著者
森 一正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.491-508, 1995-06-15
被引用文献数
2

TOCA COARE IOP(熱帯海洋及び全球大気変動国際共同研究計画、海洋大気結合応答実験、集中観測期間)中の1992年11月3日から16日の間、7.5分間隔のレーダー観測と6時間間隔のラジオゾンデ観測が、気象庁の観測船啓風丸により、集中フラックス観測領域(IFA)の中心付近、0.5S、154.5Eにおいて実施された。エコー強度は、2.5kmメッシュでデジタル化され500km四方の領域を覆っている。メソ降水系に注目して、観測された赤道付近の対流が記述された。エコー面積により、観測期間は4つの期間に分けられた。11月3-4日には対流活動は弱く、対流活動のメソ降水系への組織化は抑制されていた。11月5-8日には、対流活動は活発で、エコーは水平スケール100-300kmのメソ降水系へと組織化されていた。対流は深夜から早朝(14-20UTC、0006LT)に強まる日変化を示していた。主なメソ降水系は、対流セルとして夜(10UTC、20LT頃)発生し、深夜から早朝(14-20UTC、00-06LT頃)強いエコーを含む広いエコーへと成熟し、朝(23UTC、09LT頃)には散在する弱いエコーへと衰弱していた。主なメソ降水系の履歴はLearyとHouze(1979)により示されたメソ降水系(MPFs)の履歴と似ていた。11月10-12日には、急速に西進する大規模(1500-2000km)雲擾乱の通過に伴い、より大きいメソ降水系を含む活発な対流が1.5日間にわたり起こった。メソ降水系は東進していたが、大規模雲擾乱の西方への通過に対応して、メソ降水系の発達する場は西進しているようであった。これらのメソ降水系は発達期には北東から南西に走向を持つ長さ300-500km以上のいくつかのライン状構造をしていた。メソ降水系は長寿命であり対流の日変化は見られなかった。11月13-14日には対流は完全に抑制されていた。11月5-8日の夜間の対流強化は、暖水域でも大規模場の状態によってはメソ降水系の夜間の出現を通して強い対流が日変化的振る舞いをすることがあること、を示唆している。11月10-12日の密に束ねられた、引き続く西方への東進メソ降水系の出現は、メソ降水系群と西進する大規模雲擾乱との相互作用を暗示している。この大規模雲擾乱の性質が吟味された。
著者
植田 宏昭 小塙 祐人 大庭 雅道 井上 知栄 釜江 陽一 池上 久通 竹内 茜 石井 直貴
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.777-784, 2011-09-30

筑波山の東西南北4斜面上に,標高約100m間隔で気温ロガーを設置し,2008年6月1日から2009年5月31日までの期間において,30分間隔の通年観測を行った.斜面温暖帯を定量的に議論するために,麓からの逆転強度を斜面温暖帯指数(Thermal Belt Index;TBI)として定義した.TBIの大きさは,冬季を中心に極大となり,標高200〜300mを中心に斜面温暖帯が形成されていた.斜面温暖帯の年間発生日数を各斜面で比較すると,西側103回,東側99回,南側59回,北側35回であった.斜面温暖帯を規定する広域の逆転現象との関係を議論するために,平野部に設置されている気象観測鉄塔データと斜面上の気温を比較した.
著者
鈴木 知道 玄地 裕 飯塚 悦功 小宮山 宏
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.383-391, 2001-06-30
被引用文献数
8

東京都で発生しているヒートアイランド現象に対し, 統計解析的アプローチをとることによって, 真夏の東京都の気温が地域と時刻によってどのように変化するのかを明らかにした. 着目したのは気温日変化パターンであり, 解析には東京都各所100地点において観測された1時間間隔のデータを4日分用いた. 統計解析手法の一つである主成分分析をこのデータに適用した結果, 気温日変化パターンの変動を代表する特性値である3つの主成分が得られた. 3つの主成分の吟味から, これらは気温レベル, 気温の日較差, 気温変化の緩急を表しているといえる. そして観測された100地点に対し, 主成分分析の解析結果をもとにグループ化を行った. その結果, 観測地域をそれぞれ特徴を持つ7つのグループに分類できた. また, 同時期のアメダスのデータを用いて解析の妥当性を検証した.
著者
中西 幹郎 菅谷(大鶴) 真子
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.729-739, 2004-10-31
被引用文献数
2

午前中晴れた夏の日(午前晴天日)の午後に東京湾周辺で発生する雲列と,関東平野規模の局地気象および午後の降水との関係を調べるため,午前晴天日を静止気象衛星の可視画像に基づいて6つに分類し,特徴的な雲列が現れた2つのタイプと快晴に相当するタイプを解析した.東京湾を囲むような雲列の日は,相模湾沿岸で南寄りの風,鹿島灘沿岸で東寄りの風が吹き,午前晴天日の中でも格別,平野で午後に降水がある日(平野降水日)になりやすかった.平野降水日は850〜500hPaの上空の湿度が高く,14時頃までに山岳域で積乱雲が発生した.雲列は,この積乱雲やそれに伴う発散風が1つの誘因となって発達し,雲列の直下,多くは埼玉県南部に降水をもたらした.ほかの2つのタイプの日は,上空の湿度が平均的に低く積乱雲が発生しにくいだけでなく,関東平野全域で南寄りの風が吹いて山岳域の積乱雲や発散風の影響が平野に及びにくいため,平野降水日にほとんどならなかった.
著者
佐藤 尚毅 高橋 正明
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.1199-1220, 1999-12-25
被引用文献数
3

関東平野では、夏の晴れた日の午後に積雲対流が生じる。雲量データを調べることによって、ある日の午後の雲量と次の日の午後の雲量は独立ではないことが分かった。雲量が少なかった日の次の日には、雲量が多くなりやすく、雲量が多かった日の次の日には、雲量が少なくなりやすいのである。したがって、関東平野が亜熱帯高気圧に覆われていて、天候が安定している場合には、「晴れた日の次の日は晴れにくい」と言えよう。 この日々変化は、2次元の数値実験によって再現された。海陸風に対応した1日周期の境界条件を与えたにもかかわらず、積雲対流の強い日と弱い日が準周期的に現れた。数値実験の結果を調べることによって、この日々変化は、下層での温位や水蒸気混合比の鉛直分布の違いによって生じていることが分かった。積雲対流の日々変化には、より積雲対流に適した条件を与えると、より強い対流が生じ、その結果、次の日には積雲対流が生じにくい条件になってしまうという、「過剰調節」の効果が本質的に重要である。 さらに、これらの鉛直分布の違いを高層気象観測データと比較して、数値実験の結果を確かめた。温位の鉛直分布の違いは統計的には十分に有意とは言えないが、これらの鉛直分布の違いは、高層気象観測データに見られる違いと定性的に一致した。
著者
桑形 恒男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.513-527, 1997-04-25
被引用文献数
2

1985年夏季の晴天条件下に中部日本域で発生した短時間降雨を, ルーチン気象観測データを用いて統計的に解析した. 解析期間の中部日本域における降水量は夕方の18時ぐらいに顕著なピークを持ち, 0時から12時までの深夜から午前中にかけての時間帯にはほとんど降水がなかった. 夕方の顕著な降水ピークは, 午後になって発生する驟雨性の短時間降雨に対応したものである. 日々のデータについて見ると, このような降雨は可降水量40mm以上の気象条件下で発生しやすくなり, その活動度は乾燥(または湿潤)対流に対する大気安定度の減少にともなって増加していた. 短時間降雨の降雨域は内陸の山岳地帯に集中しており, 降雨頻度が高い地域の時間による移動はあまり大きくなかった. ただし降雨域の山岳への集中の程度は, 短時間降雨の活動が活発な日ほど小さくなる傾向があった. 一方, 中部日本域では春季から夏季にかけての一般風が弱い晴天日の日中に, 連日のように熱的な局地循環が発達する. 熱的局地循環は地形の影響を強く受けており, 内陸の山岳が局地循環の顕著な収束域となっていた. 以前に実施された研究によって, 熱的局地循環が平野および盆地(盆地底)から山岳に水蒸気を輸送する働きを持つことと, 中部日本域のような1OO km程度の水平スケールを持つ地形で, 夕方における山岳上での水蒸気の蓄積が最大となることが明らかになっている. すなわち内陸の山岳では水蒸気の蓄積によって午後になると積雲が生成しやすくなり, 今回の地上気象データの解析からも, 午後の山岳域における水蒸気量の増加と日照率の低下が認められた. 実際の短時間降雨にともなった降雨域もこのような山岳域に集中しいることから, 熱的局地循環の発達が夏季の中部日本における対流性降雨の発生のトリガーとなっている可能性が本解析により示唆されたといえる.
著者
岩坂 泰信
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.47-52, 2014-01-31
著者
渡辺 幸一 石坂 隆 竹中 千里
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.997-1006, 1999-10-25
被引用文献数
6

1994年から1996年までの夏期および秋期に乗鞍岳山頂付近(標高2770m)において霧水の採取・化学分析を行ってきた。pHが4以下の強い酸性霧が夏期だけでなく、秋期においても観測された。霧水中の陰イオン成分では硫酸イオンの濃度が最も高かったが、硝酸イオン濃度に対する硫酸イオン濃度の当量比は、1960年代の乗鞍岳よりもかなり低い値であった。これは、1960年代と1990年代の日本の大気汚染の特徴が反映されているものと考えられる。 硝酸イオンに対する硫酸イオンの濃度比は秋期に比べて夏期の方が高い値であった。夏期においては、ナトリウムイオン濃度に比べて塩化物イオン濃度の方がはるかに高く、非海塩起源の塩化物イオンも霧水の酸性化に寄与しているものと考えられる。硫酸イオン濃度に対するアンモニウムイオン濃度の比も秋期より夏期の方が高かった。また、1994年の7月には、硫酸イオンが高濃度であるにもかかわらず、pHが6以上と比較的高い霧も観測された。霧水中の過酸化水素濃度は夏期においては3∼180μM程度で、平均濃度は60μMであったが、秋期においても比較的高濃度(60∼70μM)の過酸化水素が観測された。
著者
柴田 清孝
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.709-722, 2013-09-30

厳冬期の2013年1月12日に凍結した風蓮湖(根室)ごしに距離10〜20kmの範囲に1つの虚像の下位蜃気楼と数個の虚像の上位蜃気楼を併せ持つ蜃気楼が観測された.この蜃気楼について安定成層の温度プロファイルを仮定してレイ・トレーシングを行い,観測された蜃気楼を定性的に再現することができた.また,これらの成因について調べ,曲率半径のプロファイルが極小層をもつとき,その近辺の全反射による光が蜃気楼を形成することがわかった.極小層の下に極大層がある場合は,この層によるあまり曲げられないレイが重なり,ある距離で多像になる.下位蜃気楼のみがある場合も安定成層による全反射で再現することができた.曲率半径の極値の高度は温度の変曲点高度に対応し,安定成層で温度が下に凸から上に凸に変わる変曲点で曲率半径は極大,逆に上に凸から下に凸に変わる変曲点で曲率半径は極小になる.さらに,複数の距離で複数の虚像を示す蜃気楼は大気の温度構造の情報量を多く含むので,逆問題を解くには有利であり,蜃気楼から温度構造が得られる可能性について言及した.
著者
日下 博幸 西森 基貴 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.369-378, 1998-05-31
被引用文献数
9

最高および最低気温偏差の季節変化パターンに着目した主成分分析を, 日本の24観測点について個別に行った.その結果に基づき, 比較観測点を用いることなく, 1観測点のデータから都市化に伴う過去90年間の気温上昇量を推定した.最低気温の第1主成分は, 冬季に大きな値を持ち, 年間を通して全て同符号となる季節変化パターンである.固有ベクトルとスコア時系列から推定された最低気温偏差の時系列(T′_min)には, 昇温のトレンドが見られる.また, この時系列のトレンド(ΔT′_min)と観測点のある都市の人口の対数との間には, 正の相関(相関係数0.76)がある.以上のこと等から, 第1主成分の季節変化パターンは主として都市気候のパターンであり, 時系列のトレンドは都市化に伴う気温上昇率であると推定された.また, このトレンドは0.4〜3.7℃/100年であり, 多くの地点で1℃/100年を越えている.一方, 日本における過去90年間の最低気温の上昇に対して, バックグラウンドの気候変化の影響は0〜1℃/100年程度であり, 昇温の要因として都市化の影響を無視できない大きさであることが明らかとなった.一方, 最高気温の季節変化パターンは最低気温と異なる.推定された最高気温偏差の時系列(T′_max)には最低気温のそれほど明瞭なトレンドは見られない.この結果, 過去90年間の最高気温の変動には, 都市化の影響が顕著に現れていないことが確認された.
著者
加治屋 秋実
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.409-417, 2008-05-31
参考文献数
11

2002年10月7日に伊豆大島で竜巻による突風災害が発生した.この竜巻と竜巻をもたらした親雲について,ドップラーレーダーと地上気象観測資料などを用いて解析を行った.竜巻の親雲は,温帯低気圧の暖域内の潜在不安定でエネルギーヘリシティーインデックス(EHI)が大きし)環境場において発達し,直径約6kmの下層のメソサイクロンをともなうスーパーセルであった.竜巻による突風は,メソサイクロンの渦度が最大に達した直後に発生した.時空間変換解析によると,このスーパーセルにともなうガストフロントが認められ,竜巻はガストフロント付近に発生したと考えられる.
著者
大原 利眞 鵜野 伊津志
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.855-874, 1997-12-31
被引用文献数
6

冬季に東京湾上で形成される局地前線(房総前線)の3次元構造をメソスケール気象モデルによってシミュレートするとともに, 光化学反応を含む物質輸送モデルを用いてNO_2汚染の生成メカニズムについて解析した. 4次元データ同化手法を用いたメソスケール気象モデルは房総前線の形成・消滅過程を再現した. 計算結果によると, 東京湾上には水平風の収束域が形成され, 内陸域から前線方向に吹く下層風は収束域で上昇し反転流となる. また, 前線において南西風の暖気は下層冷気によって持ち上げられる. 前線北側の内陸域では夜間, 弱風条件下での放射冷却と山岳地域からの重力流(冷たい空気塊)の流入によって地上付近に強い逆転層が形成される. 次に, メソスケール気象モデルで計算された気象データをもとに, 光化学反応を含む物質輸送モデルを用いてNO_2濃度分布の時空間変化をシミュレートした. その結果, 前線周辺の地上におけるNO_2濃度変動の基本的特徴が再現された. NO_2高濃度汚染は, 内陸域における弱風・強安定条件下での水平移流・鉛直拡散の抑制, 山岳地域からの重力流による汚染物質の取り込みと輸送, 前線周辺における弱風域の存在等の複合した要因によって発生する. また, 前線付近では上昇流によって地上の汚染物質は持ち上げられ, 上層において内陸方向に輸送されることがシミュレーションによって示された.
著者
中島 映至 竹村 俊彦
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.997-999, 2009-12-31
被引用文献数
1
著者
田代 誠司
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.163-168, 2004-03-31
被引用文献数
1

気象庁の現業用レーダーデータを用いて1997年7月10日の鹿児島県出水市針原地区の土石流発生時の気象状況を解析した.その結果,土石流発生時の大雨は,甑島から北東へのびる線状降水システム(甑島-出水ライン)に伴った鹿児島県北西部の阿久根や出水を中心とした局地的なもので,その原因として,鹿児島県西方海上にある甑島(こしきじま.最高地点の標高は604m)が大きな役割を果たしていることがわかった.1988年から1998年の夏季のレーダーデータにもとづき,過去の同じ地域における大雨の事例を解析したところ,甑島-出水ラインが21例あり,うち5例は鹿児島県北西部のアメダス日降水量の累年順位10位以内の降水を記録していた.