝子を標的とし、最新の高速シークエンサーを利用した分子生態解析を実施した結果、Nitrosospira属やNitrososphaera属に近縁のアンモニア酸化微生物が検出された。得られた群集構造データと、土壌試料の物理化学的パラメータとの関連性を調べた結果、土壌のpHや有機炭素濃度がアンモニア酸化微生物の多様性に影響を及すことが示された。これらの結果から、床下土壌遺構に生息する硝化微生物の多様性を解明することができた。
著者
高橋 栄一 加藤 進 佐々木 明
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

近年、高層大気中に観測され注目を集めているスプライト放電に類似した拡散と分枝構造を併せ持つ放電を一様電界中の予備電離分布をUVレーザーにより制御することで再現した。分枝の有無は初期の予備電離密度に強く依存することが分かった。高層大気中でもその様な密度分布の存在が予想される。また、放電の時間発展をナノ秒の時間分解能を有する超高速マルチフレーミングカメラをストリーマ放電に初めて適用することにより、分枝の発展の様子の詳細を明らかにした。その結果、成長を続ける分枝の止める分枝の存在、電離度が高い領域では放電の波面が一様な伝搬をしていても電離度が低い領域に進展すると分枝が形成されたこと、いくつかの分枝のうち一つが反対側の電極に到達すると短絡するが残りの分枝の先端はそれでも伝搬を続ける、あるいはその短絡して形成された短絡路に向かって再結合をした振る舞いから、分枝の形成機構は成長界面の不安定性に類似のものと考えられる。
著者
渡辺 寧 村上 浩康 松枝 大治 吉田 武義 水田 敏夫 石山 大三 清水 正明 木村 純一 渡邊 公一郎 今井 亮 浦辺 徹郎 鹿園 直建 林 謙一郎 実松 健造 星野 美保子
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

世界各地の重希土類およびインジウム鉱床の調査を実施し,ベトナム,タイ等東南アジア地域で重希土類に富む花崗岩風化殻を発見するとともに,日本,中国,ベトナム,ペルー, ボリビアでのインジウムの資源量の見積もりを行った.これらの結果,中国以外の地域でも重希土類およびインジウムの資源ポテンシャルが存在することが判明し,また鉱床成因のための必要条件が考察された.
著者
二又 政之 松田 直樹 清水 敏美 澤田 嗣朗 片山 建二
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.表面増強ラマン散乱(SERS)を利用した単一分子分析法の確立:1)銀ナノ粒子接合部に1個の吸着分子が存在するとき、巨大な増強度が得られることを、ラマンスペクトルと弾性散乱スペクトルの時間相関及び3次元FDTD法により、明らかにした。2)DNA塩基の内アデニン、グアニンなどのプリン環と銀表面との電子移動相互作用が巨大な増強を与えることを見出した。3)巨大SERSと同時に観測される発光スペクトルが、吸着種の蛍光とともに、金属表面の励起電子が吸着種により非弾性散乱されることによることを初めて見出した。4)脂質ナノチューブに最適サイズを有する金ナノ粒子を導入し、その表面プラズモンを励起することで、カルボニル基のピーク波数のシフトや、糖分子のスペクトルパタンなど、バルク状態とは全く異なる脂質ナノチューブのラマンスペクトル測定に成功した。この結果は、この方法により、金属ナノ粒子近傍のスペクトルのみが大きく増強されて観測されることを示しており、今後の詳細な解析により有用な結果が与えられるものと考えられる。2.ATR-SNOM-Raman分光法:1)表面プラズモンの干渉及び多重散乱電場が、ラマンイメージ測定に影響しないことを初めて見出した。3.近接場赤外分光法:1)FT-IR分光器をベースにして、全反射型配置で、金コートプローブを配置したAFMとの複合により、ポリマー及びチオール系試料について、チップ増強赤外吸収測定に成功した。また、試料下地に金属ナノ粒子を配置することで、より効率的に増強が行えることを初めて見出した。4.スラブ光導波路(SOWG)分光法の確立:電気化学的に制御可能なSOWG分光法の高感度化を進め、ITO電極上に単分子層以下の量で吸着したヘプチルビオロゲンカチオンラジカルの吸着種の電位依存性とチトクロムcの電位変化に対する応答を明らかにした。
著者
二又 政之 松田 直樹 清水 敏美 増田 光俊
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.単一分子感度ラマン分光法の確立:(a)化学的増強メカニズムに関して,Agナノ粒子は,アモルファスカーボン等に覆われており,色素の第1層吸着が抑えられるために,大きなSERS増強度は得られない。(b)しかし,塩化物イオン等を添加すると,表面化学種が置換され,カチオン性色素が静電的に強く吸着できるようになる結果,銀粒子間のナノギャップに存在する色素が,巨大SERS信号を与える。このとき色素の発光スペクトルがバルク状態とは大きく変化し,銀ナノ粒子と色素間に電子移動相互作用が働いていることが判明した。(c)これに対して,シアン化物イオン等は排他的に吸着し,表面化学種と銀ナノ粒子を溶解する結果,SERSがクエンチされる。3次元時間領域差分法で,平均ナノギャップがハロゲン化物イオン添加前の1nmから2nmにわずかに開くことで,活性化の過程で測定されたLSPピークの短波長シフトが再現された。以上のように,SERSの化学的増強効果に関して,アニオンによるSERS活性化およびクエンチの微視的過程が,ここで初めて明らかになった。また,単一分子感度までは得られないが,通常の金属蒸着膜やコロイド集合体よりは2-3桁大きな増強度を再現性よく与える金属ナノ構造を,電子ビーム,ナノ粒子オーバレーヤなどのリソグラフィ技術を用いて形成し,生体分子への超高感度分析・定量分析性を確かめた。2.近接場振動分光法の確立:AFM型近接場ラマン分光を電極/溶液界面に適用するために,倒立型顕微鏡のX-Yステージを改良し,ITO電極を基板とする3電極式溶液セル,AFMや分光器を有する測定装置を構築した。この装置により,溶液中のナノ構造体のトポグラフィやその近接場イメージと,チップ増強ラマン信号の検出に成功した。感度と空間分解能改善のために,プローブへの金属ナノ構造形成を進めた。
著者
甲村 長利
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

アルキル基の長さの違うオリゴチオフェンを有する増感色素を合成し光電変換特性を評価した結果、アルキル基の長さを調整することで色素の酸化チタンへの吸着状態を制御することができ、光電変換効率を向上させるための最適なアルキル基の長さが存在することがわかった。アルキル側鎖に酸素原子を導入したオリゴチオフェンを有する有機色素では、色素増感太陽電池の動作機構における電子移動のメカニズムを示唆する結果が得られた。また種々のドナーを用いてオリゴチオフェン電子伝達系と相性の良いドナーの探索を行った結果、電子供与効果の比較的少ないカルバゾールが最良の光電変換特性を示した。ドナーとオリゴチオフェンの組み合わせによる色素のHOMO-LUMO準位の変化が深く関与している。
著者
阪東 恭子 BRAVO SUAREZ Juan Jose
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

平成18年度は、分子状酸素を利用した選択酸化反応に高い活性を示す担持Au触媒に関して、(1)プロピレン(PE)選択酸化によるプロピレンオキシド(PO)合成に高い活性を示すことが分かったAu-Ba/Si-TUD(メソポーラスアモルファスチタノシリケート担持Ba添加Au触媒)について、in-situ UV, XAFSを用いた反応速度論的解析を行い、反応機構を解明するとともに、(2)平成17年度に開発した新規プロパン選択酸化反応用触媒の更なる高性能化の検討を行った。(1)水素(H_2)と酸素(O_2)を用いたPEの選択酸化によるPO合成反応に高い活性を示すAu-Ba/Si-TUDにおいて、反応条件下でUVを測定すると、チタンサイト上の過酸化物(Ti-OOH)に帰属させる吸収が見られることをH17に見いだしているが、この吸着種が本当に反応中間体であるかどうか確かめるため、PE存在下と、PEなしの水素/酸素のみの条件下でのin-situ UV, XAFS測定を行い検討した。その結果、UVより、Ti-OOH種はH_2+O_2反応後PEの導入により速やかに反応し、消費されること、XAFSにより見られる4配位構造に帰属されるプリエッジピークの反応初期の減少速度から推定される反応速度が、PO合成の見かけの反応速度にほぼ等しいことから、Ti-OOH種は反応中間体であり、しかも、Ti-OOHとPEの反応によるPO生成過程が律速段階であることが分かった。(2)水素(H_2)と酸素(O_2)を用いた、プロパンの選択酸化についてさらに検討を行った結果、担体の種類によって生成物選択性が大きく変化することを見いだした。しかも、それらの反応が200℃以下の低温で効率よく進行することをさせることが可能であることを見いだし、より低環境負荷型の新しい選択酸化反応プロセス構築への知見を得ることができた。
著者
桐原 和大
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、測定対象の分子に強電界などのストレスをかけずにその伝導性や電子構造を知る新しい分子デバイスとして、有機分子の熱起電力を測定する素子を構築することを目的とする。ミクロンからサブミクロンに至るスケールの微小領域の熱起電力測定システムを開発し、その信頼性の評価として、ボロンナノベルト1本の熱起電力の測定に成功した。サブミクロンギャップの微細電極間に、有機分子を架橋するためのAuナノ粒子とAl_2O_3マトリクスのナノコンポジットを製膜した。その結果、約5nmの粒径のAuナノ粒子が最小2nm程度の粒子間隔で分散した薄膜を堆積出来た。しかしながら、測定ターゲットであるビピリジン誘導体を固定化しても、電流電圧特性に変化があるものの、再現性が見られなかった。ナノ粒子間隔をさらに小さくする必要があることを示している。
著者
山崎 俊嗣 金松 敏也 小田 啓邦 横山 由紀子
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.海底堆積物中の磁性鉱物問の磁気相互作用を見積もった。ARM(非履歴性残留磁化)の獲得効率は、磁気相互作用に強く支配されている。そのため、堆積物から相対古地磁気強度を求める際の、堆積物の磁化獲得能の違いを補正(規格化)のためのパラメータとしては、ARMよりもIRM(等温残留磁化)の方が適している。2.北西太平洋における過去25万年間の高分解能の古地磁気強度スタックを構築した。堆積物から信頼できる相対古地磁気強度を求めるには、初期続成作用による磁性鉱物の溶解を受けたものを除く必要がある。低保磁力の磁性鉱物の割合を示す指標であるS比は磁鉄鉱の溶解に敏感であり、これを指標に溶解を受けた層準を除去できる。3.北太平洋の堆積物コアから、過去160万年間の相対古地磁気強度を求めた。このコアの相対古地磁気強度と岩石磁気特性を、堆積環境の異なる西部赤道太平洋のコアと比較すると、相対古地磁気強度は極めて良い一致を示すが、岩石磁気特性の変化は大きく異なる。ウェーブレット変換を用いた時系列解析により、古地磁気強度には10万年スケールの変動が見られること、岩石磁気パラメータは10万年スケールの変動が含まれる場合でも古地磁気強度とは同期しておらず両者に有意な相関はないことを明らかにした。従って、堆積物の性質の変化は相対古地磁気強度に影響しておらず、古地磁気強度記録に見られる10万年スケールの変動は地磁気変動を反映している。4.東部赤道インド洋の堆積物コアから、過去80万年間の相対古地磁気強度及び伏角の変動記録を得た。西部赤道太平洋に見られる伏角異常域は、東部赤道インド洋には延びていない。両海域について、古地磁気強度と伏角の関係を比較することにより、長周期の伏角の変動は、双極子磁場が弱いときに相対的に停滞性非双極子磁場の影響が大きくなることにより生じるというモデルが支持されることを示した。
著者
徐 強 SINGH Sanjay Kumar
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

高い水素含有量を持ち、燃料電池用水素源として高い可能性を持つ水和ヒドラジンに注目し、水和ヒドラジンの触媒による選択的完全分解反応で、室温という温和な温度において、PtNi及びIrNi合金ナノ粒子触媒を用いて制御可能な条件下で水素ガスを発生させることができることを見出した。PtNi,IrNi二成分合金ナノ粒子触媒の組成を調節して、触媒活性・水素生成選択性評価を行ったところ、それぞれ100%水素選択率を示す組成領域を明らかにした。PtNi合金ナノ粒子触媒ては、Pt含有量が7-34%の幅広い領域において、100%水素選択率を示す。IrNi合金ナノ粒子触媒に関しては、Ir含有量が5-10%の領域において、100%水素選択率を示す。放出ガスの体積測定のみならず、質量分析におけるH_2/N_2比(2.0)及びアンモニアに起因する^<15>NNMR信号がないことから、これらの条件下ではヒドラジンの完全分解反応H_2NNH_2→N_2+2H_2が選択的に進行していることが確認された。TEM観察により、PtNi,IrNiナノ粒子の平均粒径は約5nmである。XPS測定により、それぞれPtNi,IrNiの二成分合金ナノ粒子となっていることがわかった。これら合金ナノ粒子が高活性・高選択性を有することは、触媒表面に両成分とも存在し、完全分解・水素生成に有利なヒドラジン結合活性化に寄与していることを示している。水和ヒドラジンは、液体であるため移動型燃料タンクへの充填が容易であり、既存の液体燃料用供給・貯蔵インフラ設備が利用可能という大きなメリットを有する。さらに完全分解によって水素と窒素に分解するため、生成物回収・再生が不要である。
著者
PENMETCHA Kumar SUBASH C.B Gopinath
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

転写制御蛋白質HutPと標的RNA複合体のX線解析を行った。その結果、HutPは6量体を形成していること、HutPは6量体の両面で、RNAの2個所のUAG繰り返し配列と結合していた。生化学的実験においても、UAG繰り返し配列の重要性が明らかにされた。また、in vivo実験により、活性発現がHutPにより誘導された。以上より、HutPはUAG繰り返し配列と結合し、RNAをステム-ループから3角形様構造に変化させるすることによって、転写終結解除する機構を明らかにした。
著者
三宅 隆 ARYASETIAWAN Ferdi
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

標準的な第一原理計算手法である局所密度近似(LDA)の困難の一つとして電子相関の強い系の電子状態が挙げられる。強相関電子系に対する現状の計算手法の限界を明らかにして新しい手法を開発することを目的として以下の研究を行った。1.dバンドのエネルギー準位現在LDAを超える手法としてGW近似が定着している。電子相関の強くない半導体、絶縁体のギャップ値に対して大きな成果を挙げてきたが、局在性の強い電子に対する妥当性は確立されていない。そこで、代表的なII-VI族半導体であるZnSのセミコア軌道(d軌道)のエネルギー準位を調べた。LDAではd軌道はフェルミ準位から6eV下に位置し、実験値の9eVに比べて大きく過小評価される。ここにGW近似による多体補正を加えると約1eV準位が深くなるが、まだ実験値との差は大きい。そこで、LDA+U法によりセミコア準位を実験値の近傍に下げた状態からGW近似を行った。この(LDA+U)+GW法では、d準位はLDA+U法に比べて押し上げられ、通常のLDA+GW法の位置と近い結果が得られた。このことは、GW法が出発点となる平均場解に強く依存しないものの、d軌道のエネルギー準位の定量的記述には不十分であるということを示唆する。2.格子模型との融合LDA, GW法を超えて強相関電子系を取り扱う計算手法の試みとして、第一原理計算を格子模型へマップし、短距離相関効果を格子模型に対する多体問題の手法により取り扱うことが盛んに行われている。これらの方法において問題となるのは、格子模型の同一サイトにおける電子間反発エネルギー("ハバードU")の見積もりである。そこで、RPAにより求めた遮蔽されたクーロン相互作用のd軌道に対する行列要素を一連の遷移金属に対して計算した。
著者
柚木 彰 海野 泰裕
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

前立腺がん治療に用いられるヨウ素125密封小線源について、その治療効果において重要なパラメータとなる線源の線量方向分布の測定を行った。大容量自由空気電離箱の製作を行い、測定結果を得た。補正係数及び測定不確かさの評価を行い、正確な測定データが得られることを示した。
著者
和泉 潔 松尾 豊
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

テキストマイニングによる動向分析手法の開発、人工市場シミュレーションソフトウェアの開発、実データによるシステム評価の3つの研究要素について、当該研究期間において下記の研究実績が得られた。以下の内容について海外および国内の学術誌での研究成果の発表を行った。本分野の発展および人事養成のため、新規国際および国内研究集会の設立に貢献した。1.テキストマイニングによる動向分析手法の開発:経済新聞記事データを用いて、テキストマイニング(関連用語のカテゴリ分類、各単語やカテゴリの頻度及び共起関係の分類)を実行して人工市場シミュレーションの入力データを作成するプログラムを構築した。分析手法の性能評価のために、国際金融情報センターの発行した解説記事による経済動向分析を行った。同じテキストデータで金融関係者が判別した結果と比較したところ、訓練データに対する正答率のテストでは平均92.2%、外部データに対する交差検定テストでは平均71.9%の高い精度を示すことができた。2.人工市場シミュレーションソフトウェアの開発経済動向分析結果を入力として受け取る人工市場シミュレーションを行うプログラムの作成を行った。テキストマイニングプログラムと連携し統合的なシミュレーションを行うためのデータ連携手法を開発した。実際のテキストデータと市場データを用いて実証実験を行った結果、100試行の平均で約67%の価格変動をシミュレーションにより再現することに成功した。3.実データによるシステム評価前述のテキストマイニングプログラミングと人工市場シミュレーションを統合した意思決定支援システムを構築した。システム評価のために実際のテキストデータと市場データを用いて、市場安定化のための行動方略を提示させたところ、実際の市場価格の分散を70%以上低減することができる方略を示すことができた。
著者
中野 昌弘
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、不動点帰納法による検証能力の向上、適用可能規模の向上のため、テストに基づく発見的手法により帰納法の仮定を求め(補題発見)、従来手法では自動検証できなかった問題に対しても、自動的な検証を行えるようにすることを目的とする。SMTソルバとしてCVC3を利用して最弱事前条件計算を実装し、補題発見機能と不動点帰納法による不変性自動検証器を実装した。SMTを用いたことや補題の発見、各種手続きの効率化を図ることで、証明力の向上と数十倍程度の高速化を実現し、より規模の大きな問題であっても、自動で証明できるようになった。
著者
佐藤 潤一
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2009年度の研究は、昨年度の研究において構成した離散不動点定理の経済モデルへの応用と、進化ゲーム理論と古典ゲーム理論との関係に関するものであった。2企業が同質な財を市場に供給している状況下で、お互いの企業が自社の利潤の最大化を目的とし、それぞれ独立に供給量を決定するというCournotモデルにおいての均衡の存在について考察した。このモデルでは、2企業の供給量および、それに準じて決定される価格が整数値、つまり離散的であるのが現実的なモデルである。しかし、現在までに離散的なモデルでの均衡の存在については報告されてない。そこで、2企業の供給量で決定される価格の挙動と離散的な均衡の存在についてとの関係を明らかにした。具体的には、2企業の供給量が整数値である状況下でも、それに準じて決定される価格の挙動に適当な仮定を置くことにより均衡が常に存在することを示した。ここで、価格に置いた仮定は、古典的なCournotモデルの状況を含んでいることに注意すれば、昨年度に構成した離散不動点定理は、経済学等の社会的背景に応用した際にも意味をもつものであるといえる。また、進化ゲーム理論の柱であるレプリケータダイナミクスの定常点と、古典ゲーム理論との関係について研究を行った。特に着目したのは、レプリケータダイナミクスを用いることにより、行列で表現される古典ゲームを進化ゲーム理論の範疇で取り扱うことが可能になる点である。さらに、古典ゲームの重要な解概念であるNash均衡が、レプリケータダイナミクスの安定な定常点に対応することも報告されている。しかし、定常点には安定な定常点の他に、不安定な定常点も考えられる。そこで、不安定な定常点に対応する古典ゲーム理論の戦略表現を明らかにした。具体的には、プレイヤーの立場が対等な対称2人ゲームにおいて「定常点の不安定多様体の次元の分だけ、各プレイヤーが譲歩している」という知見を与えた。
著者
沼田 倫征
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

tRNAアンチコドン一文字目の塩基修飾は,コドンの適正な縮重を制御しており,正確なタンパク質合成にとって重要である。グルタミン酸,リジン,グルタミンをコードするtRMのアンチコドン1文字目のウリジンは,全ての生物種において修飾を受け2-チオウリジンとなる。アンチコドン1文字目のウリジンに導入される硫黄はシステインに由来しており,反応性に富む過硫化硫黄中間体となって硫黄リレータンパク質(IscS,TusA,TusBCD,TusE)を移動し,tRNAチオ化修飾酵素であるMhmAに引き渡される。本研究では,tRMへの硫黄転移反応を解明するために,IscS-TusA複合体,TusA-TusBCD複合体,TusBCD-TusE-MnmA複合体,TusE-MnmA-tRNA複合体の結晶構造解析を目指している。これまでに,IscS,TusA,TusBCD,TusE,MnmAの大腸菌を用いた大量発現・精製系,およびT7 RNAポリメラーゼを用いたin vitroにおけるtRNAの大量調製系を構築し,それぞれの複合体の結晶化条件の初期スクリーニングを行った。現在までに,いくつかの複合体に関して予備的な結晶を得ており,現在,結晶化条件の最適化を行っているところである。TusE-MnmA-tRNAからなる三者複合体結晶については,大型放射光施設にて回折強度を測定し,分解能5Å程度の回折データを収集した。