- 著者
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吉岡 泰夫
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.1, pp.92-104, 2004-09-30
- 被引用文献数
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首都圏と大阪のネイティブを対象に,ポライトネスの観点から,(1)コミュニケーション意識,(2)敬語行動,(3)規範意識について調査した結果,それぞれ次のような地域差・世代差がみられた.(1) 普段の会話で「楽しく話すこと」を大事にする意識は大阪ではどの世代でも高い.首都圏では若い世代ほど高く,上の世代ほど低い.改まった会話で「正しく話すこと」を大事にする意識は首都圏ではどの世代でも高く,特に60代以上で著しい.大阪は首都圏に比べて低く,特に60代以上では20ポイント程度の差がみられる.(2) 改まった場面の敬語行動をみると,首都圏は,若い世代で尊敬語・謙譲語を含まない敬意レベルの低い形式の使用が目立つのに対して,上の世代で敬意レベルの高い尊敬語・謙譲語を含む形式(二重敬語も含む)の使用が目立つ.大阪ではすべての世代で,敬意レベルの低い尊敬語や,仲間内マーカーの働きも併せ持つ方言敬語,方言の受益表現が使われている.(3) 敬語についての規範意識をみると,敬語の過剰な使用である二重尊敬に対して,首都圏の方が大阪に比べてより肯定的である.これらの結果を,Brown & Levinson (1987)のポライトネス理論の枠組みから捉えると,次のような地域的・世代的な傾向がみえる.首都圏は若い世代を除いて,敬語形式の丁寧さ,礼儀正しさを重視したネガティブ・ポライトネスに比重をかける傾向がある.大阪は,お互いの心理的距離を縮めたいという欲求に働きかけるポジティブ・ポライトネスに比重をかける傾向がある.若い世代ではポジティブ・ポライトネス重視の傾向が首都圏・大阪で共通している.