著者
松尾 慎 菊池 哲佳 モリス J.F 松崎 丈 打浪(古賀) 文子 あべ やすし 岩田 一成 布尾 勝一郎 高嶋 由布子 岡 典栄 手島 利恵 森本 郁代
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.22-38, 2013-09-30 (Released:2017-05-02)
被引用文献数
1

本論文は,外国人,ろう者・難聴者,知的障害者など,誰もが社会参加ができるために必要不可欠な条件である「情報保障」の考え方を紹介します.また,今後情報保障を進めていくための課題や枠組みを提示します.本論文では,情報保障の範囲を「震災」などの非常時だけに特化せず,平時における対応も含めます.情報保障の基本は,「情報のかたちを人にあわせる」「格差/差別をなくす」ことと,「情報の発信を保障する3ことです.本論文では,まずこうした基本的な観点を紹介します.特に,情報の格差/差別をなくすという課題にはどのようなものがあり,それを解決するためには,どのような手段があるのかについて述べます.さらに,情報保障が,情報へのアクセスだけでなく,情報発信の保障をも含む考え方であることを指摘します.その上で,これまで個別に扱われてきた外国人,ろう者・難聴者,知的障害者の情報保障の問題について,個別の課題とともに,共通性としての「情報のユニバーサルデザイン化」の必要性を指摘します.そして,その一つの方法として「わかりやすい日本語」の例を挙げ,今後の情報保障のあり方について議論します.
著者
甲田 直美
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.24-39, 2015-03-31 (Released:2017-04-26)

本稿では,思考・発話を提示することが相互行為としての語りの達成にどのように関わるか考察した.語りのクライマックスに思考・発話を提示することが臨場感をもたらし,受け手の反応を呼び,語りの達成へ導いていた.語りは語り手と受け手が協働して達成するものであり,語り手による一方的な構成物ではない.語りの達成に提携するためには,受け手は,語りがクライマックスに達し,語りが終結に向かう箇所を正しく捉える必要がある.会話における語りの中で,クライマックスを顕在化するために,思考・発話の提示という装置がどのように用いられているかを考察した.引用された思考・発話の持つ表現の直接性や補文内容の描写のきめの細かさ等の言語的特徴に加え,ピッチの切り替え,発話速度等の音声特徴,身体動作まで含めたマルチモーダルな要素によって顕在化は行われていた.これらの語り方のデザイン特性によって,思考・発話の提示は,語られた内容の再現性を高め,語り部分の受け手が情報に直接アクセスできる環境を提供する.思考・発話を語りのクライマックスに配置するというプラクティス,語り手と受け手が当時の現場を共有し,語りを協働で終結へ導く一つの手続きを示した.
著者
宮下 尚子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.139-150, 2005-09-30 (Released:2017-04-29)

本稿は,中国朝鮮語の言語規範および「標準語」が定められた経緯について論じ,中国の朝鮮語が1985年の正書法以後,その規範において標準語となるべき地域を定めていないのは何故かという疑問を解明することを目的としている.中国朝鮮語の規範は,語彙規範を中心として,中華人民共和国の成立から改革開放に至るまでの期間中国共産党の政策に伴い,朝鮮語既存語を基準としたものと朝鮮語を漢語に接近させるための共通成分増加論との間で揺れ動いてきた.文化大革命以後1985年に制定された正書法《四法》(正書法,標準発音法,文章符号法,分かち書き)は中国朝鮮語が北朝鮮の言語規範から逸脱し,漢語との共通成分増加論からも脱却して独自に設けた規範ということで評価されるべきである.
著者
白勢 彩子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.41-50, 2004-09-30 (Released:2017-04-30)

本研究では,幼児期における単語アクセントの獲得過程と,それに影響を及ぼすものと考えられる,幼児が生育する環境に出現する語彙におけるアクセントについて,日本語の代表的な方言アクセントを対象とした比較研究を行なった.対象は共通語アクセント(東京方言),京都方言アクセント,鹿児島方言アクセントの3体系である.単語アクセントの発話実験を幼児に行なったところ,東京および京都方言アクセントとは異なって,鹿児島方言アクセントでは成人と異なるアクセントを生成する,すなわち誤りのアクセントを生成するとの結果であった.この結果は,幼児がアクセントを誤って獲得することがないという従来の見解が言語普遍的ではないことを示唆するものである.幼児を取り巻く環境のアクセント分布を調査したところ,東京方言および京都方言ではアクセントに偏りが見られる一方で,鹿児島方言ではアクセントに偏りが見られなかった.この調査結果と上記実験結果とを総合的に検討し,幼児の単語アクセント獲得過程を議論する.
著者
平高 史也
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.6-21, 2013-09-30 (Released:2017-05-02)

本稿では,ウエルフェア・リングイスティクスの視点から言語教育の4領域(日本語教育,母語・継承語教育,国語教育,外国語教育〉をとらえなおし,公立小学校での実験授業の報告をまじえながら,言語教育の新たな可能性や限界について論じる。そして,これらの言語教育の領域を一つの包括的な視点からとらえること(言語教育の連携),言語教育を国語や英語だけではなく他の教科でも実践すべきこと(教科の連携),異文化間教育や国際理解教育の知見も取り入れて進めるべきこと(教育の連携)の重要性を説く.異言語異文化との接触が日常化している今日では,このように言語教育の射程を広げて考えることが重要である.それは言語教育が単に言語灘ミュニケーション能力の育成にとどまらず,多様性や異質なものに対して寛容な市民の育成にも貢献しうることを意味する.また,これらの三つの連携の重要性について論じる過程を通して,ウエルフェア・リングイスティクスも,弱者や少数派の話者の言語的差別の是正のためだけではなく,多数派を含むコミュニティの全構成員を豊かにするためのものであることを明らかにする.日本の言語教育ではこうした理念はまだなかなか見られず,制度的にも限界が少なくないが,本稿で示した広い意味での言語教育の実現こそが,多文化共生社会におけるウエルフェア・リングイスティクスの理念の具現化を意味するものと考える.
著者
姜 錫祐
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.91-102, 2001-09-30

本研究は官僚社会の一集団である市役所を調査対象に,集団内の上司を話題とする場面からそこで行われる敬語運用の実態について考察したものである.本研究では,敬語運用にかかわる種々の要素について,話し手個々人の心理的側面に密着しながら,要因同士の相関を明らかにした.そのうち,「ウチ・ソト」といった要素の敬語運用上の状況は注目される.「ウチ・ソト」というのは,基本的に集団内部と外部との関係で適用されるものであるが,「身内の者を高めてはいけない」といった規範意識に過剰反応し,その結果,同じ集団内の人間関係にまで適用・拡散される傾向の強いことがわかった.
著者
吉岡 泰夫
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.92-104, 2004-09-30
被引用文献数
2

首都圏と大阪のネイティブを対象に,ポライトネスの観点から,(1)コミュニケーション意識,(2)敬語行動,(3)規範意識について調査した結果,それぞれ次のような地域差・世代差がみられた.(1) 普段の会話で「楽しく話すこと」を大事にする意識は大阪ではどの世代でも高い.首都圏では若い世代ほど高く,上の世代ほど低い.改まった会話で「正しく話すこと」を大事にする意識は首都圏ではどの世代でも高く,特に60代以上で著しい.大阪は首都圏に比べて低く,特に60代以上では20ポイント程度の差がみられる.(2) 改まった場面の敬語行動をみると,首都圏は,若い世代で尊敬語・謙譲語を含まない敬意レベルの低い形式の使用が目立つのに対して,上の世代で敬意レベルの高い尊敬語・謙譲語を含む形式(二重敬語も含む)の使用が目立つ.大阪ではすべての世代で,敬意レベルの低い尊敬語や,仲間内マーカーの働きも併せ持つ方言敬語,方言の受益表現が使われている.(3) 敬語についての規範意識をみると,敬語の過剰な使用である二重尊敬に対して,首都圏の方が大阪に比べてより肯定的である.これらの結果を,Brown & Levinson (1987)のポライトネス理論の枠組みから捉えると,次のような地域的・世代的な傾向がみえる.首都圏は若い世代を除いて,敬語形式の丁寧さ,礼儀正しさを重視したネガティブ・ポライトネスに比重をかける傾向がある.大阪は,お互いの心理的距離を縮めたいという欲求に働きかけるポジティブ・ポライトネスに比重をかける傾向がある.若い世代ではポジティブ・ポライトネス重視の傾向が首都圏・大阪で共通している.
著者
松尾 慎 菊池 哲佳 モリス J.F 松崎 丈 打浪(古賀) 文子 あべ やすし 岩田 一成 布尾 勝一郎 高嶋 由布子 岡 典栄 手島 利恵 森本 郁代
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.22-38, 2013-09-30

本論文は,外国人,ろう者・難聴者,知的障害者など,誰もが社会参加ができるために必要不可欠な条件である「情報保障」の考え方を紹介します.また,今後情報保障を進めていくための課題や枠組みを提示します.本論文では,情報保障の範囲を「震災」などの非常時だけに特化せず,平時における対応も含めます.情報保障の基本は,「情報のかたちを人にあわせる」「格差/差別をなくす」ことと,「情報の発信を保障する3ことです.本論文では,まずこうした基本的な観点を紹介します.特に,情報の格差/差別をなくすという課題にはどのようなものがあり,それを解決するためには,どのような手段があるのかについて述べます.さらに,情報保障が,情報へのアクセスだけでなく,情報発信の保障をも含む考え方であることを指摘します.その上で,これまで個別に扱われてきた外国人,ろう者・難聴者,知的障害者の情報保障の問題について,個別の課題とともに,共通性としての「情報のユニバーサルデザイン化」の必要性を指摘します.そして,その一つの方法として「わかりやすい日本語」の例を挙げ,今後の情報保障のあり方について議論します.
著者
伊東 祐郎
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.4-16, 2019-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
23

本稿は,日本の社会が外国人の受け入れに際して常に問題となる日本語教育についてこれまでにとってきた政策を概観し,日本語教育の捉え方,在り方等を考察するものである.最初に留学生の受け入れに関わる政策と日本語教育の発展に言及し,その後,入管法改正後に増加した生活者としての外国人に対する日本語教育の需要の拡大とその多様化を紹介する.グローバル化社会で求められる日本語とその教育は言語政策の視点からどのように位置づけられるべきか,また実現のためのビジョンはどのように描かれるべきかについて論じる.
著者
遠藤 織枝
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.51-64, 2000-12-31 (Released:2017-04-27)

1998年11月,江沢民中国主席が訪日した際,「おわび」「謝罪」のことばがとびかった.これをきっかけとして,日本の戦後処理に関する謝罪のことばが,過去においてどのようなものであり,現在どのように使われているかを確認したいと考えた.その方法と手順は以下のとおりである.1.発話行為としての「謝罪」のことばのあり方を考える.2.日本政府首脳と天皇の,主として中国・韓国首脳との会談の言辞を歴史的な流れの中でとらえる.3.それらが,中国・韓国側にどのように受け止められたかをみる.その結果,日本政府は,1990年以降は韓国に対しては,明確に「おわび」を繰り返しているが,中国に対しては細川首相が93年に訪中した際の1度だけ「おわび」のことばが述べられていることが明らかになった.また,日本政府の謝罪に関する発話行為が,70年代の「反省」「遺憾」という不完全なものから,90年代の「反省とおわび」という完全なものへと推移する経過を跡づけた.それは,「話し手の責任」の認識の変化と並行するもので,その変化は,今次の戦争について述べることばの変化に表されている.すなわち,「不幸な一時期」というあいまいな表現から「過去の戦争への反省」へ,さらに「侵略戦争」「植民地支配」へと具体化しており,この変化に合わせて相手側の受容-謝罪の遂行-の傾向が強まってくる動きをとらえることができた.
著者
小林 隆
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.105-107, 2004-09-30 (Released:2017-04-30)

現代方言の社会的意味について,共通語と対比しつつ,方言の性格や機能の変貌という視点から考える.結論として,現代方言には「アクセサリー化」とでも呼ぶべき質的変容が起こりつつあることを指摘する.
著者
金水 敏
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.37-48, 2023-09-30 (Released:2023-10-31)
参考文献数
22

本稿では,定延 (2011) に示された「性・格・品」の連動」および靳 (2016) で観察された「権力による性差の中和」現象の詳細な構造について検討していく.主たる理論的枠組みとしてポライトネス理論を用い,「権力による性差の中和」を「(女性の発話における話し相手への)フェイス・リスク配慮の原則」から説明する.またこれとは別に,「(女性の発話における)品位保持の原則」を設定し,なおかつこの原則もまた女性の発話を弱める効果を持つことを主張する.
著者
古川 敏明 ハウザー エリック 大野 光子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.197-212, 2023-09-30 (Released:2023-10-31)
参考文献数
14

日本の保育所は共感の社会化を主要な目的とし,従来に比べ,保育士が子どもたちの間で生じた揉め事に介入するようになったと指摘されている.本稿は東京都区部にある保育所の2歳児クラスを対象として,大人と子ども間の相互行為をマルチモーダルに会話分析する.特に,遊びの最中に生じた子ども間の揉め事に養育者が介入する場面において,2人の養育者が発話と身体資源を用いて「行なっていること」にどのような核心的相違があるかを記述する.また,養育者たちの発話や身体資源をモラル性の社会化におけるどのような志向の違いとして記述できるかも探究する.養育者が子どもを自らの行為に責任を負う主体として扱う発話を行ない,かつ,視線,身体の配置,道具の使用を含むマルチモーダルな働きかけを行った介入では,子どもから望ましい応答を引き出し,モラル性の社会化が達成されている.
著者
遠藤 薫
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.64-77, 2023-09-30 (Released:2023-10-31)
参考文献数
5

本稿は,2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻について,間メディア社会における「言語戦争」という側面から分析をおこなう.「間メディア」とは,後述するように,多様なメディアが重層的に相互干渉し合う包括的メディア環境をさす.また「言語戦争」とは,覇権をめぐる闘争(戦争)が,広い意味での「言語」いいかえれば「状況の記述」によって生成・決定される様態をさすものとする.
著者
木本 幸憲
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.35-50, 2021-03-31 (Released:2021-05-29)
参考文献数
50

言語学では1990年代から消滅の危機に瀕する言語についての研究が精力的に行われ,言語ドキュメンテーションや言語復興運動など関連する取り組みも盛んに行われている.本論文ではこれに対し,本来多面的で複雑な事象であるはずの危機言語の問題が過度な単純化を持って取り扱われてきたことを明らかにする.ここでは事例研究として,フィリピンにおいて,10人の母語話者によってしか話されていないアルタ語を取り上げ,その社会言語学的活性度と消滅のプロセスを詳述する.具体的には,アルタを取り巻く多言語社会では,国語,公用語ではなく,相対的に大きな言語コミュニティの言語へのシフトが起こっていること,その言語シフトには,同じ狩猟採集民であるという文化的アイデンティティが関与していることを明らかにする.さらにアルタにとっての言語シフトは,周辺のマジョリティに柔軟に対処するために戦略的に選択されていることを論じ,危機言語を悲観的に評価する従来の態度は相対化されるべきであることを指摘する.
著者
木村 護郎クリストフ
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.4-18, 2010-08-31 (Released:2017-05-01)

本稿の目的は,日本の言語問題に取り組むうえで言語権という観点のもつ意義や限界,また今後の課題を明らかにすることである.はじめに日本の学界における言語権の受容と位置づけを整理する.そして実際の適用事例として旧来の(音声)言語的少数者,移住者,ろう者,非英語母語話者をとりあげ,言語権が日本の具体的な言語問題にどのように適用されているかを考察する.そのうえで,言語権の問題点として本質主義のジレンマと多数派へのアプローチの困難をとりあげ,言語権をめぐる問題に対処するために,異なる学問分野および適用事例,また理論家と実践者が協働する可能性を検討する.
著者
花田 里欧子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.54-69, 2016-09-30 (Released:2017-04-12)
参考文献数
22

本稿は,Gregory Batesonの思索を軸に,メタ・コミュニケーションを生の基準としてたどることで,本来的な原義を論じる.Ruesch & Bateson (1951)はメタ・コミュニケーション概念を「コミュニケーションについてのコミュニケーション(communication about communication)」と定義し,その後,異分野・多領域の研究者がこれを便利な概念として受容した.ところが,概念の定義は研究者によってまちまちとなり,無定義のまま多用されたため,概念の当初の意味や枠組み,その多義性については曖昧になり,概念の変容が生じた(Bavelas, 1995).本稿では,そもそもBatesonがメタ・コミュニケーションをどのように提唱し,展開してきたかについて,1946年3月第1回メイシー会議から1987年『天使のおそれ』までの間の歴史的ならびに理論的な足跡を通じて,明らかにする.
著者
青山 俊之
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.19-34, 2021-03-31 (Released:2021-05-29)
参考文献数
40

本稿は,日本社会において「自己責任」ということばが使用される記号過程とその再帰的な転送過程を自己責任ディスコースとする.本稿の分析は,2015年1月から2月にかけて起きたISIS(Islamic State of Iraq and Syria)日本人人質事件の人質に対し,批判的に言及したブログ記事とその記事上のコメントを対象とする.分析対象の記事とコメントでは,「自己責任」と「迷惑」という語彙が際立って使用された.本稿では,ブログ参与者による記事とコメントの詩的連鎖により,自己責任ディスコースに対する記号イデオロギーが生成されることを論じる.分析では,人質への批判的言及に介在する主体に対する連続的な認識枠組み(個人‒社会文化‒ヒト)に焦点を当てる.分析によって,自己責任ディスコースを再生産する歴史的状況に文化的規範としての社会関係的立場・役割規範が関係することを論じる.