著者
上野 健一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.655-671, 1993-12-25
被引用文献数
6

冬期北半球500hPaに卓越する主な3つの沿革伝播パターン(NAO,PNA,WP)を回転主成分分析により抽出し、パターンが顕著に卓越した年の低気圧位置および軌跡の頻度分布をパターンの極性ごとに合成して比較した。さらに、パターンの変動に連動した降水量変動を示す地域を単相関解析により明らかにした。低気圧の位置・軌跡データは、それぞれNCAR地上気圧格子点データ(1946-90)およぴECMWF1000hPa等圧面高度格子点データ(1980-90)を利用して客観的に解析した。異なる性質の2つのデータに共通して、正負のパターンの出現に伴う大幅な低気圧経路の変更が北大西洋および北太平洋上を中心に示された。NAOパターンの振動に伴い、主な低気圧経路は北大西洋上を南北に振動し、低気圧が主に北大西洋中部を東進する場合と北西部沿岸を北東進してアイスランド付近から北海に達する場合が明らかとなった。この振動にともなう有為な降水量の年々変動が、ヨーロッパ沿岸の南西部と北西部に出現した。PNAパターンの場合、北太平洋上の低気圧経路は40゜-50゜Nに沿って東に向かい北東部太平洋上で北に進路を変えてアラスカ南部沿岸に向かう場合と、北西部沿岸を北東進しべーリング海へ達する場合がある。前者はアリューシャン低気圧東部を深めるパターンであり、後者では日本の太平洋沿岸を中心とするユーラシア大陸東岸とカナダ西岸の一部で降水量と正の相関がある。WPパターンの場合、南南西-北北東に走向を持つ帯状の低気圧分布域が北太平洋上を南北に変動する。この分布域が北上する場合、アリューシャン低気圧西部を強化し、日本の南西諸島と中部太平沿岸にて降水量の有為な増加傾向が認められる。さらに、東部アリューシャン低気圧付近のPNAパータンの変動に伴う低気圧経路の変動と、1977年以降顕著となった地上気温のアラスカから西カナダにかけた昇温および北東部太平洋上の低温化との関係について考察を行った。
著者
余田 成男 林 祥介 伊賀 啓太 石岡 圭一 田中 博 冨川 喜弘 中野 英之 前島 康光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.405-412, 2006-05-31
被引用文献数
1

AGUは毎年何件かの特定のテーマについて50〜100人規模のチャップマン会議を各地で開催している.今回,Robinson(Univ. Illinois)と余田(京都大学)がコンビーナーとなり,2006年1月9〜12日,ジョージア州サバンナで「地球流体中のジェットと環状構造」に関するチャップマン会議を,KAGI21,NSFとの共催で開催した(第1図に会議のポスター[figure]).Allison(NASA/GISS),Baldwin(NWRA),林(北海道大学),Haynes(Univ. Cambridge),Huang(LDEO),Rhines(Univ. Washington),Thompson(Colorado State Univ.),Vallis(Princeton Univ.)の8氏をプログラム委員に招いて,2年以上をかけて準備してきた会議である.日米をはじめ13か国から70余名の参加者があり,(A)大気中のジェット,(B)海洋中のジェット,(C)大気の環状変動,(D)惑星大気のジェットと環状流,(E)地球流体力学的にみたジェット,の5つの広範だが関連深い話題について,レビュー講演(6件),招待講演(22件),および,ポスター発表(40余件)を行った.レビュー講演は,各分野で主導的な役割を果たしてきたMcIntyre(Univ. Cambridge),Lee(Pennsylvania State Univ.),Marshall(MIT),Wallace(Univ. Washington),Allison,Rhinesの6氏にお願いした.この会議のハイライトの1つは,太平洋域の高分解能数値シミュレーション(Nakano and Hasumi,2005)で予言的に見出され,観測データで発見された海洋中の多重東西ジェット構造である.木星型惑星に見られる多重の環状流との類似性や,回転球面上の2次元乱流中におけるジェット形成メカニズムとの関連など,幅広い分野の研究者を巻き込んで熱い議論がなされた.また,傾圧擾乱による対流圏界面亜熱帯ジェットの維持過程が南極周極流のそれと力学的に相似な現象と認識しうる(基本場の傾圧性が南北加熱差によって維持されるか,海面での摩擦応力によって維持されるか,の違いはあるが)という話題も,地球流体力学的普遍性を具体的に示す好例であった.さらに,周極ジェット気流の時間変動が特徴的に環状パターンを示すという認識が,環状"mode"であるかどうかは措いても,天候の延長予報や今世紀中の気候変化予測などにも役立ちうる可能性が指摘され,実用的応用的な興味も喚起した.この機会に,KAGI21で開発した地球流体力学計算機実験集(Yoden et al., 2005)のCDを参加者全員に配布した.これは,地球流体力学の基本的な数値実験演習問題をパソコンでインタラクティブに実行し,計算結果のアニメーションを見ることができるソフトウェアである.会議終了後すでにいくつかの好意的な反応を得ており,希望者には無償で配布中である.サバンナは米国南部の観光小都市であり,会場となったホテルの近くにも昼食・夕食をみんなで食べられるレストランが多くあった.気のあった仲間同士で出かけてゆっくりと科学的な議論を続けたり,また,それぞれの近況情報を交わしたりできた.最終日のパーティーでは,McIntyre氏が飛び入りでPV song(ビートルズの"Let It Be"の替え歌)を歌い,皆の喝采を浴びた.英国あたりでは, IPVといっていた頃から歌われてきた替え歌のようである.今回の会議後,林氏が火付け役,McIntyre氏が先導役(掻き混ぜ係?)となって歌詞に関するメールのやり取りが続いた.原作のHall(CNRS),Thuburn(Univ. Exeter),さらにはHoskins(Univ. Reading),Wallace,Palmer(ECMWF),Emanuel(MIT)氏らビッグネームも加わって盛り上がり,その統一版が完成した.第2図[figure]に歌詞を掲載するので,PVファンは味わっていただきたい.http://www.lthe.hmg.inpg.fr/~hall/pvsong/pvsong.shtmlには,Hall氏の演奏もある.次節以降は,プログラム委員の林氏,および,参加者有志(アイウエオ順)の報告である.
著者
高橋 劭 久原 和冶
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.21-31, 1993-02-25
被引用文献数
1

ミクロネシア・ポナペ島に特殊ラジオゾンデ8台を飛揚した。この装置は雲内の降水粒子の映像と電荷の情報を地上に伝送する。ミクロネシアの雲には多くの雪が成長していた。興味のある降水粒子の映像は偏平楕円体状の雨滴、フリスビーのような雪片、テトラポッド型の雹、成層圏付近の広い平板を持つ立体樹枝等である。降水粒子の高度分布から降水機構を考察した。強い雨を降らすレインバンドは0℃高度のすぐ上の狭い層で凍結氷・雹を成長させていた。この層に水が多く蓄積される。他に二種異なった雲系が観測され、その1は孤立積乱雲で他は上層対流雲である。前者では"温かい雨"と加住霰形成が独立に起こり、後者では霰形成が盛んに行われていた。これらの雲の電気的性質についても簡単に調べた。
著者
村田 昌彦 伏見 克彦
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.1-20, 1996-02-25
被引用文献数
1

ENSOイベント(1991年, 春-1992年, 夏)が発生した1990年から1993年の期間に, 気象庁が実施した, 北西太平洋域での大気中および海洋中CO_2の観測の結果について報告する. 大気中CO_2濃度は, 北緯30度以南で1990年から1991年にかけて, 季節的に調整されていない値であるが, 冬(4.0ppmv)と夏(4.5ppmv)に非常に大きく増加した. 他の観測期間中の2年間では, 小さいかまたはときどき負の増加率となった. 一方, 海洋中CO_2は, 海水と平衡に達した乾燥空気中のモル分率でみると, 1990年の値と比較して, 1991年から1993年の冬と夏に, 特に低緯度において有意な増加を示した. 一定の温度に規格化した海洋中CO_2も有意な増加を示し, 冬により大きく, 夏により小さい増加となった. これは, 夏の海洋中CO_2の増加はもっばら表面の海水の温度変化からきているが, 冬の場合は, 現段階では不明の他の要因がより大きく関連していることを意味する. ΔpCO_2と大気一海洋間のCO_2フラックスの計算値は, 冬に北緯10度以北の領域が, 最大で正味一10.0m-mol・m^<-2>・d^<-1>程度の吸収域となることを示す. しかし, 北緯10度以南の領域は, しばしば最大で正味2.4m-mol・m^<-2>・d^<-1>の弱いCO_2の発生域となる. 夏の北西太平洋は弱い発生域, または大気中CO_2に対してほとんど平衡となる. 1991/92 ENSOイベントに関連づけられる冬の海洋中CO_2の増加は, 表面の海水の温度の低下と塩分の増加という状況は共通しているが, 1982/83 ENSOイベントの場合ほど顕著ではない. 1991/92 ENSOイベントに対する西部熱帯太平洋域のCO_2フラックスの反応は, 中部または東部熱帯太平洋域で従来の結果から得られた変化の大きさと比較すると, かなり小さい.
著者
小池 仁治
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, 1995-05-31
著者
大久保 篤
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.42, no.10, pp.705-714, 1995-10-31
参考文献数
15
被引用文献数
6

1990年1月23日夜から24日朝にかけて北陸地方に接近,上陸した二つの渦状擾乱は,水平スケールと移動方向が違っていた.この2種類の渦状擾乱の解析を行った.2種類の渦状擾乱は,共に700hPaより下層の擾乱で,温帯低気圧に似た構造をしていた.2種類の渦状擾乱は,1つの上層の擾乱(500hPaの気圧の谷)の下方に位置しており,日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)でつながっていた.事例数を増やして,帯状雲の初期状態からの変化を調べた.渦状擾乱は渦状となる前から,帯状雲の屈曲部として追跡可能であった.2種類の渦状擾乱は,日本海西部のJPCZ上で発生した小擾乱が,傾圧不安定により発達したものと考えた・傾圧性を増す要因として,上層の擾乱による下層での暖気移流と寒気移流の強まりを考えた.
著者
佐々木 太一 木村 富士男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.65-74, 2001-02-28
被引用文献数
18

1996, 97年の夏期の静穏日7日間について, 関東平野及び周囲の山岳域における可降水量の日変動を調べた.国土地理院により全国約1000地点において観測され, 3時間間隔で算出されているGPS大気遅延量から可降水量を求め, 他の気象データとともに解析した.日中には, 大規模な谷風及び太平洋あるいは日本海側からの海風と思われる地上風の収束が関東北部や西部の山岳域に見られる.この領域では可降水量が午後に大きく増加し18時頃に最大となる.一方, 関東平野の内陸部ではそれより遅れて24時頃に最大となる.可降水量の増大に対応して降水頻度が増加する傾向が見られる.これとは対照的に, 関東平野の沿岸部における可降水量の日変動の振幅は小さく, 特に海風の吹き込む時間帯にはほとんど増加していない.大島や石廊崎における可降水量や地上比湿が海上の水蒸気量を代表すると想定し本土と比較した結果, 海上は陸上に比べ大気下層は湿潤であるものの可降水量は小さいことがわかる.沿岸部において日中に可降水量が増加しない理由は, 海上大気の可降水量が小さいことと, この領域が局地循環による発散域に位置するためであると推測される.
著者
Vargas Walter M. Minetti Juan L. Poblete Arnobio G.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.849-856, 1995-10-25

南アメリカ中緯度における北東風と西風の強さの変動に、顕著な気候ジャンプが認められた時期を、気候的シグナル-ノイズ比などの検定によって明らかにした。、このような顕著なジャンプは、10年以上の周期で起こっており、過去100年間ではおおむね北半球で見いだされた気候ジャンプの時期と一致していた。月別の西風の強さでは、、ジャンプは1年のうち6つの月(1、3、4、7、11、12、の各月)に認められ、7月では1939年(弱化)・49年(強化)・67年(強化)・77年(弱化)に、また1月では1974年(弱化)に見いだされた。北東風の気候ジャンプは月および季節単位で認められたが、年単位ではで認められなかった。北東風における主要な気候ジャンプは1950年代初頭に認められ、長周期変動ととのにその強化(弱化)は、アルゼンチンの亜熱帯地域における降水量の増加(減少)と関係していたと考えられる。