著者
森 忠文
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.14-23, 1977-02-15 (Released:2011-07-19)
参考文献数
20
被引用文献数
3

京都御所周辺は, 明治維新のころまでは多くの公家の住む屋敷町であったが, 明治2年の東京遷都ののちは, 公家は東京に移りあるいは他に転出して, 一部の建物は取りこわされて空地となり, やがて土地建物の所有も一般民間人の手に移っていった. 一方その邸宅跡には学校や裁判所が設けられ, 御所で博覧会が開かれるなど御所周辺は変貌した.明治10年 (1877) 2月, その対策として, 明治天皇の御沙汰書が出され, 大内保存事業が始まった. これは, 御所をながく保存するための前提として, 周辺の民有地を買収するとともに建物を撤去し, 御所への火災延焼のおそれをなくしようとするものであって, そのために明治10年から21年まで毎年4000円を支出すること, またその事業を京都府に委任するというものであった.京都府は大内保存掛を置いて鋭意事業を推進し, 幾多の曲折を経て, 明治13年 (1880) に当初予定された構想にさらに追加工事を加えたもののほとんどすべてを実現した. このようにして初期の御苑は成立したのである. すなわち, 民有地を買収し, 建物を撤去し, 周囲に石積土塁を設けて境界とし, 奥まったところにあった門を土塁の線に移設し, 道路を設け, 御所周囲, 主要道路, 石積土塁上等の植樹その他雑工事を行なったのである. 予定では21年までとなっていたが, 保存費の繰上げ交付によって促進され, 期間は短縮された. またそれに要した経費は少くも45000円であった.御所そのものの維持管理は, この事業とは別に宮内省において京都府が協力して行なわれていたので, 大内保存事業はもっぱら間接に御所を保存するために行なわれたものである. これを今日的に言えば, 御所を文化財としてながく守るための環境整傭事業であった.この事業の着想が正しかったということは, その後, 100年の御苑の歴史が実証している. この大内保存事業すなわち御苑造成事業は, 明治初期において, 御所を文化財として保存するために行なわれ, しかも成功した大規模な造園事業として評価されるべきものと考える.
著者
大澤 啓志 山下 英也 森 さつき 石川 幹子
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
日本造園学会 全国大会 研究発表論文集 抄録
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.50, 2004

ビオトープ地図の日本版の標準手法確立に向け、鎌倉市を事例研究地として基本概念や課題を整理した。初めから抽出単位が決定されること、生態的特性が類似するビオトープを括る体系化というビオトープ図化の基本条項を明らかにした。日本では農耕地-里山が重要な生物生息空間とし機能してきたことから、農村環境は全てをビオトープとして抽出した。体系化はドイツの方法を踏襲し、鎌倉市の現状に即し5系の上位区分を得た。複数のGIS環境情報図を基に市域レベルのビオトープ地図(1/10,000)が作成された。しかし、ビオトープ・タイプの設定基準や個票の記述内容、いくつかのビオトープ・タイプの体系上の位置について更なる検討が要ると考えられた。
著者
西田 正憲
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.91-96, 1993-03-31 (Released:2011-07-19)
参考文献数
12
被引用文献数
2

瀬戸内海国立公園には明治大正時代に築かれた近代の要塞が数ケ所に渡って残っている。紀淡海峡, 芸予諸島, 広島湾口, 関門海峡, 豊予海峡と国立公園の優れた風景地に, 同じような構造をもつ堅牢な砲台跡や煉瓦造りの兵舎跡を見ることができる。要塞遺跡はそれ自体自然と一体となった明治の洋風建築として情趣あるものであるが, さらに一帯は, 瀬戸内海の典型的な瀬戸景観などを眺める優れた展望地として, 国立公園の重要な利用拠点になっている。瀬戸内海国立公園の近代要塞遺跡とはそもそも何かその概要を体系的に明らかにするとともに, この要塞跡地が瀬戸内海国立公園の利用拠点をいかに形成してきたかその経緯を明らかにするものである。
著者
中村 隆治 藤井 英二郎
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.139-144, 1991-03-31 (Released:2011-07-19)
参考文献数
2
被引用文献数
18 24

緑地の視覚心理的効果を明らかにするために, 本実験では生垣, ブロック塀, さらに緑量的にそれらの中間的な段階の視覚対象として樹木とブロックの比が2:5, 4:3, 5:2となる場合の5つの対象物をみたときの脳波, 特にα波β波について分析を行った。 その結果, α波とβ波の合計値に占めるα波の割合が, ブロックに対する樹木の割合が半分以上になると高くなる傾向を示した。 一般に, 安静時にはα波が増え, 緊張時にはβ波が増えると言われていることから, この傾向はブロックが緊張感をもたらし, 樹木はそれを和らげる効果があることを示唆するものであることが明らかになった。
著者
太田 広
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
日本造園学会 全国大会 研究発表論文集 抄録
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.84, 2009

レクリエーションのための土地へのアクセス権が幅広く認められている英国スコットランドにおいて、アクセス規則の策定プロセスを検討することで、田園地域等のレクリエーション利用の課題を明らかにした。土地管理者は、利用者の責任、農地等の土地管理者の利益保護などに関する関心が高く、土地管理者の義務が過大で、利用者の責任が不十分または不明確、無責任な行動に対する対処も不適当と考えており、アクセス権によるレクリエーション利用に対する土地管理者の懸念払拭や利用者との軋轢回避が大きな課題と考えられる。これらの懸念や軋轢回避の方策として、法令や利用ルールであるアクセス規則への国民の理解の促進、適正な利用のための分かりやすい利用ルールづくり等が必要と考えられる。
著者
舟引 敏明
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
日本造園学会 全国大会 研究発表論文集 抄録
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.67, 2010

計画制度は、行政の目標とその実施のプロセスを定めるツールとして、特に利害調整のツールとして、重要な役割を持っている。特に近年様々な形で住民参加の計画づくりが進められるようになっており、その重要性は増している。都市の緑地空間確保行政においても、緑の基本計画を中心に、さまざまな名称の計画に類する制度が並立しているが、それぞれの計画の目的、対象、概念が異なっているためわかりにくい。本論では次の二つの視点が全体像の把握に有効であると考え、第一に計画が土地利用規制等を通じて国民に及ぼす効果の観点から、第二に計画策定への市民意見の反映・専門家意見の反映手続きから、それぞれ計画の分類・整理・分析を行い、緑地空間確保行政における計画制度の全体像を示している。
著者
堀 繁
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.281-286, 1987-03-31 (Released:2011-07-19)
参考文献数
13
被引用文献数
3 6

視覚心理試験をとおして森林風景を意味的に捉えようとした。「聖」と「清」を評価軸として提案し, 聖・俗・清・汚という4方向の評定空間のなかで, 多様な森林タイプの分類を試みた。その結果,「聖」と「清」は森林風景の評価においては違う意味内容を持つものであることが判った。また, 天然林が聖, 針葉樹人L林が俗, 落葉樹林が清, 照葉樹林が汚などの特徴が抽出され, この評定空間で森林の説明が可能であることが示された。
著者
宮本 万理子 横張 真 渡辺 貴史
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
日本造園学会 全国大会 研究発表論文集 抄録
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48, 2012

本論説は文化財としての文化的景観の捉え方を提示するものである。本目的を達成するため、本論説では2つの研究目的を設定した。第一に、UNESCOによる文化的景観(Cultural Landscape)のカテゴリーに影響を与えたと考えられる学識者による文化的景観の定義を検討した。第二に、文化的景観(Cultural Landscape)のカテゴリーに影響を与えた学識者の一人であるWagner & Mikesellによる"文化的景観"の定義に基づき,土地履歴(景観と社会との関係性の履歴)の解釈からみた文化財としての「文化的景観」の新たな概念を提示した。さらに,地図および文書の所在の有無にもとづき土地履歴が辿れるか否かによって景観が分類された。こうした概念にもとづくと,(1)地図あり/文書あり、(2)地図あり/文書なし、(3)地図なし/文書あり、(4)地図なし/文書なし、に分類された。計画論的立場からは(1)地図あり/文書あり、が「文化的景観」として承認されやすい景観であると考えられた。
著者
木村 栄理子 深町 加津枝 古田 裕三 奥 敬一 柴田 昌三
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
日本造園学会 全国大会 研究発表論文集 抄録
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.51, 2007

本研究は、京都市嵯峨嵐山における竹林景観の管理状況の実態と、景観保全施策について明らかにし、景観保全施策が景観を良好に保つためにどのような役割を果たしているか検証した。対象地の竹林の管理状況と景観保全施策とを比較検討した結果、古都保存法による買取制度により、景観上重要な私有地の竹林を行政所有とになり、竹林の消失が抑制されていた。しかし、竹林景観を適正に管理する体制は確立しておらず、一部の地元住民の有志に頼った管理がなされているにすぎなかった。また、厳しい景観保全施策の対象外の地域において、竹材や筍生産林として管理が行なわれ、竹林景観として維持されていること等が明らかになった。
著者
近藤 隆二郎 守谷 光平
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
日本造園学会 全国大会 研究発表論文集 抄録
巻号頁・発行日
vol.66, pp.45, 2003

「歩行空間の変化性」に着目し、「歩行感覚」から歩行空間の分析をおこなった。サウンドスケープにおける先行研究を参考に、「サウンド」「フレーズ」「ハーモニー」「メロディー」の視点を適用し分析した。「歩行空間」の「ハーモニー」として、【回遊】【癒し】【直線平坦】【お参り】【直線平坦(テクスチャー)】【アクロバティック】【心臓破り】【特殊】の8タイプを抽出した。また、「コース」に占める割合の高い「ハーモニー」は【回遊】【癒し】であった。「ハーモニー」の変遷として、6つの「メロディー」タイプを抽出した。「歩行感覚」から得られた「ハーモニー」の特徴は、実際の印象と対応していた。
著者
三沢 彰 高倉 博史
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.127-132, 1989-03-30 (Released:2011-07-19)
参考文献数
5
被引用文献数
3 5

街路灯付近の落葉樹の葉は, 光の影響により秋遅くまで落葉しない傾向が見られる。しかし, その影響がどの程度のものかについて科学的に研究された例はない。そこで, 著者らは東京都内の代表的な7種の街路樹を対象に観測路線を設け調査を行った。また, 実験的にもその裏ずけを行った。その結果, 照明の落葉に及ぼす影響は樹種によって異なること, 照明の強く当たるところだけが落葉しない, などのことが明らかとなった。
著者
田畑 貞寿
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.21-28, 1966-03-25 (Released:2011-07-19)
被引用文献数
1

This study of purpose, which clear up for planning unit on open space, by dint of analysis in relation to open space and occupancy rate.The contents of a Report No.1, analyzel with effective ration of open space, by district and housing type in group of occupancy.Acording to this survey and analisis ratio of open space, with involved in each relaton to land of building and circulation, dencity of popuration and number of houses, plot ratio.
著者
木村 三郎
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.73-78, 1993-03-31 (Released:2011-07-19)
参考文献数
16
被引用文献数
1

最近我国造園界も中国造園界と接触を深め, 古い中国造園の実体を把握するようになってきている。しかし何分にも中国3000年という古い歴史を知る上で大変な労苦を覚悟しなければならない。更に中国語の如きも, その時代時代に就いて, 十分理解することも亦甚だ重要なことにちがいない。ところが幸いにも我国は遣唐 (隋) 使の派遣などを通じて, 古い時代の多くの文献や実像も既に知り得た筈である。従つてその間における中国造園事情も何かと知り得たにちがいない。その代表例として白楽天の白氏文集をあげることができる。その歴史的な影響を特に振りかえって見たい。
著者
上原 敬二
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園學雑誌 (ISSN:21853045)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.292-293, 1926-04-01 (Released:2011-04-13)
著者
池 龍彦
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園學雑誌
巻号頁・発行日
vol.2, no.5, pp.358-367, 1926
著者
池 龍彦
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園學雑誌 (ISSN:21853045)
巻号頁・発行日
vol.2, no.5, pp.358-367, 1926-05-01 (Released:2011-04-13)
著者
金 炳哲 杉本 正美 包清 博之 藤本 一寿 中村 洋
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.263-268, 1990-03-30 (Released:2011-07-19)
参考文献数
4
被引用文献数
2

本研究は, サウンドスケープの視点から都市空間の諸特徴を把握し, 究極的には音を配慮した都市環境整備の在り方に関する計画的示唆を得ることを目的とした。スタディーエリアとしては, 長い歴史のある都市空間であり, 福岡市の中心部に位置する博多部を取り上げた。調査・研究の結果, 音を配慮した都市空間整備の在り方を考える場合, 騒音規制という側面からのアプローチだけでなく, その地域の特有な文化, 伝統そして自然を基調とした音を保存することと共に, 音とフィジカルな都市空間との係わりを基調にした音の演出 (活用) に関する研究プログラムの樹立の必要性が認識できた。
著者
養父 志乃夫 内田 均 萩原 信弘 石川 格
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.208-214, 1990-01-25 (Released:2011-07-19)
参考文献数
1

ニワゼキショウの群生地の形成手法を確立するため, 種子の発芽と生育習性, および刈取り抵抗性を調べた。その結果, 種子の発芽には光の照射が要求され, 発芽適温が15~20℃ にあった。花期は5~11月で, 葉は常緑に近い性質を持ち, 主に, 4~9月は地下部の養分と地上での生産養分によって, 地上部の栄養と繁殖成長を行い, 9~11月に生産養分を地下部に蓄積した。2週毎刈取りでは枯死し, 群生地形成における最適下刈り頻度は4週毎であった。
著者
永嶋 正信
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.25-30, 1985-03-31 (Released:2011-07-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1

国立公園の指定後、県立公園の指定にとりかかれるよう1933年内務省は県に指令を発し国立公園の体系化を目標にしていたか果せず1957年になって達成された。1931~50年の20年間には風景の保護に関して、問題の期間が2回あった。1つは1931年国立公園法かできてから指定される1934年までと他の1つはi937~45年までの間である。前者は法律かできたが適用されず計画のみ発表されている。日光地城で関心をもち初めたのはさかのぼって1911年「日光山ヲ帝国公園ト為スノ請願」か提出されたときからと考えられる。外国からの観光団も増加し当時、わが国の観光収入もそれまでの最高となり、観光開発に関心が高まり、中禅寺湖遊覧飛行が行われ、金精峠に道路建設の計画、実地調査か行われている。各種交通機関によって浅草から日光湯元まで直通という画期的な到達性の改善がなされたが引続き開発の制限は厳しい上に自主的な保護の様子がみられた。後者は指定を受けた日光地域が国立公園として軌道にのらないうちに、利用は進んでいたか、戦時下で自然公園行政の空白化が景観保護には障害となっている。到達性の改善か風景利用の大衆化を進めるとともに、冬季スポ-ツの促進ともなり、地元は収入を意識した観光事業の開発に力点をおくようになった。